(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5950033
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】導電性ペーストおよび積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/232 20060101AFI20160630BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20160630BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
H01G4/12 361
H01G4/30 301B
H01B1/22 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-513645(P2015-513645)
(86)(22)【出願日】2014年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2014059520
(87)【国際公開番号】WO2014175013
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2015年9月18日
(31)【優先権主張番号】特願2013-92140(P2013-92140)
(32)【優先日】2013年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100092071
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 均
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 智史
【審査官】
多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−183640(JP,A)
【文献】
特開2008−130720(JP,A)
【文献】
特開2007−238408(JP,A)
【文献】
特開昭58−100306(JP,A)
【文献】
特開2005−228904(JP,A)
【文献】
特開2003−077336(JP,A)
【文献】
特開2005−019185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/00−1/24
H01G 4/00−4/015
H01G 4/02−4/224
H01G 4/232
H01G 4/255−4/40
H01G 13/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層セラミック電子部品の外部電極を形成するのに用いられる、ガラス組成物を含む導電性ペーストであって、
前記ガラス組成物が、
(a)BaOと、
(b)SrOおよびCaOの少なくとも1種と、
(c)ZnOと、
(d)B2O3と、
(e)SiO2、Al2O3、およびTiO2からなる群より選ばれる少なくとも1種と
を含有し、
BaOの含有率が35.9mol%以上、
BaOと、SrOおよびCaOとの合計含有率が44.9mol%以上、
B2O3/(SiO2+Al2O3+TiO2)で示されるモル比が0.7〜1.5であり、かつ、
ZnOの含有率が0〜5mol%であること
を特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】
前記ガラス組成物が、ZnOを含まないことを特徴とする請求項1記載の導電性ペースト。
【請求項3】
B2O3/(SiO2+Al2O3+TiO2)で示されるモル比が0.7〜1.0であることを特徴とする請求項1または2記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記ガラス組成物が、B2O3を20mol%以上含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性ペーストを用いて形成された外部電極を備えていることを特徴とする積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペーストおよび積層セラミック電子部品に関し、詳しくは、積層セラミック電子部品の外部電極を形成するのに用いられる導電性ペーストおよびそれを用いて形成された外部電極を有する積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的なセラミック電子部品の一つに、例えば、
図2に示すような構造を有する積層セラミックコンデンサがある。
この積層セラミックコンデンサは、
