(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0005】
特許文献1に記載された光センサでは、発光素子と受光素子とを光学的に分離するために、光シールドや光バリアのような遮光部材が必要になり、製造コストが増加する。また、これらの部材を用いることで、光センサの小型化が妨げられるという問題がある。
【0006】
本発明は前述の問題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、迷光を低減しつつ小型化が可能な光センサを提供することにある。
【0007】
(1).上記課題を解決するために、本発明は、基板と、該基板の表面に実装された発光素子と、該発光素子の上部に設けられた屈折率媒体と、前記基板の表面に実装された受光素子とを備え、前記発光素子から出射された光が、被検出物体によって反射されてなる光を前記受光素子で受光することによって該被検出物体の存在を検知する光センサであって、
前記発光素子は、その光軸が前記基板と直交した垂直方向となり、前記屈折率媒体は、前記発光素子からの光束の光軸を前記基板と直交した垂直方向から傾斜させる構成とし、前記屈折率媒体を介して出射される光の光軸
は、前記受光素子と反対側の方向に仰角が47°〜89°の範囲で設定
され、前記屈折率媒体を介して出射される光のビーム広がり角
は、1.8°〜42°の範囲に設定
されたことを特徴としている。
【0008】
本発明によれば、屈折率媒体を介して出射される光の光軸を受光素子と反対側の方向に仰角が47°〜89°の範囲で設定すると共に、ビーム広がり角を1.8°〜42°の範囲に設定したから、迷光レベルを低下させることができ、S/Nを向上させることができる。このため、光バリア等を設ける必要がなく、光センサを小型化することができる。また、発光素子や受光素子の上部を光透過性のカバーで覆うときでも、このカバーの上,下方向の位置に対して、迷光レベルの変動を小さくすることができる。
【0009】
(2).本発明では、前記屈折率媒体はレンズであり、該レンズを介して出射される光の光軸
は、前記受光素子と反対側の方向に仰角が50°〜89°の範囲で設定
され、該レンズを介して出射される光のビーム広がり角
は、1.8°〜20.3°の範囲に設定
されている。
【0010】
本発明によれば、レンズを介して出射される光の光軸を受光素子と反対側の方向に仰角が50°〜89°の範囲で設定すると共に、ビーム広がり角を1.8°〜20.3°の範囲に設定したから、迷光レベルを低下させることができる。また、発光素子から出射された光はレンズによって集光されるから、ビーム広がり角を小さくすることができ、迷光の影響をさらに低減することができる。
【0011】
(3).本発明では、前記発光素子の実装位置
は、前記レンズの中心に対して前記受光素子に近付く方向に前記レンズ径の2%〜62%の範囲で位置ずれ
している。
【0012】
本発明によれば、発光素子の実装位置をレンズの中心に対して受光素子に近付く方向にレンズ径の2%〜62%の範囲で位置ずれさせたから、レンズを介して出射される光の光軸を受光素子と反対側の方向に傾けることができる。
【0013】
(4).本発明では、前記屈折率媒体は傾斜面をもったスロープ体であり、該スロープ体を介して出射される光の光軸
は、前記受光素子と反対側の方向に仰角が47°〜57°の範囲で設定
され、該スロープ体を介して出射される光のビーム広がり角
は、29°〜42°の範囲に設定
されている。
【0014】
本発明によれば、スロープ体を介して出射される光の光軸を受光素子と反対側の方向に仰角が47°〜57°の範囲で設定すると共に、ビーム広がり角を29°〜42°の範囲に設定したから、迷光レベルを低下させることができる。
【0015】
(5).本発明は、基板と、該基板の表面に実装された発光素子と、該発光素子の上部に設けられた屈折率媒体と、前記基板の表面に実装された複数個の受光素子とを備え、前記複数個の受光素子は、前記発光素子を挟まない位置に配置され、前記発光素子から出射された光が、被検出物体によって反射されてなる光を前記受光素子で受光することによって該被検出物体の存在を検知する光センサであって、
