(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本発明の基礎となった知見)
本発明者は、「背景技術」の欄において記載した種別判定方法に関し、以下の問題が生じることを見出した。
【0016】
図4に、肝腫瘍の染影パタンの典型例(非特許文献1)を示す。
【0017】
染影時相は大きく2つ存在する。染影時相の1つは造影剤を投与してから約2分間の血管相であり、もう1つは約10分以降の後血管相である。血管相は染影パタンの時系列変化が顕著な時相であり、後血管相は変化が乏しい時相である。より詳細には、血管相は、肝臓を栄養する動脈からの流入が支配的な動脈相と、門脈からの流入が支配的な門脈相とに区別される。腫瘍の悪性度が高いほど、動脈の栄養が支配的になり、門脈の流入が減少すると言われている。
【0018】
実際の診断では、これら染影パタンの時系列変化を観察して、腫瘍種別を判断する。例えば、血管相で実質よりも高エコーを示し、後血管相で実質よりも低エコーを示す場合には、肝細胞癌が疑われる。
【0019】
現状、腫瘍の種別判定は、読影者の主観による判断に基づいてなされているので、診断結果が読影者に依存するという問題がある。
【0020】
図4に示す通り、実際の鑑別においては、実質との差、リングパタン、中央パタンまたは均一パタンなどが有用な所見となっている。
【0021】
これに対して、特許文献1の1つ目の方法では、染影パタンを標準偏差で判断するが、例えば、中央パタンとリングパタンとで、標準偏差が同値になる可能性があり、正しく判定できない可能性がある。
【0022】
一方、特許文献1の2つ目の方法は、3つの円で空間的なパタンを評価するため、腫瘍内のパタンを評価可能である。
図8は、特許文献1における腫瘍内のパタン評価方法を説明するための図である。
図8における各数値は、腫瘍内の領域の輝度値である。特許文献1に開示される方法によれば、入力パタン81と所定パタン80との誤差に基づいて腫瘍内のパタン評価を行う。ここで、
図8に示す通り、入力パタン81が強いリングパタンである場合に、入力パタン81と所定パタン80との誤差が大きくなってしまう場合がある。すなわち、パタンの強さを正しく評価できない可能性がある。
【0023】
そこで、本発明の目的は、高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる超音波診断装置等を提供することにある。
【0024】
このような問題を解決するために、本発明の一態様に係る超音波診断装置は、被検体内の対象組織の種別を判定する超音波診断装置であって、造影剤投与後の前記被検体から受信されたエコー信号に対応する超音波画像を形成する画像形成部と、前記画像形成部が形成した前記超音波画像上の前記対象組織に対応する対象領域内に、互いに異なる2つの領域である第一関心領域及び第二関心領域を設定する関心領域設定部と、前記関心領域設定部が設定した前記第一関心領域内の輝度と、前記第二関心領域内の輝度との差を、特徴量として抽出する特徴量抽出部と、前記特徴量抽出部が抽出した前記特徴量に基づいて、前記対象組織の種別を判定する種別判定部とを備える。
【0025】
これによれば、超音波画像における対象領域(腫瘍領域)に設定され、腫瘍の種別に応じて顕著な特徴が表れる2つの関心領域の輝度差に基づいて当該腫瘍の種別を判定することができる。その際、2つの関心領域の輝度差に基づいて判定するので、超音波プローブのゲインの影響などを受けにくく、パタンの強さを精度よく評価できる。そのため、被検体から取得された超音波画像における2つの関心領域の輝度差を算出し、当該輝度差に適合する腫瘍の種別を特定することができる。よって、読影者に依存せずに高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0026】
また、例えば、前記関心領域設定部は、さらに、前記超音波画像上の前記対象領域外に、第三関心領域を設定し、前記特徴量抽出部は、前記第一関心領域内の輝度及び前記第三関心領域内の輝度の差と、前記第一関心領域内の輝度及び前記第二関心領域内の輝度の差とを前記特徴量として抽出する。
【0027】
これによれば、超音波画像における腫瘍領域と実質領域との輝度差に基づいて当該腫瘍の種別を判別することができる。ここで、腫瘍領域と実質領域とが設定されているため、腫瘍領域の輝度だけでなく、さらに腫瘍領域と実質領域との輝度の差に基づいて腫瘍の種別を判別することができる。よって、高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0028】
また、例えば、前記特徴量抽出部は、さらに、前記対象領域内の中心部から周辺部へ、又は、周辺部から中心部へ向かう方向における絶対値の最も大きい輝度勾配を、前記差として抽出する。
