【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、「再生医療実現拠点ネットワークプログラム 技術開発個別課題 立体浮遊培養の再生医療への実用化のための自動化技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の規定の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ウェルと前記筒状体とからなる構造体をその中心軸を含む平面で切断して平面的にみた場合、前記スリットの両端のうちの前記ウェルにより近い一方の端から前記ウェルの最深部までの長さが、3.0mm以上6.0mm以下である、請求項3〜5のいずれか一項に記載の細胞塊用培養容器。
液誘導部を更に含み、前記液誘導部は、前記ウェルと前記筒状体とからなる構造体の内面に配置された一対の突出部を含み、前記突出部は液誘導補助溝を形成し、前記突出部の上側端面は前記連通部の下側端よりも上方に配置されている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の細胞塊用培養容器。
前記液誘導補助溝の一方の終端を規定する面は、前記連通部から前記培養空間内に流入し得る前記培養液の流れの下流側から上流側に向かって傾斜する傾斜面である、請求項17に記載の細胞塊用培養容器。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の細胞塊用培養容器(以下。「培養容器」と略称する場合もある。)は、ウェルの培養空間と連通した内腔を有し、その筒壁に、外側に細胞塊を通過させることなく培養液を排出させうる1個以上の連通部が形成された筒状体を備えている。そのため、培養容器を傾けるという簡単な操作により短時間で、複数のウェル内の培養液を培養空間から排出させることができる。このような方法により培養液の排出を行えば、従来技術として記載した方法と比較して、細胞塊に悪影響を与えずに、培養液の交換を効率的に行える。複数のウェル内の培養液を培養空間から排出できるので、機械による培養液の自動交換化も期待できる。
【0016】
細胞のなかでも、ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)やヒト多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)等の幹細胞は代謝がよく、僅かな刺激により分化してしまう可能性がある。従って、細胞塊にダメージや刺激等の影響が及ぶことを抑制しながら培養液を効率的に交換できる本開示の培養容器は、これらの幹細胞の細胞塊の培養に適している。
【0017】
本開示は、以下の一又は複数の実施形態に関しうる。
(1)細胞塊を培養するための容器であって、前記細胞塊と培養液とを収容可能とする培養空間を有するウェルと、前記ウェルの開口を有する面上に配置され前記培養空間と連通した内腔を有する筒状体とを含み、前記筒状体の筒壁に、前記筒状体の外側に前記細胞塊を通過させることなく前記培養液を排出させうる1個以上の連通部が形成されている、細胞塊用培養容器。
前記細胞塊用培養容器は、更に前記ウェルの開口よりも上方に突出して前記ウェルを囲う側壁を備えていてもよい。また、前記側壁が前記筒状体の外側に配置されていてもよい。
(2)前記筒状体に複数の前記連通部が形成されている、(1)に記載の細胞塊用培養容器。
(3)前記連通部が、前記筒状体の中心軸と平行なスリットである、(1)又は(2)に記載の細胞塊用培養容器。
(4)前記連通部が、前記筒状体の周方向に沿ったスリットである、(1)又は(2)に記載の細胞塊用培養容器。
(5)前記スリットの幅が、0.1mm以上0.5mm以下である、(3)又は(4)に記載の細胞塊用培養容器。
(6)前記ウェルと前記筒状体とからなる構造体をその中心軸を含む平面で切断して平面的にみた場合、前記スリットの両端のうちの前記ウェルにより近い一方の端から前記ウェルの最深部までの長さが、3.0mm以上6.0mm以下である、(3)〜(5)のいずれかに記載の細胞塊用培養容器。
(7)前記細胞塊用培養容器は複数の前記ウェルを含むマルチウェルプレート本体を含み、前記マルチウェルプレートの前記ウェルの開口を有する面上に複数の前記筒状体が配置されている、(1)〜(6)のいずれかに記載の細胞塊用培養容器。
前記側壁は、複数の前記ウェルを囲うように配置されていてもよい。
(8)前記連通部が、前記筒状体の中心軸と平行で前記筒状体の基端から形成されたスリットである、(7)に記載の細胞塊用培養容器。
(9)前記マルチウェルプレート本体と前記複数の筒状体とが同一金型内で成型された、(7)又は(8)に記載の細胞塊用培養容器。
(10)前記細胞塊用培養容器は、複数の前記ウェルと、前記ウェルの開口よりも上方に突出して前記複数のウェルを囲い平面視した時に見える形状が略矩形の側壁と、を含むマルチウェルプレート本体と、前記マルチウェルプレートの前記側壁によって囲われる空間内に配置された液流制御体と、を含み、前記液流制御体は、前記複数の筒状体と、前記マルチウェルプレート本体の前記ウェルの開口を有する面と接しないように配置され前記複数の筒状体を連結して前記複数の筒状体の連結体を形成する複数の架橋部と、一方の端部が前記連結体に連結され他方の端部が前記側壁と当接する少なくとも1対の位置規制部とを含み、互いに向かい合う側壁の内面の一方に、一方の位置規制部が当接し、互いに向かい合う側壁の内面の他方に、他方の位置規制部が当接する、(1)〜(6)のいずれかに記載の細胞塊用培養容器。
(11)前記液流制御体は、前記マルチウェルプレート本体と別体である、(10)に記載の細胞塊用培養容器。
(12)液誘導部を更に含み、前記液誘導部は、前記ウェルと前記筒状体とからなる構造体の内面に配置された一対の突出部を含み、前記突出部は液誘導補助溝を形成し、前記突出部の上側端面は前記連通部の下側端よりも上方に配置されている、(1)〜(11)のいずれかに記載の細胞塊用培養容器。
(13)前記突出部の前記培養空間と向かい合う面は、前記筒状体の中心軸に向かって突出した曲面である、(12)に記載の細胞塊用培養容器。
(14)前記突出部の上側端面から前記連通部の下側端までの長さが、0.1mm以上である、(12)又は(13)に記載の細胞塊用培養容器。
(15)前記連通部の下側端を通る円周上における一対の前記突出部間の距離は、0.3mm以上1.0mm以下である、(12)〜(14)のいずれかに記載の細胞塊用培養容器。
(16)前記突出部の下側端部が前記ウェルの内面のうちの底面に達している、(12)〜(15)のいずれかに記載の細胞塊用培養容器。
(17)前記液誘導部が、一対の前記突出部の下側端部を互いに連結し、前記液誘導補助溝の一方の終端を規定する面を含む基部を更に含む、(12)〜(16)のいずれかに記載の細胞塊用培養容器。
(18)前記液誘導補助溝の一方の終端を規定する面は、前記連通部から前記培養空間内に流入し得る前記培養液の流れの下流側から上流側に向かって傾斜する傾斜面である、(17)に記載の細胞塊用培養容器。
(19)前記液誘導補助溝の閉塞端が前記ウェルの底部よりも上方に位置している、(12)〜(18)のいずれかに記載の細胞塊用培養容器。
(20)前記ウェルの少なくとも底部の内面は、下記式(Ia)又は(Ib)で表される水溶性樹脂から形成された被覆層で被覆されている、(1)〜(19)のいずれかに記載の細胞塊用培養容器。
【化1】
(式(Ia)中、Rはカルボニル基と−NH−基とを有する炭化水素基を示し、r1は1〜1000を示し、r2は40〜4995を示し、r3は0〜4000を示し、nは1、2又は3を示す。)
【化2】
(式(Ib)中、Rはカルボニル基と−NH−基とを有する炭化水素基を示し、r1は1〜1000を示し、r2は40〜4995を示し、r3は0〜4000を示す。)
(21)前記ウェルは、筒状の胴部と、前記胴部の一端に設けられた漏斗形状の底部とを有し、前記底部の中心部は、凹曲面であり、前記底部の開き角度は、60〜100度であり、前記底部の前記凹曲面の曲率半径は、0.5〜2.0mmである、(1)〜(20)のいずれかに記載の細胞塊用培養容器。
(22)前記細胞塊が幹細胞である、(1)〜(21)のいずれかに記載の細胞塊用培養容器。
(23)前記幹細胞が、ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)
、ヒト多能性幹細胞
又はヒトiPS細
胞である、(22)に記載の細胞塊用培養容器。
(24)(1)〜(23)のいずれかに記載の細胞塊用培養容器を用いて細胞塊を培養する培養方法であって、培養液が培養空間に充填された前記ウェル内で前記細胞塊を培養した後、前記細胞塊用培養容器を傾けることにより、前記ウェル内の培養液の一部を、前記連通部を通過させて前記筒状体の外側に排出させる工程を含む、細胞塊の培養方法。
【0018】
[1]細胞塊を培養するための容器であって、前記細胞塊と培養液とを収容可能とする培養空間を有するウェルと、前記培養空間と連通した内腔を有する筒状体と、液誘導部と、を含み、前記筒状体の筒壁に、前記筒状体の外側に前記細胞塊を通過させることなく前記培養液を排出させうる1個以上の連通部が形成されており、前記液誘導部は、前記ウェルと前記筒状体とからなる構造体の内面に一対の突出部が形成され、各突出部の上側端面が前記連通部の下側端よりも上方に配置されており、且つ、前記筒状部の内面のうちの少なくとも1つの連通部の両側に各々前記突出部が形成されることにより設けられた液誘導補助溝を含む、細胞塊用培養容器。
[2]前記連通部が、前記筒状体の中心軸と平行なスリットである、[1]に記載の細胞塊用培養容器。
[3]前記スリットは、前記筒状体の基端から形成された、[2]に記載の細胞塊用培養容器。
[4]前記スリットの幅が、0.1mm以上0.5mm以下である、[2]又は[3]に記載の細胞塊用培養容器。
[5]各突出部の前記培養空間と向かい合う面は、前記筒状体の中心軸に向かって突出した曲面である、[1]〜[4]のいずれかの項に記載の細胞塊用培養容器。
[6]前記突出部の上側端面から前記連通部の下側端までの長さが、0.1mm以上である、[1]〜[5]のいずれかの項に記載の細胞塊用培養容器。
[7]前記連通部の下側端を通る円周上における前記突出部間の距離は、0.3mm以上1.0mm以下である、[1]〜[6]のいずれかの項に記載の細胞塊用培養容器。
