特許第5949332号(P5949332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949332
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】樹脂モールドステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/12 20060101AFI20160623BHJP
【FI】
   H02K15/12 D
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-190176(P2012-190176)
(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-50185(P2014-50185A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】半田 典久
(72)【発明者】
【氏名】遠嶋 成文
【審査官】 小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−201468(JP,A)
【文献】 特開平5−56611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のケーシングの内部に収容される環状のステータコアの両端部からそれぞれ突出したコイルエンド部をモールド樹脂で被覆した樹脂モールドステータを製造する方法であって、
前記ケーシングの開放端から前記ステータコアを内部に収容して該開放端をマスキング治具で塞ぎ、かつ、前記ステータコアの内側に前記マスキング治具を挿入した状態で、前記開放端とは反対の端部側から前記ケーシングの内部にモールド樹脂を充填することで、前記開放端側に位置する前記コイルエンド部の、少なくとも前記ステータコア端部から所定長さのコイルエンド部部分に、前記モールド樹脂で被覆された基端側環状被覆部分を形成する第1モールド工程と、
前記マスキング治具を取り外した前記開放端を端部部材で塞いだ状態で、該端部部材に設けられた環状のシール部材を前記基端側環状被覆部分の内周面に弾接させて、前記ケーシング、前記端部部材、前記シール部材、及び、前記基端側環状被覆部分で囲まれた環状空間を形成し、該環状空間にモールド樹脂を充満させて、前記開放端側の前記コイルエンド部に、前記基端側環状被覆部分に連なる先端側環状被覆部分を形成する第2モールド工程と、
を含むことを特徴とする樹脂モールドステータの製造方法。
【請求項2】
前記ケーシングは、両端に前記開放端を有しており、
前記第1モールド工程は、前記ケーシングの一方の開放端を前記マスキング治具で塞いだ状態で、前記ケーシングの他方の開放端から該ケーシングの内部にモールド樹脂を充填することで、前記両開放端に位置する各コイルエンド部の、少なくとも各ステータコア端部から所定長さのコイルエンド部部分を前記モールド樹脂で被覆して、前記各コイルエンド部に前記基端側環状被覆部分をそれぞれ形成する第3モールド工程を含んでおり、
前記マスキング治具を取り外した前記他方の開放端を前記端部部材で塞いだ状態で、該端部部材の前記シール部材を前記他方の開放端側の前記基端側環状被覆部分の内周面に弾接させて、前記ケーシング、前記端部部材、前記シール部材、及び、前記他方の開放端側の基端側環状被覆部分で囲まれた環状空間を形成し、該環状空間にモールド樹脂を充満させて、前記他方の開放端側の前記コイルエンド部に、前記基端側環状被覆部分に連なる先端側環状被覆部分を形成する第4モールド工程をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1記載の樹脂モールドステータの製造方法。
【請求項3】
前記端部部材は、前記開放端を塞いだ状態で前記ケーシングの内部に環状に突出する環状突起と、該環状突起の内周面に設けられた軸受部とを有しており、
前記シール部材は、前記環状突起の外周面に設けられており、
前記第2モールド工程、又は、前記第2モールド工程及び前記第4モールド工程は、前記ケーシング内の前記ステータコアの内側に配置したロータの回転軸を、前記端部部材の前記軸受部で軸受した状態で、前記シール部材を前記基端側環状被覆部分の内周面に弾接させて行われる、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂モールドステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコアのコイルエンド部をモールド樹脂で覆った樹脂モールドステータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機や発電機等の回転機のステータにおいて、ステータコアに巻回されるステータコイルは、ステータコアの端面に形成したスロットからロータの回転中心軸方向外側に導出されるコイルエンド部を有している。このコイルエンド部は、コア内のコイル部分とは異なりステータコアに接触しないので、通電に伴う発熱をいかに効率的に抜熱するかが重要となる。