【0029】
これにより、腫瘍領域の中心部の位置または形状に依存せずに、腫瘍領域の中心部から周辺部へ(又は、周辺部から中心部へ)向かう方向における輝度勾配に基づいて腫瘍の種別を判定することができる。よって、高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0030】
また、例えば、前記関心領域設定部は、前記対象領域の中心部を中心とする略楕円形状の前記第二関心領域を設定し、かつ、前記対象領域の中心部を中心とする、前記第二関心領域より大きい領域を含む略楕円形状のうち前記第二関心領域を除く領域を第一関心領域と設定する。
【0031】
これによれば、超音波画像における腫瘍領域を楕円形状と捉え、当該楕円形状の中心部と周辺部とのそれぞれに関心領域を設定し、これらの関心領域における輝度差を算出し、当該輝度差に適合する腫瘍の種別を特定することができる。よって、より高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0032】
また、例えば、前記関心領域設定部は、前記対象領域の中心部を中心とする略円形状の前記第二関心領域を設定し、かつ、前記対象領域の中心部を中心とする、前記第二関心領域より大きい領域を含む略円形状のうち前記第二関心領域を除く領域を第一関心領域と設定する。
【0033】
これによれば、超音波画像における腫瘍領域を円形状と捉え、当該円形状の中心部と周辺部とのそれぞれに関心領域を設定し、これらの関心領域における輝度差を算出し、当該輝度差に適合する腫瘍の種別を特定することができる。よって、より高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0034】
また、例えば、前記特徴量抽出部は、前記対象領域内の中心部から周辺部へ、又は、周辺部から中心部へ向かう方向における輝度勾配の絶対値が最大となる位置、及び、前記対象領域の中心部の距離と、前記第一関心領域内の輝度及び前記第二関心領域内の輝度の差とを前記特徴量として抽出する。
【0035】
これにより、腫瘍の中心部から周辺部へ(又は、周辺部から中心部へ)向かう方向の輝度勾配が最大となる半径の大きさに基づいて、腫瘍の種別を判定することができる。よって、高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0036】
また、例えば、前記関心領域設定部は、前記対象領域の中心部から周辺部へ向かう方向における輝度勾配の絶対値が最大となる位置より前記中心部に近い方に前記第二関心領域を設定し、当該位置より前記中心部から遠い方に前記第一関心領域を設定する。
【0037】
これによれば、関心領域内の平均輝度の差が大きい2つの領域を関心領域とすることができる。この2つの関心領域を用いることで、腫瘍の種別の判別精度が向上する。よって、高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0038】
また、例えば、前記特徴量抽出部は、複数の期間のそれぞれにおける前記第一関心領域内の輝度と、前記第二関心領域内の輝度との差を、前記特徴量として抽出し、前記種別判定部は、前記複数の期間のそれぞれにおける前記特徴量に基づいて、前記対象組織の種別を判定する。
【0039】
これによれば、造影剤による染影パタンが特徴的な所定の期間(例えば、血管相の動脈相及び門脈相、後血管相)における関心領域の輝度差を用いることで腫瘍の種別の判別精度が向上する。よって、高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0040】
また、例えば、前記種別判定部は、特徴量の複数のパターンと対象組織の複数の種別との対応付けを参照することで、前記対象組織の種別を、前記特徴量抽出部が抽出した前記特徴量に適合するパターンに対応する種別と判定する。
【0041】
これによれば、特徴量から腫瘍の種別を判別することができる。あらかじめ定められた特徴量と対象組織の種別との対応付けの具体例は、過去の症例に基づいた学習データである。
【0042】
また、例えば、前記種別判定部は、前記特徴量に基づいて、前記対象組織の種別を、肝細胞癌、転移性肝癌、肝血管腫、または、FNH(focal nodular hyperplasia)と判定する。
【0043】
これによれば、肝腫瘍の種別判定に適した特徴量を用いるため、肝細胞癌、転移性肝癌、肝血管腫またはFNH(focal nodular hyperplasia)といった肝腫瘍の代表的な症例を判別することができる。
【0044】