[8]各突出部の下側端部が前記ウェルの内面のうちの底面に達している、[1]〜[7]のいずれかの項に記載の細胞塊用培養容器。
[9]前記液誘導部が、各突出部の下側端部を互いに連結し、前記液誘導補助溝の一方の終端を規定する面を含む基部を更に含む、[1]〜[7]のいずれかの項に記載の細胞塊用培養容器。
[10]前記液誘導補助溝の一方の終端を規定する面は、前記連通部から前記培養空間内に流入し得る前記培養液の流れの下流側から上流側に向かって傾斜する傾斜面である、[9]に記載の細胞塊用培養容器。
[11]前記ウェルと前記筒状体とからなる構造体をその中心軸を含む平面で切断して平面的にみた場合、前記連通部の下側端から前記ウェルの最深部までの長さが、3.0mm以上6.0mm以下である、[1]〜[10]のいずれかの項に記載の細胞塊用培養容器。
[12]前記ウェルは、筒状の胴部と、前記胴部の一端に設けられた漏斗形状の底部とを有し、前記底部の中心部は、凹曲面であり、前記底部の開き角度は、60〜100度であり、前記底部の前記凹曲面の曲率半径は、0.5〜2.0mmである、[1]〜[11]のいずれかの項に記載の細胞塊用培養容器。
[13]前記液誘導補助溝の閉塞端が前記ウェルの前記底部よりも上方に位置している、[12]に記載の細胞塊用培養容器。
[14]前記細胞塊用培養容器は複数の前記ウェルを含むマルチウェルプレート本体を含み、前記マルチウェルプレートの前記ウェルの開口を有する面上に複数の前記筒状体が配置されている、[1]〜[13]に記載の細胞塊用培養容器。
[15]前記マルチウェルプレート本体と複数の前記筒状体とが同一金型内で成型された、[14]に記載の細胞塊用培養容器。
[16]前記ウェルの少なくとも底部の内面は、下記式(Ia)又は(Ib)で表される水溶性樹脂を用いて形成された被覆層で被覆されている、請求項12又は13に記載の細胞塊用培養容器。
【化3】
(式(Ia)中、Rはカルボニルとアミンとを有するアルキル基、r1は1〜1000、r2は40〜4995、r3は0〜4000、nは1、2又は3を示す。)
【化4】
(式(Ib)中、Rはカルボニルとアミンとを有するアルキル基、r1は1〜1000、r2は40〜4995、r3は0〜4000を示す。)
[17]前記細胞塊が幹細胞である、[1]〜[16]のいずれかの項に記載の細胞塊用培養容器。
[18]前記幹細胞が、ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)又はヒト多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)である、[17]に記載の細胞塊用培養容器。
[19][1]〜[18]のいずれかの項に記載の細胞塊用培養容器を用いて細胞塊を培養する培養方法であって、培養液が培養空間に充填された前記ウェル内で前記細胞塊を培養した後、前記細胞塊用培養容器を傾けることにより、前記ウェル内の培養液の一部を、前記連通部を通過させて前記構造体の外側に排出させる工程を含む、細胞塊の培養方法。
【0019】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0020】
(実施形態1)
図1Aは、実施形態1の細胞塊用培養容器の平面図であり、
図1Bは、
図1Aの部分拡大図である。
図2は、
図1AのII−II’線に沿った矢視断面図であり、
図3は、
図1AのIII−III’線に沿った矢視断面図であり、
図4は、
図2の部分拡大図である。
【0021】
図1A〜
図4を用いて説明される実施形態1の培養容器1は、細胞塊を培養するための容器である。培養容器1は、板状体2に形成された複数のウェル21と、各ウェル21の上方に配置された筒状体3とを含む。以下の説明の便宜のために、板状体2の平面と直行する方向を「上下方向」、筒状体3側を「上方」、ウェル21側を「下方」という。
【0022】
実施形態1の培養容器1は、複数のウェル21の開口よりも上方に突出して複数のウェル21を囲う側壁4と、複数のウェル21の開口よりも下方に突出した台座5を含む。培養容器1を平面視した時に見える側壁4の外面及び内面の形状は各々略矩形である。台座5は、ウェル21よりも、より板状体2から遠くまで突出しているので、培養容器1を水平面上に置いた時、台座5の端面が水平面に接する。
【0023】
各ウェル21は、細胞塊と培養液を収容可能とする培養空間を有する。筒状体3の形状は、略円筒状であり、培養空間と連通した内腔を有する。筒状体3の筒壁3bには、複数の連通部3aが、筒状体3の周方向に沿って等間隔で形成されている。連通部3aは、筒状体3の中心軸3c(
図4参照)と平行で筒状体3の基端3dから先端3eに達するまで形成されたスリットである。尚、筒状体3の中心軸3cは、前記上下方向と平行である。
【0024】
図1A〜
図4を用いて説明される実施形態1の培養容器1の一例では、スリット3aの両端のうちのウェル21により近い一方の端が筒状体3の基端3dと一致し、ウェル21から遠い他方の端が筒状体3の先端3eと一致している。しかし、培養液の一部の排出を行うために培養容器1を傾けた際に、細胞塊がウェル21の外に出てしまうことなく、且つ、ウェル21中の培養液の一部の排出が良好に行えるかぎり、スリットは、上記の一例に限定されない。例えば、スリットは、筒状体3の基端3dよりも上方から筒状体3の先端3eに向かって形成されていてもよい。あるいは、スリットは、筒状体3の筒壁をその厚み方向に貫通し、その長手方向が筒状体3の周方向に沿った貫通穴であってもよい。あるいは、連通部3aはスリットに限定されず、例えば、筒状体3の筒壁3bをその厚み方向に貫通する貫通穴であってもよい。
【0025】
図1A〜
図4を用いて説明される実施形態1の培養容器1の一例では、連通部3a(スリット)の数は8個であるが、連通部3aの数について特に制限はない。しかし、各ウェル21内から培養液を効率的に排出させ易く、後述する新鮮培養液が、各ウェル内に均一に行き渡り易いという理由から、2個以上が好ましく、4個以上がより好ましく、6個以上が更に好ましい。また、各ウェル21が2個以上の連通部3aを含む場合、培養液を効率的に排出させるという理由から、2個以上の連通部3aから選択される1対の連通部3aは、周方向に90度以上離れていると好ましく、180度以上離れているとより好ましい。
【0026】
図1Bに示されるように、スリットの幅W1(周方向の幅)は、実施形態1の培養容器1に移設される直前の細胞塊の顕微鏡観察により測定される直径よりも小さければよいが、当該細胞塊の直径が600〜700μmである場合、培養液の排出効率の向上の観点から、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.25mm以上が更に好ましく、細胞塊の流出の可能性を低減する観点から、0.5mm以下が好ましく、0.4mm以下がより好ましく、0.3mm以下が更に好ましい。
【0027】
なお、本明細書において、スリットの長手方向が筒状体3の中心軸3c(
図4参照)と平行である場合、スリットの幅とは、筒状体3の中心軸3c(
図4参照)と垂直な方向におけるスリットの長さをいう。また、スリットの長手方向が筒状体3の周方向に沿っている場合、スリットの幅とは、筒状体3の中心軸3c(
図4参照)と平行な方向におけるスリットの長さをいう。
【0028】
後述する本開示の細胞塊の培養方法では、複数のウェル21内の培養液の質を、連通部3aを利用した拡散により均一化する観点から、培養液の液面は、筒状体3の基端3dよりも上方とされることが好ましい。当該培養方法において、細胞塊が培養液中を浮遊し筒状体3の先端を越えて筒状体3と側壁4の間や、隣接する筒状体3及びウェル21内に移動することが起こらないよう、筒状体3の高さH1は、1〜7mmであると好ましく、3〜5mmであるとより好ましい。
【0029】
複数のウェル21の開口は、複数のウェル21を連結する板状体2の一方の面2a(
図2参照)と同一平面内にあり、筒状体3は、当該平面上に配置されている。連通部3aであるスリットは、培養液の排出効率の向上の観点から、筒状体3の基端3d(
図4参照)から形成されていると好ましい。
【0030】
培養液の排出最中に、細胞塊に物理的な刺激が加わることを抑制する観点から、筒状体3とウェル21とからなる構造体12(
図3及び
図4参照)の内面には段差がないと好ましく、具体的には、筒状体3の中心軸3cとウェル21の中心軸とが一致しており、筒状体3の内周面である円筒面の半径と、ウェル21の開口における半径とが等しいと好ましい。また、例えば、ウェル21が筒状の胴部21a(
図4参照)を含み、胴部21aの内面が円筒面である場合、筒状体3の中心軸3cとウェル21の中心軸とが一致しており、筒状体3の内周面である円筒面の半径と、胴部21aの内周面である円筒面の半径とが等しいと好ましい。
【0031】
各ウェル21は、筒状の胴部21aと、胴部21aの一端に設けられた漏斗形状の底部21bとを含む。底部21bでは、ウェル21の培養空間はウェル21の先端(開口とは反対側)に向かって縮径している。ウェル21の培養空間に面する内面のうち、底部の中心部21cでは曲面である。即ち、底部21bの内面は、頂点部分が曲面の逆円錐面ということができる。胴部21aは、例えば、略円筒状であってもよい。各ウェル21の一又は複数の実施形態において、ウェル21をその中心軸を含む平面で切断した場合の断面図(
図4参照)において、底部21bの内面が、略V字形状であり、その中心部21cでは弧状である。各ウェル21の一又は複数の実施形態において、内面のうち、胴部21aと底部21bとの接続部分は、曲面であると好ましい。
【0032】
また、ウェル21は、一又は複数の実施形態において、ウェル21をその中心軸を含む平面で切断して平面的にみた場合、ウェル21の内面は、胴部21aではウェル21の中心軸と略平行であり、漏斗形状の底部21bでは、ウェル21の内面の頂点21d(最深部)を通る中心軸に向かって傾斜する1対の傾斜面21eを含み、底部21bの中心部21cでは弧状面21fを含む。
【0033】
図4に示されるように、底部21bの開き角度θは、細胞塊の培養が効率的に行えるという理由から、60度を超え100度以下が好ましく、70〜100度がより好ましく、さらに好ましくは80〜90度である。本開示における「開き角度」とは、前記1対の傾斜面21eがなす角をいい、例えば、
図4においてθで示す角度である。
【0034】
底部21bの中心部内面における曲率半径R
