特許第5949891号(P5949891)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コニカミノルタ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5949891-インクジェットヘッド 図000002
  • 特許5949891-インクジェットヘッド 図000003
  • 特許5949891-インクジェットヘッド 図000004
  • 特許5949891-インクジェットヘッド 図000005
  • 特許5949891-インクジェットヘッド 図000006
  • 特許5949891-インクジェットヘッド 図000007
  • 特許5949891-インクジェットヘッド 図000008
  • 特許5949891-インクジェットヘッド 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949891
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20160630BHJP
【FI】
   B41J2/14
   B41J2/14 305
   B41J2/14 613
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-262563(P2014-262563)
(22)【出願日】2014年12月25日
(62)【分割の表示】特願2012-11581(P2012-11581)の分割
【原出願日】2012年1月23日
(65)【公開番号】特開2015-57333(P2015-57333A)
(43)【公開日】2015年3月26日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(72)【発明者】
【氏名】香西 洋明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 康二郎
【審査官】 小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−131462(JP,A)
【文献】 特開2011−240543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するための長手方向に配列された複数のノズルと、前記ノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室と、複数の前記圧力室に対応してそれぞれ設けられた圧力発生手段と、複数の前記圧力室に共通にインクを供給するための共通流路とを有するヘッド基板と、
前記ヘッド基板における前記ノズルの形成面の反対面に接合することで該ヘッド基板を保持固定する保持基板と、
前記保持基板における前記ヘッド基板との接合面の反対面に接合され、前記保持基板を介して前記ヘッド基板の前記圧力室に対してインクを供給する又は前記圧力室からのインクを排出するためのインクを収容するインク流路部材と、を備えてなるインクジェットヘッドにおいて、
前記インク流路部材は、前記ノズルの形成領域に対応する前記保持基板上の領域には接合されておらず、該保持基板の長手方向の両端部であって、前記ノズルの形成領域に対応する領域から外れた領域にそれぞれ接合されており、
前記保持基板は、Si基板又はガラス基板からなることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記長手方向の反りを抑制するために、前記インク流路部材は、前記ノズルの形成領域に対応する前記保持基板上の領域には接合されておらず、該保持基板の長手方向の両端部であって、前記ノズルの形成領域に対応する領域から外れた領域にそれぞれ接合されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記インク流路部材と前記保持基板とは、線膨張係数が相違することを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記ヘッド基板は、前記保持基板との線膨張係数の差が前記インク流路部材よりも小さい基板を含むことを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記ヘッド基板に含まれる前記基板と前記保持基板とは、線膨張係数が等しいことを特徴とする請求項4記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記インク流路部材は、合成樹脂からなることを特徴とする請求項1からの何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記保持基板は、前記ヘッド基板の長手方向の両端からそれぞれ張り出す張り出し部を有し、
前記インク流路部材と前記保持基板との接合領域は、前記張り出し部を含んでいることを特徴とする請求項1からの何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記インク流路部材の内部に、前記共通流路に供給されるインクが通過するフィルタが設けられていることを特徴とする請求項1からの何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はノズルからインク滴を吐出するインクジェットヘッドに関し、詳しくは、ノズルの並設方向に沿うヘッド基板の長手方向の反りが抑制されたインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
