(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一端に熱可塑性樹脂フィルムからなる走行フィルムの入口を、他端に該走行フィルムの出口を有し、前記入口から前記出口に亘り形成される前記走行フィルムのフィルム通過面の上面と下面に対向して、前記走行フィルムに加温されたエアを吹き付ける複数のエア吹き付けノズルが設けられ、該エア吹き付けノズルの前記フィルム通過面に対向するエア吹き出し面に、前記加温されたエアを吹き出すエア吹き出し開口が設けられ、前記入口と出口の間に前記走行フィルムをその幅方向に延伸する延伸ゾーンを有するテンターオーブンにおいて、前記複数のエア吹き付けノズルの内の少なくとも一つのエア吹き付けノズルが、前記エア吹き出し面に設けられた前記エア吹き出し開口が前記走行フィルムの幅方向に延びるスリットで形成され、前記エア吹き出し面と前記フィルム通過面との間の距離Lと前記スリットの前記走行フィルムの走行方向におけるスリット幅Bが、式:(L/B)≦10の関係を満足し、かつ、前記距離Lが150mm以下である近接ノズルであるテンターオーブンであって、前記近接ノズルの少なくとも一つが、筐体からなり、該筐体は、その内部に、供給源から供給される前記加温されたエアの流路を有すると共に、その一面に、前記エア吹き出し面を有し、かつ、該筐体が、固定筐体と該固定筐体の両端部に、該固定筐体に対し前記走行フィルムの幅方向に移動可能な可動筐体を有することを特徴とするテンターオーブン。
複数の前記近接ノズルの内の少なくとも一つが、前記フィルム通過面の上面に対向して設けられ、かつ、他の少なくとも一つが、前記フィルム通過面の下面に対向して設けられている請求項1に記載のテンターオーブン。
前記フィルム通過面の上面に対向して設けられた前記近接ノズルと前記フィルム通過面の下面に対向して設けられた前記近接ノズルの少なくとも一組において、それぞれの前記エア吹き出し面が、前記フィルム通過面を介して、互いに対向している請求項2に記載のテンターオーブン。
前記近接ノズルの前記スリットから前記フイルム通過面に向い吹き出されるエアの流れ方向の前記フィルム通過面となすエア吹き付け角度が、85乃至95度である請求項1乃至3のいずれかに記載のテンターオーブン。
前記延伸ゾーンの前記入口の側に、前記走行フィルムを予熱する予熱ゾーンが設けられ、該予熱ゾーンの少なくとも一部に、前記近接ノズルが設けられている請求項1乃至4のいずれかに記載のテンターオーブン。
前記テンターオーブン内に、前記走行フィルムの両端部を把持する多数のクリップを前記入口から前記出口に向かい移動させる左右のクリップ移動装置、該左右のクリップ移動装置を案内し、かつ、前記走行フィルムの幅方向に間隔が変更可能に設けられた左右のレールと該左右のレールをカバーする左右のレールカバーを有し、前記それぞれの可動筐体がそれぞれに近い側のレールカバーに、連結部材を介して、前記左右のレールカバーにそれぞれ連結され、該それぞれの連結部材により、前記左右のレールの間隔の変更に応じて、前記可動筐体が前記走行フィルムの幅方向に移動可能とされている請求項1乃至5のいずれかに記載のテンターオーブン。
前記近接ノズルの少なくとも一つが、前記スリットの片側あるいは両側に沿って設けられた前記走行フィルムの前記近接ノズルの先端への接触を防止する保護カバーを有する請求項1乃至6のいずれかに記載のテンターオーブン。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明のテンターオーブンのいくつかの実施態様について、図面を参照しながら説明する。
【0038】
図1は、本発明のテンターオーブンの一態様の縦断面概略図である。
図2は、
図1に示すA1−A1矢視方向の平面概略図である。
図1において、テンターオーブンTO1は、一端に熱可塑性樹脂フィルムからなる走行フィルムの入口6を、他端に走行フィルムの出口7を有し、入口6から出口7に亘り形成される走行フィルムのフィルム通過面5を有する。
【0039】
フィルム通過面5の上面側に、入口6から出口7に向かい、すなわち、フィルムの走行方向に、間隔をおいて、5個の上側エア吹き付けノズルNUn(n=1乃至5)が設けられている。各エア吹き付けノズルNUnのエア吹き出し面8は、フィルム通過面5に対し間隔をおいて、フィルム通過面5に対向している。
【0040】
フィルム通過面5の下面側にも、入口6から出口7に向かい、すなわち、フィルムの走行方向に、間隔をおいて、5個の下側エア吹き付けノズルNLn(n=1乃至5)が設けられている。各エア吹き付けノズルNLnのエア吹き出し面8は、フィルム通過面5に対し間隔をおいて、フィルム通過面5に対向している。
【0041】
通常、エア吹き付けノズルは、筐体で形成され、その内部に、供給源から供給される加温されたエアの流路を有すると共に、その一面に、筐体の長手方向(走行フィルムの幅方向)に沿って、前記エア吹き出し面8を有する。
【0042】
エア吹き付けノズルNUn、NLnのエア吹き出し面8には、加温されたエアを吹き出すエア吹き出し開口8aが設けられている。各エア吹き出し開口8aは、スリットで形成されている。以下において、スリット8aで形成されているエア吹き出し開口を有するエア吹き出しノズルを、スリットノズルと呼称する。
【0043】
テンターオーブンTO1の内部は、フィルムの入口6からフィルムの出口7に亘って、すなわち、フィルムの走行方向に、フィルムの処理目的が異なる複数のゾーンに区分されていることが好ましい。
【0044】
テンターオーブンにおけるフィルムの処理目的が異なるゾーンとは、フィルムの予熱、延伸、熱処理、あるいは、冷却などを行うフィルムの処理工程に対応したゾーンのことであり、各工程は、一般に、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱処理ゾーン、冷却ゾーンなどと呼ばれる。テンターオーブンが複数のゾーンに区分されている場合、入口6に最も近い側に位置するゾーンが予熱ゾーンであることが好ましい。
【0045】
各ゾーンは、各ゾーンを区切る仕切りがない一つの処理室内に形成されることもあるが、一般には、走行フィルムの入口6から走行フィルムの出口7に亘って、すなわち、フィルムの走行方向に、複数の処理室に区画され、処理室毎に温度の設定を変更できるように構成される。テンターオーブンにおける処理室とは、走行フィルムを通すために設けられた開口部、ならびに、必要に応じて設けられている加温されたエアの供給および排出のために設けられた開口部以外が壁で仕切られた空間のことである。
【0046】
スリットノズルNUn、NLnとは、熱風(加温されたエア)を吹き出し、フィルムを加熱するためのノズルである。フィルムは、処理室内を入口6から出口7に向かって走行しながら、スリットノズルNUn、NLnから吹き出される加温されたエアによって、それぞれの処理目的に応じて、加熱または冷却される。フィルムの温度が加温されたエアの温度より高い場合は、加温されたエアによりフィルムは冷却される。
【0047】
スリットノズルNUn、NLnの周囲には、エア吸い込み部2が設けられている。フィルムに当たって跳ね返ってくる温度の低いエアは、エア吸い込み部2で吸引され、テンターオーブンTO1に併設されている熱交換器3に至り、熱交換器3において、設定温度まで再加熱され、循環ファン4によって、スリットノズルNUn、NLnから吹き出される。
