(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
難燃剤組成物中の安定剤として、エポキシ化合物、フェノール系安定剤、ホスファイト系安定剤、多価アルコール部分エステル、及びヒンダートアミン系安定剤からなる群より少なくとも2種以上選ばれる安定剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
前記スチレン系樹脂の総量100重量部に対して、臭素化スチレンブタジエンポリマーが0.5〜6重量部となるように難燃剤組成物を含有せしめることを特徴とする請求項1または2記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
前記スチレン系樹脂の総量100重量部に対して、ラジカル発生剤を0.05〜0.5重量部含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
ラジカル発生剤が、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項4に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
リン酸エステルが、トリフェニルホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、ホスフィンオキシドがトリフェニルホスフィンオキシドであることを特徴とする、請求項6に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
発泡剤として、さらに、水、二酸化炭素、窒素、炭素数が1〜4のアルコール類、ジメチルエーテル、塩化メチル、塩化エチルよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項8に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
臭素化スチレンブタジエンポリマーを30〜80wt%並びに安定剤及びスチレン系樹脂を含み、TGAでの5wt%減少温度が255〜270℃である難燃剤組成物を調製し、該難燃剤組成物、スチレン系樹脂及び発泡剤を用いて押出発泡を行うことを特徴とするスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂を押出機等にて加熱溶融し、次いで発泡剤を添加し、冷却させ、これを低圧域に押し出すことにより、スチレン系樹脂発泡体を連続的に製造する方法は、既に知られている。
【0003】
スチレン系樹脂発泡体には、JIS A9511記載の押出スチレンフォーム保温板の燃焼性規格を満たすために、難燃剤が添加される。
【0004】
スチレン系樹脂押出発泡体に適した難燃剤の主な必要特性としては、一般的なスチレン系樹脂の押出加工条件である230℃付近の温度では、難燃剤は分解しないことが求められる。押出加工条件下で難燃剤が分解すると、樹脂の劣化が引き起こされる為、得られる発泡体に対して、成形性の悪化、発泡体セル径が制御し難い、等の悪影響を及ぼす。
【0005】
スチレン系樹脂押出発泡体に適した難燃剤のもう一つの必要特性としては、スチレン系樹脂の分解前に、効率良く難燃剤が分解することである。ポリスチレンは300℃付近から分解することが知られている。そのため、300℃付近よりも低い温度において難燃剤が効率よく分解しないと、JIS A9511記載の燃焼性規格を満たさない恐れがある。若しくは、必要な難燃性能を得るために、結果として難燃剤の添加部数を多くしなければならず、製品コストアップや、得られる発泡体の成形性悪化等の悪影響を及ぼす傾向にある。
【0006】
以上のような背景から、スチレン系樹脂押出発泡体の難燃剤としては、ヘキサブロモシクロドデカン(以下、「HBCD」と略する。)が広く用いられてきた。HBCDは、押出条件下では比較的安定であり、且つポリスチレンの分解時には効率良く分解することが知られており、少ない添加部数で高度な難燃性能を発現することができる。
【0007】
一方、HBCDは難分解性で生態に対して高蓄積性の化合物である懸念があることから、環境衛生上好ましいものではなく、HBCD使用量の削減、およびHBCDに代わる難燃剤の開発が望まれている。
【0008】
そこで、HBCD以外の臭素系難燃剤を用いたスチレン系樹脂押出発泡体の検討がなされている。
【0009】
近年、HBCDに代わる難燃剤として、従来の低分子型の難燃剤に取って代わり、特許文献1に記載されるような、ポリマー型の難燃剤の開発がなされている。
