【0060】
具体的には、本発明の多量体が2種の融合タンパク質から構成され、かつ、ペプチド部分として、炭素素材に結合し得るペプチド部分、および金属素材(例、チタン素材、亜鉛素材)またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分を少なくとも用いる場合には、本発明の多量体を利用して作製されるデバイスの電気特性等を変化させる観点から、2種の融合タンパク質の組合せとしては、例えば、以下が挙げられる:
(i−1)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−第2の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(i−2)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第2の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(i−3)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第2の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(i−4)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、第2の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(i−5)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第2の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(i−6)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第2の他の素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(ii−1)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(ii−2)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(ii−3)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(ii−4)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(ii−5)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(ii−6)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iii−1)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iii−2)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iii−3)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iii−4)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iii−5)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iii−6)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iv−1)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iv−2)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iv−3)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iv−4)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iv−5)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(iv−6)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(v−1)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(v−2)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(v−3)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(v−4)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(v−5)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(v−6)第1の他の素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−第1の他の素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(vi)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(vii−1)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(vii−2)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;
(viii−1)炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分と、金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−炭素素材に結合し得るペプチド部分との組合せ;ならびに
(viii−2)金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分と、炭素素材に結合し得るペプチド部分−ポリペプチド部分−金属素材またはシリコン素材に結合し得るペプチド部分。
【実施例】
【0068】
実施例1:融合タンパク質CNHBP−Dps−TBP(CDT)発現用株の作製
N末端にカーボンナノホン結合ペプチド(CNHBPと標記;アミノ酸配列DYFSSPYYEQLF(配列番号6)からなる。国際公開第2006/068250号を参照)が融合され、C末端に酸化チタン結合ペプチド(TBPと標記;アミノ酸配列RKLPDA(配列番号8)からなる。国際公開第2005/010031号を参照)が融合されたListeria innocuaの金属内包性タンパク質Dps(CNHBP−Dps−TBPあるいはCDTと標記、配列番号1および配列番号2)を下記の手順により構築した。
