(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
離型のために用いられる突き出しピンが当接される位置が、前記ゲートを前記射出成形体の長手方向に当該射出成形体の長さだけ延長してなるゲート延長領域を前記対向面に投影してなる第1の投影領域以外、かつ、前記励起光が通る領域を前記対向面に投影してなる第2の投影領域以外の前記対向面の領域に配置される
請求項4に記載のプリズム。
表面プラズモンを利用した表面プラズモン励起蛍光分光法の分析において、検出下限となる試料液が供給された場合に放射する自家蛍光の光量が、前記試料液から放射される表面プラズモン励起蛍光の光量より少ない
請求項1〜9のいずれかに記載のプリズム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、添付した図面を参照しつつ説明する。プリズムの実施形態について説明するにあたって、まずプリズムを含む計測装置1000の概略構成及び各構成要素について説明する。計測装置1000は、チップ表面プラズモン励起蛍光分光法(SPFS)による計測を行う装置である。
図1は、計測装置の全体構成を示す模式図である。
【0017】
[計測装置の全体構成及び各構成要素]
図1に示すように、計測装置1000は、照射機構1020、測定機構1022、送液機構1024、センサーチップ1026、試薬チップ1028及びコントローラー1030を備える。照射機構1020は、レーザーダイオードI050、直線偏光板I052、ミラー1054及びミラー駆動機構1056を備える。測定機構1022は、光電子増倍管1070、ローパスフィルター1072、ローパスフィルター駆動機構1074及びフォトダイオード1076を備える。これらの構成物以外の構成物が計測装置1000に付加されてもよい。これらの構成物の一部が計測装置1000から省略されてもよい。
【0018】
(センサーチップ)
センサーチップ1026は、
図2に示すようにプリズム1090、金膜1092、及び流路形成体1096を含んで構成される。流路形成体1096は、流路形成シート1110及び流路形成蓋1112を備える。流路形成体1096には、図示しない流路が形成される。この流路は、供給経路、反応室及び回収経路を備える。反応室は、流路形成シート1110に形成される。供給経路及び回収経路は、流路形成蓋1112に形成される。
【0019】
なお、センサーチップ1026は、「検査チップ」「分析チップ」「バイオチップ」「試料セル」等とも呼ばれる。センサーチップ1026は、望ましくは各辺の長さが数mmから数cmまでの範囲内にある構造物であるが、「チップ」とは呼びがたいより小型の又はより大型の構造物に置き換えられてもよい。
【0020】
(プリズム)
プリズム1090は、
図3に示すように、励起光ELに対して透明な樹脂からなる誘電体媒体であり、その形状は台形柱体であり、望ましくは等脚台形柱体である。なお、プリズム1090の形状は、電場増強度が極大になる入射角θで励起光ELを反射面1172へ入射させることができるように決められる。この条件が満たされる限り、プリズム1090が台形柱体以外でもよく、プリズム1090が「プリズム」とは呼びがたい形状物に置き換えられてもよい。例えば、プリズム1090が半円柱体であってもよく、プリズム1090が板に置き換えられてもよい。なお、プリズム1090の作製方法については、後述する。
【0021】
また、プリズム1090は、
図3に示すように、入射面1170、反射面1172、出射面1174及びヒケ面1175を備える。プリズム1090の一方の傾斜側面は入射面1170になり、プリズム1090の幅広の平行側面は反射面1172になり、プリズム1090の他方の傾斜側面は出射面1174になり、反射面1172に対向する対向面がヒケ面1175になる。
【0022】
プリズム1090は、
図4に示すように、励起光ELが入射面1170へ入射し反射面1172に反射され出射面1174から出射するように、入射面1170、反射面1172及び出射面1174が配置される。
【0023】
以下に、プリズム1090の材料となる樹脂材について、透明性、液体に対する耐性、硬度、吸水率、屈折率、光弾性係数、自家蛍光、P偏向成分の維持率とSPR/SPFSの計測感度の関係等に言及しながら説明する。
【0024】
<透明性>
プリズム1090の材料である樹脂材は、励起光ELに対して透明である。
