特許第5949902号(P5949902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5949902無線通信装置、無線通信システム及び無線通信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949902
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】無線通信装置、無線通信システム及び無線通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 48/18 20090101AFI20160630BHJP
   H04W 72/04 20090101ALI20160630BHJP
   H04W 84/18 20090101ALI20160630BHJP
【FI】
   H04W48/18
   H04W72/04 132
   H04W84/18
【請求項の数】10
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2014-507036(P2014-507036)
(86)(22)【出願日】2012年11月29日
(86)【国際出願番号】JP2012007680
(87)【国際公開番号】WO2013145053
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2014年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2012-77786(P2012-77786)
(32)【優先日】2012年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】工藤 正人
【審査官】 青木 健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−188680(JP,A)
【文献】 特表2010−537565(JP,A)
【文献】 特開2010−004222(JP,A)
【文献】 特開2009−182697(JP,A)
【文献】 特表2011−503922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W 4/00 − 99/00
H04B 7/24 − 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無線通信手段を保持し、各々の前記無線通信手段が独立して他の無線通信装置とアドホック無線通信網を構成し、複数の前記アドホック無線通信網間を跨いだ無線通信を行う無線通信装置であって、
第1の無線通信設定と、前記第1の無線通信設定と通信特性が異なる第2の無線通信設定と、を切り替えて使用することにより、前記他の無線通信装置とアドホック無線通信網を構成して無線通信をする第1の無線通信手段及び第2の無線通信手段と、
少なくとも前記第1又は第2の無線通信手段が前記第1の無線通信設定を使用して無線通信しているときに、自無線通信装置及び前記他の無線通信装置において、当該第1の無線通信設定を前記第2の無線通信設定に変更することにより、前記自無線通信装置が前記他の無線通信装置から孤立した状態になるか否か、及び前記他の無線通信装置が当該他の無線通信装置以外から孤立した状態となるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段が、前記自無線通信装置が前記他の無線通信装置から孤立した状態にならず、かつ前記他の無線通信装置が当該他の無線通信装置以外から孤立した状態とならないと判定し、かつ前記第1の無線通信設定の変更が必要な場合に、前記第1の無線通信設定を使用する無線通信手段の無線通信設定を前記第2の無線通信設定に切り替える制御をし、前記判定手段が、前記自無線通信装置が前記他の無線通信装置から孤立した状態になり、又は前記他の無線通信装置が当該他の無線通信装置以外から孤立した状態となると判定した場合に、当該無線通信手段が使用する無線通信設定を前記第1の無線通信設定のままにする制御をする通信制御手段と、
を備える無線通信装置。
【請求項2】
前記第1の無線通信設定と、前記第2の無線通信設定とは、周波数帯、無線変調方式及びそれに付随するパラメータ、アクセス方式及びそれに付随するパラメータ、フレーム構成、電波送信出力、の少なくともいずれか1つが異なる、
請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記第1の無線通信設定の変更が必要な場合とは、前記第1の無線通信設定を利用して構成したアドホック無線通信網における空き通信帯域量が所定値以下である場合を含む、
請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記第1の無線通信設定の変更が必要な場合とは、前記他の無線通信装置との無線通信が安定していない場合を含む、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記自無線通信装置の通信環境の変化をトリガとして、前記判定を実行する、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記通信環境の変化は、前記自無線通信装置が受信する前記他の無線通信装置からの電波の強度の変化、前記アドホック無線通信網における前記無線通信装置間の接続関係の変化、前記他の無線通信装置からの通信要求の受信、の少なくともいずれか1つを含む、
請求項5に記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前記第1又は第2の無線通信手段が前記第1の無線通信設定を使用して無線通信をするアドホック無線通信網とは別のアドホック無線通信網を検出した場合に、当該別のアドホック無線通信網に加入することにより、前記アドホック無線通信網と比較して前記他の無線通信装置との通信環境が向上するか否かをさらに判定し、
前記判定手段が、前記通信環境が向上すると判定した場合に、前記通信制御手段は、前記無線通信手段に対し、前記アドホック無線通信網から離脱して前記別のアドホック無線通信網に加入するように制御を行う、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項8】
前記無線通信装置は、前記通信制御手段が、前記無線通信手段が前記アドホック無線通信網から離脱して前記別のアドホック無線通信網に加入するように制御するときに、前記他の無線通信装置に対し、当該制御の実行の可否について調停を実行する調停手段をさらに備える、
請求項7に記載の無線通信装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の無線通信装置を備える無線通信システム。
【請求項10】
複数の無線通信手段を保持し、各々の前記無線通信手段が独立して他の無線通信装置とアドホック無線通信網を構成し、複数の前記アドホック無線通信網間を跨いだ無線通信を行う無線通信装置の無線通信方法であって、
いずれかの無線通信手段が第1の無線通信設定を使用して無線通信しているときに、自無線通信装置及び前記他の無線通信装置において、当該第1の無線通信設定を、当該第1の無線通信設定と通信特性が異なる第2の無線通信設定に変更することにより、前記自無線通信装置が前記他の無線通信装置から孤立した状態になるか否か、及び前記他の無線通信装置が当該他の無線通信装置以外から孤立した状態となるか否かを判定し、
前記自無線通信装置が前記他の無線通信装置から孤立した状態にならず、かつ前記他の無線通信装置が当該他の無線通信装置以外から孤立した状態とならないと判定し、かつ前記第1の無線通信設定の変更が必要な場合には、前記第1の無線通信設定を使用する前記無線通信手段の無線通信設定を前記第2の無線通信設定に切り替える制御をし、
前記自無線通信装置が前記他の無線通信装置から孤立した状態になり、又は前記他の無線通信装置が当該他の無線通信装置以外から孤立した状態となると判定した場合には、前記第1の無線通信設定を使用する無線通信手段の無線通信設定を前記第1の無線通信設定のままにする制御をする
無線通信装置の無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線通信装置、無線通信システム及び無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動する無線通信装置によって一時的に形成され、固定的なインフラや集中管理機構がない無線ネットワークであるアドホックネットワークの技術が進展している(例えば非特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1には、アドホックネットワーク内の送信機とさまざまな受信機との間の通信を同時に実行する無線通信方法が開示されている。特許文献2には、複数の異なる通信方式を用いるネットワークインタフェースを有し、複数のネットワークに加入できる無線中継器から構成されるアドホックネットワークが開示されている。
【0004】
そのほか、非特許文献2には、周波数、無線変調方式、アクセス方式などの無線通信設定を周囲環境の状態に応じて動的に変更することができる無線機の実現方式が開示されている。特許文献3には、無線ネットワーク上で効率的に大容量のマルチメディアデータを伝送する無線機器の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−500882号公報
【特許文献2】特開2009−49544号公報
【特許文献3】特表2009−540425号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】阪田他,「アドホックネットワークと無線LANメッシュネットワーク」,電子情報通信学会論文誌B Vol.J89−B No.6,pp.811−823,2006
【非特許文献2】原田,「コグニティブ無線を利用した通信システムに関する基礎検討」,電子情報通信学会技術研究報告. SR, ソフトウェア無線 105(36),pp.117−124,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1−3及び非特許文献1−2にかかるアドホックネットワークは、以下の問題を有する。
【0008】
通信アプリケーションを利用して様々な情報を利用者間で共有する情報通信システムを無線通信装置を用いて構成しようとする場合に、同一網に多くの無線通信装置が加入し多くの無線通信装置と直ぐに通信可能な状態を維持できると、利用者の利便性が高くなる。一方で、網に加入している無線通信装置のいずれかの通信アプリケーションが送信した情報を伝送する間、他の無線通信装置が利用可能な通信帯域量は減少する。他の無線通信装置の数が増えて通信アプリケーションの通信機会が増加すると、空き通信帯域量が不足し輻輳が発生する頻度が高まってしまう。
【0009】
さらに、複数の無線通信装置が加入するアドホック無線通信網を構築又は維持するにあたっては、アドホックネットワークプロトコルの制御データ通信が発生する。アドホック無線通信網へ加入している無線通信装置数が増加すると制御データ通信の通信量も増大し、これによっても音声、映像、データの通信を行う通信アプリケーションの情報を伝送するのに利用できる通信帯域量が減少する。つまり、通信可能な無線通信装置数を増やすことと、通信アプリケーションの情報伝送のための通信帯域量を確保することとはトレードオフの関係にあり両立が難しい、という問題がある。