前記発光素子は、その光軸が前記基板と直交した垂直方向となり、前記屈折率媒体は、前記発光素子からの光束の光軸を前記基板と直交した垂直方向から傾斜させる構成とし、前記屈折率媒体を介して出射される光の光軸
は、前記受光素子と反対側の方向に仰角が47°〜89°の範囲で設定
され、前記屈折率媒体を介して出射される光のビーム広がり角
は、1.8°〜42°の範囲に設定
されたことを特徴としている。
【0016】
本発明によれば、屈折率媒体を介して出射される光の光軸を受光素子と反対側の方向に仰角が47°〜89°の範囲で設定すると共に、ビーム広がり角を1.8°〜42°の範囲に設定したから、迷光レベルを低下させることができる。また、複数個の受光素子を備えるから、被検出物体の存在だけでなく、移動方向も同時に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1の実施の形態による光センサを示す断面図である。
【
図2】
図1中の発光素子およびレンズを拡大して示す拡大断面図である。
【
図4】実測データによるカバー板とセンサの距離寸法と、カバー板からの迷光レベルとの関係を示す特性線図である。
【
図5】シミュレーションによるレンズ中心からの発光素子のずれ量と、カバー板からの迷光レベルとの関係を示す特性線図である。
【
図6】シミュレーションによるレンズ中心からの発光素子のずれ量と、レンズ表面散乱損失との関係を示す特性線図である。
【
図7】発光素子のずれ量を0.21mmに設定した場合において、シミュレーションによるカバー板とセンサの距離寸法と、カバー板からの迷光レベルとの関係を示す特性線図である。
【
図8】発光素子のずれ量を0.48mmに設定した場合において、シミュレーションによるカバー板とセンサの距離寸法と、カバー板からの迷光レベルとの関係を示す特性線図である。
【
図9】シミュレーションによるカバー板とセンサの距離寸法と、カバー板からの迷光レベルとの関係を示す特性線図である。
【
図10】シミュレーションによる被検出物体とセンサの距離寸法と、信号レベルとの関係を示す特性線図である。
【
図11】実測データによるカバー板とセンサの距離寸法と、ノイズレベルとの関係を示す特性線図である。
【
図12】実測データによる被検出物体とセンサの距離寸法と、信号レベルとの関係を示す特性線図である。
【
図13】第2の実施の形態による光センサを示す断面図である。
【
図14】シミュレーションによるカバー板とセンサの距離寸法と、カバー板からの迷光レベルとの関係を示す特性線図である。
【
図15】シミュレーションによる被検出物体とセンサの距離寸法と、信号レベルとの関係を示す特性線図である。
【
図16】実測データによるカバー板とセンサの距離寸法と、ノイズレベルとの関係を示す特性線図である。
【
図17】実測データによる被検出物体とセンサの距離寸法と、信号レベルとの関係を示す特性線図である。
【
図18】第3の実施の形態による光センサを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態による光センサについて、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
図1ないし
図3に、第1の実施の形態による光センサ1を示す。光センサ1は、基板2、発光素子3、受光素子4、レンズ6等を備える。
【0020】
基板2は、絶縁材料を用いて形成された平板である。基板2としては、例えばプリント配線基板が用いられる。基板2の表面2Aには、発光素子3と受光素子4が実装される。
【0021】
発光素子3は、基板2の表面2Aに実装され、例えば赤外線や可視光線の光を出射する。発光素子3の光軸は通常、例えば基板2の表面2Aに対して垂直方向(Z軸方向)である。発光素子3としては、例えば発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、面発光レーザ(VCSEL)が用いられる。検知分解能を上げ、S/Nを向上させるためには、素子として元々出射角(ビーム広がり角)の小さいVCSELを発光素子3として用いるのが好ましい。
【0022】
受光素子4は、基板2の表面2Aに実装され、赤外線や可視光線の光を受光する。受光素子4としては、例えばフォトダイオード(PD)、フォトトランジスタ等が用いられる。受光素子4は、例えば発光素子3から