【0025】
<液体に対する耐性>
プリズム1090は、望ましくは有機溶剤、酸性溶液及びアルカリ性溶液に対する耐性を持つ。耐性は、JIS K7114において定められた試験方法により評価される。有機溶剤は、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等である。酸性溶液は、pHが4から7までの溶液である。アルカリ性溶液は、pHが7から8までの溶液である。
【0026】
<プリズムの硬度>
プリズム1090の硬度は、望ましくはH以下である。これにより、プリズム1090の表面に混合層(導電体打ち込み層)が形成されやすくなり、導電体膜とプリズムの密着強度が向上する。硬度は、JIS K5401において定められた試験方法により評価される。
【0027】
<プリズムの吸水率>
プリズム1090の吸水率は、望ましくは0.2%以下であり、さらに望ましくは0.1%以下である。これにより、プリズム1090が液体に浸漬された場合にプリズム1090に吸収される水が減少する。吸水率は、JIS K7209において定められた試験方法により評価される。JIS K7209には、プラスチックの吸水率及び沸騰水吸水率の試験方法が定められている。
【0028】
<プリズムの屈折率>
プリズム1090の屈折率(n)は、1.5以上である。
【0029】
<プリズムの光弾性係数とP偏光維持率>
プリズム1090の光弾性係数が大きくなるにつれてP偏光成分の維持率が小さくなるため、プリズム1090の材料である樹脂材の光弾性係数は、望ましくは80×10
−12Pa
−1以下である。さらに、樹脂材で出来たφ11、t=3mmのテストピースを、波長が550nmの光を用いてセナルモン法により位相差を評価した場合に、前記テストピースのゲート付近の位相差が153nm以下、より望ましくは46nm以下となる樹脂材料を用いてプリズム1090を作製する。これにより、プリズム1090の内部の密度が不均一になっても、プリズム1090の反射面1172に入射するP偏光成分の光量が増加する。プリズム1090の反射面1172に入射するP偏光成分の光量が増加した場合は、表面プラズモン励起蛍光FLの光量が増加し、計測の感度及び精度が向上する。
【0030】
<自家蛍光>
SPFS分析において、検出下限となる試料量が供給された場合に放射する自家蛍光の光量は、前記試料から放射される前記表面プラズモン励起蛍光FLの光量より少ない。ここでの試料量は抗原量のことであり、検出下限の抗原量の具体値は、例えば、0.25molのような小さな値である。
【0031】
<プリズムの偏光維持率と偏光状態の分布>
プリズムに入射するP偏光の、入射面から反射面までの区間におけるP偏光成分の維持率が90%以上、好ましくは検出範囲で98%±2%である。これにより表面プラズモン共鳴によるエバネッセント波のエネルギーが、損失を抑えたまま試料に伝達され、SPR/SPFSの計測の感度及び精度が向上する。
【0032】
<P偏光維持率の測定方法>
ここで、P偏光維持率の測定方法について、
図5を参照して説明する。
図5のフローチャートは、プリズム1090の入射面から反射面までの区間におけるP偏光成分の維持率の測定の手順を示す。
図6の模式図は、プリズム1090の入射面から反射面までの区間におけるP偏光成分の維持率の測定装置を示す。
【0033】
区間SC1におけるP偏光成分の維持率が測定される場合は、
図5及び
図6に示すように、プリズム1090及び基準プリズム1190が準備される(ステップS101)。基準プリズム1190は、励起光ELに対して透明で複屈折を生じない材質からなる。基準プリズム1190は、例えば、BK7等のガラスからなる。望ましくは、プリズム1090の屈折率と基準プリズム1190の屈折率とは一致させられる。これにより、プリズム1090と基準プリズム1190との界面における光の屈折及び反射が抑制され、区間SC1におけるP偏光成分の維持率が容易に測定される。ただし、プリズム1090の屈折率と基準プリズム1190の屈折率とが一致しなくても、区間SC1におけるP偏光成分の維持率の測定は可能である。
【0034】