なお、これらの全般的または具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読み取り可能なCD−ROMなどの記録媒体記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたは記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0045】
以下、本発明の一態様に係る超音波診断装置について、図面を参照して説明する。
【0046】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0047】
以降、システムの構成と動作について説明する。
【0048】
(実施の形態1)
本実施の形態では、超音波画像における腫瘍領域(対象領域)と実質領域との輝度差、リングパタン、中央パタンまたは均一パタン等の特徴を反映した特徴量を導入することにより、高い精度で肝腫瘍の種別を判定する例について説明する。なお、「腫瘍」とは、他の組織と比較して異なる性質を有する組織を意味し、良性及び悪性の両方を含む。
【0049】
図1は、本実施の形態に係る超音波診断装置1の構成図である。
【0050】
図1に示されるように、実施の形態の超音波診断装置1は、超音波プローブ101、超音波送受信部102、画像形成部103、データ記憶部104、関心領域設定部105、特徴量抽出部106、種別判定部107、表示画面作成部108、入力値取得部109、入力装置110及び表示装置111を備える。
【0051】
<構成>
超音波プローブ101は、超音波送受信部102より出力された電気信号を超音波に変換し、その超音波を被検体に送信する。そして、被検体から反射して返ってきたエコー信号を電気信号に変換して超音波送受信部102へ出力する。
【0052】
超音波送受信部102は、超音波信号の元となる電気信号を生成し、超音波プローブ101へ出力する。また、超音波プローブ101より出力された電気信号をデジタルのエコー信号に変換し、画像形成部103へ出力する。
【0053】
画像形成部103は、超音波送受信部102より出力されたエコー信号を輝度値に変換して、超音波画像を形成する。そして、形成した超音波画像をデータ記憶部104へ保存する。
【0054】
データ記憶部104は、入力画像、腫瘍を含む関心断面、種別判定に用いる関心領域、種別判定に用いる学習データ、種別判定に用いる入力データの特徴量などを保存する。
【0055】
入力値取得部109は、入力装置110を介して操作者により指定された、関心断面、関心領域などの情報を取得し、データ記憶部104へ保存する。
【0056】
関心領域設定部105は、データ記憶部104より関心断面と入力画像とを読み出し、両者の位置ズレを算出する。その後、データ記憶部104より関心領域を読み出し、算出した位置ズレ量に基づいて関心領域の位置を補正する。そして、補正した関心領域をデータ記憶部104へ保存する。
【0057】
特徴量抽出部106は、データ記憶部104より入力画像と関心領域とを読み出し、入力画像中の関心領域より所定の特徴量を抽出する。そして、抽出した特徴量を時系列に並べてデータ記憶部104へ保存する。
【0058】
種別判定部107は、データ記憶部104より造影剤投与から後血管相までの特徴量と種別毎の学習データを読み出し、腫瘍種別を判定する。腫瘍種別を判定した後、種別判定結果をデータ記憶部104へ保存する。
【0059】
表示画面作成部108は、データ記憶部104より入力画像、画像特徴量、種別判定結果、等をそれぞれ読み出し、表示画面を作成する。作成後、表示画面を表示装置111へ表示する。
【0060】
入力装置110は、操作者の入力を受け付ける。入力装置110は、トラックボール、ボタン、タッチパネルなどにより実現される。
【0061】
表示装置111は、表示画面作成部が作成した表示画面を表示する。表示装置111は、ディスプレイなどにより実現される。
【0062】
以上が、実施の形態に係る装置構成である。
【0063】
<動作>
以下、本実施の形態の動作の流れについて、
図2Aと
図2Bを用いて説明する。
【0064】
図2Aは、本実施の形態に係る造影剤投与前の動作のフローチャートである。
【0065】
[ステップS101]
最初に、画像形成部103は、超音波送受信部102より出力されたエコー信号を輝度値に変換して超音波画像を形成する。そして、形成した超音波画像を入力画像としてデータ記憶部104へ保存する。表示画面作成部108は、データ記憶部104より画像形成部103が保存した入力画像を読み出し、患者情報と設定情報等と入力画像とを統合した表示画面を作成した後、表示装置111に表示する。このときの表示モードを通常モードと呼ぶ。これは、造影剤投与前の表示モードを意味する。
