(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949470
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】ワイヤ把持装置、ワイヤ引き出し方法、およびワイヤハーネスを有する物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/012 20060101AFI20160623BHJP
【FI】
H01B13/00 513Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-245680(P2012-245680)
(22)【出願日】2012年11月7日
(65)【公開番号】特開2014-96221(P2014-96221A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】500296295
【氏名又は名称】株式会社テクマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 克洋
(72)【発明者】
【氏名】矢野 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】高間 輝昭
(72)【発明者】
【氏名】深津 博己
【審査官】
和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−095127(JP,A)
【文献】
特開2006−164568(JP,A)
【文献】
特開2003−032824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/012
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ(93)が挿入される貫通した第1ワイヤ穴(14)を複数有する第1部材(1)と、
前記第1ワイヤ穴(14)から突出した前記ワイヤ(93)の先端側が挿入される第2ワイヤ穴(21)を複数有する第2部材(2)と、
前記第1部材(1)と前記第2部材(2)とを相対的に回転させる駆動手段(3)とを備え、
前記第1部材(1)と前記第2部材(2)は、前記第1ワイヤ穴(14)の一端側開口部と前記第2ワイヤ穴(21)の一端側開口部とが対向する状態に配置され、
前記駆動手段(3)にて前記第1部材(1)と前記第2部材(2)とを相対的に回転させて、前記第1ワイヤ穴(14)の一端側開口部と前記第2ワイヤ穴(21)の一端側開口部の重合範囲を狭めることにより、前記ワイヤ(93)を前記第1ワイヤ穴(14)の開口縁部と前記第2ワイヤ穴(21)の開口縁部により把持することを特徴とするワイヤ把持装置。
【請求項2】
前記駆動手段(3)により回転される部材と当接してその部材の最大回転位置を規制するストッパ(6)を備えることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ把持装置。
【請求項3】
前記駆動手段(3)は、一定のトルクにて前記第1部材(1)および前記第2部材(2)のうち一方を回転させることを特徴とする請求項1または2に記載のワイヤ把持装置。
【請求項4】
前記第2部材(2)が前記駆動手段(3)により回転されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のワイヤ把持装置。
【請求項5】
保持部材(92)に形成された複数の貫通孔にそれぞれワイヤ(93)が挿入されたワーク(9)と、
前記保持部材(92)から突出した前記ワイヤ(93)が挿入される貫通した第1ワイヤ穴(14)を複数有する第1部材(1)と、
前記第1ワイヤ穴(14)から突出した前記ワイヤ(93)の先端側が挿入される第2ワイヤ穴(21)を複数有する第2部材(2)と、
前記第1部材(1)と前記第2部材(2)とを相対的に回転させる駆動手段(3)とを用意し、
前記第1部材(1)と前記第2部材(2)を、前記第1ワイヤ穴(14)の一端側開口部と前記第2ワイヤ穴(21)の一端側開口部とが対向する状態に配置し、前記ワイヤ(93)を前記第1ワイヤ穴(14)および前記第2ワイヤ穴(21)に挿入するワイヤ挿入工程と、
前記ワイヤ挿入工程の後に、前記駆動手段(3)にて前記第1部材(1)と前記第2部材(2)とを相対的に回転させて、前記第1ワイヤ穴(14)の一端側開口部と前記第2ワイヤ穴(21)の一端側開口部の重合範囲を狭めることにより、前記ワイヤ(93)を前記第1ワイヤ穴(14)の開口縁部と前記第2ワイヤ穴(21)の開口縁部により把持するワイヤ把持工程と、