【0048】
スリットノズルNUn、NLnから出たエアの流れには、初期風速を維持する領域、すなわち、ポテンシャルコアと、ポテンシャルコアから離れ、周辺の静止エアを巻き込み、流速が低下する領域、すなわち、乱流域が存在する。スリットノズルNUn、NLnのエア吹き出し面8のエア吹き出し開口(スリット)8aから出たエアは、フィルム通過面5に近づくほど、ポテンシャルコアにおけるエアの風速が弱くなり、乱流域が発達する。
【0049】
従って、フィルム通過面5とエア吹き出し面8との距離が長くなればなるほど、随伴気流などの外乱に対して、吹き出しエアの直進性が弱まり、その安定性が失われ、MD流になり易い。よって、スリットノズルNUn、NLnによるフィルムの加熱効率も低下し易い。
【0050】
エア吹き出し面8とは、スリットノズルNUn、NLnにおいてエアが吹き出す面であり、スリットノズルNUn、NLnの先端面を意味する。フィルム通過面5とは、走行するフィルムの表面が通過する面を意味する。
【0051】
MD流の発生を抑制する方法として、吹き付けエアの風速を上げることが容易に考えられる。しかし、エア吹き出し面8からフィルム通過面5までの距離が大きい状態のまま、吹き付けエアの風速を上げたとしても、MD流の発生を根本的に抑制することは困難である。何故なら、上記ポテンシャルコアの長さあるいは強さは、エア吹き出し面8のエア吹き出し開口(スリット)8aの大きさに依存しており、風速を上げるのみでは、吹き付けエアの安定性を確保できないからである。
【0052】
風速を上げることは、エア吹き出し開口(スリット)8aの大きさが一定であれば、吹き付けエアの風量増加を意味し、フィルム面を流れる随伴気流が多くなり、MD流になり易い。更に、風量増加により、テンターオーブンの消費エネルギー(蒸気、電力)も増加する。
【0053】
そこで、MD流の発生を抑制するためには、吹き付けエアのポテンシャルコアの直進性はエア吹き出し面8のスリット8aのフィルムの走行方向における間隙B(スリット幅B)(
図2参照)に影響されるため、エア吹き出し面8からフィルム通過面5までの距離Lとスリット幅Bが、式:(L/B)≦10を満足していることが必要となる。距離Lとスリット幅Bが、式:(L/B)≦5を満足していることが好ましい。距離Lが150mmの場合、スリット幅Bは、15mm以下であることが好ましく、この場合、距離Lとスリット幅Bが、式:(L/B)≦10を満足することが可能である。
【0054】
(L/B)の値の下限は、特に限定されないが、スリット幅Bの値が約15mm以下の場合、メンテナンス性、作業性などを考慮した距離Lの実用範囲が約30mmとなるので、距離Lとスリット幅Bが、式:2≦(L/B)を満足していることが好ましい。
【0055】
スリット幅Bとは、エア吹き出し面8がスリット形状の開口を有する際の、該開口のフィルムの走行方向の長さ(幅)を云う。
【0056】
MD流の発生を更に有効に抑制する方法として、スリットノズルNUn、NLnのエア吹き出し面8からフィルム通過面5までの距離Lを150mm以下とすることが好ましい。
【0057】
エア吹き出し面8からフィルム通過面5までの距離を150mm以下とすることにより、吹き付けエアのポテンシャルコアがフィルム通過面5に近づくため、吹き付けエアがMD流に対して、強力なエアカーテンとして機能する。よって、処理室または処理ゾーン内に設けられているスリットノズルNUn、NLnの少なくとも1つのスリットノズルにおいて、エア吹き出し面8からフィルム通過面5までの距離Lを150mm以下とすることが好ましい。
【0058】
以下において、吹き出し面8からフィルム通過面5までの距離が150mm以下であるスリットノズルNUn、NLnを、近接ノズルNUn、NLnと呼称する。
【0059】
これにより、MD流の抑制だけではなく、吹き付けエアの直進性あるいは安定性が一層改善されることで、近接ノズルNUn、NLnによるフィルムの加熱効率が一層向上する。また、MD流の抑制により、フィルムに発生する温度ムラを一層低減させるとともに、循環エアを各処理室の設定温度まで加熱するのに必要な消費蒸気量を一層削減させることもできる。
【0060】
一方、エア吹き出し面8からフィルム通過面5までの距離Lが150mmを超えると、吹き付けエアの直進性が失われ易く、MD流の抑制効果は低下し、エア吹き付けノズルによるフィルムの加熱効率が低下する。
【0061】
更に、近接ノズルのエア吹き出し面8からフィルム通過面5までの距離Lが、75mm以下であることがより好ましい。これにより、吹き付けエアのポテンシャルコアが直進性を維持したまま、フィルム通過面5に到達することで、MD流の抑制効果やフィルムの加熱効率が向上する。
【0062】
近接ノズルのエア吹き出し面8からフィルム通過面5までの距離Lは、50mm以下であることが更に好ましい。距離Lを50mm以下にすることで、フィルムの加熱効率は、更に向上する。
【0063】
通常、エア吹き出し面からフィルム通過面までの距離は、熱可塑性樹脂フィルムのテンターオーブンにおいては、170mm以上、300mm以下である。この距離を、例えば、170mmから、50mmに近づけると、フィルムの加熱効率は、20乃至30%向上することが判明した。
【0064】
近接ノズルにより、フィルムの加熱効率が向上する分、循環ファンの風量を下げることで、消費電力量を削減することができる。その際、近接ノズルを設置する前と比較して、近接ノズルを適用した場合、フィルムの特性および品質に変化がないことを確認しながら、循環ファンの風量を下げるようにすると良い。
【0065】
走行中のフィルムにたるみがある場合は、吹き付けエアによってフィルムが上下方向にばたつく現象が発生するため、エア吹き出し面8からフィルム通過面5までの距離Lを小さくし過ぎると、走行フィルムが近接ノズルの先端面(エア吹き出し面)に接触して、走行フィルムに破れが発生し易くなる。従って、エア吹き出し面8からフィルム通過面5までの距離Lの下限は、走行フィルムが近接ノズルのエア吹き出し面8に接触しない範囲で設定するのが良い。
【0066】
発明者は、後述の実施例の範囲において、走行フィルムが近接ノズルに接触することなく延伸フィルムが製造できることを確認した。走行フィルムのたるみを小さくするなどの工夫をすれば、距離Lを更に短くすることも可能である。
【0067】
一方、走行フィルムが、テンターオーブン内において、吹き出しエアのアンバランスなどに起因してばたつきを生じた場合の走行フィルムの近接ノズルの先端面(エア吹き出し面)への引っかかりによるフィルムの破れを防止するために、近接ノズルの先端面は、なるべく鋭利な部分がないように加工しておくことが好ましい。
【0068】
また、近接ノズルの先端面を滑らかに加工すると共に、あるいは、その代わりに、近接ノズルの先端面の近傍に、近接ノズルの長手方向(走行フィルムの幅方向)に沿ってフィルム引っかかり防止用の保護カバーを設置しても良い。保護カバーの形状としては、例えば、棒状、板状がある。板状の場合は、隣接する近接ノズルの間に亘り一枚の板を設けても良い。
【0069】