【0066】
[ステップS102]
ステップS101において、操作者による再生停止の操作を受け付ける。操作者が入力装置110を介して再生を停止する操作を行ったら、ステップS103を実行する。操作者が再生を停止する操作を行わない場合はステップS101へ戻る。
【0067】
[ステップS103]
操作者が入力装置110を介して再生停止操作を行ったことを検出したら、超音波送受信部102と画像形成部103とは、超音波送受信、及び、画像形成を停止する。表示画面作成部108は、静止画を表示装置111に表示する。関心領域設定部105は、データ記憶部104に保存されている停止持の超音波画像を関心断面として登録する。
【0068】
[ステップS104]
次に、操作者が入力装置110を介して種別判定操作を行ったら、関心領域設定部105は、関心断面から関心領域である腫瘍領域及び実質領域の候補を検出し、関心領域としてデータ記憶部104へ保存する。その後、表示画面作成部108は、データ記憶部104より関心領域設定部105が保存した関心断面と関心領域とを読み出し、関心領域を関心断面に重畳した表示画面を作成し、表示装置111に表示する。この表示画面は、例えば、関心領域の外縁を破線で表示する、又は、関心領域全体を関心断面が透けて見えるような程度に色付けして表示するなどして作成される。
【0069】
図3Aは、通常モードにおける表示画面の一例である。
図3Aにおいて、表示画面G10に超音波画像G11が表示されている。超音波画像G11には、腫瘍領域G12及び実質領域G13が含まれている。超音波画像G11は、データ記憶部104より読み出した入力画像であり、腫瘍領域G12及び実質領域G13は関心領域である。
【0070】
腫瘍領域の候補を検出するには、2次元の微分フィルタを用いる。2次元の微分フィルタの係数は、領域の輝度分布が中央において低く、周囲において高い領域、又は、領域の輝度分布が中央において高く、周囲において低い領域で大きな値をとる。2次元の微分フィルタを画面全体に渡って移動させ、各位置でフィルタ値を算出する。サイズの異なる腫瘍を含む腫瘍領域を検出する場合には、対象画像全体の解像度を変えて検出を行う。例えば、対象画像の解像度を1/2にすると、2倍サイズの腫瘍を検出することになる。各位置でフィルタ値を算出後、フィルタ値が最大となる領域を候補とする。
【0071】
実質領域の候補は、検出した腫瘍と同じ深さとする。
【0072】
なお、上記では2次元の微分フィルタを用いて腫瘍領域の候補を検出する方法を示したが、その代わりに、操作者が超音波画像を閲覧し、腫瘍領域を設定するようにしてもよい。
【0073】
なお、関心領域の形状は、例えば、円形状または楕円形状であるが、これに限定されず腫瘍領域、実質領域の候補を含む多角形状など任意の形状であってよい。
【0074】
なお、上記の関心領域は、第一関心領域に相当する。また、上記の実質領域は、第三関心領域に相当する。
【0075】
[ステップS105]
次に、表示画面作成部108は、関心領域の候補が妥当であるか否かの確認メッセージを表示装置111に表示する。
【0076】
[ステップS106]
次に、ステップS13の確認メッセージに対する操作者の入力を入力装置110を介して受け付ける。確認メッセージに対する操作者の入力としては、関心領域の設定完了、または、実質領域または腫瘍領域の修正がある。
【0077】
[ステップS107]
操作者が、関心領域の設定完了を入力した場合、入力値取得部109は、データ記憶部104に保存されている関心領域を確定させる。
【0078】
[ステップS108]
ステップS105の確認メッセージに対して、操作者が入力装置110を介して腫瘍領域を修正した場合、関心領域設定部105は、実質領域を変更する。その後、ステップS109を実行する。
【0079】
[ステップS109]
ステップS105の確認メッセージに対して、操作者が入力装置110を介して実質領域を修正した場合、及び、ステップS108において実質領域が変更された後、関心領域設定部105は、データ記憶部104に保存されている関心領域を修正する。その後、ステップS105に戻り、表示画面作成部108は、確認メッセージを表示する。
【0080】
以上が、実施の形態の関心断面、関心領域の設定に関するフローチャートである。
【0081】
図2Bは、本実施の形態に係る造影剤投与後の動作のフローチャートである。
【0082】
[ステップS201]
