(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
吸入室、吐出室、斜板室及びシリンダボアが形成されたハウジングと、前記ハウジングに回転可能に支持された駆動軸と、前記駆動軸の回転によって前記斜板室内で回転可能な斜板と、前記駆動軸と前記斜板との間に設けられ、前記駆動軸の回転軸心に直交する方向に対する前記斜板の傾斜角度の変更を許容するリンク機構と、前記シリンダボアに往復動可能に収納されたピストンと、前記斜板の回転により、前記傾斜角度に応じたストロークで前記ピストンを前記シリンダボア内で往復動させる変換機構と、前記傾斜角度を変更可能なアクチュエータと、前記アクチュエータを制御する制御機構とを備え、
前記シリンダボアは、前記斜板の一面側に設けられた第1シリンダボアと、前記斜板の他面側に設けられた第2シリンダボアとからなり、
前記ハウジングと前記駆動軸との間には、前記第1シリンダボア側に位置する第1ラジアル軸受と、前記第2シリンダボア側に位置する第2ラジアル軸受とが設けられ、
前記アクチュエータは、前記駆動軸と一体回転可能に前記斜板室内に配置され、
前記アクチュエータは、前記斜板と連結され、前記回転軸心方向に移動可能な可動体と、前記駆動軸に固定される固定体と、前記可動体と前記固定体とにより区画され、内部の圧力によって前記可動体を移動させる制御圧室とを有し、
前記可動体は、前記駆動軸を挿通させる挿通孔が形成された本体部と、前記本体部と一体をなし、前記回転軸心方向に延びて前記固定体を取り囲む周壁とを有し、
前記ハウジングには、前記可動体を収納可能な収納壁が形成され、
前記周壁と前記固定体との間には第1遊隙が設けられ、
前記駆動軸と前記挿通孔との間には第2遊隙が設けられ、
前記周壁と前記収納壁との間には第3遊隙が設けられ、
前記駆動軸と前記第1ラジアル軸受との間には第4遊隙が設けられ、
前記駆動軸と前記第2ラジアル軸受との間には第5遊隙が設けられ、
前記第1遊隙と前記第2遊隙とは大きさが異なり、
前記第1遊隙及び前記第2遊隙のいずれか小さい一方と前記第3遊隙との和は、前記第4遊隙よりも大きく、かつ前記第5遊隙よりも大きく、
前記駆動軸のラジアル方向の変位によるラジアル荷重が前記可動体にかかることを防止することを特徴とする容量可変型斜板式圧縮機。
前記可動体及び前記固定体の少なくとも一方には、両者間の摺動抵抗力を低減する摺動層が形成されている請求項1乃至3のいずれか1項記載の容量可変型斜板式圧縮機。
前記可動体及び前記収納壁の少なくとも一方には、両者間の摺動抵抗力を低減する摺動層が形成されている請求項1乃至4のいずれか1項記載の容量可変型斜板式圧縮機。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の容量可変型斜板式圧縮機(以下、圧縮機という。)が開示されている。この圧縮機では、フロントハウジングとシリンダブロックとリヤハウジングとによってハウジングが形成されている。フロントハウジングには第1吸入室と第1吐出室とが形成され、リヤハウジングには第2吸入室と第2吐出室とが形成されている。また、リヤハウジングには圧力調整室が形成されている。
【0003】
シリンダブロックには、斜板室と複数のシリンダボアとが形成されている。各シリンダボアは、シリンダブロックの前方側に形成された第1シリンダボアと、シリンダブロックの後方側に形成された第2シリンダボアとからなる。また、シリンダブロックの第1シリンダボア側には、ラジアル軸受が設けられている。一方、シリンダブロックの第2シリンダボア側には、圧力調整室と連通する制御圧室が形成されている。
【0004】
駆動軸は、ハウジングに挿通されており、シリンダブロック内でラジアル軸受によって回転可能に支持されている。斜板室内には駆動軸の回転によって回転可能な斜板が設けられている。駆動軸と斜板との間には、斜板の傾斜角度の変更を許容するリンク機構が設けられている。ここで、傾斜角度とは、駆動軸の回転軸心に直交する方向に対する角度である。また、各シリンダボアにはピストンが往復動可能に収納され、圧縮室が形成されている。変換機構は、斜板の回転により、傾斜角度に応じたストロークで各ピストンをシリンダボア内で往復動させるようになっている。また、アクチュエータが傾斜角度を変更可能であり、制御機構がアクチュエータを制御するようになっている。
【0005】
アクチュエータは駆動軸と一体回転不能に制御圧室内に配置されている。アクチュエータは、具体的には、駆動軸の後端部を覆う非回転可動体を有している。非回転可動体の内周面は、駆動軸の後端部を回転摺動可能に支持しているとともに、回転軸心方向に移動できるようになっている。また、非回転可動体の外周面は、制御圧室内を回転軸心方向に摺動する一方、回転軸心周りに摺動しないようになっている。制御圧室内には、非回転可動体を前方に向けて付勢する押圧ばねが設けられている。また、アクチュエータは、斜板と連結され、回転軸心方向に移動可能な可動体を有している。非回転可動体と可動体との間にはスラスト軸受が設けられている。圧力調整室と吐出室との間には、非回転可動体及び可動体をともに回転軸心方向に移動可能に制御圧室内の圧力を変更する圧力制御弁が設けられている。
【0006】
リンク機構は、可動体と、駆動軸に固定されたラグアームとを有している。ラグアームの後端部には、回転軸心と直交する方向に延びつつ、外周側から回転軸心に近づく方向に延びる長孔が形成されている。斜板は、その前方でその長孔に挿通されたピンにより、第1揺動軸心周りで揺動可能に支持されている。また、可動体の前端部にも、回転軸心と直交する方向に延びつつ、外周側から回転軸心に近づく方向に延びる長孔が形成されている。斜板は、その後端でその長孔に挿通されたピンにより、第1揺動軸心と平行な第2揺動軸心周りで揺動可能に支持されている。
【0007】