【0010】
その中で、臭素化スチレン・ブタジエンブロックポリマーがHBCDと同等レベルの難燃性能を有するものとして注目されている。但し、臭素化スチレン・ブタジエンブロックポリマーは、熱安定性に問題があり、特許文献2では、アルキルホスファイトとエポキシ化合物を安定剤として使用することにより、難燃剤の熱安定性が改善される技術が開示されている。一方で難燃剤の難燃性能は、熱安定性と相反することが知られており、特許文献2には、各安定剤を使用した際の難燃性能については、一切触れられていない。
【0011】
また、特許文献1、2に記載されるように、臭素化スチレン・ブタジエンブロックポリマーはスチレン系樹脂マトリックスに対して、完全相溶せず、一定のドメインを形成することから、スチレン系樹脂に対する分散性がHBCDのような低分子化合物と比較して低いと考えられる。このことから、難燃剤の分解・劣化に伴う変色した難燃剤ドメインが結果として、発泡体の外観不良に繋がる可能性があった。
【0012】
このように、臭素化スチレン・ブタジエンブロックポリマーを難燃剤として用いて、スチレン系押出発泡体の熱安定性能、難燃性能、外観良好性をバランスよく発現させる技術においては、未だ改善の余地を残すものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一部にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で本実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。
【0019】
本発明で用いられるスチレン系樹脂としては、特に限定はなく、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等のスチレン系単量体の単独重合体、または、2種以上の単量体の組み合わせからなる共重合体;前記スチレン系単量体とジビニルベンゼン、ブタジエン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの他の単量体の少なくとも1種を共重合させた共重合体などが挙げられる。
【0020】
なお、スチレン系単量体と共重合させるアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの他の単量体は、製造されるスチレン系樹脂押出発泡体の圧縮強度等の物性を低下させない程度の量を用いることができる。
【0021】
また、本発明で用いられるスチレン系樹脂は、前記スチレン系単量体の単独重合体または共重合体に限られず、前記スチレン系単量体の単独重合体または共重合体と、前記他の単量体の単独重合体または共重合体とのブレンド物であってもよく、ジエン系ゴム強化ポリスチレンやアクリル系ゴム強化ポリスチレンをブレンドすることもできる。
【0022】
さらに、本発明で用いられるスチレン系樹脂は、メルトフローレート(以下、「MFR」と略する。)、成形加工時の溶融粘度、溶融張力などを調整する目的で、分岐構造を有するスチレン系樹脂であってもよい。
【0023】
これらのスチレン系樹脂のうちでは、押出発泡成形性などの面から、スチレンホモポリマー、スチレンアクリロニトリル共重合体、(メタ)アクリル酸共重合ポリスチレン、無水マレイン酸変性ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレンなどが好ましい。特に好ましくは、コスト面から、スチレンホモポリマーである。
【0024】
また、本発明で用いられるスチレン系樹脂は、バージンスチレン系樹脂に限定されず、魚箱EPS(Expanded Polystylene)、家電緩衝材、食品発泡ポリスチレントレーなどのスチレン系樹脂発泡体、または、冷蔵庫内装材としてのポリスチレントレーをリサイクルしたスチレン系樹脂も使用できる。これをリサイクルスチレン系樹脂1と称する。
【0025】
本発明におけるバージンスチレン系樹脂およびリサイクルスチレン系樹脂1としては、MFRが1〜15g/10分のものを用いることが、押出発泡成形する際の成形加工性に優れ、成形加工時の吐出量、得られたスチレン系樹脂押出発泡体の厚みや幅、密度または独立気泡率を所望の値に調整しやすく、発泡性(発泡体の厚みや幅、密度、独立気泡率、表面性などを所望の状況に調整しやすいほど、発泡性が良い)、外観などに優れたスチレン系樹脂押出発泡体が得られると共に、圧縮強度、曲げ強度または曲げたわみ量といった機械的強度や、靱性などの特性のバランスがとれた、スチレン系樹脂押出発泡体が得られる点から、好ましい。さらに、スチレン系樹脂のMFRは、押出機内での溶融混練時に発生するせん断発熱を出来るだけ抑えるために4〜12g/10分がさらに好ましい。なお、本発明におけるMFRは、JIS K7210により測定される値である。