はじめに、合成DNA(配列番号9、配列番号10)の混合溶液を、98℃で30秒熱した後、速やかに4℃にすることでアニールさせた。その合成DNA溶液とL.innocuaのDps遺伝子が搭載されたpET20(K.Iwahori et al.,Chem.lett.,2007,vol.19,p.3105を参照)を各々制限酵素NdeIで完全消化した。それらのDNA産物をT4 DNAリガーゼ(タカラバイオ社、日本)でライゲーションし、N末端にCNHBPが融合されたDps(CNHBP−Dps,CDと略す)をコードする遺伝子が搭載されたプラスミドpET20−CDを得た。続いて、pET20−CDを鋳型DNA、配列番号11および配列番号12のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行った。得られたPCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega社、USA)で精製し、制限酵素DpnIとBamHIで消化した。制限酵素で消化されたPCR産物を、T4 DNAリガーゼ(Promega社、USA)を用いてセルフライゲーションさせた。セルフライゲーションされたPCR産物をE.coli JM109(タカラバイオ社、日本)に形質転換し、N末端にカーボンナノホン結合ペプチド、C末端にチタン結合ペプチドが融合されたDps(CDT)をコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20−CDT)を保持したJM109を構築した。その形質転換株からWizard Plus Minipreps System(Promega社、USA)を使いpET20−CDTを精製した。最後にBL21(DE3)(invitorogen社、USA)をpET20−CDTで形質転換し、タンパク質発現用株BL21(DE3)/pET20−CDTとした。一方、対照実験に用いるCDの発現株も、同様に作製した。
【0069】
実施例2:融合タンパク質CDTの精製
BL21(DE3)/pET20−CDTを5mLのLB培地(100mg/L アンピシリンを含む)にて37℃で培養した。培養開始18時間後、その培養液を新しいLB培地(100mg/L アンピシリンを含む) 3Lに植菌し、BMS−10/05(ABLE社、日本)を用いて37℃で24時間振とう培養した。得られた菌体を遠心分離(5000 rpm、5分間)により回収し、−80℃で保存した。冷凍保存された菌体の半分(6 g)を50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0) 40mLで懸濁した。次に、その懸濁液にDigital Sonifier 450(Branson社、USA)を使い1秒間隔の超音波パルス(200W、Duty 45%)を12分間与えることで、菌体を破砕した。その溶液を15000rpmで15分間、遠心分離(JA−20、Beckmancoulter社、USA)し、上清画分を回収した。回収された溶液を60℃で20分間加熱し、加熱後は速やかに氷上で冷却した。冷却された溶液を17000rpmで10分間、遠心分離(JA−20)し、再度、上清を回収(約20mL)した。その溶液をディスクフィルター(Millex GP 0.22μm、Millipore社、USA)で滅菌した。そして、その溶液をAmicon−Ultra−15(NMWL.50000、Millipore社、USA)で液量が10mLになるまで限外ろ過濃縮し、タンパク質溶液を得た。
続いて、そのタンパク質溶液からゲルろ過クロマトグラフィーを用いて、目的タンパク質であるCDT画分を精製した。すなわち、TrisHCl緩衝液(150mM NaClを含む50mM Tris−HCl溶液(pH8.0))で平衡化したHiPrep 26/60 Sephacryl S−300 High resolutionカラム(GE healthcare社、USA)にタンパク質溶液10mLを注入し、流速1.4mL/分で分離精製を行い、CDTに相当するフラクションを回収した。その精製されたCDTを用いて以下の実験を行った。また、対照実験として使用したCDも、CDTと同様に遺伝子発現を行い、その菌体を集菌、熱処理を経て、その後、熱処理後の上清に終濃度0.5MとなるようにNaClを加え、6000rpmで5分間、遠心分離(JA−20)し上清を捨て、沈殿物を50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に懸濁した。その作業を3回繰り返してCDを精製した。また、Dpsの精製はK.Iwahori et al.,Chem.Mater.,2007,vol.19.p.3105.に従った。
【0070】
実施例3:融合タンパク質CDTによる金属粒子の内包
CDT多量体が、Dps多量体と同様に、金属粒子を内包できることを確かめるために、CDT多量体の内腔中に酸化鉄ナノ粒子を形成させた。すなわち、CDTを含むHEPES緩衝液(80mM HEPES−NaOH(pH7.5)、0.5mg/mL CDT、そして1mM 硫酸アンモニウム鉄を各々終濃度で含む)を1mL調製し、4℃で3時間放置した。冷蔵放置後、遠心分離(15000rpm、5分間)し、上清に含まれるタンパク質を3%リンタングステン酸(PTA)あるいは1%金グルコース(Au−Glc)で染色し、透過型電子顕微鏡(JEM2200−FS、200kV)で観察を行った。
酸化鉄ナノ粒子を形成させた後のCDTをPTA染色で観察したところ、外径9nm程度のCDT多量体の内腔中に直径5nm程度の酸化鉄ナノ粒子が形成されていた(
図1)。また、Au−Glc染色でも、この内腔中に酸化鉄ナノ粒子が形成されることが観察できた(
図3)。一方、酸化鉄ナノ粒子を形成させる前のCDTをPTA染色で電子顕微鏡観察したところ、外径9nm程度の球形タンパク質のみが観察された(
図2)。
以上の結果から、CDT多量体が、その内腔中に物質を内包できることが確認された。
【0071】
実施例4:CDT中のCNHBPの結合能の確認
CDTのN末端に融合されたカーボンナノホン結合ペプチド(CNHBP)の活性を調べた。CNHBPはカーボンナノホン(CNH)ばかりでなくカーボンナノチューブ(CNT)を認識することが知られている(国際公開第2006/068250号を参照)。まず、CDTまたはDpsを含むHEPES緩衝液(20mM HEPES−NaOH(pH7.5)、0.3mg/mLのCDTまたはDps、そして0.3mg/mL CNT(Sigma社、519308, carbon nanotube, single walled)を各々終濃度で含む)を調製した。その溶液に、Digital Sonifier 450(Branson社、USA)を使い1秒間隔の超音波パルス(200W、Duty 20%)を5分間与えた。超音波処理されたタンパク質−CNT混合溶液を遠心分離(15000rpm、5分間)し、上清に含まれるタンパク質とCNTの複合体を3% PTAで染色し、透過型電子顕微鏡(JEM−2200FS、200kV)で観察を行った。
N末にCNHBPを有するCDTを含む溶液では、CNTの周囲にCDTが結合している様子が観察できた(
図4)。一方、CNTを認識できるペプチドを持たないDpsを含む溶液ではCNTとタンパク質の顕著な結合は観察できなかった(
図5)。
以上の結果から、CDTに提示されたCNHBPはCNTに結合する活性を保持していることがわかった。
【0072】
実施例5:CDT中のTBPの結合能の確認
次に、CDTのC末端に融合された酸化チタン結合ペプチド(TBP)の活性を調べた。TBPは、チタンおよび酸化チタン、銀、ならびにシリコンおよび酸化シリコンと結合することが知られている(国際公開第2005/010031号を参照)。今回、CDTとチタンあるいは酸化シリコンとの結合を、チタンセンサーを使った水晶発振子マイクロバランス測定法(QCM)を用いて測定した。