この圧縮機では、圧力調整弁を開制御して吐出室と圧力調整室とを連通させることにより、制御圧室内が斜板室よりも高圧となる。これにより、非回転可動体及び可動体が前進する。このため、斜板の傾斜角度が大きくなり、ピストンのストロークが大きくなる。このため、圧縮機の1回転当たりの圧縮容量が大きくなる。他方、圧力調整弁を閉制御して吐出室と圧力調整室と非連通とすれば、制御圧室内が斜板室と同程度に低圧となる。これにより、非回転可動体及び可動体が後退する。このため、斜板の傾斜角度が小さくなり、ピストンのストロークが減少する。このため、圧縮機の1回転当たりの圧縮容量が小さくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記のような圧縮機では、ピストンに作用する圧縮反力及び吐出反力等により駆動軸にラジアル荷重が作用することから、例えハウジングと駆動軸との間にラジアル軸受が設けられているとしても、駆動軸がラジアル方向で不可避的に変位する。特に上記圧縮機では、ラジアル軸受が第1シリンダボア側にしか存在しないため、この傾向が顕著である。そして、このような圧縮機では、アクチュエータが変位する際、非回転可動体が駆動軸に対して回転軸心方向に摺動するとともに、制御圧室内を回転軸心方向に摺動する。
【0010】
これらのため、この圧縮機では、アクチュエータが変位する際、駆動軸から作用するラジアル荷重により、非回転可動体の外周面と制御圧室の内面とが両者間に設けられ得るOリングの変形代を超え、非回転可動体の外周面が制御圧室の内面に干渉し、非回転可動体の外周面と制御圧室の内面との間にラジアル荷重に比例した摩擦力が不可避的に作用する。このため、この圧縮機では、非回転可動体及び可動体が前進又は後進し難く、圧縮容量を変更する際における低い制御性が懸念される。
【0011】
特に、斜板の傾斜角度を大きくし、圧縮容量を拡大しようとする際には、駆動軸に作用するラジアル荷重も大きくなり、摩擦力も大きくなる。この場合、圧縮機では、圧縮容量の拡大に長い時間を要し、冷え遅れが生じてしまう。このため、非回転可動体及び可動体がその摩擦力に打ち勝つ力で前進できるよう、制御圧室を径方向で大きくしなければならず、ハウジング、ひいては圧縮機が大型化してしまう。これにより、車両等への搭載性が損なわれる。
【0012】
また、こうして圧縮容量を拡大する際に対応するために制御圧室を径方向で大きくすれば、制御圧室の容積が大きくなり、制御圧室を低圧にするために長い時間を要することとなってしまう。この場合、車両の加速時等に迅速に圧縮容量を縮小することができない。また、エンジンが低回転である時に圧縮容量の縮小が遅れ、ECUの意図に反して圧縮機の圧縮容量が大きいままとなれば、エンジンストールが生じてしまう事態も生じる。他方、圧縮機の圧縮容量の緩慢な変化に合わせたエンジンの制御を行おうとすれば、ECUの制御が特殊かつ複雑なものとなってしまう。
【0013】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、高い制御性と小型化とを実現しつつ、圧縮容量の拡大及び縮小を迅速に行うことが可能な容量可変型斜板式圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の容量可変型斜板式圧縮機は、吸入室、吐出室、斜板室及びシリンダボアが形成されたハウジングと、前記ハウジングに回転可能に支持された駆動軸と、前記駆動軸の回転によって前記斜板室内で回転可能な斜板と、前記駆動軸と前記斜板との間に設けられ、前記駆動軸の回転軸心に直交する方向に対する前記斜板の傾斜角度の変更を許容するリンク機構と、前記シリンダボアに往復動可能に収納されたピストンと、前記斜板の回転により、前記傾斜角度に応じたストロークで前記ピストンを前記シリンダボア内で往復動させる変換機構と、前記傾斜角度を変更可能なアクチュエータと、前記アクチュエータを制御する制御機構とを備え、
前記シリンダボアは、前記斜板の一面側に設けられた第1シリンダボアと、前記斜板の他面側に設けられた第2シリンダボアとからなり、
前記ハウジングと前記駆動軸との間には、前記第1シリンダボア側に位置する第1ラジアル軸受と、前記第2シリンダボア側に位置する第2ラジアル軸受とが設けられ、
前記アクチュエータは、前記駆動軸と一体回転可能に前記斜板室内に配置され、
前記アクチュエータは、前記斜板と連結され、前記回転軸心方向に移動可能な可動体と、前記駆動軸に固定される固定体と、前記可動体と前記固定体とにより区画され、内部の圧力によって前記可動体を移動させる制御圧室とを有し、
前記可動体は、前記駆動軸を挿通させる挿通孔が形成された本体部と、前記本体部と一体をなし、前記回転軸心方向に延びて前記固定体を取り囲む周壁とを有し、
前記ハウジングには、前記可動体を収納可能な収納壁が形成され、
前記周壁と前記固定体との間には第1遊隙が設けられ、
前記駆動軸と前記挿通孔との間には第2遊隙が設けられ、
前記周壁と前記収納壁との間には第3遊隙が設けられ、
前記駆動軸と前記第1ラジアル軸受との間には第4遊隙が設けられ、
前記駆動軸と前記第2ラジアル軸受との間には第5遊隙が設けられ、
前記第1遊隙と前記第2遊隙とは大きさが異なり、
前記第1遊隙及び前記第2遊隙のいずれか小さい一方と前記第3遊隙との和は、前記第4遊隙よりも大きく、かつ前記第5遊隙よりも大きく、
前記駆動軸のラジアル方向の変位によるラジアル荷重が前記可動体にかかることを防止することを特徴とする(請求項1)。
【0015】
本発明の圧縮機では、ハウジングと駆動軸との間に第1ラジアル軸受と第2ラジアル軸受とが設けられ、駆動軸と第1ラジアル軸受との間には第4遊隙が設けられ、駆動軸と第2ラジアル軸受との間には第5遊隙が設けられている。このため、この圧縮機では、ラジアル荷重により、第1シリンダボア側において、駆動軸が第1ラジアル軸受との間で第4遊隙の分だけラジアル方向に変位する。また、この圧縮機では、ラジアル荷重により、第2シリンダボア側において、駆動軸が第2ラジアル軸受との間で第5遊隙の分だけラジアル方向に変位する。
【0016】
さらに、この圧縮機では、周壁と固定体との間に第1遊隙が設けられ、駆動軸と挿通孔との間に第2遊隙が設けられ、周壁と収納壁との間に第3遊隙が設けられている。そして、この圧縮機では、第1遊隙と第2遊隙とは大きさが異なっている。また、第1遊隙及び第2遊隙のいずれか小さい一方と第3遊隙との和が第4遊隙よりも大きく、かつ第5遊隙よりも大きい。このため、この圧縮機では、駆動軸がラジアル方向に変位した場合であっても、ラジアル荷重が可動体にかかることを防止できる。
【0017】
このため、この圧縮機では、可動体の周壁が固定体や収納壁と干渉し難く、これらの間に過大な摩擦力が作用し難い。また、駆動軸と可動体の挿通孔とが干渉し難く、これらの間に過大な摩擦力が作用し難い。このため、この圧縮機では、可動体が回転軸心方向に移動し易く、圧縮容量を変更する際に高い制御性を発揮できる。