保護カバーが、隣接する近接ノズルの間に亘り一枚の板で形成される場合は、一枚の板には、排出エアが流通可能なエア流通孔が設けられていることが必要となる。これは、隣接する近接ノズルの間に形成されるエア吸い込み部2を通り、テンターオーブンに併設されている熱交換器3へと排出されるエアの流通路を確保するためである。
【0070】
フィルム引っかかり防止用の保護カバーを近接ノズルの先端面の近傍に設置する場合の一例を、
図14aを用いて説明する。
図14aは、本発明のテンターオーブンのエア吹き付けノズルとして用いられる走行フィルムの幅方向のノズルの長さが可変可能な近接ノズルのエア吹き出し開口(スリット)の近傍に、近接ノズルの先端面への走行フィルムの引っかかりを防止するための保護カバーを設置した場合の近接ノズルの一例のフィルムの走行方向における縦断面概略図である。
【0071】
図14aにおいて、近接ノズルNL1、NL2のそれぞれは、走行フィルムの幅方向のノズルの長さが可変可能な近接ノズルである。各近接ノズルNL1、NL2は、固定ノズル部分(固定筐体)14と固定ノズル部分(固定筐体)14に対し摺動可能に伸縮する可動ノズル部分(可動筐体)15からなる。近接ノズルNL1、NL2のエア吹き出し面8の近傍に、近接ノズルの先端面への走行フィルムの引っかかりを防止するための保護カバー42が設けられている。
【0072】
保護カバー42の先端38が、近接ノズルNL1のエア吹き出し面8より、フィルム通過面5側に位置していることが好ましい。また、保護カバー42の先端を折り曲げるなどして、鋭利な部分がないようにするのが良い。保護カバー42の先端38が、近接ノズルNL1のエア吹き出し面8より走行フィルム(フィルム通過面5)に近い位置に位置することにより、走行フィルムが、近接ノズルNL1の先端面に接触することなく、保護カバー42に、必要に応じて、接触するため、近接ノズルの先端面への接触によるフィルムの破れが防止される。
【0073】
エア吹き付けノズルが近接ノズルである場合、ノズルのメンテナンス性や清掃の作業性などを確保するため、フィルム通過面5の上面側に位置する上側近接ノズルNUnのエア吹き出し面8からフィルム通過面5の下面側に位置する下側近接ノズルNLnのエア吹き出し面8までの距離を50mm以上とし、作業スペースを確保するのが良い。すなわち、エア吹き出し面8からフィルム通過面5までの距離Lを、25mm以上にすることが好ましい。
【0074】
近接ノズルを用いる場合、フィルム通過面5に対して、エア吹き出し面8が対向して位置することが好ましい。また、近接ノズルがフィルム通過面5の上側と下側に設けられる場合、それぞれの近接ノズルのエア吹き出し面8が、フィルム通過面5を介して、互いに対向していることが好ましい。
【0075】
もし、近接ノズルを、フィルム通過面5に対して、その上側または下側のみに設置した場合、近接ノズルが設置されてない側において、MD流が流れ易くなり、近接ノズルのMD流抑制効果が低減する。
【0076】
熱可塑性樹脂フィルムは、布帛のような材料とは異なって、上面と下面との間において、エアが透過し難い。フィルムの上面側または下面側のみからエアを吹き付けると、吹き付けエアの風圧によりフィルムが吹き上がり、フィルムのバタツキが大きくなる。これが、フィルム破れなどの原因になる。また、フィルムの両面を均一に加熱、冷却または乾燥することが難しく、フィルムに物性ムラが発生し易い。
【0077】
そのため、フィルムのエアが吹き付けられる面に対向する位置に、フィルムのバタツキを防止するための装置(例えば、押さえロールなど)を設けることが好ましい。しかし、フィルムのバタツキを防止するためには、フィルム通過面5の上面側と下面側において、それぞれ近接ノズルをフィルム通過面5に対向させて設置することが好ましく、上面側の近接ノズルのエア吹き出し面と下面側の近接ノズルのエア吹き出し面とが、互いに対向していることが更に好ましい。
【0078】
エア吹き出し面が対向するとは、上面側の近接ノズルのエア吹き出し面をフィルム通過面5に投影したときの投影面と、下面側の近接ノズルのエア吹き出し面をフィルム通過面5に投影したときの投影面において、双方の投影面が少なくとも一部重なる状態を云う。双方の投影面が完全に重なる状態にあることが、より好ましい。
【0079】
この状態を、近接ノズルの数をn個として、説明すると、次の通りとなる。すなわち、フィルム通過面5の上面側にn個の近接ノズルが設けられ、フィルム通過面5の下面側にもn個の近接ノズルが設けられ、各近接ノズルのエア吹き出し面が、フィルム通過面5に対向して位置していることが好ましく、上面側の近接ノズルのエア吹き出し面と下面側の近接ノズルのエア吹き出し面とが互いに対向していることが、更に好ましい。
【0080】
近接ノズルの数のn個は、nの値が1以上の整数であれば、その上限は特に限定されないが、一般的には、nの値は、300以下の範囲で選択すれば良い。
【0081】
MD流を十分抑制し、フィルムの加熱、冷却または乾燥の能力を確保するため、近接ノズルのスリットから吹き出されるエアの流れ方向とフィルム通過面5とがなすエア吹き付け角度が、垂直であることが好ましい。エア吹き付け角度が垂直とは、近接ノズルのスリットから吹き出されるエアの流れ方向23(
図3b参照)とフィルム通過面5とがなすエア吹き付け角度22が、90±5°の範囲内を意味する。
【0082】
この関係を
図3aと
図3bを用いて説明する。すなわち、
図3bに示す吹き付け角度22が、90°から1°でも外れれば垂直には該当しない、というわけではない。通常、近接ノズルの設置誤差などにより、吹き付け角度22が90°から多少ずれる場合がある。そのため、好ましい吹き付け角度22は、90±5°の範囲となる。吹き付け角度22は、90±2°の範囲であることが、より好ましい。
【0083】
吹き付け角度には、フィルムの走行方向の下流側における角度(
図3bの角度22)とフィルムの走行方向の上流側における角度があるが、ここで云う吹き付け角度は、フィルムの走行方向の下流側における角度(
図3bの角度22)を云う。
【0084】
テンターオーブンにおけるMD流の抑制効果は、吹き付けエアのポテンシャルコアをできるだけフィルム通過面5に近接させることで、MD流に対して強力なエアカーテンを形成することによって得られる。よって、フィルム面での吹き付けエアの風圧が高い状態であることが好ましい。そのため、吹き付けエアをフィルム通過面5に垂直に当てることが好ましい。
【0085】
吹き付け角度22が90±5°から外れると、フィルム通過面5を通過するフィルム面(上面あるいは下面)に対して、吹き付けエアが斜めに当たることになり、吹き付けエアの流れのフィルム面に対する直進性が、フィルム面の随伴気流などの外乱の影響により、失われ、MD流を形成することになる。そのため、フィルム幅方向の物性ムラや、MD流による消費エネルギー増加などの問題が生じる。
【0086】
吹き付け角度22をフィルム通過面5に対し垂直にするために、
図4aに示すように、近接ノズルNUn、NLnのフィルムの走行方向における断面(縦断面)、すなわち、ノズルの長手方向に直角な方向における断面(横断面)24におけるエア流路の形状が、ノズル中心線25に対して、左右対称であることが好ましい。
【0087】
図4bは、
図4aに示す近接ノズルのエア吹き出し開口部Tの拡大横断面概略図である。