プリズム1090及び基準プリズム1190が準備された後に、プリズム1090の反射面1172と基準プリズム1190の入射面1210とが貼りあわされる(ステップS102)。これにより、プリズム1090と基準プリズム1190との貼りあわせ体1230が作製される。貼りあわせにおいては、望ましくはプリズム1090の反射面1172と基準プリズム1190の入射面1210との間にマッチングオイル1250が介在させられる。これにより、プリズム1090の反射面1172と基準プリズム1190の入射面1210との間の空隙が減り、プリズム1090の反射面1172と基準プリズム1190の入射面1210との間における測定光MLの散乱が抑制され、区間SC1におけるP偏光成分の維持率が容易に測定される。プリズム1090の反射面1172と基準プリズム1190の入射面1210との密着性が良好である場合は、マッチングオイル1250が省略されてもよい。
【0035】
貼りあわせ体1230が作製された後に、貼りあわせ体1230が測定装置1270に取りつけられ、貼りあわせ体1230に測定光MLが照射される(ステップS103)。測定光MLは、プリズム1090の入射面1170へ入射し、プリズム1090の反射面1172及び基準プリズム1190の入射面1210を通過し、基準プリズム1190の出射面1232から出射する。測定光MLは、レーザーダイオード1290から放射され、偏光回転子1292を通過し、プリズム1090の入射面1170へ入射する。望ましくは、測定光MLの波長、光量及び入射角θは、それぞれ、励起光ELの波長、光量及び入射角θと一致させられる。これにより、表面プラズモン励起蛍光FLの光量が測定される場合と同じ条件で区間SCにおけるP偏光成分の維持率が測定される。測定光MLは直線偏光であり、測定光MLの偏光方向は固定された偏光回転子1292によりプリズム1090の反射面1172に対するP偏光と同じ偏光方向に調整される。レーザーダイオード1290は、例えば、放射する光の波長が632nmのHe−Neレーザーであり、断面の直径が1mmのビームを放射する。
【0036】
貼りあわせ体1230に測定光MLが照射されている間に、プリズム1090の入射面1170から基準プリズム1190の出射面1232までの区間SC2におけるP偏光成分の維持率が測定される(ステップS104)。
【0037】
基準プリズム1190は複屈折を生じないので、区間SC2におけるP偏光成分の維持率は区間SC1におけるP偏光成分の維持率と同一視される。
【0038】
測定装置1270においては、基準プリズム1190の出射面1232から出射した測定光MLは、偏光回転子1294を通過し、パワーメーター1296へ至る。偏光回転子1294は、光軸の周りに15°を単位として最大180°自転させられ、測定光MLの光量はパワーメーター1296により測定される。これにより、区間SC1におけるP偏光成分の維持率が測定される。ただし、他の測定方法により区間SC1におけるP偏光成分の維持率が測定されてもよい。
【0039】
区間SC1におけるP偏光成分の維持率が測定された後に、プリズム1090と基準プリズム1190とが分離される(ステップS105)。
【0040】
<自家蛍光量の測定>
自家蛍光の光量が測定される場合は、ラマン分光器が準備され、蛍光スペクトルが測定される。プリズム1090には、励起光ELの波長に一致する波長のレーザー光が照射される。波長が632nmのレーザー光がプリズム1090に照射される場合は、自家蛍光の光量が測定されるときに650nm以下の波長の光を減衰させるフィルターが使用される。
【0041】
<樹脂の具体例>
プリズム1090を構成する樹脂は、望ましくはシクロオレフィンポリマーであり、さらに望ましくは日本ゼオン社製のZEONEX_E48R(商品名、以下では単に「E48R」という)である。波長632nmにおいて、E48Rの屈折率は1.51である。E48Rには、放射する自家蛍光の光量が小さいという利点がある。
【0042】
図7のグラフは、自家蛍光の分光スペクトルを示す。
図7には、E48R並びに比較される樹脂である「比較1」「比較2」「比較3」及び「比較4」の自家蛍光の分光スペクトルが示される。励起光ELの波長が632nmである場合に表面プラズモン励起蛍光FLの測定波長領域(検出受光領域,
図7の矢印区間)となる650〜680nmの波長領域において、E48Rにより放射される自家蛍光の光量は、比較される樹脂より著しく少ない。このため、当該測定波長領域における自家蛍光の積分強度も以下の表に示すようにE48Rにおいては著しく小さく、ばらつきが考慮されても5000cps未満であり、自家蛍光の光量が表面プラズモン励起蛍光FLの光量より少なくなる。