【0010】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、通信可能な無線通信装置数を減少させずに情報伝送のための通信帯域量を確保することが可能な無線通信装置、無線通信システム及び無線通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、複数の無線通信部を保持し、各々の前記無線通信部が独立して他の無線通信装置とアドホック無線通信網を構成し、複数の前記アドホック無線通信網間を跨いだ無線通信を行う無線通信装置を含む。この無線通信装置は、第1の無線通信部、第2の無線通信部、判定部及び通信制御部を備える。第1の及び第2の無線通信部は、第1の無線通信設定と、前記第1の無線通信設定と通信特性が異なる第2の無線通信設定と、を切り替えて使用することにより、前記他の無線通信装置とアドホック無線通信網を構成して無線通信をする。判定部は、少なくとも前記第1又は第2の無線通信部が前記第1の無線通信設定を使用して無線通信しているときに、自無線通信装置及び前記他の無線通信装置において、当該第1の無線通信設定を前記第2の無線通信設定に変更することにより無線通信不能となる無線通信装置があるか否かを判定する。通信制御部は、前記判定部が無線通信不能となる無線通信装置がないと判定し、かつ前記第1の無線通信設定の変更が必要な場合に、前記第1の無線通信設定を使用する前記無線通信部の無線通信設定を前記第2の無線通信設定に切り替える制御をし、前記判定部が無線通信不能となる無線通信装置があると判定した場合に、当該無線通信部が使用する無線通信設定を前記第1の無線通信設定のままにする制御をする。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の無線通信装置を備える無線通信システムを含む。
【0013】
本発明の第3の態様は、複数の無線通信部を保持し、各々の前記無線通信部が独立して他の無線通信装置とアドホック無線通信網を構成し、複数の前記アドホック無線通信網間を跨いだ無線通信を行う無線通信装置の無線通信方法を含む。この無線通信方法は、以下のステップ(a)、(b)及び(c)を含む。
(a)いずれかの無線通信部が第1の無線通信設定を使用して無線通信しているときに、自無線通信装置及び前記他の無線通信装置において、当該第1の無線通信設定を、当該第1の無線通信設定と通信特性が異なる第2の無線通信設定に変更することにより無線通信不能となる無線通信装置があるか否かを判定すること、
(b)無線通信不能となる無線通信装置がないと判定し、かつ前記第1の無線通信設定の変更が必要な場合には、前記第1の無線通信設定を使用する前記無線通信部の無線通信設定を前記第2の無線通信設定に切り替える制御をすること、及び
(c)無線通信不能となる無線通信装置があると判定した場合には、前記第1の無線通信設定を使用する無線通信部無線通信設定を前記第1の無線通信設定のままにする制御をすること。
【発明の効果】
【0014】
上述した本発明の各態様により、通信可能な無線通信装置数を減少させずに情報伝送のための通信帯域量を確保することが可能な無線通信装置、無線通信システム及び無線通信方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態1にかかる無線通信装置の構成例を示すブロック図である。
図2】実施の形態1にかかる無線通信システムの一例を示すイメージ図である。
図3】実施の形態1にかかる判定部及び通信制御部が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図4A】実施の形態1にかかる無線通信システムの初期状態の一例を示すイメージ図である。
図4B】実施の形態1にかかる無線通信システムの中期状態の一例を示すイメージ図である。
図4C】実施の形態1にかかる無線通信システムの終期状態の一例を示すイメージ図である。
図5】実施の形態1にかかる無線通信システムのその他の例を示すイメージ図である。
図6】実施の形態2にかかる無線通信装置の構成例を示すブロック図である。
図7A】実施の形態2にかかるアドホック通信網加入状態制御部が実行する処理の一例を示す第1のフローチャートである。
図7B】実施の形態2にかかるアドホック通信網加入状態制御部が実行する処理の一例を示す第2のフローチャートである。
図8】実施の形態3にかかる無線通信装置の構成例を示すブロック図である。
図9A】実施の形態3にかかるアドホック通信網加入状態制御部及びアドホック通信網加入状態制御調停部が実行する処理の一例を示す第1のフローチャートである。
図9B】実施の形態3にかかるアドホック通信網加入状態制御部及びアドホック通信網加入状態制御調停部が実行する処理の一例を示す第2のフローチャートである。
図10】実施の形態3にかかる無線通信システムの一例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態1について説明する。
【0017】
図1は、実施の形態1にかかる無線通信装置の構成例を示すブロック図である。無線通信装置1は、2つの無線通信部11(無線通信部11‐a及び11‐b)、判定部12及び通信制御部13を備える。無線通信装置1は、他の無線通信装置とアドホック無線通信を実行する。例えば、3台の無線通信装置1‐a、1‐b、1‐cがある場合に、無線通信装置1‐aは、無線通信装置1‐cに対して直接信号を送信することにより無線通信をしてもよいし、無線通信装置1‐bを介して無線通信装置1‐cに対し信号を送信してもよい。ここで、固定ネットワークを設けなくとも、ネットワークを構築したい環境に無線通信装置が寄り集まることにより、無線通信装置間のネットワーク(以下、アドホック通信網と記載)が構築できる。なお、アドホック通信網内で通信を実行する際のルーティングは各無線通信装置が実行しても良い。また、アドホック通信網外への通信を実行するときのルーティングは、各無線通信装置が実行してもよいし、環境にある中の1又は一部の無線通信装置が実行しても良い。この1又は一部の無線通信装置は、いわゆるゲートウェイとしての機能を果たす。
【0018】
無線通信装置1は、例えば無線通信を実行するトランシーバ、携帯情報端末やパーソナルコンピュータである。無線通信される情報は、例えば音声情報、映像情報、文字情報、Webなどのデータ情報である。無線通信装置1によって実行される無線通信は、一般的な移動通信や、無線LAN(Local Area Network)による通信がその例である。
【0019】
無線通信部11‐aは、第1の無線通信設定と、第1の無線通信設定と通信特性が異なる第2の無線通信設定と、を切り替えて無線通信に使用する。この無線通信部11‐aにより、無線通信装置1は、自無線通信装置以外の他の無線通信装置とアドホック通信網を構成して無線通信をする。なお、切り替えて使用可能な無線通信設定の数は2つでなくてもよく、3つ以上の複数の数でもよい。
【0020】
無線通信部11‐bも、第1の無線通信設定と第2の無線通信設定とを切り替えて無線通信に使用する。無線通信部11‐a、11‐bはそれぞれが独立して他の無線通信装置とアドホック通信網を構成するため、無線通信装置1は、複数のアドホック通信網間を跨いで無線通信ができる。
【0021】
図2は、複数のアドホック通信網間を跨いで通信データの中継が可能な無線通信システムの一例である。図2において、無線通信システム100は4つの無線通信装置1‐a、1‐b、1‐c、1‐dを有する。無線通信装置1‐a〜1‐dは、独立した(別個の)アドホック通信網101、102を構成している。アドホック通信網101においては、無線通信装置1‐a〜1‐cの各無線通信部11‐aが、第1の無線通信設定を使用して無線通信を実行するように設定されることにより、それぞれアドホック通信網101内の他の無線通信装置との無線通信ができる。この状態を、無線通信装置1‐a〜1‐cがアドホック通信網101に加入している状態と定義する。アドホック通信網102においては、無線通信装置1‐c、1‐dの各無線通信部11‐bが、第2の無線通信設定を使用して無線通信を実行するように設定されることにより、それぞれアドホック通信網102内の他の無線通信装置との無線通信ができる。つまり、無線通信装置1‐c、1‐dはアドホック通信網102に加入している。なお無線通信装置1‐a〜1‐dは、それぞれ図1に記載した構成要素を備えるが、図2では無線通信部11‐a、11‐bのみ示し、その他の構成要素の図示は省略している。これは以下の図面でも同様である。
【0022】
このとき、無線通信装置1‐dは、無線通信装置1‐a、1‐bに対して通信データを送信することができる。無線通信装置1‐dは、自無線通信装置の無線通信部11‐bを介し、無線通信装置1‐cにアドホック通信網102によって通信データを送信する。無線通信装置1‐cは、自無線通信装置の無線通信部11‐bによって受信した通信データを、自無線通信装置の無線通信部11‐aを介して、無線通信装置1‐a、1‐bにアドホック通信網101によって通信データを送信する。つまり、無線通信装置1‐cは通信データの中継を実行する。このようにして無線通信装置1は、複数のアドホック通信網間を跨いたデータ通信を実行することができる。
【0023】
第1の無線通信設定は、例えばVHF(Very High Frequency)帯であり、第2の無線通信設定は、例えばUHF(Ultra High Frequency)帯である、といったように異なる周波数帯にすることができる。他の例として、第1の無線通信設定が16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)であり、第2の無線通信設定が64QAMである、といったように第1の無線通信設定と第1の無線通信設定とを異なる変調方式にしてもよい。さらに、第1の無線通信設定と第2の無線通信設定とは、以上で例示したように異なる電波伝搬特性が設定されているだけでなく、異なる伝送容量が設定されていてもよい。この場合、無線通信部11‐a、11‐bは、伝送容量が異なる複数の無線通信設定を利用可能である。第1の無線通信設定及び第2の無線通信設定は、このように、通信特性が異なっている。
【0024】
以上の無線通信設定は、具体的には、周波数帯、無線変調方式及びそれに付随するパラメータ、アクセス方式及びそれに付随するパラメータ、フレーム構成、電波送信出力、の少なくともいずれか1つを有していればよい。第1の無線通信設定、第2の無線通信設定は、少なくともこのいずれか1つが異なる。このいずれか1つでも異なることにより、第1の無線通信設定と第2の無線通信設定との通信特性が異なるため、無線通信装置の無線通信において使用可能な通信帯域量や他の無線通信装置との接続関係が変化する。
【0025】
図1に戻って説明を続ける。無線通信部11は、アンテナ、無線回路等を有し、他の無線通信装置への無線接続、無線情報の送受信、電気信号の変換等をする。これにより、無線通信部11は、音声情報、映像情報、文字情報等の送受信を実行する。なお、図1では無線通信部11は2つしか図示されていないが、それ以上の複数の無線通信部が無線通信装置1に備えられていても良い。
【0026】
判定部12は、少なくとも無線通信部11‐a、11‐bのいずれかの無線通信部が第1の無線通信設定で無線通信をしている場合に、第1の無線通信設定の変更の要否を判定する。ここで、変更の要否は、例えば第1の無線通信設定(ここでは第1の電波帯域により無線通信を実行する設定)を利用して構成した無線通信網において、空き通信帯域量が所定値以下か否かであるかを判定することにより決定する。
【0027】
ここで、「空き通信帯域」とは、無線通信装置1や他の無線通信装置が無線通信に使用しない電波帯域のことをいい、いま現在の第1の電波帯域の空き通信帯域量だけではなく、将来における第1の電波帯域の空き通信帯域量も含む。「空き通信帯域量が所定値以下」というのは、現在又は将来において無線通信に使用する第1の電波帯域において、空き通信帯域量が、輻輳等の通信障害が発生しうる閾値以下であることをいう。この閾値は、周波数帯域や変調方式によって適宜変化する値である。
【0028】
判定部12は、変更が必要と判定した場合に、自無線通信装置あるいは他の無線通信装置について、無線通信設定の変更により通信不能となる無線通信装置があるか否か(孤立する無線通信装置があるか否か)をさらに判定する。通信不能となる無線通信装置がない場合には、判定部12は無線通信設定を第2の無線通信設定に変更可能と判定する。通信不能となる無線通信装置がある場合には、判定部12は無線通信設定を第2の無線通信設定に変更不可と判定する。