1は、培養液の交換の際、細胞塊が培養液面より露出せず、且つ、細胞塊に刺激が加わることを抑制できるという理由から、0.5〜2.0mmが好ましく、細胞塊の光学顕微鏡による観察が行い易いという理由から、1.0〜2.0mmがより好ましい。尚、本開示における「中心部内面の曲率半径」とは、ウェル21の底部21bの先端部の曲率が1/R
1の曲面を含む円周に対応する半径である。中心部内面の曲率半径R
1は、レーザー距離計、または成型品の切断断面の実測により測定できる。
【0035】
ウェル21と筒状体3とからなる構造体12(
図4参照)をその中心軸を含む平面で切断して平面的にみた場合、スリット3aの両端のうちのウェル21により近い一方の端からウェル21の最深部21dまでの長さH2(
図4参照)は、培養液の交換のために培養液の一部が除去された後、新しい培養液が添加される前の細胞塊が培養液面より露出せず、培養液の除去に伴って細胞塊が受けるダメージや刺激を低減するという理由から、3.0〜6.0mmが好ましく、更に細胞塊に対して十分な量の栄養及び酸素を供給するという理由から、3.0〜5.0mmがより好ましい。
【0036】
スリット3aが筒状体3の基端3dから筒状体3の先端3eに向かって形成されている場合、ウェル21の深さは、培養液の交換のために培養液の一部が除去された後、新しい培養液が添加される前の細胞塊が培養液面より露出せず、培養液の除去に伴って細胞塊が受けるダメージや刺激を低減するという理由から、3.0〜6.0mmが好ましく、更に細胞塊に対して十分な量の栄養及び酸素を供給するという理由から、3.0〜5.0mmがより好ましい。
【0037】
ウェル21の開口における直径は、マルチディスペンサーを使用する場合の操作性に優れるという理由から、例えば、4.0mm以上が好ましく、培養容器一つ当たりのウェル21の数を増やす点から、11.0mm以下が好ましい。
【0038】
ウェル21と筒状体3とからなる構造体12(
図4参照)の内側空間の1個当たりの容量、換言すると、ウェル21の培養空間(ウェル21の内側空間)の容量と筒状体3の内周面(例えば円筒面)の内側空間の容量の合計は、特に制限されるものではないが、細胞塊の培養のために十分な量の培養液や試薬を添加できる点から、例えば、50〜500μLが好ましく、培養液や試薬の使用量を低減する点から、50〜200μLがより好ましい。
【0039】
尚、本実施形態の培養容器のウェルの形態は上記した胴部21aと漏斗形状の底部21bとを含むものに限定されない。ウェルの形態は、ウェル内から細胞塊が出てしまうことなくウェル中の培養液の一部の排出が行える限り、例えば、内面が半球状である形態であってもよいし、胴部と底部とを含み底部が半球状である形態であってもよい。
【0040】
一又は複数の実施形態において、ウェル21の少なくとも底部21bの内面は、細胞低接着性処理が行われていることが好ましい。本開示における「細胞低接着性処理」とは、細胞に対するウェル21の内面の接着性を低減するための処理をいう。接着性が低減するとは、例えば、ウェル21の内面と細胞とが接着しにくくなること、及びウェル21の内面と細胞とが接着しなくなることを含む。
【0041】
細胞低接着性処理としては、例えば、ウェル21の内面の親水化処理が挙げられる。親水化処理としては、例えば、水溶性樹脂を用いた被覆層の形成、及び親水性樹脂を用いた被覆層の形成等が挙げられる。本開示における「水溶性樹脂」とは、水分子とのイオン結合又は水素結合により水和して水に溶解するものであって、25℃の水100gに対して1.0g以上溶解可能なものをいう。また、水溶性樹脂としては、水に溶解するために分子内の主鎖に対して必要充分な量のイオン性又は極性の側鎖を有するものが挙げられる。
【0042】
水溶性樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニルのケン化物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、ポリペンタエリスリトールトリアクリレート、ポリペンタエリスリトールテトラアクリレート、ポリジエチレングリコールジアクリレート、及びそれらを構成するモノマー同士の共重合体、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと他のモノマー(例えばブチルメタクリレート等)との共重合体等が挙げられる。これらの中でもポリ酢酸ビニルのケン化物、ポリビニルピロリドン、及びポリエチレングリコールの中から選ばれる1種以上と後述する官能基とからなる構造が好ましい。これにより、種々の細胞に対する刺激を抑制し、細胞塊の成長率、及び成長した細胞塊の質を向上することができる。
【0043】
ポリ酢酸ビニルのケン化物としては、例えば、ポリビニルアルコール又はビニルアルコールと他の化合物との共重合体、親水基変性、疎水基変性、アニオン変性、カチオン変性、アミド基変性又はアセトアセチル基のような反応基変性させた変性酢酸ビニルとビニルアルコールとのケン化物等が挙げられる。重合体の平均重合度は、特に限定されないが、培養容器の内面に均一な被膜が形成しやすく、かつ作業性が良好となる点から、100〜10,000が好ましく、200〜5,000がより好ましい。ポリ酢酸ビニルのケン化物のケン化度は、特に限定されないが、該ポリ酢酸ビニル全体の20〜100mol%が好ましく、50〜95mol%がより好ましい。
【0044】
水溶性樹脂は、硬化させるための官能基を側鎖に有する水溶性樹脂が好ましい。硬化させるための官能基としては、例えば、放射線反応性、感光性、熱反応性の官能基等が挙げられる。感光性の官能基としては、例えば、ジアゾ基、アジド基、シンモナイル基等が挙げられる。熱反応性及び放射線反応性の官能基としては、例えば、ビニル基、エポキシ基等を挙げることができる。これらの官能基を有する水溶性樹脂の中でも硬化処理を迅速におこなうことができ、簡易な設備で硬化させることができる点から、感光性の官能基を有する水溶性樹脂が好ましい。
【0045】
水溶性樹脂としては、300〜500nmの波長の光の照射により均一な被覆層が形成でき、細胞の接着量を低減して細胞塊の成長効率を向上できることから、アジド基を有する水溶性樹脂が好ましく、より好ましくは下記式(Ia)又は(Ib)で表される水溶性樹脂である。
【化5】
【化6】
【0046】
式(Ia)において、Rはカルボニル基と−NH−基とを有する3価の炭化水素基を示す。炭化水素基としては、飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基が挙げられ、中でも極性の側鎖の合成が容易となる点から、下記式(II)で表される基が好ましい。
【化7】
【0047】
式(Ib)において、Rはカルボニル基と−NH−基とを有する2価の炭化水素基を示す。炭化水素基としては、飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基が挙げられる。
【0048】
式(Ia)において、r1は1〜1000を示し、r2は40〜4995を示し、r3は0〜4000を示し、nは1、2又は3を示す。式(Ib)においてr1は1〜1000を示し、r2は40〜4995を示し、r3は0〜4000を示す。
【0049】
親水性樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(ポリ−HEMA)、ホスホリルコリン基含有高分子化合物、ポリエチレングリコール鎖含有高分子化合物等が挙げられる。
【0050】
被覆層の厚みとしては、特に限定されるものではないが、細胞が基材(ウェル)から受ける物理的な刺激を低減しつつ、被覆層に取り込まれるタンパク質量を低減してタンパク質を介した細胞のウェルへの接着を抑制できる点から、例えば、100〜5,000nmが好ましく、150〜1,000nmがより好ましい。
【0051】
本開示にかかる培養容器の材質は特に制限されるものではないが、培養容器をディスポーザルタイプとすることができ、かつ成形が容易である点から、樹脂が好ましい。樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂または環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等のメタクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリアクリロニトリル等のアクリル系樹脂、プロピオネート樹脂等の繊維素系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、培養容器に求められる成形性、及び滅菌性の点から、ポリスチレン樹脂が好ましい。
【0052】
本開示にかかる培養容器の形態としては、複数のウェルを含むマルチウェルプレート等が挙げられる。マルチウェルプレートにおけるウェルの数は特に制限されるものではないが、例えば、6、12、24、48、96、又は384個である。
【0053】
本開示にかかる培養容器は、以下のようにして製造することができる。
【0054】
まず、上述の樹脂材料を用いて、射出成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形等によって所望の形状に成形する。
図1A〜
図4を用いて説明される実施形態1の培養容器1は、板状体2と、板状体2に形成された複数のウェル21と、側壁4と、台座5とを含むマルチウェルプレート本体11と、複数の筒状体3とが、射出成形法により同一金型内で成型できる。
【0055】
次に、成形した容器に細胞低接着性処理を行う。細胞低接着性処理は、例えば、WO2013/183777公報に記載の方法で行える。
【0056】
上述の細胞低接着性処理を行った後、滅菌する。滅菌は、例えば、エチレンオキサイドガス滅菌、乾熱滅菌、蒸気滅菌、放射線滅菌等が挙げられ、γ線又は電子線を用いた放射線滅菌が好ましく、大量生産を行う点からは、放射線透過性の点でγ線滅菌がより好ましい。
【0057】
[細胞塊の培養方法]
次に、本開示の培養容器を用いて細胞塊を培養する方法について説明する。本開示にかかる細胞塊の培養方法(以下「培養方法」と略称する場合もある。)によれば、本開示にかかる培養容器を用いるため、細胞塊への影響が少なく、培養液を効率的に交換できるので、細胞塊の培養が効率的に行える。
【0058】