図1中の左,右方向に離間して発光素子3の近傍に配置される。
【0023】
基板2の表面2Aには、発光素子3を覆って透明樹脂体5が形成される。透明樹脂体5は、発光素子3を封止する。透明樹脂体5には、発光素子3の上部に位置にして屈折率媒体としての発光素子用のレンズ6が形成される。レンズ6は、例えば上方に突出した略半球形状に形成される。
【0024】
レンズ6の中心と発光素子3の実装位置は、ずらして配置される。具体的には、レンズ6の中心は、発光素子3の実装位置よりもずれ量Xだけ受光素子4から離れた位置に配置される。これによって、レンズ6は、発光素子3からの光を屈折させて、発光素子3からの光束の光軸を基板2と直交した垂直方向から傾斜させる。このとき、レンズ6を介して出射される光の光軸は、仰角φをもって受光素子4と反対側の方向に傾斜する。
【0025】
なお、レンズ6は、発光素子3を封止する透明樹脂体5に一体的に形成したが、透明樹脂体5とは別個に設けてもよい。また、透明樹脂体5を省く構成としてもよい。この場合、レンズ6は、例えば基板2に設けた別個の支持部材によって支持する構成としてもよい。
【0026】
基板2の表面2Aには、受光素子4を覆って透明樹脂体7が形成される。透明樹脂体7は、受光素子4を封止する。透明樹脂体7には、受光素子4の上部に位置にして受光素子用のレンズを形成し、外部から入射される光を受光素子4に集光させてもよい。
【0027】
また、発光素子3と受光素子4は別個の透明樹脂体5,7によって封止した場合を例示したが、これらの透明樹脂体5,7を一体化して、発光素子3と受光素子4を一緒に封止してもよい。
【0028】
上述のように構成される光センサ1は、例えばセンサケーシングSCに収容されると共に、その上部が透明なガラス、樹脂材料等からなるカバー板CPによって覆われた状態で使用される。この場合、発光素子3から出射された光(出射光)は、カバー板CPを透過して例えば手、指等の被検出物体Objに照射される。また、被検出物体Objによって反射されてなる光(反射光)は、カバー板CPを透過して受光素子4によって受光される。これにより、光センサ1は、被検出物体Objが光センサ1の上部に位置するか否か、即ち被検出物体Objの存在を検知することができる。
【0029】
ここで、発光素子3からの出射光の一部は、カバー板CPのような反射体によって反射や散乱され、受光素子4に戻ってくることがある。また、発光素子3から出た光が透明樹脂体5,7の内部を直接伝播し、受光素子4に入ってくる直達波が発生することもある。これら受光素子4に入ってくるカバー板CPからの反射光や散乱光および透明樹脂体5,7等を伝播する光を総称して迷光と呼ぶ。
【0030】
図4に示すように、本発明者等は実験により、発光素子3をレンズ6の中心に対してずれ量Xが0(X=0)の位置に配置したときには、カバー板CPの高さ位置に応じて迷光SLの光強度レベル(以下、迷光レベルという)が上昇することを確認している。即ち、発光素子3の実装位置をレンズ6の中心の真下に配置し、発光素子3から出た光を垂直方向に出射する場合、少なくともカバー板CPが反射する光量、つまり迷光は多くなり、光センサ1の検知特性が劣化する。
【0031】
一方、ずれ量Xが0よりも大きくなる(X>0)ように、レンズ6の中心よりも発光素子3を受光素子4側にずらすと迷光レベルはカバー板CPの高さ位置が変化しても一定あるいは低減する。即ち、発光素子3から出た光を受光素子4と反対方向に傾けるか、あるいはレンズ6から出た光を受光素子4と反対方向に傾けることによって、迷光は低減する。
【0032】
このことは発光素子3の実装位置をレンズ6の中心に対して受光素子4側にずらすことで、レンズ6から出射される光の光軸が受光素子4と反対側に傾けられるため、その分、カバー板CPからの反射した光が受光素子4に戻ってくる光量、つまり迷光レベルが低減できるためだと考えられる。ここで、上述の実験に用いた発光素子3は、850nm帯の赤外線を出力する面発光レーザである。発光素子3が出力する光の波長は、850nm帯に限らず、設計仕様等に応じて適宜変更することができる。
【0033】
そこで、
図4の実測データを検証するために、光学シミュレータを用いてずれ量Xとカバー板CPからの迷光比を計算した。