記録紙等の被記録媒体上に微小なインク滴を吐出して画像等を記録するインクジェットプリンタに用いられるインクジェットヘッドでは、PZT等の圧電素子からなる圧力発生手段の駆動によって圧力室内のインクに圧力変化を発生させ、該圧力室内のインクをノズルから吐出させる。
【0003】
一般的に、インクジェットヘッドは複数の部材が接着剤を用いて接合されることによって構成されるが、これら複数の部材の線膨張係数が異なると、接着時等の加熱による温度変化によって反りが生じてしまう問題がある。このような反りの発生は、接着部に歪みや剥がれ、割れの発生につながるばかりでなく、インクジェットヘッドのノズル面には長手方向に沿って複数のノズルが配列されており、この長手方向で反りが発生してしまうと、吐出されたインク滴に曲がりが発生し、着弾位置が適正位置からずれて印刷品質を低下させてしまう問題がある。
【0004】
特許文献1には、インクジェットヘッドの構成部品として、フロントヘッドユニットの線膨張係数と略同一の金属製の補強フレームをフロントヘッドユニットの背面に沿って固着させ、更にインク流路形成部材をフロントヘッドユニットの反対側の補強フレームに重ねて一体的に固着させることで、フロントヘッドユニットの剛性を高めて、温度変化に伴うフロントヘッドユニットの変形を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−161761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、シリコン(以下、Siという。)を基板材料として用いたインクジェットヘッドが知られている。このようなインクジェットヘッドは、Si基板に対してドライエッチングプロセスにより流路やノズルを高精度、高精細な形状に加工できるため、インクの微小液滴吐出、低粘度インク吐出等の数々のメリットがある。
【0007】
このようなSi基板を用いたインクジェットヘッドを、基板の補強、保持の目的で金属製の保持基板(補強フレーム)を積層して構成すると、線膨張係数に相違があると接着時等の加熱による温度変化によって反りが生じてしまうことが想定されるが、このような反りは、保持基板にSi基板と略同一の線膨張係数を有するガラス基板(例えばテンパックスガラス)を用いることで抑制することができる。
【0008】
しかしながら、インクジェットヘッドには、Si基板に設けられた複数の圧力室にインクを供給するため、内部に比較的多量のインクを収容可能なインク流路部材が設けられるが、このインク流路部材が新たな反りの発生要因となり問題となった。
【0009】
すなわち、一般に、このようなインク流路部材は、特許文献1に記載のように保持基板のほぼ全面に亘って接合されることが望まれる。内部に多量のインクを貯留可能とすると共に、インク中のゴミや気泡等の不純物が圧力室に供給されることを防止するためのフィルタを配置させる関係上、大きな容積が必要となるためである。このインク流路部材には、基板に比べて内部構造が複雑となるため、線膨張係数を考慮してガラスによって形成すると、構造の複雑化によって割れが発生し易くなり、また高価となる。このためインク流路部材には比較的安価で製造容易な合成樹脂を用いることが望ましい。
【0010】
しかし、合成樹脂とガラスとでは線膨張係数が異なるため、接着時等の加熱による温度変化によって、基板の反り、特にノズルの配列方向(インクジェットヘッドの長手方向)の反りが発生してしまい、着弾位置ずれの発生によって印刷品質を低下させる問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、多量のインクを貯留できるインク流路部材を有しながらも、ノズルの配列方向に沿う反りを抑制でき、印刷品質を向上させることができるインクジェットヘッドを提供することを課題とする。
【0012】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0014】
1.
インクを吐出するための長手方向に配列された複数のノズルと、前記ノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室と、複数の前記圧力室に対応してそれぞれ設けられた圧力発生手段と、複数の前記圧力室に共通にインクを供給するための共通流路とを有するヘッド基板と、
前記ヘッド基板における前記ノズルの形成面の反対面に接合することで該ヘッド基板を保持固定する保持基板と、
前記保持基板における前記ヘッド基板との接合面の反対面に接合され、前記保持基板を介して前記ヘッド基板の前記圧力室に対してインクを供給する又は前記圧力室からのインクを排出するためのインクを収容するインク流路部材と、を備えてなるインクジェットヘッドにおいて、
前記インク流路部材は、前記ノズルの形成領域に対応する前記保持基板上の領域には接合されておらず、該保持基板の長手方向の両端部であって、前記ノズルの形成領域に対応する領域から外れた領域にそれぞれ接合されており、
前記保持基板は、Si基板又はガラス基板からなることを特徴とするインクジェットヘッド。
2.
前記長手方向の反りを抑制するために、前記インク流路部材は、前記ノズルの形成領域に対応する前記保持基板上の領域には接合されておらず、該保持基板の長手方向の両端部であって、前記ノズルの形成領域に対応する領域から外れた領域にそれぞれ接合されていることを特徴とする前記1記載のインクジェットヘッド。
3.
