(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949670
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】電線被覆材用樹脂組成物および絶縁電線ならびにワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
H01B 3/30 20060101AFI20160630BHJP
C08L 81/06 20060101ALI20160630BHJP
H01B 3/42 20060101ALI20160630BHJP
H01B 3/28 20060101ALI20160630BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20160630BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20160630BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20160630BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20160630BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
H01B3/30 J
C08L81/06
H01B3/42 E
H01B3/28
H01B7/02 Z
H01B7/00 301
H01B3/30 P
H01B3/30 N
C08L67/00
C08K5/20
C08K5/10
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-118984(P2013-118984)
(22)【出願日】2013年6月5日
(65)【公開番号】特開2014-234502(P2014-234502A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2015年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】古川 豊貴
(72)【発明者】
【氏名】村尾 諭
【審査官】
小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/090921(WO,A1)
【文献】
特開平2−273411(JP,A)
【文献】
特表2005−531120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/16−3/56
C08L 67/00
C08L 81/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリサルホン系樹脂、(B)芳香族ポリエステル樹脂、(C)ポリエステルエラストマー、(D)脂肪酸アミドおよび脂肪酸エステルから選択される少なくとも1種、(E)顔料、を含むことを特徴とする電線被覆材用樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)〜(C)成分を合わせた合計成分中に、前記(C)ポリエステルエラストマーが1〜50質量%含まれることを特徴とする請求項1に記載の電線被覆材用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)〜(B)成分を合わせた合計成分中に、前記(B)芳香族ポリエステル樹脂が1〜40質量%含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の電線被覆材用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)〜(C)成分を合わせた合計成分100質量部に対し、前記(D)成分が0.01〜3質量部含まれることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電線被覆材用樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)ポリサルホン系樹脂が、ポリエーテルサルホンおよびポリフェニルサルホンから選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電線被覆材用樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)芳香族ポリエステル樹脂が、繰り返し単位の構造内にナフチル基を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電線被覆材用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の電線被覆材用樹脂組成物を用いて電線被覆を形成したことを特徴とする絶縁電線。
【請求項8】