【0043】
<導電膜を金膜とした場合の硬度>
膜厚40nm〜50nmの金膜を付与した場合。
図8及び
図9の模式図は、金膜とプリズムとの境界の近傍を示した断面図である。
図8は、プリズムの硬度がH以下である場合を示す。
図9は、プリズムの硬度がHより大きい場合を示す。硬度がH以下である場合、例えば、日本ゼオン社(東京都千代田区)製のZEONEX_E48R(商品名)からプリズム1090がなりプリズム1090の硬度がHである場合は、
図8に示すように、プリズム1090の表面に2〜3nmの層厚の混合層1310が形成される。集束イオンビーム−透過型電子顕微鏡(FIB−TEM)により断面が観察された場合は、金膜1092の断面上の観察視野OP1だけでなく混合層1310の断面上の観察視野OP2にも金が含まれることが確認される。
【0044】
硬度がHより大きい場合、例えば、日本ゼオン社製のZEONEX_330R(商品名)からプリズム1090がなりプリズム1090の硬度が3Hである場合は、
図9に示すように、混合層1310が形成されず、十分な膜密着性を得られなかった。
【0045】
(計測)
計測装置による計測が行われる前には、図示しない抗原捕捉膜に固定された抗体(以下では「固定化抗体」という。)に免疫反応(抗原抗体反応)により抗原が結合させられ、抗原が抗原捕捉膜に捕捉される。続いて、蛍光標識化された抗体(以下では「蛍光標識抗体」という。)が免疫反応により抗原に結合させられ、抗原捕捉膜に捕捉された抗原に蛍光標識が付加される。
【0046】
計測が行われる場合には、
図1に示すように、照射機構1020により励起光ELがプリズム1090に照射される。プリズム1090に照射された励起光ELは、
図4に示すようにプリズム1090の内部を進行し、反射面1172(詳細には、プリズム1090と金膜1092との界面)で反射され、出射面1174から出射する。励起光ELがプリズム1090に照射されている間は、プリズム1090と金膜1092との界面から金膜1092の側ヘエバネッセント波がもれだし、エバネッセント波と金膜1092の表面のプラズモンとが共鳴し、エバネッセント波の電場が増強される。プリズム1090と金膜1092との界面への励起光ELの入射角θは、エバネッセント波の電場増強度が極大になるように選択される。増強された電場が蛍光標識に作用し、表面プラズモン励起蛍光FLが抗原捕捉膜から放射される。表面プラズモン励起蛍光FLの光量は、光電子増倍管1070により測定される。測定結果がコントローラー1030に転送され、固定化抗体と抗原との相互作用が検出され、抗原の有無、抗原量等が計測される。
【0047】
(送液機構)
図1に戻って、送液機構1024は、試料液、蛍光標識液、バッファー液等の液体をセンサーチップ1026に供給し、試料液、蛍光標識液、バッファー液等の液体をセンサーチップ1026から回収する。液体がセンサーチップ1026に供給される場合は、それぞれ、供給口へ液体が供給され、反応室が液体で満たされ、液体が抗原捕捉膜に接触する。
【0048】
送液機構1024においては、例えば、ポンプにより送液元から液体が吸引され、送液元から送液先ヘポンプが搬送され、ポンプにより送液先へ液体が吐出される。送液元から送液先へ至る配管に液体が流されてもよい。
【0049】
(試料液及び蛍光標識液)
試料液は、典型的には、血液等の人間からの採取物であるが、人間以外の生物からの採取物であってもよく、非生物からの採取物であってもよい。希釈、血球分離、試薬の混合等の前処理が採取物に行われてもよい。
【0050】
蛍光標識液は、計測される抗原と結合し蛍光標識化された蛍光標識抗体を含む。蛍光標識抗体は、蛍光を放射する蛍光標識となる化学構造を含む。
【0051】
(レーザーダイオード)
図1に示すように、レーザーダイオード1050は励起光ELを放射する。レーザーダイオード1050は他の形式の光源に置き換えられてもよい。例えば、レーザーダイオード1050が発光ダイオード、水銀灯、レーザーダイオード以外のレーザー等に置き換えられてもよい。
【0052】
光源から放射される光が平行光線でない場合は、レンズ、ミラー、スリット等により光が平行光線へ変換される。光が直線偏光でない場合は、直線偏光板等により光が直線偏光へ変換される。光が単色光でない場合は、回折格子等により光が単色光へ変換される。
【0053】
(直線偏光板)