【0026】
また、リサイクルスチレン系樹脂1とは別に、製品の仕上げカット工程等で発生したカット屑や押出運転のスタートアップ時に発生するスクラップをリサイクルしたスチレン系押出発泡体も原料として使用することができる。これをリサイクルスチレン系樹脂2と称する。
【0027】
リサイクルスチレン系樹脂2は、そのまま、押出機へ投入しても良いが、一般的には押出機に投入しやすいように、減容化を行なう方が好ましい。減容化の方法としては、減容化時の加工方法及び温度により、(i)熱風乾燥炉等での収縮・減容化と、(ii)単軸・2軸押出機等による溶融・混練によりペレット化する減容化、(iii)これら以外の減容化に分けることができる。減容化としては、(i)及び/又は(ii)の減容化を行うのがより好ましい。減容化時の加工温度は、難燃剤などへの影響も含め、樹脂の分子劣化ができる限り抑制される温度が好ましい。例えば、熱風乾燥炉での収縮・減容化の場合には、180℃以下、具体的には120〜180℃の範囲が好ましく、押出機等を用いた溶融・混練によりペレット化する場合には、240℃以下が好ましい。
なお、ペレット化の際には一般的に押出機によって溶融・混練が行われるが、難燃剤などへの影響も含め、樹脂の分子劣化ができる限り抑制される温度、例えば160〜240℃程度が好ましい。また、カット屑中の発泡剤を脱気する為に、ベント口を設けることが望ましい。
【0028】
本発明は、スチレン系樹脂、難燃剤組成物、及び発泡剤を用いて押出発泡して得られるスチレン系樹脂押出発泡体であって、難燃剤組成物が、臭素化スチレンブタジエンポリマー、安定剤、及びスチレン系樹脂を含み、難燃剤組成物総重量100wt%とした場合、臭素化スチレンブタジエンポリマーが30〜80wt%であり、且つ難燃剤組成物が、TGAでの5wt%減少温度が255〜270℃であることを特徴とするスチレン系樹脂押出発泡体である。
【0029】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体においては、難燃剤組成物に含まれる難燃剤として、臭素化スチレンブタジエンポリマー(以下、「臭素系難燃剤」と称する場合がある。)を使用することにより、難燃性能及び環境適合性に優れた発泡体を得ることができる。
【0030】
本発明で用いられる臭素化スチレンブタジエンポリマーとしては、例えば、臭素化スチレンブタジエンブロックコポリマー、臭素化スチレンブタジエンランダムコポリマー、臭素化スチレンブタジエングラフトポリマー、臭素化・エポキシ化スチレンブタジエンブロックコポリマーなどがあげられる。これらは、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。これらのうちでも、臭素化スチレンブタジエンブロックコポリマーが、性能、コスト、供給安定性の面から、好ましい。
【0031】
このような臭素化スチレンブタジエンポリマーとしては、例えば特許文献1に記載のポリマーを使用することができる。より具体的には、スチレンブタジエンコポリマーのうちブタジエンに由来する構成単位部分が臭素化されたコポリマーを使用することができる。このようなコポリマーのうち、難燃性能の観点から、スチレンに由来する構成単位は臭素化されていないものが好ましい。このような、ブタジエンに由来する構成単位部分が臭素化され、スチレンに由来する構成単位は臭素化されていない臭素化スチレンブタジエンポリマー(臭素化ブタジエン・スチレン共重合体)としては、例えば、CAS No. 1195978−93−8の臭素化ブタジエン・スチレン共重合体を例示できる。
【0032】
CAS No. 1195978−93−8で示される臭素化ブタジエン・スチレン共重合体は、例えば、ケムチュラ社から、商品名「EMERALD INNOVATION
3000」として、また、ICL−IP社から商品名「FR−122P」として販売されている。
【0033】
本発明における難燃剤組成物中の、臭素化スチレンブタジエンポリマーの含有量は、組成物総重量100wt%とした場合、臭素化スチレンブタジエンポリマーが30〜80wt%であることが好ましく、更にコスト面から40wt%以上、更には50wt%以上が好ましい。30wt%未満の低濃度難燃剤組成物であると、スチレン系押出発泡体へ含有する際に、大量に添加する必要があることから、コスト面で不利である。また、80wt%を超えると、難燃剤組成物中のスチレン系樹脂の比率が極めて少なくなることから、該組成物が脆化する傾向にあり、製造が困難となる傾向にある。また、難燃剤の分解が発生する傾向にあり、難燃剤組成物の外観不良、引いては発泡体の外観不良に繋がる恐れがある。