最初に、ステップS107にて、関心断面の関心領域が確定された後、超音波送受信部102及び画像形成部103は、造影超音波に対応した超音波の送受信、及び、画像形成を行う。具体的には、公知のパルスインバージョン法又は振幅変調法(特許文献2、3、4)などにより、造影剤からの反射エコーが支配的な造影画像と、組織からの反射エコーが支配的な組織画像(受信した超音波の基本波成分に対応する画像)とをそれぞれ形成する。その後、画像形成部103は、造影画像と組織画像とをデータ記憶部104へ保存する。表示画面作成部108は、データ記憶部104より画像形成部103が保存した造影画像と組織画像とを読み出し、それらを左右に並べた表示画面を作成する。
【0083】
図3Bは、造影モードにおける表示画面の一例である。
図3Bにおいて、表示画面G20は、超音波画像である造影画像G21及び組織画像G22と、特徴量の推移G25とが表示されている。造影画像G21には、腫瘍領域G23Aと実質領域G24Aとが含まれている。また、造影画像G22には、腫瘍領域G23Bと実質領域G24Bとが含まれている。
【0084】
造影画像G21と組織画像G22とは、データ記憶部104より読み出した造影画像と組織画像を左右に並べたものである。腫瘍領域G23A及びG23Bと実質領域G24A及びG24Bとは、システムまたは操作者により指定されたものである。特徴量の推移G25は、種別判定に使う特徴量を時系列に表示したものである。
【0085】
表示画面作成部108は、作成した出力画像を表示装置111に表示する。
【0086】
[ステップS202]
次に、関心領域設定部105は、データ記憶部104に保存されている関心断面と入力画像の位置ズレを算出する。位置ズレは、操作者の手振れや、生体内の心臓や呼吸に伴うものである。ズレ量は公知のパタンマッチングにより算出する。パタンマッチングは、ステップS201において、画像形成部103が形成した造影剤からの反射エコーが少ない組織画像で行う。
【0087】
[ステップS203]
次に、関心領域設定部105は、データ記憶部104に保存されている関心断面と位置補正後の入力画像とが同一断面であるかを判定する。ここでは、両画像の誤差を算出し、誤差が閾値以下であれば、同一断面と判定する。同一断面と判定された場合、関心領域設定部105は、ステップS202にて算出したズレ量を用いて、データ記憶部104に保存されている関心領域の位置を補正する。断面が異なる場合、特徴量の算出を行わない。
【0088】
[ステップS204]
次に、データ記憶部104に保存されている入力画像と関心領域とを用いて、種別の判別に用いる特徴量eとrとを算出することで抽出する。
【0089】
関心領域は、腫瘍及び実質の2つの領域から構成される。特徴量の算出に際しては、腫瘍内に新たな関心領域を設ける。なお、新たな関心領域は、第二関心領域に相当する。
【0090】
新たな関心領域は、腫瘍領域に対応して決定されるようにしてもよい。つまり、腫瘍領域の中央に、腫瘍領域の半分の大きさの領域としてもよい。また、関心領域と新たな関心領域とが並ぶように設定されてもよいし、新たな関心領域の周囲に関心領域が設定されるようにしてもよい。また、操作者が任意の領域を設定してもよい。
【0091】
以下では、新たな関心領域として、腫瘍領域の中央に、腫瘍領域の半分の大きさの領域(腫瘍中央領域)を設定する場合について説明する。腫瘍領域の平均輝度をx、新たな腫瘍領域の平均輝度をyとすると、両者の差rは、(式1)のように表される。
【0093】
また、実質領域の平均輝度をzとすると、腫瘍領域と実質領域との平均輝度の差eは(式2)のように表される。
【0095】
図5は、肝腫瘍の典型例に対する特徴量e及びrの値の例を示す図である。
図5において、e値が正の場合は周囲より腫瘍が高エコーであることを、負の場合は低エコーであることを示す。r値は、正の場合はリングパタンを、負の場合は中央パタンを示す。
【0096】
図5の(a)に示されるように、肝細胞癌は、血管相で一様パタン(正確には、バスケットパタン)、後血管相で低エコーを呈する所見が特徴的であるため、血管相のr値は0近傍、後血管相のe値は負となる。
【0097】
図5の(b)に示されるように、転移性肝癌は、血管相でリングパタン、後血管相で低エコーを呈する所見が特徴的であるため、血管相のr値は正、後血管相のe値は負となる。
【0098】
図5の(c)に示されるように、肝血管腫は、血管相でリングパタンから一様パタンに変化し、後血管相で低エコーを呈する所見が特徴的であるため、血管相のr値は正から0へ変化し、後血管相のe値は負となる。
【0099】
図5の(d)に示されるように、FNH(focal nodular hyperplasia)は、血管相での中心から外側に広がる車軸状パタンと、後血管相で等エコーの所見とが特徴的である。そのため、血管相のr値は負から0へ変化し、後血管相のe値は0近傍となる。
【0100】
このように、e値とr値とを用いることにより、肝腫瘍の特徴的な所見をフォローすることができる。