前記ワイヤ把持工程の後に、前記保持部材(92)と前記第1部材(1)とを相対的に遠ざける向きに移動させる保持部材移動工程とを有することを特徴とするワイヤ引き出し方法。
【請求項6】
ワイヤハーネスを有する物品の製造方法であって、
請求項5に記載のワイヤ引き出し方法によって前記ワイヤハーネスを製造することを特徴とするワイヤハーネスを有する物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のワイヤを同時に把持するワイヤ把持装置、このワイヤ把持装置を用いてワイヤ引き出すワイヤ引き出し方法、およびこのワイヤ引き出し方法によって製造されたワイヤハーネスを有する物品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ブッシュに通したワイヤをさらに引き出す場合、ワイヤの先端側をコレットチャック(例えば、特許文献1参照)で把持してブッシュを引っ張るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−189447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、複数のワイヤを同時に把持する場合、複数のコレットチャックが必要であるが、隣接するワイヤ間のピッチがコレットチャックの外径よりも小さい場合は、複数のワイヤを同時に把持することは困難である。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、隣接するワイヤ間のピッチが小さい場合でもそれらのワイヤを同時に把持可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、ワイヤ(93)が挿入される貫通した第1ワイヤ穴(14)を複数有する第1部材(1)と、第1ワイヤ穴(14)から突出したワイヤ(93)の先端側が挿入される第2ワイヤ穴(21)を複数有する第2部材(2)と、第1部材(1)と第2部材(2)とを相対的に回転させる駆動手段(3)とを備え、第1部材(1)と第2部材(2)は、第1ワイヤ穴(14)の一端側開口部と第2ワイヤ穴(21)の一端側開口部とが対向する状態に配置され、駆動手段(3)にて第1部材(1)と第2部材(2)とを相対的に回転させて、第1ワイヤ穴(14)の一端側開口部と第2ワイヤ穴(21)の一端側開口部の重合範囲を狭めることにより、ワイヤ(93)を第1ワイヤ穴(14)の開口縁部と第2ワイヤ穴(21)の開口縁部により把持することを特徴とする。
【0007】
これによると、隣接するワイヤ間のピッチが小さい場合でもそれらのワイヤを同時に把持することができる。そして、この装置を用いることにより、複数のワイヤを同時に引き出す作業を効率よく行うことができる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のワイヤ把持装置において、駆動手段(3)により回転される部材と当接してその部材の最大回転位置を規制するストッパ(6)を備えることを特徴とする。
【0009】
これによると、第1ワイヤ穴の開口縁部と第2ワイヤ穴の開口縁部においてワイヤが過度に捻られることを防止することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載のワイヤ把持装置において、駆動手段(3)は、一定のトルクにて第1部材(1)および第2部材(2)のうち一方を回転させることを特徴とする。
【0011】
これによると、ワイヤの把持力を略一定にすることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明のように、請求項1ないし3のいずれか1つに記載のワイヤ把持装置において、駆動手段(3)により第2部材(2)を回転させることができる。
【0013】