【0034】
本発明における難燃剤組成物のTGAでの5wt%減少温度の好ましい範囲は255〜270℃であり、更に好ましくは255〜265℃である。5wt%減少温度が255℃未満であると、難燃剤が、スチレン系樹脂押出発泡体を製造する際に、分解・劣化し、セル径制御が困難となるだけでなく、難燃剤劣化に伴う、難燃剤の色目変化によって、発泡体内に異物が生じる傾向にある。また、270℃を超えると、難燃性能を発現し難い傾向にあることから、性能確保のためには、多量の難燃剤を添加する必要が生じ、結果的にコストに影響を及ぼす。尚、TGAとは、熱重量分析を意味し、TGAでの5wt%減少温度は、例えば、後述の方法で測定することができる。
【0035】
本発明においては、TGAでの5wt%減少温度を255〜270℃の範囲に制御する為に、安定剤として、エポキシ化合物、フェノール系安定剤、ホスファイト系安定剤、多価アルコール部分エステル、及びヒンダートアミン系安定剤からなる群より少なくとも2種以上選ばれる安定剤を含有することが好ましい。本発明では、難燃剤組成物に安定剤を含有させるが、発泡体を製造する際に別途添加することができる。このようにすることで、難燃剤組成物を調製する際には、難燃剤の分解抑制に必要最小限の量の安定剤を使用するとともに、その際の加熱により安定剤が失活するのを回避することができる。また、発泡体を製造する際には、別途添加した安定剤に、難燃剤組成物中の安定剤とともにその機能を発揮させることができる。要するに、失活する安定剤の量を最小限に抑制しつつ、難燃剤組成物と発泡体の調製時にその機能をより効果的に発揮させることができる。更に、このようにすることで、リサイクル性に優れたスチレン系樹脂押出発泡体を得ることができる。
【0036】
本発明で用いられるエポキシ化合物の化学構造としては、コスト、性能、供給安定性の面から、下記の構造式(1)で示されるビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、
【0038】
下記の構造式(2)で示されるクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、
【0040】
下記の構造式(3)で示されるフェノールノボラック型エポキシ樹脂、
【0043】
また、下記の構造式(4)で示されるビスフェノールA骨格に臭素を付加したものを用いてもよい。
【0045】
これらは、単独で使用しても良いし、2種類以上を混合して使用しても良い。
【0046】
本発明で用いられるエポキシ化合物としては、エポキシ当量が1000g/eq未満であることが好ましい。エポキシ基が臭素系難燃剤の分解を抑制し、スチレン系樹脂の熱安定性能を向上させていると考えられることから、エポキシ当量が1000g/eq以上であると、難燃剤の分解抑制効果が非常に低いため、結果的に、多量添加する必要があることから、コスト的に現実的ではない。コスト・性能のバランスを鑑みると、より好ましくは、500g/eq未満、更に好ましくは、400g/eq未満である。
【0047】
本発明におけるエポキシ化合物の含有量としては、スチレン系樹脂押出発泡体に含有される臭素系難燃剤100重量部に対して、4〜20重量部が好ましい。エポキシ化合物の含有量が4重量部未満であると、難燃剤の安定化効果が十分に発揮されず、難燃剤及び樹脂の分解が発生し、樹脂の分子量が低下する傾向にあり、結果として発泡体を形成する気泡径の肥大化が生じ、断熱性能が悪化する傾向にある。また、分子量分布の低下に伴い、発泡体表面の平滑性が悪化し、成形性が悪化する傾向にある。更に、難燃剤の分解によって、他の添加剤もしくは樹脂が黒変し、外観不良に繋がる。一方、エポキシ化合物の含有量が20重量部を越えると、逆に安定剤の安定化効果が過剰となり、難燃剤が発泡体の燃焼時に効果的に分解できず、難燃性能が低下する傾向にある。
また、エポキシ化合物の含有量が多くなるにつれ、難燃剤組成物のTGAでの5wt%減少温度が高温側へシフトする傾向にある。尚、他の併用される安定剤との組み合わせにも依るが、上記の配合範囲(スチレン系樹脂押出発泡体に含有される臭素系難燃剤100重量部に対して4〜20重量部)を外れると、難燃剤組成物のTGAでの5wt%減少温度255〜270℃を外れる恐れがあり、結果的に発泡体の性能低下を招く恐れがある。
