【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したマスキング治具を用いてコイルエンド部に対するモールド成形を行うと、ステータコアからのコイルエンド部の突出方向先端部(面)がマスキング治具に応じた形状となる。そのため、モールド成形の際にステータコアの端面と対向するマスキング治具部分の形状が、ケーシングの開放端を塞いだ際にステータコアの端面と対向する端部部材部分の形状と、精度良く一致している必要がある。
【0009】
そうでないと、モールド成形後に、マスキング治具に代えて端部部材をケーシングの開放端に取り付けた際に、マスキング部材との形状の違いが原因で端部部材に対してモールド樹脂が充分に密着せず、必要な伝熱性能が得られなくなる等の支障が生じる可能性がある。
【0010】
そのような現象の発生を回避するために、マスキング治具に対しては、厳しい寸法精度が要求されたり、それを担保又は補うための複雑な構造が要求される。このことが、マスキング治具を用いたコイルエンド部のモールド成形の普及の妨げとなっている。
【0011】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、使用するマスキング治具に厳しい寸法精度や複雑な構造を要求しなくても、ケーシングの開放端を端部部材で塞いだ際に、マスキング治具を用いたモールド成形でステータコアのコイルエンド部を被覆したモールド樹脂を、端部部材に良好に密着させることができる樹脂モールドステータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法は、
筒状のケーシングの内部に収容される環状のステータコアの両端部からそれぞれ突出したコイルエンド部をモールド樹脂で被覆した樹脂モールドステータを製造する方法であって、
前記ケーシングの開放端から前記ステータコアを内部に収容して該開放端をマスキング治具で塞ぎ、かつ、前記ステータコアの内側に前記マスキング治具を挿入した状態で、前記開放端とは反対の端部側から前記ケーシングの内部にモールド樹脂を充填することで、前記開放端側に位置する前記コイルエンド部の、少なくとも前記ステータコア端部から所定長さのコイルエンド部部分に、前記モールド樹脂で被覆された基端側環状被覆部分を形成する第1モールド工程と、
前記マスキング治具を取り外した前記開放端を端部部材で塞いだ状態で、該端部部材に設けられた環状のシール部材を前記基端側環状被覆部分の内周面に弾接させて、前記ケーシング、前記端部部材、前記シール部材、及び、前記基端側環状被覆部分で囲まれた環状空間を形成し、該環状空間にモールド樹脂を充満させて、前記開放端側の前記コイルエンド部に、前記基端側環状被覆部分に連なる先端側環状被覆部分を形成する第2モールド工程と、
を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項1に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法によれば、第1モールド工程において、ステータコアを収容したケーシングの開放端をマスキング治具で塞ぎ、ステータコアの内側にマスキング治具を挿入すると、マスキング治具とステータコアの内周面との隙間を介して、ステータコアの両端部のコイルエンド部がケーシングの内部で連通する。
【0014】
したがって、ケーシングの開放端とは反対の端部側からケーシングの内部にモールド樹脂を充填すると、ステータコアとマスキング治具との隙間を通ってケーシングの開放端側のステータコア端部にモールド樹脂が流入する。そして、ケーシングの開放端側のステータコア端部とマスキング部材との間に充填されたモールド樹脂により、ケーシングの開放端側のステータコア端部から少なくとも所定長さ以上の部分のコイルエンド部が被覆される。これにより、ケーシングの開放端側に位置するステータコア端部のコイルエンド部に、基端側環状被覆部分が形成される。
【0015】
また、第2モールド工程において、ケーシングの開放端を端部部材で塞ぎ、端部部材の環状シール部材を基端側環状被覆部分の内周面に弾接させると、ケーシング、端部部材、シール部材、及び、基端側環状被覆部分で囲まれた環状空間が形成され、開放端側のコイルエンド部がこの空間内に収容される。
【0016】
したがって、環状空間をモールド樹脂で充満させると、開放端側のコイルエンド部に、基端側環状被覆部分に連なる先端側環状被覆部分が形成されて、両環状被覆部分によりコイルエンド部の全体がモールド樹脂で被覆されると共に、先端側環状被覆部分を構成するモールド樹脂が端部部材に密着する。
【0017】
このため、使用するマスキング治具に厳しい寸法精度や複雑な構造を要求しなくても、ケーシングの開放端を端部部材で塞いだ際に、マスキング治具を用いたモールド成形でステータコアのコイルエンド部を被覆したモールド樹脂を、端部部材に良好に密着させることができる。
【0018】