図4bに示すノズルのエア吹き出し開口部Tの横断面において、エア吹き出し面8におけるエア吹き出し開口(スリット)8aのスリット間隙(スリット幅)Bとエア吹き出し面8からノズルの底面方向の距離Hが、式:(H/B)≦10を満足する範囲において、ノズルにおける前記エア流路の断面形状が左右対称であることがより好ましい。例えば、スリット間隙Bが10mmの場合、式:H≦100mmを満足する範囲において、ノズルにおける前記エア流路の断面形状が左右対称であることがより好ましい。
【0088】
図5は、
図1に示すテンターオーブンの
図1におけるB−B矢視方向の横断面概略図である。
図6は、
図5に示す近接ノズルが固定筐体と可動筐体からなる場合のテンターオーブンの横断面概略図である。
【0089】
図5に示すテンターオーブンにおいて、フィルム通過面5の上面側および下面側に、近接ノズルNUn、NLnのエア吹き出し面8が、フィルム通過面5に対向して位置する。このテンターオーブンにおいて、その内部に、フィルムの両端部を把持するための多数のクリップ11を入口6から出口7に向かい移動させる左右のクリップ移動装置と、左右のクリップ移動装置を案内し、かつ、走行フィルムの幅方向の間隔が可変可能に設けられた左右のレール12と、左右のレールをカバーする左右のレールカバー13が設けられている。
【0090】
もし、レールカバー13と近接ノズルNUn、NLnとが干渉し、エア吹き出し面8からフィルム通過面5までの距離を150mm以下の範囲に近づけることができない場合、近接ノズルNUn、NLnの走行フィルムの幅方向の長さを、双方のレールカバー13の間の距離より短くし、近接ノズルNUn、NLnが、双方のレールカバー13の間に収容されるようにすれば良い。
【0091】
図6は、フィルム通過面5の上面側および下面側に、近接ノズルNUn、NLnのエア吹き出し面8がフィルム通過面5に対向して位置する場合のテンターオーブンの横断面概略図である。
図6を用いて、双方のレール12の走行フィルムの幅方向における間隔(レール間隔)26が変化することに対応するための近接ノズルの構造の一例を、次に説明する。
【0092】
図6に示す近接ノズルNUn、NLnは、レール間隔26の幅の変化に追従して、走行フィルムの幅方向に、その長さが可変(伸び縮み)可能な近接ノズルである。レール間隔26の幅の変化に追従して、長さが可変な近接ノズルNUn、NLnの一例は、固定ノズル部分14と固定ノズル部分14に対して摺動可能に出入りする可動ノズル部分15とから構成されている。可動ノズル部分は、複数段の可動な部分から形成されていても良い。
【0093】
この場合において、近接ノズルを形成する固定ノズル部分の数、および、可動ノズル部分の数は、レール間隔26の変化幅に応じて選定すれば良い。左右の可動ノズル部分15を左右のレールカバー13のそれぞれに連結することで、レール間隔26の幅変化に追従させることができる。
【0094】
長さがその長手方向(フィルムの幅方向)に可変な近接ノズルにおいて、フィルム引っかかり防止用の保護カバーを設置する場合、保護カバー42(
図14a参照)は、近接ノズルと同様、レール間隙の幅変化に追従しなければならないため、例えば、
図14bに示すように、保護カバー42は、固定カバー部分40と固定カバー部分40に対して摺動可能に出入りする可動カバー部分39とから構成されることが好ましい。可動カバー部分39の端部をレールカバー13に連結することで、レール間隙の幅変化に追従させることができる。
【0095】
保護カバー42が、フィルムの走行方向に隣接する近接ノズルNUn、NLnの間のエア吸い込み部2を横切って設けられる場合には、エア吸い込み部2を流動するエアの流動を妨げないように、保護カバー42に、保護カバーの開口部41を設けることが必要となる。これにより、フィルム面から跳ね返ってくるエアの流路(エア吸い込み部2)が確保される。
【0096】
この保護カバーの開口部41の形状は、
図14bに示す円形の多数の孔に限られることはなく、保護カバー42の強度、製作精度などを考慮して、保護カバーの開口部41の形状、大きさ、配列などを設計すれば良い。
【0097】
走行フィルムの幅方向の長さが可変なノズルのエア吹き出し面のエア吹き出し開口のパターンは、スリットである必要がある。なぜなら、
図13に示すように、多孔板タイプのエア吹き出し面を有するエア吹き付けノズルが用いられ、このエア吹き付けノズルが、固定ノズル部分14と可動ノズル部分15から形成されている場合、エア吹き付けノズルの幅が変更される際、固定ノズル部分14と可動ノズル部分15との出入り箇所に孔がふさがる部分が生じることにより、隣り合う孔間のピッチ35の変化や、実質的な開口面積36の縮小により吹き出しエアの幅方向の分布が不均一になる部分37が存在し、フィルム幅方向の物性ムラを均一にすることが困難となるからである。
【0098】
この問題は、エア吹き出し面のエア吹き出し開口のパターンをスリットにすることで解決される。すなわち、ノズルの長さ(ノズルのフィルムの走行方向に直角な方向の長さ)が変化したとしても、ノズルの長さ方向に設けられているスリット8aのスリット間隙の大きさ(スリット幅)は、ノズルの長さ方向に一定であるため、スリットの開口面積が、固定ノズル部分と可動ノズル部分との出入個所おいて、不均一になることが回避されるからである。これにより、ノズルの長さが変化しても、所望の均一な物性を有する延伸フィルムの製造が実現できる。
【0099】
内部に加温されたエアの流路を有する走行フィルムの幅方向に延びる筐体からなり、この筐体において、この筐体の走行フィルムの幅方向の両端部のそれぞれが、走行フィルムの幅方向に伸縮可能とされた近接ノズルにおいて、可動ノズル部分15とレールカバー13との連結部は、レール12(または、レールカバー13)のフィルム走行方向の移動を吸収でき、かつ、フィルムの走行方向およびフィルムの幅方向に対して自由に回転できる連結部材で形成されていることが好ましい。
【0100】
テンターオーブンは、
図11aに示すように、フィルムを幅方向に伸ばし、フィルムに所定の物性を付与する延伸工程を有する。つまり、左右のレールの間の幅の変更は、製品幅の異なる品種の切り替え時だけではなく、延伸工程において、フィルムにさまざまな延伸倍率を与える場合にも必要となる。例えば、延伸倍率を変化させるため、あるパターンAの状態のレールRPAから、別のパターンBの状態のレールRPBへと、左右のレールの間の幅を変更する場合、パターンAの状態のレールRPAにおけるレールカバー13と可動ノズル部分15の連結部27の位置は、パターンBの状態のレールRPBでは、連結部28の位置に移動する。
【0101】
つまり、双方のレールの間の幅の変更によって、連結部27がフィルムの走行方向(MD方向)に移動すると共に、レールカバー13が近接ノズルに対して相対的に回転する。よって、可動ノズル部分15とレールカバー13が単純に固定されていると、レールカバー13の移動により、近接ノズルが損傷を受ける恐れがある。なお、フィルムの延伸倍率は、要求品質によって、約3乃至7倍の範囲で変化する場合があり、MD方向のレールの移動量も大きくなる場合がある。
【0102】
従って、テンターオーブンのMD方向に複数個の近接ノズルを設ける場合、連結部27、28は、レール幅の変更によるMD方向の移動量30を吸収しながら、連結部27、28がフィルムの走行方向および幅方向に対して自由に回転できる構造とすることが好ましい。単にノズルの長さがフィルムの幅方向に伸縮するだけでは、延伸倍率の変化に追従できない場合があるからである。