【0048】
本発明で用いられる多価アルコール部分エステルとしては、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等の多価アルコールと、酢酸、プロピオン酸等の一価のカルボン酸、または、アジピン酸、グルタミン酸等の二価のカルボン酸との反応物である部分エステルであって、その分子中に一個以上の水酸基を持つ化合物の混合物であり、原料の多価アルコールを少量含有していても良い。
【0049】
具体的な多価アルコール部分エステルとしては、ジペンタエリスリトールとアジピン酸との部分エステルおよび多価アルコールとの反応物である、例えば、味の素ファインテクノ(株)製プレンライザーST−210、プレンライザーST−220、等があげられる。
【0050】
本発明における多価アルコール部分エステルの含有量は、スチレン系樹脂押出発泡体に含有される臭素系難燃剤100重量部に対して、0〜20重量部であることが好ましい。多価アルコール部分エステルの含有量が20重量部超では、安定化効果が大きく発揮されてしまい、難燃剤自体の難燃性能を低下させる恐れがある。
また、多価アルコール部分エステルの含有量が多くなるにつれ、難燃剤組成物のTGAでの5wt%減少温度が高温側へシフトする傾向にある。尚、他の併用される安定剤との組み合わせにも依るが、上記の配合範囲(スチレン系樹脂押出発泡体に含有される臭素系難燃剤100重量部に対して0〜20重量部)を外れると、難燃剤組成物のTGAでの5wt%減少温度が270℃を超える恐れがあり、結果的に発泡体の難燃性能低下を招く恐れがある。
【0051】
本発明で用いられるフェノール系安定剤としては、特に限定されるものではなく、市販の物質を用いることができる。具体例としては、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナートがあげられ、これらは、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。これらのなかでは、ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が、価格および性能面で好ましく用いられる。
【0052】
本発明におけるフェノール系安定剤の含有量は、スチレン系樹脂押出発泡体に含有される臭素系難燃剤100重量部に対して4重量部〜20重量部であることが好ましい。フェノール系安定剤の含有量が20重量部を超えると、発泡体の気泡形成に影響を及ぼし、成形性及び断熱性の制御が困難となる傾向にある。一方、フェノール系安定剤の含有量が4重量部未満であると、難燃剤の安定化効果を十分に発揮できない恐れがある。
また、フェノール系安定剤の含有量が多くなるにつれ、難燃剤組成物のTGAでの5wt%減少温度が高温側へシフトする傾向にある。尚、他の併用される安定剤との組み合わせにも依るが、上記の配合範囲(スチレン系樹脂押出発泡体に含有される臭素系難燃剤100重量部に対して4〜20重量部)を外れると、難燃剤組成物のTGAでの5wt%減少温度が270℃を超える恐れがあり、結果的に発泡体の性能低下を招く恐れがある。
【0053】
本発明で用いられるホスファイト系安定剤としては、例えば、3,9−ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、及びテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンジホスホナイト)が、発泡体の難燃性能を低下させることなく、かつ、発泡体の熱安定性を向上させることから、好適である。
【0054】
本発明におけるホスファイト系安定剤の含有量は、スチレン系樹脂押出発泡体に含有される臭素系難燃剤100重量部に対して2.0重量部以下であることが好ましく、更に好ましくは0.9重量部以下である。ホスファイト系安定剤の含有量が2.0重量部を超えると、安定化効果が大きく発揮されてしまい、難燃剤自体の難燃性能を低下させる恐れがある。
また、ホスファイト系安定剤の含有量が多くなるにつれ、難燃剤組成物のTGAでの5wt%減少温度が高温側へシフトする傾向にある。尚、他の併用される安定剤との組み合わせにも依るが、上記の配合範囲(スチレン系樹脂押出発泡体に含有される臭素系難燃剤100重量部に対して2.0重量部以下)を外れると、難燃剤組成物の5wt%減少温度が270℃を超える恐れがあり、結果的に発泡体の難燃性能低下を招く恐れがある。
【0055】