請求項7に記載の絶縁電線を有することを特徴とするワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線被覆材用樹脂組成物および絶縁電線ならびにワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、自動車内などの振動する環境で使用される絶縁電線の被覆材として好適な電線被覆材用樹脂組成物とこれを被覆材として用いた絶縁電線ならびにワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車内などの振動する環境で使用される絶縁電線は、絶縁電線同士や絶縁電線と電線保護材との間、絶縁電線と車体との間などで接触されることにより、被覆材が摩耗しやすい。また、自動車内などの限られたスペースを有効に利用する必要上、絶縁電線には細径化が求められており、その一環として被覆材には厚みを薄くすることが求められている。そこで、摩耗に強い被覆材としてポリサルホンやポリエーテルサルホンなどを用いる試みがなされている(特許文献1、2)。
【0003】
また、自動車等のワイヤーハーネスに使用される絶縁電線の被覆材には、ワイヤーハーネス組み立て時に各絶縁電線を識別しやすくするために、顔料を配合することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平02−273411号公報
【特許文献2】特開平02−183907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリサルホンやポリエーテルサルホンに顔料を配合すると、顔料の分散性が悪く、色ムラなどの着色不良が生じやすい。顔料の分散性を高めるために分散剤を配合すると、分散剤とポリサルホンやポリエーテルサルホンとの相溶性が問題となって耐摩耗性などの物性低下が生じるおそれがある。また、ポリサルホンやポリエーテルサルホンは成形温度が高いため、成形時に分散剤の劣化が生じやすく、これにより変色などの着色不良や耐摩耗性などの物性低下が生じるおそれがある。
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、耐摩耗性を低下させることなく顔料によって良好に着色できる電線被覆材用樹脂組成物とこれを被覆材として用いた絶縁電線ならびにワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明に係る電線被覆材用樹脂組成物は、(A)ポリサルホン系樹脂、(B)芳香族ポリエステル樹脂、(C)ポリエステルエラストマー、(D)脂肪酸アミドおよび脂肪酸エステルから選択される少なくとも1種、(E)顔料、を含むことを要旨とするものである。
【0008】
(C)ポリエステルエラストマーは、(A)〜(C)成分を合わせた合計成分中に1〜50質量%含まれることが好ましい。(B)芳香族ポリエステル樹脂は、(A)〜(B)成分を合わせた合計成分中に1〜40質量%含まれることが好ましい。(D)脂肪酸アミドおよび脂肪酸エステルから選択される少なくとも1種は、(A)〜(C)成分を合わせた合計成分100質量部に対し0.01〜3質量部含まれることが好ましい。
【0009】
ポリサルホン系樹脂としては、ポリエーテルサルホンおよびポリフェニルサルホンから選択される1種または2種以上が好ましい。芳香族ポリエステル樹脂としては、繰り返し単位構造内にナフチル基を有するものが好ましい。
【0010】
本発明に係る絶縁電線は、上記の電線被覆材用樹脂組成物を用いて電線被覆を形成したことを要旨とするものである。また、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記の絶縁電線を有することを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電線被覆材用樹脂組成物は、(A)ポリサルホン系樹脂、(B)芳香族ポリエステル樹脂、(C)ポリエステルエラストマー、(D)脂肪酸アミドおよび脂肪酸エステルから選択される少なくとも1種、(E)顔料、を含むことにより、耐摩耗性を低下させることなく顔料によって良好に着色できる。
【0012】
ポリサルホン系樹脂としてポリエーテルサルホン、ポリフェニルサルホンあるいはこれらの組み合わせを用いると、耐摩耗性により優れる。芳香族ポリエステル樹脂として繰り返し単位の構造内にナフチル基を有するものを用いると、ポリサルホン系樹脂およびポリエステルエラストマーとの相溶性により優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る絶縁電線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る電線被覆材用樹脂組成物は、(A)ポリサルホン系樹脂、(B)芳香族ポリエステル樹脂、(C)ポリエステルエラストマー、(D)脂肪酸アミドおよび脂肪酸エステルから選択される少なくとも1種、(E)顔料、を含む。
【0015】