図1に示すように、直線偏光板1052は、励起光ELの光路上に配置され、レーザーダイオード1050から放射された励起光ELを直線偏光へ変換する。励起光ELの偏光方向は、励起光ELがプリズム1090の反射面1172に対してP偏光になるように選択される。これにより、エバネッセント波のもれだしが増加し、表面プラズモン励起蛍光FLの光量が増加し、計測の感度及び精度が向上する。
【0054】
(ミラー及びミラー駆動機構)
図1に示すように、ミラー1054は、励起光ELの光路上に配置され、直線偏光板1052を通過した励起光ELを反射するミラー1054により反射された励起光ELは、プリズム1090に照射される。プリズム1090に照射された光は、入射面1170へ入射し、反射面1172に反射され、出射面1174から出射する。反射面1172への励起光ELの入射角θは、全反射条件θc≦θを漓たす(θc:臨界角)。
【0055】
ミラー駆動機構1056は、モーター、圧電アクチュエーター等の駆動力源を備え、ミラー1054を回転させ、ミラー1054の姿勢を調整する。また、ミラー駆動機構1056は、リニアステッピングモーター等の駆動力源を備え、レーザーダイオード1050の光軸方向にミラー1054を移動させ、ミラー1054の位置を調整する。これにより、プリズム1090の反射面1172における励起光ELの入射位置を抗原捕捉膜が定着する領域の裏側に維持したままプリズム1090の反射面1172への励起光ELの入射角eを調整できる。
【0056】
(光電子増倍管)
図1に示すように、光電子増倍管1070は、表面プラズモン励起蛍光FLの光路上に配置され、表面プラズモン励起蛍光FLの光量を測定する。光電子増倍管1070が他の形式の光量センサーに置き換えられてもよい。例えば、光電子増倍管1070が電荷結合素子(CCD)センサー等に置き換えられてもよい。
【0057】
(ローパスフィルター)
ローパスフィルター1072は、カットオフ波長より長い波長の光を透過し、カットオフ波長より短い波長の光を減衰させる。カットオフ波長は、励起光ELの波長から表面プラズモン励起蛍光FLの波長までの範囲内で選択される。
【0058】
ローパスフィルター1072が表面プラズモン励起蛍光FLの光路上に配置される場合は、散乱された励起光ELはローパスフィルター1072により減衰し、散乱された励起光ELのごく一部が光電子増倍管1070に到達するが、表面プラズモン励起蛍光FLはローパスフィルター1072を透過し、表面プラズモン励起蛍光FLの大部分が光電子増給管1070に到達する。これにより、相対的に光量が小さい表面プラズモン励起蛍光FLの光量が測定される場合に相対的に光量が大きい散乱された励起光ELの影響が抑制され、計測の精度が向上する。ローパスフィルター1072がバンドパスフィルターに置き換えられてもよい。
【0059】
(ローパスフィルター駆動機構)
図1に示すように、ローパスフィルター駆動機構1074は、ローパスフィルター1072が表面プラズモン励起蛍光FLの光路上に配置された状態とローパスフィルター1072が表面プラズモン励起蛍光FLの光路上に配置されない状態とを切り替える。
【0060】
(フォトダイオード)
図1に示すように、フォトダイオード1076は、プリズム1090と金膜1092との界面において反射された励起光ELの光路上に配置されプリズム1090と金謨1092との界面において反射された励起光ELの光量を測定する。フォトダイオード1076が他の形式の光量センサーに置き換えられてもよい。例えば、フォトダイオード1076がフォトトランジスター、フォトレジスター等に置き換えられてもよい。
【0061】
(コントローラー)
コントローラー1030は、制御プログラムを実行する組み込みコンピューターである。1個の組み込みコンピューターがコントローラー1030の機能を担ってもよいし、2個以上の組み込みコンピューターが分担してコントローラー1030の機能を担ってもよい。ソフトウェアを伴わないハードウェアがコントローラー1030の全部又は一部の機能を担ってもよい。ハードウェアは、例えば、オペアンプ、コンパレーター等の電子回路である。コントローラー1030による処理の全部又は一部が、手作業により実行されてもよく、計測装置1000の外部において実行されてもよい。
【0062】
[プリズムの作製方法]
プリズム1090は、射出成形機を用いて、所定の工程を経て完成する。ここで、射出成形金型を用いた射出成形工程について