はじめに、洗浄液(98%(w/v)硫酸と30%(w/v)過酸化水素水を3対1で混合した溶液)50μlを、測定用のチタンセンサー上に乗せ1分間放置した後、水で洗い流すことでチタンセンサー表面を洗浄した。この洗浄を3回行った後、チタンセンサーを本体(QCM934、SEIKO EG and G社)に取り付けた。チタンセンサーにTBS緩衝液(50mM Tris−HCl、150mM NaCl、pH8.0)500μlを滴下し、3時間室温で放置することで、センサーの周波数値を安定させた。次にTBS緩衝液400μlを除去し、CDTあるいはCDが同じTBS緩衝液に溶解したタンパク質溶液(0.1mg/mL)400μlを乗せ周波数の変化を測定した。その結果、CDT溶液を載せたほうが、CD溶液を載せたときよりも、大きな周波数の変化が観察された。すなわち、TBPを有するCDTの方がCDよりも多くのタンパク質がチタンセンサーに結合していることが示唆された(
図6中、測定開始3分後付近での矢印CDTと矢印CDの差異)。周波数の変化が安定した後、TBS緩衝液でセンサーを洗浄しセンサーに結合しなかったタンパク質を除去した。続いて、脱水縮合反応により酸化シリコンとなるテトラメチルオキシシラン(TEMOS、信越シリコーン社)水溶液をセンサーに乗せ、周波数の変化を測定した。TEMOS水溶液は1mM HCl 143μlとTEMOS液 25μlをよく混合し、5分間室温で放置した後、TBS緩衝液に10倍希釈することで調製した。TEMOS水溶液をセンサーへ乗せることで、周波数の減少が観察され酸化シリコンの析出(mineralize)が観察された(
図6中、測定開始25分後付近、矢印TEMOSを参照)。次に、酸化シリコンが析出したセンサーをTBS緩衝液でセンサーを洗浄した後、タンパク質溶液を乗せた。その結果、CDT溶液を乗せたときには周波数の減少が観察されたが、CD溶液を乗せた場合には周波数の減少は観察されなかった(
図6中、測定開始40分後付近、矢印CDTと矢印CDを参照)。すなわち、TBPを持たないCDは酸化シリコンと結合することができなかったが、TBPを有するCDTは酸化シリコンと結合できることが示唆された。
以上の結果から、CDTに提示されたTBPは酸化チタンと酸化シリコンに結合する活性を保持していることがわかった。
【0073】
実施例6:Dpsのアミノ酸配列の相同性解析
他の細菌に由来するDpsのアミノ酸配列(表1に示されるGenBankアクセッション番号で特定されるアミノ酸配列)を、Listeria innocuaおよびEscherichia coliに由来するDpsのアミノ酸配列に対する相同性解析に付した。相同性解析は、遺伝子情報解析ソフトGenetyx(株式会社ゼネティックス)を用いて行った。このソフトのアルゴリズムは、Lipman−Pearson法(Lipman,D.J.and Pearson,W.R.1985.Rapid and sensitive protein similarity searches.Science 227:1435−1441.)に基づいていた。Listeria innocuaに由来するDpsのアミノ酸配列に対する解析結果(同一性および類似性)を、表2および
図7に示す。Escherichia coliに由来するDpsのアミノ酸配列に対する解析結果(同一性および類似性)を、表3および
図8に示す。また、Listeria innocuaおよびEscherichia coliに由来するDpsに対する類似性の解析結果を、表4および
図9に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
実施例7:標的物質に対する融合タンパク質CDTの結合における結合速度定数および解離速度定数の測定
(1)DT発現用株の作製
C末端にTBPが融合されたListeria innocuaの金属内包性蛋白質Dps(Dps−TBPあるいはDTと標記)を構築するために、pET20−CDTを鋳型DNAとして、および以下のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行った。
【0079】
TTTCATATGTATATCTCCTTCTTAAAGTTAAAC(配列番号22)
TTTCATATGATGAAAACAATCAACTCAGTAG(配列番号23)
【0080】
得られたPCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega社、USA)で精製し、制限酵素DpnIとNdeIで消化した。制限酵素で消化されたPCR産物を、T4 DNAリガーゼ(Promega社、USA)を用いてセルフライゲーションさせた。セルフライゲーションされたPCR産物でE.coli JM109(タカラバイオ社、日本)を形質転換し、DTをコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20−DT)を保持したJM109を構築した。その形質転換株からWizard Plus Minipreps System(Promega社、USA)を用いてpET20−DTを精製した。最後に、BL21(DE3)(Invitorogen社、USA)をpET20−DTで形質転換し、蛋白質発現用株BL21(DE3)/pET20−DTを得た。DTの発現は、CDTと同様にして行った。
【0081】
(2)CDT、CDおよびDTの精製
QCM解析用のタンパク質を調製するために、BL21(DE3)/pET20−CDT、ならびにBL21(DE3)/pET20−DT、およびBL21(DE3)/pET20−CDを、それぞれ1mLのLB培地(100mg/L アンピシリンを含む)にて37℃で培養した。培養開始18時間後、その培養液を新しいLB培地(100mg/L アンピシリンを含む)100mLに植菌し、容量500mLフラスコを用いて37℃で24時間振とう培養した。得られた菌体を遠心分離(6000rpm、5分間)により回収し、50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0) 5mLで懸濁した。その菌液に超音波をかけ、菌体を破砕した。その溶液を6000rpmで15分間、遠心分離し、上清画分を回収した。回収された溶液を60℃で20分間加熱し、加熱後は速やかに氷上で冷却した。冷却された溶液を6000rpmで15分間、遠心分離し、再度、上清を回収(約5mL)した。その溶液をディスクフィルター(Millex GP 0.22μm、Millipore社、USA)で滅菌した。そして、その溶液をAmicon−Ultra−15(NMWL.50000、Millipore社、USA)で限外ろ過濃縮し、タンパク質が溶解している緩衝液をTrisHCl−Salt緩衝液(150mM NaClを含む50mM TrisHCl溶液、pH8.0)に置換し、タンパク質溶液2.5mlを得た。
得られたタンパク質溶液からCDT、CDおよびDTを精製した。まず、CDTとDTの精製には、ゲルろ過および陰イオン交換クロマトグラフィーを用いた。すなわち、TrisHCl−Salt緩衝液(150mM NaClを含む50mM TrisHCl溶液、pH8.0)で平衡化したHiPrep 26/60 Sephacryl S−300 High resolutionカラム(GE healthcare社、USA)に粗抽出溶液2.5mlを注入し、流速1.4ml/分で分離精製を行い、各蛋白質に相当する画分を回収した。続いて、得られた各蛋白質溶液を限外ろ過濃縮することで、蛋白質溶液の緩衝液を50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)に置換した。その蛋白質溶液2.5mlを、50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiLoard 26/10 Q−Sepharose High Performanceカラム(GE healthcare社、USA)に注入した。そして、流速4.0ml/分、0mMから500mM NaClを含む50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で塩濃度勾配をかけることで、分離精製を行い、各蛋白質に相当する画分を回収した。CDは塩析により精製を行った。