本開示の培養方法は、一又は複数の実施形態において、培養液が培養空間に充填されたウェル内で細胞塊を所定の期間培養した後、本開示にかかる培養容器を傾けることにより、ウェル内の培養液の一部を、連通部を通過させて筒状体の外側に排出させ、次いで、培養容器から除去した後、除去した培養液と等しいかほぼ等しい量の新しい培養液(新鮮培養液)を前記培養容器に添加する培養液交換工程を含み、当該培養液交換工程を所定の回数繰り返す。
【0059】
本開示の培養方法の培養対象が、例えば、ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)又はヒト多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)の細胞塊である場合、例えば、細胞塊形成用マルチウェルプレートで形成された細胞塊を培養液全量とともに、本開示の培養容器に移設し、当該細胞塊に本開示の培養方法を適用してもよい。細胞塊形成用マルチウェルプレートで形成され、本開示の培養容器に移設される直前の細胞塊(即ち、本開示の培養容器を用いた培養の対象となる細胞塊)の顕微鏡観察により観察される直径は、本開示の培養容器において細胞塊への栄養供給が十分に行えるという理由から、500μm〜1,000μmが好ましい。本開示の培養容器への細胞塊の移設は、1つのウェル内に対して1つの細胞塊が配置されるように行う。
【0060】
前記培養液交換工程において、「所定の期間」は、細胞の種類、ウェルの容量、培養の目的等に応じて異なっていてもよいし、前記培養液交換工程毎に異なっていてもよい。例えば、培養初期の前記培養液交換工程における「所定の期間」の方が、培養初期より後の前記培養液交換工程における「所定の期間」よりも長くてもよい。また、前記培養液交換工程の繰り返し回数についても、細胞の種類、ウェルの容量、培養の目的等に応じて適宜決定される。
【0061】
前記培養液交換工程において、培養液の除去に伴って細胞塊が受けるダメージや刺激を低減するという理由から、各ウェル内の培養液の一部を、連通部を通過させて筒状体の外側に排出させる。培養液の一部が除去された後、新しい培養液が添加される前の細胞塊は、培養液中に細胞塊全体が沈んだ状態に保たれていると好ましい。
【0062】
前記培養液交換工程において、培養容器から除去される培養液の量及び添加される新鮮培養液の量は、培養液の交換の際に細胞塊が培養液面より露出せず、且つ、新鮮培養液の添加により細胞塊に対して十分な量の栄養及び酸素を供給するという理由から、培養液が除去される直前の培養容器中の培養液を100質量部とすると、50質量部以上99質量部以下が好ましく、75質量部以上99質量部以下がより好ましい。
【0063】
前記培養液交換工程において、新鮮培養液を培養容器に添加した後、新鮮培養液が、各ウェル内に均一に行き渡るように、培養容器を揺動すると好ましい。
【0064】
前記培養液交換工程で用いられる培養液は、細胞の種類、ウェルの容量、培養の目的等に応じて、従来から公知の培養液を用いればよい。
【0065】
本開示の培養方法において、細胞塊が浮き上がりすぎてウェル21の外に出てしまわない限り、複数のウェル21内の培養液の質を、連通部3aを利用した拡散により均一化するという理由から、培養液は、ウェル21内の培養空間のみならず、ウェル21の開口よりも上方であって側壁4により囲われる空間内にも供給されていると好ましい。換言すると、培養液は、その一部が複数のウェル21からあふれ、筒状体3の内腔のうちの基端側にも充填されるように供給されると好ましい。培養液の液面は、例えば、スリット3aの両端のうちのウェル21により近い一方の端よりも上方にあってもよい。
【0066】
本開示の培養容器を用いた細胞塊の培養方法を経た細胞塊は、別の培養容器に移設され当該培養容器でさらに培養されてもよい。
【0067】
(実施形態2)
図5は実施形態2の培養容器6の平面図である。
図6は
図5のVI−VI’線に沿った矢視拡大断面図である。
図7は、
図5のVII−VII’線に沿って切断した拡大端面図である。
図8は、実施形態2の培養容器6を構成するマルチウェルプレート本体61の平面図であり、
図9は
図8のIX−IX’線に沿った矢視断面図である。
図10は、実施形態2の培養容器6を構成する液流制御体800の平面図であり、
図11は
図10に示した液流制御体800の底面図であり、
図12は、
図10のXII−XII’線に沿った矢視拡大断面図であり、
図13は
図10の拡大側面図であり、
図14は
図11に示した液流制御体800の拡大斜視図である。
【0068】
図5〜
図14を用いて説明される実施形態2の培養容器6は、実施形態1の培養容器1と同様に、板状体7に形成された複数のウェル71と、各ウェル71の上方に配置された筒状体81と、複数のウェル71の開口よりも上方に突出して複数のウェル71を囲う側壁9と、複数のウェル71の開口よりも下方に突出した台座10とを含む。しかし、実施形態2の培養容器6では、筒状体81は複数の筒状体81の連結体80(
図10及び
図11参照)を含む液流制御体800を構成している点、及び、連通部81bが筒状体81の周方向に沿ったスリットである点で、実施形態1の培養容器1と相違する。
【0069】
実施形態2の培養容器6は、マルチウェルプレート本体61(
図8及び
図9参照)と、液流制御体800(
図10、
図11、及び
図14参照)とを含む。マルチウェルプレート本体61は、板状体7に形成された複数のウェル71と、複数のウェル71の開口よりも上方に突出して複数のウェル71を囲う側壁9と、複数のウェル71の開口よりも下方に突出した台座10とを含む。以下の説明の便宜のために、板状体7の平面と直行する方向を「上下方向」(Z軸方向)、筒状体81側を「上方」、ウェル71側を「下方」という。尚、筒状体81の中心軸81a(
図7参照)は、前記上下方向及び前記Z軸方向と平行であり、ウェル71の中心軸と一致する。
【0070】
実施形態2の培養容器6において、液流制御体800は、マルチウェルプレート本体61に接合されておらずマルチウェルプレート本体61と別体であってもよし、マルチウェルプレート本体61と、接合により一体化されていてもよい。
【0071】
図14からよく分かるように、液流制御体800を構成する各筒状体81のウェル71側の端面(底面)84には、少なくとも1つの溝84bが形成されており、好ましくは周方向に沿って複数の溝84bが形成されており、より好ましくは周方向に沿って複数の溝84bが等間隔で形成されている。
図7からよく分かるように、液流制御体800が板状体7の一方の面7a上に配置された状態では、この溝84bは、筒状体81の外側に細胞塊を通過させることなく培養液を排出させうる連通部81bを構成し、各筒状体81のウェル71側の端面(底面)84のうちの溝84bが形成されていない部分84aは、各々、板状体7の一方の面7aと接する。即ち、溝84bは、液流制御体800が板状体7の一方の面7a上に配置された状態では、筒状体81に形成され、筒状体81の周方向に沿ったスリット81bを構成する。
【0072】
図5〜
図14を用いて説明される実施形態2の培養容器6の一例では、ウェル71内の培養液を筒状体81の外側に排出させうる連通部(筒状体81の周方向に沿ったスリット)が、筒状体81のウェル71側の端面(底面)84のうちの溝84bを構成する面と板状体7の一方の面7aのうちの当該溝84bと対向する部分とによって形成されるスリットであるが、筒状体81の周方向に沿ったスリットは、これに限定されない。筒状体81の周方向に沿ったスリットは、培養液の一部の排出を行うために培養容器1を傾けた際に、細胞塊がウェル71の外に出てしまうことなく、ウェル71中の培養液の一部の排出が良好に行えるかぎり、例えば、筒状体81の筒壁をその厚み方向に貫通し、その長手方向が筒状体81の周方向に沿った貫通穴であってもよい。あるいは、スリットの長手方向が筒状体81の中心軸81a(
図7参照)と平行であってもよい。
【0073】
溝84bの深さ又はスリットの幅W2(
図7参照)は、実施形態2の培養容器6に移設される直前の細胞塊の顕微鏡観察により測定される直径よりも小さければよいが、当該細胞塊の直径が600〜700μmである場合、培養液の排出効率の向上の観点から、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.25mm以上が更に好ましく、細胞塊の流出の可能性を低減する観点から、0.5mm以下が好ましく、0.4mm以下がより好ましく、0.3mm以下が更に好ましい。
【0074】
溝84b又はスリットの周方向の長さW3(
図11参照)は、培養液の排出効率の向上の観点から、2mm以上が好ましい。
【0075】
図5〜
図14を用いて説明される実施形態2の培養容器6では、連通部81bの数は4個であるが、連通部81bの数について特に制限はない。しかし、ウェル71内から培養液を効率的に排出させ易く、前述の新鮮培養液が、各ウェル71内に均一に行き渡り易いという理由から、2個以上が好ましく、4個以上がより好ましい。また、実施形態2の培養容器6が2個以上の連通部81bを含む場合、培養液を効率的に排出させる観点から、2個以上の連通部81bから選択される1対の連通部81bは、周方向に90度以上離れていると好ましい。
【0076】
図5〜
図14を用いて説明される実施形態2の培養容器6では、ウェル71の内面の形状は、半球状であるが、実施形態2の培養容器6において、ウェル71の形態はこれに限定されず、実施形態1の培養容器1のそれと同形態であってもよい。ウェル71の開口における直径、ウェル71の深さ、ウェル71と筒状体81とからなる構造体の内側空間の1個当たりの容量、及びウェル71の1個当たりの容量等も、実施形態1の培養容器1のそれと同じであってもよい。
【0077】
図10及び
図11からよく分かるように、液流制御体800は、複数の筒状体81が架橋部82によって連結された連結体80と、位置規制部83とを含む。液流制御体800において、複数の筒状体81は、隣り合う筒状体81の間に配置された架橋部82によって連結されている。
図7等に示されるように、架橋部82は、各々、その板状体7に対向する面82aが、板状体7の一方の面7aと接しないように、筒状体81の外周面の上下方向の中央部で筒状体81と連結しているので、架橋部82と板状体7の一方の面7aとの間には隙間C1が存在する。また、
図10及び
図11からよく分かるように、複数の筒状体81のうちの連結体80の外縁に配置された筒状体81’には、各々、位置規制部83が連結されている。