図10及び
図11を参照して簡単に説明する。なお、
図10は可動金型と固定金型を突き合わせてキャビティを形成する、いわゆる型締め工程の様子を示した模式図である。
図11は射出成形機からプリズムを離型させる、いわゆる突出し工程の様子を示した模式図である。
【0063】
図10に示すように、射出成形金型1250は、射出成形品の形状を有する凹部(キャビティ)1330が形成された可動金型1300と、可動金型1300に突き合わせることによって凹部1330を塞ぐ機能を有する固定金型1310と、突出しピン1320と、エジェクタ部材1325と、射出成形品の材料である樹脂材をキャビティに供給するシリンダー部1260とを含んで構成されている。
【0064】
射出成形の工程には、型締め工程、射出工程、保圧工程、冷却工程、型開き工程、突出し/製品取り出し工程があり、この順に射出成形が行われる。型締め工程では、
図5に示すように可動金型1300と固定金型1310を突き合わせることによって、可動金型1300に形成された凹部1330を塞いでキャビティを形成する。次に、樹脂材供給炉1303からの樹脂材(溶融樹脂)1305を射出してキャビティにこれを充填する(射出工程)。樹脂材は、スプルー1177、ゲート1176を通り、キャビティに充填される。なお、樹脂材は、金型のキャビティ内に充填される際、金型で冷やされ収縮する。この収縮により体積が変化するため、この収縮作用は、成形品の寸法変化や形状転写不良等の原因となる。これらを防ぐため、成形機側で保圧をかけ、収縮で減少した分の樹脂を補っている(保圧工程)。次に、金型から取り出せる温度程度になるまで、金型内で冷却する(冷却工程)。
【0065】
次に、所定時間経過し、樹脂材1305が十分に冷却されると、
図11に示すように、可動金型1300を固定金型1310から離す(型開工程)。このとき、成形品は可動金型1300に付いてくる。次に、突出しピン1320を固定金型1310に摺動させることによりプリズム1090が離型される(突出し工程)。このプリズム1090に図示しない基板及び流路形成部品を接合することによってセンサーチップ1026を得る。
【0066】
プリズム1090のヒケ面1175に生じるヒケは、上述の保圧工程で生じる。65MPa以下の保圧設定でヒケ面1175にヒケを生じさせる。また、突き出し工程の際、一般的に射出成形品には突き出しピン跡が付くが、今回プリズム1090のヒケ面1175に、突出しピン1320の配置に対応して突き出しピン跡1180が形成される。
【0067】
[ヒケと偏光維持率の関係]
保圧をかけることで成形品であるプリズム1090の内部応力が高まり、この内部応力によりプリズム1090における偏光状態の維持率が悪化する。プリズム1090にヒケが生じるように保圧設定を低くすることにより、プリズム1090にかかる内部応力が緩和され、プリズム1090の偏光維持率を良化可能であることが分かった。
【0068】
[ゲート位置とヒケの関係]
ゲート1176は、金型に樹脂材を流し込む際の入り口となるものであり、スプルー1177を介して流れ込む樹脂材をキャビティに充填させる橋渡し的機能を有する。なお、ゲート幅GWは反射面1172における短辺長の40%以下、ゲート厚みt2はプリズムの厚みt1の1/2以下である(
図12A参照)。
【0069】
プリズム1090は、ゲート1176の位置(ゲート位置)がプリズム1090の厚み方向においてプリズム1090の中心Cと反射面1172との間になるように形成される。つまり、
図12Aの例でいえば、ゲート位置範囲Wを逸脱しない位置にゲート1176を形成する必要がある。
【0070】
図12A〜
図12Cに上述の条件、すなわちゲート位置範囲内(Wの範囲内)満たすゲート配置を示す。第1の例としては、
図7Aに示すように、ゲート1176がプリズム1090の厚み方向においてプリズム1090の中心C側に配置されている。第2の例としては、
図12Bに示すように、ゲート1176がプリズム1090の厚み方向においてプリズム1090の中心Cと反射面1172との中間に配置されている。第3の例としては、
図12Cに示すように、ゲート1176がプリズム1090の厚み方向において反射面1172上に配置されている。
【0071】
上述のようなゲート配置になるようにプリズム1090を形成することにより、ゲートから見たプリズム1090の体積バランスについては、ゲートから見た場合にヒケ面側における体積が多くなり、熱収縮がヒケ面側に偏るため、優先的にヒケ面にヒケを生じさせることができる。