図5にその結果を示す。なお、シミュレーションおよび実測で用いたレンズ6は、断りのない限り球面レンズである。カバー板CPからの迷光比は、ずれ量Xが0のときの迷光レベルを基準として、これに対する比率を求めたものである。
【0034】
このシミュレーションでは、レンズ径Rをパラメータとして計算している。なお、レンズ径Rは、透明樹脂体5からのレンズ6の突出寸法を例えば0.15mmのような一定値にしたときに、レンズ6の半径寸法を示している。即ち、レンズ径Rが大きい方が、曲率半径も大きな球面レンズになる。
【0035】
図5に示すように、発光素子3をレンズ6の中心に対して受光素子4側に大きくずらす、即ち、ずれ量Xを増やしていくことで、カバー板CPからの迷光比を低減できることが分かる。
図5の結果から、レンズ径Rを小さくするほど迷光レベルの低減効果は大きくなっているが、発光素子3のずれ量Xに対する迷光比の傾きが大きくなる。このため、発光素子3やレンズ6の実装位置のばらつきによる感度が高くなる。よって、物作りの観点では、迷光レベルが許容できる範囲内で実装トレランスが緩和でき、作り易いレンズ径Rを選択することが重要である。
【0036】
図6には、発光素子3のずれ量Xに対するレンズ表面散乱損失との関係を、レンズ径Rをパラメータとして示す。
図6からも分かるように、レンズ径Rを小さくするとレンズ表面散乱損失が大きくなり、ある実装位置から光がレンズ6から出ていかなくなる。例えば、レンズ径Rが0.21mmの場合、発光素子3のずれ量Xが100μm以上でレンズ表面散乱損失が急増しており、見掛け上迷光レベルは低減するが、信号が取れない、つまり、S/Nが得られなくなる。
【0037】
また、レンズ径Rとビーム広がり角θとの関係について、光学シミュレータを用いて計算した。表1にその結果を示す。なお、ビーム広がり角θは、レンズ6から出射される光の半値全幅に相当するものである。また、表1に示すビーム広がり角θは、発光素子3のレンズ6の中心に対するずれ量Xを0と仮定したときの値である。表1に示すように、レンズ径Rが大きくなるに従って、ビーム広がり角θも大きくなる。
【0040】
ここで、発光素子3をレンズ6の中心からずらしていくと、ビーム広がり角θは狭くなる傾向があるが、レンズ径Rによるビーム広がり角θの大小関係は、ずれ量Xが0の場合と変わらない。表2に示すように、レンズ径Rが0.21mm〜0.48mmの中で、最もビーム広がり角θが小さいときは、レンズ径Rが0.21mmで発光素子3のずれ量Xが130μmのときである。このときのビーム広がり角θは1.8°となる。一方、最もビーム広がり角θが大きいときは、レンズ径Rが0.48mmで発光素子3のずれ量Xが20μmのときである。このときのビーム広がり角θは20.3°となる。よって、迷光レベルをカバー板CPの高さ位置に対して一定以下にするためには、屈折率媒体となるレンズ6から出た光のビーム広がり角θは、少なくとも1.8°〜20.3°の範囲にする必要がある。
【0041】
また、レンズ径Rが0.21mmと0.48mmの場合について、発光素子3自体のビーム広がり角θ0をパラメータとして、カバー板CPの高さ位置(距離寸法H)と迷光レベルとの関係について、光学シミュレータを用いて計算した。
図7および
図8にその結果を示す。なお、カバー板CPの高さ位置としてのカバー板CPと光センサ1との間の距離寸法Hは、具体的にはカバー板CPとレンズ6との間の高さ方向の距離寸法を示している。また、発光素子3の位置は、レンズ6の中心に対して受光素子4側に50μmずれた位置(X=50μm)とした。計算結果より迷光レベルをある許容値PV以下で規定すると、レンズ径Rが0.21mmの場合は、ビーム広がり角θ0は30°以下、レンズ径Rが0.48mmの場合は、ビーム広がり角θ0は20°以下にする必要がある。このとき、許容値PVとしては、例えば距離寸法Hが0μmのときの迷光レベルに対して2〜6倍程度の値、好ましくは3〜5倍程度の値が考えられる。また、前提として発光素子3の遠視野特性(FFP:Far Field Pattern)はガウシアンパターンとした。
【0042】
この結果から迷光レベルをカバー板CPの高さ位置に対してある一定レベル以下に抑えるためには、レンズ径Rによってビーム広がり角θ0をある一定値以下にする必要があることが分かる。
