特許第5949462号(P5949462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949462
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】円筒容器の部分増肉方法
(51)【国際特許分類】
   B21K 21/16 20060101AFI20160623BHJP
   B21D 22/30 20060101ALI20160623BHJP
   B21J 5/02 20060101ALI20160623BHJP
   B21D 22/26 20060101ALN20160623BHJP
【FI】
   B21K21/16
   B21D22/30 Z
   B21J5/02 A
   !B21D22/26 D
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-242736(P2012-242736)
(22)【出願日】2012年11月2日
(65)【公開番号】特開2014-91146(P2014-91146A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100067541
【弁理士】
【氏名又は名称】岸田 正行
(74)【代理人】
【識別番号】100103506
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 弘晋
(72)【発明者】
【氏名】山本 修治
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雅之
(72)【発明者】
【氏名】塚野 保嗣
【審査官】 石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−210389(JP,A)
【文献】 特開平09−327749(JP,A)
【文献】 特開平06−218442(JP,A)
【文献】 特開2001−314921(JP,A)
【文献】 特開平07−155888(JP,A)
【文献】 特開2001−047175(JP,A)
【文献】 特開2007−289989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 21/16
B21D 22/30
B21J 5/02
B21D 22/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状の被加工材をパンチ及びダイス及びブランクホルダーを用いて深絞りを行いカップ状に成形し、
引続き、押えパンチと前記押えパンチの外周に沿って配置されるとともに、前記押えパンチに対して相対的に軸心方向に移動可能な据え込みパンチとダイスを備える金型を用いて、
前記押えパンチ及び前記据え込みパンチを前記ダイスに対して相対移動させることにより、前記カップ状の成形品を円筒容器に成形する際に、
前記押えパンチを前記ダイスの位置を基準とする全ストロークの0.5倍以上0.7倍以下に対応する第1の押えパンチ駆動位置まで相対移動させるとともに、前記据え込みパンチを前記ダイスの位置を基準とする全ストロークの0.5倍以上0.7倍以下に対応する第1の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させる第1の工程、
前記押えパンチ及び前記据え込みパンチのうち前記押えパンチのみを前記ダイスの位置を基準とする前記押えパンチの全ストロークの0.8倍以上0.9倍以下に対応する第2の押えパンチ駆動位置まで相対移動させる第2の工程、
前記押えパンチを前記ダイスの位置を基準とする全ストロークに対応する第3の押えパンチ駆動位置まで相対移動させるとともに、前記据え込みパンチを前記ダイスの位置を基準とする全ストロークに対応する第2の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させることにより前記円筒容器を成形する第3の工程、の順序で成形することを特徴とする円筒容器の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程において、前記押えパンチ及び前記据え込みパンチをそれぞれ前記第1の押えパンチ駆動位置及び前記第1の据え込みパンチ駆動位置まで移動させ、
前記第2の工程において、前記押えパンチを前記第2の押えパンチ駆動位置まで移動させ、
前記第3の工程において、前記押えパンチ及び前記据え込みパンチをそれぞれ前記第3の押えパンチ駆動位置及び前記第2の据え込みパンチ駆動位置まで移動させることを特徴とする請求項1に記載の円筒容器の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程において、前記ダイスを移動させることにより、前記押えパンチ及び前記据え込みパンチをそれぞれ前記第1の押えパンチ駆動位置及び前記第1の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させ、