本発明で用いられるヒンダートアミン系安定剤としては、例えば、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)、デカン二酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)、デカン二酸ビス[2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル]、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラートが、発泡体の難燃性能を低下させることなく、かつ、発泡体の熱安定性を向上させることから、好適である。
【0056】
本発明におけるヒンダートアミン系安定剤の含有量は、スチレン系樹脂押出発泡体に含有される臭素系難燃剤100重量部に対して20重量部以下であることが好ましい。ヒンダートアミン系安定剤の含有量が多くなるにつれて、難燃剤組成物のTGAでの5wt%減少温度が高温側へシフトする傾向にある。尚、他の併用される安定剤との組み合わせにも依るが、上記の配合範囲(スチレン系樹脂押出発泡体に含有される臭素系難燃剤100重量部に対して20重量部)を超えると、難燃剤組成物のTGAでの5wt%減少温度が270℃を超える恐れがあり、結果的に発泡体の性能低下を招く恐れがある。
【0057】
本発明における難燃剤組成物の製造方法については、公知の混練装置によって製造される。例えば同方向2軸押出機を用いて臭素化スチレンブタジエンポリマー、安定剤及びスチレン系樹脂を混合、溶融混練し、ダイにより成形する。加工温度は、200℃以下が好ましく、180℃以下、更に好ましくは、160℃以下のシリンダ設定温度で溶融混練され、ダイ出口の樹脂温度は215℃以下であることが好ましく、更に好ましくは200℃以下である。該製造工程においては、できうる限りせん断発熱を抑え、樹脂及び難燃剤である臭素化スチレンブタジエンポリマーの劣化を誘発しないよう、スクリュデザインについてもせん断発熱の少ないデザインが好ましい。
【0058】
本発明においては、スチレン系樹脂押出発泡体へ難燃剤を添加する手法として、上記に記載したように、予め難燃剤を安定剤及びスチレン系樹脂と溶融混練した難燃剤組成物を添加することが好ましい。その際、難燃剤である臭素化スチレンブタジエンポリマーのスチレン系樹脂押出発泡体への含有量は、スチレン系樹脂押出発泡体中の全ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、0.5〜10重量部が好ましく、コスト、及び他の要求諸物性への影響を鑑みると、更に好ましい範囲としては、0.5〜6重量部であり、該含有量となるように、難燃剤組成物の添加部数を適宜決定することができる。
【0059】
本発明においては、さらに、ラジカル発生剤を併用することにより、スチレン系樹脂押出発泡体の難燃性能を向上させることができる。
【0060】
本発明で用いられるラジカル発生剤としては、例えば、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン、2,3−ジエチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、3,4−ジエチル−3,4−ジフェニルヘキサン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−エチル−1−ペンテン等が挙げられ、ジクミルパーオキサイドのような過酸化物も含まれる。
【0061】
これらの中でも、樹脂加工温度条件にて、安定なものが好ましく、具体的には2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンが好ましい。
【0062】
本発明におけるラジカル発生剤の含有量としては、スチレン系樹脂押出発泡体中の全スチレン系樹脂100重量部に対して、0.05〜0.5重量部が好ましい。
【0063】
本発明においては、更に、難燃性能を向上させる目的で、熱安定性能を損なわない範囲で、リン酸エステル、ホスフィンオキシドのようなリン系難燃助剤を併用することができる。
【0064】
本発明で用いられるリン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシリレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、縮合リン酸エステル、及びトリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート等のハロゲン含有リン酸エステル等が挙げられ、特にトリフェニルホスフェート、及びトリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートが好ましい。