【0043】
表1では発光素子3に面発光レーザのFFPの実測データを入れており、そのビームの半値全幅(広がり角θ0)は約20°とした。よって、レンズ径Rが0.21mm〜0.48mmの範囲内で、迷光レベルを規定値以下にできることが、この計算結果からも示唆される。定性的にはレンズ径Rが大きくなるとレンズ6から出射される光の広がり角θは広がるため、迷光レベルをある一定値以下に抑えるには、元の発光素子3自体のビーム広がり角θ0をある程度狭くすることが必要であると考えられる。
【0044】
また、発光素子3のずれ量Xに対するビーム光軸の仰角φについて、光学シミュレータを用いて計算した。表3にその結果を示す。レンズ6によってレンズ6の中心から発光素子3をずらすことが可能な距離が制限される。表3の中で数値が記入されていないところは、レンズ表面散乱損失が大きくなり、光がレンズ6から出ていく量が極端に低下する領域である。逆に、レンズ表面散乱損失が小さく、レンズ6から十分な量の光が出力される領域は、例えばレンズ径Rが0.21mmのときは20μm〜130μm(レンズ径Rの9.5%〜62%)、レンズ径Rが0.48mmのときは20μm〜290μm(レンズ径Rの4.2%〜60.4%)である。
【0045】
なお、ずれ量Xの下限値は、例えば発光素子3の組み付け誤差等や、この誤差に伴う仰角φや広がり角θの感度によって決まる。このため、ずれ量Xの下限値は、例えば10μm〜30μm程度の値になる。一方、表3に示すように、ずれ量Xの上限値は、レンズ6から十分な量の光が出力される範囲で決まり、例えばレンズ径Rの60%〜62%程度の値である。
【0047】
レンズ径Rを大きくした方が発光素子3の実装位置トレランスが緩和できるが、
図5に示したように迷光レベルは大きくなる。光センサ1に求められる特性に応じてレンズ径Rを選択する必要がある。表3に示した通り、レンズ径Rが0.21mm〜0.48mmの範囲でレンズ6から出射される光の光軸は仰角φで51°〜89°である。
【0048】
レンズ径Rをパラメータとして迷光レベルおよび信号レベルのシミュレーションを行った。その結果を
図9および
図10に示す。
図9はカバー板CPとの距離寸法Hに対する迷光レベル、
図10は被検出物体Objとの距離寸法H0に対する信号レベルの関係を示す。いずれも発光素子3のレンズ6の中心に対するずれ量Xは、受光素子4側に100μmである。
図9に示すように、レンズ径Rが小さいほど迷光レベルは小さくなるが、
図10に示すように、信号レベルは低下する。このことはレンズ径Rが小さいほどレンズ6から出射されるビームの広がり角θが狭くなり、光軸の仰角φが小さくなる、つまり傾きが大きくなるためと考えられる。
【0049】
定性的には、レンズ6からの出射された光は受光素子4から遠ざかり、かつビーム広がり角θが小さくなると、それだけカバー板CPから反射して戻ってくる光(迷光)は小さくなる。逆に信号レベルはビームが絞られるため、レンズ6から出射された光が受光素子4から遠ざかったとはいえ、戻ってくる光(信号)は増えるということである。
【0050】
最終的に光センサ1の特性はS/Nでその検知性能が依存するため、レンズ径R、発光素子3の実装位置によって最適な構造を決定する必要がある。
【0051】
図11にはノイズレベルの実測データを示す。実測でもカバー板CP(ガラス板)の位置に対してノイズレベルはほぼ一定となっている。カバー板CPの高さ方向の距離寸法H(高さ位置)が0〜3mmの範囲ではノイズレベルの大小関係が合っていないところもあるが、カバー板CPの距離寸法Hが3.5〜5mmの範囲では、シミュレーション結果と同様レンズ径Rが小さいほどノイズレベルが小さくなっている。ここで実測データの方でノイズレベルと呼んでいるのは、迷光以外のノイズ(例えば、受光素子4自体に依存するノイズ等)も含まれていると考えられるからである。ただノイズの迷光に占める割合は高いと思われる。
【0052】
図12には信号レベルの実測データを示す。被検出物体Objの高さ方向の距離寸法H0(高さ位置)が0〜6mmの範囲では被検出物体Objから反射し、受光素子4に入力される信号強度が強いため飽和しているが、被検出物体Objの距離寸法H0が6mm以上の範囲では、