前記第2の工程において、前記据え込みパンチを前記第1の据え込みパンチ駆動位置に位置させた状態で、前記ダイスを前記据え込みパンチとともに移動させることにより、前記押えパンチを前記第2の押えパンチ駆動位置まで相対移動させ、
前記第3の工程において、前記ダイス及び前記据え込みパンチを移動させることにより、前記押えパンチ及び前記据え込みパンチをそれぞれ第3の押えパンチ駆動位置及び第2の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させることを特徴とする請求項1に記載の円筒容器の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程において、前記ダイスを移動させることにより、前記押えパンチ及び前記据え込みパンチをそれぞれ前記第1の押えパンチ駆動位置及び前記第1の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させ、
前記第2の工程において、前記据え込みパンチを前記第1の据え込みパンチ駆動位置に位置させた状態で、前記押えパンチを前記第2の押えパンチ駆動位置まで移動させ、
前記第3の工程において、前記ダイス及び前記押えパンチ移動させることにより、前記押えパンチ及び前記据え込みパンチをそれぞれ第3の押えパンチ駆動位置及び第2の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させることを特徴とする請求項1に記載の円筒容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円板より深絞りにより円筒カップを成形し、その円筒カップの角部を増肉させる成形法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のオートマチックトランスミッションに用いられるドラムやハブ等のように回転し、トルク伝達を行う部品の場合、底面部からそれに垂直に起立した縦壁部に繋がる角部は伝達するトルクに耐えられるだけの十分な肉厚を有していることが要求される。円板状の被加工材を用いて深絞り成形を行うと、図1に示すようにパンチ12の肩部12aにおいて、被加工材11は引張曲げ変形を受けて、板厚が薄くなる。そこで、このカップ状の成形途中品21を図2に示すように押えパンチ22と据え込みパンチ23及びダイス24を用いて成形すると、角部近傍に表面が重なった疵が発生するという問題があった。また、特許文献1には、亀裂を防止可能な成形方法が開示されているが、円筒カップの底面部と縦壁とが直角をなすような成形については記載されていない。また、特許文献2では、加圧ローラを用いる方法が提案されているが、特殊な装置が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-47175号公報
【特許文献2】特開2007-289989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、円筒カップの角部を増肉させ、底面と壁部を直角に成形する際に表面が重なった疵のない成形法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の溝付円板の成形方法は、(1)円板状の被加工材をパンチ及びダイス及びブランクホルダーを用いて深絞りを行いカップ状に成形し、引続き、押えパンチと前記押えパンチの外周に沿って配置されるとともに、前記押えパンチに対して相対的に軸心方向に移動可能な据え込みパンチとダイスを備える金型を用いて、前記押えパンチ及び前記据え込みパンチを前記ダイスに対して相対移動させることにより、前記カップ状の成形品を円筒容器に成形する際に、前記押えパンチを前記ダイスの位置を基準とする全ストロークの0.5倍以上0.7倍以下に対応する第1の押えパンチ駆動位置まで相対移動させるとともに、前記据え込みパンチを前記ダイスの位置を基準とする全ストロークの0.5倍以上0.7倍以下に対応する第1の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させる第1の工程、前記押えパンチ及び前記据え込みパンチのうち前記押えパンチのみを前記ダイスの位置を基準とする前記押えパンチの全ストロークの0.8倍以上0.9倍以下に対応する第2の押えパンチ駆動位置まで相対移動させる第2の工程、前記押えパンチを前記ダイスの位置を基準とする全ストロークに対応する第3の押えパンチ駆動位置まで相対移動させるとともに、前記据え込みパンチを前記ダイスの位置を基準とする全ストロークに対応する第2の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させることにより前記円筒容器を成形する第3の工程、の順序で成形することを特徴とする。上記(1)における金型の動作手順には、例えば、下記の(2)〜(4)の方法が考えられる。
