(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照してエンジンの制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0020】
[1.装置構成]
[1−1.エンジン]
本実施形態のエンジンの制御装置は、
図1に示す車載のガソリンエンジン10に適用される。ここでは、多気筒のエンジン10に設けられた複数のシリンダーのうちの一つを示す。ピストン16は、中空円筒状に形成されたシリンダー19の内周面に沿って往復摺動自在に内装される。ピストン16の上面とシリンダー19の内周面及び頂面に囲まれた空間は、エンジンの燃焼室26として機能する。
ピストン16の下部は、コネクティングロッドを介して、クランクシャフト17の軸心から偏心した中心軸を持つクランクアームに連結される。これにより、ピストン16の往復動作がクランクアームに伝達され、クランクシャフト17の回転運動に変換される。
【0021】
シリンダー19の頂面には、吸入空気を燃焼室26内に供給するための吸気ポート11と、燃焼室26内で燃焼した後の排気を排出するための排気ポート12とが穿孔形成される。また、吸気ポート11,排気ポート12のそれぞれにおいて、燃焼室26側の端部には吸気弁14及び排気弁15が設けられる。これらの吸気弁14,排気弁15は、エンジン10の上部に設けられる図示しない動弁機構によって各々の動作を個別に制御される。また、シリンダー19の頂部には、点火プラグ13がその先端を燃焼室26側に突出させた状態で設けられる。点火プラグ13による点火時期は、後述するエンジン制御装置1で制御される。
【0022】
シリンダー19の周囲には、その内部をエンジン冷却水が流通するウォータージャケット27が設けられる。エンジン冷却水はエンジン10を冷却するための冷媒であり、ウォータージャケット27とラジエータとの間を環状に接続する冷却水循環路内を流通している。
【0023】
[1−2.吸排気系]
吸気ポート11内には、燃料を噴射するインジェクター18が設けられる。インジェクター18から噴射される燃料量は、後述するエンジン制御装置1によって制御される。また、インジェクター18よりも吸気流の上流側には、インテークマニホールド20(以下、インマニと呼ぶ)が設けられる。
【0024】
このインマニ20には、吸気ポート11側へと流れる空気を一時的に溜めるためのサージタンク21が設けられる。サージタンク21よりも下流側のインマニ20は、各シリンダー19の吸気ポート11に向かって分岐するように形成され、サージタンク21はその分岐点に位置する。サージタンク21は、各々のシリンダーで発生しうる吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
【0025】
インマニ20の上流側には、スロットルボディ22が接続される。スロットルボディ22の内部には電子制御式のスロットルバルブ23が内蔵され、インマニ20側へと流れる空気量がスロットルバルブ23の開度(スロットル開度)に応じて調節される。このスロットル開度は、エンジン制御装置1によって制御される。
スロットルボディ22のさらに上流側には吸気通路24が接続され、吸気通路24のさらに上流側にはエアフィルターが介装される。これにより、エアフィルターで濾過された新気が吸気通路24及びインマニ20を介してエンジン10の各シリンダー19に供給される。
【0026】
また、サージタンク21には、キャニスター29から脱離した燃料ガスを吸気系に導入するためのパージ通路30が接続される。パージ通路30上には、キャニスター29からパージされた燃料ガス(パージガス)のサージタンク21内への流量を制御する電磁式のパージ弁31が介装される。パージ弁31の開度は、エンジン制御装置1で制御される。
【0027】
キャニスター29の内部には、活性炭29aが内蔵される。燃料タンク28内で発生した蒸発燃料を含む燃料ガスは、この活性炭29aに吸着して回収される。また、キャニスター29には、外部の新気を吸入するための通路29bが接続される。パージ弁31を開放すると、通路29bを介してキャニスター29内に新気が導入され、活性炭29aから脱離した燃料ガスがパージ通路30を通ってサージタンク21に供給される。
【0028】
排気ポート12の下流側には、エキゾーストマニホールド25(以下、エキマニと呼ぶ)が設けられる。エキマニ25は各シリンダー19からの排気を合流させる形状に形成され、その下流側の図示しない排気通路や排気触媒装置等に接続される。
【0029】
[1−3.検出系]
エキマニ25よりも下流側の任意の位置には、燃焼室26内で燃焼した混合気の空燃比AFを把握するための空燃比センサー32が設けられる。この空燃比センサー32は、例えば、酸素濃度センサーやLAFS(リニア空燃比センサー)等であり、排気中に含まれる酸素成分等の濃度に対応する排気空燃比情報を検出するものである。
【0030】
吸気通路24内には、吸気流量Qを検出するエアフローセンサー33が設けられる。吸気流量Qは、スロットルバルブ23を通過する空気の流量に対応するパラメーターである。なお、スロットルバルブ23からシリンダー19への吸気流には、いわゆる吸気応答遅れ(スロットルバルブ23を通過した空気がシリンダー19に導入されるまでの遅れ)が生じるため、ある時刻にシリンダー19に導入される空気の流量は、その時点でスロットルバルブ23を通過する空気の流量とは必ずしも一致しない。また、パージ弁31を通過したパージガスの流れにも、スロットルバルブ23からの吸気流と同様の吸気応答遅れが生じる。
【0031】
さらに、シリンダー19から空燃比センサー32の取り付け位置までの間の排気流には、排気応答遅れが生じる。そのため、ある時刻に空燃比センサー32で検出される排気空燃比情報は、過去にスロットルバルブ23を通過した空気(あるいは過去にパージ弁31を通過したパージガス)に燃料を混合したものの空燃比に対応するものとなり、その時点での吸気流量Qやパージガス流量には必ずしも対応しない。本エンジン制御装置1では、これらのような吸気応答遅れ,排気応答遅れ等の影響を考慮して、パージガスの状態が判定される。
【0032】
ウォータージャケット27又は冷却水循環路上の任意の位置には、エンジン冷却水の温度(冷却水温W