【0078】
図6に示されるように、位置規制部83の一端83aは、筒状体81の外周面の上下方向の中央部で筒状体81と連結しており、位置規制部83の他端の端面83bは、側壁9の内面9aと当接している。そのため、例えば、液流制御体800がマルチウェルプレート本体61と別体である場合は、板状体7の一方の面7a上に配置された液流制御体800の、X軸と平行な方向及びY軸と平行な方向への移動が防止され(
図5参照)、各筒状体81が常に対応するウェル71の上方の所定の位置に配置されることが保証されており、液流制御体800が、マルチウェルプレート本体61に接合されている場合は、その接合の際の液流制御体800の位置決めが容易となっている。
【0079】
図6に示されるように、位置規制部83の板状体7に対向する面のうちの少なくとも筒状体81に近い部分83cは、板状体7の一方の面7aと接しないように、筒状体81の外周面の上下方向の中央部で筒状体81と連結しているので、位置規制部83と板状体7の一方の面7aとの間には隙間C2が存在する。そのため、培養容器6を傾けることにより連通部(スリット)81bを通ってウェル71内から排出された培養液は、隙間C1及び隙間C2を通って、例えば、培養容器の角に集めることができる。
【0080】
一方、位置規制部83の筒状体81から離れた端部(他方の端部)では、側壁9の内面9aのみならず、板状体7の一方の面7aと接していると、マルチウェルプレート本体61内における液流制御体800の位置決めが容易であるという理由から、好ましい。
【0081】
図5〜
図14を用いて説明される実施形態2の培養容器6では、複数の筒状体81のうちの連結体80の外縁に配置された筒状体81'の全てに位置規制部83が連結されている。しかしながら、実施形態2の培養容器6は、これに限定されない。液流制御体800は、一方の端部が連結体80に連結され他方の端部が側壁9の内面と当接する少なくとも1対の位置規制部83とを含み、互いに向かい合う側壁9の内面9aの一方に、一方の位置規制部83が当接し、互いに向かい合う側壁9の内面9aの他方に、他方の位置規制部83が当接していてもよい。これにより、液流制御体800が、マルチウェルプレート本体61に接合されている場合には、その接合の際の液流制御体800の板状体7の一方の面7a上における位置決めを容易に行うことができる。また、液流制御体800が、マルチウェルプレート本体61と別体である場合には、液流制御体800の板状体7の一方の面7a上における移動を抑制することができる。
【0082】
同様の観点から、液流制御体800は、前記1対の位置規制部83を2つ含み、
図5に示されるように、Y軸方向に互いに向かい合う側壁9の内面の一方に、1対の位置規制部83'のうちの一方の位置規制部が当接し、Y軸方向に互いに向かい合う側壁9の内面の他方に、他方の位置規制部83'が当接し、X軸方向に互いに向かい合う側壁9の内面の一方に、もう一方の1対の位置規制部83’’のうちの一方の位置規制部83’’が当接し、X軸方向に互いに向かい合う側壁9の内面の他方に、他方の位置規制部83’’が当接していると好ましい。
【0083】
実施形態2の培養容器6の材料は実施形態1の培養容器1のそれと同様でよい。実施形態2の培養容器6は、マルチウェルプレート本体61と液流制御体800とを各々、別々に成型した後、例えば、これらを接合、又はマルチウェルプレート本体6内に液流制御体800を配置させることにより製造できる。
【0084】
実施形態2の培養容器6を、上記[細胞塊の培養方法]に用いれば、細胞塊への影響が少なく、培養液を効率的に交換できるので、細胞塊の培養が効率的に行える。
【0085】
(実施形態3)
図15Aは、実施形態3の細胞塊用培養容器100の平面図であり、
図15Bは、
図15Aの部分拡大図である。
図16は、
図15AのXVI−XVI’線に沿った矢視拡大断面図である。
図17Aは、
図15AのXVII−XVII’線に沿った矢視拡大断面図であり、
図17Bは、
図17Aの部分拡大図である。
図18は、
図16の部分拡大図であり、
図19は、細胞塊用培養容器100の筒状体3とウェル21とからなる構造体12の内部構造を説明する斜視断面図である。
図20は、
図15Aの部分拡大図であり、
図21は、本開示の細胞塊用培養容器100を用いて細胞塊14を所定時間培養液13中で培養した後、ウェル21内の培養液13の一部を連通部3aを通過させて構造体12外へ排出した後の状態を説明する概念図である。
【0086】
図15A〜
図21を用いて説明される実施形態3の培養容器100は、細胞塊を培養するための容器であり、後述する液誘導部を備えること以外は、上述した実施形態1及び実施形態2の細胞塊用培養容器と同様の構成を有している。具体的には、培養容器100は、板状体2に形成された複数のウェル21と、各ウェル21の上方に配置された筒状体3とを含む。以下の説明の便宜のために、板状体2の平面と直交する方向を「上下方向」、筒状体3側を「上方」、ウェル21側を「下方」という。
【0087】
実施形態3の培養容器100は、複数のウェル21の開口よりも上方に突出して複数のウェル21を囲う側壁4と、複数のウェル21の開口よりも下方に突出した台座5を含む。培養容器100を平面視した時に見える側壁4の外面及び内面の形状は各々略矩形である。台座5は、ウェル21よりも、より板状体2から遠くまで突出しているので、培養容器1を水平面上に置いた時、台座5の端面が水平面に接する。
【0088】
各ウェル21は、細胞塊と培養液を収容可能とする培養空間を有する。筒状体3の形状は、略円筒状であり、培養空間と連通した内腔を有する。筒状体3の筒壁3bには、複数の連通部3aが、筒状体3の周方向に沿って例えば、等間隔で形成されている。連通部3aは、筒状体3の中心軸3c(
図18参照)と平行で筒状体3の基端3dから先端3eに達するまで形成されたスリットである。尚、筒状体3の中心軸3cは、前記上下方向と平行であり、ウェル21、及び、筒状体3とウェル21とからなる構造体12(
図17A、
図17B、
図18、
図19、
図21等参照)の中心軸と一致する。
【0089】
図15A〜
図21を用いて説明される実施形態3の培養容器100の一例では、スリット3aの長手方向両端のうちのウェル21により近い一方の端(下側端311、
図18〜
図19参照)が筒状体3の基端3dと一致し、ウェル21から遠い他方の端が筒状体3の先端3eと一致している。しかし、培養液の一部の排出を行うために培養容器100を傾けた際に、細胞塊がウェル21の外に出てしまうことなく且つウェル21内の培養液の一部の排出が良好に行え、培養容器100を水平面上に置いて新鮮培養液を供給する際に、構造体12の外に供給された新鮮培養液のウェル21内への流入が良好に行えるかぎり、スリットは、上記の一例に限定されない。例えば、スリットは、筒状体3の基端3dよりも上方から筒状体3の先端3eに向かって形成されていてもよい。
【0090】
図15A〜
図21を用いて説明される実施形態3の培養容器100の一例では、連通部3a(スリット)の数は8個であるが、連通部3aの数について特に制限はない。しかし、各ウェル21内からの培養液の排出性が向上し、後述する新鮮培養液が、各ウェル内に均一に行き渡り易いという理由から、2個以上が好ましく、4個以上がより好ましく、6個以上が更に好ましい。また、各ウェル21が2個以上の連通部3aを含む場合、培養液を効率的に排出させるという理由から、2個以上の連通部3aから選択される一対の連通部3aは、周方向に90度以上離れていると好ましく、180度以上離れているとより好ましい。
【0091】
一又は複数の実施形態において、
図15Bに示されるように、スリットの幅W1(周方向の幅)は、培養容器に移設される直前の細胞塊の顕微鏡観察により測定される直径よりも小さければよいが、当該細胞塊の直径が600〜700μmである場合、培養液の排出性及び新鮮培養液の流入性の向上の観点から、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.25mm以上が更に好ましく、細胞塊の流出の可能性を低減する観点から、0.5mm以下が好ましく、0.4mm以下がより好ましく、0.3mm以下が更に好ましい。
【0092】
後述する本開示の細胞塊の培養方法では、複数のウェル21内の培養液の質を連通部3aを利用した拡散により均一化する観点から、培養液の液面は、筒状体3の基端3d(連通部3aの下側端311)よりも上方とされることが好ましい。当該培養方法において、細胞塊が培養液中を浮遊し筒状体3の先端を越えて当該筒状体3の隣りの筒状体3との間や、隣りの筒状体3内及びウェル21内に移動することが起こらないよう、筒状体3の高さH1(
図18参照)は、1〜7mmであると好ましく、3〜5mmであるとより好ましい。
【0093】
一又は複数の実施形態において、複数のウェル21の開口は、複数のウェル21を連結する板状体2の一方の面2a(
図16〜
図18参照)と同一平面内にあり、筒状体3は、当該面2a上に配置されているが、連通部3aであるスリットは、培養液の排出性の向上の観点から、筒状体3の基端3d(
図18及び
図19参照)から形成されていると好ましい。
【0094】
培養液の排出最中に、細胞塊に物理的な刺激が加わることを抑制する観点から、一又は複数の実施形態において、筒状体3とウェル21とからなる構造体12(
図17A、
図17B及び
図18参照)の内面(ただし、後述する液誘導部60が形成された部分は除く)には段差がないと好ましく、具体的には、筒状体3の中心軸3cとウェル21の中心軸とが一致しており、筒状体3の内周面である円筒面の半径と、ウェル21の開口における半径とが等しいと好ましい。また、例えば、ウェル21が筒状の胴部21a(
図18参照)を含み、胴部21aの内面が円筒面である場合、筒状体3の中心軸3cとウェル21の中心軸とが一致しており、筒状体3の内周面である円筒面の半径と、胴部21aの内周面である円筒面の半径とが等しいと好ましい。
【0095】
図18に示されるように、各ウェル21は、筒状の胴部21aと、胴部21aの一端に設けられた漏斗形状の底部21bとを含む。底部21bでは、ウェル21の培養空間はウェル21の先端(開口とは反対側)に向かって縮径している。ウェル21の培養空間に面する内面のうち、底部21bの中心部21cでは凹曲面である。即ち、底部21bの内面は、頂点部分が曲面の逆円錐面ということができる。胴部21aは、例えば、略円筒状であってもよい。各ウェル21の一又は複数の実施形態において、ウェル21をその中心軸を含む平面で切断した場合の断面図(