【0003】
コイルエンド部の冷却には、密閉空間内においてコイルエンドにオイル等の冷却媒体を散布する等の方法があるが、オイルフリーの要求がある場合やコイルエンド部に冷却媒体を供給する構造とするのが困難な場合には採用できない。そこで、コイルエンド部をモールド成形により絶縁封止するモールド樹脂として比較的熱伝導率が高い樹脂を用い、コイルエンド部を覆ったモールド樹脂を介してケーシングにコイルエンド部の熱を逃がすことが行われている。
【0004】
コイルエンド部に対するモールド成形の際には、ケーシングにステータコアを収容した状態で、ステータコアの端面と、ケーシングの内周壁及び端面と、ステータ及びロータ間のエアギャップに対応する半径の内周面とで囲まれる環状空間を形成する。そして、ケーシングの外部からゲートを介して環状空間にモールド樹脂を充填する(例えば、特許文献1)。
【0005】
なお、ステータコアを収容するためにケーシングの少なくとも一方の端面は開放端としなければならない。そのため、ケーシングの開放した端面側においては、ケーシングを収容した後に、開放した端面をマスキング治具で塞いで環状空間を仮形成し、この状態でモールド樹脂を環状空間に充填する。また、両端開放型のケーシングの場合は、ステータコアの収容後に両方の端面をマスキング治具で塞いで環状空間にモールド樹脂を充填する。
【0006】
その後、マスキング治具に代えて端部部材でケーシングの開放端を塞ぐ。ケーシングの開放端を塞いだ端部部材は、ロータとともに回転する回転軸を軸受し、あるいは、ロータを回転自在に軸受する固定軸を支持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−120923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したマスキング治具を用いてコイルエンド部に対するモールド成形を行うと、ステータコアからのコイルエンド部の突出方向先端部(面)がマスキング治具に応じた形状となる。そのため、モールド成形の際にステータコアの端面と対向するマスキング治具部分の形状が、ケーシングの開放端を塞いだ際にステータコアの端面と対向する端部部材部分の形状と、精度良く一致している必要がある。
【0009】
そうでないと、モールド成形後に、マスキング治具に代えて端部部材をケーシングの開放端に取り付けた際に、マスキング部材との形状の違いが原因で端部部材に対してモールド樹脂が充分に密着せず、必要な伝熱性能が得られなくなる等の支障が生じる可能性がある。
【0010】
そのような現象の発生を回避するために、マスキング治具に対しては、厳しい寸法精度が要求されたり、それを担保又は補うための複雑な構造が要求される。このことが、マスキング治具を用いたコイルエンド部のモールド成形の普及の妨げとなっている。
【0011】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、使用するマスキング治具に厳しい寸法精度や複雑な構造を要求しなくても、ケーシングの開放端を端部部材で塞いだ際に、マスキング治具を用いたモールド成形でステータコアのコイルエンド部を被覆したモールド樹脂を、端部部材に良好に密着させることができる樹脂モールドステータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法は、
筒状のケーシングの内部に収容される環状のステータコアの両端部からそれぞれ突出したコイルエンド部をモールド樹脂で被覆した樹脂モールドステータを製造する方法であって、
前記ケーシングの開放端から前記ステータコアを内部に収容して該開放端をマスキング治具で塞ぎ、かつ、前記ステータコアの内側に前記マスキング治具を挿入した状態で、前記開放端とは反対の端部側から前記ケーシングの内部にモールド樹脂を充填することで、前記開放端側に位置する前記コイルエンド部の、少なくとも前記ステータコア端部から所定長さのコイルエンド部部分に、前記モールド樹脂で被覆された基端側環状被覆部分を形成する第1モールド工程と、
前記マスキング治具を取り外した前記開放端を端部部材で塞いだ状態で、該端部部材に設けられた環状のシール部材を前記基端側環状被覆部分の内周面に弾接させて、前記ケーシング、前記端部部材、前記シール部材、及び、前記基端側環状被覆部分で囲まれた環状空間を形成し、該環状空間にモールド樹脂を充満させて、前記開放端側の前記コイルエンド部に、前記基端側環状被覆部分に連なる先端側環状被覆部分を形成する第2モールド工程と、