【0018】
そして、この圧縮機では、可動体が固定体や収納壁との間における摩擦力の他、駆動軸との間における摩擦力に打ち勝ちながら移動する必要がないため、圧縮容量の拡大を短時間で実現することが可能になり、冷え遅れが生じ難い。また、この圧縮機では、制御圧室等を大型化する必要もない。このため、この圧縮機では大型化を抑制できる。これにより、この圧縮機では、車両等への搭載性を高くできる。
【0019】
また、この圧縮機では、制御圧室を拡大する必要がないことから、制御圧室を変化させるために要する時間も短くできる。このため、この圧縮機では、搭載された車両等の走行状態に応じて迅速に圧縮容量を変更することが可能となる。さらに、この圧縮機では、圧縮容量を変更するに当たって、ECU等がエンジンに対して複雑な制御を行う必要もない。
【0020】
したがって、本発明の圧縮機によれば、高い制御性と小型化とを実現しつつ、圧縮容量の拡大及び縮小を迅速に行うことが可能となる。
【0021】
本発明の圧縮機において、第3遊隙は、第1遊隙よりも大きく、かつ第2遊隙よりも大きいことが好ましい。また、第3遊隙と、第1遊隙及び第2遊隙のいずれか小さい一方との差は、第4遊隙よりも大きく、かつ第5遊隙よりも大きいことが好ましい。そして、駆動軸のラジアル方向の変位による周壁と収納壁との接触が防止されることが好ましい(請求項2)。
【0022】
この場合には、駆動軸がラジアル方向に変位した際における可動体の周壁と収納壁との干渉を確実性高く防止することが可能となる。これにより、この圧縮機でも、可動体が回転軸心方向に好適に移動し、圧縮容量を変更する際により高い制御性を発揮できる。
【0023】
また、本発明において、第3遊隙は、第1遊隙よりも小さく、かつ第2遊隙よりも小さいことも好ましい。さらに、第1遊隙と第3遊隙との差は、第4遊隙よりも大きく、かつ第5遊隙よりも大きいことも好ましい。また、第2遊隙と第3遊隙との差は、第4遊隙よりも大きく、かつ第5遊隙よりも大きいことも好ましい。そして、駆動軸のラジアル方向の変位による周壁と固定体との接触が防止されることが好ましい(請求項3)。
【0024】
この場合には、駆動軸がラジアル方向に変位した際における可動体の周壁と固定体との干渉を確実性高く防止することが可能となる。これにより、この圧縮機では、可動体が回転軸心方向に好適に移動し、圧縮容量を変更する際により高い制御性を発揮できる。
【0025】
可動体及び固定体の少なくとも一方には、両者間の摺動抵抗力を低減する摺動層が形成されていることが好ましい(請求項4)。また、可動体及び収納壁の少なくとも一方には、両者間の摺動抵抗力を低減する摺動層が形成されていることが好ましい(請求項5)。
【0026】
これらの場合には、公差等により、例え、周壁と固定体とが干渉したり、周壁と収納壁とが干渉したりしても、回転軸心方向へ可動体を好適に移動させることが可能となる。これにより、この圧縮機では、圧縮容量を変更する際の制御性をより高くすることが可能となる。また、この圧縮機では、摺動層が設けられることで、可動体、固定体及び収納壁の耐久性を高くすることが可能となる。
【0027】
摺動層としては、スズめっきを採用することができる。また、フッ素樹脂等を塗布することで摺動層を形成することもできる。さらに、可動体等がアルミニウム合金によって形成されている場合、これらにアルマイト加工を施すことによって摺動層を形成することもできる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の圧縮機によれば、高い制御性と小型化とを実現しつつ、圧縮容量の拡大及び縮小を迅速に行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を具体化した実施例1、2を図面を参照しつつ説明する。実施例1、2の圧縮機は、容量可変型両頭斜板式圧縮機である。これらの圧縮機は、いずれも車両に搭載されており、車両用空調装置の冷凍回路を構成している。
【0031】
(実施例1)
図1に示すように、実施例1圧縮機は、ハウジング1と、駆動軸3と、斜板5と、リンク機構7と、複数のピストン9と、複数対のシュー11a、11bと、アクチュエータ13と、
図2に示す制御機構15とを備えている。
【0032】
図1に示すように、ハウジング1は、圧縮機の前方に位置するフロントハウジング17と、圧縮機の後方に位置するリヤハウジング19と、フロントハウジング17とリヤハウジング19との間に位置する第1シリンダブロック21及び第2シリンダブロック23を有している。
【0033】
フロントハウジング17には、前方に向かってボス17aが形成されている。このボス17a内には、駆動軸3との間に軸封装置25が設けられている。また、フロントハウジング17内には、第1吸入室27a及び第1吐出室29aが形成されている。第1吸入室27aはフロントハウジング17の内周側に位置し、第1吐出室29aはフロントハウジング17の外周側に位置している。
【0034】
リヤハウジング19には、上記の制御機構15が設けられている。また、リヤハウジング19には、第2吸入室27b、第2吐出室29b及び圧力調整室31が形成されている。第2吸入室27bはリヤハウジング19の内周側に位置し、第2吐出室29bはリヤハウジング19の外周側に位置している。圧力調整室31はリヤハウジング19の中心部分に位置している。第1吐出室29aと第2吐出室29bとは、図示しない吐出通路によって接続されている。吐出通路には圧縮機の外部に連通する吐出口(図示略)が形成されている。
【0035】
第1シリンダブロック21と第2シリンダブロック23とにより、斜板室33が形成されている。この斜板室33は、ハウジング1における前後方向の略中央に位置している。
【0036】
第1シリンダブロック21には、複数個の第1シリンダボア21aが同心円状に等角度間隔でそれぞれ平行に形成されている。また、第1シリンダブロック21には、駆動軸3を挿通させる第1軸孔21bが形成されている。この第1軸孔21b内には、第1滑り軸受22aが設けられている。この第1滑り軸受22aが本発明における第1ラジアル軸受に相当する。なお、第1ラジアル軸受として転がり軸受を採用しても良い。
【0037】