図18参照)では、底部21bの内面が、略V字形状であり、その中心部21cでは弧状である。各ウェル21の一又は複数の実施形態において、内面のうち、胴部21aと底部21bとの接続部分は、曲面であると好ましい。
【0096】
また、ウェル21は、一又は複数の実施形態において、ウェル21をその中心軸を含む平面で切断して平面的にみた場合、ウェル21の内面は、胴部21aではウェル21の中心軸と略平行であり、漏斗形状の底部21bでは、胴部21aの内面の下側端からウェル21の内面の頂点21d(最深部)を通る中心軸に向かって傾斜する一対の傾斜面21eを含み、底部21bの中心部21cでは弧状面21fを含む。
【0097】
一又は複数の実施形態において、
図18に示されるように、底部21bの開き角度θは、細胞塊の培養が効率的に行えるという理由から、60度以上100度以下が好ましく、70〜100度がより好ましく、更に好ましくは80〜90度である。本開示における「開き角度」とは、前記一対の傾斜面21eがなす角をいい、例えば、
図18においてθで示す角度である。
【0098】
一又は複数の実施形態において、底部21bの中心部内面における曲率半径R
1は、培養液の交換の際、細胞塊が培養液面より露出せず、且つ、細胞塊に刺激が加わることを抑制できるという理由から、0.5〜2.0mmが好ましく、細胞塊の光学顕微鏡による観察が行い易いという理由から、1.0〜2.0mmがより好ましい。尚、本開示における「中心部内面の曲率半径」とは、ウェル21の底部21bの先端部の曲率が1/R
1の曲面を含む円周に対応する半径である。中心部内面の曲率半径R
1は、レーザー距離計、または成型品の切断断面の実測により測定できる。
【0099】
一又は複数の実施形態において、ウェル21と筒状体3とからなる構造体12(
図18参照)をその中心軸を含む平面で切断して平面的にみた場合、スリット3aの長手方向両端のうちのウェル21により近い一方の端(下側端311)からウェル21の最深部21dまでの長さH2(
図18参照)は、培養液の交換のために培養液の一部が除去された後、新鮮培養液が添加される前の細胞塊が培養液面より露出せず、培養液の除去に伴って細胞塊が受けるダメージや刺激を低減するという理由から、3.0〜6.0mmが好ましく、更に細胞塊に対して十分な量の栄養及び酸素を供給するという理由から、3.0〜5.0mmがより好ましい。
【0100】
スリット3aが筒状体3の基端3dから筒状体3の先端3eに向かって形成されている場合、ウェル21の深さは、培養液の交換のために培養液の一部が除去された後、新鮮培養液が添加される前の細胞塊が培養液面より露出せず、培養液の除去に伴って細胞塊が受けるダメージや刺激を低減するという理由から、3.0〜6.0mmが好ましく、更に細胞塊に対して十分な量の栄養及び酸素を供給するという理由から、3.0〜5.0mmがより好ましい。
【0101】
一又は複数の実施形態において、ウェル21の開口における直径は、マルチディスペンサーを使用する場合の操作性に優れるという理由から、例えば、4.0mm以上が好ましく、培養容器一つ当たりのウェル21の数を増やす点から、11.0mm以下が好ましい。
【0102】
一又は複数の実施形態において、ウェル21と筒状体3とからなる構造体12(
図18参照)の内側空間の1個当たりの容量、換言すると、ウェル21の培養空間(ウェル21の内側空間)の容量と筒状体3の内周面(例えば円筒面)より内側空間の容量の合計は、特に制限されるものではないが、細胞塊の培養のために十分な量の培養液や試薬を添加できる点から、例えば、50〜500μLが好ましく、培養液や試薬の使用量を節約する点から、50〜200μLがより好ましい。
【0103】
尚、培養容器のウェルの形態は上記した胴部21aと漏斗形状の底部21bとを含むものに限定されない。ウェルの形態は、ウェル内から細胞塊が出てしまうことなくウェル中の培養液の一部の排出が行える限り、例えば、内面が半球状である形態であってもよいし、胴部と底部とを含み底部が半球状である形態であってもよい。
【0104】
培養容器100は、筒状体3とウェル21とからなる構造体12の内面に形成された液誘導部60を含む。
図19から良く分かるように、液誘導部60は、一対の突出部610が構造体12の内面に形成されることにより形成された液誘導補助溝620を含む。液誘導補助溝620は、各突出部61の上側端面611がスリット3aの下側端311よりも上方に配置されるように構造体12の内面に一対の突出部610を形成し、且つ、筒状体3とウェル21とからなる構造体12の内面のうちの少なくとも1つのスリット3aの幅方向両側に各々スリット3aの長手方向と同方向に沿って突出部610を形成することで、設けられている。スリット3aが筒状体3の基端3dから形成された培養容器100では、各突出部610の上側端部610aとスリット3aの下側端部31bとが上下方向の同位置に配置されている。培養容器100では、液誘導補助溝620を備えることで、毛細管現象により、スリット3aからの新鮮培養液のウェル21内への流入性及びウェル21内の培養液の構造体12外への排出性が向上されているものと推察される。尚、上下方向において、ウェル21の内面の頂点21d(
図18参照)に近い側を突出部610の「下側」、スリット3aの「下側」と呼び、遠い側を突出部610の「上側」、スリット3aの「上側」と呼ぶ。
【0105】
図18等から良く分かるように、各突出部610の下側端部610bは、ウェル21の内面のうちの底面(ウェル21の底部21bの内面)に達している。一対の突出部610の間に形成された液誘導補助溝620の一方の終端620aは、閉塞端であり、ウェル21の底部21bの内面によって規定されている。終端620aを規定するウェル21の底部21bの内面が、スリット3aからウェル21の培養空間内に流入し得る培養液の流れの上流側から下流側に向かって下方に傾斜する傾斜面21e(
図18参照)の一部である。液誘導補助溝620は、スリット3aを介した培養液の構造体12外への排出及び構造体12内への流入を促す。
【0106】
一又は複数の実施形態において、各突出部610の上側端面611からスリット3aの下側端311までの上下方向の長さW4(
図16参照)は、スリット3aからの新鮮培養液のウェル21内への流入性が向上しやすいという理由から、0.1mm以上であると好ましく、0.3mm以上であるとより好ましい。一又は複数の実施形態において、長さW4の上限については特に制限はなく、突出部610は、筒状体3の上端に達するまで形成されていてもよい。尚、
図15A〜
図21に示した培養容器100では、スリット3aが、筒状体3の基端3d(
図18〜19参照)から先端3eまで形成されているので、W4は、突出部610のうちの筒状体3の内面に形成された部分の上下方向の長さに等しい。しかし、本開示において、スリット3aが筒状体3の基端3dから形成されていることは必須ではなく、スリット3aが筒状体3の基端3dよりも上方から形成されている場合、W4は、突出部610のうちの筒状体3の内面に形成された部分の上下方向の長さよりも短い。
【0107】
尚、
図15A〜
図21を用いて説明する培養容器100では、突出部610の上側端面611は、筒状体3の中心軸3c(
図18参照)と直交する平面と平行な平面であり、スリット3aの下側端も、筒状体3の中心軸3c(
図18参照)と直交する平面と平行な平面によって規定されているので、長さW4は、筒状体の周方向に沿って一定である。しかし、例えば、突出部610の上側端面611が曲面であることにより、長さW4が筒状体の周方向に沿って一定でない場合、長さW4は各突出部610の上側端面611からスリット3aの下側端までの長さの最大長とする。
【0108】
一又は複数の実施形態において、スリット3aの下側端311を通る円周上における突出部610間の距離W5(
図17B参照)は、スリット3aからの新鮮培養液のウェル21内へ流入性及びウェル21内の培養液の構造体12外への排出性が向上しやすく、且つ、細胞塊が一対の突出部610に挟まれることが防止できるという理由から、0.3mm以上であると好ましく、0.4mm以上であるとより好ましく、1.0mm以下であると好ましく、0.7mm以下であると更に好ましい。尚、スリット3aの下側端311を通る円周は、筒状体3の中心軸3c(
図18参照)上の点であってスリット3aの下側端311を含み中心軸3cと直交する平面上の点を中心とする円周である。また、W5は、筒状体3の内面上におけるスリット3aの下側端311と同一位置の突出部610間の距離ということができる。
【0109】
図19から良く分かるように、各突出部610の培養空間と向かい合う面610cは、筒状体3の中心軸3cの延長軸(ウェル21の中心軸)に向かって突出した凸曲面である。当該凸曲面は、ウェル21の内面21e(胴部21aの内面)から遠い部分が近い部分よりも高くなった曲面である。突出部610を、筒状体3の中心軸3c(
図18参照)と直交する方向に切断した場合の突出部610の断面は、例えば、円弧と直線によって囲われる弓形(円を一つの弦で2つに分けたときにできる形)である。あるいは、2つの円の重なり部分により規定される形である。各突出部610の培養空間と向かい合う面610cが前記凸曲面であると、細胞塊が各突出部610から受ける物理的な刺激を低減できる。
【0110】
一又は複数の実施形態において、スリット3aからの新鮮培養液のウェル21内へ流入性及びウェル21内の培養液の構造体12外への排出性が向上しやすく、且つ、細胞塊が一対の突出部610に挟まれることが抑制されるという理由から、前記突出部の断面が弓形又は2つの円の重なり部分により規定される形であり、弓形又は2つの円の重なり部分により規定される形を形成する、前記筒状体の中心軸に向かって突出した円弧を含む円周の曲率半径R
2(
図20参照)は、0.5mm以上1.0mm以下であることが好ましい。
【0111】
一又は複数の実施形態において、スリット3aからの新鮮培養液のウェル21内へ流入性及びウェル21内の培養液の構造体12外への排出性が向上しやすく、且つ、細胞塊が一対の突出部610に挟まれることが抑制されるという理由から、
図20に示されるように、培養容器100を平面視して、前記曲率半径R
2を半径とする円の中心が、スリット3aの幅方向中心を通り、筒状体3の内面を含む円周の接線上にあると好ましい。