【0103】
このための対処策は、例えば、レールカバー13と可動ノズル部分15の連結部27を形成する連結部材に、レール移動量に応じた長穴を設け、この長穴に、ピン機構31(
図11b参照)やリンク機構などを係合させることで実現できる。この連結部材は、例えば、近接ノズルの端部の可動ノズル部分のレール側端部に取り付けられた連結部27に設けられた長穴27aに、レールカバー13に取り付けられたアーム31aの先端部に設けられたピン31bを、移動可能に嵌合させることにより形成される。
【0104】
ただし、可動ノズル部分とレールカバーを連結しなくても、可動ノズル部分に、駆動源を設置することも可能であるが、このときは、レールカバーの動きと同期させるなど、近接ノズルとレールカバーの干渉による損傷を避ける対処策が必要となる。
【0105】
ノズルの長さが可変可能な近接ノズルにおいて、近接ノズルのスリットに、スリット間隙保持用の連結リブ32(
図12参照)を設けることが好ましい。その際、連結リブ32の幅33は2mm以下で、かつ、隣り合う二つのリブ間の距離34が10mm以上であることが好ましい。
【0106】
エア吹き出し面がスリット形状の開口部を有する場合、すなわち、スリットノズル、あるいは、近接ノズルの場合、フィルム幅方向の加熱効率を均一化するために、固定ノズル部分と可動ノズル部分のそれぞれのスリット間隙を一定に保てるような構造のノズルであることが好ましい。これは、
図12に示すように、エア吹き出し面のスリットに、連結リブ32(スリット間隙を保持する補強部材)を、ノズル幅方向において、一定間隔で設けることで実現できる。
【0107】
連結リブ32の存在に起因して、連結リブ32の近傍を通るエアの流れが乱されることで、加熱効率のムラが発生する懸念がある。しかし、発明者の検討によれば、連結リブ32の幅33が2mm以下で、かつ、鉛直方向の連結リブ32の厚みが2mm以下にすることにより、この懸念は、解消される。この範囲を超えると、加熱効率のムラが大きくなり、厚みムラなどフィルムの品質問題を起こす懸念がある。
【0108】
隣り合う二つの連結リブ間の距離34は、少なくとも10mm以上であることが好ましい。距離34を10mm以上にすることで、連結リブ32の近傍を流れるエアの流量減少による影響が小さくなり、フィルムの品質に対する実害はほとんどなくなる。距離34の上限は、ノズルのエア吹き出し面の剛性によるので、特に限定されないが、好ましくは500mm以下で、より好ましくは100mm以下である。
【0109】
連結リブ32の幅33とは、スリットの長手方向における連結リブ32の幅であり、連結リブ32の厚みとは、鉛直方向の寸法のことである。隣り合う二つのリブの距離34とは、隣接するリブの幅の中央位置の間の距離を云う。
【0110】
連結リブ32の形状は、直方体形状もしくは丸棒のような形状でも良い。ただし、連結リブ32の形状、ノズル幅方向のピッチなどは、生産しようとするフィルムのムラの許容レベルに応じて、最適な仕様を検討することが望ましい。
【0111】
ノズルの長さが可変可能な近接ノズルにおいて、可動ノズル部分15の固定ノズル部分14に対する移動個所には、摺動機構が設けられていることが好ましい。
【0112】
可動ノズル部分15は、フィルムの幅方向において、固定ノズル部分14と衝突することなく、両ノズル間に一定の隙間が維持されながら、低い摺動抵抗で移動し、所定のノズル幅に調整できることが好ましい。そのため、可動ノズル部分15に摺動機構を設けることが良く、この摺動機構としては、例えば、可動ノズル部分15に車輪を設け、固定ノズル部分14に、可動ノズル部分15に設けられた車輪が走行するレールを設けた摺動機構が考えられる。
【0113】
なお、摺動機構の種類、構造は、上に例示した車輪式に限るものではなく、リニアガイドによる摺動、潤滑剤を浸透させた金属板間の接触による摺動などさまざまな方法が考えられ、メンテナンス性(潤滑剤の補給、ノズルの修理、点検)、コスト、摺動抵抗、耐熱性などを考慮して、選定すれば良い。
【0114】
入口6から出口7に向かい複数のゾーンに区分されたテンターオーブンにおいて、延伸工程の前のゾーンを予熱ゾーンとした際に、近接ノズルが、少なくとも予熱ゾーンの一部に設けられていることが好ましい。その理由は、次の通りである。
【0115】
図7は、複数のゾーンから構成されるテンターオーブンの一例の縦断面概略図である。
【0116】
図7において、テンターオーブンTO2は、入口6と出口7以外の部分がオーブン外壁21で囲まれている。テンターオーブンTO2の内部は、それに要求される機能に応じて、例えば、予熱ゾーンZPH、延伸ゾーンZD、熱固定ゾーンZHS、冷却ゾーンZCに区分される。各ゾーンには、フィルム通過面の上面と下面に対向して、走行フィルムに加温されてエアを吹き付ける複数のエア吹き付けノズルが設けられている。
【0117】
予熱ゾーンZPHとは、フィルムを延伸する前の工程のゾーンを云う。例えば、熱可塑性樹脂フィルムが、ポリエステルの逐次二軸延伸フィルムであれば、フィルムの結晶化が進行しない温度で、かつ、フィルムを延伸可能な温度まで加熱するゾーンである。
【0118】
テンターオーブンTO2の入口6に最も近い位置にあるゾーンである予熱ゾーンZPHに、MD流が発生することにより、設定温度の異なる温度のエア(例えば、オーブンの外気、延伸ゾーンの循環エアなど)が流れ込むと、吹き付けエアとMD流が混合することで、フィルムの厚みムラや、延伸性不良、または、予熱に入る前のフィルムにコーティングが施されている場合は、コーティングの乾燥ムラなどの問題が起こる。
【0119】
予熱ゾーンZPHで生じたこれらの品質問題は、予熱ゾーンZPH後の延伸ゾーンZD、熱固定ゾーンZHS、冷却ゾーンZCで受ける熱履歴によって、より顕著化する。また、外気の流れ込みにより、循環エアの温度が低下し、熱交換器の消費蒸気量が必要以上に増加する。
【0120】
発明者の検討によれば、テンターオーブンTO2の一部(予熱ゾーン)のみに近接ノズルを設けることによって、テンターオーブンTO2の全ゾーンに近接ノズルを設けた場合の60%以上のエネルギー削減効果が得られる見込みを得た。
【0121】
一方、テンターオーブンTO2の後半のゾーン、例えば、熱固定ゾーンZHSには、オリゴマの堆積物が多く存在し、そこに、ノズルの長さが可変可能な近接ノズル(
図6参照)を適用する場合、ノズルの可動ノズル部分15と固定ノズル部分14との摺動隙間にオリゴマが入り込み、経時的に堆積することで、ノズルが故障する懸念がある。また、この摺動隙間に堆積したオリゴマがフィルム表面に落下した場合、異物欠点となり、要求の品質を得られない懸念もある。
【0122】
以上の理由より、近接ノズルを予熱ゾーンに設けることで、ノズル故障の懸念がなく、MD流の抑制効果や、エネルギー効率の向上効果を大きく発揮することができる。近接ノズルを予熱ゾーンに設ける場合は、予熱ゾーンの全てのエア吹き付けノズルが、近接ノズルであることが、更に好ましい。予熱ゾーンの全ての吹き付けノズルが近接ノズルであることによって、MD流の抑制効果や、エネルギーの削減効果が大きくなる。
【0123】