(A)ポリサルホン系樹脂は、熱可塑性樹脂であり、繰り返し単位の構造内(主鎖内)にスルホニル基を有するものである。(A)ポリサルホン系樹脂は、本発明に係る電線被覆材用樹脂組成物の耐摩耗性を向上する成分となる。(A)ポリサルホン系樹脂としては、具体的には、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニルサルホンなどが挙げられる。これらは、(A)ポリサルホン系樹脂として、単独で用いられても良いし、2種以上が組み合わされて用いられても良い。耐摩耗性を向上する効果により優れるなどの観点からいうと、(A)ポリサルホン系樹脂は、ポリエーテルサルホン、ポリフェニルサルホン、あるいは、これらの組み合わせであることが好ましい。
【0016】
(E)顔料は、電線被覆材用樹脂組成物の着色に用いられる。(E)顔料は、電線被覆材の顔料として一般に用いられるものを好適に用いることができる。(E)顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。
【0017】
(A)ポリサルホン系樹脂に(E)顔料を配合しただけでは、顔料の分散性が悪く、色ムラなどの着色不良が生じやすい。(D)成分は、(E)顔料の分散性を向上させるために配合される。(D)成分は、樹脂の溶融粘度を下げて内部滑性を向上することにより(E)顔料の分散性を向上する。(D)成分は、成形温度の高い(A)成分とともに用いられるため、成形時に劣化しにくいものを用いる。(D)成分は、脂肪酸アミドおよび脂肪酸エステルから選択される少なくとも1種である。これらは、アミド基またはエステル基を有し、炭化水素系の化合物と比べて第3級炭素が少なく、さらに分子間の相互作用も大きいため、比較的耐熱性の高いものである。これにより、(D)成分に起因する変色などの着色不良や耐摩耗性などの物性低下が抑えられる。
【0018】
脂肪酸アミドとしては、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミドなどが挙げられる。
【0019】
脂肪酸エステルとしては、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチル、ステアリン酸オクチル、牛脂肪酸オクチル、ラウリン酸ラウリル、長ステアリン酸ステアリル、長鎖脂肪酸高級アルコールエステル、ベヘニン酸ベヘニン、ミリスチン酸セチル、ネオペンチルポリオール長鎖脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオール中鎖脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオール脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0020】
また、成形時の劣化がより抑えられるなどの観点からいうと、(D)成分の軟化点は比較的高いほうが好ましい。具体的には、(D)成分の軟化点は200℃以上であることが好ましい。より好ましくは220℃以上である。高軟化点を有し、成形時の劣化がより抑えられるなどの観点から、(D)成分としては、高分子(重合体)であること、あるいはポリオール骨格を有することが好ましい。高分子(重合体)化された脂肪酸アミドとしては、共栄社化学株式会社のライトアマイドWHシリーズなどが挙げられる。ポリオール骨格を有する脂肪酸エステルとしては、日油社のユニスターHシリーズやユニスターHPシリーズなどが挙げられる。
【0021】
(D)成分は、(A)ポリサルホン系樹脂との相溶性が低い。このため、耐摩耗性などの物性低下が生じる。(C)ポリエステルエラストマーは、(D)成分の(A)ポリサルホン系樹脂との相溶性を向上させるために配合される。しかし、(C)ポリエステルエラストマー自体は(A)ポリサルホン系樹脂との相溶性が低いため、(A)ポリサルホン系樹脂に対してこれ単独で配合しても相溶性は改善されず、耐摩耗性などの物性低下が生じる。このため、(C)ポリエステルエラストマーは(B)芳香族ポリエステル樹脂とともに配合される。(B)芳香族ポリエステル樹脂とともに(C)ポリエステルエラストマーが配合されることで、(C)ポリエステルエラストマーと(A)ポリサルホン系樹脂の相溶性は改善され、(C)ポリエステルエラストマーにより(D)成分と(A)ポリサルホン系樹脂の相溶性が向上する。また、(C)ポリエステルエラストマーを配合することにより、(A)ポリサルホン系樹脂を含む組成物の成形温度を低減でき、(D)成分の劣化を抑える効果も得られる((D)成分に起因する変色などの着色不良や耐摩耗性などの物性低下が抑えられる。)。
【0022】
(C)ポリエステルエラストマーは、ハードセグメントとソフトセグメントとのブロック共重合体からなる。ハードセグメントは、PBTやPBNなどの芳香族ポリエステルや脂肪族ポリエステルなどが挙げられる。ソフトセグメントは、脂肪族ポリエーテルや脂肪族ポリエステルなどが挙げられる。
【0023】
(B)芳香族ポリエステル樹脂は、熱可塑性樹脂であり、(A)ポリサルホン系樹脂と(C)ポリエステルエラストマーの相溶性を向上させることができる。(B)芳香族ポリエステル樹脂による(A)成分と(C)成分の相溶性を向上させる効果が発揮されるには、(B)成分は繰り返し単位の構造内(分子内)に芳香環を有することが必要である。このような(B)芳香族ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などが挙げられる。これらは、(B)芳香族ポリエステル樹脂として、単独で用いられても良いし、2種以上が組み合わされて用いられても良い。また、(A)成分と(C)成分の相溶性を向上させる効果が大きい観点からいうと、(B)芳香族ポリエステル樹脂としては、繰り返し単位の構造内にナフチル基を有する、PEN、PBNあるいはこれらの組み合わせが好ましい。