また、第1シリンダブロック21には、第1軸孔21bと連通して第1軸孔21bと同軸をなす第1収納室21cが凹設されている。この第1収納室21cは、第1シリンダブロック21の一部である第1収納壁210によって周囲が囲まれており、各第1シリンダボア21aと区画されている。この第1収納壁210が本発明における収納壁に相当する。第1収納室21c内は斜板室33と連通している。また、第1収納室21cは、前端に向かって段状に縮径する形状とされている。収納室21cの前端には、第1スラスト軸受35aが設けられている。さらに、第1シリンダブロック21には、斜板室33と第1吸入室27aとを連通する第1吸入通路37aが形成されている。
【0038】
第2シリンダブロック23にも、第1シリンダブロック21と同様、複数個の第2シリンダボア23aが形成されている。また、第2シリンダブロック23には、駆動軸3を挿通させる第2軸孔23bが形成されている。第2軸孔23bは圧力調整室31と連通している。この第2軸孔23内には、第2滑り軸受22bが設けられている。この第2滑り軸受22bが本発明における第2ラジアル軸受に相当する。なお、第2ラジアル軸受についても転がり軸受を採用しても良い。
【0039】
また、第2シリンダブロック23には、第2軸孔23bと連通して第2軸孔23bと同軸をなす第2収納室23cが凹設されている。この第2収納室23cは、第2シリンダブロック23の一部である第2収納壁230によって周囲が囲まれており、各第2シリンダボア23aと区画されている。第2収納室23cも斜板室33と連通している。第2収納室23cは、後端に向かって段状に縮径する形状とされている。第2収納室23cの後端には、第2スラスト軸受35bが設けられている。さらに、第2シリンダブロック23には、斜板室33と第2吸入室27bとを連通する第2吸入通路37bが形成されている。
【0040】
斜板室33は、第2シリンダブロック23に形成された吸入口330を介して、図示しない蒸発器と接続されている
【0041】
フロントハウジング17と第1シリンダブロック21との間には、第1バルブプレート39が設けられている。第1バルブプレート39には、第1シリンダボア21aと同数の吸入ポート39b及び吐出ポート39aが形成されている。各吸入ポート39bには、それぞれ図示しない吸入弁機構が設けられている。各吸入ポート39bにより、各第1シリンダボア21aは吸入弁機構を介して第1吸入室27aと連通している。各吐出ポート39aには、それぞれ図示しない吐出弁機構が設けられている。各吐出ポート39aにより、各第1シリンダボア21aは吐出弁機構を介して第1吐出室29aと連通している。また、第1バルブプレート39には、第1吸入室27aと第1吸入通路37aとを連通する連通孔39cが形成されている。
【0042】
リヤハウジング19と第2シリンダブロック23との間には、第2バルブプレート41が設けられている。第1バルブプレート39と同様、第2バルブプレート41にも、第2シリンダボア23aと同数の吸入ポート41b及び吐出ポート41aが形成されている。各吸入ポート41bには、それぞれ図示しない吸入弁機構が設けられている。各吸入ポート41bにより、各第2シリンダボア23aは吸入弁機構を介して第2吸入室27bと連通している。各吐出ポート41aには、それぞれ図示しない吐出弁機構が設けられている。各吐出ポート41aにより、各第2シリンダボア23aは吐出弁機構を介して第2吐出室29bと連通している。また、第2バルブプレート41には、第2吸入室27bと第2吸入通路37bとを連通する連通孔41cが形成されている。
【0043】
第1、2吸入通路37a、37b及び連通孔39c、41cにより、第1、2吸入室27a、27bと斜板室33とが互いに連通している。このため、第1、2吸入室27a、27b内と斜板室33内とは、圧力がほぼ等しくなっている。そして、斜板室33には、吸入口330を通じて蒸発器を経た冷媒ガスが流入することから、斜板室33内及び第1、2吸入室27a、27b内の各圧力は、第1、2吐出室29a、29b内よりも低圧である。
【0044】
駆動軸3には、斜板5とアクチュエータ13とフランジ3aとがそれぞれ取り付けられている。駆動軸3は、ボス17aから後方に向かって延びており、第1、2滑り軸受22a、22b内に挿通されている。これにより、駆動軸3は、回転軸心O周りで回転可能に軸支されている。そして、ハウジング1に駆動軸3が挿通されることにより、斜板5とアクチュエータ13とフランジ3aとがそれぞれ斜板室33内に配置されている。
【0045】
駆動軸3の後端側には、支持部材43が圧入されている。この支持部材43には、第2スラスト軸受35bと当接するフランジ43aが形成されているとともに、後述する第2ピン47bが挿通される取付部(図示略)が形成されている。さらに、支持部材43には、第2復帰ばね44bの後端が固定されている。この第2復帰ばね44bは、回転軸心O方向で、支持部材43側から斜板室33側に向かって延びている。
【0046】
この圧縮機では、
図3に示すように、駆動軸3が第1、2滑り軸受22a、22bに挿通された状態で、駆動軸3と第1滑り軸受22aとの間に第4遊隙X4が設けられている。また、駆動軸3と第2滑り軸受22bとの間、より具体的には、支持部材43と第2滑り軸受22との間に第5遊隙X5が設けられている。これらの第4、5遊隙X4、X5についての詳細は後述する。
【0047】
また、
図1に示すように、駆動軸3内には、後端から前方に向かって回転軸心O方向に延びる軸路3bと、軸路3bの前端から径方向に延びて駆動軸3の外周面に開く径路3cとが形成されている。軸路3b及び径路3cが連絡路である。軸路3bの後端は圧力調整室31に開いている。一方、径路3cは、後述する制御圧室13cに開いている。
【0048】
駆動軸3の先端にはねじ部3dが形成されている。駆動軸3は、ねじ部3dを介して図示しないプーリ又は電磁クラッチと接続されている。これらのプーリ又は電磁クラッチのプーリには車両のエンジンによって駆動される図示しないベルトが巻き掛けられている。
【0049】
斜板5は環状の平板形状をなしており、前面5aと後面5bとを有している。前面5aは、斜板室33内において圧縮機の前方に面している。また、後面5bは、斜板室33内において圧縮機の後方に面している。この斜板5はリングプレート45に固定されている。このリングプレート45は環状の平板形状に形成されており、中心部に挿通孔45aが形成されている。斜板5は、斜板室33内において挿通孔45aに駆動軸3が挿通されることにより駆動軸3に取り付けられている。