図2に示すように、誘電体層であるセラミック層51を介して複数の内部電極52(52a,52b)が積層されたセラミック積層体(セラミック素体)60の両端面53a,53bに、内部電極52(52a,52b)と導通するように外部電極54(54a,54b)が配設された構造を有している。
【0003】
ところで、このような積層セラミックコンデンサを製造する場合、外部電極54(54a,54b)は、セラミック積層体(セラミック素体)の両端面に導電性ペーストを塗布して焼成する方法により形成されるのが一般的である。
【0004】
このような外部電極の形成に用いられる導電性ペーストとして、例えば、少なくとも金属粉末、BaO−SrO−ZnO−B
2O
3−SiO
2系ガラスフリットを含んでなる導電性ペーストであって、ガラスフリットが酸化物換算で、BaO:10〜50重量%、SrO:5〜40重量%、ZnO:10〜30重量%、B
2O
3:15〜30重量%、SiO
2:3〜20重量%を含有するとともに、金属粉末100重量%に対して、ガラスフリットを0.5〜10重量%含有する導電性ペーストが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
そして、この導電性ペーストを用いて外部電極を形成することにより、焼成時にガラスフリットがセラミック積層体を構成するセラミック中に浸透しにくくなるとされている。
【0006】
また、この導電性ペーストを用いて外部電極を形成した積層セラミックコンデンサは、たわみ強度が大きく、高温負荷試験での絶縁抵抗に優れているとされている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の導電性ペーストは、ZnOの含有量が多いため、外部電極にNiめっきやSnめっきなどを行う際に、ZnOが外部電極からめっき液中に溶出しやすく、ZnOの溶出した空隙から積層セラミックコンデンサを構成するセラミック素体にめっき液が浸入し、積層セラミックコンデンサのたわみ強度を低下させるという問題点がある。
【0008】
また、ガラスフリットを構成するSiO
2とB
2O
3の割合は、形成される外部電極の耐めっき性(耐めっき液性)に影響を与えるばかりでなく、外部電極の表面にガラス成分が浮き出すガラス浮きの発生や、外部電極の緻密性にも影響を与える。これに対し、特許文献1では、SiO
2とB
2O
3の好ましい割合が必ずしも明確に示されていないことから、耐めっき性と、ガラス浮きの抑制と外部電極の緻密性を両立させることは困難で、特許文献1の導電性ペーストを用いて外部電極を形成した場合、ガラス浮きに起因するめっき付き不良や、外部との導通不良などの問題を引き起こす場合がある。また、緻密性の低い外部電極からめっき液や洗浄液が積層セラミック電子部品を構成するセラミック素体の内部に浸透して特性を劣化させたりクラックを引き起こしたりするというような問題点がある。
【0009】
また、外部電極中のガラス成分の組成が不適切な場合、ガラス成分とセラミック素体を構成するセラミックとが反応して反応層を形成し、クラックを発生させたり、たわみ強度を低下させたりするという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−77336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、積層セラミック電子部品の外部電極を形成するのに用いた場合に、耐めっき性に優れ、緻密で、ガラス浮きを抑制、防止することが可能な外部電極を形成できる導電性ペースト、および、該導電性ペーストを用いて形成した外部電極を備えた、特性が良好で信頼性の高い積層セラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の導電性ペーストは、
積層セラミック電子部品の外部電極を形成するのに用いられる、ガラス組成物を含む導電性ペーストであって、
前記ガラス組成物が、
(a)BaOと、
(b)SrOおよびCaOの少なくとも1種と、
(c)ZnOと、
(d)B
2O
3と、
(e)SiO
2、Al
2O
3、およびTiO
2からなる群より選ばれる少なくとも1種と
を含有し、
BaOの含有率が35.9mol%以上、
BaOと、SrOおよびCaOとの合計含有率が
44.9mol%以上、
B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3+TiO
2)で示されるモル比が0.7〜1.5であり、かつ、
ZnOの含有率が0〜5mol%であること
を特徴としている。
【0013】
本発明の導電性ペーストにおいては、前記ガラス組成物が、ZnOを含まないことが好ましい。
ZnOを含有させないようにした場合、外部電極にめっきを施す際のめっき工程でガラス成分がめっき液に溶出することを抑制、防止することが可能になり、耐めっき性をより確実に向上させることができる。
【0014】
また、B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3+TiO