【0006】
(2)前記第1の工程において、前記押えパンチ及び前記据え込みパンチをそれぞれ前記第1の押えパンチ駆動位置及び前記第1の据え込みパンチ駆動位置まで移動させ、前記第2の工程において、前記押えパンチを前記第2の押えパンチ駆動位置まで移動させ、前記第3の工程において、前記押えパンチ及び前記据え込みパンチをそれぞれ前記第3の押えパンチ駆動位置及び前記第2の据え込みパンチ駆動位置まで移動させることを特徴とする(1)に記載の円筒容器の製造方法。
【0007】
(3)前記第1の工程において、前記ダイスを移動させることにより、前記押えパンチ及び前記据え込みパンチをそれぞれ前記第1の押えパンチ駆動位置及び前記第1の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させ、
前記第2の工程において、前記据え込みパンチを前記第1の据え込みパンチ駆動位置に位置させた状態で、前記ダイスを前記据え込みパンチとともに移動させることにより、前記押えパンチを前記第2の押えパンチ駆動位置まで相対移動させ、前記第3の工程において、前記ダイス及び前記据え込みパンチを移動させることにより、前記押えパンチ及び前記据え込みパンチをそれぞれ第3の押えパンチ駆動位置及び第2の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させることを特徴とする(1)に記載の円筒容器の製造方法。
【0008】
(4)前記第1の工程において、前記ダイスを移動させることにより、前記押えパンチ及び前記据え込みパンチをそれぞれ前記第1の押えパンチ駆動位置及び前記第1の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させ、前記第2の工程において、前記据え込みパンチを前記第1の据え込みパンチ駆動位置に位置させた状態で、前記押えパンチを前記第2の押えパンチ駆動位置まで移動させ、前記第3の工程において、前記ダイス及び前記押えパンチ移動させることにより、前記押えパンチ及び前記据え込みパンチをそれぞれ第3の押えパンチ駆動位置及び第2の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させることを特徴とする(1)に記載の円筒容器の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
円筒カップの角部を増肉させ、かつ底面と壁部を直角に成形する際に発生する重なり疵を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】円筒深絞りを示す断面図
図2a】円筒深絞り品の角部を増肉成形する過程を示す断面図(成形前)
図2b】円筒深絞り品の角部を増肉成形する過程を示す断面図(成形後)
図3a】円筒深絞り品の角部を増肉成形する過程を示す断面図(成形開始時)
図3b】円筒深絞り品の角部を増肉成形する過程を示す断面図(成形途中)
図3c】円筒深絞り品の角部を増肉成形する過程を示す断面図(成形完了時)
図3d図3cのA部拡大図
図4a】円筒深絞り品の角部を増肉成形する際に発生する重なり疵の生成過程を示す断面図(成形途中)
図4b図4aのB部拡大図
図4c】円筒深絞り品の角部を増肉成形する際に発生する重なり疵の生成過程を示す断面図(成形途中)
図4d図4cのC部拡大図
図4e】円筒深絞り品の角部を増肉成形する際に発生する重なり疵の生成過程を示す断面図(成形途中)
図4f図4eのD部拡大図
図5a】円筒深絞り品の角部を増肉成形する過程を示す断面図(成形開始時)
図5b】円筒深絞り品の角部を増肉成形する過程を示す断面図(成形途中)
図5c】円筒深絞り品の角部を増肉成形する過程を示す断面図(成形完了時)
図5d図5cのE部拡大図
図6a】円筒深絞り品の角部を増肉成形する際に発生する重なり疵の生成過程を示す断面図(成形途中)
図6b】円筒深絞り品の角部を増肉成形する際に発生する重なり疵の生成過程を示す断面図(成形途中)
図6c】円筒深絞り品の角部を増肉成形する際に発生する重なり疵の生成過程を示す断面図(成形完了時)
図6d図6cのF部拡大図
図7a】円筒深絞り過程を示す断面図(成形開始時)
図7b】円筒深絞り過程を示す断面図(成形完了後)
図8a】円筒深絞り品の角部を増肉成形する過程を示す断面図(成形開始時)
図8b】円筒深絞り品の角部を増肉成形する過程を示す断面図(成形完了後)
図9図8の詳細を示した動作説明図
図10】変形例1の金型の動作説明図