【0050】
リンク機構7はラグアーム49を有している。ラグアーム49は、斜板室33内において、斜板5よりも後方に配置されており、斜板5と支持部材43との間に位置している。ラグアーム49は、前端側から後端側に向かって略L字形状となるように形成されている。ラグアーム49は、
図4に示すように、回転軸心Oに対する斜板5の傾斜角度が最小になった時に支持部材43のフランジ43aと当接するようになっている。このため、この圧縮機では、ラグアーム49によって、斜板5の傾斜角度を最小値に維持することが可能となっている。また、ラグアーム49の前端側には、ウェイト部49aが形成されている。ウェイト部49aは、アクチュエータ13の周方向におよそ半周にわたって延びている。なお、ウェイト部49aの形状は適宜設計することが可能である。
【0051】
ラグアーム49の前端側は、第1ピン47aによってリングプレート45の一端側と接続されている。これにより、ラグアーム49の一端側は、第1ピン47aの軸心を第1揺動軸心M1として、リングプレート45の一端側、すなわち斜板5に対し、第1揺動軸心M1周りで揺動可能に支持されている。この第1揺動軸心M1は、駆動軸3の回転軸心Oと直交する方向に延びている。
【0052】
ラグアーム49の後端側は、第2ピン47bによって支持部材43と接続されている。これにより、ラグアーム49の他端側は、第2ピン47bの軸心を第2揺動軸心M2として、支持部材43、すなわち駆動軸3に対し、第2揺動軸心M2周りで揺動可能に支持されている。この第2揺動軸心M2は第1揺動軸心M1と平行に延びている。これらのラグアーム49、第1、2ピン47a、47bが本発明におけるリンク機構7に相当している。
【0053】
ウェイト部49aは、ラグアーム49の一端側、つまり、第1揺動軸心M1を基準として第2揺動軸心M2とは反対側に延在して設けられている。このため、ラグアーム49が第1ピン47aによってリングプレート45に支持されることで、ウェイト部49aはリングプレート45の溝部45bを通って、リングプレート45の前面、つまり斜板5の前面5a側に位置する。そして、斜板5が回転軸心O周りに回転することにより発生する遠心力が斜板5の前面5a側でウェイト部49aにも作用することとなる。
【0054】
この圧縮機では、斜板5と駆動軸3とがリンク機構7によって接続されることにより、斜板5は駆動軸3と共に回転することが可能となっている。また、ラグアーム49の両端がそれぞれ第1揺動軸心M1及び第2揺動軸心M2周りで揺動することにより、斜板5は傾斜角度を変更することが可能となっている。
【0055】
各ピストン9は、それぞれ前端側に第1ピストンヘッド9aを有し、後端側に第2ピストンヘッド9bを有している。第1ピストンヘッド9aは第1シリンダボア21a内を往復動可能に収納され、第1圧縮室21dを形成している。第2ピストンヘッド9bは第2シリンダボア23a内を往復動可能に収納され、第2圧縮室23dを形成している。また、各ピストン9の中央には凹部9cが形成されている。各凹部9c内には、半球状のシュー11a、11bがそれぞれ設けられている。これらのシュー11a、11bによって斜板5の回転がピストン9の往復動に変換されるようになっている。シュー11a、11bが本発明における変換機構に相当している。こうして、斜板5の傾斜角度に応じたストロークで、第1、2ピストンヘッド9a、9bがそれぞれ第1、2シリンダボア21a、23a内を往復動することが可能となっている。
【0056】
アクチュエータ13は、斜板室33内に配置されており、斜板5よりも前方側に位置し、第1凹部21c内に進入することが可能となっている。アクチュエータ13は、第1凹部21c内に進入することで、第1収納壁210に収納された状態となる。
図3に示すように、アクチュエータ13は、可動体13aと固定体13bと制御圧室13cとを有している。また、可動体13aと固定体13bとの間に制御圧室13cが形成されている。
【0057】
可動体13aは、本体部130と周壁131とを有している。本体部130は、可動体13aの前方に位置しており、回転軸心Oから離れる方向で径方向に延びている。また、本体部130には挿通孔132が貫設され、挿通孔132内にリング溝133が凹設されている。リング溝133にはOリング14aが収納されている。
【0058】
周壁131は、本体部130の外周縁と連続し、前方から後方に向かって延びている。また、この周壁131の後端には、
図1に示すように、一対の連結部134が形成されている。各連結部134は、周壁131の後端から更に可動体13aの後方に向かって突出している。これらの本体部130、周壁131及び連結部134により、可動体13aは有底の円筒状に形成されている。
【0059】
図3に示すように、固定体13bは、可動体13aの内径とほぼ同径の円板状に形成されている。固定体13bの中心には、挿通孔135が貫設されている。さらに、固定体13bの外周面にはリング溝136が凹設されている。リング溝136にはOリング14bが収納されている。
【0060】
また、
図5に示すように、本体部136の外周面には、スズめっきからなる摺動層51が形成されている。
【0061】
図1に示すように、可動体13a及び固定体13bには、各挿通孔132、135を通じて駆動軸3が挿通されている。これにより、可動体13aは、第1収納壁210に収納された状態で、斜板5を挟んでリンク機構7と対向して配置された状態となっている。一方、固定体13bは、斜板5よりも前方で可動体13a内に配置されており、その周囲が周壁131によって取り囲まれた状態となっている。これにより、可動体13aと固定体13bとの間に制御圧室13cが形成されている。この制御圧室13cは、可動体13aの前面130と周壁131と固定体13bとによって斜板室33から区画されている。上記のように、制御圧室13c内には径路3cが開いており、径路3c及び軸路3bを通じて、制御圧室13cは圧力調整室31と連通している。
【0062】
また、駆動軸3が挿通されることで、可動体13aは、駆動軸3と共に回転可能となっているとともに、斜板室33内において、駆動軸3の回転軸心O方向に移動することが可能となっている。一方、固定体13bは、駆動軸3に挿通された状態で、駆動軸3に固定されている。これにより、固定体13bは、駆動軸3と共に回転することのみ可能となっており、可動体13aのように移動することは不可能となっている。これにより、可動体13aは、回転軸心O方向に移動するに当たり、固定体13bに対して相対移動する。