【0072】
[プリズムの形状と突出しピンの位置関係]
プリズム1090の形状と突出しピン1320の跡1180の位置関係は、以下の条件を満たすことが必要である。ここでプリズム1090に残る突出しピン1320の跡1180は、プリズム1090に突出しピン1320が当接される位置にある。
図13Bに示すように、突出しピン跡1180の位置が、ゲート1176をプリズム1090の長手方向にプリズム1090の長さだけ延長してなるゲート延長領域A1をヒケ面1175に投影してなる第1の投影領域(以下、「ゲート延長領域A1」と呼ぶ。)以外、かつ、励起光ELが通る領域をヒケ面1175に投影してなる第2の投影領域(以下、「励起光通過領域A2」と呼ぶ。)以外のヒケ面の領域A3内に配置される(
図13B、
図14B及び
図15B参照)。前記範囲外であれば突き出しピン1320を複数設けて良く、突き出しピン1320の形状・材質は限定されない。ここで、プリズム1090の長手方向とは、プリズム1090の厚み方向及び幅方向に直交する方向をいう。
【0073】
第1の例として、
図13Bに示すように、突出しピン跡1180の位置が、ゲート1176をプリズム1090の長手方向にプリズム1090の長さだけ延長してなるゲート延長領域A1以外であって、励起光通過領域A2以外のヒケ面の領域A3内に配置される。さらに突き出しピン1320の跡1180の位置は、ヒケ面1175の4隅(各領域A3)のそれぞれに一つだけ設けられている。
【0074】
第2の例として、
図14Bに示すように、突出しピン跡1180の位置が、ゲート1176をプリズム1090の長手方向にプリズム1090の長さだけ延長してなるゲート延長領域A1以外であって、励起光通過領域A2以外のヒケ面の領域A3内に配置される。さらに突き出しピン1320の跡1180の位置は、ヒケ面1175の4隅のそれぞれに三つ設けられている。
【0075】
第3の例として、
図15Bに示すように、突出しピン跡1180の位置が、ゲート1176をプリズム1090の長手方向にプリズム1090の長さだけ延長してなるゲート延長領域A1以外であって、励起光通過領域A2以外のヒケ面の領域A3内に配置される。さらに突き出しピン1320の跡1180の位置は、ヒケ面1175の4隅のそれぞれに二つ設けられている。
【0076】
上述のように形成することによる効果については後述することとする。
【0077】
[突出し方法とP偏光維持率の関係]
以下に、突出しピン1320および突出しピン跡1180の位置で示されるプリズム1090の突出し方法とP偏光維持率分布の関係についてヒケ面1175の有無にも言及しつつ説明する。本実施例では、
図16A,Bに示すような台形状のプリズム1090(長さ25mm、幅8mm、高さ3mm、反射面に対する台形側面の傾き80°、ゲート幅3mm。ゲートの厚み1.5mm)を測定対象とする。測定方法は、上述した検出範囲において前記中心から±1mmごとにP偏向維持率(%)を測定する。
図19にはこの測定結果が示される。尚、ゲート側にかけての複屈折分布は均一である(
図19の破線領域参照)。
【0078】
測定対象は、比較例(2点突出しヒケ無し),本発明の実施例1(2点突出し、ヒケあり)、実施例2(コア突出し、実施例3(4点突出し(4隅突出し)、ヒケあり)である。実施例3に係るプリズム1090Aは、
図18Aに示すように、突き出しピン跡1180の位置が、ゲート1176をプリズム1090の長手方向にプリズム1090の長さだけ延長してなるゲート延長領域以外、かつ励起光通過領域以外のヒケ面の領域内にあるプリズムである。
【0079】
比較例に係るプリズム1090Bは、
図21Aに示すように、ゲート1176をプリズム1090の長手方向にプリズム1090の長さだけ延長してなるゲート延長領域内、かつ励起光通過領域以外のヒケ面の領域内にあるプリズムであり、ヒケ面にヒケがないものである。
【0080】
実施例1に係るプリズム1090Bは、ヒケ面にヒケがあるという以外は比較例と同じである。実施例2に係るプリズム1090Cは、
図22Aに示すように、図示しないコアによる面突出し(
図22AのS1)により成形され、ヒケ面1175にヒケがあるプリズムである。
【0081】
ここで、ヒケ量の測定について