図10に示すシミュレーション結果と同様な傾向である。信号レベルの大小関係については、レンズ径Rが0.48mmのときを除くと、その傾向はシミュレーション結果とほぼ一致している。
【0053】
以上のように、屈折率媒体にレンズ6を用いた場合、レンズ6から出た光の光軸を受光素子4と反対側に傾けることで、カバー板CPからの迷光をカバー板CPの位置に因らずほぼ一定にすることが可能であることを実験およびシミュレーションで確認した。例えばレンズ径Rが0.21mm〜0.48mmの範囲の場合、レンズ6を介して出射される光の光軸を受光素子4と反対側の方向に仰角φが50°〜89°の範囲で設定すると共に、ビーム広がり角θを1.8°〜20.3°の範囲に設定すると、信号レベルを確保しつつ、迷光レベルを低減可能である。
【0054】
なお、第1の実施の形態では、レンズ6は球面レンズである場合を例に挙げて説明したが、例えば非球面レンズでもよく、前,後方向と左,右方向で異なる曲率をもった非対称なレンズでもよい。
【0055】
次に、
図13を用いて、本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態では、屈折率媒体としてスロープ体を用いている。なお、第2の実施の形態において、第1の実施の形態と同一の構成要素は同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0056】
第2の実施の形態による光センサ21は、第1の実施の形態による光センサ1とほぼ同様に構成される。このため、基板2には、発光素子3と受光素子4が設けられると共に、発光素子3と受光素子4は、透明樹脂体5,7によって封止される。但し、透明樹脂体5には、発光素子3の上部に位置して傾斜面22Aをもった傾斜体としてのスロープ体22が形成されている。このスロープ体22は、受光素子4に近付くに従って高さ寸法(厚さ寸法)が小さくなり、受光素子4側が低くなるように傾斜している。このため、傾斜面22Aは、基板2の表面2A(水平面)に対して傾斜し、受光素子4に近付くに従って高さ位置が低くなっている。即ち、傾斜面22Aは、基板2の表面2Aに対して傾斜角αをもって傾斜している。
【0057】
これにより、発光素子3から出た光は、スロープ体22を介して受光素子4とは反対方向に出射される。第1の実施の形態と同様に、屈折率媒体としてのスロープ体22から出た光が受光素子4とは反対方向に傾けられるため、迷光レベルが低減される。
【0058】
このような効果を確認するために、スロープ体22の傾斜角αを変化させたときの迷光レベルおよび信号レベルのシミュレーションを行った。その結果を
図14および
図15に示す。比較のために、
図14および
図15には、
図9および
図10で示したレンズ径Rが0.21mmと0.48mmとした場合の第1の実施の形態の結果も併記している。
【0059】
図14に示すように、ある迷光レベル以下にするには傾斜角αを27°以上にする必要がある。一方、
図15に示すように、信号レベルについては、傾斜角αに拘らず、レンズ径Rが0.21mmのときとほぼ同等レベルとなっている。表4には、傾斜角αと、スロープ体22から出た光のビーム広がり角θと、光軸の仰角φとの関係を示す。スロープ体22の場合、レンズ効果による集光機能はないため、発光素子3自体のビーム広がり角θ0(半値全幅で14°)よりも屈折率の影響で広がっている。傾斜角αが20°〜30°の範囲でビームの半値全幅としての広がり角θは29°〜42°であり、光軸の仰角φは47°〜57°である。
【0061】
図16には、スロープ体22と用いたときのノイズ実測データを示す。比較のために、
図16には、レンズ径Rが0.27mmで、発光素子3のずれ量Xが50μmと100μmのデータも掲載している。第2の実施の形態のようにスロープ体22を用いた方が、第1の実施の形態のようにレンズ6を用いたときよりも、ノイズレベルが小さくなった。このとき、スロープ体22の傾斜角αは20°である。なお、
図16には、測定サンプルA,Bとして第2の実施の形態による2本の特性線が記載されているが、これらは測定サンプルが異なることを示している。
【0062】