請求項5に記載の発明では、保持部材(92)に形成された複数の貫通孔にそれぞれワイヤ(93)が挿入されたワーク(9)と、保持部材(92)から突出したワイヤ(93)が挿入される貫通した第1ワイヤ穴(14)を複数有する第1部材(1)と、第1ワイヤ穴(14)から突出したワイヤ(93)の先端側が挿入される第2ワイヤ穴(21)を複数有する第2部材(2)と、第1部材(1)と第2部材(2)とを相対的に回転させる駆動手段(3)とを用意し、第1部材(1)と第2部材(2)を、第1ワイヤ穴(14)の一端側開口部と第2ワイヤ穴(21)の一端側開口部とが対向する状態に配置し、ワイヤ(93)を第1ワイヤ穴(14)および第2ワイヤ穴(21)に挿入するワイヤ挿入工程と、ワイヤ挿入工程の後に、駆動手段(3)にて第1部材(1)と第2部材(2)とを相対的に回転させて、第1ワイヤ穴(14)の一端側開口部と第2ワイヤ穴(21)の一端側開口部の重合範囲を狭めることにより、ワイヤ(93)を第1ワイヤ穴(14)の開口縁部と第2ワイヤ穴(21)の開口縁部により把持するワイヤ把持工程と、ワイヤ把持工程の後に、保持部材(92)と第1部材(1)とを相対的に遠ざける向きに移動させる保持部材移動工程とを有することを特徴とする。
【0014】
これによると、複数のワイヤ93を保持部材92から同時に引き出すことができるため、その作業を効率よく行うことができる。
【0015】
請求項6に記載の発明では、ワイヤハーネスを有する物品の製造方法であって、請求項5に記載のワイヤ引き出し方法によってワイヤハーネスを製造することを特徴とする。
【0016】
これによると、複数のワイヤ93を保持部材92から同時に引き出すことができるため、その作業を効率よく行うことができ、ひいては、ワイヤハーネスを有する物品の製造を効率よく行うことができる。
【0017】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るワイヤ把持装置を一部断面で示す正面図である。
【
図2】(a)は
図1の第1スリーブの要部を拡大して示す正面図、(b)は(a)の右側面図である。
【
図3】(a)は
図1の第2スリーブの要部を拡大して示す正面図、(b)は(a)の右側面図である。
【
図6】
図1のワイヤ把持装置にワークを装着した状態を示す正面断面図である。
【
図7】
図1の第1スリーブおよび第2スリーブが相対回転した状態を示す右側面図である。
【
図8】
図1のワイヤ把持装置からワークを引き出した状態を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態について説明する。
【0020】
図1に示すように、ワイヤ把持装置は、有底円筒状の第1スリーブ1と、第1スリーブ1に対して相対回転可能な円柱状の第2スリーブ2と、第1スリーブ1と第2スリーブ2とを相対的に回転させる駆動手段3を、主要構成要素として備えている。なお、第1スリーブ1は本発明の第1部材に相当し、第2スリーブ2は本発明の第2部材に相当する。
【0021】
図1、
図2に示すように、第1スリーブ1には、一端面から他端側の底部11まで軸方向に沿って延びる第1スリーブ穴12が形成されている。第1スリーブ1における一端側の外周部には円板状のフランジ部13が形成され、第1スリーブ1の底部11には、後述するワイヤが挿入される貫通した第1ワイヤ穴14が複数(本例では4個)形成されている。より詳細には、第1ワイヤ穴14は、縦横各2列に、等ピッチで配置されている。
【0022】
図1、
図3に示すように、第2スリーブ2には、ワイヤの先端側が挿入される第2ワイヤ穴21が複数(本例では4個)形成されている。より詳細には、第2ワイヤ穴21は、一端面から所定長さだけ軸方向に沿って延びており、縦横各2列に、第1ワイヤ穴14と同ピッチで配置されている。そして、第1スリーブ1と第2スリーブ2は、第1ワイヤ穴14の一端側開口部と第2ワイヤ穴21の一端側開口部とが対向する状態に配置されている。
【0023】
図1に示すように、水平に置かれた板状のベース4の上面に、駆動手段3が固定され、また、板状のホルダ5が鉛直方向に延びるようにして固定されている。ホルダ5の貫通孔には、軸受け51が圧入されている。
【0024】
第1スリーブ1は、軸受け51と同軸状に配置されてホルダ5に固定されている。より詳細には、第1スリーブ1のフランジ部13がホルダ5における反駆動手段側の面に当接し、フランジ部13がホルダ5にネジ止めされている。
【0025】
図1、
図4に示すように、第2スリーブ2は、中間部が軸受け51に回転自在に保持され、一端側が第1スリーブ穴12に回転自在に挿入され、他端側が駆動手段3内に回転自在に挿入されている。第2スリーブ2において、軸受け51と駆動手段3との間に位置する部位の外周部には、第2スリーブ2の一部である突起片22がネジ止めされている。
【0026】
ベース4には、ボルトよりなるストッパ6が螺合されている。このストッパ6の頭部は突起片22の回転軌道内に位置しており、第2スリーブ2が所定位置まで回転した際に突起片22が当接して第2スリーブ2の最大回転位置が規制されるようになっている。
【0027】
