【実施例】
【0032】
厚さ15μmのアルミ箔の両面に、活物質合剤を塗布、乾燥して帯状の金属箔16の両面に活物質層13aが形成されたロールプレスを受ける前の電極中間体を準備した。この状態では活物質層13aの厚さは115μm程度であった。次に帯状の電極中間体にロールプレスを2回行った。1回目のロールプレスは、プレスロール23,24の線圧力を6.25kN/cmで行い、2回目のロールプレスは、プレスロール23,24の線圧力を12.5kN/cmで行った。2回目のロールプレスの際のプレスロール23,24の線圧力は、従来のロールプレスを1回行う製造方法と同じ条件である。
【0033】
1回目のロールプレスの際のプレスロール23,24間のギャップGは180μmで、2回目のロールプレスの際のプレスロール23,24間のギャップGは130μmで行った。得られた帯状の正極13の断面の電子顕微鏡像を用い、活物質22の存在比率(活物質比率)を2値化法で求めた。結果を表1に示す。
【0034】
なお、1回目のロールプレスで得られた正極13の活物質層13aの厚さと、2回目のロールプレスで得られた正極13の厚さを測定したところ、両者の値は殆ど変わらなかった。また、1回目のロールプレスで得られた正極13の断面の電子顕微鏡像を観察したところ、活物質層13aの表面寄り、即ち金属箔16から遠い側の領域における活物質22の存在割合が多くなっており、全体としては2回目のロールプレスを受けた後の正極13とほぼ同様状態であった。この理由は、電極中間体の加圧を、加圧板を正極13の厚さ方向へ移動させて行うのではなく、ロールプレスで行うことにより、金属箔16から遠い側、即ちプレスロール23,24に接する側に圧力が多く加わるためと考えられる。
【0035】
また、1回目のロールプレスを受けた正極13の表面と、2回目のロールプレスを受けた正極13の表面を観察したところ、2回目のロールプレスを受けた場合の方が、表面が光っていた。これは、2回目のロールプレスを受けることにより、金属箔16から遠い側の活物質層13aがさらに圧力を多く受けて、活物質層13a中の活物質22の割合が高くなったためと思われる。
【0036】
また、得られた帯状の正極13と、従来と同様に構成された帯状の負極14を所定の大きさに切断して、セパレータ15と共に積層型の電極組立体12を構成し、その電極組立体12を用いて二次電池10を構成した。そして、二次電池10の容量と出力とを測定した。出力は、10秒間の値を測定した。容量及び出力の測定結果から容量比及び出力比を求めた。容量比は、1回目の試験の測定容量に対する割合で求めた。出力比は、1回目の試験の測定出力に対する割合で求めた。測定試験は同じ条件で2回行った。2回の試験結果を表1に示す。
(比較例1)
【0037】
比較例1として、実施例と同じ条件で活物質層13aが形成された電極中間体を準備し、ロールプレスを実施例の2回目のロールプレスと同じ条件で、即ちプレスロール23,24の線圧力を12.5kN/cmで1回行った。比較例1は通常の製造方法に相当する。得られた帯状の正極13の断面の電子顕微鏡像を用い、活物質22の存在比率(活物質比率)を2値化法で求めた。結果を表1に示す。
【0038】
また、得られた帯状の正極13と、従来と同様に構成された帯状の負極14を所定の大きさに切断して、セパレータ15と共に積層型の電極組立体12を構成し、その電極組立体12を用いて二次電池10を構成した。そして、二次電池10の容量と出力とを実施例と同様にして測定し、容量比及び出力比を求めた。容量比は、実施例における1回目の試験の測定容量に対する割合で求め、出力比は実施例における1回目の試験の測定出力に対する割合で求めた。測定試験は同じ条件で2回行った。2回の試験結果を表1に示す。
(比較例2)
【0039】
比較例2として、実施例と同じ条件で活物質層13aが形成された電極中間体を準備し、ロールプレスを実施例の2回目のロールプレスと同じ条件で、即ちプレスロール23,24の線圧力を12.5kN/cmで2回行った。得られた帯状の正極13の断面の電子顕微鏡像を用い、活物質22の存在比率(活物質比率)を2値化法で求めた。結果を表1に示す。