【0029】
判定部12が孤立するか否かを判定する「他の無線通信装置」は、自無線通信装置と同一のアドホック通信網(自無線通信装置が加入しているアドホック通信網)を構成している無線通信装置が対象でもよいし、自無線通信装置が加入しているアドホック通信網ではないアドホック通信網を構成している無線通信装置が対象でもよい。さらに、その両方が対象であってもよい。例えば、図2において無線通信装置1‐aの判定部12が、自無線通信装置の無線通信部11‐aが使用する第1の無線通信設定の変更が必要と判定したとする。その場合に、判定部12は、自無線通信装置1‐aが加入しているアドホック通信網101を構成する無線通信装置1‐b及び1‐cを対象として、無線通信設定の変更により孤立するか否かを判定してもよい。あるいは、判定部12は、自無線通信装置1‐aが加入しているアドホック通信網101とは異なるアドホック通信網102に加入している無線通信装置1‐c、1‐dを対象として、無線通信設定の変更により孤立するか否かを判定してもよい。さらに、アドホック通信網101、102の両方を構成している無線通信装置1‐b〜1‐d全てを対象として判定を実行してもよい。
【0030】
通信制御部13は、判定部12が設定変更により通信不能となる無線通信装置がないと判定した場合に(つまり、無線通信設定を第2の無線通信設定に変更可能と判定した場合に)、無線通信部11が使用する無線通信設定を第1の無線通信設定から第2の無線通信設定に切り替える制御をする。判定部12が設定変更により通信不能となる無線通信装置があると判定した場合に(つまり、無線通信設定を第2の無線通信設定に変更不可と判定した場合に)、通信制御部13は、無線通信部11が使用する無線通信設定を第1の無線通信設定のままにする制御をする。
【0031】
無線通信装置1は、その他、電源、ディスプレイ、入力装置、メモリなど、ユーザが無線通信をするのに必要な構成要素を備える。メモリには、アドホック通信網内又はアドホック通信網外への通信を実行するときのルーティング情報が記憶されていても良い。以上に示した無線通信装置1の各部は、IC(Integrated Circuit)等のハードウェア、アプリケーションソフトウェア等のソフトウェア、又はハードウェア及びソフトウェアにより実現される。
【0032】
次に、図3を用いて、無線通信装置1の無線通信部11‐a又は11‐bが第1の無線通信設定を使用して無線通信を実行しているときに、判定部12及び通信制御部13が実行する処理を説明する。図3は、判定部12及び通信制御部13が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【0033】
判定部12は、第1の無線通信設定を第2の無線通信設定に変更する必要があるか否かを判定する(ステップS101)。
【0034】
例えば、第1の無線通信設定がVHF帯により無線通信を実行する設定、第2の無線通信設定がUHF帯により無線通信を実行する設定である場合に、判定部12は、そのVHF帯における空き通信帯域量が所定値以下か否かを判定する。所定値以下である場合には、VHF帯による正常な通信ができなくなると判定して、第2の無線通信設定であるUHF帯に変更する必要があると判定する。
【0035】
判定部12が、第1の無線通信設定を第2の無線通信設定に変更する必要がないと判定した場合には(ステップS101のNo)、通信制御部13は、無線通信部11が使用する無線通信設定をそのままにする制御を実行する(ステップS102)。
【0036】
判定部12が、第1の無線通信設定を第2の無線通信設定に変更する必要があると判定した場合には(ステップS101のYes)、判定部12は以下の判定を実行する。判定部12は、無線通信設定を変更することにより、自無線通信装置又は他の無線通信装置において、無線通信が不能となる(孤立する)無線通信装置があるか否かをさらに判定する(ステップS103)。
【0037】
判定部12が、無線通信が不能となる無線通信装置があると判定した場合には(ステップS103のYes)、通信制御部13はその判定結果に応じて、無線通信部11が使用する無線通信設定をそのままにする制御を実行する(ステップS102)。
【0038】
判定部12が、ステップS103において無線通信が不能となる無線通信装置がないと判定した場合には(ステップS103のNo)、通信制御部13はその判定結果に応じて、無線通信部11が使用する無線通信設定を第2の無線通信設定に変更する制御を実行する(ステップS104)。
【0039】
以下、図4A〜4Cを用いて、無線通信装置1を有する無線通信システムの処理について説明する。図4A、4B、4Cは、実施の形態1にかかる無線通信システム200の状態の一例を示すイメージ図である。図4Aが無線通信システム200の初期状態、図4Bが無線通信システム200の中期状態、図4Cが無線通信システム200の終期状態を示す。
【0040】
図4Aにおいて、無線通信システム200は6つの無線通信装置1‐a、1‐b、1‐c、1‐d、1‐e、1‐fを有する。これらの無線通信装置によって、アドホック通信網201、202、203、204が構成されている。
【0041】
アドホック通信網201は、無線通信装置1‐a、1‐b、1‐c及び1‐dの無線通信部11‐aが無線通信を実行する無線通信網である。アドホック通信網202は、無線通信装置1‐b及び1‐dの無線通信部11‐bが無線通信を実行する無線通信網である。アドホック通信網203は、無線通信装置1‐a及び1‐cの無線通信部11‐bが無線通信を実行する無線通信網である。アドホック通信網204は、無線通信装置1‐e及び1‐fの無線通信部11‐bが無線通信を実行する無線通信網である。図4Aにおいて、無線通信装置1‐e及び1‐fは、無線通信装置1‐a、1‐b、1‐c、1‐dと通信できない遠方に存在する。そのため、アドホック通信網204には、無線通信装置1‐a、1‐b、1‐c、1‐dが加入できない。
【0042】
ここで、アドホック通信網201においては、第1の無線通信設定として、VHF帯の電波帯域が用いられる。このためアドホック通信網201では、遠距離に通達可能かつ狭帯域な無線通信が実行される。アドホック通信網202、203、204においては、第2の無線通信設定として、UHF帯の電波帯域が用いられる。このためアドホック通信網202〜204では、近距離にのみ通達可能かつ広帯域な無線通信が実行される。図6Aにおいて、無線通信装置1‐a〜1‐dの無線通信部11‐aは同一のVHF帯を用いた同じ通信方式で無線通信を実行しており、無線通信装置1‐a〜1‐fの無線通信部11‐bは同一のUHF帯を用いた同じ通信方式で無線通信を実行している。なお、アドホック通信網201におけるVHF域の空き通信帯域は所定値より多い。
【0043】
ここで、無線通信装置1‐a〜1‐dの判定部12が図3のステップS101の判定を実行した場合には、判定部12はVHF域における空き通信帯域は所定値より多いと判定するため、無線通信設定を切り替える(通信帯域をVHF帯からUHF帯に切り替える)必要はないと判定する(ステップS101のNo)。従って、通信制御部13は使用する電波帯域をそのままにする(ステップS102)。その場合、無線通信装置1‐a〜1‐dはアドホック通信網201に加入したままであり、アドホック通信網201から離脱しない。
【0044】
次に図4Bの状態について説明する。図4Bは、図4Aに示す初期状態から、無線通信装置1‐e、1‐fがアドホック通信網201に加入した状態を示している。無線通信装置1‐dが加入する経過は、例えば次の通りである。まず図4Aに示す初期状態から、無線通信装置1‐e、1‐fが移動することにより、無線通信装置1‐e、1‐fのいずれかが、無線通信装置1‐a〜1‐dのいずれかと通信可能な状態となる。すると、無線通信装置1‐dの無線通信部11は、無線通信装置1‐a〜1‐dのいずれかから、アドホック通信網201において使用している無線通信設定の情報を受信する。これに応じて、無線通信装置1‐e、1‐fのいずれかの無線通信部11‐aは、無線に使用する無線通信設定を第1の無線通信設定に設定する。そして、アドホックネットワークプロトコルの制御データ通信が行われてアドホック通信網201内のルーティング情報が構成され、アドホック通信網201に無線通信装置1‐e、1‐fが加入し、無線通信装置1‐a〜1‐fは第1の無線通信設定で無線通信を実行する。これにより、図4Bに示すように、アドホック通信網201に前記無線通信装置1‐e、1‐fが加入する。
【0045】
なお、無線通信装置1‐e又は1‐fが受信する情報には、アドホック通信網201において使用している無線通信設定のほか、アドホック通信網201に加入している無線通信装置やその接続関係等の情報を含んでいてもよい。無線通信装置1‐e又は1‐fは、前記アドホックネットワークプロトコルにより生成されるルーティング情報からアドホック通信網201内にある全ての無線通信装置を取得する以外にも、例えば前記受信情報を元にしてアドホック通信網201内にある全ての無線通信装置を把握しても良い。これにより、無線通信装置1‐e又は1‐fは網内ルーティング情報や網間ルーティング情報を作成する。
【0046】
ここで、図4Bの状態において、無線通信装置1‐dと1‐eの間、及び無線通信装置1‐aと1‐fの間で広帯域通信を実行しようとする状態になる。この広帯域通信は、例えば映像データの送受信(高画質映像配信等)が該当する。ここでは、無線通信装置1‐dから無線通信装置1‐eに広帯域通信を開始する旨のデータが送信され、無線通信装置1‐aから無線通信装置1‐fに広帯域通信を開始する旨のデータが送信される。
【0047】
無線通信装置1‐dの判定部12は、将来その広帯域通信を実行することによって通信環境が変化することを検出する。無線通信装置1‐dの判定部12はそれをトリガとして、自無線通信装置の無線通信部11‐aが使用するVHF帯の空き通信帯域量は所定値以下か否か(すなわち、無線通信設定を切り替える必要があるか否か)を判定する(図3のステップS101)。ここで、無線通信装置1‐aが広帯域通信の通信データの送信に先立って通信帯域確保のためのシグナリングを行い、無線通信装置1‐dの判定部12がそのシグナルを受信することで通信環境が変化することを検出しても良い。
【0048】
ここで判定部12は、自無線通信装置1‐dが開始しようとする広帯域通信によりVHF帯の空き通信帯域量が所定値以下になる(不足する)ことを判定する。この場合、前述の通り、輻輳などの障害が生じてしまう可能性がある。そのため、判定部12は無線通信設定を切り替える必要があると判定する(ステップS101のYes)。
【0049】
判定部12は、この判定結果に応じて、無線通信部11‐aが使用する電波帯域をUHF帯に切り替えて無線通信を実行したときに、自無線通信装置1‐d及び自無線通信装置1‐dと同一アドホック網201、202を構成している他の無線通信装置において無線通信不能となるものがあるか否かを判定する。即ち、無線通信設定を第1の無線通信設定から第2の無線通信設定に切り替えたときに、孤立する無線通信装置があるか否かを判定する(ステップS103)。
【0050】
例えば、判定部12は、自無線通信装置1‐dと、他の無線通信装置1‐a〜1‐c、1‐e〜1‐fとのそれぞれの距離がUHF帯の電波到達距離よりも遠いか否かを判定することにより、自無線通信装置1‐dが無線通信不能になるか否かを判定してもよい。あるいは、判定部12は、自無線通信装置1‐dが取得する他の無線通信装置からの電波強度に基づいて、電波帯域を変更しても信号受信に問題ない電波強度が得られるかどうかを判定することによりこの判定を実行してもよい。
【0051】