前記インク流路部材と前記保持基板とは、線膨張係数が相違することを特徴とする前記1又は2記載のインクジェットヘッド。
4.
前記ヘッド基板は、前記保持基板との線膨張係数の差が前記インク流路部材よりも小さい基板を含むことを特徴とする前記3記載のインクジェットヘッド。
5.
前記ヘッド基板に含まれる前記基板と前記保持基板とは、線膨張係数が等しいことを特徴とする前記4記載のインクジェットヘッド。
6.
前記インク流路部材は、合成樹脂からなることを特徴とする前記1からの何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
7.
前記保持基板は、前記ヘッド基板の長手方向の両端からそれぞれ張り出す張り出し部を有し、
前記インク流路部材と前記保持基板との接合領域は、前記張り出し部を含んでいることを特徴とする前記1からの何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
8.
前記インク流路部材の内部に、前記共通流路に供給されるインクが通過するフィルタが設けられていることを特徴とする前記1からの何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、多量のインクを貯留できるインク流路部材を有しながらも、ノズルの配列方向に沿う反りを抑制でき、印刷品質を向上させることができるインクジェットヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るインクジェットヘッドの分解斜視図
図2】本発明に係るインクジェットヘッドの正面図
図3】本発明に係るインクジェットヘッドを図1中の(iii)-(iii)線に沿う部分で切断した断面図
図4】本発明に係るインクジェットヘッドを図1中の(iv)-(iv)線に沿う部分で切断した断面図
図5図1に示すインクジェットヘッドにおけるヘッド基板の層構成を示す部分断面図
図6図1に示すインクジェットヘッドにおけるヘッド基板の部分平面図
図7】複数のインクジェットヘッドを並設した状態を説明する図
図8】本発明に係るインクジェットヘッドの他の態様を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0020】
図1は、本発明に係るインクジェットヘッドの分解斜視図、図2はその正面図、図3は、インクジェットヘッドを図1中の(iii)-(iii)線に沿う部分で切断した断面図、図4は、インクジェットヘッドを図1中の(iv)-(iv)線に沿う部分で切断した断面図、図5は、図1に示すインクジェットヘッドにおけるヘッド基板の層構成を示す部分断面図、図6は、図1に示すインクジェットヘッドにおけるヘッド基板の部分平面図である。
【0021】
図1において、1はインクジェットヘッドであり、インクジェットヘッド1は、ヘッド基板2と保持基板3と外部配線部材4とインク流路部材5とを有している。
【0022】
ヘッド基板2は、ボディプレート21、中間プレート22、ノズルプレート23の3枚
の基板が積層一体化されることによって構成されている。
【0023】
ボディプレート21は、図1中のA方向に沿って長さが長く、厚みが100〜300μm程度のSi基板からなり、一方の面(図1における下面)をエッチングすることによって、平面視で略円形状となる複数の圧力室211と、複数の圧力室211に対して共通にインクを供給するための凹溝からなる共通流路212と、共通流路212と各圧力室211とを個別に連通し、共通流路212内のインクを圧力室211に供給するための細溝からなるインク供給路213とが凹設された流路形成基板である。
【0024】
各圧力室211は、後述する中間プレート22に形成された連通孔221との連通部となるための、一部が外側に膨出する形状となる膨出部211aを有している。図1では、16個の圧力室211をA方向に沿って配列したボディプレート21を示しており、一つおきの8個ずつの圧力室211に対してそれぞれインクを供給するための2本の共通流路212が、間に圧力室211の列を挟むように配置されている。
【0025】