【0101】
[ステップS205]
次に、操作者による操作を受け付ける。操作者が操作を終了する旨を入力するとステップS206を実行する。
【0102】
[ステップS206]
次に、種別判定部107は、データ記憶部104に保存されている学習データと血管相から後血管相までの特徴量とに基づいて腫瘍種別判定を行う。
【0103】
種別判定は、事前に決定された所定の関心区間の特徴量を用いる。
【0104】
図6は、実施の形態1に係る特徴量に基づく腫瘍種別判定を説明するための図である。T1〜T3は、種別判定に使う関心区間である。e1〜e3値、r1〜r3値は、各関心区間に属するe値とr値との平均値である。
図6の例では、6つの入力パラメータから腫瘍種別を判定する。ここでは、公知のサポートベクターマシン(線形)で判定する場合について説明する。種別iの学習データをw(i)、b(i)、評価値をm(i)、入力パラメータをxとすると、(式3)のように表される。
【0106】
ここで、w(i)、b(i)はサポートベクターマシンより算出された学習データで、種別i毎に用意する。学習方法の詳細については、省略する。入力データに対する腫瘍種別判定は、評価値m(i)を全種別について算出した後、最大値を取る種別と判定する。
【0107】
以上が、実施の形態の造影剤投与後のフローチャートである。
【0108】
なお、以上の説明において、実質領域の候補を、同じ深さで腫瘍領域に近接する領域としたが、これに限定されるものではない。例えば、同じ深さで腫瘍領域に近接する領域に、横隔膜のような高エコー領域が存在する場合には、実質領域として深さの異なる領域を選択してもよい。
【0109】
また、腫瘍領域と実質領域との輝度差を算出する際に、腫瘍領域の輝度値は腫瘍全体から算出せず、例えば、リングパタンの特徴量抽出で用いる腫瘍中央領域から算出してもよい。
【0110】
なお、特徴量の抽出において、各領域の平均輝度を用いたが、その他の輝度に関する情報であってもよい。その他の輝度に関する情報とは、例えば、当該領域内の所定の位置の点の輝度、当該領域の輝度の中央値、または、当該領域の輝度の最頻値などであってもよい。
【0111】
また、特徴量と腫瘍種別との関連付けにおいて、腫瘍の種別により関心区間を変更してもよい。
【0112】
また、特徴量と腫瘍種別との関連付けにおいて、サポートベクターマシンを用いたが、これに限定されるものではなく、その他の機械学習を用いてもよい。
【0113】
<効果>
以上のように、本発明の一態様に係る超音波診断装置によれば、超音波画像における対象領域(腫瘍領域)に設定され、腫瘍の種別に応じて顕著な特徴が表れる2つの関心領域の輝度差に基づいて当該腫瘍の種別を判別することができる。ここで、2つの関心領域の輝度差に基づいて判別するので、超音波プローブのゲインの影響などを受けにくく、パタンの強さを精度よく評価できる。そのため、被検体から取得された超音波画像における2つの関心領域の輝度差を算出し、当該輝度差に適合する腫瘍の種別を特定することができる。よって、読影者に依存せずに高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0114】
また、超音波画像における腫瘍領域と実質領域との輝度差に基づいて当該腫瘍の種別を判別することができる。ここで、腫瘍領域と実質領域とが設定されているため、腫瘍領域の輝度だけでなく、さらに腫瘍領域と実質領域との輝度の差に基づいて腫瘍の種別を判別することができる。よって、高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0115】
また、超音波画像における腫瘍領域を楕円形状と捉え、当該楕円形状の中心部と周辺部とのそれぞれに関心領域を設定し、これらの関心領域における輝度差を算出し、当該輝度差に適合する腫瘍の種別を特定することができる。よって、より高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0116】
また、超音波画像における腫瘍領域を円形状と捉え、当該円形状の中心部と周辺部とのそれぞれに関心領域を設定し、これらの関心領域における輝度差を算出し、当該輝度差に適合する腫瘍の種別を特定することができる。よって、より高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0117】
また、造影剤による染影パタンが特徴的な所定の期間(例えば、血管相の動脈相及び門脈相、後血管相)における関心領域の輝度差を用いることで腫瘍の種別の判別精度が向上する。よって、高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0118】