T)を検出する冷却水温センサー34が設けられる。また、クランクシャフト17には、その回転角を検出するエンジン回転速度センサー35が設けられる。回転角の単位時間あたりの変化量(角速度)はエンジン10の回転速度Ne(単位時間あたりの実回転数)に比例する。したがって、エンジン回転速度センサー35は、エンジン10の回転速度Neを取得する機能を持つ。なお、エンジン回転速度センサー35で検出された回転角に基づき、エンジン制御装置1の内部で回転速度Neを演算する構成としてもよい。
【0033】
車両の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み操作量(アクセル操作量A
PS)を検出するアクセル開度センサー36と、ブレーキ操作量に対応するブレーキ液圧B
RKを検出するブレーキ液圧センサー37とが設けられる。アクセル操作量A
PSは、運転者の加速要求や発進意思に対応するパラメーターであり、言い換えるとエンジン10の負荷(エンジン10に対する出力要求)に相関するパラメーターである。また、通常の車両走行時のブレーキ液圧B
RKは、運転者の減速要求や停止意思に対応するパラメーターである。
上記の各種センサー32〜37で取得された排気空燃比情報,吸気流量Q,冷却水温W
T,回転速度Ne,アクセル操作量A
PS,ブレーキ液圧B
RKの各情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
【0034】
[1−4.制御系]
上記のエンジン10を搭載する車両には、エンジン制御装置1(Engine Electronic Control Unit,制御装置)が設けられる。このエンジン制御装置1は、マイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインに接続される。なお、車載ネットワーク上には、ブレーキ制御装置,変速機制御装置,車両安定制御装置,空調制御装置,電装品制御装置といったさまざまな公知の電子制御装置が、互いに通信可能に接続される。エンジン制御装置1以外の電子制御装置のことを外部制御システムと呼び、外部制御システムによって制御される装置のことを外部負荷装置と呼ぶ。
【0035】
エンジン制御装置1は、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを総合的に制御する電子制御装置であり、エンジン10の各シリンダー19に供給される空気量やパージガス量,インジェクター18からの燃料噴射量,各シリンダー19の点火時期を制御するものである。
【0036】
エンジン制御装置1の信号入力側には、上述の空燃比センサー32,エアフローセンサー33,冷却水温センサー34,エンジン回転速度センサー35,アクセル開度センサー36及びブレーキ液圧センサー37が接続される。一方、制御信号出力側にはエンジン10が接続され、エンジン10の各シリンダー19に供給される空気量,燃料噴射量,各シリンダーの点火時期等が制御される。エンジン制御装置1の具体的な制御対象としては、インジェクター18から噴射される燃料量や噴射時期,点火プラグ13での点火時期,スロットルバルブ23及びパージ弁31の開度等が挙げられる。
【0037】
なお、エンジン制御装置1内には、これらのスロットルバルブ23及びパージ弁31の目標開度を演算するとともに、実際の弁開度が目標開度と一致するように、これらの弁に制御信号を出力する開度制御部が設けられる。開度制御部で演算された各々の弁の目標開度は、それぞれの開度S
1,S
2に相当する。したがって、エンジン制御装置1は、制御対象であるスロットルバルブ23及びパージ弁31のそれぞれの開度S
1,S
2を検出する機能を持つ。
【0038】
[2.制御構成]
エンジン制御装置1で実施される空燃比制御について説明する。シリンダー19に導入される混合気の空燃比は、スロットルバルブ23の開度S
1,パージ弁31の開度S
2,インジェクター18からの燃料噴射量及びパージガス濃度によって決定される。これらのパラメーターのうち、開度S
1,S
2及び燃料噴射量は、エンジン制御装置1の制御対象であり、エンジン制御装置1が主体的に変更可能である。
【0039】
一方、パージガス濃度は、燃料タンク28からの燃料蒸発速度や経過時間,キャニスター29内の圧力,温度,活性炭29aの性能等によって変化するパラメーターであり、エンジン制御装置1が主体的に変更することができない。そこで、エンジン制御装置1は、パージガス濃度の値を随時推定しながら、開度S
1,S
2及び燃料噴射量を変更することによって、エンジン10の空燃比を制御する。
【0040】
インジェクター18での燃料噴射量は、おもにフィードバック噴射制御とオープンループ噴射制御との二通りの手法で制御される。フィードバック噴射制御とは、燃料噴射した結果をその原因である目標燃料噴射量の設定に反映させるフィードバック制御である。フィードバック噴射制御では、空燃比センサー32で検出された排気空燃比情報に基づいて、インジェクター18からの燃料噴射量が調節される。なお、フードバック噴射制御による空燃比の目標値が理論空燃比(ストイキ)である場合には、ストイキフィードバック噴射制御とも呼ばれる。
【0041】
これに対し、オープンループ噴射制御とは、空燃比センサー32で検出された排気空燃比情報を用いることなく、燃料噴射量を調節する制御である。オープンループ噴射制御は、例えば以下に列挙する何れかの運転状態に該当する場合に実施される。一方、何れの運転状態にも当てはまらない場合には、フィードバック噴射制御が実施される。
A.エンジン10が始動してからの経過時間が所定時間以内である
B.空燃比センサー32が冷えた状態である
C.エンジン10の冷却水温が暖機温度以下である
【0042】
上記の何れの制御においてもエンジン制御装置1は、エンジン10に要求されている負荷に応じて目標空燃比AF
TGTを演算し、シリンダー19内に実際に導入される混合気の空燃比が目標空燃比AF
TGTと等しくなるように燃料噴射量を制御する。
【0043】
図1に示すように、エンジン制御装置1には、空燃比演算部2,パージ率演算部3,パージ濃度演算部4,充填効率演算部5,判定部6,禁止期間演算部7及び制御部8が設けられる。これらの各要素は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0044】
空燃比演算部2(空燃比演算手段)は、シリンダー19に導入された混合気の空燃比を演算するものである。ここでは、空燃比センサー32で検出された排気空燃比情報に基づき、排気が燃焼する前の空燃比AFが演算される。ここで演算された空燃比AFの情報は、パージ濃度演算部4に伝達される。以下、この空燃比AFのことをセンサー空燃比AFと呼ぶ。また、このセンサー空燃比AFと区別して、パージガスの空燃比のことをパージガス空燃比AF