【0082】
(3)CDTとCNTの結合速度定数および解離速度定数の測定
CDTとCNTの結合速度定数および解離速度定数をQCM法により測定した。はじめに、洗浄液(98%(w/v)硫酸と30%(w/v)過酸化水素水を3対1で混合した溶液)50μlを、測定用の金センサー上に乗せ5分間放置した後、水で洗い流すことでセンサー表面を洗浄した。また、透過型電子顕微鏡で蛋白質と複合体形成が確認できたCNT(Carbon nanotube, single−walled, 519308, Aldrich) を 1mg/mL となるように 1% SDS 溶液と混合し、30分間超音波処理調製されたCNT 溶液2 μLを金電極上にマウントし、室温で自然乾燥した。乾燥後、水で2回洗浄し、結合しなかったCNTを洗い流した。さらに、リン酸緩衝液A(50 mM リン酸カリウム緩衝液。0.001%(w/v) tween−20を含む。pH7.0)で1回洗浄した。そのCNTセンサーを本体(Affinix QNμ、Initium社)に取り付け、CNTセンサーにリン酸緩衝液Aを滴下し、30分から一時間室温で放置することで、センサーの周波数値を安定させた。周波数値が安定した後、反応溶液量が500μl、終濃度が0.5mg/lから10mg/lとなるようにCDTあるいはCDを添加し、周波数の変化を測定した。そして得られた周波数の変化が、以下の関係に則ると仮定して、解析ソフトAQUA (Initium社)を用いて蛋白質とCNTの結合速度定数konと解離速度定数koffを求めた。CDTとCDは各々12量体を形成しているとして、各分子量は246kDaと236kDaとして計算に用いた。
【0083】
【数1】
S:蛋白質とセンサーの複合体の濃度(M)
P:反応に用いた蛋白質の濃度(M)
kon:結合速度定数(M
−1・sec
−1)
koff:解離速度定数(sec
−1)
t:反応時間(sec)
Smax:平衡到達時の蛋白質とセンサーの複合体の濃度(M)
Kd:解離定数(M)
【0084】
その結果、CDTとCDのkbosと蛋白質濃度の関係は、
図10のとおりであった。その
図10の直線から求めることのできた各蛋白質のkonとkoffは、表5のとおりであった。すなわち、CDTはCDと同等の強さでCNTに結合できることがわかった。これらのCNTへの結合能力はCNTBPによるものであると考えられた。
【0085】
【表5】
【0086】
(4)CDTと酸化チタンの結合速度定数および解離速度定数の測定
CDTと酸化チタンの結合速度定数および解離速度定数をQCM法により測定した。酸化チタンセンサーはInisium社製のものを使用した。はじめに、酸化チタンセンサーの上に1% SDS溶液を載せ、ピペッティングによりセンサーを洗浄した後、余分なSDS溶液を水で5回洗い流した。この洗浄作業を2回行った。そして、リン酸緩衝液B(50mMリン酸カリウム緩衝液。pH7.0)で1回洗浄した。その酸化チタンセンサーを本体(AffinixQNμ、Initium社)に取り付け、センサー上にリン酸緩衝液Bを滴下し、30分から一時間室温で放置することで、センサーの周波数値を安定させた。周波数値が安定した後、反応溶液量が500μl、終濃度が0.5mg/lから10mg/lとなるようにCDTあるいはDTを添加し、周波数の変化を測定した。そして得られた周波数の変化から、CNTへの結合定数を求めたのと同様に、解析ソフトAQUA(Initium社)を用いて蛋白質と酸化チタンの結合速度定数konと解離速度定数koffを求めた。DTは12量体を形成しているとして、分子量は226kDaとして計算に用いた。
その結果、CDTとCDのkbosと蛋白質濃度の関係は、
図11のとおりであった。その
図11の直線から求めることのできた各蛋白質のkonとkoffは、表6のとおりであった。すなわち、CDTはDTと同等の強さで酸化チタンに結合できることがわかった。これらの酸化チタンへの結合能力はTBPによるものであると考えられた。そして、表5と表6からCDTはCNTと酸化チタンの両方への結合能力を持つことがわかった。
【0087】
【表6】
【0088】
実施例8:融合タンパク質CcDTの調製
(1)CcDT発現用株の作製
CDTと同様の性質を有する変異蛋白質をCorynebacterium glutamicum由来のDpsを用いて構築した。Listeria innocuaおよびEscherichia coliに由来するDpsのアミノ酸配列に対する、Corynebacterium glutamicumに由来するDpsのアミノ酸配列解析結果(同一性および類似性)を、表7に示す。
【0089】
【表7】
【0090】
先ず、Corynebacterium glutamicumのゲノムDNAを鋳型として、および以下のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行った。
【0091】
tttcatAtggactacttctcttctccgtactacgaacagctgtttATGGCAAACTACACAGTC(配列番号24)
tttGAATTCttaCGCATCCGGAAGTTTGCGCATCTCTTGGATGTTTCCGTC(配列番号25)
【0092】
得られたPCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega社、USA)で精製し、制限酵素NdeIそしてEcoRIで消化した。一方で、pET20bプラスミド(Merck社、ドイツ)を制限酵素NdeIそしてBamHIで消化した。制限酵素で消化されたPCR産物とプラスミドを、T4 DNAリガーゼ(Promega社、USA)を用いて結合させた。そのDNAでE.coli JM109(タカラバイオ社、日本)を形質転換し、N末端にカーボンナノホン結合ペプチド(CNHBP)、C末端にチタン結合ペプチド(TBP)が融合されたCorynebacterium glutamicum由来のDps(CcDT、配列番号26および配列番号27)をコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20−CcDT)を保持したJM109を構築した。その形質転換株からWizard Plus Minipreps System(Promega社、USA)を使いpET20−CcDTを精製した。最後にBL21(DE3)(invitorogen社、USA)をpET20−CDTで形質転換し、タンパク質発現用株BL21(DE3)/pET20−CcDTとした。
【0093】
(2)CcDTの精製
CcDTタンパク質を得るために、BL21(DE3)/pET20−CcDTを1mLのLB培地(100mg/L アンピシリンを含む)にて37℃で培養した。培養開始18時間後、その培養液を新しいLB培地(100mg/L アンピシリンを含む)100mLに植菌し、容量500mLフラスコを用いて37℃で24時間振とう培養した。得られた菌体を遠心分離(6000rpm、5分間)により回収し、50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0) 5mLで懸濁した。その菌液に超音波をかけ、菌体を破砕した。その溶液を6000rpmで15分間、遠心分離し、上清画分を回収した。回収された溶液を60℃で20分間加熱し、加熱後は速やかに氷上で冷却した。冷却された溶液を6000rpmで15分間、遠心分離し、再度、上清を回収(約5mL)した。その溶液をディスクフィルター(Millex GP 0.22μm、Millipore社、USA)で滅菌した。そして、その溶液をAmicon−Ultra−15(NMWL.50000、Millipore社、USA)で限外ろ過濃縮し、タンパク質が溶解している緩衝液をTrisHCl緩衝液(50mM TrisHCl溶液、pH8.0)に置換してタンパク質溶液2.5mlを得た。