図11】変形例2の金型の動作説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。SPH590で直径が110mm、板厚が4mmの円板状の被加工材を用い、パンチとダイスおよびブランクホルダーを用いて深絞り成形を行った。その後、押えパンチ、押えパンチの外周に配置される据え込みパンチおよびダイスを用い、押えパンチと据え込みパンチを上方に移動させて成形する方法について鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。
【0012】
図3a〜図3dは従来の深絞り成形の手順を示した動作説明図であり、この順序で深絞り成形が進むものとする。図3aに示すように押えパンチ32を先にダイス34の凹部に向かって押込み、被加工材31を折り曲げる。押えパンチ32をさらに押し込むと、図3bに示すように、押えパンチ32とダイス34とによって、被加工材31の底面が挟み込まれる。被加工材31が押えパンチ32及びダイス34によって挟み込まれた状態で、据え込みパンチ33を被加工材31の下端部に突き当て、ダイス34側に押込むと、図3c及び図3dに示すように、成形品35に表面が重なった疵36が発生した。
【0013】
図4a〜fは、疵36が発生するメカニズムを詳細に示した動作説明図である。図4aは、図3aに示す位置から図3bに示す位置に押えパンチ32を押し込んだ際の、被加工材31の形状変化を示している。同図に示すように、被加工材31のR部分に押えパンチ32が当接することにより、被加工部材31の一部が押えパンチ32の角部から膨出し、図4bの拡大図に示すように、膨出部35が形成される。押えパンチ32をさらに押し込むと(図4c参照)、図4dの拡大図に示すように、膨出部35は押えパンチ32に向かってさらに膨出する。図4eに示すように、押えパンチ32を最後まで押し込むと、拡張した膨出部35と被加工材31の表面とが重なり、図4fの拡大図に示すように、疵36が発生することがわかった。
【0014】
図5a〜図5dは図3とは異なる別の従来の深絞り成形の手順を示した動作説明図であり、この順序で深絞り成形が進むものとする。図5aは、図3aと同様の状態を示している。図5aから図5bに示すように据え込みパンチ53を先に移動させると、被加工材51のR部が押し潰され、膨出部53aが形成される。図5bから図5cに示すように据え込みパンチ53とダイス54で被加工材51の縦壁部を拘束した状態で押えパンチ52を押込むと、図5dの拡大図に示すように、成形品55に表面が重なった疵56が発生した。
【0015】
図6a〜図6dは、疵56が発生するメカニズムを詳細に示した動作説明図である。図6aは図5bに示す状態に対応している。図6bは、図5bに示す位置から図5cに示す位置に押えパンチ52を押し込んだ際の、被加工材51の形状変化を示している。図6aを参照して、押えパンチ52を押し込むと、図6bに示すように、膨出部53aは押えパンチ52に向かってさらに膨出する。図6cに示すように、押えパンチ52を最後まで押し込むと、拡張した膨出部53aと被加工材51の表面とが重なり、図6dの拡大図に示すように、成形品に疵56が発生した。
【0016】
そこで、表面が重なった疵の発生を抑制するため、更に検討を行った結果、下記の知見を得た。まず、第1の工程において、押えパンチをダイスの位置を基準とする全ストロークの0.5倍以上0.7倍以下に対応する第1の押えパンチ駆動位置まで相対移動させるとともに、据え込みパンチをダイスの位置を基準とする全ストロークの0.5倍以上0.7倍以下に対応する第1の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させる。
【0017】
次に、第2の工程において、押えパンチ及び据え込みパンチのうち押えパンチのみを押えパンチのダイスの位置を基準とする全ストロークの0.8倍以上0.9倍以下に対応する第2の押えパンチ駆動位置まで相対移動させる。ここで、第1の工程から第2の工程に移行する際に、第1の押えパンチ駆動位置及び第1の据え込みパンチ駆動位置において第1の押えパンチ及び第1の据え込みパンチを一時的に停止してもよいし、停止させずに連続的に第2の工程を実施してもよい。
【0018】
次に、第3の工程において、押えパンチをダイスの位置を基準とする全ストロークに対応する第3の押えパンチ駆動位置まで相対移動させるとともに、据え込みパンチをダイスの位置を基準とする全ストロークに対応する第2の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させる。
【0019】
ここで、第2の工程から第3の工程に移行する際に、第3の押えパンチ駆動位置及び第2の据え込みパンチ駆動位置において第3の押えパンチ及び第2の据え込みパンチを一時的に停止してもよいし、停止させずに連続的に第3の工程を実施してもよい。これらの第1〜第3の工程を実施することにより、表面が重なった疵が大きく抑制できることを知見した。
【0020】