PRGと呼ぶ。
【0045】
パージ率演算部3(パージ率演算手段)は、パージガスの導入割合に相当するパージ率R
PRGを演算するものである。本実施形態では、スロットルバルブ23側からの吸気流量Qに対するパージ弁31側からのパージガス流量の比をパージ率R
PRGとして定義する。ここで演算されたパージ率R
PRGの値は、パージ濃度演算部4及び判定部6に伝達される。
【0046】
スロットルバルブ23側からの吸気流量Qは、スロットルバルブ23の開度S
1と流速とから算出される。また、この流速は吸気流量Qやスロットルバルブ23の上流及び下流の圧力,吸気温度等に基づいて算出される。同様に、パージガス流量は、パージ弁31の開度S
2とパージガス流速とから算出され、パージガス流速はパージ弁31の上流及び下流の圧力,キャニスター29での損失圧力,吸気温度等に基づいて算出される。なお、スロットルバルブ23部の圧力差や圧力比(例えば、上流圧に対する下流圧の比)に応じた大きさの補正係数を設定し、スロットルバルブ23の開度S
1に対するパージ弁31の開度S
2の割合にその補正係数を乗じたものをパージ率R
PRGとしてもよい。
【0047】
パージ濃度演算部4(濃度演算手段)は、空燃比演算部2で演算されたセンサー空燃比AFとパージ率演算部3で演算されたパージ率R
PRGとに基づき、後述する判定部6から伝達される制御信号に応じてパージガス濃度推定値K
AF_PRG(パージガスの濃度を推定したもの)を演算するものである。ここでは、判定部6でパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が許可されているときにその推定演算が実施され、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの値が最新の値に更新される。一方、判定部6でパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が禁止されているときには、前回の演算周期で得られたパージガス濃度推定値K
AF_PRGの値がそのまま維持される。
【0048】
パージガス濃度推定値K
AF_PRGの定義は、目標空燃比AF
TGTをパージガス空燃比AF
PRGで除したものであり、空燃比センサー32でセンサー空燃比AFが検出された排気中に含まれるパージガスの燃料濃度に対応するパラメーターである。
例えば、パージガス空燃比AF
PRGが目標空燃比AF
TGTに等しいときにK
AF_PRG=1.0となり、パージガス空燃比AF
PRGが目標空燃比AF
TGTよりもリッチであるときにはK
AF_PRG>1.0となり、パージガス空燃比AF
PRGが目標空燃比AF
TGTよりもリーンであるときにはK
AF_PRG<1.0となる。なお、目標空燃比AF
TGTが理論空燃比であるとき、パージガス濃度推定値K
AF_PRGはパージガスの当量比に相当するパラメーターとなる。
【0049】
パージガス空燃比AF
PRGは、センサー空燃比AF,パージ率R
PRG及び目標空燃比AF
TGTに基づいて算出することができる。したがって、パージガス濃度推定値K
AF_PRGは、式1に示すように、センサー空燃比AF,パージ率R
PRG及び目標空燃比AF
TGTの関数で表現される。
【数1】
【0050】
本実施形態のパージ濃度演算部4は、目標空燃比AF
TGTとセンサー空燃比AFとに基づき、センサー空燃比AFが目標空燃比AF
TGTからどの程度ずれていたのかを示す指標値である燃料量補正係数K
FB_PRGを演算する。また、式2に示すように、燃料量補正係数K
FB_PRG,パージ率R
PRG及び目標空燃比AF
TGTに基づいて、パージガス濃度推定値K
AF_PRGを演算する。
【数2】
【0051】
燃料量補正係数K
FB_PRGは、空燃比センサー32の検出対象となった排気の燃料濃度の逆数に対応するパラメーターである。言い換えると、燃料量補正係数K
FB_PRGは、センサー空燃比AFの情報を今後の制御にフィードバックさせるための指標値であって、フィードバック噴射制御では次回以降の演算周期でのセンサー空燃比AFを目標空燃比AF
TGTに近づけるための増減量を与える係数となる。
【0052】
燃料量補正係数K
FB_PRGは、センサー空燃比AFが目標空燃比AF
TGTに等しいときにK
FB_PRG=1.0とされ、センサー空燃比AFが目標空燃比AF
TGTよりもリッチであるときにはK
FB_PRG<1.0とされ、目標空燃比AF
TGTよりもリーンであるときにはK
AF_PRG>1.0とされる。目標空燃比AF
TGTが理論空燃比であるとき、燃料量補正係数K
FB_PRGは空気過剰率に相当するパラメーターとなる。パージ濃度演算部4は、燃料量補正係数K
FB_PRG,パージ率R
PRG及び目標空燃比AF
TGTに基づいてパージガス濃度推定値K
AF_PRGを演算する。ここで演算されたパージガス濃度推定値K
AF_PRGの情報は、制御部8に伝達される。
【0053】
なお、センサー空燃比AFと目標空燃比AF
TGTとのずれ量には、パージガスを導入したことによるずれ量と、パージガス以外の要因によるずれ量(インジェクター18からの噴射誤差やインマニ20への付着,空燃比センサー32での検出誤差等)とが含まれる。したがって、前者のずれ量をゼロにするためのパージ濃度補正係数K
1と後者のずれ量をゼロにするための空燃比フィードバック補正係数K
2とを別個に演算し、これらを乗算することによって燃料量補正係数K
FB_PRGを求めてもよい。
【0054】
この場合、パージ濃度補正係数K
1は、例えばパージ弁31の開度S
2やパージ率R
PRG,パージガス濃度推定値K
AF_PRG,センサー空燃比AF等に基づいて演算される。また、空燃比フィードバック補正係数K
2は、例えば吸気流量Qやスロットルバルブ23の開度S
1,スロットルバルブ23の上流及び下流の圧力,吸気温度等に基づいて算出される。
【0055】
図2は、燃料量補正係数K
FB_PRG,パージ率R
PRG及びパージガス濃度推定値K
AF_PRGの関係をグラフ化したものである。燃料量補正係数K
FB_PRGが1.0であるとき、パージガス濃度推定値K
AF_PRGはパージ率R
PRGの大小に関わらず1.0となる。一方、燃料量補正係数K