得られたタンパク質溶液からCcDTを精製するために、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いた。すなわち、そのタンパク質溶液2.5mlを50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiLoard 26/10 Q−Sepharose High Performanceカラム(GE healthcare社、USA)に注入した。そして、流速4.0ml/分、0mMから500mM NaClを含む50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で塩濃度勾配をかけることで、分離精製を行い、CcDTを含む画分を回収した。
【0094】
実施例9:CcDT多量体の形成の確認
得られたCcDTを3% PTA(リン・タングステン酸)染色し、透過型電子顕微鏡解析を行った。その結果、CcDTは、CDTと同様に、直径9nm程度のカゴ状の多量体を形成していることがわかった(
図12)。
【0095】
実施例10:融合タンパク質CcDTとカーボンナノチューブとの結合の確認
CcDTとCNTの結合をQCM法により測定した。はじめに、洗浄液(98%(w/v)硫酸と30%(w/v)過酸化水素水を3対1で混合した溶液)50μlを、測定用の金センサー上に乗せ5分間放置した後、水で洗い流すことでセンサー表面を洗浄した。また、CNTを1mg/mLとなるように1% SDS溶液と混合し、30分間超音波処理調製されたCNT溶液2μLを金電極上にマウントし、室温で自然乾燥した。乾燥後、水で2回洗浄し、結合しなかったCNTを洗い流した。さらに、リン酸緩衝液A(50mMリン酸カリウム緩衝液。0.001%(w/v) tween−20を含む。pH7.0)で1回洗浄した。そのCNTセンサーを本体(Affinix QNμ、Initium社)に取り付け、CNTセンサーにリン酸緩衝液Aを滴下し、30分から一時間室温で放置することで、センサーの周波数値を安定させた。周波数値が安定した後、反応溶液量が500μl、終濃度が1mg/lとなるようにCcDTを添加し、周波数の変化を測定した。
その結果、CNHBPを有するCcDTは、CNHBPを有しないDTよりも、多くのCNTに結合することが観察できた(
図13)。すなわち、CcDTは、DTよりも強いCNTへの結合能力を持つことがわかった。このCcDTのCNTへの結合能力はCNHBPによるものであると推測された。
【0096】
実施例11:融合タンパク質CcDTと酸化チタンとの結合の確認
CcDTと酸化チタンの結合をQCM法により測定した。はじめに、洗浄液(98%(w/v)硫酸と30%(w/v)過酸化水素水を3対1で混合した溶液)50μlを、測定用の酸化チタンセンサー上に乗せ5分間放置した後、水で洗い流すことでセンサー表面を洗浄した。その酸化チタンセンサーを本体(Affinix QNμ、Initium社)に取り付け、酸化チタンセンサーにリン酸緩衝液B(50mM リン酸カリウム緩衝液。pH7.0)を滴下し、30分から一時間室温で放置することで、センサーの周波数値を安定させた。周波数値が安定した後、反応溶液量が500μl、終濃度が1mg/lとなるようにCcDTを添加し、周波数の変化を測定した。
その結果、TBPを有するCcDTは、TBPを有しないCDよりも、多くの酸化チタンに結合することが観察できた(
図14)。すなわち、CcDTは、CDよりも強い酸化チタンへの結合能力を持つことがわかった。このCcDTの酸化チタンへの結合能力はTBPによるものであると推測された。
【0097】
実施例12:金属粒子を内包した融合タンパク質CDTとCNTとの結合
はじめに、CDT多量体の内腔中に酸化鉄ナノ粒子を形成した。すなわち、CDTを含むHEPES緩衝液(80mM HEPES−NaOH(pH7.5)、0.5mg/mL CDT、1mM 硫酸アンモニウム鉄を各々終濃度で含む)を1mL調製し、4℃で3時間放置した。放置後、遠心分離(15000rpm、5分間)して、タンパク質を含む上清を回収した。そして、その上清をAmicon−Ultra−15(NMWL.50000、Millipore社、USA)で限外ろ過濃縮し、酸化鉄ナノ粒子を内腔に持つCDT多量体(Fe−CDT)溶液の緩衝液を水に置換してタンパク質溶液を得た。そのタンパク質溶液を用いて、酸化鉄ナノ粒子を内腔に持つCDT多量体とCNTとを含むリン酸カリウム緩衝液(50mM リン酸カリウム(pH6.0)、0.3mg/mLのFe−CDT、0.3mg/mL CNTを各々終濃度で含む)を調製した。調製された溶液に、Digital Sonifier 450(Branson社、USA)を用いて氷上で、3秒間隔で1秒間の超音波パルス処理(200W、Duty 20%)を合計5分間行った。超音波パルス処理されたFe−CDT−CNT混合溶液を遠心分離(15000rpm、5分間)して、多数のCDT多量体がCNTに結合したCNT/Fe−CDT複合体を得た。結果を
図15に示す。
図15は、酸化鉄ナノ粒子を内腔に持つCNHBP−Dps−TBP(CDT多量体)とCNTとの複合体の透過型電子顕微鏡像を示す図である。透過型電子顕微鏡像は、サンプルを3%TPA染色して撮影された。
【0098】
結果として、酸化鉄ナノ粒子を内腔に持つCNHBP−Dps−TBP(CDT多量体)とCNTとの複合体(CNT/Fe−CDT複合体)が得られていることが確認できた。
【0099】
実施例13:CNT/Fe−CDT/Ti複合体の調製例
得られたCNT/Fe−CDT複合体溶液に、終濃度2.5wt%となるようにチタン前駆体Titanium(IV) bis(ammonium lactato)dihydroxide(SIGMA社、388165)を加え、室温(24℃)で放置した。反応を開始して30分後と15時間後のサンプルを遠心分離(15000rpm、5分間)して、沈殿を回収した。その沈殿を水で3回洗浄して、最後に水に懸濁することでCNT/Fe−CDT/Ti水溶液を得た。
【0100】
図16は、酸化鉄ナノ粒子を内腔に持つCNHBP−Dps−TBP(CDT多量体)とCNTとの複合体にチタン前駆体を添加して得られた黒い析出物の透過型電子顕微鏡像を示す図である。CNT/Fe−CDT/Ti水溶液を無染色でTEM解析したところ、
図16に示されるように、黒いロッド状の構造体の中に、酸化鉄ナノ粒子を内腔に内包したCDT多量体を観察することができた。
【0101】
この黒いロッド状の構造体は、EDS解析の結果からチタンを含有するものと推測できた。このTEM像から、CDT多量体により増大したと考えられる、チタンナノロッド構造体の表面積について解析した。すなわち、
図16のTEM像から、長尺方向の長さが102nmであり、長尺方向と直交する方向の直径が31nmであるチタンナノロッド構造体の中に64個のCDT多量体が内包されていると推定できた。チタンナノロッド構造体の表面積は、1.1×10
4(nm
2)である。そして、直径9nmであるCDT多量体の表面積は、254(nm
2)であることから、CDT多量体64個分の表面積の合計は1.6×10
4(nm