を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項1に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法によれば、第1モールド工程において、ステータコアを収容したケーシングの開放端をマスキング治具で塞ぎ、ステータコアの内側にマスキング治具を挿入すると、マスキング治具とステータコアの内周面との隙間を介して、ステータコアの両端部のコイルエンド部がケーシングの内部で連通する。
【0014】
したがって、ケーシングの開放端とは反対の端部側からケーシングの内部にモールド樹脂を充填すると、ステータコアとマスキング治具との隙間を通ってケーシングの開放端側のステータコア端部にモールド樹脂が流入する。そして、ケーシングの開放端側のステータコア端部とマスキング部材との間に充填されたモールド樹脂により、ケーシングの開放端側のステータコア端部から少なくとも所定長さ以上の部分のコイルエンド部が被覆される。これにより、ケーシングの開放端側に位置するステータコア端部のコイルエンド部に、基端側環状被覆部分が形成される。
【0015】
また、第2モールド工程において、ケーシングの開放端を端部部材で塞ぎ、端部部材の環状シール部材を基端側環状被覆部分の内周面に弾接させると、ケーシング、端部部材、シール部材、及び、基端側環状被覆部分で囲まれた環状空間が形成され、開放端側のコイルエンド部がこの空間内に収容される。
【0016】
したがって、環状空間をモールド樹脂で充満させると、開放端側のコイルエンド部に、基端側環状被覆部分に連なる先端側環状被覆部分が形成されて、両環状被覆部分によりコイルエンド部の全体がモールド樹脂で被覆されると共に、先端側環状被覆部分を構成するモールド樹脂が端部部材に密着する。
【0017】
このため、使用するマスキング治具に厳しい寸法精度や複雑な構造を要求しなくても、ケーシングの開放端を端部部材で塞いだ際に、マスキング治具を用いたモールド成形でステータコアのコイルエンド部を被覆したモールド樹脂を、端部部材に良好に密着させることができる。
【0018】
また、請求項2に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法は、請求項1に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法において、
前記ケーシングが、両端に前記開放端を有しており、
前記第1モールド工程が、前記ケーシングの一方の開放端を前記マスキング治具で塞いだ状態で、前記ケーシングの他方の開放端から該ケーシングの内部にモールド樹脂を充填することで、前記両開放端に位置する各コイルエンド部の、少なくとも各ステータコア端部から所定長さのコイルエンド部部分を前記モールド樹脂で被覆して、前記各コイルエンド部に前記基端側環状被覆部分をそれぞれ形成する第3モールド工程を含んでおり、
前記マスキング治具を取り外した前記他方の開放端を前記端部部材で塞いだ状態で、該端部部材の前記シール部材を前記他方の開放端側の前記基端側環状被覆部分の内周面に弾接させて、前記ケーシング、前記端部部材、前記シール部材、及び、前記他方の開放端側の基端側環状被覆部分で囲まれた環状空間を形成し、該環状空間にモールド樹脂を充満させて、前記他方の開放端側の前記コイルエンド部に、前記基端側環状被覆部分に連なる先端側環状被覆部分を形成する第4モールド工程をさらに含む、
ことを特徴とする。
【0019】
請求項2に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法によれば、請求項1に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法において、ケーシングの両端が開放端である場合には、第1モールド工程中に第3モールド工程を行うことができる。そして、第3モールド工程を行うと、マスキング治具で塞いだ一方の開放端側のコイルエンド部だけでなく、モールド樹脂を充填する他方の開放端側のコイルエンド部にも、ステータコア端部から所定長さ以上の部分のコイルエンド部が被覆される。これにより、ケーシングの両開放端側にそれぞれ位置するステータコア端部のコイルエンド部に、基端側環状被覆部分がそれぞれ形成される。
【0020】
そして、第4モールド工程において、ケーシングの他方の開放端を端部部材で塞ぎ、端部部材の環状シール部材を、他方の開放端側の基端側環状被覆部分の内周面に弾接させると、ケーシング、端部部材、シール部材、及び、基端側環状被覆部分で囲まれた環状空間が形成され、他方の開放端側のコイルエンド部がこの空間内に収容される。
【0021】
したがって、環状空間をモールド樹脂で充満させると、他方の開放端側のコイルエンド部においても、基端側環状被覆部分に連なる先端側環状被覆部分が形成されて、両環状被覆部分によりコイルエンド部の全体がモールド樹脂で被覆されると共に、先端側環状被覆部分を構成するモールド樹脂が、他方の開放端を塞いだ端部部材に密着する。
【0022】