【0063】
この圧縮機では、
図3に示すように、駆動軸3が挿通され、かつ、固定体13bが可動体13a内に配置された状態で、可動体13aの周壁131の内面と固定体13bの外周面との間に第1遊隙X1が設けられている。また、駆動軸3と可動体13aの挿通孔132との間には第2遊隙X2が設けられている。さらに、第1収納壁210に収納された状態で、周壁131の外面と第1収納壁210との間には第3遊隙X3が設けられている。
【0064】
この圧縮機では、第1遊隙X1が第2遊隙X2よりも大きくなるように可動体13a及び固定体13bが設計されている。また、この圧縮機では、第3遊隙X3が第1遊隙X1及び第2遊隙X2よりも大きくなるように、第1収納室21cの大きさが設計されている。さらに、この圧縮機では、第4遊隙X4が第5遊隙X5よりも大きくなるように支持部材43の大きさが設計されている。
【0065】
そして、この圧縮機では、第2遊隙X2と第3遊隙X3との和が第4遊隙X4と第5遊隙X5とのいずれよりも大きいとともに、第3遊隙X3と第2遊隙X2との差が第4遊隙X4と第5遊隙X5とのいずれよりも大きくなるように、可動体13aや固定体13b等が設計されている。なお、
図3では、説明を容易にするため、第1〜5遊隙X1〜X5の各大きさを誇張して図示している。また、同図では連結部134等の図示を省略している。後述の
図6についても同様である。
【0066】
図1に示すように、可動体13aの各連結部134には、リングプレート45の一端側が第3ピン47cによって接続されている。これにより、リングプレート45の一端側、すなわち、斜板5は、第3ピン47cの軸心を作用軸心M3として、作用動軸心M3周りで可動体13aに揺動可能に支持されている。この作用軸心M3は、第1、2揺動軸心M1、M2と平行に延びている。こうして、可動体13aは斜板5と連結された状態となっている。そして、可動体13aは、斜板5の傾斜角度が最大になった時にフランジ3aと当接するようになっている。
【0067】
また、固定体13bとリングプレート45との間には、第1復帰ばね44aが設けられている。具体的には、この第1復帰ばね44aの前端は、固定体13bに固定されており、第1復帰ばね44aの後端は、リングプレート45の他端側に固定されている。
【0068】
図2に示すように、制御機構15は、抽気通路15aと給気通路15bと制御弁15cとオリフィス15dとを有している。
【0069】
抽気通路15aは、圧力調整室31と第2吸入室27bとに接続されている。これにより、この抽気通路15aと軸路3bと径路3cとによって、制御圧室13cと圧力調整室31と第2吸入室27bとは、互いに連通した状態となっている。給気通路15bは、圧力調整室31と第2吐出室29bとに接続されている。この給気通路15bと軸路3bと径路3cとによって、制御圧室13cと圧力調整室31と第2吐出室29bとが連通している。また、給気通路15bには、オリフィス15dが設けられており、給気通路15b内を流通する冷媒ガスの流量が絞られている。
【0070】
制御弁15cは抽気通路15aに設けられている。この制御弁15cは、第2吸入室27b内の圧力に基づき抽気通路15aの開度を調整することが可能となっており、抽気通路15aを流通する冷媒ガスの流量を調整することが可能となっている。
【0071】
この圧縮機では、
図1に示す吸入口330に対して蒸発器に繋がる配管が接続されるとともに、吐出口に対して凝縮器に繋がる配管が接続される。凝縮器は配管及び膨張弁を介して蒸発器と接続される。これらの圧縮機、蒸発器、膨張弁、凝縮器等によって車両用空調装置の冷凍回路が構成されている。なお、蒸発器、膨張弁、凝縮器及び各配管の図示は省略する。
【0072】
以上のように構成された圧縮機では、駆動軸3が回転することにより、斜板5が回転し、各ピストン9が第1、2シリンダボア21a、23a内を往復動する。このため、第1、2圧縮室21d、23dがピストンストロークに応じて容積変化を生じる。このため、蒸発器から吸入口330によって斜板室33に吸入された冷媒ガスは、第1、2吸入室27a、27bを経て各第1、2圧縮室21d、23d内で圧縮され、第1、2吐出室29a、29bに吐出される。第1、2吐出室29a、29b内の冷媒ガスは吐出口から凝縮器に吐出される。
【0073】
この間、斜板5、リングプレート45、ラグアーム49及び第1ピン47aからなる回転体には斜板5の傾斜角度を小さくするピストン圧縮力が作用する。そして、斜板5の傾斜角度が変更されれば、ピストン9のストロークの増減による容量制御を行うことが可能である。
【0074】
具体的には、制御機構15において、
図2に示す制御弁15cが抽気通路15aを流通する冷媒ガスの流量を増大させれば、第2吐出室29b内の冷媒ガスが給気通路15b及びオリフィス15dを経て圧力調整室31内に貯留され難くなる。このため、制御圧室13cの圧力が第2吸入室27bとほぼ等しくなる。このため、斜板5に作用するピストン圧縮力によって、
図4に示すように、アクチュエータ13が変位し、可動体13aが斜板室33の後方側、すなわち、第1収納室21cの外に向かって移動し、ラグアーム49と近接する。
【0075】
これにより、この圧縮機では、第1復帰ばね44aの付勢力に抗しつつ、リングプレート45の下端側、すなわち、斜板5の下端側が作用軸心M3周りで反時計回り方向に揺動する。また、ラグアーム49の一端が第1揺動軸心M1周りで時計回り方向に揺動するとともに、ラグアーム49の他端が第2揺動軸心M2周りで時計回り方向に揺動する。このため、ラグアーム49が支持部材43のフランジ43aに接近する。これらにより、斜板5は、作用軸心M3を作用点とし、第1揺動軸心M1を支点として揺動する。このため、駆動軸3の回転軸心Oに対する斜板5の傾斜角度が減少し、ピストン9のストロークが減少することで、圧縮機の1回転当たりの吸入及び吐出容量が小さくなる。なお、
図4に示す斜板5の傾斜角度がこの圧縮機における最小傾斜角度である。そして、斜板5が最小傾斜角度となった際、可動体13aは、斜板室33内であって、第1収納室21cの外となる位置に移動する。