この場合には、判定部12は、自無線通信装置1‐dと無線通信装置1‐eとがUHF帯による無線通信が可能であると判定する。さらに、他の無線通信装置1‐a〜1‐c、1‐e〜1‐fにおいても、自無線通信装置1‐dの無線通信部11‐aの設定をUHF帯に切り替えて無線通信不能となるものはないと判定する。つまり、無線通信設定を切り替えても、各無線通信装置は必ず他のどれかの無線通信装置と無線通信が可能であり、他の無線通信装置と無線通信ができなくなる(孤立する)無線通信装置は存在しないと、判定部12は判定する(ステップS103のNo)。
【0052】
そのため、判定部12は、無線通信部11‐aの使用する帯域をUHF帯に変更すること(現在のアドホック通信網201を離脱すること)が可能であると判定する。この判定に基づいて、無線通信装置1‐dの通信制御部13は、無線通信部11‐aの使用する帯域をUHF帯に変更するように(無線通信設定を第2の無線通信設定に切り替えるように)制御する(ステップS104)。
【0053】
無線通信装置1‐eの無線通信部11‐aは、無線通信装置1‐dから出力された広帯域通信を開始する旨のデータを取得する。無線通信装置1‐eの判定部12は、このデータ取得をトリガとして、無線通信装置1‐dと同様の判定及び設定の変更を実行する。これによって、無線通信装置1‐eの無線通信部11‐aの使用する帯域がUHF帯に変更される。
【0054】
以上の無線通信装置1‐d、1‐eの処理により、無線通信装置1‐d、1‐eにおける無線通信部11‐aの無線通信に使用する帯域はUHF帯に変更される。これにより、無線通信装置1‐d、1‐eの無線通信部11‐aはアドホック通信網201から離脱し、UHF帯を使用して無線通信を実行する新たなアドホック通信網205が構築される。
【0055】
無線通信装置1‐a、1‐fは、それぞれ無線通信装置1‐d、1‐eと同様の処理及び設定変更を実行する。それにより、無線通信装置1‐a、1‐fの無線通信部11‐aはアドホック通信網201から離脱し、UHF帯を使用して無線通信を実行する新たなアドホック通信網206が構築される。
【0056】
図4Cでは、このようにして生成されたアドホック通信網205及び206が示されている。アドホック通信網205、206においては、無線通信装置1‐a、1‐f、1‐d、1‐eはUHF帯を使用して無線通信をしている。
【0057】
なお、無線通信装置1‐eから無線通信装置1‐dに広帯域通信を開始する旨のデータが送信され、無線通信装置1‐fから無線通信装置1‐aに広帯域通信を開始する旨のデータが送信される場合においても、同様にアドホック通信網205、206が構築される。
【0058】
以上の処理により、広帯域通信が実行される場合において、通信アプリケーションの情報伝送のための通信帯域量を確保することができる。さらに、帯域をVHF帯からUHF帯に変更した場合において、通信できない無線通信装置がないようにすることができる。このため、通信可能な無線通信装置数を減少させずに情報伝送のための通信帯域量を確保することができる。
【0059】
上述の図4B図4Cにかかる説明では、直接(他の無線通信装置を中継せずに)2つの無線通信装置間で広帯域通信を実行する場合に、広帯域通信を開始する無線通信装置1‐d及び広帯域通信の宛先の無線通信装置1‐eが無線通信設定を変更するパターンを一例として記載した。しかし、他の無線通信装置が広帯域通信データを中継するような場合には、送信元の無線通信装置、宛先の無線通信装置だけでなく、通信データの中継を行う装置がさらに無線通信設定の変更処理を実行しても良い。
【0060】
上述の図4B図4Cにかかる説明では、広帯域通信を開始する旨のデータが送信される(すなわちシグナリングが実行される)ことをトリガとして、広帯域通信の開始前に無線通信設定の変更処理が実行されるパターンを一例として記載した。しかし、広帯域通信の開始後に、その広帯域通信のデータを送信、又は受信することをトリガとして、広帯域通信データを送信する無線通信装置、中継する無線通信装置、受信する無線通信装置の一部又は全部が上述の無線通信設定の変更処理を実行してもよい。
【0061】
無線通信装置1‐dが加入しているアドホック通信網201、202とは異なるアドホック通信網がある場合には、無線通信装置1‐dの判定部12は、そのアドホック通信網に加入している無線通信装置も、無線通信設定の変更により孤立するか否かを判定する対象としてもよい。
【0062】
無線通信装置1‐dの判定部12は、現在自無線通信装置1‐dの無線通信部11‐aがデータ通信中であれば、そのデータ通信に支障が出ないようにするため、無線通信部11‐aが使用帯域を変更できないと判定してもよい。
【0063】
以下、無線通信システムの実行する処理について、図5を用いてさらに説明する。図5は、無線通信システムのその他の例を示すイメージ図である。図5において、無線通信システム300は無線通信装置1‐f、1‐g、1‐h、1‐iを備える。無線通信装置1‐f〜1‐hの各無線通信部11‐aは、VHF帯で無線通信をする第1の無線通信設定を用いて無線通信をする。これにより、無線通信装置1‐f〜1‐hはVHF帯を使用するアドホック通信網301を構成する。無線通信装置1‐f、1‐iの各無線通信部11‐bは、UHF帯で無線通信をする第2の無線通信設定を用いて無線通信をする。これにより、無線通信装置1‐f、1‐iはUHF帯を使用するアドホック通信網302を構成する。
【0064】
図5において、無線通信装置1‐fと1‐gはUHF帯の電波の到達距離内にあるものの、無線通信装置1‐fと1‐h、無線通信装置1‐gと1‐hはUHF帯の電波の到到達距離外にある。
【0065】
以降、無線通信装置1‐fの実行する処理について、図4Bと同様に説明する。
【0066】
いま、無線通信装置1‐fと1‐g間において広帯域通信を実行しようとする状態になったとする。このとき、無線通信装置1‐fの判定部12はそれをトリガとして、図3に示す判定を実行する。無線通信装置1‐fの判定部12はステップS101において、無線通信部11‐aが広帯域通信を実行したときの空き通信帯域量が所定値以下であることを判定する。これにより、無線通信部11‐aにおける無線通信設定の変更が必要であることを無線通信装置1‐fの判定部12は判定する(ステップS101のYes)。
【0067】
次にステップS102において、無線通信装置1‐fの判定部12は、無線通信部11‐aが使用する電波帯域をUHF帯に切り替えても、自無線通信装置は無線通信装置1‐eと無線通信が可能と判定する。さらに判定部12は、自無線通信装置の無線通信部11‐aが無線通信に使用する帯域をUHF帯に切り替えることにより、アドホック通信網301、302の他の無線通信装置において、無線通信ができなくなるものがあるか否かを判定する。
【0068】
前述の通り、無線通信装置1‐hは、無線通信装置1‐f、1‐g間の距離がUHF帯の電波の到達距離外である。無線通信装置1‐hはアドホック通信網301のみに加入しており、UHF帯に切り替えると無線通信ができなくなる。そのため、無線通信装置1‐hの判定部12は、自無線通信装置が使用する帯域をUHF帯に切り替え、アドホック通信網301を離脱する(無線通信設定を第2の無線通信設定に切り替える)ことによって無線通信装置1‐hが孤立してしまうと判定する(ステップS103のYes)。この判定に基づき、無線通信装置1‐fは無線通信に使用する帯域をVHF帯のままにする(ステップS102)。これにより、無線通信装置1‐fは無線通信装置1‐hが孤立しないような処理を実行する。判定部12は、例えば無線通信装置1‐dの有する網内ルーティング情報、網間ルーティング情報又はその両方に基づいて、以上の判定処理を実行する。
【0069】
なお、無線通信装置1‐fだけでなく、無線通信装置1‐g〜1‐iも、同様の処理を実行することができる。
【0070】
以上の処理では、第1の無線通信設定がVHF帯を使用した無線通信の設定、第2の無線通信設定がUHF帯を使用した無線通信である例を説明したが、これは他の通信特性にかかる設定内容でもよい。
【0071】
さらに、各無線通信装置の判定部12は通信環境の変化をトリガとして図3にかかる処理を実行したが、判定部12は所定の周期で図3にかかる処理を実行してもよい。
【0072】
以上の処理により、実施の形態1にかかる無線通信装置は、通信可能な無線通信装置数を減少させずに、情報伝送のための通信帯域量をできるだけ確保することができる。これは、無線通信装置が以下の処理を実行するためである。
(1)無線通信部が使用する第1の無線通信設定において変更の必要があると判定され、かつ、変更により孤立する無線通信装置が生じない場合には、無線通信装置は、前記無線通信部が第1の無線通信設定と通信特性の異なる第2の無線通信設定を使用するように制御する。これにより、情報伝送のための通信帯域量を確保することが狙えるため。
(2)変更により孤立する無線通信装置が生じてしまう場合には、第1の無線通信設定において変更の必要があると判定される場合でも、使用する設定を変化せず、孤立する無線通信装置が生じないようにできるため。
【0073】
以上の効果は、特許文献1〜3及び非特許文献1〜2では達成することができない。例えば特許文献2では、異種ネットワークを複数構成可能なアドホックネットワークが開示されているものの、通信可能な無線通信装置数を減少させずに、情報伝送のための通信帯域量をできるだけ確保することはできない。
【0074】
なお、無線通信システムにおいて、全ての無線通信措置が図1に示す構成を備えている必要はなく、1又は一部の無線通信装置が図1に示す構成を備えていても良い。例えば、図5においては、無線通信装置1‐hが図1に示す構成を備えていなくともよい。このとき、無線通信装置1‐hは、自無線通信装置が孤立してしまうかどうかが判定できない。そのときに、無線通信装置1‐f、1‐i又は1‐gが代わりに判定をすることにより、その無線通信装置を孤立させないようにすることができる。
【0075】
図3に示したステップS101、S103の処理の実行の順番は変更してもよい。具体的には、判定部12は次の処理を実行する。判定部12は、最初に、第1の無線通信設定を使用している無線通信部において第1の無線通信設定を第2の無線通信設定に変更することにより、自無線通信装置及び他の無線通信装置において、無線通信不能となる無線通信装置が発生するか否かを判定する(第1の判定ステップ)。無線通信不能となる無線通信装置がないと判定した場合には、判定部12は、次にその第1の無線通信設定の変更の要否について判定する(第2の判定ステップ)。判定部12が前記第2の判定ステップにおいて第1の無線通信設定の変更が必要であると判定した場合には、通信制御部は、無線通信部が使用する無線通信設定を第1の無線通信設定から第2の無線通信設定に切り替える制御をする。判定部12が前記第1の判定ステップにおいて無線通信不能となる無線通信装置があると判定した場合か、前記第2の判定ステップにおいて第1の無線通信設定の変更が不要であると判定した場合には、通信制御部13は無線通信部が使用する無線通信設定を前記第1の無線通信設定のままにする制御をする。以上の処理は、前述の通り、例えば通信環境の変化をトリガとして実行される。
【0076】
その他の具体例として、判定部12は、ステップS101、S103の処理を一度に実行してもよい。具体的には次の通りである。通信制御部13は、判定部12が「第1の無線通信設定を第2の無線通信設定に変更する必要がある」と判定し、かつ、「第2の無線通信設定に変更しても無線通信不能となる無線通信装置が発生しない」と判定した場合に、無線通信部が使用する無線通信設定を第1の無線通信設定から第2の無線通信設定に切り替える制御をする。それ以外の判定結果(すなわち、「第1の無線通信設定を第2の無線通信設定に変更する必要がない」と判定されるか、又は「第2の無線通信設定に変更すると無線通信不能となる無線通信装置が発生する」と判定される結果)が得られた場合には、通信制御部13は無線通信部が使用する無線通信設定を第1の無線通信設定のままにする制御をする。
【0077】