本発明で用いられるホスフィンオキシドとしては、トリフェニルホスフィンオキシドが好ましい。
これらリン酸エステル及びホスフィンオキシドは単独または2種以上併用しても良い。
【0065】
本発明におけるリン系難燃助剤の含有量としては、スチレン系樹脂押出発泡体中の全スチレン系樹脂100重量部に対して、2重量部以下が好ましい。
【0066】
本発明で用いられる発泡剤としては、特に限定するものではないが、炭素数3〜5の飽和炭化水素を使用することにより、優れた環境適合性を付与することができる。
【0067】
本発明で用いられる炭素数3〜5の飽和炭化水素としては、例えば、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、ネオペンタンなどが挙げられる。これらは単独でも良いし、2種以上組み合わせてもよい。これらの炭素数3〜5の飽和炭化水素のなかでは、発泡性の点から、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、あるいは、これらの2種以上の混合物が好ましい。また、発泡体の断熱性能の点から、n−ブタン、i−ブタン、あるいは、これらの混合物が好ましく、特に好ましくはi−ブタンである。
【0068】
尚、発泡体の熱伝導率向上の観点から、スチレン系樹脂押出発泡体の全スチレン系樹脂100重量部に対して、i−ブタンは2.5〜4.0重量部含有させることが好ましい。但し、i−ブタンは可燃性ガスであることから、多量添加によって、発泡体の難燃性能を悪化させる傾向にある。熱伝導率と難燃性能とのバランスを取るための好ましい含有量としては、スチレン系樹脂押出発泡体中の全スチレン系樹脂100重量部に対して、2.7〜3.7重量部である。
【0069】
本発明では、さらに、炭素数3〜5の飽和炭化水素以外の他の発泡剤を用いることにより、発泡体製造時の可塑化効果や助発泡効果が得られ、押出圧力を低減し、安定的に発泡体の製造が可能となる。
【0070】
本発明で用いられる他の発泡剤としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、フラン、フルフラール、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどのエーテル類;ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、メチル−n−アミルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、エチル−n−プロピルケトン、エチル−n−ブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコールなどの炭素数1〜4の飽和アルコール類;蟻酸メチルエステル、蟻酸エチルエステル、蟻酸プロピルエステル、蟻酸ブチルエステル、蟻酸アミルエステル、プロピオン酸メチルエステル、プロピオン酸エチルエステルなどのカルボン酸エステル類;塩化メチル、塩化エチルなどのハロゲン化アルキル、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エンなどの有機発泡剤、水、二酸化炭素、窒素などの無機発泡剤;アゾ化合物、テトラゾールなどの化学発泡剤などを用いることができる。これら他の発泡剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0071】
これら他の発泡剤の中では、発泡性、発泡体成形性などの点からは、炭素数1〜4の飽和アルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、塩化メチル、塩化エチルなどが好ましく、発泡剤の燃焼性、発泡体の難燃性、あるいは、後述する断熱性等の点からは、水、二酸化炭素、窒素が好ましい。さらに、可塑化効果の点から、ジメチルエーテルが特に好ましく、コスト、気泡径の制御による断熱性向上効果の点から、水が特に好ましい。
【0072】
以上の観点から、本発明では、炭素数3〜5の飽和炭化水素の他に、発泡剤として、さらに、水、二酸化炭素、窒素、炭素数が1〜4のアルコール類、ジメチルエーテル、塩化メチル、塩化エチルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の他の発泡剤を含むことが好ましい。
【0073】