【0112】
また、実施形態3の培養容器100においても実施形態1の培養容器1と同様に、ウェル21の少なくとも底部21b(
図18参照)の内面は、細胞低接着処理が施されていると好ましい。
【0113】
図15A〜
図21を用いて説明した培養容器100では、一対の突出部610及び液誘導補助溝620の数は、1つの構造体12について、各々2個であるが、本開示の培養容器100において、一対の突出部610及び液誘導補助溝620の数はこれに限定されない。一対の突出部610及び液誘導補助溝620の数は、ウェル21の容量に応じたウェル21内の培養液の排出量及びウェル21内への培養液の流入量を考慮の上、1つ以上設ければよい。
【0114】
培養容器100では、ウェル21内の培養液を筒状体3の外側に排出させうる連通部3aが、筒状体3の筒壁3bに形成され筒状体3の中心軸3c(
図18参照)と平行なスリットであるが、連通部3aはこれに限定されず、例えば、筒状体3の筒壁3bをその厚み方向に貫通し、その長手方向が筒状体3の周方向に沿ったスリットであってもよい。あるいは、連通部3aはスリットに限定されず、例えば、筒状体3の筒壁3bをその厚み方向に貫通する貫通穴であってもよい。
【0115】
培養容器100では、ウェル21の内面の形状は、胴部21aと底部21bとを含む形状であるが、実施形態2の培養容器10において、ウェル21の形態はこれに限定されず、半球状であってもよい。
【0116】
図15A〜
図21を用いて説明される実施形態3の培養容器100は、実施形態1の培養容器1と同様の方法により製造することができる。なお、板状体2と、板状体2に形成された複数のウェル21と、突出部610と、側壁4と、台座5とを含むマルチウェルプレート本体110(
図17A参照)は、射出成形法により同一金型内で成型することができる。
【0117】
本実施形態の細胞塊用培養容器は、実施形態2の細胞塊用培養容器と同様に、マルチウェルプレート本体と液流制御体とから構成されていてもよい。この場合、細胞塊用培養容器は、実施形態2の細胞塊用培養容器と同様に、マルチウェルプレート本体と液流制御体とを各々、別々に成型した後、例えば、これらを接合することにより、又は、マルチウェルプレート本体に液流制御体を配置させることにより製造することができる。
【0118】
実施形態3の培養容器100を、上述した[細胞塊の培養方法]に用いれば、細胞塊への影響が少なく、培養液を効率的に交換できるので、細胞塊の培養を効率的に行うことができる。
【0119】
(実施形態4)
図22Aは実施形態4の培養容器200の平面図であり、
図22Bは、
図22Aの部分拡大図である。
図23は
図22AのXXIII−XXIII’線に沿った矢視拡大断面図である。
図24Aは、
図22AのXXIV−XXIV’線に沿った矢視拡大断面図であり、
図24Bは、
図24Aの部分拡大図である。
図25は、
図23の部分拡大図であり、
図26は、細胞塊用培養容器200の筒状体3とウェル21とからなる構造体12の内部構造を説明する斜視断面図である。
図27は、本開示の細胞塊用培養容器200を用いて細胞塊14を所定時間培養液13中で培養した後、ウェル21内の培養液の一部を排出した後の状態を説明する概念図である。
【0120】
図22A〜
図27を用いて説明される実施形態4の培養容器200は、液誘導部の形態が異なること以外は、実施形態3の培養容器100と同構成を有している。
【0121】
実施形態4の培養容器200は、実施形態3の培養容器100と同様に、板状体2に形成された複数のウェル21と、各ウェル21の上方に配置された筒状体3と、複数のウェル21の開口よりも上方に突出して複数のウェル21を囲う側壁4と、複数のウェル21の開口よりも下方に突出した台座5と、筒状体3とウェル21とからなる構造体12の内面に形成された液誘導部70を含む。
図26から良く分かるように、液誘導部70は、一対の突出部710が構造体12の内面に形成されることにより形成された液誘導補助溝720を含む。液誘導補助溝720は、各突出部710の上側端面711がスリット3aの下側端311よりも上方に配置されるように構造体12の内面に一対の突出部710を形成し、且つ、筒状体3とウェル21とからなる構造体12の内面のうちの少なくとも1つのスリット3aの幅方向両側に各々スリット3aの長手方向と同方向に沿って突出部710を形成することで、設けられている。スリット3aが筒状体3の基端3dから形成された培養容器200では、各突出部710の上側端部710aとスリット3aの下側端部31bとが上下方向の同位置に配置されている。
【0122】
しかし、実施形態4の培養容器200では、一対の突出部710の下側端部710b(
図26参照)がウェル21の内面のうちの底面に達しておらず、液誘導部70は、各突出部710の下側端部710bを互いに連結する基部730を含む。基部730は、各突出部710の下側端部710bを互いに連結するようにウェル21の底面と一対の突出部710の間に配置されているので、基部730は、液導入補助溝720の一方の終端(閉塞端)を規定する面730aを有する。培養容器200では、一対の突出部710の下側端部710bがウェル21の内面のうちの底面に達していないので、一対の突出部710の下側端部710bがウェル21の内面のうちの底面に達した実施形態3の培養容器100よりも、ウェル21内の培養液の構造体12外への過剰な排出が抑制される。故に、培養容器200では、培養液の排出量のコントロールが行い易く、培養液の過剰排出により細胞塊が培養液から露出されて細胞塊がダメージを受けることを抑制できる。
【0123】
液導入補助溝720の一方の終端(閉塞端)を規定する面730aは、培養液の流入が促されるという理由から、スリット3aから培養空間内に流入し得る培養液の流れの上流側から下流側に向かって下方に傾斜する(下流側から上流側に向かって上方に傾斜する)傾斜面730cであると好ましい。
図25から良く分かるように、傾斜面730cは、ウェル21の胴部21aの内面(円筒面)からウェル21の中心軸に向かって下方に傾斜している。尚、本開示において、液導入補助溝720の一方の終端(閉塞端)を規定する面730aが、例えば、ウェル21の中心軸と直交する平面と並行な面であってもよい。
【0124】
筒状体3の中心軸3c(
図25参照)と直交する平面に対する、導入補助溝720の一方の終端(閉塞端)を規定する面730aの傾斜角度α(
図25参照)は、培養液の流入を良好にするという理由から、0度以上が好ましく、30度以上がより好ましく、培養液の過剰な排出を抑制するという理由から、75度以下が好ましく、60度以下がより好ましい。
【0125】
図22A〜
図27を用いて説明される実施形態4の培養容器200では、ウェル21内の培養液を筒状体3の外側に排出させうる連通部3aが、筒状体3の筒壁3bに形成され筒状体3の中心軸と平行なスリットであるが、本開示において連通部3aはスリットに限定されず、例えば、筒状体の筒壁をその厚み方向に貫通する貫通穴であってもよい。
【0126】
図22A〜
図27を用いて説明される実施形態4の培養容器200において、連通部3aの数、連通部3aの幅W1、連通部3aの形態、筒状体3の高さH1、ウェル21の形態、ウェル21の深さH2、構造体12の容量、1対の突出部710の数、突出部710の上側端面711から連通部3aの下側端311までの上下方向の距離W4、突出部710間の距離W5、突出部710を筒状体3の中心軸3cと直交する方向面で切断した断面形状等について、実施形態3の培養容器100と同じでよい。また、実施形態4の培養容器200においても実施形態3の培養容器100と同様に、ウェル21の少なくとも底部21bの内面は、細胞低接着処理が施されていると好ましい。
【0127】
本実施形態の細胞塊用培養容器は、実施形態2の細胞塊用培養容器と同様に、マルチウェルプレート本体と液流制御体とから構成されていてもよい。この場合、細胞塊用培養容器は、実施形態2の細胞塊用培養容器と同様に、マルチウェルプレート本体と液流制御体とを各々、別々に成型した後、例えば、これらを接合することにより、又は、マルチウェルプレート本体に液流制御体を配置させることにより製造することができる。
【0128】
実施形態4の培養容器200を、上述した[細胞塊の培養方法]に用いれば、細胞塊への影響が少なく、培養液を効率的に交換できるので、細胞塊の培養を効率的に行うことができる。
【0129】
以下、本開示を以下の実施例及び比較例に基づいて説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0130】
(実施例1)
[細胞塊の培養容器の製造]
ポリスチレン樹脂(PSジャパン社製、商品名:HF77)を用いて、射出成形により24ウェルマルチウェルプレート(横:65.0mm、縦:50.0mm、高さ:20.5mm)を成形した。本実施例における培養容器の形状は
図1A〜
図3に示す形状とし、ウェルの形状は
図4に示す形状とし、底部の開き角度(
図4におけるθ)は85度、底部中心部における内面の曲率半径R
1は2.0mmとした。各ウェルの開口における直径は6.2mm、深さは5.0mm、胴部の深さは2.6mmとした。また、各筒状体の、内径は6.2mm、高さは5.0mm、側壁の厚みは0.8mmとし、ウェルと筒状体とからなる構造体の内側空間の1個当たりの容量は、約250μLとした。筒状体には約45度おきにスリットの幅W1が0.3mmの連通部を計8ヶ所設けた。
【0131】
得られた筒状体付き24ウェルマルチウェルプレートにプラズマ処理装置(BRANSON/IPC社製 SERIES7000)を用いてプラズマ処理(酸素プラズマ10分)を行った。これにより、前処理としてプレート表面に濡れ性を付与した。
【0132】
(水溶性樹脂を用いた表面処理)
次に、ウェルの表面処理を行うために、水溶性樹脂として側鎖にアジド基を有するポリビニルアルコール(東洋合成工業社製 AWP(Azide-unit pendant Water soluble Photopolymer、r1=1〜1000、r2=4〜4995、r3=0〜4000、n=1,2、または3、Rは下記式(II)で表される基):下記式(Ia)で表される化合物(水溶性樹脂の平均重合度1600、感光基の導入率0.65mol%))を茶色顔料で着色した遮光ポリプロプレン容器中で、25体積%エタノール水溶液に溶解し、0.5重量%の水溶性樹脂溶液を調製した。