FB_PRGが1.0よりも小さいときには、パージ率R
PRGの値が減少するにつれて、パージ率R
PRGにほぼ逆比例するようにパージガス濃度推定値K
AF_PRGの値が増大する。また、パージ率R
PRGが一定であれば、燃料量補正係数K
FB_PRGの値が減少するほどパージガス濃度推定値K
AF_PRGの値が増大し、グラフの傾きが急勾配となる。
【0056】
同様に、燃料量補正係数K
FB_PRGが1.0よりも大きいときには、パージ率R
PRGの値が減少するにつれて、パージ率R
PRGにほぼ逆比例するようにパージガス濃度推定値K
AF_PRGの値が減少する。また、パージ率R
PRGが一定であれば、燃料量補正係数K
FB_PRGの値が減少するほどパージガス濃度推定値K
AF_PRGの値が減少し、グラフの傾きが急勾配となる。ただし、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの最小値は0である。
【0057】
充填効率演算部5(空気量演算手段)は、エアフローセンサー33で検出された吸気流量Qに基づき、充填効率Ecを演算するものである。充填効率Ecとは、実際にシリンダー19内に導入された空気量に対応するパラメーターであり、一回の吸気行程の間にシリンダー19内に充填される空気の体積を標準状態(0℃,1気圧)での気体体積に正規化したのちシリンダー容積で除算したものである。ここでは、制御対象のシリンダー19について、直前の一回の吸気行程の間にエアフローセンサー33で検出された吸気流量Qの合計から、制御対象のシリンダー19に実際に吸入された空気量が演算され、充填効率Ecが演算される。ここで演算された充填効率Ecは、判定部6に伝達される。
【0058】
なお、吸気流量Qに基づいて得られる充填効率Ecは、厳密にはその演算時点以後にシリンダー19に吸入される空気量に対応する。したがって、空燃比センサー32でセンサー空燃比AFが検出された排気について、その排気がシリンダー19内に導入されたときの空気量を求めるには、空燃比センサー32での検出時よりも過去の時点での吸気流量Qに基づいて、充填効率Ecを演算すればよい。あるいは、最新の吸気流量Qに基づいて空気量を求めた後に、所定の吸気応答遅れや排気応答遅れを模擬した演算を施して、空燃比センサー32の近傍に到達している排気についての充填効率Ecを求めてもよい。
【0059】
判定部6(判定手段)は、パージ濃度演算部4でのパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算を許可又は禁止するものである。判定部6はまず、
図2に示すようなパージガス濃度推定値K
AF_PRGの特性に鑑みて、パージ率演算部3で演算されたパージ率R
PRGが少なくとも所定率R
TH以下であるときには、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算を禁止する。また、パージ率R
PRGが所定率R
THを超えていたとしても、パージ濃度演算部4で演算される燃料量補正係数K
FB_PRGの単位時間あたりの変化量が大きくなりやすい(変動しやすい)運転状態である場合には、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算を禁止する。
【0060】
本実施形態の判定部6は、以下に列挙する何れかの条件1〜4が成立したときに、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算を禁止するとともに、前回の演算周期で演算されたパージガス濃度推定値K
AF_PRGの値を維持するように、パージ濃度演算部4に制御信号を伝達する。
条件1.パージ率R
PRGが所定率R
TH未満である
条件2.エンジン10が急加減速状態である
条件3.エンジン10が低負荷状態である
条件4.オープンループ噴射制御を実施中である
【0061】
条件2中の「急加減速状態」とは、エンジン10の回転運動が急変している状態のことを意味し、例えばエンジン回転数Ne(すなわち、単位時間あたりの回転数であってエンジン10の回転速度)が急激に変化するような過渡運転時がこれに含まれる。エンジン10の急加減速状態は、目標空燃比が変動しやすい状態であるため、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が禁止される。
【0062】
この条件2は、例えばアクセル開度センサー36で検出されたアクセル操作量A
PSやその所定時間での変化量ΔA
PSに基づいて判定される。すなわち、アクセル操作量A
PSの変化量ΔA
PSがプラス側の所定判定値を超えた場合に「エンジンが急加速状態である」と判断され、変化量ΔA
PSがマイナス側の所定判定値を下回った場合に「エンジンが急減速状態である」と判断される。なお、このような手法に代えて、エンジン回転数Neの変化量ΔNe(すなわち、エンジン10の角加速度)を用いて急加速状態,急減速状態を判断してもよい。
【0063】
条件3は、エンジン10に作用する負荷が所定量以下であるときに低負荷状態であると判定するものである。低負荷状態には、エンジン発生トルクが負である燃焼限界状態等が含まれる。また、エンジン10に作用する負荷の大きさは、エンジン10の回転速度Neやアクセル操作量A
PS,外部負荷装置の作動状態等に基づいて演算される。なお、条件4は、車両の運転状態が上述の条件A,B,Cの何れかの運転状態に該当するか否かを判定するものである。
【0064】
一方、判定部6は、上記の条件1〜4が全て不成立であって、以下の条件5が成立したときに、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算を許可するとともに、今回の演算周期で新たなパージガス濃度推定値K
AF_PRGの値を演算してその値を更新するように、パージ濃度演算部4に制御信号を伝達する。
条件5.条件1〜4の全てが不成立となってから所定の影響時間が経過した
【0065】
条件5は、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算誤差を小さくするために設けられた条件である。例えば、条件1のみが成立しているときに、パージ弁31の開度が開放されてパージ率R
PRGが所定率R