テンターオーブンの換気によるテンターオーブン内の塵埃を低減させる目的で、室内に給気ダクトと排気ダクトが設けられる場合がある。近接ノズルを使用する場合、MD流の抑制の効果を高めるためには、近接ノズルを設置した室またはゾーンにおいて、給気量合計と排気量合計の比を1とし、バランスさせることが好ましい。なぜなら、給排気量のアンバランスにより、フィルムの走行方向に、エアの流れが生じ、その流れが外乱として作用するためである。よって、予熱ゾーンに近接ノズルを使用する場合で、予熱ゾーンに給気ダクトと排気ダクトがある場合は、予熱ゾーンの給気量合計と排気量合計の比を1とすることが好ましい。
【0124】
近接ノズルを適用する室またはゾーンの入口および出口において、かつ、フィルム通過面の上面および下面から、エア吹き出し面方向(垂直方向)に、20乃至50mm離れたところに、エア流入防止用シャッターを設置すると、近接ノズルとの相乗効果として、MD流の大きな抑制効果が得られる。
【0125】
MD流の抑制効果および消費エネルギーの削減効果を最大限にするには、テンターオーブンの全てのゾーンに、近接ノズルを適用すれば良い。その際、ゾーン全体の給排量と排気量の比を1とすることが好ましい。
【0126】
しかし、テンターオーブンの全てのゾーンに近接ノズルを適用する際、
図6に示すような長手方向(フィルムの走行方向に直角な方向)の長さが調整可能な近接ノズルは、通常の近接ノズルに比べ、その製作費が高く、また、その構造に起因する吹き出しエアの微弱な風速ムラが生じ易い。従って、費用対効果、製造される延伸フィルムの品質への影響などを十分考慮して、長手方向の長さが調整可能な近接ノズルの適用範囲を決めることが好ましい。
【0127】
一般に、熱可塑性樹脂を口金から冷却ドラム上に押し出すことで未延伸フィルムを得て、必要に応じて、この未延伸フィルムをその長手方向(走行方向)に延伸して一軸延伸フィルムとし、得られた一軸延伸フィルムをテンターオーブン中で幅方向に延伸する方法(逐次二軸延伸法)により、二軸延伸した熱可塑性樹脂フィルムを得ることが、あるいは、前記未延伸フィルムをテンターオーブン中で走行方向と幅方向とに同時に延伸する方法(同時二軸延伸法)により、二軸延伸した熱可塑性樹脂フィルムを得ることが、広く行われている。このような製造過程で用いられるテンターオーブンとして、本発明のテンターオーブンが好ましく用いられる。
【0128】
本発明の延伸フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂を口金から冷却ドラム上に押し出して得られる未延伸フィルム、または、既に得られている一軸延伸フィルムを、本発明のテンターオーブンに導入して二軸延伸された延伸フィルムを製造するものである。本発明の延伸フィルムの製造方法により製造される熱可塑性樹脂からなる二軸延伸された延伸フィルムは、その幅方向の特性および厚みが均一である。また、その製造工程におけるフィルムの昇温に必要な消費エネルギーを、従来の場合に比べ、大幅に削減することができる。
【0129】
次に、実施例を用いて本発明を更に説明する。
【実施例1】
【0130】
まず、本発明による効果の評価方法について説明する。
【0131】
(1)MD流の測定手法
本発明のテンターオーブンを構成する室をモデル化したモデルテスト機を作成し、これを用いてMD流を測定した。
図8は、このモデルテスト機の縦断面概略図である。テストを簡便かつ安価に実施するため、熱可塑性樹脂フィルムの代用として、フィルム通過面5の位置に、フィルムの走行方向の長さが2.0m、走行フィルムの幅方向の幅が1.8mの透明なアクリル板17を固定した。
【0132】
モデルテスト機の室の内形寸法は、フィルムの走行方向の長さが1.8m、走行フィルムの幅方向の幅が1.8m、高さが1.5mとした。
【0133】
モデルテスト機の
図8における左側の外壁18には、フィルムの入口6に相当する開口6を設け、右側の外壁18には、フィルムの出口7に相当する開口7を設けた。
【0134】
アクリル板17の下側には、エア吹き付けノズルとして、4個の近接ノズルNLn(n=1乃至4)を、フィルムの走行方向に0.3mピッチ間隙で設置した。近接ノズルNLnのエア吹き出し面8におけるエア吹き出し開口8aは、フィルムの走行方向の幅(間隙)が0.016m、走行フィルムの幅方向の長さが1.2mのスリットとした。
【0135】
エア吹き出し面8は、アクリル板17の下面に平行に位置している。モデルテスト機には、エア吹き出し面8からアクリル板17の下面までの距離Lを調整する機構が設けられている。この距離Lは、近接ノズルNLnのエア吹き出し面8からフィルム通過面5までの距離Lに相当する。
【0136】
なお、モデルテスト機では、熱可塑性樹脂フィルムの代用として、アクリル板17を使用しているため、実際のテンターオーブンで見られるフィルムのバタツキは観察できず、エア吹き出し面8からアクリル板17の下面までの距離は、吹き付けエアの風速、風量、経時変化などに関係なく、設定された距離に維持される。近接ノズルNLnには、入口6(開口6)から出口7(開口7)に向い、順にNo1乃至No4の番号を付した。
【0137】
隣り合う二つの近接ノズルNo1、No2に、1台の循環ファン4(
図8における左側に位置する循環ファン4)を、また、隣り合う二つの近接ノズルNo3、No4に、別の1台の循環ファン4(
図8における右側に位置する循環ファン4)を設け、アクリル板17に当たった吹き付けエアがノズル間を通って循環されるようにした。吹き付けエアの風速が平均約20m/sとなるように、それぞれの循環ファン4の風量を調整した。なお、熱交換器は設置せず、温度が室温のエアを循環させた。全ての近接ノズルNLnについて、吹き付け角度22(
図3b参照)が90±5°になるようにした。
【0138】
図9は、
図8のモデルテスト機にて、模擬的に随伴気流を発生させ、MD流の大きさを評価する方法を説明する縦断面概略図である。
図9に示すように、モデルテスト機の入口6にエア発生装置20を設置した。モデルテスト機において、循環ファン4により、各近接ノズルNLnからエアが吹き出されている状態において、エア発生装置20により、モデルテスト機の入口6から出口7に向けて、アクリル板17の下面に沿ってエアを流した。
【0139】
図10は、MD流の風速測定箇所を説明する
図9に示すC1−C1矢視方向の横断面概略図である。モデルテスト機の出口7に、5個の風速計19を、フィルムの幅方向にほぼ等間隔をおいて設けた。エア吹き出し面8からアクリル板17の下面までの距離Lの変更に応じて、出口7から流れ出すエアの風速を、風速計19により測定し、測定された風速の値をMD流の大きさとした。エア発生装置20から流されるエアの風速は、モデルテスト機の入口6において、約3m/s、フィルムの幅方向に±0.5m/sの精度になるよう調整した。
【0140】
MD流の測定位置について、
図10を参照しながら説明する。
【0141】
MD流は、モデルテスト機の出口7で、かつ、アクリル板17の直下において、フィルムの幅方向にほぼ等間隔で設けた5個の風速計19を用いて、P1、P2、P3、P4、P5の5点で測定した。風速計19として、80mmベーン式風速計を用いた。ベーン式風速計の観測面をフィルムの走行方向に向けて、出口7におけるフィルムの走行方向に流れるエアの風速を測定した。MD流の風速は、時間変動するため、サンプリング周期を1秒に設定し、15秒間連続して測定したときの平均値を、MD流の風速とした。