これにより、使用するマスキング治具に厳しい寸法精度や複雑な構造を要求しなくても、両端が開放端であるケーシングに収容するステータコアの両端部のコイルエンド部を、開放端を塞いだ端部部材への密着性が良好なように、モールド樹脂で被覆することができる。
【0023】
さらに、請求項3に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法は、請求項1又は2に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法において、
前記端部部材が、前記開放端を塞いだ状態で前記ケーシングの内部に環状に突出する環状突起と、該環状突起の内周面に設けられた軸受部とを有しており、
前記シール部材が、前記環状突起の外周面に設けられており、
前記第2モールド工程、又は、前記第2モールド工程及び前記第4モールド工程が、前記ケーシング内の前記ステータコアの内側に配置したロータの回転軸を、前記端部部材の前記軸受部で軸受した状態で、前記シール部材を前記基端側環状被覆部分の内周面に弾接させて行われる、
ことを特徴とする。
【0024】
請求項3に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法によれば、請求項1又は2に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法において、ステータの内側に配置されるロータの回転軸を端部部材の軸受部で軸受する場合、軸受部を端部部材の環状突起の内周面に設けると、よりロータに近い箇所で回転軸が安定して軸受される。
【0025】
そこで、端部部材の環状突起の外周面にシール部材を設けると、よりステータコア端部に近い箇所でシール部材が、コイルエンド部に形成した基端側環状被覆部分の内周面に弾接する。このため、第1モールド工程でコイルエンド部に形成する基端側環状被覆部分の所定長さが短くても、基端側環状被覆部分の内周面にシール部材が確実に弾接するようになる。これにより、ケーシング、端部部材、シール部材、及び、基端側環状被覆部分で囲まれた環状空間の密閉を確実にし、よって、第2モールド工程、又は、第2モールド工程及び第4モールド工程を、適切に実行させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、使用するマスキング治具に厳しい寸法精度や複雑な構造を要求しなくても、ケーシングの開放端を端部部材で塞いだ際に、マスキング治具を用いたモールド成形でステータコアのコイルエンド部を被覆したモールド樹脂を、端部部材に良好に密着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係る製造方法により樹脂モールドステータを製造する工程の第1段階を示す断面図である。
図2図1の第1段階でモールド樹脂を充填しケーシングの開放端からマスキング治具を取り外した状態を示す断面図である。
図3】ステータコアの内側にロータ及び回転軸を収容した図2のケーシングの両開放端を端部部材でそれぞれ塞いだ状態を示す断面図である。
図4図3の各端部部材のゲートからケーシングの内部に充填したモールド樹脂によりコイルエンド部の周囲の環状空間にモールド樹脂を充満させた状態を示す断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係る樹脂モールドステータの製造方法の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施形態に係る製造方法により樹脂モールドステータを製造する工程の第1段階を示す説明図である。本実施形態では、電動モータや発電機として使用する回転機の樹脂モールドステータを製造する場合について説明する。
【0029】
まず、図1に示すように、両端が開放端1a,1bとされた円筒状のケーシング1の内部に円筒状のステータコア3を収容した状態で、図1中下方に位置するケーシング1の一方の開放端1aをマスキング治具21で塞ぐ。
【0030】
マスキング治具21は、ケーシング1の外径以上の外径の円盤状を呈する基部21aと、ケーシング1の内径と等しい外径の円盤状を呈し基部21aと同心円状に形成された段差部21bと、段差部21bの中央から突設された円柱状の挿入部21cとを有している。
【0031】
段差部21bは、ケーシング1の中心軸方向における一方の開放端1aとステータコア3のコイルエンド部3aとの位置差以下の高さを有している。また、挿入部21cは、ケーシング1の一方の開放端1aに基部21aを当接して開放端1aを塞いだ状態で、ケーシング1の他方の開放端1bから突出する高さを有している。
【0032】