TH以上になると、条件1〜4の全てが不成立の状態となる。しかしその時点ではまだ、パージ弁31の開度が開放されたことによって吸気系に導入されたパージガスがシリンダー19内に到達しておらず、空燃比センサー32で検出されるセンサー空燃比AFにも反映されていない。そのため、条件1〜4の全てが不成立の状態となった直後からパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算を許可したとしても、演算精度を確保することが難しい。そこで判定部6は、条件1〜4の全てが不成立となってから所定の影響時間が経過した場合に、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算を許可する。
【0066】
禁止期間演算部7(禁止期間演算手段)は、上記の所定の影響時間に関する演算を実施するものである。ここでは、充填効率演算部5で演算された充填効率Ecに基づいて、パージ弁31を通過したパージガスが空燃比センサー32に影響を与えるまでにかかる遅れ時間(すなわち、パージガスの影響時間)が演算される。
この影響時間は、パージガスの吸気応答遅れ時間と排気応答遅れ時間とを合わせた遅れ時間に相当する。吸気応答遅れ時間とは、パージ弁31を通過したパージガスがシリンダー19に導入されるまでの遅れ時間であり、例えばパージ弁31が開放されてから吸気行程が開始されるまでのタイムラグや、吸気抵抗,吸気慣性の影響による遅れ時間がこれに含まれる。また、排気応答遅れ時間とは、パージガスがシリンダー19に導入された後、燃焼後の排気が空燃比センサー32の近傍に到達するまでの遅れ時間であり、例えば吸気行程から排気行程までの燃焼サイクルに要する遅れ時間や、排気抵抗,排気慣性の影響による遅れ時間がこれに含まれる。
【0067】
ここで、スロットルバルブ23を通過する吸気量とインジェクター18からの燃料噴射量とが一定であり、パージ弁31が閉鎖されているときの空燃比がAF
1であるとする。また、パージ通路30内には空燃比AF
1よりもリッチなパージガスが存在し、パージ弁31を開放することで空燃比の理論値がAF
1からAF
2へと変化するものとする。
時刻0にパージ弁31が開放されると、空燃比の理論値は、
図3中に太実線で示すように階段状に変化する。一方、パージ弁31を通過したパージガスは直ちにシリンダー19内に導入されるわけではなく、
図3中に細実線で示すように吸気応答遅れ,排気応答遅れを伴って、空燃比センサー32の近傍に到達する。そのため、センサー空燃比AFは時刻0から遅れて徐々に変化する。
【0068】
パージガスの影響時間は、燃焼サイクル毎にシリンダー19に導入され、排出される空気量、すなわち充填効率Ecに応じて変化する。充填効率Ecの値がEc
1,Ec
2,Ec
3(Ec
3<Ec
2<Ec
1)であるときのセンサー空燃比AFのそれぞれの変化を、
図3中に細実線,破線,一点鎖線で示す。充填効率Ecが高いほど、多くのパージガスが空燃比センサー32まで速く到達することになり、影響時間が短縮される。反対に、充填効率Ecが低いほど影響時間が延長され、センサー空燃比AFが変化しにくくなる。
【0069】
充填効率Ecの値がEc
1,Ec
2,Ec
3であるときのそれぞれの場合について、センサー空燃比AFが理論値AF
2よりもやや小さい値AF
3になるまでの応答遅れ時間をt
1,t
2,t
3とおくと、その大小関係はt
1<t
2<t
3となる。そこで禁止期間演算部7は、充填効率Ecが高いほどパージガスの影響時間を短縮させ、充填効率Ecが低いほどパージガスの影響時間を延長させる演算を実施する。なお、値AF
3の具体的な設定値は任意であり、遅れ応答率が所定率(例えば80〜99%)となる空燃比を値AF
3とすればよい。
【0070】
例えば、
図4に示すように、応答遅れ時間t
1,t
2,t
3をエンジン10の行程数に変換した値IG
1,IG
2,IG
3と、その逆数1/IG
1,1/IG
2,1/IG
3とを予め求めておき、これらの関係式やマップを記憶しておく。禁止期間演算部7は、充填効率Ecに対応する行程数の逆数を随時積算し、その積算値が1.0以上になったときに、パージガスの影響時間が経過したと判断する。
【0071】
制御部8は、インジェクター18からの燃料噴射量やスロットルバルブ23,パージ弁31の開度を制御するものである。ここでは、例えば吸気流量Qやセンサー空燃比AF,パージ率R
PRG,燃料量補正係数K
FB_PRG,パージガス濃度推定値K
AF_PRG,エンジン10の回転速度Ne等に基づき、スロットルバルブ23及びパージ弁31のそれぞれの開度が制御される。燃料噴射量は、フィードバック噴射制御かオープンループ噴射制御かの何れか一方が実施される。
【0072】
このような制御により、燃料量補正係数K
FB_PRGの変化に対してパージガス濃度推定値K
AF_PRGが大きく変化しやすい運転状態のときや、燃料量補正係数K
FB_PRGの単位時間あたりの変化量が大きくなりやすい運転状態のときには、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が禁止され、前回値が維持される。一方、このような運転状態を脱してからパージガスの影響時間が経過したときには、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が許可され、その演算値が更新される。
【0073】
[3.フローチャート]
図5は、エンジン制御装置1において、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算を許可又は禁止する際の判定手法を例示するフローチャートである。このフローは、予め設定された所定周期(例えば、数十[ms]サイクル)で繰り返し実施される。フロー中の記号Fは、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が許可された状態であるのか、それとも禁止された状態であるのかを意味するフラグであり、F=0が許可状態,F=1が禁止状態にそれぞれ対応する。また、記号Cは、パージガスの影響時間を計測するためのカウンター値(変数)である。
【0074】
ステップA10では、空燃比センサー32で検出された排気空燃比情報がエンジン制御装置1の空燃比演算部2に入力され、センサー空燃比AFが演算される。また、ステップA20では、エアフローセンサー33で検出された吸気流量Qの情報が充填効率演算部5に入力され、充填効率Ecが演算される。
ステップA30では、目標空燃比AF
TGTとセンサー空燃比AFとに基づき、パージ濃度演算部4で燃料量補正係数K