【0142】
(2)温度ムラの測定手法
モデルテスト機のアクリル板17の近接ノズルNo2が位置する場所の真上中央部の位置において、アクリル板17に、幅150mm、長さ150mmの開口部を設けた。この開口部に、幅150mm、長さ150mmのシート状のラバーヒーターを設置した。また、アクリル板17の上面から上方に0.7m離れた位置に、赤外線サーモグラフィを設置し、シート状のラバーヒーターの面の温度分布を同時に撮影できるように、赤外線サーモグラフィの測定視野を調整した。
【0143】
ラバーヒーターを100℃に加熱し、近接ノズルからラバーヒーターに向けて、室温のエアを吹き付けながら、モデルテスト機の入口6に設置されているエア発生装置20により、エアの流れを発生させた。その際、赤外線サーモグラフィにより、ラバーヒーターの面の温度分布を撮影し、得られた熱画像を専用の解析ソフトにより、モデルテスト機内のMD流により生じるラバーヒーターの温度ムラを測定した。
【0144】
(3)加熱効率の測定手法
近接ノズルの加熱効率は、上記の温度ムラの測定手法と同様、加熱したラバーヒーターに、近接ノズルにより、エアを吹き付けながら、ラバーヒーターの熱消費量、吹き付けエアの温度、エア吹き付け後のラバーヒーター温度を、下記の式に代入し、近接ノズルの熱伝達率を求め、これを加熱効率とした。なお、加熱効率の測定の際には、エア発生装置20は不作動状態とし、近接ノズル単体での加熱効率を測定した。
【0145】
式:熱伝達率[W/m
2K]=ラバーヒーターの熱消費量/[(エア吹き付け後のラバーヒーター温度)−(吹き付けエアの温度)]
ここで、ラバーヒーターの熱消費量[W]は、ラバーヒーターが吹き付けエアで冷却される際の、ラバーヒーターの電流値[A]、電圧値[V]を測定し、式:熱消費量[W]=電流値[A]×電圧値[V]で計算した。
【0146】
上記モデルテスト機を用いて、エア吹き出し面8からアクリル板17の下面までの距離Lを50mmとし、L/Bの値を3.1にしたときの、MD流の風速[m/s]、加熱効率[W/m
2K]、温度ムラ[℃]を求めた。その結果を表1に示す。
【実施例2】
【0147】
エア吹き出し面8からアクリル板17の下面までの距離Lを75mmとし、L/Bの値を4.7にした以外は、実施例1と同様にして、MD流の風速[m/s]、加熱効率[W/m
2K]、温度ムラ[℃]を求めた。その結果を表1に示す。
【実施例3】
【0148】
エア吹き出し面8からアクリル板17の下面までの距離Lを100mmとし、L/Bの値を6.3にした以外は、実施例1と同様にして、MD流の風速[m/s]、加熱効率[W/m
2K]、温度ムラ[℃]を求めた。その結果を表1に示す。
【実施例4】
【0149】
エア吹き出し面8からアクリル板17の下面までの距離Lを150mmとし、L/Bの値を9.4にした以外は、実施例1と同様にして、MD流の風速[m/s]、加熱効率[W/m
2K]、温度ムラ[℃]を求めた。その結果を表1に示す。
【実施例5】
【0150】
全ての近接ノズルNLnについて、ノズルから吹き出される吹き付けエアの方向とフィルム通過面とがなす角度(吹き付け角度)を110±5°になるように設定した以外は、実施例1と同様にして、MD流の風速[m/s]、加熱効率[W/m
2K]、温度ムラ[℃]を求めた。その結果を表1に示す。
【実施例6】
【0151】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(東レ(株)製、F20S)ペレットを減圧乾燥した後、押し出し機に供給し、280℃で溶融押出し、シートを成形した。得られたシートを、表面温度20℃に保った直径が1600mmの冷却ドラムの表面に静電印加法にて密着させ、冷却固化し、厚さ2100μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0152】
この熱可塑性樹脂フィルムを加熱されたロール群および赤外線ヒーターで加熱し、その後、周速差のあるロール群で走行方向に3.2倍延伸して、一軸延伸フィルムを得た。
【0153】
得られた一軸延伸フィルムを、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱固定ゾーン、冷却ゾーンから構成されたテンターオーブンに導入した。各ゾーンは、複数の
図1に示す室で形成した。すなわち、予熱ゾーンは、2室、延伸ゾーンは、4室、熱固定ゾーンは、4室、ならびに、冷却ゾーンは、2室とした。各室の高さは3m、長さは3m、および、幅は2mとした。各室において、フィルム通過面5の上面側に、5本のスリットノズルNUnを設置し、フィルム通過面の下面側にも、5本のスリットノズルNLnを設置した。全スリットノズルについて、吹き付けエアの方向とフィルム通過面とがなす角度(吹き付け角度)が90±5°になるようにした。
【0154】
予熱ゾーンにおける全てのスリットノズルは、エア吹き出し面からフィルム通過面までの距離Lが50mmである近接ノズルとした。それ以外のゾーンにおいては、エア吹き出し面からフィルム通過面までの距離Lが170mmであるスリットノズルを用いた。
【0155】
スリットノズル、および、近接ノズルにおけるスリットのスリット間隙は、10mmとした。よって、エア吹き出し面からフィルム通過面までの距離Lとスリット間隙Bの割合を示すL/Bの値は、予熱ゾーンではL/B=5、それ以外のゾーンではL/B=17であった。
【0156】
各室において、それぞれ循環ファンによりスリットノズルあるいは近接ノズルから、フィルムに向かって、所定の設定温度まで加熱された熱風が吹き出され、所望のフィルムの熱処理が行われた。
【0157】
一軸延伸フィルムの端部をクリップで把持して温度100℃の予熱ゾーンを通し、温度130℃の延伸ゾーンに導き、一軸延伸フィルムを、その幅方向に3.5倍に延伸した。次に、その延伸された幅を保ったまま、温度220℃の熱固定ゾーンにて、フィルムの熱固定処理を行い、更に、温度100℃の冷却ゾーンにて、フィルムの冷却処理をした後、フィルムの両端部をトリミングし、更に、巻き取り装置にて巻き取り、厚さ188μm、幅3450mmの二軸延伸フィルムを得た。各ゾーンの温度は、スリットノズルあるいは近接ノズルから吹き出される熱風の温度である。フィルムの走行速度は、25m/minとした。
【0158】
得られた二軸延伸フィルムに対し、両端から225mmずつ除き、1000mm幅に3等分してスリットすることで、幅1000mm、長さ2000mの二軸延伸フィルムロール3本を得た。
この3本のうち、得られた二軸延伸フィルムの中央部分のフィルムから得られたロールを用い、フィルムの厚みムラの測定に必要なフィルムロールサンプルを作製した。
【0159】
フィルムの厚みムラの測定は、長さ1m、幅600mmのフィルムサンプルから、フィルムサンプルの幅方向中心部および端部から100mmの位置をサンプル中央とするようにして、幅40mmの厚み測定用サンプルを3箇所から切り出した。その後、接触式厚み計(アンリツ(株)製KG60/A)を用いて、各厚み測定用サンプルのフィルムの走行方向の厚みを連続的に測定して、チャートレコーダに出力した。出力された厚みのプロファイルから、フィルムの走行方向の厚みの最大値μmと最小値μm、前記厚みのプロファイルから得られる連続分布の相加平均値μm(以下、単に平均値μmと云う)を求めた。そして、最大値と最小値の差の平均値に対する百分率を求め、その値を厚みムラR[単位:%]とした。なお、実施例における厚みムラRは、3箇所の測定用サンプルの厚みムラRの平均値である。