ボディプレート21の他方の面(図1における上面)には、各圧力室211の位置に対応するように圧力発生手段であるPZT等からなる圧電素子214が積層されており、この圧電素子214の駆動時に、該圧電素子214と圧力室211との間の壁面を振動板215として振動させることで、圧力室211内のインクに吐出のための圧力を付与するようになっている。なお、各圧電素子214は、上下両面に電極(図示せず)を有しており、上面電極は個別電極となり、下面電極はボディプレート21上面に設けられた共通電極と接している。
【0026】
各共通流路212は、ボディプレート21の長手方向であるA方向に沿って延びており、その端部は、ボディプレート21のA方向の両端部近傍においてボディプレート21を表裏に貫通するように形成されている貫通口216にそれぞれ連通している。貫通口216は、ボディプレート21の各端部において、2つずつがA方向と直交するボディプレート21の短手方向であるB方向に沿うように並んで配置されており、各々共通流路212の端部と連通している。
【0027】
中間プレート22は、ボディプレート21と平面視形状が同一形状で、厚みが100〜300μm程度のガラス基板からなり、ボディプレート21と積層された際に、ボディプレート21の圧力室211に形成された膨出部211aに対応する位置に、それぞれ中間プレート22を表裏に貫通し、吐出時のインク流路となる連通孔221が個別に形成されている。この中間プレート22には、ホウケイ酸ガラス(例えばテンパックスガラス)が好ましく用いられる。
【0028】
ノズルプレート23は、厚みが100〜300μm程度のSi基板からなり、中間プレート22と積層された際に、中間プレート22の連通孔221に対応する位置に、それぞれインク滴を吐出するノズル231が形成されている。各ノズル231はノズルプレート23における中間プレート22とは反対面に開口しており、中間プレート22側の面からは、ノズル231と連通し、該ノズル231よりも大径な凹部からなる大径部232が凹設されている。
【0029】
なお、ノズルプレート23においてノズル231が開口するノズルの形成面(ノズル面)230には、不図示の撥インク膜が形成されている。
【0030】
ヘッド基板2は、圧力室211の膨出部211a、連通孔221、大径部232(ノズル231)がそれぞれ連通するように、ボディプレート21、中間プレート22及びノズルプレート23が位置合わせされて積層され、一体に接合されることによって構成される。ボディプレート21、中間プレート22及びノズルプレート23の接合方法としては、一般に陽極接合が用いられる。
【0031】
これらボディプレート21、中間プレート22及びノズルプレート23の接合により、ボディプレート21の圧力室211、共通流路212、インク供給路213の下面は閉塞されると共に、各共通流路212の両端部にそれぞれ連通する貫通口216は、ヘッド基板2の図1中の上面のみに開口し、各共通流路212へのインクの供給又は各共通流路212からのインクの排出のための開口部となる。
【0032】
このヘッド基板2において、ノズル231は、A方向に沿って1列になるように配列されている。このインクジェットヘッド1では、この全てのノズル231を含む図1に示す領域aがノズルの形成領域である。このノズルの形成領域aは、ノズル列の両端部に位置するノズル231、231からその内側のノズル231を含む領域であり、インクジェットヘッド1の長手方向であるA方向に沿って延びている。
【0033】
保持基板3は、ヘッド基板2の強度保持のために該ヘッド基板2に対して接着剤を用いて接合され、ヘッド基板2を保持固定する基板であり、厚みが0.5mm〜3mm程度のSi基板又はガラス基板からなる。ガラス基板としては、ヘッド基板2の中間プレート22と同様、ホウケイ酸ガラス(例えばテンパックスガラス)が好ましく用いられる。
【0034】
保持基板3の平面視形状は、A方向及びB方向のいずれにおいてもヘッド基板2よりも大きく形成されている。特に保持基板3のA方向に沿う両端部はヘッド基板2のA方向の両端からそれぞれ大きく張り出している。図2中の符号31、31は、ヘッド基板2のA方向の両端からそれぞれ張り出した保持基板3の張り出し部である。
【0035】
保持基板3の中央部には、ヘッド基板2と接合された際に、該ヘッド基板2のボディプレート21上に配列されている全ての圧電素子214を取り囲むことができる大きさの一つの開口部32が貫通形成されている。開口部32は図1中のA方向に沿って延びる矩形状に形成され、その内部にヘッド基板2上の全ての圧電素子214を取り囲み得るが、ヘッド基板2の両端部にそれぞれ開口する2つずつの貫通口216の位置までには至らない大きさに形成されている。保持基板3を平面から見た場合、ノズルプレート23に配列されたノズル231の形成領域aは、この開口部32の領域の内側に含まれている。