2)で示されるモル比が0.7〜1.0であることが好ましい。
B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3+TiO
2)で示されるモル比を0.7〜1.0とすることにより、外部電極におけるガラス浮きの抑制、防止と、緻密性の向上をさらに確実に実現することが可能になり、特性が良好で信頼性の高い積層セラミック電子部品を得ることが可能になる。
【0015】
本発明の導電性ペーストにおいては、前記ガラス組成物が、B
2O
3を20mol%以上含有することが好ましい。
前記ガラス組成物がB
2O
3を20mol%以上含有する場合、セラミック素体に対する濡れ性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の積層セラミック電子部品は、上述の本発明の導電性ペーストを用いて形成された外部電極を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の導電性ペーストは、ガラス組成物として、(a)BaOと、(b)SrOおよびCaOの少なくとも1種と、(c)ZnOと、(d)B
2O
3と、(e)SiO
2、Al
2O
3、およびTiO
2からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含有し、
BaOの含有率が35.9mol%以上、BaOと、SrOおよびCaOとの合計含有率が
44.9mol%以上で、B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3+TiO
2)で示されるモル比が0.7〜1.5であって、ZnOの含有率が0〜5mol%であるガラス組成物を用いているので、形成される外部電極にめっきを施す際のめっき工程でガラス成分がめっき液に溶出することを抑制、防止することが可能になる。また、外部電極におけるガラス浮きを抑制、防止することが可能になるとともに、外部電極の緻密性を向上させることが可能になる。
その結果、本発明の導電性ペーストを用いて外部電極を形成することにより、特性が良好で信頼性の高い積層セラミック電子部品を得ることが可能になる。
【0018】
本発明の導電性ペーストのガラス組成物においては、アルカリ土類金属の酸化物(BaO、SrO、CaO)が、導電性ペースト中のガラス成分と、積層セラミック電子部品を構成するセラミックとの反応を抑制することから、本発明の導電性ペーストを用いて外部電極を形成した場合に、セラミック素体の強度低下を防止することが可能になる。本発明の導電性ペーストに含まれるガラス組成物が(a)BaOと、(b)SrOおよびCaOのうちの少なくとも1種とを、合計で
44.9mol%以上の割合で含有することで、外部電極中のガラスとセラミック素体との反応を抑制する機能を果たす。なお、本発明の導電性ペーストにおいては、主としてBaOが、セラミック素体との反応を抑制して、セラミック素体の強度低下を防止する機能を果たす。
【0019】
本発明の導電性ペーストのガラス組成物においては、B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3+TiO
2)のモル比を制御することにより、セラミック素体の濡れ性を制御することが可能になる。また、B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3+TiO
2)のモル比を0.7〜1.5の範囲とすることにより、ガラス浮きを抑えつつ、セラミック素体に対する濡れ性を確保し、かつ、ボイドの発生を抑制して、めっき付き性が良好で、緻密な電極を形成することが可能になる。
【0020】
B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3+TiO
2)のモル比を制御して所望の特性が得られるようにするにあたって、ZnOはめっき液に溶解しやすく、その割合が大きくなると耐めっき性の悪化を招くという問題を生じる。また、還元雰囲気中で焼成すると、ZnOの還元・昇華が生じるため、ZnOの割合は、5mol%以下にすることが好ましく、ZnOを含有させないことがより望ましい。
【0021】
また、本発明の導電性ペーストにおいては、ガラス特性に影響のない範囲(以下の酸化物の合計として1mol%以下)で、Li
2O、Na
2O、K
2O、MgOなどのアルカリ/アルカリ土類金属酸化物、MnO、CoO、NiO、CuO、SnO
2、ZrO
2などの遷移金属酸化物を含有させることができる。
【0022】
以下に、本発明の導電性ペーストを用いることにより得られる作用効果についてさらに説明する。
本発明の導電性ペーストに含まれるガラス組成物を構成する、BaOおよび、SrOとCaOの少なくとも一方により、セラミック素体へのガラス浸透が少ない界面構造が形成され、セラミックの変質による強度低下が抑制される。