ここで、「相対移動」とは、押えパンチ、据え込みパンチ及びダイスのうち少なくとも一つを移動させることにより、押えパンチ及び据え込みパンチのダイスに対する位置が変化することを意味する。例えば、「押え込みパンチが相対移動する」には、ダイスを停止させた状態で押えパンチを移動させた場合、押えパンチを停止させた状態でダイスを移動させた場合、ダイス及び押えパンチの双方を移動させた場合が含まれる。
【0021】
「据え込みパンチが相対移動する」には、ダイスを停止させた状態で据え込みパンチを移動させた場合、据え込みパンチを停止させた状態でダイスを移動させた場合、ダイス及び据え込みパンチの双方を移動させた場合が含まれる。押えパンチ、据え込みパンチ及びダイスを相対移動させる際に、上記第1〜第3の工程に規定する数値条件を満足させることにより、前述の効果、つまり、表面が重なった疵の発生を大幅に抑制することができる。
【0022】
第1工程で押えパンチ及び据え込みパンチの移動量をそれぞれの全ストロークの0.5倍以上0.7倍以下に制限した理由は以下による。第1工程で押えパンチ及び据え込みパンチの移動量がそれぞれの全ストロークの0.7倍超の場合、被加工材が押えパンチの角部から膨出し、図4bに類似した膨出部が形成され、その後の成形にて表面が重なり、疵になるためである。一方、第1工程で押えパンチ及び据え込みパンチの移動量がそれぞれの全ストロークの0.5倍未満の場合、その後の据え込みパンチを押込みにより、被加工材が押えパンチの角部から膨出し、図6aに類似した膨出部が形成され、表面が重なるためである。
【0023】
次に第2工程で押えパンチの移動量を押えパンチの全ストロークの0.8倍以上0.9倍以下に規定した理由を述べる。押えパンチの移動量が押えパンチの全ストロークの0.9倍超の場合、被加工材が押えパンチの角部から膨出し、図4bに類似した膨出部が形成され、その後の成形にて表面が重なり、疵になるためである。一方、押えパンチの移動量が押えパンチの全ストロークの0.8倍未満の場合、その後の据え込みパンチを押込みにより、被加工材が押えパンチの角部から膨出し、図6aに類似した膨出部が形成され、表面が重なるためである。
(実施例)
以下、図7図9を参照しながら、実施例及び比較例を示して本発明について具体的に説明する。図7は深絞り成形装置の動作説明図であり、図7aが絞り成形前の状態を示し、図7bが絞り成形後の状態を示している。図8は円筒容器の製造に用いられる金型の動作説明図であり、図8aが成形開始時の状態を示し、図8bが成形完了時の状態を示している。図9図8の動作説明図の詳細図であり、図9aは成形開始時の状態を示し、図9bは第1の工程を実施した後の状態を示し、図9cは第2の工程を実施した後の状態を示し、図9dは第3の工程を実施した後の状態を示している。
【0024】
図7(a)を参照して、SPH590で直径が110mm、板厚が4mmの円板状の被加工材71に対して、パンチ72とダイス73およびブランクホルダー74を用いて深絞り成形を行い、図7bに示すカップ状被加工材75を成形する。その後、図8に示す押えパンチ82、据え込みパンチ83及びダイス84を用い、表1に示すストローク条件にて成形した。押えパンチ82、据え込みパンチ83の全ストロークはそれぞれ6.0mm、8.0mmである。
【0025】
具体的には、図9bに示すように、第1の工程において、押えパンチ82及び据え込みパンチ83をそれぞれ第1の押えパンチ駆動位置及び第1の据え込みパンチ駆動位置まで移動させた。次に、第2の工程において、据え込みパンチ83を第1の据え込みパンチ駆動位置に停止させた状態で、押えパンチ82を第2の押えパンチ駆動位置まで移動させた。最後に、第3の工程において、押えパンチ82及び据え込みパンチ83をそれぞれ第3の押えパンチ駆動位置及び第2の据え込みパンチ駆動位置まで移動させた。発明例No.1〜No.5は、表面が重なった疵の発生が無く、成形できた。比較例No.6〜No.13は重なり疵が発生した。
【0026】
ここで、押えパンチ82のダイス84の位置を基準とする全ストロークとは、押えパンチ82が図8aに示す成形開始位置から図8bに示す成形完了位置まで動作する際の、押えパンチ82のダイス84に対する相対的な移動量を意味する。つまり、押えパンチ82の全ストロークとは、ダイス84の凹部底面にセットされたカップ状の成形品81における曲げ部の始点に押えパンチ82が当接する第1の状態から、成形が完了する第2の状態に至るまでの押えパンチ82のダイス84に対する総ストローク量のことである。
【0027】
カップ状の成形品81における曲げ部の始点は、例えば、図7の深絞り工程において予め調べておくことができる。具体的には、曲げ部の始点が明瞭である場合には、曲げ部の始点とカップ状被加工材75の縦壁部の端部のストローク方向距離を測定することで決定することができる。前記曲げ部の始点が不明瞭な場合は、カップ状被加工材75の縦壁部の端部からパンチ72の上端部までの距離Hを測定し、距離Hからパンチ72の角部のR寸法(図7の例ではR5)を引くこと(図7の例では、5mm引くこと)で、曲げ部の始点とカップ状の成形品81の縦壁部の端部のストローク方向距離を決定することができる。