つまり判定部12は、いずれかの無線通信部が第1の無線通信設定を使用して無線通信している場合に、自無線通信装置及び他の無線通信装置において、第1の無線通信設定を第2の無線通信設定に変更することにより無線通信不能となる無線通信装置があるか否かを、少なくとも判定すればよい。通信制御部13は、判定部12が無線通信不能となる無線通信装置がないと判定し、かつ第1の無線通信設定の変更が必要な場合に、無線通信部が使用する無線通信設定を前記第2の無線通信設定に切り替える制御をする。判定部12が無線通信不能となる無線通信装置があると判定した場合には、通信制御部13は、前記無線通信部が使用する無線通信設定を第1の無線通信設定のままにする制御をすればよい。
【0078】
「第1の無線通信設定の変更が必要な場合」は、例えば、第1の無線通信設定を利用して構成したアドホック無線通信網における空き通信帯域量が所定値以下である場合を含んでもよい。又は、他の無線通信装置との無線通信が安定していない場合を含んでもよい。この「無線通信の安定」については実施の形態2において詳述する。この「第1の無線通信設定の変更が必要な場合」は、判定部12によって上述の通り判定されてもよい。あるいは、無線通信部が、他からの無線通信装置からの信号の変化を検出することにより、判定されてもよい。
【0079】
実施の形態2
以下、図面を参照して本発明の実施の形態2について説明する。図6は、実施の形態2にかかる無線通信装置の構成例を示すブロック図である。無線通信装置2は、通信アプリケーション部21、2つの無線部22(無線部22‐a、22‐b)、アドホック通信網加入状態制御部23及びデータ通信制御部24を備える。
【0080】
通信アプリケーション部21は、音声通信、映像配信、Web等のデータ通信を実行し、通信用のソフトウェア及びそのソフトウェアを実行する。
【0081】
無線部22‐aは、トランシーバ部25‐aと、アドホック網ルーティング処理部26‐aを有する。無線部22‐bも同様に、トランシーバ部25‐bと、アドホック網ルーティング処理部26‐bを有する。無線部22‐a、22‐bは、図1にかかる無線通信部11‐a、11‐bに対応する。
【0082】
トランシーバ部25‐aは、周波数、周波数帯、変調方式、アクセス方式といった無線通信方式を設定し、又は設定の変更をする。トランシーバ部25‐aは、設定された無線通信方式を用いて電波を送受信し、他の無線通信装置との間で通信データを伝送する。さらにトランシーバ部25‐aは、通信データ伝送の利用帯域や他の無線通信装置から出力される電波の状態を監視する。トランシーバ部25‐aはVHF帯(低い周波数帯)とUHF帯(高い周波数帯)を切り替えて利用可能であり、VHF帯はUHF帯に比較して通達距離が短く、かつ広帯域である。なお、実施にあたってはVHF帯、UHF帯以外の周波数を利用してもよい。
【0083】
アドホック網ルーティング処理部26‐aは、IETF(Internet Engineering Task Force)のRFC3626として規格化されているOLSR(Optimized Link State Routing)等のアドホックネットワークプロトコル、又はそれに類するプロトコルを利用して、網内ルーティング情報を作成及び保管する。アドホック網ルーティング処理部26‐aは、保管された網内ルーティング情報に応じてトランシーバ部25‐aが無線通信を実行するアドホック通信網内で通信データを転送する。さらにアドホック網ルーティング処理部26‐aは、アドホック通信網加入状態制御部23へ網内ルーティング情報を提供する。
【0084】
トランシーバ部25‐b、アドホック網ルーティング処理部26‐bは、トランシーバ部25‐a、アドホック網ルーティング処理部26‐aとそれぞれ同様の処理を実行する。
【0085】
アドホック通信網加入状態制御部23は、アドホック網ルーティング処理部26‐a及び26‐bから網内ルーティング情報を取得する。アドホック通信網加入状態制御部23は、トランシーバ部25‐a及び25‐bからの通知を受けて、各トランシーバ部が現在無線通信を実行しているアドホック通信網からの離脱や、他アドホック通信網への加入を実行するか否かを判定する。この判定の結果、離脱又は加入を実行する場合には、アドホック通信網加入状態制御部23はトランシーバ部25‐a又は25‐bの設定変更を行う。このアドホック通信網加入状態制御部23は、図1にかかる判定部12及び通信制御部13に対応する。
【0086】
データ通信制御部24は、各トランシーバ部が現在無線通信を実行しているアドホック通信網間の網間ルーティング情報を作成し、それを保管する。そして、データ通信制御部24は、アドホック通信網間での通信データ転送が必要な場合に、保管している網間ルーティング情報を利用してアドホック通信網間で通信データを転送するように無線部22‐a又は22‐bを制御する。データ通信制御部24は、通信アプリケーション部21からの通信要求を受けて通信データ転送に利用するアドホック通信網を決定して転送し、アドホック通信網加入状態制御部23へ網間ルーティング情報を提供する。
【0087】
網間ルーティング情報の作成・維持に関しては、例えば既存技術であるIETFのRFC2328として規格化されているOSPF(Open Shortest Path First)のようなネットワーク間ルーティング機能を持つルーティングプロトコル、又はそれに類するプロトコルを用いることができる。例えば、実施の形態1の図4Bにおいて、無線通信装置1‐e又は1‐fは、このアドホックネットワークプロトコルによりルーティング情報を生成してもよい。
【0088】
なお、アドホック通信網加入状態制御部23は、同一のアドホック通信網にある全ての無線通信装置が保持していてもよい。あるいは、同一のアドホック通信網にある1つもしくは一部の無線通信装置のみがアドホック通信網加入状態制御部23を保持し、他の複数の無線通信装置のアドホック通信網加入状態制御処理を、そのアドホック通信網加入状態制御部23が一括して実行しても良い。通信アプリケーション部21や無線部22‐a、22‐bは、同一の無線通信装置の筐体内ではなく、異なる筐体内に実装しても良い。
【0089】
無線通信装置2は、その他、電源、ディスプレイ、入力装置など、ユーザが無線通信をするのに必要な構成要素を備える。以上に示した無線通信装置2の各部は、IC(Integrated Circuit)等のハードウェア、アプリケーションソフトウェア等のソフトウェア、又はハードウェア及びソフトウェアにより実現される。
【0090】
次に、図7A、7Bを参照して、実施の形態2における無線通信装置のアドホック通信網加入状態制御部23が実行するアドホック通信網加入状態制御の処理の流れを説明する。図7A、7Bは、実施の形態2にかかるアドホック通信網加入状態制御部23が実行する処理の一例を示すフローチャートである。なお、複数の周波数帯を利用できない場合等において、以下に説明する制御処理の一部を除いて実施しても良い。
【0091】
この制御処理は、アドホック通信網加入状態制御部23が、自無線通信装置の通信環境の変化をトリガとして実行する。通信環境に変化があったときとは、例えば以下の通りである。アドホック通信網加入状態制御部23が、トランシーバ部25‐a、25‐bから、近隣(例えば、自無線通信装置と同一のアドホック無線通信網)の他の無線通信装置からの電波強度の変化に関する通知を受け取る状況が一例である。又は、アドホック通信網加入状態制御部23がアドホック通信網ルーティング処理部26‐a、26‐bより網内ルーティング情報を取得し、その情報からアドホック無線通信網の無線通信装置間の接続関係が変わったことを検知する状況が一例である。「アドホック無線通信網の無線通信装置間の接続関係が変わった」とは、アドホック無線通信網に加入している無線通信装置が変化し、新しく加入した無線通信装置や離脱した無線通信装置が発生したことをいう。このアドホック無線通信網は、自無線通信装置が加入しているアドホック無線通信網のみでもよいし、自無線通信装置は加入していないが、網間ルーティング情報によって認識している他のアドホック無線通信網を含んでもよい。さらに、アドホック通信網加入状態制御部23が、自無線通信装置の通信アプリケーション部21からの通信要求を受信した状況も一例として含まれる。さらに、アドホック無線通信網が利用する電波帯域のリソース利用状況の変化を検出した状態も一例として含まれる。
【0092】
なお、通信アプリケーション部21からの通信要求に関し、IETFのRFC2205にて規格化されているRSVP(Resource Reservation Protocol)もしくはそれに類するシグナリングプロトコルにて、通信相手や通信経路となる無線通信装置にその通信要求を通知するように実装しても良い。
【0093】
アドホック通信網加入状態制御部23が処理を開始すると、まず自無線通信装置の全ての無線部22(無線部22‐a及び22‐b)において、他の無線通信装置との間で電波が通達されず孤立した状態になっているかどうかを判定する(ステップS201)。
【0094】
ステップS201にて無線部22の全てが孤立していると判定される場合は(ステップS201のYes)、アドホック通信網加入状態制御部23は、自無線通信装置の通信ができないため無線部の設定変更は不要と判定し、設定変更を実行しない(ステップS211)。アドホック通信網加入状態制御部23はここで処理を終了する。
【0095】
一方、ステップS201にて孤立状態でないものが存在すると判定される場合(ステップS201のNo)、アドホック通信網加入状態制御部23は、高い周波数帯(この例ではUHF帯)を使ってアドホック通信網に加入している無線部22があるかどうかを判定する(ステップS202)。
【0096】
高い周波数帯を使ってアドホック通信網に加入している無線部22がある場合には(ステップS202のYes)、アドホック通信網加入状態制御部23は、その無線部22がアドホック通信網に加入している他の無線通信装置と安定して無線通信を実行しているか否かを判定する。言いかえれば、アドホック通信網加入状態制御部23は、その無線部22の結合度(連結度)が低いか否かを判定する(ステップS203)。アドホック通信網加入状態制御部23は、その無線部22が加入するアドホック通信網における他無線通信装置との通信状態に基づいて結合度を判定する。
【0097】
この通信状態は、例えば隣接装置数(対象とする無線部22が加入するアドホック通信網内で通信可能な無線通信装置の数)や電波強度、雑音電力、無線通信のパケットエラーレート、伝搬遅延、信号電力と雑音電力の比(SN比)などの要因に基づいて判定される。
【0098】
例えば電波強度は、測定した電波強度が、正常に無線通信が可能な電波強度の閾値以上であれば「強」(問題なし)、その閾値未満ならば「弱」(問題あり)と判定することができる。雑音電力、無線通信のパケットエラーレート、伝搬遅延、SN比等についても、正常に無線通信が可能な閾値以上であれば「問題なし」、閾値未満であれば「問題あり」と判定することができる。この閾値は、周波数帯域や変調方式によって適宜変化する値である。隣接装置との無線通信が正常に実行可能か否かは、1又は複数のこれらの要因において、「問題あり」又は「問題なし」と判定された数に基づいて決定できる。
【0099】
隣接装置数については、対象とする無線部22が加入するアドホック通信網内で通信可能な無線通信装置数が所定値以上(例えば1以上)あるか否かによって決定される。
【0100】
例えば、UHF帯を使用してアドホック通信網に加入している無線通信装置があった場合に、その網内で通信可能な無線通信装置の数が「2」であり、いずれの装置との通信においても電波強度が弱いと判定された場合には、アドホック通信網加入状態制御部23は結合度が低いと判定することができる。その網内で通信可能な無線通信装置の数が「2」であり、1つの装置との通信において電波強度が弱いと判定されても、もう1つの装置との通信において電波強度が強いと判定された場合には、アドホック通信網加入状態制御部23は結合度は高いと判定することができる。つまり、電波強度が強い無線通信装置がある場合には結合度が「高」と判定され、電波強度が強い無線通信装置がない場合には結合度が「低」と判定される。このように、アドホック通信網加入状態制御部23は、結合度の高低を、隣接装置数が所定値以上あるか否か、さらにその中で無線通信が正常に実行可能な装置はどれだけあるか、ということを算出することによって判定してもよい。なお、アドホック通信網加入状態制御部23は、対象とする無線部22が加入するアドホック通信網内だけでなく、他のアドホック通信網内にあって対象とする無線部22が通信可能な無線通信装置の数、その無線通信装置との無線通信における電波強度等のファクターも、通信状態を判定する対象に入れても良い。