【0023】
CaOは、例えば、CaOを含有する誘電体セラミック(CaZrO
3系など)に用いた場合に、セラミック中のCaOがガラス中に拡散してガラス特性の変動を抑制する機能を果たすため、ガラス中にあらかじめ含有させることが望ましい。一方、CaOはめっき液に溶出しやすいため、その含有割合が多くなりすぎるとガラス自体の耐めっき性を悪化させることになる。したがって、CaOの割合は耐めっき性を確保する見地から、適宜調整することが望ましい。
【0024】
なお、めっき液に対して溶解しにくいBaOをガラスの修飾酸化物の主体とすることにより、その溶出を抑制することができる。
【0025】
B
2O
3はガラス骨格を形成し、かつガラスの軟化点を低下させるため、電極の焼結助剤ガラスの主成分として使用されるが、化学的耐久性が低いため、他の骨格成分(SiO
2、Al
2O
3、TiO
2)と併用する必要がある。
【0026】
SiO
2は耐酸性の高いガラス骨格を形成するが、構造が堅いため、ガラスの軟化点を上昇させ、骨格成分単独で用いた場合にセラミック素体に対する濡れ性を悪化させる傾向がある。
【0027】
Al
2O
3はガラス化範囲を広げ、B
2O
3主体のガラス骨格を強化して耐めっき性を向上させるが、過剰になるとガラスの軟化点が上昇して、セラミック素体に対する濡れ性を悪化させる傾向がある。そのため、B
2O
3などの他成分との関係で、その比率は制限される。
【0028】
なお、上述のSiO
2も耐めっき性の向上に寄与するが、過剰になるとセラミック素体に対する濡れ性を悪化させるため、B
2O
3などの他成分との関係で、その比率は制限される。
【0029】
TiO
2はガラス骨格を強化する働きがあり、耐めっき性を向上させる。ただし、その割合が過剰になるとガラスの軟化点が上昇してセラミック素体に対する濡れ性を悪化させるとともに、結晶化を生じて電極の緻密化を阻害してしまう場合があることから、他の構成成分との関係で適切な割合とすることが必要となる。
【0030】
また、めっき液に溶出しやすいZnOやアルカリ金属酸化物の含有割合を制限することにより、耐めっき性を向上させ、セラミックと外部電極との界面がめっき液に侵食されるのを防ぐことができる。
なお、実質的にZnOを含有させないようにした場合、焼成中の還元作用によるガラス組成変動や、炉内へのZnO堆積によるメンテナンス性の悪化を抑制、防止することが可能になる。
【0031】
本発明の積層セラミック電子部品は、上述の本発明の導電性ペーストを用いて形成された外部電極を備えているので、外部電極におけるガラス浮きが生じることを抑制、防止するとともに、緻密性の向上を図ることが可能で、しかも、めっき工程でガラス成分がめっき液に溶出することを抑制、防止することが可能になる。その結果、特性が良好で信頼性の高い積層セラミック電子部品を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の導電性ペーストを用いて形成した外部電極を有する積層セラミックコンデンサの構成を示す断面図である。
【
図2】代表的な積層セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0034】
[実施形態]
この実施形態では、
図1に示すような構造を有する積層セラミックコンデンサを製造する場合を例にとって説明する。
この積層セラミックコンデンサは、
図1に示すように、誘電体層であるセラミック層1を介して複数の内部電極2(2a,2b)が積層されたセラミック積層体(積層セラミックコンデンサ素子)10の両端面3a,3bに、内部電極2(2a,2b)と導通するように外部電極4(4a,4b)が配設された構造を有している。
【0035】
外部電極4(4a,4b)は、導電性ペーストを焼き付けてなる外部電極本体11と,外部電極本体11の表面に形成されたNiめっき膜層12と、Niめっき膜層12の表面に形成されたSnめっき膜層13とを備えてなる多層構造とされている。
【0036】
上述の外部電極4(の外部電極本体11)は、以下に説明するようにして作製した導電性ペーストを用いて形成されている。
この実施形態では、銅粉、ガラス粉末、バインダ(樹脂、溶剤)、添加剤(分散剤、レオロジーコントロール剤など)を、表1に示すような割合で配合し、混練・分散することにより導電性ペーストを作製した。
【0037】
そして、作製した導電性ペーストを用いて、上記積層セラミックコンデンサを構成するセラミック積層体(セラミック素体)の互いに対向する両端面に外部電極(外部電極本体)を形成した。
【0038】
導電性ペーストについてさらに詳しく説明すると、この実施形態では、導電性ペーストを構成する導電成分として、平均粒径(D
50)が3〜4μmの粉末を用いた。
【0039】
また、ガラス粉末として、ガラス原料としてBaCO
3、SrCO