【0076】
ここで、この圧縮機では、ウェイト部49aに作用した遠心力も斜板5に付与される。このため、この圧縮機では、斜板5が傾斜角度を減少させる方向に変位し易くなっている。また、可動体13aが斜板室33の後方側に移動することで、可動体13aの後端がウェイト部49aの内側に位置する。これにより、この圧縮機では、斜板5の傾斜角度が減少した際、可動体13aの後端のおよそ半分がウェイト部49aによって覆われた状態となる。
【0077】
また、斜板5の傾斜角度が減少することで、リングプレート45が第2復帰ばね44bの前端と当接する。これにより、第2復帰ばね44bが弾性変形し、第2復帰ばね44bの前端が支持部材43に近接する。
【0078】
一方、
図2に示す制御弁15cが抽気通路15aを流通する冷媒ガスの流量を減少させれば、第2吐出室29b内の冷媒ガスが給気通路15b及びオリフィス15dを経て圧力調整室31内に貯留され易くなる。このため、制御圧室13cの圧力が第2吐出室29bとほぼ等しくなる。このため、斜板5に作用するピストン圧縮力に抗して、アクチュエータ13が変位し、
図1に示すように、可動体13aが斜板室33の前方側、つまり、第1収納室21c内に向かって移動し、ラグアーム49から遠隔する。
【0079】
これにより、この圧縮機では、作用軸心M3において、各連結部134を通じて可動体13aが斜板5の下端側を斜板室33の前方側へ牽引する状態となる。これにより、斜板5の下端側が作用軸心M3周りで時計回り方向に揺動する。また、ラグアーム49の一端が第1揺動軸心M1周りで反時計回り方向に揺動するとともに、ラグアーム49の他端が第2揺動軸心M2周りで反時計回り方向に揺動する。このため、ラグアーム49が支持部材43のフランジ43aから離間する。これらにより、斜板5は、作用軸心M3及び第1揺動軸心M1をそれぞれ作用点及び支点とし、上述の傾斜角度が小さくなる場合と反対方向に揺動する。このため、駆動軸3の回転軸心Oに対する斜板5の傾斜角度が増大し、ピストン9のストロークが増大することで、圧縮機の1回転当たりの吸入及び吐出容量が大きくなる。なお、
図1に示す斜板5の傾斜角度がこの圧縮機における最大傾斜角度である。
【0080】
これらのように作動することにより、この圧縮機では、各ピストン9に作用する圧縮反力及び吐出反力等によるラジアル荷重が駆動軸3に作用する。ここで、この圧縮機では、
図3に示すように、駆動軸3と第1滑り軸受22aとの間に第4遊隙X4が設けられ、支持部材43と第2滑り軸受22bとの間に第5遊隙X5が設けられている。このため、この圧縮機では、ラジアル荷重により、第1シリンダボア21a側において、駆動軸3が第1滑り軸受22aとの間で第4遊隙X4の分だけラジアル方向に変位する。また、この圧縮機では、ラジアル荷重により、第2シリンダボア23a側において、駆動軸3が第2滑り軸受22bとの間で第5遊隙X5の分だけラジアル方向に変位する。
【0081】
ここで、この圧縮機では、可動体13aの周壁131の内面と固定体13bの外周面との間に第1遊隙X1が設けられており、駆動軸3と可動体13aの挿通孔132との間に第2遊隙X2が設けられている。そして、この圧縮機では、第1遊隙X1が第2遊隙X2よりも大きくなっている。また、この圧縮機では、周壁131の外面と第1収納壁210との間に設けられた第3遊隙X3が第1遊隙X1と第2遊隙X2とのいずれよりも大きくなっている。そして、この圧縮機では、第2遊隙X2と第3遊隙X3との和が第4遊隙X4よりも大きく、かつ、第5遊隙とのいずれよりも大きくなっている。さらに、この圧縮機では、第3遊隙X3と第2遊隙X2との差が第4遊隙X4よりも大きく、かつ第5遊隙X5よりも大きくなっている。
【0082】
これらのため、この圧縮機では、駆動軸3がラジアル方向に変位した場合であっても、ラジアル荷重が可動体13aにかかることを防止できる。このため、この圧縮機では、可動体13aの周壁131が固定体13bや第1収納壁210と干渉し難く、これらの間に過大な摩擦力が作用し難くなっている。また、この圧縮機では、駆動軸3と可動体13aの挿通孔132とが干渉し難く、これらの間に過大な摩擦力が作用し難くなっている。
【0083】
そして、この圧縮機では、駆動軸3のラジアル方向への変位により、アクチュエータ13において、仮に、Oリング14bの変形代を越えて周壁131の内面と固定体13bの外周面とが干渉しても、周壁131の外面と第1収納壁210とが接触せず、周壁131と第1収納壁210とが干渉することがない。同様に、この圧縮機では、駆動軸3のラジアル方向への変位により、アクチュエータ13において、仮に、Oリング14aの変形代を越えて駆動軸3と挿通孔132とが干渉しても、やはり周壁131と第1収納壁210とが接触せず、これらが干渉することがない。
【0084】
このように、この圧縮機では、駆動軸3がラジアル方向に変位した際に、可動体13aの周壁131の外面と第1収納壁210との干渉が確実性高く防止されることで、周壁131の外面と第1収納壁210との間に過大な摩擦力が作用しない。このため、この圧縮機では、可動体13aが回転軸心O方向に移動し易く、圧縮容量を変更する際に高い制御性を発揮できる。
【0085】
そして、この圧縮機では、可動体13aが固定体13bや第1収納壁210との間における摩擦力の他、駆動軸3との間における摩擦力に打ち勝ちながら移動する必要がないため、圧縮容量の拡大を短時間で実現することが可能になり、冷え遅れが生じ難くなっている。また、この圧縮機では、制御圧室13c等を大型化する必要もない。このため、この圧縮機では大型化を抑制している。これにより、この圧縮機では、車両等への搭載性が高くなっている。
【0086】
また、この圧縮機では、制御圧13c室を拡大する必要がないことから、制御圧室13cを変化させるために要する時間も短くできる。このため、この圧縮機では、搭載された車両等の走行状態に応じて迅速に圧縮容量を変更することが可能となる。さらに、この圧縮機では、圧縮容量を変更するに当たって、ECU等がエンジンに対して複雑な制御を行う必要もない。
【0087】
したがって、実施例1の圧縮機によれば、高い制御性と小型化とを実現しつつ、圧縮容量の拡大及び縮小を迅速に行うことが可能となる。
【0088】