【0024】
以上から、本発明に係る電線被覆材用樹脂組成物は、(A)ポリサルホン系樹脂、(B)芳香族ポリエステル樹脂、(C)ポリエステルエラストマー、(D)脂肪酸アミドおよび脂肪酸エステルから選択される少なくとも1種、(E)顔料、を含むことにより、耐摩耗性を低下させることなく顔料によって良好に着色できる。
【0025】
(C)ポリエステルエラストマーは、(A)〜(C)成分を合わせた合計成分中に1〜50質量%含まれることが好ましい。より好ましくは5〜30質量部である。(C)ポリエステルエラストマーの含有量がその合計成分中に1質量部以上であれば、(D)成分による耐摩耗性などの物性低下を抑える効果が高い。また、(C)ポリエステルエラストマーの含有量がその合計成分中に50質量部以下であれば、優れた耐摩耗性が確保されやすい。
【0026】
(B)芳香族ポリエステル樹脂は、(A)〜(B)成分を合わせた合計成分中に1〜40質量%含まれることが好ましい。より好ましくは5〜30質量%である。(B)芳香族ポリエステル樹脂の含有量がその合計成分中に1質量%以上であれば、(C)ポリエステルエラストマーの(A)ポリサルホン系樹脂との相溶性が改善されやすく、耐摩耗性などの物性が維持されやすい。(B)芳香族ポリエステル樹脂の含有量がその合計成分中に40質量%以下であれば、耐摩耗性の低下が抑えられやすいので、優れた耐摩耗性が確保されやすい。
【0027】
(D)成分は、(A)〜(C)成分を合わせた合計成分100質量部に対し0.01〜3質量部含まれることが好ましい。より好ましくは0.1〜1質量部である。(D)成分の含有量がその合計成分100質量部に対し0.01質量部以上であれば、(E)顔料の分散効果が高く、顔料によって良好に着色できる。また、(D)成分の含有量がその合計成分100質量部に対し3質量部以下であれば、耐摩耗性などの物性への影響を極力抑えることができ、優れた耐摩耗性を維持することができる。
【0028】
電線被覆材用樹脂組成物には、(A)〜(E)成分以外にも、必要に応じて、電線被覆材に利用される一般的な添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、充填剤、酸化防止剤、老化防止剤などが挙げられる。
【0029】
次に、本発明に係る電線被覆材用樹脂組成物を被覆材として用いた絶縁電線について説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る絶縁電線の構成を示す。
図1に示すように、絶縁電線1は、金属導体2の外周に絶縁被覆層3が設けられたもので構成されている。特に限定されるものではないが、絶縁被覆層3は単層である。絶縁被覆層3の材料には、本発明に係る電線被覆材用樹脂組成物が用いられている。本発明に係る電線被覆材用樹脂組成物を被覆材として用いることにより、優れた耐摩耗性を維持しながら、顔料によって良好に着色できる。
【0030】
金属導体2は、銅を用いることが一般的であるが、銅以外にもアルミニウム、マグネシウム等を導体として用いることができる。また、銅に他の金属を含有してもよい。他の金属としては、例えば、鉄、ニッケル、マグネシウム、シリコン等が挙げられる。金属導体2は、この他にも、通常、導体として広く使用されている金属を、銅に添加あるいは単独で使用しても良い。また金属導体2は、単線を用いてもよいし、複数の線を撚り合わせた撚り線を使用してもよい。このとき撚り合わせて圧縮すると細径化することが可能である。
【0031】
金属導体2の断面積、絶縁被覆層3の厚さ等は、絶縁電線1の用途等に応じて適宜選択することができ、特に限定されない。絶縁電線1の用途としては、耐摩耗性に優れることから、自動車内などの振動環境下で使用される絶縁電線(例えば自動車用絶縁電線)などが挙げられる。
【0032】
絶縁電線1は、例えば、押出機(単軸、二軸)、バンバリミキサー、加圧ニーダー、ロールなどの通常用いられる混練機を用いて絶縁被覆層3を構成する材料を混練し、通常の押出成形機などを用いて金属導体2の外周に絶縁被覆層3を押出被覆することで得られる。
【0033】
絶縁電線1は、その端末に接続端子やコネクタが接続されることにより、ワイヤーハーネスとされる。また、複数本が束ねられることにより、ワイヤーハーネスとされる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例によって説明する。
【0035】
実施例1〜24、比較例1〜8
〔電線の作製〕
表1の実施例1〜8、表2の実施例9〜16、表3の実施例17〜24、表4の比較例1〜8に示された樹脂組成物の成分組成(質量部)に従って、絶縁被覆層の樹脂組成物を二軸混合機により、ダイ付近の樹脂温度が最適成形温度となるよう混練した。混練した樹脂組成物を断面積0.35mm