2)である。すなわち、今回観察されたCDT多量体を内包するチタンナノロッド構造体の長尺方向の長さ100nm当りの表面積は2.6×10
4(nm
2)であり、CDT多量体が内包されていない場合の同様のチタンナノロッド構造体の長尺方向の長さ100nm当りの表面積である1.1×10
4(nm
2)よりも2.4倍大きいことが推定できた。
【0102】
また、CDT多量体に内包された酸化鉄ナノ粒子をチタン膜に導入することができたことから、CDT多量体に内包させ得ると予測されるニッケル、コバルト、マンガン、リン、ウラン、ベリリウム、アルミニウム、硫化カドミウム、セレン化カドミウム、パラジウム、クロム、銅、銀、ガドリウム錯体、白金コバルト、酸化シリコン、酸化コバルト、酸化インジウム、白金、金、硫化金、セレン化亜鉛、カドミウムセレンなどの金属ナノ粒子のCNTを被膜するチタン膜、酸化チタン膜への導入が期待される。
【0103】
続いて、CNT/Fe−CDT/Ti水溶液10μlを、UV/オゾン処理(115℃、5分間、1ml/min)された、厚さが10nmのSiO
2膜で被膜されているシリコン基板に載せ、450℃で30分間加熱した。その後、室温で放置して冷却し、走査型電子顕微鏡(SEM)で解析した。結果を
図17に示す。
図17は、酸化チタンで被膜されたCNHBP−Dps−TBP(CDT多量体)とCNTとの複合体を加熱して得られた構造体の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
結果として、繊維状に観察されるCNTの周囲を粒子状の構造体、膜状の構造体が覆っている様子が観察された。また、EDSによる分析から、CNTを被膜している構造体が酸化チタンにより構成されていることが示唆された。
【0104】
実施例14:CNT/TiO
2複合体の調製例
はじめに、50mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)に終濃度0.3mg/ml CDT及び0.3mg/ml CNT(Sigma社、519308, carbon nanotube, single walled)を加えた。得られた溶液40mlに氷上でDigital Sonifier 450(Branson社、USA)を用いて、1秒間超音波(200W、25%)処理して、3秒間超音波を停止するサイクルで、超音波処理する時間が計5分間となるように処理した。超音波処理には直径10mmの太い素子を用いた。超音波処理後、容量50mlのチューブに溶液を移し変え、8500rpm、10分間遠心分離することで、CDT多量体と結合しなかったCNTを除去した。その溶液に、終濃度が2.5wt%となるようにTitanium(IV) bis(ammonium lactato)dihydroxide(SIGMA社、388165)を加え、室温で2時間放置した。ここで、凝集体の沈殿が観察された。その後、容量50mlの遠沈管で8500rpmで、10分間遠心分離して、沈殿を回収することで、CNT/CDT/Ti複合体を精製した。さらに、水を40ml加え、遠心分離することで洗浄し、最後に水を0.8ml加え、容量1.5mlのマイクロチューブに移した。得られたCNT/CDT/Ti複合体を含む溶液200μlを、石英ボードに載せ、450℃から800℃の範囲で(500℃、600℃、700℃及び800℃の各温度で)、30分間加熱した(昇温速度50℃/分)。
【0105】
各温度で焼成された黒い粉体を3%PTA染色し、TEM解析した。結果を
図18に示す。
図18A、
図18B、
図18C及び
図18Dは、酸化チタンで被膜されたCNHBP−Dps−TBP(CDT多量体)とCNTとの複合体を加熱して得られた構造体の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【0106】
図18Aに示されるように500℃で焼成した場合には、多数の線状の構造体を観察することができた。
図18Bに示されるように600℃で焼成した場合には、線状の構造体はほとんど観察できなかった。
図18C及び
図18Dに示されるように700℃以上で焼成した場合には線状の構造体はまったく観察できなかった。
【0107】
さらに、得られた黒い粉体の結晶状態を調べるために、450℃で加熱された黒い粉体をX線回折(XRD)により解析した。結果を
図19に示す。
図19は、酸化チタンで被膜されたCNHBP−Dps−TBP(CDT)とCNTとの複合体を450℃で焼成して得られた構造体のXRD分析の結果を示す図である。
【0108】
図19に示されるように、アナターゼ型TiO
2結晶の(101)面、(200)面に特有のピークを観察することができた。
【0109】
しかしながら、アナターゼ型TiO
2結晶以外のピークも観察されたことから、TiOが混合していると推定された。同様にして、500℃、600℃で焼成された黒い粉体についてもXRD解析したところ、同様のピークパターンを示した。よって、少なくとも600℃以下で焼成された黒い粉体には、光触媒活性を持つアナターゼ型TiO
2結晶が含まれていることが示唆された。
【0110】
実施例15:光電変換素子(色素増感太陽電池)の製造例
実施例14で得られたCNT/CDT/Ti複合体を光電変換素子(色素増感太陽電池)の光電変換層の材料として用い、色素増感太陽電池の特性に与える影響を評価した。色素増感太陽電池の作製方法はSOLARONIX社のプロトコールを改変して行った。
【0111】
はじめに、上記方法にて、CNT(SWNT)/CDT/Tiを反応溶液1ml分合成し、水で洗浄後、エタノール溶液に懸濁した。そのCNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を酸化チタンペースト(Ti−Nanoxide D、SOLARONIX社)に練りこみ、色素増感太陽電池の材料とした。光電変換層を形成するために、25mmx25mmにカットされた透明電極基板であるFTO基板(fluorine−doped tin oxide、SOLARONIX社)の両端に、5mmにカットされ2重に貼り合わされたメンディングテープ(3M社、厚さ100μm程度)をそれぞれ貼り付けた。テープ同士間の距離は10mmとした。
【0112】
テープ同士の間にCNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を含有する酸化チタンペーストを載せ、スライドガラスを用いて平らに伸ばし、30℃で30分間放置することで、酸化チタンペーストを乾燥させた。酸化チタンペーストを載せた基板を焼成炉にいれ、450℃で30分間焼成した。昇温速度は、90℃/minとして行った。焼成後に自然冷却で100℃以下に冷却した。焼成された基板に、0.2g/l ルテニウム(Ru)増感色素溶液(N719、無水エタノール溶解液、SOLARONIX社)を1mlつけ、室温で24時間放置した。24時間放置することで赤く染まった電極基板をエタノールで洗い、酸化チタン表面に吸着しなかった色素を除去し、ドライヤーで乾燥させて光電極とした。
【0113】
フッ素ドープ酸化スズ(FTO)膜の表面を厚さ50nmの白金(Pt)でコーティングしたPt電極(対向電極)と、上記光電極を備えた構造体とを用いて色素増感太陽電池を作製した。
【0114】
封止材として封止シート(SX1170−25、SOLARONIX社)を用い、ホットプレートを用いて、120℃で5分間加熱した。さらに、完全に封止されていない接着面に、エポキシ系接着剤であるアラルダイトラピッド(昭和高分子社)をつけ、30℃で2時間放置することで密封した。最後にヨウ素電解液(SOLARONIX社)を入れて色素増感太陽電池を得た。