【化8】
【化9】
【0133】
上記0.5重量%の水溶性樹脂溶液を、プラズマ処理したプレートに、1ウェルにつき50μL加えて1分間静置した後、プレートを裏返して余分な溶液を廃棄した。ついで、40℃で60分一次乾燥した後、UVランプで250nmのUV光を1.0mW/cm
2×30秒間照射して水溶性樹脂を硬化させた。次いで、プレートを超純水で3回繰り返し洗浄し、乾燥させた後、γ線を吸収線量10kGyで照射(ラジエ工業株式会社製装置)して実施例1の培養容器を得た。
【0134】
[HepG2(ヒト肝癌由来細胞)を用いた細胞塊(スフェロイド)の形成]
HepG2を培養液(ダルベッコ改変MEM+10体積%ウシ胎児血清)に3×10
4cells/mLの濃度で分散させた細胞懸濁液を調製し、PrimeSurface(登録商標)96Vプレート(住友ベークライト、MS−9096V)に、100μL/ウェルずつ分注し、5%炭酸ガス、湿度99%、温度37℃の炭酸ガス培養容器の中で培養を行った。6日後に各ウェルに直径が約700μmのサイズの1個の細胞塊(スフェロイド)が形成されていることを、顕微鏡下で確認した。
【0135】
PrimeSurface(登録商標)96Vプレート(住友ベークライト、MS−9096V)の各ウェルで形成した直径が約700μmの細胞塊のうち24個を、ART200Gピペットチップ(MBP、2069G)を使用して、90μL/ウェルずつ培養液ごと吸引し、実施例1の培養容器に培養液ごと各ウェル内に入れた後、培養液(ダルベッコ改変MEM+10体積%ウシ胎児血清)を1.84mL加え、培養容器全体の培養液量を4mLとし、5%炭酸ガス、湿度99%、温度37℃の炭酸ガス培養容器の中で、3日間培養した。次いで、実施例1の培養容器を様々な方向に傾けて、各ウェル内の培養液の一部を培養容器の隅に集め、当該培養液を、アスピレーションピペットを用いて約3mL吸引した後、新しい培養液(新鮮培養液)約3mLを実施例1の培養容器に入れた。以降3日毎に同様な操作により培養液の交換を行った。ただし、培養液の交換の際、細胞塊が乾燥しないように注意した。培養液の交換操作を5回行った後、各ウェル内の細胞塊を顕微鏡で観察したところ、いずれのウェル内の細胞塊も順調に成長しており、細胞塊の直径は平均1100μmであった。
【0136】
(比較例1)
実施例1の[HepG2(ヒト肝癌由来細胞)を用いた細胞塊(スフェロイド)の形成]に従って、直径が約700μmのサイズの1個の細胞塊(スフェロイド)を96個形成した。次いで、各ウェル中の細胞塊を培養液ごと実施例1と同様に回収し、1枚につき24個の細胞塊を、4枚のPrimaSuface60mmシャーレ(MS−9060X、住友ベークライト社製)に移し替えた。96ウェル全ての細胞塊(スフェロイド)をシャーレに移し替えた後、新しい培養液をシャーレ1枚につき1.84mLに加えて、シャーレ内の培養液量を4mLとした。
【0137】
細胞塊(スフェロイド)をシャーレに移し替えた後、3日後に培養液の交換を行った。培養液の交換は、シャーレを傾け、細胞塊をシャーレの角に集めたのち、培養液の上清を3mL吸引した後、新しい培養液3mLをシャーレに加えた。培養液の交換後、シャーレを揺動し、細胞塊を培養液中に分散させた。以降3日毎に同様な操作により培養液の交換を行った。4枚のシャーレについて、培養液の交換操作を5回行った結果、培養液の交換操作を5回行ううちに、ピペットによる吸引により9つの細胞塊が失われ、残った細胞塊のうち、28個の細胞塊について融合が発生し、独立した1個の細胞塊として培養できた細胞塊は59個であった。
【0138】
以上の結果から、実施例1の培養容器は、細胞塊への影響が少なく、培養液を効率的に交換することができ、96個の細胞塊すべてを順調に成長させることが可能であることが明らかとなった。一方、比較例1の培養容器では、細胞塊の誤吸引や細胞塊の融合のため、96個の細胞塊すべてを順調に成長させることができなかった。
【0139】
(実施例2)
[細胞塊の培養容器の製造]
ポリスチレン樹脂(PSジャパン社製、商品名:HF77)を用いて、射出成形により24ウェルマルチウェルプレート(横:65.0mm、縦:50.0mm、高さ:20.5mm)を成形した。本実施例における培養容器の形状は
図22A〜
図27に示す形状とし、ウェルの形状は
図25に示す形状とし、底部の開き角度(
図25におけるθ)は85度、底部中心部における内面の曲率半径R
1は2.0mmとした。各ウェルの開口における直径は6.2mm、深さは5.0mm、胴部の深さは2.6mmとした。また、各筒状体の内径は6.2mm、高さは5.0mm、側壁の厚みは0.8mm、ウェルと筒状体とからなる構造体の内側空間の1個当たりの容量は約250μL、構造体におけるスリットの下側端よりも下方部分の容量、即ち、ウェル1個当たりの容量は、約105μLとした。筒状体には約45度おきに幅W1(
図22B参照)が0.3mmのスリットを連通部として計8ヶ所設けた。また、ウェルと筒状体とからなる構造体に液誘導部を2つ設けた。W4(
図23参照)は0.3mm、W5(
図24B参照)は0.5mmとした。液導入補助溝の一方の終端(閉塞端)を規定する面の傾斜角度α(
図25参照)は45度、ウェル内における液導入補助溝の上下方向の長さH3(
図25参照)は1.5mmとした。突出部を筒状体の中心軸と直交する方向面で切断した切断面の形状は略弓形(2つの円の重なり部分により規定される形)であり、当該弓形を構成し、筒状体の中心軸方向に突出した曲線は、中心がスリットの幅方向中心を通り筒状体の内面を含む円周の接線上にあり、曲率半径R
2(
図20参照)が0.7mmの円周の一部であった。
【0140】
得られた筒状体付き24ウェルマルチウェルプレートにプラズマ処理装置(BRANSON/IPC社製 SERIES7000)を用いてプラズマ処理(酸素プラズマ10分)を行った。これにより、前処理としてプレート表面に濡れ性を付与した。
【0141】
(水溶性樹脂を用いた表面処理)
次に、実施例1の培養容器と同様にしてウェルの表面処理を行い、実施例2の培養容器を得た。
【0142】
(実施例3)
傾斜角度αを0度としたこと以外は、実施例2と同様にして実施例3の培養容器を作製した。
【0143】
(実施例4)
H3を1.0mmとしたこと以外は、実施例2と同様にして実施例4の培養容器を作製した。
【0144】
(実施例5)
傾斜角度αを0度とし、H3を0.5mmとしたこと以外は、実施例2と同様にして実施例5の培養容器を作製した。
【0145】
(実施例6)
ポリスチレン樹脂(PSジャパン社製、商品名:HF77)を用いて、射出成形により24ウェルマルチウェルプレート(横:65.0mm、縦:50.0mm、高さ:20.5mm)を成形した。本実施例における培養容器の形状は
図15A〜
図21に示す形状とし、ウェルの形状は
図18に示す形状とし、底部の開き角度(
図18におけるθ)は85度、底部中心部における内面の曲率半径R
1は2.0mmとした。各ウェルの開口における直径は6.2mm、深さは5.0mm、胴部の深さは2.6mmとした。また、各筒状体の、内径は6.2mm、高さは5.0mm、側壁の厚みは0.8mmとし、ウェルと筒状体とからなる構造体の内側空間の1個当たりの容量は、約250μL、構造体におけるスリットの下側端よりも下方部分の容量、即ち、ウェル1個当たりの容量は約105μLとした。筒状体には約45度おきに幅W1(
図22B参照)が0.3mmのスリットを連通部として計8ヶ所設けた。また、ウェルと筒状体とからなる構造体に液誘導部として、一対の突出部を2つ設けた。W4(
図16参照)は0.3mm、W5(
図17B参照)は0.5mmとした。また、ウェル内における液導入補助溝の上下方向の長さH3は3.52mmとした。突出部を筒状体の中心軸と直交する方向面で切断した切断面の形状は略弓形(2つの円の重なり部分により規定される形)であり、当該弓形を構成し、筒状体の中心軸方向に突出した曲線は、中心がスリットの幅方向中心を通り筒状体の内面を含む円周の接線上にあり、曲率半径R
2(
図20参照)が0.7mmの円周の一部であった。実施例2と同様に、水溶性樹脂を用いた表面処理を行って実施例6の培養容器を作成した。
【0146】
(実施例7)
液誘導部の数を1つとしたこと以外は、実施例4と同様にして実施例7の培養容器を作成した。
【0147】
[培養液の排出性及び流入性の評価]
実施例1〜7の培養容器について、以下の方法に従って、培養液の排出性及び流入性の評価を行った。まず、水平面上に置いた培養容器内に、培養液を6mL加え、培養容器内の全培養液量を6mLとした。その後、培養容器を、液誘導部の突出部が両側に設けられたスリットから培養液が排出されるように、20度に5秒間傾けて各ウェル内の培養液の一部を培養容器の隅に集め、直ちに当該培養液を、アスピレーションピペットを用いて約5mL以上(5.2〜5.9mL)吸引し、吸引後、培養容器の傾きを0度に戻した。その後、各ウェル内に残存する培養液量を、マイクロピペットを使用して回収・計量し、下記[評価基準1]に基づいて、培養液の排出性を評価し、その結果を表1にした。その後、新鮮培養液約5mLを培養容器の隅に入れ、10秒の静置後に、各ウェル内に入っている培養液の量を観察した。また、下記[評価基準2]に基づいて、培養液のウェル内への流入性を評価し、その結果を表1に示した。
【0148】
[評価基準1]
A:ウェル内に残存する培養液量がウェル容量(105μL)の15分の1以上4分の1以下
B:ウェル内に残存する培養液量がウェル容量(105μL)15分の1未満
C:ウェル内に残存する培養液量がウェル容量(105μL)の4分の1を超える
【0149】
[評価基準2]
A:ウェル内に培養液が入り、培養容器内の培養液面はスリットの下側端よりも上方にあり、ウェルと筒状体からなる構造体内における培養液面と構造体外における培養液面とが同一平面内にある。
B:ウェル内に培養液が入らず、ウェル内の培養液面はスリットの下側端よりも下方にあり、ウェルと筒状体からなる構造体内における培養液面の方が構造体外における培養液面よりも低い。
【0150】
【表1】
【0151】
表1に示されるように、液誘導部を備えた実施例2〜7の培養容器は、液誘導部を備えていない実施例1の培養容器と比較して、培養液の排出性及び培養液の流入性が更に良好であることが明らかとなった。故に、実施例2〜7の培養容器では、実施例1の培養容器と比較して、培養液を更に効率的に交換することができる。