したがって、ケーシング1の一方の開放端1a側には、開放端1a側のステータコア3の端面と、ケーシング1の内周面と、マスキング治具21の段差部21b及び挿入部21cとにより、開放端1a側のコイルエンド部3aを囲む環状空間23aが形成される。また、ケーシング1の他方の開放端1b側には、開放端1b側のステータコア3の端面と、ケーシング1の内周面と、マスキング治具21の挿入部21cとにより、開放端1b側のコイルエンド部3bを囲む環状開放空間23bが形成される。
【0033】
なお、挿入部21cは、ステータコア3の内径よりもわずかに小さく、かつ、ステータコア3の内部に収容する後述のロータ5(図3参照)の外径よりもわずかに大きい外径を有している。そのため、ステータコア3の内部に挿入部21cを挿入すると、挿入部21cの外周面とステータコア3の内周面との間にわずかな隙間Sが形成される。この隙間Sを介して、上述した環状空間23aと環状開放空間23bとが連通する。この状態で、第1モールド工程として、開放端1bからケーシング1の内部にモールド樹脂を充填する。
【0034】
本実施形態では、ケーシング1の両端が開放端1a,1bであり、後述する端部部材7,7(図3参照)で開放端1a,1bを塞ぐ。このため、両開放端1a,1b側のコイルエンド部3a,3bを、端部部材7,7への密着性がよい形状でモールド樹脂により被覆する必要がある。そこで、マスキング治具21を用いた第1段階の製造工程では、各コイルエンド部3a,3bとも、ステータコア3の端部寄りの一部の部分をモールド樹脂で被覆する。
【0035】
そこで、まず、開放端1a側のコイルエンド部3aについて、ステータコア3の端部寄り部分をモールド樹脂で被覆するために、モールド樹脂を、開放端1a側の環状空間23aに充満して液面が開放端1a側のステータコア3の端面に達するまで充填する。
【0036】
これに続き、請求項中の第3モールド工程に相当する工程を行う。この工程では、開放端1b側のコイルエンド部3bについて、ステータコア3の端部寄り部分をモールド樹脂で被覆するために、モールド樹脂を、挿入部21cとステータコア3の隙間Sに充満させる。さらに、ステータコア3の開放端1b側の端面よりも上方に液面が達するまで、開放端1a側の環状開放空間23bにモールド樹脂を充填する。
【0037】
以上の図1を参照して説明した工程の全体が、請求項中の第1モールド工程に相当している。そして、この工程を行うことで、モールド樹脂の冷却硬化後にマスキング治具21を取り外すと、図2に示すように、ケーシング1の両開放端1a,1b側のコイルエンド部3a,3bに、覆う第1モールド部分13a,13b(請求項中の基端側環状被覆部分に相当)が形成される。また、ステータコア3の内周面も、隙間Sに応じた厚みでモールド樹脂で被覆される。
【0038】
なお、コイルエンド部3aの第1モールド部分13aは、ケーシング1の中心軸方向においてステータコア3の端面からコイルエンド部3aの先端まで、コイルエンド部3aのほぼ全長を覆う寸法で形成される。一方、コイルエンド部3bの第1モールド部分13bは、ステータコア3の端面から所定長さに亘り、コイルエンド部3bの基端側の一部を覆うように形成される。
【0039】
次に、請求項中の第2モールド工程及び第4モールド工程に相当する工程を行う。第2モールド工程はケーシング1の開放端1a側のコイルエンド部3aに対して行う工程であり、第4モールド工程はケーシング1の開放端1b側のコイルエンド部3bに対して行う工程である。第2モールド工程と第4モールド工程は、同時に行ってもよくどちらか一方を先行して行ってもよい。
【0040】
この工程では、図3に示すように、まず、ステータコア3の内側にロータ5を収容して、ロータ5の回転軸5aをケーシング1の両開放端1a,1bから突出させた状態で、両開放端1a,1bを端部部材7,7で塞ぐ。
【0041】
これにより、各端部部材7からケーシング1の内部に突出する環状突起7aの先端寄り内周面に設けた軸受部9が、ロータ5の回転軸5aを回転可能に軸受する。また、環状突起7aの先端寄り外周面に設けた環状のシール部材11が、各コイルエンド部3a,3bの第1モールド部分13a,13bの内周面にそれぞれ弾接する。
【0042】
各端部部材7に設けたシール部材11が各第1モールド部分13a,13bの内周面にそれぞれ弾接すると、各コイルエンド部3a,3bの周囲に環状空間25a,25bがそれぞれ形成される。各環状空間25a,25bは、ケーシング1の内周面と、各コイルエンド部3a,3bの第1モールド部分13a,13bの先端面と、端部部材7,7と、シール部材11,11とによって、密閉状態に囲まれた空間となる。
【0043】
上述した各環状空間25a,25bは、各コイルエンド部3a,3bの第1モールド部分13a,13bとケーシング1や端部部材7との間に存在する隙間でもある。したがって、モールド樹脂を介してコイルエンド部3a,3bの熱をケーシング1や端部部材7に伝達するためには、各環状空間25a,25bをモールド樹脂で埋め尽くす必要がある。
【0044】