【0028】
そして、図8に示す工程において、この測定結果を用いて、押えパンチ82を曲げ部の始点とされる位置に相対移動させることにより、前記第1の状態とすることができる。また、別の手法として、図7の深絞り工程において成形されるカップ状被加工材75が規格品である場合には、規格品の仕様書から曲げ部の始点を特定する方法であってもよい。据え込みパンチ83の全ストロークとは、前記第1の状態におけるカップ状の成形品81の縦壁部の端部に対応した位置から成形が完了する位置まで動作する際の、据え込みパンチ83のダイス84に対する移動量のことである。
【0029】
上述の実施形態では、図9の動作説明図にしたがって金型を作動させたが、本発明はこれに限るものではない。図10は変形例1に係る金型の動作説明図であり、図11は変形例2に係る金型の動作説明図である。これらの図10及び図11は、図9に対応している。
【0030】
図10bを参照して、第1の工程において、ダイス84を矢印方向に移動させることにより、押えパンチ82及び据え込みパンチ83をそれぞれ第1の押えパンチ駆動位置及び第1の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させる。つまり、第1の工程では、ダイス84は動かし、押えパンチ82及び据え込みパンチ83は動かさない。図10cを参照して、第2の工程において、据え込みパンチ83を第1の据え込みパンチ駆動位置に停止させた状態で、ダイス84を据え込みパンチ83とともに矢印方向に移動させることにより、押えパンチ82を第2の押えパンチ駆動位置まで相対移動させる。
【0031】
つまり、第2の工程では、ダイス84及び据え込みパンチ83は動かし、押えパンチ82は動かさない。図10dを参照して、第3の工程において、ダイス84及び据え込みパンチ83を矢印方向に移動させることにより、押えパンチ82及び据え込みパンチ83をそれぞれ第3の押えパンチ駆動位置及び第2の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させる。つまり、第3の工程では、ダイス84及び据え込みパンチ83は動かし、押えパンチ82は動かさない。
【0032】
図11bを参照して、第1の工程において、ダイス84を矢印方向に移動させることにより、押えパンチ82及び据え込みパンチ83をそれぞれ第1の押えパンチ駆動位置及び第1の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させる。つまり、第1の工程では、ダイス84は動かし、押えパンチ82及び据え込みパンチ83は動かさない。図11cを参照して、第2の工程において、据え込みパンチ83を第1の据え込みパンチ駆動位置に停止させた状態で、押えパンチ82を第2の押えパンチ駆動位置まで矢印方向に移動させる。つまり、第2の工程では、押えパンチ82は動かし、据え込みパンチ83及びダイス84は動かさない。
【0033】
第3の工程において、ダイス84及び押えパンチ82を矢印方向に移動させることにより、押えパンチ82及び据え込みパンチ83をそれぞれ第3の押えパンチ駆動位置及び第2の据え込みパンチ駆動位置まで相対移動させる。つまり、第3の工程では、ダイス84及び押えパンチ82は動かし、据え込みパンチ83は動かさない。
【0034】
また、別の変形例として、金型の上下の向きを反対にしてもよい。すなわち、ダイス84を下側に配置し、押えパンチ82及び据え込みパンチ83を上側に配置してもよい。
【0035】
【表1】
【符号の説明】
【0036】
11・・・被加工材
12・・・パンチ
12a・・・パンチ肩部
13・・・ダイス
14・・・ブランクホルダー
21・・・カップ状の成形途中品
22・・・押えパンチ
23・・・据え込みパンチ
24・・・ダイス
31・・・被加工材
32・・・押えパンチ
33・・・据え込みパンチ
34・・・ダイス
35・・・成形品
36・・・表面が重なった疵
51・・・被加工材
52・・・押えパンチ
53・・・据え込みパンチ
54・・・ダイス
55・・・成形品
56・・・表面が重なった疵
71・・・被加工材
72・・・パンチ
73・・・ダイス
74・・・ブランクホルダー
75・・・カップ
81・・・被加工材
82・・・押えパンチ
83・・・据え込みパンチ
84・・・ダイス
85・・・成形品
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図3d
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図5a
図5b
図5c
図5d
図6a
図6b
図6c
図6d
図7a
図7b
図8a
図8b
図9
図10
図11