FB_PRGが演算される。なお、上記の式1に基づいてパージガス濃度推定値K
AF_PRGを演算する場合には、本ステップを省略してもよい。
【0075】
ステップA40では、スロットルバルブ23の開度S
1,パージ弁31の開度S
2,それぞれの流速等の情報がパージ率演算部3に入力され、これらの情報に基づいてパージ率R
PRGが演算される。例えば、スロットルバルブ23の開度S
1に対するパージ弁31の開度S
2の割合に補正係数を乗じた値がパージ率R
PRGとして演算される。この場合、キャニスター29を通過する空気の圧力損失を考慮して補正係数を設定してもよいし、スロットルバルブ23部の圧力差や圧力比(例えば、上流圧に対する下流圧の比)に応じた大きさの補正係数を設定してもよい。
【0076】
続くステップA50では、判定部6において、前ステップで演算されたパージ率R
PRGが所定率R
TH以下であるか否か(上記の条件1)が判定される。ここでR
PRG≦R
THである場合には、センサー空燃比AFがわずかに変化しただけでパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算誤差が増大する状態であると判断され、ステップA60に進む。一方、R
PRG>R
THである場合には、センサー空燃比AFの変化に対するパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算誤差が小さい状態であると判断され、ステップA90に進む。
【0077】
ステップA60では、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が禁止され、前回の演算周期で演算されたパージガス濃度推定値K
AF_PRGの値を維持するように、判定部6からパージ濃度演算部4に対して制御信号が伝達される。また、続くステップA70でフラグFがF=1に設定されるとともに、ステップA80でカウンター値CがC=0に設定されて、この演算周期での制御を終了する。
【0078】
また、ステップA90では、判定部6において、上記の条件2〜4の少なくとも何れかが成立するか否かが判定される。ここで、エンジン10の急加減速状態,低負荷状態,オープンループ噴射制御の実施中の何れかであるときには、燃料量補正係数K
FB_PRGが変動しやすい状態であると判断され、ステップA60に進んでパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が禁止される。一方、上記の条件2〜4の全てが不成立のときには、燃料量補正係数K
FB_PRGが変動しやすい状態ではないと判断され、ステップA100に進む。
【0079】
ステップA100では、フラグFがF=0であるか否かが判定される。前述の通り、フラグFは、条件1〜4の何れかが成立したときでF=1に設定される。一方、この値が再びF=0に設定されるのは、上記の条件1〜4が不成立となり、かつ、条件5が成立するときである。つまり、条件1〜4の全てが不成立であっても、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が許可されるとは限らない。そこでステップA100では、フラグFの状態を確認することで、パージガスの影響時間が経過したか否かが判定される。
【0080】
ここでフラグFがF=0のときには、パージガスの影響時間がすでに経過したものと判断され、ステップA110に進む。ステップA110では、パージ濃度演算部4において燃料量補正係数K
FB_PRG,パージ率R
PRG及び目標空燃比AF
TGTに基づいてパージガス濃度推定値K
AF_PRGが演算され、その演算値が最新の値に更新されて、この演算周期での制御を終了する。このように、パージガス濃度推定値K
AF_PRGが演算されるのは、条件1〜4の全てが不成立となってからパージガスの影響時間が経過した時点以後となる。
【0081】
一方、ステップA100でフラグFがF=1のときには、パージガスの影響時間がまだ経過していないものと判断され、ステップA120に進む。ステップA120では、ステップA60と同様にパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が禁止され、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの前回値が維持される。
続くステップA130では、禁止期間演算部7において、充填効率Ecに応じた大きさのカウンター加算値Aが設定される。このカウンター加算値Aは、充填効率Ecが高いほど大きな値を持つ。禁止期間演算部7では、例えば
図4に記載されたようなマップに基づき、充填効率Ecに対応する行程数の逆数がカウンター加算値Aとして設定される。
【0082】
ステップA140では、カウンター値Cに値C+Aが代入されて、カウンター値Cが積算される。前回の演算周期のカウンター値Cにカウンター加算値Aを加えたものが今回の演算周期のカウンター値Cとなる。その後のステップA150では、カウンター値Cが判定値(ここでは1.0)以上であるか否かが判定される。
【0083】
ここでの判定結果がC<1.0であるときには、パージガスの影響時間がまだ経過していないものと判断され、この演算周期での制御を終了する。この場合、パージガスの影響時間が経過するまではフラグFがF=1のままとされ、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が禁止され続ける。なお、パージガスの影響時間が経過する前に再び条件1〜4の何れかが成立した場合には、ステップA80でカウンター値CがC=0に再設定されるため、改めてパージガスの影響時間が計測され始める。
【0084】
一方、ステップA150での判定結果がC≧1.0であるときには、パージガスの影響時間が経過したものと判断されてステップA160に進み、フラグFがF=0に設定され、この演算周期での制御を終了する。この場合、次回の演算周期でも上記の条件1〜4が不成立であれば、ステップA110に進んでパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が許可される。
【0085】
[4.作用]
上記のエンジン制御装置1による制御のうち、パージガスの影響時間を計測する点について、従来の計測手法と比較したときの作用の違いを、
図6を用いて説明する。
図6(a)に示すように、時刻t
4のパージ率R
PRGは所定率R