そこで、各端部部材7に設けたゲート7bから各環状空間25a,25bにモールド樹脂を充填、充満させる。この際、シール部材11が第1モールド部分13a,13bに弾接してシールすることから、モールド樹脂がステータコア3とロータ5のエアギャップに流入することが防止される。
【0045】
各環状空間25a,25bに充填、充満させたモールド樹脂が冷却硬化すると、図4に示すように、各コイルエンド部3a,3bの第1モールド部分13a,13bに連なって、第2モールド部分15a,15bが形成される。そして、各コイルエンド部3a,3bの第1及び第2モールド部分13a,15a、13b,15bは、各コイルエンド部3a,3bとケーシング1や端部部材7との間を隙間なく埋め尽くし、各コイルエンド部3a,3bで発生する熱をケーシング1や端部部材7に伝達する。
【0046】
なお、以上に説明した樹脂モールドステータの製造方法の工程をフローチャートによって示すと、図5のようになる。
【0047】
以上に説明した本実施形態の樹脂モールドステータの製造方法によれば、マスキング治具21を用いたモールド成形で各コイルエンド部3a,3bに形成した第1モールド部分13a,13bと、ケーシング1やその開放端1a,1bを塞ぐ端部部材7との隙間で構成される環状空間25a,25bに、モールド成形で第2モールド部分15a,15bを形成する工程を採用した。このため、ケーシング1や端部部材7との密着性がよいモールド樹脂の被覆(第1及び第2モールド部分13a,15a、13b,15b)を各コイルエンド部3a,3bにそれぞれ形成することができる。
【0048】
上述した実施形態では、ケーシング1の両開放端1a,1bのコイルエンド部3a,3bに対する第1モールド部分13a,13bの形成時に、モールド樹脂をケーシング1の開放端1bから充填するものとした。しかし、例えば、図1の環状空間23aと連通するゲートをマスキング治具21やケーシング1に設けて、そこからモールド樹脂を充填してもよい。
【0049】
また、上述した実施形態では、ケーシング1の両開放端1a,1bのコイルエンド部3a,3bに対する第1モールド部分13a,13bの形成を、同時に連続して行う場合について説明した。しかし、開放端1aのコイルエンド部3aに対する第1モールド部分13aの形成と、開放端1bのコイルエンド部3bに対する第1モールド部分13bの形成とを、個別に行うようにしてもよい。
【0050】
その場合は、開放端1bのコイルエンド部3bに対する第1モールド部分13bの形成も、開放端1aのコイルエンド部3aに対する第1モールド部分13aの形成と同様の工程で行えばよい。したがって、請求項中の第3モールド工程に相当する工程以降は、請求項中の第1モールド工程に相当する工程から省略することとなる。
【0051】
さらに、上述した実施形態では、ケーシング1が両端に開放端1a,1bを有している場合を例に取って説明したが、例えば、ケーシング1の一方の端部(開放端1b側)が端部部材7と一体化されて閉鎖端となっている場合にも、本発明の製造方法を適用することができる。その場合には、第1モールド工程において、ステータコア3とマスキング治具21の挿入部21cとの隙間Sを埋めてコイルエンド部3b側に達したモールド樹脂が、ケーシング1の閉鎖端の内部空間に充満するまで、閉鎖端のゲートからモールド樹脂を注入すればよい。
【0052】
また、本実施形態では、内周面に軸受部9を設けた環状突起7aの外周面にシール部材11を設けるものとしたが、第1モールド部分13a,13bの内周面に弾接できる箇所に配置できるのであれば、シール部材11をどのような構成で配置するかは任意である。
【0053】
なお、端部部材7の環状突起7aは、回転軸5aを安定して軸受できるロータ5寄りの箇所に軸受部9を配置するために設けられる。したがって、環状突起7aの外周面にシール部材11を設ければ、自ずとシール部材11は、第1モールド部分13a,13bの、よりステータコア3の端面に近い外周面箇所に弾接することになる。
【0054】
このため、ステータコア3の端面からの第1モールド部分13a,13bの形成長さが短くても、シール部材11を確実に第1モールド部分13a,13bの外周面に弾接させ、各環状空間25a,25bの密閉性を高めることができる。これにより、第2モールド部分15a,15bを形成する際に、ステータコア3とロータ5とのエアギャップにモールド樹脂が流入するのを防止することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 ケーシング
1a,1b 開放端
3 ステータコア
3a,3b コイルエンド部
5 ロータ
5a 回転軸
7 端部部材
7a 環状突起
7b ゲート
9 軸受部
11 シール部材
13a,13b 第1モールド部分
15a,15b 第2モールド部分
21 マスキング治具
21a 基部
21b 段差部
21c 挿入部
23a 環状空間
23b 環状開放空間
25a,25b 環状空間
S 隙間
図1
図2
図3
図4
図5