図17A,Bを参照して簡単に説明する。上記した比較例、実施例1、実施例2、実施例3について、ヒケ面に発生するヒケ量を測定した結果を
図20に示す。測定にはハイトゲージを用い、
図17Aに示すように測定基準点P1(測定高さゼロ)からの高さをヒケ量として測定される。測定した範囲Mは、
図17Aに示すようにプリズムの中心(センター)Cからプリズムの長手方向に沿って±6mmとした。測定した範囲Mは本実施形態では±6mmとしたが、これに限定されることはない。
【0082】
比較例におけるヒケ量(高さ)は3μm以下であり、実施例1におけるヒケ量(高さ)は25μm以上であり、実施例2におけるヒケ量(高さ)は25μm以上であり、実施例3におけるヒケ量(高さ)は25μm以上である。
【0083】
また、使用したプリズム及びゲートの形状および外寸は上記したとおりである。成型材料は、樹脂材料として、「ZEONEX E48R」(商品名)が用いられ、プリズムは、上述の「プリズム作製方法」に従って作製したものである。
【0084】
ところで、上記したように励起光ELのP偏光成分の維持率(P偏向維持率)が90%以上、望ましくは96%以上であって、所定の検出範囲(本実施の形態ではプリズム1090の反射面領域における中心位置からプリズムの長手方向に沿って±6mmの範囲)における前記維持率の分布が95±5%、望ましくは98±2%である場合には、高い偏光維持率と均一な偏光状態の分布であるといえるので計測の感度・精度の向上を図ることができる。
【0085】
上述した内容を考慮して測定結果を見ると、実施例1、実施例2、実施例3が測定全範囲に渡ってP偏向維持率(%)が90%以上であることがわかる。実施例1及び実施例2については、測定全範囲に渡ってP偏向維持率(%)が95%以上であることがわかる。実施例3については、測定全範囲に渡ってP偏向維持率(%)が96%以上であり、P偏向維持率の分布が98±2%であることがわかる。
【0086】
より詳細に分析すると、比較例については、測定全範囲に渡ってP偏向維持率が90%以上ではなく、P偏向維持率の分布についても98±2%ではない。
【0087】
実施例1については、測定全範囲に渡ってP偏向維持率が90%以上ではあるが、P偏向維持率の分布については98±2%ではなく、分布が均一であるか否かという観点からみると分布は均一ではあるが、実施例3に比べて均一な分布の範囲が狭い。
【0088】
実施例2については、測定全範囲に渡ってP偏向維持率が90%以上ではあるが、実施例1と同様にP偏向維持率の分布については98±2%ではなく、測定全範囲において分布が均一であるか否かという観点からみると分布は均一ではあるが、実施例3に比べて均一な分布の範囲が狭い。
【0089】
実施例3については、測定全範囲に渡って分布が均一となっている。
【0090】
[効果]
以上により、本発明の実施例のみが、高い偏光維持率と均一な偏光状態の分布であるといえるので計測の感度・精度の向上を図ることができる。
【0091】
すなわち、本発明によれば、樹脂製の誘電体プリズムであっても、プリズムのヒケ面に優先的かつ安定してヒケを発生させることができ、ヒケの分布も均一化することできるので、高い偏光維持率と均一な偏光状態の分布を持った表面プラズモン共鳴に利用した分析に用いられる樹脂製プリズムを低コストで提供することができる。
【0092】
また、高精度なSPR/SPFS用分析チップを安価かつ簡便に、光弾性係数が80×10
−12Pa
−1以下またはセナルモン評価からの位相差が46nm以上の樹脂材料を用いて、SPR/SPFS分析に十分使用可能な樹脂製プリズムを作製することができる。
【0093】
本願の実施例の突き出しピン配置においてバリ逃がしが無い場合を示したが、バリを嫌う場合は
図23の1340ように射出成形金型にバリ逃がしを設けても良い。
図24A、24B、24Cに
図23の射出成形金型で成形された4点(4隅)突き出しにおけるプリズム1090Dの例を示す。
図24B、
図24Cの1181が
図23のバリ逃がし1340の形状をプリズム1090Dに転写したものである。
【0094】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において例示であり、この発明は上記の説明に限定されない。例示されない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定されうる。