TH以下であり、条件1が成立するためパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が禁止された状態である。その後の時刻t
5にパージ率R
PRGが上昇して所定率R
THを超えると、条件1が不成立となる。このとき、条件2〜4についても不成立であれば、禁止期間演算部7でパージガスの影響時間が演算される。例えば、上記のエンジン制御装置1では、充填効率Ecに対応する行程数の逆数の積算値が所定値以上となるまでの時間が、パージガスの影響時間とされる。
【0086】
ここで、充填効率Ecが一定で変化しなければ、パージガスの吸気応答遅れ,排気応答遅れの特性は変化しない。したがって、従来の計測手法と同様に、パージガスの影響時間を時刻t
5からの経過時間に基づいて設定しても、比較的精度の高い計測が可能である。あるいは、
図6(d)に示すように、一定の速度で増加するカウンター値Cに対して、充填効率Ecに応じた判定値C
THを設定し、カウンター値CがC
THを超える時刻t
6までの時間をパージガスの影響時間とすることも可能である。
【0087】
一方、
図6(b)中に実線で示すように充填効率Ecが変化した場合、パージガスの吸気応答遅れ,排気応答遅れの特性が変化するため、時刻t
5からの経過時間に基づいてパージガスの影響時間を設定することができない。また、
図6(e)に実線で示すように充填効率Ecに応じた判定値C
THを設定したとしても、一定の速度で増加するカウンター値Cが判定値1.0を超えたか否かを判定する手法では、判定結果にパージガスの正確な影響時間を反映させることができない。このことは、
図6(b),(e)中に破線で示すように、充填効率Ecの経時変動カーブを変化させて吸気及び排気を通過しにくくした場合であっても同一の影響時間が設定されうることから明らかである。
【0088】
これに対し、上記のエンジン制御装置1では、
図6(c)に示すように、カウンター値Cの加算量が充填効率Ecに応じた大きさに設定されるため、充填効率Ecの履歴がカウンター値Cに反映される。これにより、充填効率Ecが高い状態が長く継続されれば、パージガスの影響時間が短縮される。反対に、充填効率Ecが低い状態が長時間続けば、パージガスの影響時間が延長される。
【0089】
例えば、
図6(b)中に実線で示すように充填効率Ecが変化した場合、充填効率Ecが高い状態のときにはカウンター値Cの増加勾配が大きくなり、充填効率Ecが低下するにつれてカウンター値Cの増加勾配が小さくなる。
図6(c)に示すように、カウンター値Cが判定値C
THを超える時刻t
8は、
図6(e)に示す時刻t
7よりも早い時刻となり、パージガスの応答遅れが解消されるとすぐにパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が再開されることになる。
【0090】
[5.効果]
このように、本実施形態のエンジン制御装置1によれば、以下のような作用,効果が得られる。
(1)上記のエンジン制御装置1では、パージ率R
PRGに基づいてパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算を実施するか否かが判定される。これにより、
図2に示すように、センサー空燃比AFがわずかに変化しただけでパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算誤差が増大するような状態での演算を未然に防ぐことができ、推定精度の高いパージガス濃度推定値K
AF_PRGを求めることができる。例えば、空燃比センサー32の個体差による検出精度のばらつきや、経年劣化による検出誤差が生じたとしても、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの推定精度を低下しにくくすることができる。
【0091】
また、
図2に示すように、パージ率R
PRGが低いほど、パージ率R
PRGに対するパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算誤差が増大する。上記のエンジン制御装置1は、このような状態での演算を防止することもでき、推定精度の高いパージガス濃度推定値K
AF_PRGを求めることができる。例えば、エアフローセンサー33の開度S
1やパージ弁31の開度S
2等の検出精度の低下によってパージ率R
PRGの演算精度が悪化したとしても、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの推定精度を低下しにくくすることができる。
さらに、このような高精度のパージガス濃度推定値K
AF_PRGを用いて燃料噴射量やパージ弁31の開度を制御することで、空燃比の制御性を向上させることができる。
【0092】
(2)また、上記のエンジン制御装置1では、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が許可されているときにその演算が実施され、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの値が最新の値に更新される。これにより、空燃比の制御精度を高めることができる。一方、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が禁止されているときには、前回の演算周期で得られたパージガス濃度推定値K
AF_PRGの値が維持される。つまり、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が禁止されたとしても穏当な推定値が保持されるため、演算誤差の影響を小さくしつつ、空燃比の制御性が低下するような事態を回避することができる。
【0093】
(3)また、上記のエンジン制御装置1では、
図3に示すようなパージガスの影響時間の特性を踏まえ、充填効率Ecの履歴に基づいてパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算の禁止期間が制御される。例えば、充填効率Ecが高い状態が長く継続されれば、演算の禁止期間が短縮され、充填効率Ecが低い状態が長時間続けば、演算の禁止期間が延長される。これにより、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算誤差が生じうる期間を避けてパージガス濃度の演算を実施することができる。これにより、空燃比の制御性を向上させることができる。