【0040】
また、得られた帯状の正極13と、従来と同様に構成された帯状の負極14を所定の大きさに切断して、セパレータ15と共に積層型の電極組立体12を構成し、その電極組立体12を用いて二次電池10を構成した。そして、二次電池10の容量と出力とを実施例と同様にして測定し、容量比及び出力比を求めた。容量比は、実施例における1回目の試験の測定容量に対する割合で求め、出力比は実施例における1回目の試験の測定出力に対する割合で求めた。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
表1から活物質比率及び容量比では、同じ条件で試験を行ってもバラツキが1%程度あり、出力比では1〜3%程度あることが分かる。
【0042】
表1から、比較例1及び比較例2では活物質比率が1.01及び1.02であり、活物質層13aの厚さ方向の中央より金属箔16から遠い側における活物質層13aと、中央より金属箔16に近い側における活物質層13aとで活物質22の存在比率が変わらないことが分かる。一方、実施例では、活物質比率が0.91及び0.92であり、活物質層13aの厚さ方向の中央より金属箔16に近い側における活物質22の存在割合が、中央より金属箔16に近い側における活物質22の存在割合に比べて91〜92%程度と少ないことが分かる。したがって、通常の加圧力でロールプレスを2回行っても、活物質層13aの厚さ方向の中央より金属箔16から遠い側における活物質層13a中の活物質22の存在割合を大きくすることはできず、1回目のロールプレスを2回目のロールプレスより低い加圧力で行う必要があることが確認される。
【0043】
表1から、二次電池の容量比は、実施例、比較例1及び比較例2ともバラツキの範囲で一致している。したがって、活物質層13aの厚さ方向の中央より金属箔16から遠い側における活物質層13aと、中央より金属箔16に近い側における活物質層13aとで活物質22の存在比率が10%程度変化しても、二次電池の容量は変わらないことが分かる。
【0044】
表1から、二次電池の出力比を比較例1と実施例とで比較すると、2回の平均値が実施例では0.985に対して、比較例1では0.795であり、実施例では比較例1に対して、{(0.985−0.975)/0.975}×100=24%となり、24%出力が大きくなっていることが確認された。
【0045】
一方、比較例2では、出力比の2回の平均値が0.69であり、比較例1と比べると、{(0.795−0.69)/0.795}×100=13.2%となり、13%程度出力が低下していることが確認された。即ち、従来と同様の加圧力でロールプレスを2回行っても、二次電池の容量は変わらず、出力が低下することが確認された。この理由としては、活物質22の全体量は変わらないが、2回のロールプレスにより、活物質層13aの空隙がつぶれ、電解液の浸透が悪くなったためと考えられる。
【0046】
次に前記のように構成された二次電池10の作用を説明する。
二次電池10は、単体でも使用されるが、一般には複数の二次電池10が直列あるいは並列に接続されて構成された組電池として使用される。そして、二次電池10は種々の用途に使用されるが、例えば、車両に搭載されて走行用モータの電源や他の電気機器の電源としても使用される。
【0047】
二次電池10の出力特定について検討すると、活物質層13aにおいて金属箔16に近い側の活物質層の密度が低く、即ち活物質の体積量が少ないため、その領域では活物質層13aに入る電解液の量が多くなる。そのため、金属箔16に近い側では活物質層13a内に電解液を保持し易く、放電反応が円滑に進行し、かつ金属箔16に近いため、放電反応で発生した電気は金属箔16に流れ易くなるため、放電反応が短時間で進行し易くなり、出力が高くなると考えられる。