【0115】
製造された色素増感太陽電池に、キセノンランプで100mW/cm
2の強さの光を照射して評価を行った。
【0116】
色素増感太陽電池の特性として、開放電圧Voc(V)、短絡電流密度Jsc(mA/cm
2)、フィルファクターFF及び光電変換効率η(%)を評価した。なお、太陽電池において、照射光による入射エネルギーのうち、電力に変換された割合を、光電変換効率ηと呼ぶ。そして、電圧0V時に計測される電流密度を短絡電流密度Jsc、電流が流れていないときの電圧を開放電圧Vocと呼ぶ。また、光電変換効率η=Jsc×Voc×FFの関係が成り立ち、FFをフィルファクターと呼ぶ。結果を表8に示す。
【0117】
表8から明らかな通り、酸化チタンペーストのみで形成された光電極を備える色素増感太陽電池(デバイス2(−))では、短絡電流密度が12mA/cm
2であったのに対し、CNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を練りこんだ酸化チタンペーストを光電極の機能性材料として用いた色素増感太陽電池(デバイス1(+))では、短絡電流密度が15mA/cm
2であり、CNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を電極の機能性材料として用いたことにより、電流量が25%増加していた。さらに、光電変換効率ηは、CNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を練りこんだ酸化チタンペーストを光電極の機能性材料として用いることで1.4倍向上していた。
【0118】
【表8】
【0119】
実施例16:光電変換素子(色素増感太陽電池)の製造例
実施例14で得られたCNT/CDT/Ti複合体を光電変換素子(色素増感太陽電池)の光電変換層の材料として用い、色素増感太陽電池の特性に与える影響を評価した。色素増感太陽電池の作製方法はSOLARONIX社のプロトコールを改変して行った。
【0120】
はじめに、上記方法にて、CNT(SWNT)/CDT/Tiを反応溶液1ml分合成し、水で洗浄後、エタノール溶液に懸濁した。そのCNT(SWNT)/CDT/Ti複合体の終濃度が焼成後の酸化チタン電極中に0.2重量%で含有されるように酸化チタンペースト(Ti−Nanoxide D、SOLARONIX社)に練りこみ、色素増感太陽電池の材料とした。光電変換層を形成するために、25mmx25mmにカットされた透明電極基板であるFTO基板(fluorine−doped tin oxide、SOLARONIX社)を40mM 四塩化チタン水溶液に80℃で30分間つけ、そのFTO基板 の両端に、5mmにカットされ2重に貼り合わされたメンディングテープ(3M社、厚さ100μm程度)をそれぞれ貼り付けた。テープ同士間の距離は5mmとした。
テープ同士の間に上記CNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を含有する酸化チタンペーストを載せ、スライドガラスを用いて平らに伸ばし、30℃で30分間放置することで、酸化チタンペーストを乾燥させた。酸化チタンペーストを載せた基板を焼成炉にいれ、450℃で30分間焼成した。昇温速度は、90℃/minとして行った。焼成後に自然冷却で100℃以下に冷却した。焼成後、FTO基板上の酸化チタン部分を5mmx10mm角にカットし、その基板を0.2g/l ルテニウム(Ru)増感色素溶液(N719、無水エタノール溶解液、SOLARONIX社)に1mlつけ、室温で24時間放置した。24時間放置することで赤く染まった電極基板をエタノールで洗い、酸化チタン表面に吸着しなかった色素を除去し、室温で乾燥させて光電極とした(デバイス11)。
【0121】
また、対照として、酸化処理により合成されたCNT/酸化チタン複合体を0.2重量%含有する酸化チタン電極で光電極を作製したデバイス(デバイス12)、0.2重量%でCNTを含有する酸化チタン電極で光電極を作製したデバイス(デバイス13)、CNTを含有しない酸化チタン電極で光電極を作製したデバイス(デバイス14)をそれぞれ作製した。酸化処理によるCNT/酸化チタン複合体の合成は参考文献(W.Wang et al.(2005) Journal of Molecular Catalysis A: Chemical,235,194−199.)の方法を参考にした。すなわち、エタノール200ml中に、チタンブトキシド溶液34ml(0.1mol)を加え、室温で30分間攪拌した。その後、硝酸(35重量%)を28ml加え、続いてCNTを適当量添加し、ゲル状になるまで一晩室温にて攪拌した。その後、沈殿物を遠心回収し、80℃で一晩放置することで乾燥させCNT/酸化チタン複合体を得た。
【0122】
フッ素ドープ酸化スズ(FTO)膜の表面を厚さ50nmの白金(Pt)でコーティングしたPt電極(対向電極)と、上記光電極を備えた構造体とを用いて色素増感太陽電池を作製した。
封止材として封止シート(SX1170−25、SOLARONIX社)を用い、ホットプレートを用いて、120℃で5分間加熱した。さらに、完全に封止されていない接着面に、エポキシ系接着剤であるアラルダイトラピッド(昭和高分子社)をつけ、30℃で2時間放置することで密封した。最後にヨウ素電解液(SOLARONIX社)を入れて色素増感太陽電池を得た。
製造された色素増感太陽電池に、キセノンランプで100mW/cm
2の強さの光を照射して評価を行った。
色素増感太陽電池の特性として、開放電圧Voc(V)、短絡電流密度Jsc(mA/cm
2)、フィルファクターFF及び光電変換効率η(%)を評価した。結果を表9に示す。
【0123】
表9から明らかな通り、酸化チタンペーストのみで形成された光電極を備える色素増感太陽電池(デバイス14)よりも、ナノ素材を含有する酸化チタンペーストで形成された光電極を備える色素増感太陽電池(デバイス11、デバイス12、およびデバイス13)では、大きな短絡電流密度が計測された。特に、CNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を電極の機能性材料として用いることで、短絡電流量は180%増加していた。さらに、CDTを用いて合成されたCNTと酸化チタンの複合体を電極の機能性材料として用いたデバイス(デバイス11)の短絡電流密度は、CNT単独で極の機能性材料として用いたデバイス(デバイス13)の短絡電流密度や酸化処理により合成されたCNTと酸化チタンの複合体を電極の機能性材料として用いたデバイス(デバイス12)の短絡電流密度よりも大きかった。
【0124】
まず、CNTが酸化チタン電極に導入されることで短絡電流密度が向上した理由として、CNTが発生したキャリアの通り道となり、キャリアが再結合し電流量が低下する前に導電膜に移動できたためと考えられた。また、CDT処理や酸化処理によりCNTと酸化チタンの複合体を形成させることで、CNTと酸化チタンを密着させることができ、CNTと酸化チタン間の抵抗が低くなったと考えられた。そのため、無処理のCNTを酸化チタンペースト内に導入した場合よりも、酸化チタン周囲で発生したキャリアが効率よくCNTへと移動したと考えられた。酸処理により合成されたCNT/酸化チタン複合体では、酸よりCNTの構造が一部破壊され、CNT内のキャリアの移動が阻害されると考えられている。しかし、蛋白質CDTを用いればCNTの構造を傷つけることなくCNTと酸化チタンの複合体を合成することができる。さらに、CDT由来の空孔により表面積が向上し、より多くの色素を担持できたと考えられた。そのため、酸処理により合成されたCNT/酸化チタン複合体よりも、CDTを用いて合成されたCNT/酸化チタン複合体の方が、発生するキャリアの量が多く、さらにCNT内のキャリアの移動速度も維持されており、大きな短絡電流が観察されたと考えられた。