図14のシミュレーション結果では、スロープ体22よりもレンズ径Rが0.21mmと0.48mmのレンズ6を用いた方が、迷光レベルは小さくなっている。また、スロープ体22の傾斜角αが25°以下では迷光レベルが大きくなっている。
図16に示す実測の結果では、これらの関係は逆になっており、シミュレーションと実測では傾向が異なっている。
【0063】
図17には、信号レベルの実測データを示す。
図16のときと同様に、比較のために、
図17には、レンズ径Rが0.27mmで、発光素子3のずれ量Xが50μmと100μmのデータも掲載している。
図17に示したように、信号レベルについては、スロープ体22の方がレンズ6よりも小さくなっている。この傾向は、
図15で示したシミュレーション結果とほぼ一致している。
【0064】
ノイズ(迷光)にせよ信号レベルにせよシミュレーションと実測との間で傾向が一致しないケースが出ている。この原因としては実際のもので影響していると考えられるパラメータ(例えば内部散乱や表面散乱等)が考慮できていないためだと考えられる。
【0065】
シミュレーションと実測との間で傾向が一致しないケースも見られるが、屈折率媒体にスロープ体22を用いてもノイズ(迷光)は抑えられ、カバー板CP(ガラス板)の位置によって一定以下になることが確認できた。例えば傾斜角αが20°〜30°の範囲の場合、スロープ体22を介して出射される光の光軸を受光素子4と反対側の方向に仰角φが47°〜57°の範囲で設定すると共に、ビーム広がり角θを29°〜42°の範囲に設定すると、信号レベルを確保しつつ、迷光レベルを低減可能である。
【0066】
なお、スロープ体22は、発光素子3を封止する透明樹脂体5に一体的に形成したが、透明樹脂体5とは別個に設けてもよい。また、透明樹脂体5を省く構成としてもよい。また、傾斜面22Aは、平坦面に限らず、湾曲面でもよい。
【0067】
次に、
図18を用いて、本発明の第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態では、基板には1個の発光素子に対して2個の受光素子を設けている。なお、第3の実施の形態において、第1の実施の形態と同一の構成要素は同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0068】
第3の実施の形態による光センサ31では、基板2には2個の受光素子32,33が実装されると共に、これら2個の受光素子32,33は、例えば透明樹脂体34によって封止される。透明樹脂体34には、受光素子32,33に集光するためのレンズをそれぞれ設けてもよい。
【0069】
2個の受光素子32,33は、発光素子3を挟まない位置に配置される。例えば、発光素子3は
図18中の右側に配置され、受光素子32,33はいずれも
図18中の左側に配置される。
【0070】
一方、受光素子32と受光素子33は、
図18中の上,下方向で異なる位置に配置される。このため、
図18中で上,下方向に移動する被検出物体Objが光センサ31の上部を通過すると、発光素子3から出た光が被検出物体Objに当り、反射した光が先に受光素子32で受光され、次に受光素子33で受光される。この時間差を信号処理することで、被検出物体Objの移動方向が検知できる。
【0071】
また、発光素子3とレンズ6は
図18中の左,右方向にずれた位置に配置される。このため、発光素子3から出た光は、レンズ6を介して受光素子32,33と反対方向に傾いた状態で出射される。この結果、発光素子3からの迷光が低減され、高いS/Nが得られる。
【0072】
以上のように、被検出物体Objの近接検知および移動検知の両方の機能を備えた光センサ31が、高いS/Nをもって構成することができる。
【0073】
なお、第3の実施の形態は、第1の実施の形態に適用した場合を例に挙げて説明したが、第2の実施の形態にも適用することができる。また、第3の実施の形態では、2個の受光素子32,33を備える場合を例に挙げて説明したが、3個以上の受光素子を備える構成としてもよい。また、発光素子3は1個に限らず、2個以上の発光素子を備えてもよい。
【0075】
前記各実施の形態では、発光素子3と受光素子4,32,33は透明樹脂体5と透明樹脂体7,34で別個に封止したが、発光素子と受光素子を一緒の透明樹脂体によって封止してもよい。