【0048】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)二次電池10は、金属箔16の少なくとも片面に非有機ラジカル化合物からなる活物質が塗布された活物質層13a,14aを有する正極13及び負極14が間にセパレータ15が存在する状態で積層された電極組立体12を備えている。そして、正極13及び負極14の少なくとも一方の電極(この実施形態では正極13)は、活物質層13aにおける厚さ方向の中央より金属箔16から遠い側における活物質22の体積量が、中央より金属箔16に近い側における活物質22の体積量より多く、遠い側における活物質22の体積量に対する近い側における活物質22の体積量の割合が95%以下である。そのため、活物質全体の量が同じで、活物質22の体積量がほぼ一定に構成された電極を備えた場合と、容量は変わらずに出力が高くなる。したがって、活物質として有機ラジカル化合物を使用せずに、従来の非有機ラジカル化合物を活物質とする電極を備えた場合に、出力特性を二次電池の体格を大きくせずに、従来より負荷が大きな場合に対応することができる。そのため、車両の電源として好ましい。
【0049】
(2)活物質層13aは、活物質22の体積量が多い領域と、活物質22の体積量が少ない領域とが同一層内に形成されている。活物質層13aの厚さ方向の中央より金属箔16から遠い側で活物質22の体積量が多い領域と、中央より金属箔16に近い側で活物質22の体積量が少ない領域とを構成する2つの領域が一層ではなく二層で形成される活物質層13aは、活物質22の体積量が異なる活物質合剤を金属箔16に2回に分けて塗布することにより形成された活物質層13aをロールプレスすることで形成される。一方、この実施形態では、活物質22の体積量が多い領域と、活物質22の体積量が少ない領域とを構成する2つの領域が同一層内に形成されているため、活物質22の体積量が異なる2種類の活物質合剤を調整せずに、1種類の活物質合剤を金属箔16に1回塗布した後、後工程で対応することができる。
【0050】
(3)活物質層13aの厚さ方向における活物質22の体積量が異なる電極は、活物質22がリチウム化合物からなる正極13である。したがって、リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタの様な蓄電装置において前述の(1),(2)の効果が得られる。
【0051】
(4)正極13の製造方法は、金属箔16の少なくとも片面に、活物質22を有するスラリー状又はペースト状の活物質合剤を塗布する塗布工程と、塗布工程で塗布された後、活物質合剤が乾燥されて活物質層13aが形成された金属箔16をロールプレスするプレス工程とを有する。プレス工程では、ロールプレスを2回行い、1回目のロールプレスの際のプレスロール23,24間のギャップGを、2回目のロールプレスの際のプレスロール23,24間のギャップGより大きくし、かつ1回目のロールプレスを2回目の2回目のロールプレスより低い加圧力で行う。したがって、この製造方法では、従来の設備を使用して、プレス工程におけるロールプレスを2回行うことにより目的の電極を製造することができ、既存の装置で実施することができる。
【0052】
(5)プレス工程において、プレスロール23,24の線圧力は、2回目のロールプレスの際が10〜15kN/cmであり、1回目のロールプレスの際は、2回目のロールプレスの際の半分の値である。したがって、目的の性能を有する正極13を容易に製造することができる。
【0053】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 二次電池10は、正極13及び負極14の両電極の少なくとも一方の電極が、活物質層13a,14aの厚さ方向における活物質22の体積量が、金属箔16に近い側より金属箔16から遠い側の方が多い構成であればよい。したがって、正極13ではなく、負極14において、活物質層14aの厚さ方向における活物質22の体積量が、金属箔16に近い側より金属箔16から遠い側の方が多い構成としてもよい。この場合も、正極13及び負極14とも活物質の体積量が金属箔16に近い側及び金属箔16から遠い側で同等な場合に比べて、出力特性が向上する。また、正極13及び負極14の両電極において、活物質層13a,14aの厚さ方向における活物質22の体積量が、金属箔16に近い側より金属箔16から遠い側の方が多い構成としてもよい。この場合、出力特性がより向上する。なお、活物質層13a,14aの厚さ方向における活物質22の体積量が、金属箔16に近い側より金属箔16から遠い側の方が多い構成は、活物質層13a,14aの密度が活物質層13a,14aの厚さ方向における金属箔16に近い側より金属箔16から遠い側の方が高くなる。