【0160】
MD流の測定は、テンターオーブンの出口にて、
図10で示したように、フィルムの幅方向に等間隔で5箇所の風速を測定し、平均値を計算した。
【0161】
近接ノズルを適用する前に対するテンターオーブンの電力削減率[%]および蒸気削減率[%]を算出した。近接ノズルを適用する前とは、テンターオーブンの全てのノズルにおいて、エア吹き出し面からフィルム通過面までの距離Lが170mmの状態を云う。
【0162】
電力削減率[%]は、近接ノズルを適用する前後の各室の循環ファンの消費電力[kWh]を、次の式で算出し、各室の消費電力の合計(テンターオーブン全体の消費電力)を計算することにより求めた。
【0163】
式:電力削減率[%]=[(近接ノズルを適用する前後における消費電力合計の減少分)/(近接ノズルを適用する前の消費電力合計)]。
【0164】
消費電力[kWh]は、次の式により求める。
【0165】
式:消費電力[kWh]=[循環ファンの定格容量[kWh]×(循環ファンの運転周波数[Hz]/循環ファンの定格周波数[Hz])
3/インバータ効率]。
【0166】
蒸気削減率[%]は、近接ノズルを適用する前後の各室熱交換器の消費蒸気量[t/年]を、次の式で算出し、各室の消費蒸気量の合計(テンターオーブン全体の消費蒸気量)を計算した。
【0167】
式:蒸気削減率[%]=[(近接ノズルを適用する前後における消費蒸気量合計の減少分)/(近接ノズルを適用する前の消費蒸気量合計)]。
【0168】
消費蒸気量をQ[kg/h]とすると、
P2>0.5×P1の場合、
Q=Cv×197.8×((P1−P2)×P2)
0.5
P2≦0.5×P1の場合、
Q=Cv×98.9×P1
ここで、P1[MPa]:熱交換器のコントロール弁の一次側絶対圧力、P2[MPa]:熱交換器のコントロール弁の二次側絶対圧力、Cv:コントロールバルブの型式とCv開度で決まる定数(バルブの性能曲線から読み取る)である。
【0169】
テンターオーブンの各室には、換気用の給気ダクトと排気ダクトが設置されており、近接ノズルを設置した予熱ゾーンの給気量合計と排気量合計の割合を1になるように給排気ファンを調整した。
【0170】
実施例6における各種の条件および各種の測定値を、表2に示す。
【実施例7】
【0171】
近接ノズルを、予熱ゾーンと延伸ゾーンの全スリットノズルに適用し、予熱と延伸ゾーンの給気量合計と排気量合計の比を1にした以外は、実施例6と同様にして、テンターオーブンを出たフィルムの幅方向厚みムラ[%]、テンターオーブン出口でのMD流の風速を測定した。また、近接ノズルを適用する前に対するテンターオーブンの電力削減率[%]および蒸気削減率[%]を算出した。実施例7における各種の条件および各種の測定値を、表2に示す。
【実施例8】
【0172】
近接ノズルを、予熱ゾーン、延伸ゾーン、および、熱固定ゾーンの全スリットノズルに適用し、予熱と延伸、および、熱固定ゾーンの給気量合計と排気量合計の割合を1にした以外は、実施例6と同様にして、テンターオーブンを出たフィルムの幅方向厚みムラ[%]、テンターオーブン出口でのMD流の風速を測定した。また、近接ノズルを適用する前に対するテンターオーブンの電力削減率[%]および蒸気削減率[%]を算出した。実施例8における各種の条件および各種の測定値を、表2に示す。
【実施例9】
【0173】
近接ノズルを、テンターオーブンの全てのゾーン(予熱ゾーンから冷却ゾーンまでの全てのゾーン)のスリットノズルに適用し、全てのゾーンの給気量合計と排気量合計の割合を1にした以外は、実施例6と同様にして、テンターオーブンを出たフィルムの幅方向厚みムラ[%]、テンターオーブン出口でのMD流の風速を測定した。また、近接ノズルを適用する前に対するテンターオーブンの電力削減率[%]および蒸気削減率[%]を算出した。実施例9における各種の条件および各種の測定値を、表2に示す。
【実施例10】
【0174】
テンターオーブンの全てのゾーン(予熱ゾーンから冷却ゾーンまでの全てのゾーン)において、近接ノズルをフィルム通過面の下側のみ、各室に5本設置した以外は、実施例6と同様にして、テンターオーブンを出たフィルムの幅方向の厚みムラ[%]、テンターオーブン出口でのMD流の風速を測定した。また、近接ノズルを適用する前に対するテンターオーブンの電力削減率[%]および蒸気削減率[%]を算出した。実施例10における各種の条件および各種の測定値を、表2に示す。
【実施例11】
【0175】
テンターオーブンの全てのゾーン(予熱ゾーンから冷却ゾーンまでの全てのゾーン)に近接ノズルを設置した。その際、吹き付け角度を110±5°とした。それ以外は、実施例6と同様にして、テンターオーブンを出たフィルムの幅方向の厚みムラ[%]、テンターオーブン出口でのMD流の風速を測定した。また、近接ノズルを適用する前に対するテンターオーブンの電力削減率[%]および蒸気削減率[%]を算出した。実施例11における各種の条件および各種の測定値を、表2に示す。
【0176】
実施例1乃至3で使用したモデルテスト機にて、エア吹き出し面8からアクリル板17の下面までの距離Lを170mmとし、L/Bの値を10.6にした以外は、実施例1と同様にして、MD流の風速[m/s]、加熱効率[W/m
2K]、温度ムラ[℃]を求めた。その結果を表1に示す。
【0177】
エア吹き出し面8からアクリル板17の下面までの距離Lを200mmとし、L/Bの値を12.5にした以外は、比較例1と同様にして、MD流の風速[m/s]、加熱効率[W/m
2K]、温度ムラ[℃]を求めた。その結果を表1に示す。
【0178】
エア吹き出し面8からアクリル板17の下面までの距離Lを250mmとし、L/Bの値を15.6にした以外は、比較例1と同様にして、MD流の風速[m/s]、加熱効率[W/m
2K]、温度ムラ[℃]を求めた。その結果を表1に示す。
【0179】
近接ノズルをどのゾーンにも適用せず、エア吹き出し面からフィルム通過面までの距離Lを170mmとし、全てのゾーンの給気量合計と排気量合計の割合を0.76にした以外は、実施例6と同様にして、テンターオーブンを出たフィルムの幅方向厚みムラ[%]、テンターオーブン出口でのMD流の風速を測定した。また、近接ノズルを適用する前に対するテンターオーブンの電力削減率[%]および蒸気削減率[%]を算出した。比較例4における各種の条件および各種の測定値を、表2に示す。
【0180】
これらの実施例および比較例が示す結果から、エア吹き付け面からフィルム通過面までの距離Lを150mm以下とすることで、フィルムの温度ムラを低減し、吹き付けノズルの加熱ムラを低減させることができる。また、エア吹き出し面からフィルム通過面までの距離Lを150mm以下とした近接ノズルをテンターオーブンの少なくとも予熱ゾーンに設置することで、MD流を抑制し、フィルムの厚みムラを改善できる。また、近接ノズルは、テンターオーブンの電力、蒸気の消費エネルギーの削減にも有効な手段と云える。