【0101】
ステップS203にて結合度が低いと判定された場合(ステップS203のYes)、アドホック通信網加入状態制御部23は、ステップS203の判定対象である無線部22が利用する周波数帯を切り替えても(アドホック通信網を離脱しても)、自無線通信装置の接続性に影響がないかどうかを判定する。つまり、アドホック通信網加入状態制御部23は、無線部22の利用する周波数帯を低い方に切り替えたとき、自無線通信装置が他無線通信装置から孤立した状態にならないかどうかを判定する(ステップS205)。
【0102】
「孤立した状態」の一例は、自無線通信装置の無線部22‐aがUHF帯で無線通信を実行し、無線部22‐bが無線通信を実行していないとき、無線部22‐aが使用する帯域をVHF帯に切り替えると、元々UHF帯で無線通信を実行していた全ての他無線通信装置と通信できなくなるような場合である。UHF帯からVHF帯に切り替えると、電波の到達距離は長くなり、基本的には通信可能となる無線通信装置の数は増大する。しかし、障害物等の存在があるために、VHF帯に切り替わったことによって無線通信できない無線通信装置が発生することがある。
【0103】
アドホック通信網加入状態制御部23が、ステップS205にて自無線通信装置が孤立してしまうと判断した場合には(ステップS205のNo)、アドホック通信網加入状態制御部23は接続を安定させることよりも接続を存続させることを優先して、無線部の設定変更は不要と判断する(ステップS211)。
【0104】
一方、ステップS205において自無線通信装置が孤立しないと判定された場合には(ステップS205のYes)、アドホック通信網加入状態制御部23は、ステップS203で判定対象となった無線部22が、現在加入しているアドホック通信網から離脱可能かどうかを判定する(ステップS209)。
【0105】
現在加入しているアドホック通信網から無線部22が離脱可能ではないと判定された場合には(ステップS209のNo)、アドホック通信網加入状態制御部23は、無線部の設定変更は不要と判定する(ステップS211)。
【0106】
ステップS209では、アドホック通信網加入状態制御部23は、判定対象となった無線部22の設定変更により孤立する他無線通信装置の有無を判定することにより、アドホック通信網から離脱可能か否かの判定を実行する。判定対象となった無線部22のみと無線通信を実行してきた他無線通信装置がある場合には、判定対象となった無線部22が使用する帯域を変更することにより、その無線通信装置はどの無線通信装置とも無線通信ができない孤立状態となることが考えられる。その場合には、アドホック通信網加入状態制御部23は、自無線通信装置の通信状態の向上よりも他の無線通信装置を孤立しないようにすることを優先して、現在加入しているアドホック通信網から離脱可能ではないと判定する。これにより、無線部の設定変更はなされない(ステップS211)。「他の無線通信装置」の詳細については、実施の形態1にて前述した通りである。
【0107】
さらに、ステップS209においてアドホック通信網加入状態制御部23は、通信アプリケーション部21の通信データ転送の実行状況にも基づいて、アドホック通信網から離脱可能か否かの判定を実行する。通信アプリケーション部21が、判定対象となった無線部22から他無線通信装置に通信データを転送中である場合には、すぐに無線部22の帯域を変更すると通信データが途絶してしまう不都合が生じえる。その場合には、アドホック通信網加入状態制御部23は、一旦判定対象となった無線部22の設定内容の変更処理を中止し、通信データの送信終了を待って、その無線部22の設定内容を変更する処理を実行する。
【0108】
一方、ステップS209にて離脱可能と判定された場合(すなわち、孤立する他の無線通信装置がなく、なおかつ判定対象となった無線部22が通信データを転送していない場合)、アドホック通信網加入状態制御部23は、判定対象となった無線部22の無線通信設定を変更する(ステップS210)。具体的には、無線部22の使用する電波帯域をUHF帯からVHF帯にするように設定を変更する。アドホック通信網加入状態制御部23は、電波帯域の他に、通信方式を変更してもよい。
【0109】
以下、ステップS202、203の分岐に戻り、説明を続ける。ステップS202にて、高い周波数帯を使ってアドホック通信網に加入している無線部22がない場合(ステップS202のNo)、又はステップS203にて結合度が高いと判定される場合には(ステップS203のNo)、アドホック通信網加入状態制御部23は、自無線通信装置において、空き通信帯域(通信に使用してない帯域)が不足する無線部があるか否かを判定する(ステップS204)。アドホック通信網加入状態制御部23は、自無線通信装置の各無線部において、空き通信帯域量を確認することにより判定を実行する。「空き通信帯域が不足」とは、空き通信帯域量が所定値以下であることを意味する。この詳細については、実施の形態1に記載した通りである。
【0110】
空き通信帯域が不足する無線部があると判定される場合には(ステップS204のYes)、アドホック通信網加入状態制御部23は、ステップS205の判定を実行する。これは、周波数帯を切り替えることにより、空き通信帯域量を増やすことを目的としている。
【0111】
例えば、VHF帯で通信を実行している無線部22があり、ステップS204において、そのVHF帯において空き通信帯域が不足すると判定されたとする。ここで、無線部22が使用する周波数帯を帯域量の広いUHF帯に変更することにより、空き通信帯域量を増やすことができる。そのときに、アドホック通信網加入状態制御部23は、ステップS205の判定を実行して使用する電波帯域をVHF帯からUHF帯に変更することにより、自無線通信装置が孤立しないかどうかを判定する。UHF帯はVHF帯に比較して電波の到達距離が短いため、VHF帯で通信可能だった無線通信装置と通信できなくなることが想定されるためである。
【0112】
どの無線通信装置とも通信ができない、つまり自無線通信装置が孤立すると判定された場合には(ステップS205のNo)、アドホック通信網加入状態制御部23は現在の無線通信の接続を保持することを優先し、設定を変更しない(ステップS211)。
【0113】
自無線通信装置が孤立しないと判定された場合には(ステップS205のYes)、アドホック通信網加入状態制御部23は、判定対象となった無線部22が現在加入しているアドホック通信網から離脱可能かどうかを判定する(ステップS209)。ステップS209の詳細については前述の通りである。そして、ステップS209の判定結果に応じて、アドホック通信網加入状態制御部23は、ステップS210又はS211の処理を実行する。
【0114】
ステップS204にて、空き通信帯域が不足する無線部22がないと判定された場合は(ステップS204のNo)、アドホック通信網加入状態制御部23は、無線部22のいずれかにおいて、現在加入中のアドホック通信網とは別のアドホック通信網(即ち、自無線通信装置が現在加入していないアドホック通信網)を検出したかどうかを判定する(ステップS206)。
【0115】
この状況の具体例は以下の通りである。自無線通信装置の周辺において、今まで電源オフにより無線通信を実行しなかった無線通信装置の電源がオンになり、その無線通信装置が無線通信を開始する状況が一例である。このとき、自無線通信装置の無線部22は、その無線通信装置が構成するアドホック通信網を検出する。例えば、無線部22は、その無線通信装置からのビーコン信号を取得して、その無線通信装置の宛先アドレスや通信に用いられている周波数帯、通信方式の情報を取得することにより、その無線通信装置が構成するアドホック通信網を検出してもよい。
【0116】
他には、今まで自無線通信装置と通信ができない距離にあった無線通信装置が移動して、自無線通信装置と通信可能な距離まで接近した状況も考えられる。この場合にも、自無線通信装置の無線部22は、例えばその無線通信装置からのビーコン信号を取得することにより、その無線通信装置が構成するアドホック通信網を検出する。
【0117】
アドホック通信網加入状態制御部23は、現在加入中のアドホック通信網とは別のアドホック通信網を検出した場合には、現在加入中のアドホック通信網を離脱して新たに検出したアドホック通信網に加入することにより、通信環境を改善できるか否かを判定する(ステップS207)。「通信環境の改善」とは、例えば現在より高速な通信が可能になること、より広帯域な通信が可能になること、より安定した通信が可能になること、通信可能な無線通信装置数が増加すること、の少なくともいずれか1つを含む。あるいは、無線通信の速度、通信の帯域、通信の安定性、通信可能な無線通信装置数のいずれか1つが所定の値又は基準以上になる場合に、通信環境が改善したと定義してもよい。通信の安定性については、ステップS203の説明で前述した通りである。
【0118】
新たに検出したアドホック通信網に加入することにより通信環境を改善できると判定される場合には(ステップS207のYes)、アドホック通信網加入状態制御部23は、現在加入中のアドホック通信網において無線通信を実行している無線部22が、現在加入しているアドホック通信網から離脱可能かどうかを判定する(ステップS209)。
【0119】
離脱可能であると判定された場合には(ステップS209のYes)、アドホック通信網加入状態制御部23は、対象となる無線部22に対し、現在加入中のアドホック通信網を離脱し、新たに検出したアドホック通信網に加入するように設定を変更するよう制御する(ステップS209のYes)。つまり、アドホック通信網加入状態制御部23は、無線部22が使用している通信帯域、通信方法を、現在加入中のアドホック通信網のものから新たに検出したアドホック通信網のものに切り替えるよう制御する。
【0120】
離脱できないと判定された場合には(ステップS209のNo)、アドホック通信網加入状態制御部23は対象となる無線部22の設定を変更しない(ステップS211)。
【0121】
新たに検出したアドホック通信網に加入しても通信環境を改善できないと判定された場合には(ステップS207のNo)、アドホック通信網加入状態制御部23は、無線部の設定変更は不要と判定し、使用する帯域を変更しない(ステップS211)。
【0122】
ステップS206の判定に戻って説明を続ける。ステップS206において、現在加入中のアドホック通信網とは別のアドホック通信網を検出していないと判定した場合は(ステップS206のNo)、アドホック通信網加入状態制御部23は、自無線通信装置の無線部22のいずれかが加入しているアドホック通信網における空き通信帯域量が十分であるか否かを判定する(ステップS208)。アドホック通信網加入状態制御部23は、全ての無線部22において、無線通信に使用する帯域及び空き通信帯域量を見積もることにより、ステップS208の判定を実行する。
【0123】
ここで「空き通信帯域量が十分」とは、無線部22‐a、22‐bの一方の無線部が使用する電波帯域の空き通信帯域量が、他方の無線部において使用する通信帯域量よりも所定値以上大きいことをいう。ここで、「一方の無線部において使用する通信帯域量」は、今現在一方の無線部において使用している通信帯域量だけではなく、将来使用すると見込まれる通信帯域量の概念も含む。「他方の無線部において使用する通信帯域量」も同様に、将来使用すると見込まれる通信帯域量の概念を含む。そして「所定値」は、一方の無線部において使用する電波帯域において、正常な無線通信に必要な空き通信帯域量の閾値である。つまり、一方の無線部において、他方の無線部において実行する無線通信を実行した場合に、正常な無線通信に必要な空き通信帯域量が一方の無線部の使用する電波帯域において確保できるか否かを、ステップS208においてアドホック通信網加入状態制御部23は判定している。