【0094】
また、充填効率Ecに基づく演算により、パージ弁31を通過したパージガスが空燃比センサー32に影響を与えるまでにかかる遅れ時間を精度よく把握することができる。つまり、パージ弁31を通過したパージガスが空燃比センサー32に影響を与え始める最も早い時刻を精度よく把握することができ、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算精度を向上させることができる。
【0095】
(4)なお、エンジン10の急加減速時には、エンジン10に要求される負荷の急変動により、目標空燃比AF
TGTとセンサー空燃比AFとの間に差が生じやすく、燃料量補正係数K
FB_PRGの変化が大きくなりやすい。これに対し、上記のエンジン制御装置1では、パージ率R
PRGが所定率R
TH未満であるときだけでなく、エンジン10が急加減速状態であるときにも、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が禁止される。したがって、誤差の大きいパージガス濃度推定値K
AF_PRGが演算されることがなく、空燃比の制御性を向上させることができる。
【0096】
(5)また、エンジン10の低負荷時(例えば、エンジン発生トルクが負である燃焼限界状態であるとき)には、燃焼状態が不安定化しやすく、燃焼ガスの一部が未燃焼状態で排出されることがある。この場合、燃焼しなかった燃料成分量に対応するように、排気中の酸素濃度が本来の濃度よりも高くなる。つまり、シリンダー19内に投入された燃料量に基づく実際の空燃比に対して、センサー空燃比AFがリーン側に出力されることになり、目標空燃比AF
TGTとセンサー空燃比AFとの間に差が生じる。したがって、エンジン10の低負荷時には、燃料量補正係数K
FB_PRGの変化が大きくなりやすい。
【0097】
これに対し、上記のエンジン制御装置1では、エンジン10が低負荷状態であるときにも、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が禁止される。したがって、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算精度が低下するようなことがなく、空燃比の制御性を向上させることができる。
なお、上記の条件2,3が不成立の状態では目標空燃比AF
TGTとセンサー空燃比AFとのずれ量が変化しにくく、燃料量補正係数K
FB_PRGが安定しやすい。このような安定した燃料量補正係数K
FB_PRGに基づいてパージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が実施されるため、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算精度を向上させることができる。
【0098】
(6)また、オープンループ噴射制御の実施中には、空燃比センサー32で検出された排気空燃比情報に頼らずに燃料噴射量が調節されるため、センサー空燃比AFの値や燃料量補正係数K
FB_PRGの値が得られない場合がある。一方、上記のエンジン制御装置1では、オープンループ噴射制御を実施中であるときにも、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が禁止される。したがって、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの誤演算を防止することができ、空燃比の制御性を向上させることができる。
【0099】
[6.変形例]
上記のエンジン制御装置1で実施される制御の変形例は、多種多様に考えられる。例えば、上記の条件1ではパージ率R
PRGが所定率R
TH未満であるか否かが判定されているが、この所定率R
THの値をセンサー空燃比AFや燃料量補正係数K
FB_PRGに応じて変更してもよい。
【0100】
この場合、
図2に示すように、燃料量補正係数K
FB_PRGが1.0から離れるほど(目標空燃比AF
TGTとセンサー空燃比AFとの差が大きいほど)所定率R
THの値を増大させてもよい。つまり、燃料量補正係数K
FB_PRGがK
FB_PRG3のときの所定値R
THの値を、K
FB_PRG2のときの所定値R
THの値よりも大きくし、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が禁止されるパージ率R
PRGの範囲を拡大する(禁止されやすくする)ことが考えられる。このような設定により、演算誤差の抑制効果を高めることができ、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの推定精度を向上させることができる。
【0101】
また、上述の実施形態では、条件1〜4の全てが不成立となってからパージガスの影響時間が経過したときに、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が許可されている。一方、条件1に係る影響時間は、条件2〜4に係る影響時間とは相違するものであり、一般的には後者の影響時間よりも前者の影響時間の方が長いと考えられる。そこで、条件1〜4の全てが不成立となったときに、それまで成立していた条件の種類に応じて、条件5の「所定の影響時間」の長さを変更する制御構成としてもよい。
【0102】
これにより、各条件1〜4に係る状態変化の影響がセンサー空燃比AFに反映されるまでの正確な時間を計測することができ、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの演算が禁止される期間を適正化することができる。したがって、パージガス濃度推定値K
AF_PRGの正確な推定値を迅速に取得することができる。
【0103】
また、上述の実施形態では、空気量相当のパラメーターである充填効率Ecを用いてパージガスの影響時間を演算するものを例示したが、充填効率Ecの代わりに筒内空気量(質量,体積)や体積効率等を用いてもよい。少なくとも、エンジン10のシリンダー19内に導入される空気量と相関のあるパラメーターであれば、充填効率Ecと同様に適用することが可能である。
なお、上述の実施形態におけるエンジン10の種類は任意であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン,その他の燃焼形式のエンジンを用いることができる。