また、特徴量から腫瘍の種別を判別することができる。あらかじめ定められた特徴量と対象組織の種別との対応付けの具体例は、過去の症例に基づいた学習データである。
【0119】
また、肝腫瘍の種別判定に適した特徴量を用いるため、肝細胞癌、転移性肝癌、肝血管腫またはFNH(focal nodular hyperplasia)といった肝腫瘍の代表的な症例を判別することができる。
【0120】
(実施の形態の変形例1)
実施の形態1の例では、腫瘍領域及び腫瘍中央領域の関心領域を設定した後、それぞれの平均輝度を算出し、両者の差をリングパタンの特徴量rとした。しかしながら、腫瘍中央領域は腫瘍領域と対応して設定されるため、特徴量に対する腫瘍領域の設定位置又は形状の影響は小さいとは言えない。そこで、特徴量の抽出に際して、これら影響を軽減する方法について説明する。なお、腫瘍領域及び腫瘍中央領域の形状は、どんな形状であってもよい。腫瘍領域及び腫瘍中央領域の形状は、例えば、円形状又は楕円形状であってよい。以下では、円形状である場合について説明する。
【0121】
<構成>
システム構成は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0122】
<動作>
図2Cは、本実施の形態の特徴量抽出に関する動作のフローチャートである。
【0123】
以下は、特徴量抽出部106の処理である。
【0124】
[ステップS401]
最初に、関心領域として設定された腫瘍の中心位置pを特定する。
【0125】
[ステップS402]
次に、中心位置pから半径dの同心円上の平均輝度a(d)を算出する。これを、径輝度分布a(d)と呼ぶ。ここで、算出範囲は、関心領域として設定された腫瘍輪郭までとする。
【0126】
[ステップS403]
次に、径輝度分布a(d)において、外周方向に対して正の最大エッジep及び負の最大エッジenを算出する。位置dにおけるエッジe(d)は、(式4)のように表される。
【0128】
ここで、iについてnサンプル加算した後、減算しているのは、ノイズ耐性を上げるためである。例えば、nは、関心領域サイズの数%に設定する。e(d)の正の値における最大値がepであり、e(d)の負の値における最小値がenである。
【0129】
[ステップS404、S405及びS406]
次に、正のエッジep及び負のエッジenを絶対値で比較し、大きい方を特徴量rとする。
【0130】
以上が、本実施の形態の変形例1の特徴量抽出に関する動作である。
【0131】
なお、正のエッジep及び負のエッジenのうち、絶対値が大きい方の位置(半径)dを新たな特徴量とし、特徴量r等とともに用いて腫瘍の判別に用いてもよい。
【0132】
なお、正のエッジep及び負のエッジenのうち、絶対値が大きい方の位置(半径)dを境界として、当該境界より腫瘍の中心部に近い側を腫瘍中央領域として設定してもよい。
【0133】
<効果>
以上のように、本発明の一態様に係る超音波診断装置によれば、腫瘍領域の中心部の位置または形状に依存せずに、腫瘍領域の中心部から周辺部へ(又は、周辺部から中心部へ)向かう方向における輝度勾配に基づいて腫瘍の種別を判定することができる。よって、高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0134】
また、腫瘍の中心部から周辺部へ(又は、周辺部から中心部へ)向かう方向の輝度勾配が最大となる半径の大きさに基づいて、腫瘍の種別を判定することができる。よって、高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0135】
また、関心領域内の平均輝度の差が大きい2つの領域を関心領域とすることができる。この2つの関心領域を用いることで、腫瘍の種別の判別精度が向上する。よって、高い精度で肝腫瘍の種別の判定を行うことができる。
【0136】
(その他の変形例)
なお、本発明を上記実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上記の実施の形態に限定されないのはもちろんである。以下のような場合も本発明に含まれる。
【0137】
(1)上記の各装置は、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、ハードディスクユニット、ディスプレイユニット、キーボード、マウスなどから構成されるコンピュータシステムである。前記RAMまたはハードディスクユニットには、コンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、各装置は、その機能を達成する。ここでコンピュータプログラムは、所定の機能を達成するために、コンピュータに対する指令を示す命令コードが複数個組み合わされて構成されたものである。