【0124】
例えば、無線部22‐aがVHF帯で無線通信を実行し、無線部22‐bがUHF帯で無線通信を実行するときに、アドホック通信網加入状態制御部23はステップS208で、無線部22‐aが実行する無線通信が、無線部22‐bが無線通信を実行するUHF帯でできるか否かを判定する。具体的には、UHF帯において、無線部22‐bが使用する帯域量に加算して、無線部22‐aが実行する無線通信の帯域量が加算されたとしても、UHF帯は所定値以上の空き通信帯域量を有するか否かを判定する。
【0125】
全ての無線部22が加入しているアドホック通信網における空き通信帯域量が十分でないと判定された場合には(ステップS208のNo)、アドホック通信網加入状態制御部23は、無線部の設定変更は不要と判断し、使用する帯域を変更しない(ステップS211)。
【0126】
いずれかの無線部22が加入しているアドホック通信網における空き通信帯域量が十分と判定された場合には(ステップS208のYes)、アドホック通信網加入状態制御部23は、空き通信帯域量が不十分と判定されたアドホック通信網において無線通信を実行している無線部22が、そのアドホック通信網から離脱可能かどうかを判定する(ステップS209)。又は、アドホック通信網加入状態制御部23は、空き通信帯域量が最も少ないと判定されたアドホック通信網において無線通信を実行している無線部22が、そのアドホック通信網から離脱可能かどうかを判定してもよい。
【0127】
アドホック通信網から離脱可能であると判定された場合には(ステップS209のYes)、ステップS209で判定対象となった無線部22はアドホック通信網から離脱し、無線通信を実行しないように、設定が変更される。さらに、空き通信帯域量が十分と判定された無線部22に対し、アドホック通信網から離脱した無線部22の実行する無線通信をさらに実行するように制御する(ステップS210)。
【0128】
以上の処理において、ステップS202〜204は、図3のステップS101に対応する。ステップS211は、図3のステップS102に対応する。ステップS205、S209は、図3のステップS103に対応する。ステップS210は、図3のステップS104に対応する。
【0129】
以上の処理は、例えば図4A図4Cにかかる無線通信システム200、図5にかかる無線通信システム300の各無線通信装置において実行することができる。
【0130】
実施の形態2にかかる無線通信装置は、以下の効果を生ずる。
【0131】
第1に、ステップS204、S205及びS209の処理により、無線通信装置が備える複数の無線部のうちの一つの設定を、通信可能な無線通信装置数を減少させずに、情報伝送のための必要な通信帯域量をできるだけ確保することができるように制御することができる。これは、無線通信装置が以下の処理を実行するためである。
(1)空き通信帯域量が不足しており、電波帯域を変更しても孤立する無線通信装置が発生しないと判定される場合には、無線通信装置が第1の電波帯域(VHF帯)よりも広帯域の第2の電波帯域(UHF帯)を無線通信に使用することにより、情報伝送のための通信帯域量を確保することが狙えるため。
(2)空き通信帯域量が不足していても、使用する電波帯域を到達距離の短い第2の電波帯域に変更してしまうことによって、自無線通信装置又は他の無線通信装置が孤立してしまう場合には、使用する電波帯域を変化せず、無線通信装置を通信可能な状態のままにできるため。
【0132】
例えば、広帯域通信が実行される場合において、通信アプリケーションの情報伝送のための通信帯域量を確保することができる。さらに、帯域をVHF帯からUHF帯に変更した場合において、通信できない無線通信装置がないようにすることができる。このため、通信可能な無線通信装置数を減少させずに情報伝送のための通信帯域量を確保することができる。
【0133】
さらに、他の無線通信装置との無線通信が安定せず、電波帯域を変更しても孤立する無線通信装置が発生しないと判定される場合には、無線通信装置が第2の電波帯域(UHF帯)よりも電波の到達距離が長い第1の電波帯域(VHF帯)を無線通信に使用することにより、無線通信の安定化が狙える。第2の電波帯域から第1の電波帯域に変更することによって孤立してしまう無線通信装置が発生する場合には、使用する電波帯域を変化せず、無線通信装置を通信可能な状態のままにすることができる。
【0134】
第2に、無線通信装置の通信環境の変化をトリガとして、無線通信装置は自律的にアドホック無線通信網への加入又は離脱を判断し、実行することができる。この通信環境の変化は、例えば無線通信装置が受信する他の無線通信装置からの電波の強度の変化、無線通信網の構成の変化、他の無線通信装置からの通信要求の受信、アドホック無線通信網のリソース利用状況の変化、の少なくともいずれか1つを含む。これにより、ユーザがアドホック無線通信網への加入又は離脱を判断する必要がなくなる。
【0135】
第3に、無線通信に高周波数帯を使用している無線部があってその無線通信が不安定である場合に、無線通信を低周波数帯で実行するようにすることで、他の無線通信装置と安定して接続することができる。これは、ステップS202、203及び205の処理において、使用する周波数帯を、到達距離の長い低周波数帯に切り替えたことによる効果である。さらに、切り替えることにより自無線通信装置が孤立してしまう場合には、周波数帯を切り替えないことにより、自無線通信装置の接続性を保つことができる。
【0136】
第4に、ステップS206、207の処理により、現在未加入であるが加入によって通信環境の向上が見込まれるアドホック通信網に加入するように制御がなされることで、無線通信装置の通信環境の向上を実現することができる。
【0137】
第5に、ステップS208の処理により、一方の無線部が実行する無線通信を、十分な空き通信帯域量を有する他方の無線部において実行することにより、一方の無線部を使用しない状態にすることができる。これにより、一方の無線部を、突発的な通信が生じることにより新たにアドホック通信網が構成されたときに、そのアドホック通信網にすぐ加入可能なようにすることができる。つまり、新たなアドホック通信網に対応可能とすることができる。
【0138】
第6に、無線通信部が使用する帯域を切り替えるか無線通信網から離脱するように制御するときに、電波帯域の切り替えを実行する無線部がデータ送信中である場合には電波帯域の切り替えを実行しないことにより、現在送信中のデータを確実に送信することができる。
【0139】
上述の例では、アドホック通信網加入状態制御部23が判定処理と無線部の制御処理の両方を実行した。ここでアドホック通信網加入状態制御部23は、判定処理を実行する判定部(実施の形態1の判定部12に対応)と、無線部の制御処理を実行する制御部(実施の形態1の通信制御部13に対応)に分かれていてもよい。
【0140】
実施の形態3
以下、図面を参照して本発明の実施の形態3について説明する。図8は、実施の形態3にかかる無線通信装置の構成例を示すブロック図である。無線通信装置3は、無線通信装置2に比較して、新たにアドホック通信網加入状態制御調停部(調停部)27を備える。
【0141】
アドホック通信網加入状態制御調停部27は、自無線通信装置のアドホック通信網加入状態制御部23における判断結果を、いずれかの無線部を介して他の無線通信装置に通信し、他の無線通信装置と新たな網への加入又は現在加入中の網からの離脱の実行可否を調停する。
【0142】
無線通信装置3のその他の構成要素については無線通信装置2と同様である。
【0143】
次に、図9A及び図9Bを参照して、実施の形態3における無線通信装置3のアドホック通信網加入状態制御部23の処理の流れを説明する。図9A及び図9Bは、実施の形態3にかかるアドホック通信網加入状態制御部23及びアドホック通信網加入状態制御調停部27が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【0144】
図9A及び図9BのステップS301〜S309については、図7A及び図7BのステップS201〜S209と同様である。
【0145】
アドホック通信網加入状態制御部23は、ステップS309において無線部が網から離脱可能と判定後、設定の変更内容を決定する(ステップS310)。この段階では、まだアドホック通信網加入状態制御部23は無線部22の設定を変更していない。
【0146】
その後、アドホック通信網加入状態制御調停部27は、アドホック通信網加入状態制御部23が設定の変更内容を決定したことをトリガとして、設定が変更される無線部22が加入しているアドホック通信網に加入している他の無線通信装置に対し、アドホック通信網への加入又は離脱の実行可否を調停する(ステップS312)。
【0147】
この調停は、例えば次の通りに実行できる。図10は、図4Bと同様の状態を示した無線通信システム400を示している。図10の各無線通信装置は図8の構成を備えている。
【0148】
図10において、無線通信装置3‐dのアドホック通信網加入状態制御部23が、無線部22‐aの使用する帯域をUHF帯にするように設定の変更内容を決定する。このとき、無線通信装置3‐dのアドホック通信網加入状態制御調停部27は、無線通信装置3−eに対し、使用する電波帯域をVHF帯からUHF帯に変更して問題ないか否かを、無線部22‐aを介した無線通信により問い合わせる。
【0149】
無線通信装置3‐eのアドホック通信網加入状態制御調停部27は、自無線通信装置3‐eの無線部22‐aからこの問い合わせを取得し、これをトリガとして、自無線通信装置の使用する電波帯域をVHF帯からUHF帯に変更可能か否かを判定する。具体的には、図7BのステップS209に示した判定を実行する。
【0150】
使用する電波帯域がVHF帯からUHF帯に変更可能である場合には、無線通信装置3‐eのアドホック通信網加入状態制御調停部27は、無線部22‐aを介して、無線通信装置3−dにその情報を送信する。無線通信装置3‐dのアドホック通信網加入状態制御部23は、受信したその情報に基づいて、自無線通信装置の無線部22‐aの設定を変更する。さらに、無線通信装置3‐eのアドホック通信網加入状態制御部23も、自無線通信装置の無線部22‐aの設定を変更する。
【0151】
使用する電波帯域がVHF帯からUHF帯に変更できない場合には、無線通信装置3‐eのアドホック通信網加入状態制御調停部27は、無線部22‐aを介して、無線通信装置3‐dにその情報を送信する。無線通信装置3‐dのアドホック通信網加入状態制御部23は、受信したその情報に基づいて、自無線通信装置の無線部22‐aの設定の変更を実行しないようにする(実行を中止する)。なお、無線通信装置3‐eが一時的な事情で電波帯域を変更できない場合には、無線通信装置3‐eは電波帯域を変更可能にするのにかかる時間について送信し、無線通信装置3‐dのアドホック通信網加入状態制御部23はその時間経過後に自無線通信装置の無線部22‐aの設定を変更してもよい。無線通信装置3‐eのアドホック通信網加入状態制御部23も、その時間経過後に、自無線通信装置の無線部22‐aの設定を変更する。
【0152】
このように、アドホック通信網加入状態制御調停部27は、アドホック通信網加入状態制御部23が、無線通信部が使用する無線通信設定を切り替えるか、無線通信部がアドホック通信網から離脱して別のアドホック無線通信網に加入するように制御するときに、他の無線通信装置に対し、当該制御の実行の可否について調停を実行する。以上の処理により、実施の形態3にかかる無線通信装置は同一アドホック通信網に加入する他の無線通信装置と協調して、アドホック無線通信網への加入又は離脱について、判断し、実行する。これにより、より迅速に、通信可能な無線通信装置数を減少させないままで、通信帯域量を確保することが可能なアドホック無線通信網を構成することができる。