【0036】
保持基板3のA方向の両端部近傍には、それぞれヘッド基板2の上面に開口する2つずつの貫通口216を取り囲み得る大きさのインク流路となる貫通孔33が1つずつ形成されている。従って、1つの貫通孔33は、ヘッド基板2上に並列する2つの貫通口216、216と連通する。
【0037】
この保持基板3は、開口部32内にヘッド基板2上の全ての圧電素子214が位置すると共に、各貫通口216が貫通孔33内に位置して連通するようにヘッド基板2と位置合わせされ、接着剤によって一体に接合される。保持基板3はSi基板又はガラス基板からなり、ヘッド基板2を構成するSi基板やガラス基板と線膨張係数が近いため、接着剤として熱硬化性接着剤等の加熱を伴う接合方法を用いた場合でも、この保持基板3とヘッド基板2との間の反りは抑制される。
【0038】
また、保持基板3がガラス基板からなる場合は、紫外線透過性を有するため、接着剤としてUV硬化性接着剤又はUV熱硬化性接着剤を用いて、初期硬化において加熱を伴わない接合方法を用いてもよい。
【0039】
なお、保持基板3の下面(ヘッド基板2との接合面)は、B方向が開口部32よりも大きな領域に亘る凹部34が形成されている。この凹部34は、図3に示すように、保持基板3とヘッド基板2とが接合された際、ヘッド基板2の2本の共通流路212を含み得る大きさに形成されている。これにより、ヘッド基板2における全ての圧電素子214はもちろんのこと、各圧力室211、両端部を除く共通流路212、インク供給路213は保持基板3の凹部34内に配置され、該保持基板3と直に接合されないようになっている。
【0040】
外部配線部材4は、不図示の駆動回路からの駆動信号を各圧電素子214に印加するために、該駆動回路との間を電気的に接続する配線(図示せず)が設けられた配線部材であり、例えばFPC等からなる。外部配線部材4の一端は、保持基板3上のA方向に沿う開口部32の一方側部に接着剤によって接合されている。外部配線部材4の各配線と各圧電素子214との間は、図3に示すように、保持基板3の開口部32を利用して、ボンディングワイヤ41によってそれぞれ個別に電気的に接続されている。
【0041】
インク流路部材5は、例えばPPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)等の合成樹脂材料によって一面(図示下面)が開口する箱型形状に形成されており、保持基板3のA方向の両端部にそれぞれ1つずつ配置されている。
【0042】
各インク流路部材5は、不図示のインクタンク等から供給されるインクを一旦貯留し、保持基板3の貫通孔33、ボディプレート21の貫通口216、共通流路212及びインク供給路213を介して、各圧力室211内にインクを供給し、又は、その逆に各圧力室211内のインクをボディプレート21のインク供給路213、共通流路212、貫通口216及び保持基板3の貫通孔33を介して受け入れ、不図示の廃インクタンク等に排出するためのものである。インク流路部材5の上面には、インク供給又はインク排出のための流路口51が設けられている。
【0043】
2つのインク流路部材5のうちの一方をインク供給用、他方をインク排出用として機能させてもよいが、両インク流路部材5をインク供給用として機能させてもよい。
【0044】
インク流路部材5の内部には、貫通孔33及び貫通口216を介して共通流路212に供給されるインクが通過し得るように、インク中のゴミや気泡等の不純物を取り除くためのフィルタ52が設けられている。このフィルタ52は、例えばSUS等の金属製メッシュが用いられ、インク流路部材5内の樹脂に対して溶着されている。
【0045】
これらインク流路部材5は、ノズル231の形成領域aに対応する保持基板3上の領域には接合されていない。ノズル231の形成領域aは、平面視で保持基板3における開口部32内の領域であるため、各インク流路部材5は、この開口部32の領域の外側に配置されている。詳しくは、保持基板3のA方向の両端部であって、ノズル231の形成領域aに対応する領域から外れた領域にそれぞれ配置され、保持基板3の上面に接着剤によって接合されている。