また、請求項2に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法は、請求項1に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法において、
前記ケーシングが、両端に前記開放端を有しており、
前記第1モールド工程が、前記ケーシングの一方の開放端を前記マスキング治具で塞いだ状態で、前記ケーシングの他方の開放端から該ケーシングの内部にモールド樹脂を充填することで、前記両開放端に位置する各コイルエンド部の、少なくとも各ステータコア端部から所定長さのコイルエンド部部分を前記モールド樹脂で被覆して、前記各コイルエンド部に前記基端側環状被覆部分をそれぞれ形成する第3モールド工程を含んでおり、
前記マスキング治具を取り外した前記他方の開放端を前記端部部材で塞いだ状態で、該端部部材の前記シール部材を前記他方の開放端側の前記基端側環状被覆部分の内周面に弾接させて、前記ケーシング、前記端部部材、前記シール部材、及び、前記他方の開放端側の基端側環状被覆部分で囲まれた環状空間を形成し、該環状空間にモールド樹脂を充満させて、前記他方の開放端側の前記コイルエンド部に、前記基端側環状被覆部分に連なる先端側環状被覆部分を形成する第4モールド工程をさらに含む、
ことを特徴とする。
【0019】
請求項2に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法によれば、請求項1に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法において、ケーシングの両端が開放端である場合には、第1モールド工程中に第3モールド工程を行うことができる。そして、第3モールド工程を行うと、マスキング治具で塞いだ一方の開放端側のコイルエンド部だけでなく、モールド樹脂を充填する他方の開放端側のコイルエンド部にも、ステータコア端部から所定長さ以上の部分のコイルエンド部が被覆される。これにより、ケーシングの両開放端側にそれぞれ位置するステータコア端部のコイルエンド部に、基端側環状被覆部分がそれぞれ形成される。
【0020】
そして、第4モールド工程において、ケーシングの他方の開放端を端部部材で塞ぎ、端部部材の環状シール部材を、他方の開放端側の基端側環状被覆部分の内周面に弾接させると、ケーシング、端部部材、シール部材、及び、基端側環状被覆部分で囲まれた環状空間が形成され、他方の開放端側のコイルエンド部がこの空間内に収容される。
【0021】
したがって、環状空間をモールド樹脂で充満させると、他方の開放端側のコイルエンド部においても、基端側環状被覆部分に連なる先端側環状被覆部分が形成されて、両環状被覆部分によりコイルエンド部の全体がモールド樹脂で被覆されると共に、先端側環状被覆部分を構成するモールド樹脂が、他方の開放端を塞いだ端部部材に密着する。
【0022】
これにより、使用するマスキング治具に厳しい寸法精度や複雑な構造を要求しなくても、両端が開放端であるケーシングに収容するステータコアの両端部のコイルエンド部を、開放端を塞いだ端部部材への密着性が良好なように、モールド樹脂で被覆することができる。
【0023】
さらに、請求項3に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法は、請求項1又は2に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法において、
前記端部部材が、前記開放端を塞いだ状態で前記ケーシングの内部に環状に突出する環状突起と、該環状突起の内周面に設けられた軸受部とを有しており、
前記シール部材が、前記環状突起の外周面に設けられており、
前記第2モールド工程、又は、前記第2モールド工程及び前記第4モールド工程が、前記ケーシング内の前記ステータコアの内側に配置したロータの回転軸を、前記端部部材の前記軸受部で軸受した状態で、前記シール部材を前記基端側環状被覆部分の内周面に弾接させて行われる、
ことを特徴とする。
【0024】
請求項3に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法によれば、請求項1又は2に記載した本発明の樹脂モールドステータの製造方法において、ステータの内側に配置されるロータの回転軸を端部部材の軸受部で軸受する場合、軸受部を端部部材の環状突起の内周面に設けると、よりロータに近い箇所で回転軸が安定して軸受される。
【0025】
そこで、端部部材の環状突起の外周面にシール部材を設けると、よりステータコア端部に近い箇所でシール部材が、コイルエンド部に形成した基端側環状被覆部分の内周面に弾接する。このため、第1モールド工程でコイルエンド部に形成する基端側環状被覆部分の所定長さが短くても、基端側環状被覆部分の内周面にシール部材が確実に弾接するようになる。これにより、ケーシング、端部部材、シール部材、及び、基端側環状被覆部分で囲まれた環状空間の密閉を確実にし、よって、第2モールド工程、又は、第2モールド工程及び第4モールド工程を、適切に実行させることができる。