【0125】
短絡電流密度が向上した結果、CNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を練りこんだ酸化チタンペーストを光電極の機能性材料として用いたデバイス(デバイス11)での光電変換効率ηは、CNTを含有しない酸化チタンペーストを光電極の機能性材料として用いたデバイス(デバイス14)での光電変換効率ηの2.2倍に向上していた。そして、今回作製されたデバイスのうち、CNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を練りこんだ酸化チタンペーストを光電極の機能性材料として用いたデバイスでもっとも高い光電変換効率が計測された。すなわち、CDTを用いて、緩やかな条件で合成されたCNTと酸化チタンの複合体を用いることで、太陽電池の性能を向上させうることがわかった。
なお、FTO基板の四塩化チタン処理やCNT(SWNT)/CDT/Ti複合体を終濃度0.2重量%にて酸化チタン電極に練り込むことにより、実施例15で製造されたデバイスに比べ、短絡電流密度や光電変換効率ηの向上が認められることも確認された。
【0126】
【表9】
【0127】
実施例17:融合タンパク質CNHBP−Dps−ZnO1’(CDZ)発現用株の作製
N末端にカーボンナノホン結合ペプチド(CNHBPと標記;アミノ酸配列DYFSSPYYEQLF(配列番号6)からなる。国際公開第2006/068250号を参照)が融合され、C末端に酸化亜鉛析出ペプチド(ZnO1’と標記;アミノ酸配列EAHVMHKVAPRPGGGSC(配列番号30)からなる。Umetsu et al.,Adv.Mater.,17,2571−2575(2005)を参照)が融合されたListeria innocuaの金属内包性タンパク質Dps(CNHBP−Dps−ZnO1’あるいはCDZと標記、配列番号31および配列番号32)を下記の手順により構築した。
はじめに、pET20−CDTを鋳型DNA、配列番号11のヌクレオチド配列およびtttGGATCCttaAcaACTAccTccAccAggAcGTggAgcAacTttAtgcatTacAtgTgcTtcttctaatggagcttttc(配列番号33)のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行った。得られたPCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega社、USA)で精製し、制限酵素DpnIとBamHIで消化した。制限酵素で消化されたPCR産物を、T4 DNAリガーゼ(Promega社、USA)を用いてセルフライゲーションさせた。セルフライゲーションされたPCR産物をE.coli BL21(DE3)(ニッポンジーン社、日本)に形質転換し、N末端にカーボンナノホン結合ペプチド、C末端に酸化亜鉛析出ペプチドが融合されたDps(CDZ)をコードする遺伝子が搭載された発現プラスミド(pET20−CDZ)を保持したBL21(DE3)を構築した。
【0128】
実施例18:融合タンパク質CDZの精製
BL21(DE3)/pET20−CDZをLB培地(100mg/L アンピシリンを含む)100mLに植菌し、容量500mLフラスコを用いて37℃で24時間振とう培養した。得られた菌体を遠心分離(6000rpm、5分間)により回収し、50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0) 5mLで懸濁した。その菌液に超音波をかけ、菌体を破砕した。その溶液を6000rpmで15分間、遠心分離し、上清画分を回収した。回収された溶液を60℃で20分間加熱し、加熱後は速やかに氷上で冷却した。冷却された溶液を6000rpmで15分間、遠心分離し、再度、上清を回収(約5mL)した。その溶液をディスクフィルター(Millex GP 0.22μm、Millipore社、USA)で滅菌した。そして、その溶液をAmicon−Ultra−15(NMWL.50000、Millipore社、USA)で限外ろ過濃縮し、タンパク質が溶解している緩衝液をTrisHCl緩衝液(50mM TrisHCl溶液、pH8.0)に置換してタンパク質溶液2.5mlを得た。
得られたタンパク質溶液からCDZを精製するために、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いた。すなわち、そのタンパク質溶液2.5mlを50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で平衡化されたHiLoard 26/10 Q−Sepharose High Performanceカラム(GE healthcare社、USA)に注入した。そして、流速4.0ml/分、0mMから500mM NaClを含む50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)で塩濃度勾配をかけることで、分離精製を行い、CDZを含む画分を回収した。さらに、その回収された溶液を、Amicon−Ultra−15(NMWL.50000、Millipore社、USA)で限外ろ過濃縮し、タンパク質が溶解している緩衝液を純水に置換してCDZ溶液を得た。
【0129】
実施例19:CDZ多量体の形成の確認
緩衝液が純水置換される前の50mM TrisHCl緩衝液(pH8.0)に溶解したCDZを3% PTA(リン・タングステン酸)染色し、透過型電子顕微鏡解析を行った。その結果、CDZは、CDTと同様に、直径9nm程度のカゴ状の多量体を形成していることがわかった(
図21)。
【0130】
実施例20:CDZによる硫酸亜鉛水溶液からの白色沈殿形成促進
はじめに、0.1M 硫酸亜鉛水溶液に、純水に溶解したCDZ、CDTあるいはCDをそれぞれ終濃度が0.1mg/mlとなるように添加した。その溶液を一時間室温で放置した後、600nmの光を用いて濁度を測定した。その結果を
図22に示す。CDZが添加された溶液では、顕著な白色沈殿が生じた。この白色沈殿は、水酸化亜鉛あるいは酸化亜鉛と考えられる。一方、タンパク質を加えなかった溶液ではまったく沈殿が生じなかった。水酸化亜鉛は125℃程度で加熱されることで酸化亜鉛になることが知られている。以上のことから、CDZは亜鉛化合物を沈殿させる活性があることが示唆された。
【0131】
実施例21:CDZ中のCNHBPの結合能の確認
CDZのN末端に融合されたカーボンナノホン結合ペプチド(CNHBP)の活性を調べた。リン酸カリウム緩衝液(50mM、pH6.0)に終濃度が0.3mg/mLとなるようにCDZとCNT(Sigma社、519308, carbon nanotube, single walled)を各々加えた。その溶液に、Digital Sonifier 450(Branson社、USA)を使い1秒間の超音波パルス(200W、Duty 20%)を3秒間の間隔を空けながら計5分間与えた。超音波処理されたCDZ−CNT混合溶液を遠心分離(15000rpm、5分間)し、上清に含まれるタンパク質とCNTの複合体を3% PTAで染色し、透過型電子顕微鏡(JEM−2200FS、200kV)で観察を行った。
その結果、N末にCNHBPを有するCDZを含む溶液では、CNTの周囲にCDZが結合している様子が観察できた(
図23)。すなわち、CDZはCNTに結合する活性を保持していることがわかった。