2の撚線導体の周囲に被覆厚0.2mmの絶縁被覆層を押出成形して、実施例1〜24、比較例1〜8の絶縁電線を得た。押出成形では、直径が、それぞれ1.1mmのダイスと0.75mmのニップルを使用した。また押出成形は、ダイ付近の樹脂温度が最適成形温度となるような押出温度とし、線速度50m/min.で行った。得られた絶縁電線について、着色性、耐摩耗性の評価を行った。各試験結果を表1〜4に示す。なお、各成分の具体的な使用材料、最適成形温度の決定方法および試験方法は下記の通りである。
【0036】
〔使用材料〕
<(A)ポリサルホン系樹脂>
・ポリサルホン(PSU):Udel P−1700NT(ソルベイアドバンスドポリマーズ社製)
・ポリエーテルサルホン(PES):スミカエクセル4100G(住友化学社製)
・ポリフェニルサルホン(PPSU):ウルトラゾーンP3010(BASF社製)
<(B)芳香族ポリエステル樹脂>
・ポリブチレンテレフタレート(PBT):ジュラネックス800FP(ポリプラスチック社製)
・ポリブチレンナフタレート(PBN):TQB−OT(帝人化成社製)
・ポリエチレンナフタレート(PEN):テオネックスTN−8065S(帝人化成社製)
<(C)ポリエステルエラストマー>
・(C)ポリエステルエラストマー<1>:ハイトレル4047(東レ・デュポン社製、融点182℃)
・(C)ポリエステルエラストマー<2>:ハイトレル5557(東レ・デュポン社製、融点208℃)
・(C)ポリエステルエラストマー<3>:ハイトレル7277(東レ・デュポン社製、融点219℃)
・(C)ポリエステルエラストマー<4>:ペルプレンEN−2034(東洋紡社製、融点224℃)
<(D)脂肪酸アミド、脂肪酸エステル>
・脂肪酸アミド:ライトアマイドWH−255(共栄社化学社製)
・脂肪酸エステル:ユニスターH−476(日油社製)
<(E)顔料>
・カーボンブラック:三菱化学社製「♯45」
・酸化チタン(IV):堺化学社製「SA−1」
【0037】
〔最適成形温度決定方法〕
最適成形温度を決定するにあたり、各温度でのMI測定(JISK7210準拠)を実施し、MIが1.0g/10min.(荷重2.16kg)となる温度を最適成形温度とした。MIが1.0g/10min.を大きく超えると、ドローダウンなどを引き起こす可能性が高く、電線被覆材に向かない。MIが1.0g/10min.を大きく下回ると、流動性が低く、押出することができない。
【0038】
〔着色性〕
絶縁電線の被覆材の表面を観察し、色ムラや変色が観察された場合を不良「×」、色ムラなく均一に着色されており、変色も見られない場合を良「○」、光沢が観察されるほど良好な外観である場合を優「◎」とした。
【0039】
〔耐摩耗性〕
ISO6722に準拠し、ブレード往復法で行った。ブレードにかかる荷重を7Nとし、試験回数4回の最小値が300回以上を合格(○)、500回以上を合格(◎)、300回未満を不合格(×)とした。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
比較例1では、(A)ポリサルホン系樹脂に(E)顔料が配合されているだけであり、色ムラによる着色不良が生じている。比較例3では、比較例1の配合にさらに(D)脂肪酸アミドを配合しているが、色ムラによる着色不良は改善されず、耐摩耗性が低下している。比較例7では、比較例3の配合にさらに(C)ポリエステルエラストマーを配合しているが、色ムラによる着色不良が改善されただけで、耐摩耗性は悪化したままである。比較例6では、比較例3の配合にさらに(B)芳香族ポリエステル樹脂を配合しているが、色ムラによる着色不良は改善されず、耐摩耗性も悪化したままである。
【0045】
なお、比較例8では、比較例1の配合において(A)ポリサルホン系樹脂に代えて(B)芳香族ポリエステル樹脂および(C)ポリエステルエラストマーを配合している。この配合では、色ムラによる着色不良は発生しないが、耐摩耗性に劣る。また、比較例2,4,5では、(B)芳香族ポリエステル樹脂あるいは(C)ポリエステルエラストマーに(E)顔料が配合されているだけであり、色ムラによる着色不良は発生しないが、耐摩耗性に劣る。
【0046】
これに対し、実施例によれば、(A)ポリサルホン系樹脂、(B)芳香族ポリエステル樹脂、(C)ポリエステルエラストマー、(D)脂肪酸アミドおよび脂肪酸エステルから選択される少なくとも1種、(E)顔料、が配合されているので、耐摩耗性を低下させることなく(E)顔料によって良好に電線被覆材を着色できることが確認できた。そして、耐摩耗性に優れるため、絶縁被覆の薄肉化による電線細径化、ワイヤーハーネスの省スペース化に貢献できる。
【0047】
実施例1,2,3の比較から、(A)ポリサルホン系樹脂がポリエーテルサルホン、ポリフェニルサルホンであると、耐摩耗性により優れる。実施例1,4,5の比較から、(B)芳香族ポリエステル樹脂が繰り返し単位の構造内にナフチル基を有すると、耐摩耗性により優れる。これは、(B)芳香族ポリエステル樹脂がナフチル基を有することにより、(A)ポリサルホン系樹脂と(C)ポリエステルエラストマーの相溶性が向上するためと推察される。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 絶縁電線
2 金属導体
3 絶縁被覆層