【0054】
○ 電極の製造方法におけるプレス工程では、ロールプレスは複数回行えばよく、2回に限らず3回以上行ってもよい。ロールプレスを3回以上行う場合は、1回目のロールプレスの際のプレスロール23,24間のギャップを、最後の回のロールプレスの際のプレスロール23,24間のギャップより大きく設定し、かつ1回目のロールプレスを2回目以降のロールプレスより低い加圧力で行う。但し、1回目のロールプレスは、ロールプレスを2回行う場合の1回目のロールプレスより低い加圧力で行う。
【0055】
○ ロールプレスを2回行う製造方法の場合、1回目のロールプレスの際の加圧力は、2回目のロールプレスの際の加圧力の半分に限らない。例えば、2回目のロールプレスの際の加圧力の45〜55%の大きさで行ってもよい。
【0056】
○ プレス工程におけるプレスロール23,24の線圧力は、プレス前の電極中間体の活物質層13a,14aの厚さや密度によっても適正な値が変わる。そのため、プレス前の電極中間体の活物質層13a,14aの厚さや密度によっては、2回目のロールプレスの際のプレスロール23,24の線圧力を10〜15kN/cmより小さくしたり大きくしたりしてもよい。
【0057】
○ プレス工程で使用されるロールプレス装置として、プレスロール23,24を2組装備した構成の装置を使用し、1回目のロールプレスに引き続き、2回目のロールプレスを行うようにしてもよい。この場合、1回目のロールプレスを受けた電極をいったん巻き取りロールに巻き取った後、巻き取った電極を巻き取りロールから繰り出して2回目のロールプレスを行う場合に比べて、ロールプレスを効率良く行うことができる。
【0058】
○ 電極の製造方法は、塗布工程で金属箔16に活物質合剤が一層塗布されて形成された活物質層に対して、プレス工程で複数回のロールプレスを行うことで製造する方法に限らない。例えば、活物質の含有量が異なる2種類の活物質合剤を準備し、塗布工程では先ず金属箔16に活物質の含有量が少ない活物質合剤を塗布して第1の活物質層を形成し、その後、第1の活物質層上に活物質の含有量が多い活物質合剤を塗布して第2の活物質層を形成した電極中間体にロールプレスを行うことで製造してもよい。しかし、活物質合剤を1回塗布して形成した活物質層を有する電極中間体に複数回(好ましくは2回)のロールプレスを行う製造方法の方が、工数が少なくなる。
【0059】
○ 電極、即ち正極13及び負極14は、金属箔16の少なくとも片面に非有機ラジカル化合物からなる活物質層13a,14aを有していればよく、両面ではなく片面に活物質層13a,14a有する構成であってもよい。
【0060】
○ 積層型の電極組立体12において、正極13及び負極14の間にセパレータ15が存在する構成として、シート状のセパレータ15を使用せずに、例えば、正極13及び負極14の一方を袋状のセパレータに収容して、そのセパレータと袋状のセパレータに収容されていない電極とを交互に積層してもよい。
【0061】
○ 二次電池10は電解液が必須ではなく、例えば、セパレータ15が高分子電解質で形成されていてもよい。
○ 積層型の電極組立体12に限らず、巻回型の電極組立体12を備えた二次電池10に適用してもよい。
【0062】
○ 二次電池10は、リチウムイオン二次電池に限らず、ニッケル水素二次電池やニッケルカドミウム二次電池等の他の二次電池であってもよい。
○ 蓄電装置は、二次電池10に限らず、例えば、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等のようなキャパシタであってもよい。