駆動手段3は、空気圧で作動するエアシリンダを用いて、第2スリーブ2を回転させるようになっている。より詳細には、エアシリンダに供給される圧縮空気は所定圧に調整され、したがって、駆動手段3は一定のトルクにて第2スリーブ2を回転させる。
【0028】
なお、第2スリーブ2が原位置にあるときには、第1ワイヤ穴14と第2ワイヤ穴21は同軸状になっている。
【0029】
図5に示すように、ワーク9は、有底円筒状のカバー91内に、保持部材としてのゴム製の円柱状のブッシュ92が挿入固定され、カバー91に形成された1個の貫通穴およびブッシュ92に形成された4個の貫通穴に4本のワイヤ93が通されている。ブッシュ92に形成された貫通穴は、縦横各2列に、第1ワイヤ穴14と同ピッチで配置されている。ワイヤ93は、電気良導体の金属よりなる芯線を、電気絶縁性に富む樹脂よりなる被覆層にて覆ったものである。
【0030】
なお、ワイヤ把持装置を用いてワイヤ93を引き出す前の時点では、
図5に示すように、ワイヤ93の先端はブッシュ92から突出してカバー91内に位置している。
【0031】
また、ワーク9は、例えば物理量を検出するセンサのワイヤハーネスとして用いられ、物理量に応じた信号を出力する検出部に電気的に接続される。
【0032】
次に、ワイヤ把持装置を用いてワイヤ93を引き出す手順について説明する。
【0033】
まず、ワイヤ挿入工程では、
図6に示すように、第1ワイヤ穴14の一端側開口部と第2ワイヤ穴21の一端側開口部とが対向する状態において、カバー91を第1スリーブ1に被せる。そして、ワイヤ93の先端を、第1ワイヤ穴14に通した後、第2ワイヤ穴21に挿入する。
【0034】
続いて、ワイヤ把持工程では、駆動手段3のエアシリンダに圧縮空気を供給して第2スリーブ2を回転させる。これにより、
図7に示すように、第1ワイヤ穴14と第2ワイヤ穴21のスリーブ周方向相対位置がずれて、スリーブ軸方向に沿って見たときの第1ワイヤ穴14と第2ワイヤ穴21の重合範囲が狭められる。この結果、第1ワイヤ穴14の開口縁部と第2ワイヤ穴21の開口縁部によりワイヤ93が捻られ、第1スリーブ1と第2スリーブ2によりワイヤ93が把持される。
【0035】
この際、第2スリーブ2の回転に伴ってワイヤ93の剪断応力が増加し、通常は、突起片22がストッパ6に当接する前の位置で第2スリーブ2の回転が停止する。なお、第2スリーブ2が過度に回転しようとした場合には、突起片22がストッパ6に当接して第2スリーブ2の最大回転位置が規制される。したがって、ワイヤ93が過度に捻られて、芯線が切れたり或いは被覆層が傷ついたりすることを、防止することができる。
【0036】
続いて、保持部材移動工程では、
図8に示すように、第1スリーブ1と第2スリーブ2によりワイヤ93が把持された状態で、ワイヤ把持装置をワーク9から遠ざかる向きに(すなわち、
図8の紙面左側に向かって)移動させることにより、ワイヤ93の先端がカバー91から突出する位置まで引き出される。
【0037】
なお、この保持部材移動工程では、第1スリーブ1と第2スリーブ2によりワイヤ93が把持された状態で、カバー91およびブッシュ92を第1スリーブ1から遠ざかる向きに(すなわち、
図8の紙面右側に向かって)移動させてもよい。
【0038】
続いて、駆動手段3のエアシリンダから圧縮空気を排出して第2スリーブ2を原位置に戻し、ワイヤ93を第1ワイヤ穴14および第2ワイヤ穴21から引き抜く。
【0039】
この後、ワイヤ93にコネクタ端子を接合する工程に移行する。そして、ワイヤ93に接合されたコネクタ端子は、図示しないセンサのコネクタ端子等を介して検出部に接続される。
【0040】
本実施形態によると、第1ワイヤ穴14間のピッチや第2ワイヤ穴21間のピッチは、ワイヤ93間のピッチと等しくすることができるため、ワイヤ93間のピッチが小さい場合でもそれらのワイヤ93を同時に把持することができる。そして、本実施形態に係るワイヤ把持装置を用いることにより、複数のワイヤ93をカバー91や保持部材92から同時に引き出す作業を効率よく行うことができる。
【0041】
なお、上記実施形態では、駆動手段3により第2スリーブ2を回転させるようにしたが、駆動手段3により第1スリーブ1を回転させて、第1スリーブ1と第2スリーブ2とを相対回転させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 第1スリーブ(第1部材)
2 第2スリーブ(第2部材)
3 駆動手段
14 第1ワイヤ穴
21 第2ワイヤ穴
93 ワイヤ