特に、この圧縮機では、固定体13bの外周面に摺動層51が形成されているため、公差等により、例え、周壁131の内面と固定体13bとが干渉した場合であっても、回転軸心O方向へ可動体13aを好適に移動させることが可能となっている。また、この圧縮機では、摺動層51が設けられることで、可動体13a及び固定体13bの耐久性が高くなっている。
【0089】
(実施例2)
実施例2の圧縮機では、
図6に示すように、第3遊隙X3が第1遊隙X1及び第2遊隙X2よりも小さくなるように、第1収納室21cの大きさが設計されている。つまり、この圧縮機では、実施例1の圧縮機よりも第1収納室21cが小さく形成されている。
【0090】
また、この圧縮機では、第2遊隙X2と第3遊隙X3との和が第4遊隙X4と第5遊隙X5とのいずれよりも大きくなっている。さらに、この圧縮機では、第1遊隙X1と第3遊隙X3との差が第4遊隙X4よりも大きく、かつ、第5遊隙X5よりも大きくなっている。そして、この圧縮機では、第2遊隙X1と第3遊隙X3との差が第4遊隙X4よりも大きく、かつ、第5遊隙X5よりも大きくなっている。
【0091】
また、
図7に示すように、第1収納壁210に対して、スズめっきからなる摺動層51が形成されている。一方、この圧縮機では、実施例1の圧縮機とは異なり、固定体13bの外周面に摺動層51が設けられていない。この圧縮機における他の構成は実施例1の圧縮機と同様であり、同一の構成については同一の符号を付して構成に関する詳細な説明を省略する。
【0092】
図6に示すように、この圧縮機においても、ラジアル荷重が駆動軸3に作用することで、第1シリンダボア21a側において、駆動軸3が第1滑り軸受22aとの間で第4遊隙X4の分だけラジアル方向に変位するとともに、第2シリンダボア23a側において、駆動軸3が第2滑り軸受22bとの間で第5遊隙X5の分だけラジアル方向に変位する。
【0093】
ここで、この圧縮機では、第1遊隙X1が第2遊隙X2よりも大きくなっている。また、この圧縮機では、第3遊隙X3が第1遊隙X1よりも小さく、かつ、第2遊隙X2よりも小さくなっている。さらに、この圧縮機では、第2遊隙X2と第3遊隙X3との和が第4遊隙X4よりも大きく、かつ第5遊隙X5よりも大きくなっている。また、この圧縮機では、第1遊隙X1と第3遊隙X3との差が第4遊隙X4よりも大きく、かつ第5遊隙X5よりも大きくなっている。そして、この圧縮機では、第2遊隙X2と第3遊隙X3との差についても、第4遊隙X4よりも大きく、かつ第5遊隙X5よりも大きくなっている。
【0094】
これらのため、この圧縮機においても、駆動軸3がラジアル方向に変位した場合に、ラジアル荷重が可動体13aにかかることを防止できる。このため、この圧縮機では、可動体13aの周壁131が固定体13bや第1収納壁210とが干渉し難く、これらの間に過大な摩擦力が作用し難くなっている。また、この圧縮機では、駆動軸3と可動体13aの挿通孔132とが干渉し難く、これらの間に過大な摩擦力が作用し難くなっている。
【0095】
そして、この圧縮機では、駆動軸3のラジアル方向への変位により、仮に、可動体13a周壁131の外面と第1収納壁210とが干渉しても、周壁131の内面と固定体13bの外周面とが接触せず、周壁131と固定体13bとが干渉することがない。同様に、この圧縮機では、駆動軸3のラジアル方向への変位により、仮に、可動体13a周壁131の外面と第1収納壁210とが干渉しても、駆動軸3と挿通孔132とが接触せず、これらが干渉することがない。
【0096】
このように、この圧縮機では、駆動軸3がラジアル方向に変位した際における、可動体13aの周壁131の内面と固定体13bとの干渉と、駆動軸3と可動体13aの挿通孔132との干渉とが共に確実性高く防止される。このため、この圧縮機も可動体13aが回転軸心O方向に移動し易く、圧縮容量を変更する際に高い制御性を発揮できる。
【0097】
また、この圧縮機では、第1収納壁210に摺動層51が形成されているため、公差等により、例え、周壁131の外面と第1収納壁210とが干渉した場合であっても、回転軸心O方向へ可動体13aを好適に移動させることが可能となっている。また、この圧縮機では、摺動層51が設けられることで、可動体13a及び第1シリンダブロック21の耐久性が高くなっている。この圧縮機における他の作用は実施例1の圧縮機と同様である。
【0098】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0099】
例えば、実施例1、2の圧縮機において、第1シリンダブロック21又は第2シリンダブロック23のいずれか一方にのみシリンダボアを設けるとともに、ピストン9に第1ピストンヘッド9a又は第2ピストンヘッド9bのいずれか一方のみを設ける構成することで、容量可変型片頭斜板式圧縮機としても良い。
【0100】
また、実施例1、2の圧縮機における制御機構15について、給気通路15bに対して制御弁15cを設けるとともに、抽気通路15aにオリフィス15dを設ける構成としても良い。この場合には、制御弁15cによって、給気通路15cを流通する高圧の冷媒の流量を調整することが可能となる。これにより、第2吐出室29b内の高圧によって制御圧室13cを迅速に高圧とすることで、迅速な圧縮容量の減少を行うことが可能となる。
【0101】
また、実施例1、2の圧縮機において、第2遊隙X2が第1遊隙X1よりも大きくても良く、第5遊隙X5が第4遊隙X4よりも大きくても良い。
【0102】
さらに、実施例1、2の圧縮機において、第1遊隙X1と第2遊隙X2とで大きさに差異を設け、第1遊隙X1及び第2遊隙X2のいずれか小さい一方と第3遊隙X3との和が第4遊隙X4よりも大きく、かつ第5遊隙X5よりも大きいことのみを規定しても良い。
【0103】
また、実施例1の圧縮機において、可動体13aの周壁131の内面に対して摺動層51を形成しても良い。さらに、固定体13bの外周面と、周壁131の内面との両方に摺動層51を形成しても良い。また、実施例1の圧縮機において、周壁131の外面や第1収納壁210に対しても摺動層51を形成しても良い。
【0104】
さらに、実施例2の圧縮機において、可動体13aの周壁131の外面に対して摺動層51を形成しても良い。また、第1収納壁210と、周壁131の外面との両方に摺動層51を形成しても良い。さらに、実施例2の圧縮機において、周壁131の内面や固定体13bの外周面に対しても摺動層51を形成しても良い。