【0046】
図1における保持基板3上の領域b、bは、インク流路部材5の接合領域を示している。保持基板3の貫通孔33は、それぞれ接合領域bの内側に位置しており、各インク流路部材5の内部と連通している。
【0047】
従来のインク流路部材は、保持基板上のほぼ全面に対して1つのインク流路部材として接合されるものが一般的であるが、インク流路部材と保持基板との間の線膨張係数の相違によって両者間に長手方向に沿う反りが発生し、特にインク滴曲がりの発生原因となっていた。これはインク流路部材と保持基板との接合面が、ノズルの形成領域上にあり、ノズルの配列方向である保持基板の長手方向のほぼ全体に亘って長尺に形成されるためである。
【0048】
しかし、本発明によれば、インク流路部材を2つのインク流路部材5、5に分け、これらをノズル231の形成領域aを避けた保持基板3のA方向の両端部にそれぞれ接合しているため、最も反りの影響が大きくなるノズル231の形成領域a上には、インク流路部材5の接合面が存在しない。このため、インク流路部材5と保持基板3との間で発生する線膨張係数の相違に起因する反りの影響をほとんど無視できるようになる。その結果、ノズルの配列方向に沿う反りを抑制でき、インク滴曲がりの発生も抑制できて印刷品質を向上させることができるようになる。
【0049】
インク流路部材5は2つ配置されるため、両インク流路部材5、5によって多量のインクを貯留できるため、貯留可能なインク量については、従来の1つだけのインク流路部材と比べて何ら遜色はない。
【0050】
各インク流路部材5は同一形状(同一容積)とするものに限らず、必要に応じて形状(容積)を異ならせるようにしてもよい。また、ノズル231の形成領域aを避けた保持基板3のA方向の両端部に配置されていれば、各端部に接合されるインク流路部材5はそれぞれ2つ以上あってもよい。
【0051】
インク流路部材5の保持基板3に対する接合領域bは、図2に示すように、保持基板3の端部の張り出し部31を含む大きさに形成することで、インク流路部材5の容積を大きくすることができる。この張り出し部31の張り出し量を適宜設定することで、各インク流路部材5の高さを変化させることなく容積を調整することができる。
【0052】
各インク流路部材5は、保持基板3のA方向の両端部に接合されるため、ノズル231の配列方向と直交する方向(B方向)への張り出し量が従来に対して大きくなることはない。このため、図7に示すように、複数のインクジェットヘッド1をノズル列方向(A方向)と直交するB方向に並設しても、該B方向の幅をコンパクトな状態のままとすることができ、特に複数のインクジェットヘッド1を共通のキャリッジに搭載してB方向に沿って主走査移動しながら画像を記録する場合の移動幅をコンパクトにできるため、高速記録を行う上で好ましい。
【0053】
なお、インクジェットヘッド1の反りは、インク流路部材5と保持基板3との接合面で発生するため、以上説明したように、この接合面がノズル231の形成領域aに対応する領域から外れていればよい。従って、図8に示すように、インク流路部材5、5との内部を連結部材53によって橋渡しするように連通させるようにしてもよい。これによって、インク流路部材5内(連結部材53内を含む)に貯留可能なインク量を更に増加させることができる。
【0054】
この場合、連結部材53には、可撓性、伸縮性を有する例えば蛇腹管を用いると、インク流路部材5と保持基板3との間の線膨張係数の相違を連結部材53によって吸収でき、反り抑制効果を減ずることはない。
【符号の説明】
【0055】
1:インクジェットヘッド
2:ヘッド基板
21:ボディプレート
211:圧力室
211a:膨出部
212:共通流路
213:インク供給路
214:圧電素子
215:振動板
216:貫通口
22:中間プレート
221:連通孔
23:ノズルプレート
230:ノズルの形成面(ノズル面)
231:ノズル
232:大径部
3:保持基板
31:張り出し部
32:開口部
33:貫通孔
34:凹部
4:外部配線部材
41:ボンディングワイヤ
5:インク流路部材
51:流路口
52:フィルタ
53:連結部材
a:ノズルの形成領域
b:インク流路部材の接合領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8