3、CaCO
3、H
3BO
3、SiO
2、Al
2O
3、TiO
2、ZnO、およびNa
2CO
3を、ガラス化後に酸化物換算で目的組成となるように調合した。
【0040】
それから、調合した原料をるつぼ中で混合した後、1200〜1400℃に加熱して溶融させ、融液を2本ロールミルで急冷した。その後、ジルコニアを粉砕メディアとしてボールミル粉砕を行い、平均粒径が2μmのガラス粉末を作製した。
【0041】
バインダとしては、ジヒドロテルピネオールを溶媒とするアクリル樹脂系バインダを用いた。
【0042】
導電性ペーストに印刷性を付与するため、添加剤として、脂肪酸アマイド系のチクソトロピック性付与剤を添加した。
【0043】
そして、銅粉:67wt%、ガラス粉末:10wt%、バインダ:22wt%、添加剤:1wt%の割合で混合し、3本ロールミルで分散してペースト化することにより、導電性ペースト(外部電極ペースト)を作製した。
【0044】
そして、チタン酸バリウム(BaTiO
3)を主成分とするセラミックグリーンシートに、ニッケル(Ni)を導電成分とする内部電極ペーストを塗布して内部電極パターンを形成した電極付与グリーンシートを積層してマザー積層体を作製した。
【0045】
それからこのマザー積層体を所定の位置でカットして個々の素子(未焼成のセラミック積層体)に分割した後、焼成することにより、焼成済みのセラミック積層体(セラミック素体)、すなわち、誘電体セラミック層を介して複数の内部電極が積層された構造を有する積層構造体を得た。
【0046】
このようにして作製したセラミック積層体(セラミック素体)の互いに対向する両端面に、上述のようにして作製した導電性ペーストを、浸漬塗布などの方法で塗布し、乾燥した後、還元雰囲気で焼成することにより外部電極(外部電極本体)を形成した。
【0047】
それから、外部電極本体の表面に、Niめっき膜層を形成し、このNiめっき膜層上に、さらにSnめっき膜層を形成することにより、
図1に示すような構造を有するこの実施形態の積層セラミックコンデンサ(表1の実施例1〜6の試料)を作製した。Niめっき膜層とSnめっき膜層は、電気めっきの方法で順次形成した。
【0048】
上述のようにして作製した各試料(積層セラミックコンデンサ)について、以下の特性、すなわち、外部電極における「ガラス浮き」、外部電極のコーナー部における「ボイドの発生の有無」、および積層セラミックコンデンサの「たわみ強度」をそれぞれ以下の方法により調べた。
また、外部電極の耐めっき性を、以下に説明する方法により調べた。
【0049】
(1)ガラス浮き
塗布した導電性ペーストを焼成して外部電極を形成した後、試料(積層セラミックコンデンサ)の外部電極が形成された端面中央部を走査型電子顕微鏡を用いて、500倍以上の倍率で観察した。そして、観察される外部電極表面像のコントラストから、ガラスの浮き出し部の内接円直径(最短部)が10μm以上であったものを不良(×)、それ未満であるものを良(○)とした。
【0050】
(2)ボイドの発生状態(発生の有無)
塗布した導電性ペーストを焼成して外部電極を形成した後、試料(積層セラミックコンデンサ)を外部電極が形成された端面に直交する方向に切断して露出させた切断面において、試料の四隅(コーナー部)に形成されている外部電極の切断面を、走査型電子顕微鏡を用いて、500倍以上の倍率で観察した。ボイドの発生が認められないものを良(○)、ボイドの発生が認められたものを不良(×)とした。
【0051】
(3)たわみ強度(たわみクラック発生率)
JISC60068−2−21 耐プリント基板曲げ性の試験方法に従い、試料(積層セラミックコンデンサ)を1.5mmまでたわませ、試験後のクラック発生の状態を調べた。そして、試験に供した試料に対するクラックの発生した試料の割合(たわみクラック発生率)を求めた。
【0052】
(4)耐めっき性
外部電極の耐めっき性を調べるため、表1に示した組成の各ガラスとアクリル系樹脂バインダとを1:1の割合(重量比)で混合し、3本ロールミルで分散させたガラスペーストを作製した。そして、このガラスペーストを、アルミナ基板上に塗布厚が20μm以上となるように、ドクターブレード法により印刷し、還元雰囲気で焼成した。
【0053】
それから、この基板を、Niめっき液、Snめっき液に浸漬し、浸漬前後の重量変化量を溶解量として求めた。また、重量変化量をそれぞれのガラス密度および印刷面積で除算し、単位時間当たりの溶解厚みとして換算した。
【0054】
なお、得られた値をめっき液溶解速度としたとき、めっき液溶解速度は、Niめっき液に対して0.1μm/h以下であることが望ましく、Snめっき液に対して1.0μm/h以下であることが望ましい。
また、Snめっき液に対する溶解速度は、0.5μm/h以下であることがより望ましい。
【0055】