【0138】
(2)上記の各装置を構成する構成要素の一部または全部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。前記RAMには、コンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
【0139】
(3)上記の各装置を構成する構成要素の一部または全部は、各装置に脱着可能なICカードまたは単体のモジュールから構成されているとしてもよい。前記ICカードまたは前記モジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどから構成されるコンピュータシステムである。前記ICカードまたは前記モジュールは、上記の超多機能LSIを含むとしてもよい。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、前記ICカードまたは前記モジュールは、その機能を達成する。このICカードまたはこのモジュールは、耐タンパ性を有するとしてもよい。
【0140】
(4)本発明は、上記に示す方法であるとしてもよい。また、これらの方法をコンピュータにより実現するコンピュータプログラムであるとしてもよいし、前記コンピュータプログラムからなるデジタル信号であるとしてもよい。
【0141】
また、本発明は、前記コンピュータプログラムまたは前記デジタル信号をコンピュータ読み取り可能な記録媒体、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu−ray Disc)、半導体メモリなどに記録したものとしてもよい。また、これらの記録媒体に記録されている前記デジタル信号であるとしてもよい。
【0142】
また、本発明は、前記コンピュータプログラムまたは前記デジタル信号を、電気通信回線、無線または有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク、データ放送等を経由して伝送するものとしてもよい。
【0143】
また、本発明は、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、前記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、前記マイクロプロセッサは、前記コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。
【0144】
また、前記プログラムまたは前記デジタル信号を前記記録媒体に記録して移送することにより、または前記プログラムまたは前記デジタル信号を前記ネットワーク等を経由して移送することにより、独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい。
【0145】
(5)上記実施の形態及び上記変形例をそれぞれ組み合わせるとしてもよい。
【0146】
なお、上記各実施の形態において、各構成要素は、専用のハードウェアで構成されるか、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPUまたはプロセッサなどのプログラム実行部が、ハードディスクまたは半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。ここで、上記各実施の形態の画像復号化装置などを実現するソフトウェアは、次のようなプログラムである。
【0147】
すなわち、このプログラムは、コンピュータに、被検体内の対象組織の種別を判定する超音波診断
装置の制御方法であって、造影剤投与後の前記被検体から受信されたエコー信号に対応する超音波画像を形成する画像形成ステップと、前記画像形成ステップにおいて形成された前記超音波画像上の前記対象組織に対応する対象領域内に、互いに異なる2つの領域である第一関心領域及び第二関心領域を設定する関心領域設定ステップと、前記関心領域設定ステップにおいて設定された前記第一関心領域内の輝度と、前記第二関心領域内の輝度との差を、特徴量として抽出する特徴量抽出ステップと、前記特徴量抽出ステップにおいて抽出された前記特徴量に基づいて、前記対象組織の種別を判定する種別判定ステップとを実行させる。
【0148】
以上、本発明の一つまたは複数の態様に係る超音波診断装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の一つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。