【0153】
上述の例では、1つの無線通信装置に対して調停制御を実行したが、複数の無線通信装置に対しても同様に調停制御を実行してもよい。
【0154】
つまり、上述の説明では、直接(他の無線通信装置を中継せずに)2つの無線通信装置間で広帯域通信を実行する場合に、広帯域通信を開始する無線通信装置3‐dと広帯域通信の宛先の無線通信装置3‐e同士で調整制御を実行するパターンを一例として記載した。しかし、他の無線通信装置が広帯域通信データを中継するような場合には、送信元の無線通信装置、宛先の無線通信装置だけでなく、通信データの中継を行う装置も、それぞれの装置間でさらに調整制御を実行しても良い。その他の無線通信装置(例えば、無線通信装置3‐dが加入しているアドホック通信網及び無線通信装置3‐eが加入しているアドホック通信網に加入している全ての無線通信装置)に対しても、無線通信装置3‐d、3‐eは調停制御を実行してもよい。
【0155】
さらに、アドホック通信網を構成する1又は一部の特定の無線通信装置にのみ、アドホック通信網加入状態制御調停部27は調停にかかる情報を送信してもよい。この1又は一部の特定の無線通信装置は、いわゆるスーパーノードとして機能している装置であり、他の無線通信装置からの調停にかかる情報を取得し、現在の網内ルーティング情報及び網間ルーティング情報に基づいて、他の無線通信装置の帯域切り替えを制御する。
【0156】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、本発明の態様として、無線通信装置だけではなく、実施の形態1〜3のいずれかに記載の無線通信装置を含んだ無線通信システムを挙げることもできる。さらに、本発明の別の態様として、図3図7A〜7B、図9A〜9Bに記載の無線通信装置の処理方法を挙げることもできる。本発明は、アドホックネットワークを構成する無線通信装置、無線通信システム及び無線通信方法に適用することができる。
【0157】
図7A、7Bのフローチャートにおけるステップの実行の順番は適宜入れ替え可能であり、図7A、7Bに示した順番に固定されない。例えば、ステップS205の判定処理は、ステップS201とS202との判定処理の間に実行されてもよい。ステップS206〜S208も、ステップS201とS202との判定処理の間に実行されてもよい。図9A、9Bのフローチャートにおけるステップの実行の順番も同様の入れ替えが可能である。その他、実施の形態1で上述したようにステップの実行の順番を入れ替えても良い。
【0158】
アドホック網により通信を実行する無線通信装置は、同じ種類の無線通信装置でなくてもよい。例えば、無線LANにより無線通信を実行する場合に、パーソナルコンピュータと携帯情報端末といった異なる種類の無線通信装置同士で、無線通信が実行されても良い。
【0159】
実施の形態1〜3に示した処理フローは、制御方法の1つとして、無線通信装置に実行させることができる。例えば、処理フローを表示制御プログラムとして無線通信装置に実行させてもよい。
【0160】
ここで無線通信装置において実行される表示制御プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、表示制御プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、表示制御プログラムをコンピュータに供給できる。
【0161】
以下、本発明の各種形態を付記する。
(付記1)
複数の無線通信部を保持し、各々の前記無線通信部が独立して他の無線通信装置とアドホック無線通信網を構成し、複数の前記アドホック無線通信網間を跨いだ無線通信を行う無線通信装置であって、
第1の無線通信設定と、前記第1の無線通信設定と通信特性が異なる第2の無線通信設定と、を切り替えて使用することにより、前記他の無線通信装置とアドホック無線通信網を構成して無線通信をする第1の無線通信部及び第2の無線通信部と、
少なくとも前記第1又は第2の無線通信部が前記第1の無線通信設定を使用して無線通信しているときに、自無線通信装置及び前記他の無線通信装置において、当該第1の無線通信設定を前記第2の無線通信設定に変更することにより無線通信不能となる無線通信装置があるか否かを判定する判定部と、
前記判定部が無線通信不能となる無線通信装置がないと判定し、かつ前記第1の無線通信設定の変更が必要な場合に、前記第1の無線通信設定を使用する前記無線通信部の無線通信設定を前記第2の無線通信設定に切り替える制御をし、前記判定部が無線通信不能となる無線通信装置があると判定した場合に、当該無線通信部が使用する無線通信設定を前記第1の無線通信設定のままにする制御をする通信制御部と、
を備える無線通信装置。
(付記2)
前記第1の無線通信設定と、前記第2の無線通信設定とは、周波数帯、無線変調方式及びそれに付随するパラメータ、アクセス方式及びそれに付随するパラメータ、フレーム構成、電波送信出力、の少なくともいずれか1つが異なる、
付記1に記載の無線通信装置。
(付記3)
前記第1の無線通信設定の変更が必要な場合とは、前記第1の無線通信設定を利用して構成したアドホック無線通信網における空き通信帯域量が所定値以下である場合を含む、
付記1又は2に記載の無線通信装置。
(付記4)
前記第1の無線通信設定の変更が必要な場合とは、前記他の無線通信装置との無線通信が安定していない場合を含む、
付記1ないし3のいずれか1項に記載の無線通信装置。
(付記5)
前記判定部は、前記自無線通信装置の通信環境の変化をトリガとして、前記判定を実行する、
付記1ないし4のいずれか1項に記載の無線通信装置。
(付記6)
前記通信環境の変化は、前記自無線通信装置が受信する前記他の無線通信装置からの電波の強度の変化、前記アドホック無線通信網における前記無線通信装置間の接続関係の変化、前記他の無線通信装置からの通信要求の受信、の少なくともいずれか1つを含む、
付記4に記載の無線通信装置。
(付記7)
前記判定部は、前記第1又は第2の無線通信部が前記第1の無線通信設定を使用して無線通信をするアドホック無線通信網とは別のアドホック無線通信網を検出した場合に、当該別のアドホック無線通信網に加入することにより、前記アドホック無線通信網と比較して前記他の無線通信装置との通信環境が向上するか否かをさらに判定し、
前記判定部が、前記通信環境が向上すると判定した場合に、前記通信制御部は、前記無線通信部に対し、前記アドホック無線通信網から離脱して前記別のアドホック無線通信網に加入するように制御を行う、
付記1ないし6のいずれか1項に記載の無線通信装置。
(付記8)
前記無線通信装置は、前記通信制御部が、前記無線通信部が前記アドホック通信網から離脱して前記別のアドホック無線通信網に加入するように制御するときに、前記他の無線通信装置に対し、当該制御の実行の可否について調停を実行する調停部をさらに備える、
付記7に記載の無線通信装置。
(付記9)
付記1ないし8のいずれか1項に記載の無線通信装置を備える無線通信システム。
(付記10)
複数の無線通信部を保持し、各々の前記無線通信部が独立して他の無線通信装置とアドホック無線通信網を構成し、複数の前記アドホック無線通信網間を跨いだ無線通信を行う無線通信装置の無線通信方法であって、
少なくとも第1の無線通信部又は第2の無線通信部が第1の無線通信設定を使用して無線通信しているときに、自無線通信装置及び前記他の無線通信装置において、当該第1の無線通信設定を、当該第1の無線通信設定と通信特性が異なる第2の無線通信設定に変更することにより無線通信不能となる無線通信装置があるか否かを判定し、
無線通信不能となる無線通信装置がないと判定し、かつ前記第1の無線通信設定の変更が必要な場合には、前記第1の無線通信設定を使用する前記無線通信部の無線通信設定を前記第2の無線通信設定に切り替える制御をし、
無線通信不能となる無線通信装置があると判定した場合には、前記第1の無線通信設定を使用する前記無線通信部の無線通信設定を前記第1の無線通信設定のままにする制御をする
無線通信装置の無線通信方法。
(付記11)
前記無線通信装置は、前記通信制御部が、前記第1の無線通信設定を使用する無線通信部の無線通信設定を前記第2の無線通信設定に切り替える制御をするときに、前記他の無線通信装置に対し、当該制御の実行の可否について調停を実行する調停部をさらに備える、
付記1ないし8のいずれか1項に記載の無線通信装置。
(付記12)
前記判定部は、前記通信制御部が、前記無線通信部が前記アドホック通信網から離脱して前記別のアドホック無線通信網に加入するように制御するときに、当該無線通信部がデータ送信中であるか否かを判定し、
前記判定部が、前記無線通信部がデータ送信中であると判定した場合には、前記通信制御部は前記制御の実行を中止する、
付記7に記載の無線通信装置。
(付記13)
前記判定部は、前記通信制御部が、前記第1の無線通信設定を使用する前記無線通信部の無線通信設定を前記第2の無線通信設定に切り替える制御をするときに、当該無線通信部がデータ送信中であるか否かを判定し、
前記判定部が、前記無線通信部がデータ送信中であると判定した場合には、前記通信制御部は前記制御の実行を中止する、
付記1ないし8のいずれか1項に記載の無線通信装置。
(付記14)
前記第1の無線通信設定は、VHF帯により無線通信を実行する設定であり、前記第2の無線通信設定は、UHF帯により無線通信を実行する設定である、
付記1ないし8のいずれか1項に記載の無線通信装置。
(付記15)
前記無線通信装置及び他の無線通信装置はトランシーバである、
付記1ないし8のいずれか1項に記載の無線通信装置。
(付記16)
複数の無線通信部を保持し、各々の前記無線通信部が独立して他の無線通信装置とアドホック無線通信網を構成し、複数の前記アドホック無線通信網間を跨いだ無線通信を行う無線通信装置の無線通信プログラムが格納された非一時的なコンピュータ可読媒体であって、
少なくとも第1の無線通信部又は第2の無線通信部が第1の無線通信設定を使用して無線通信しているときに、自無線通信装置及び前記他の無線通信装置において、当該第1の無線通信設定を、当該第1の無線通信設定と通信特性が異なる第2の無線通信設定に変更することにより無線通信不能となる無線通信装置があるか否かを判定し、
無線通信不能となる無線通信装置がないと判定し、かつ前記第1の無線通信設定の変更が必要な場合には、前記第1の無線通信設定を使用する無線通信部の無線通信設定を前記第2の無線通信設定に切り替える制御をし、
無線通信不能となる無線通信装置があると判定した場合には、前記第1の無線通信設定を使用する無線通信部の無線通信設定を前記第1の無線通信設定のままにする制御をすることを無線通信装置に実行させる無線通信プログラムが格納された非一時的なコンピュータ可読媒体。
【0162】
以上、本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0163】
この出願は、2012年3月29日に出願された日本出願特願2012−077786を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明は、無線通信装置、無線通信システムにおいて、通信可能な無線通信装置数を減少させずに情報伝送のための通信帯域量を確保するために利用することが可能である。
【符号の説明】
【0165】
1 無線通信装置
11 無線通信部
12 判定部
13 通信制御部
2 無線通信装置
21 通信アプリケーション部
22 無線部
23 アドホック通信網加入状態制御部
24 データ通信制御部
25 トランシーバ部
26 アドホック通信網ルーティング処理部
27 アドホック通信網加入状態制御調停部
100、200、300、400 無線通信システム
101、102、103、201、202、203、204、205、206、301、302、401、402、403、404 アドホック通信網
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10