本発明の要件を満たす表1の実施例1〜6の試料(表1)について、上述の方法で調べた、外部電極における「ガラス浮き」、外部電極のコーナー部における「ボイドの発生の有無」、積層セラミックコンデンサの「たわみクラック発生率」、および外部電極の「耐めっき性」の評価結果あるいは測定結果を表1に併せて示す。
【0056】
また、比較のため、表2に示すような組成のガラス粉末を用いたことを除いて、上記実施例の試料の場合と同様の条件で、銅粉、ガラス粉末、バインダ、添加剤を配合し、混練・分散することにより調製した本発明の要件を満たさない比較用の導電性ペーストを作製し、この導電性ペーストを用いて、比較例としての試料(比較例1〜7の試料)(表2)を、上記実施例の試料1〜6の場合と同様の方法で作製した。そして、比較例1〜7の試料についても、上記実施例1〜6の試料の場合と同様の方法で、外部電極における「ガラス浮き」、外部電極のコーナー部における「ボイドの発生の有無」、積層セラミックコンデンサの「たわみクラック発生率」、および「耐めっき性」を調べた。
その測定結果を表2に併せて示す。
【0059】
表1に示すように、本発明の要件を備えた実施例1〜6の試料の場合、ガラス浮き、ボイドの発生状態、およびたわみ強度については、いずれも良好な結果が得られることが確認された。
【0060】
また、耐めっき性については、実施例1〜6の試料のいずれにおいても、Niめっき液に対するめっき液溶解速度は0.1μm/h以下と良好で、Snめっき液に対するめっき液溶解速度についても1.0μm/h以下と良好であり、特に問題がないことが確認された。
【0061】
たわみ強度については、上述のJISC60068−2−21 耐プリント基板曲げ性の試験方法により、試料を1.5mmまでたわませて保持することにより行った試験におけるクラック発生頻度がいずれも0/10(10個の試料に対してクラックの発生した試料が0個)と、良好な結果が得られることが確認された。
【0062】
これに対し、比較例の試料の場合、ZnOの含有量が本発明の範囲を超えるガラス組成物が配合された導電性ペーストを用いた比較例1および2の試料と、ZnOの含有量と、B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3+TiO
2)のモル比の値の両方が本発明の範囲を超えるガラス組成物が配合された導電性ペーストを用いた比較例3の試料の場合、耐めっき性(Niめっき液およびSnめっき液に対する耐性)が不良であることが確認された。さらに、比較例2および3の試料の場合、たわみクラックの発生が確認された。
【0063】
B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3+TiO
2)のモル比の値が本発明の範囲を超えるガラス組成物が配合された導電性ペーストを用いた比較例4の試料の場合、Niめっき液に対する耐性は良好であるが、Snめっき液に対する耐性が不良であり、たわみクラックの発生が確認された。
【0064】
B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3+TiO
2)のモル比の値が本発明の範囲を下回るガラス組成物が配合された導電性ペーストを用いた比較例5の試料の場合、ガラス浮きの発生およびボイドの発生が認められ好ましくないことが確認された。
【0065】
B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3+TiO
2)のモル比の値が本発明の範囲を下回るガラス組成物が配合された導電性ペーストを用いた比較例6および7の試料の場合、ボイドの発生が認められ、好ましくないことが確認された。
【0066】
以上の結果から、本発明の要件を満たすガラス組成物を含有する導電性ペーストを用いることにより、ガラス浮きやボイドがなく、耐めっき性に優れた外部電極を形成することが可能になること、本発明の要件を満たす導電性ペーストを用いて形成した外部電極を有することにより、たわみ強度に優れた積層セラミックコンデンサが得られることが確認された。
【0067】
なお、上記実施形態では、本発明にかかる導電性ペーストを用いて積層セラミックコンデンサを製造する場合を例にとって説明したが、本発明の導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサに限らず、例えば、積層型LC複合部品、積層バリスタなどの、セラミック積層体の内部に電極を備えた種々の積層セラミック電子部品に適用することが可能である。
【0068】
本発明はさらにその他の点においても上記実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 セラミック層
2(2a,2b) 内部電極
3a,3b セラミック積層体(セラミック素体)の端面
4(4a,4b) 外部電極
10 セラミック積層体(セラミック素体)
11 外部電極本体
12 Niめっき膜層
13 Snめっき膜層