本発明における発泡剤の使用量(前述の飽和炭化水素及び他の発泡剤の合計量)は、スチレン系樹脂押出発泡体中の全スチレン系樹脂100重量部(スチレン系樹脂押出発泡体に含まれる本発明におけるスチレン系樹脂の総量100重量部を意味する。以下同じ。)に対して、2〜20重量部が好ましく、4〜10重量部がより好ましい。発泡剤の使用量が4重量部未満では、発泡倍率が低く、樹脂発泡体としての軽量、断熱などの特性が発揮されにくい場合があり、20重量部超では、過剰な発泡剤量の為、発泡体中にボイドなどの不良を生じる場合がある。
【0074】
本発明においては、他の発泡剤として水を用いることにより、スチレン系樹脂押出発泡体中に、気泡径が概ね0.2mm以下の比較的気泡径の小さい気泡(以下、小気泡という)と、気泡径が概ね0.25mm〜1mm程度の比較的気泡径の大きな気泡(以下、大気泡という)が海島状に混在してなる特徴的な気泡構造を有する発泡体が得られ、得られる発泡体の断熱性能を向上させることができる。
【0075】
気泡径0.2mm以下の小気泡および気泡径0.25〜1mmの大気泡が混在してなる特定の気泡構造の発泡体においては、発泡体断面積あたりに占める小気泡の面積の割合(小気泡の単位断面積あたりの占有面積率)(以下、「小気泡占有面積率」という)は、5〜95%が好ましく、10〜90%がより好ましく、20〜80%がさらに好ましく、25〜70%が特に好ましい。
【0076】
本発明において、他の発泡剤として水を用いる場合には、安定して押出発泡成形を行うために、吸水性物質を添加することが好ましい。本発明に用いられる吸水性物質の具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸塩系重合体、澱粉−アクリル酸グラフト共重合体、ポリビニルアルコール系重合体、ビニルアルコール−アクリル酸塩系共重合体、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸メチル−ブタジエン系共重合体、ポリエチレンオキサイド系共重合体およびこれらの誘導体などの吸水性高分子の他、表面にシラノール基を有する無水シリカ(酸化ケイ素)[例えば、日本アエロジル(株)製AEROSILなどが市販されている]などのように表面に水酸基を有する粒子径1000nm以下の微粉末、スメクタイト、膨潤性フッ素雲母などの吸水性あるいは水膨潤性の層状珪酸塩並びにこれらの有機化処理品、ゼオライト、活性炭、アルミナ、シリカゲル、多孔質ガラス、活性白土、けい藻土などの多孔性物質等があげられる。
【0077】
本発明における吸水性物質の添加量は、水の添加量などによって、適宜調整されるものであるが、スチレン系樹脂押出発泡体中の全スチレン系樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜3重量部がより好ましい。
【0078】
本発明においては、発泡体の断熱性を向上させる目的で、熱線輻射抑制剤を添加することにより、高い断熱性を有する発泡体が得られる。ここで、熱線輻射抑制剤とは、近赤外または赤外領域(例えば、800〜3000nm程度の波長域)の光を反射・散乱・吸収する特性を有する物質をいう。
【0079】
本発明における熱線輻射抑制剤としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アルミニウムペースト、酸化チタン、硫酸バリウムが挙げられる。これら熱線輻射抑制剤は、単独で使用しても良く、2種類以上を併用しても良い。これら熱線輻射抑制剤の中では、熱線輻射抑制効果の面から、グラファイト、カーボンブラック、アルミニウムペーストが好ましく、グラファイトが特に好ましい。
【0080】
本発明においては、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、流動パラフィン、オレフィン系ワックスなどの加工助剤、前記以外の難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を含有させることができる。
【0081】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法としては、スチレン系樹脂、難燃剤組成物、添加剤等を押出機等の加熱溶融手段に供給し、任意の段階で高圧条件下にて発泡剤をスチレン系樹脂に添加し、流動ゲルとなし、押出発泡に適する温度に冷却した後、ダイを通して該流動ゲルを低圧領域に押出発泡して、発泡体を形成することにより製造される。発泡剤を添加する工程までを詳説すると、スチレン系樹脂、難燃剤組成物、必要に応じて用いる添加剤(安定剤、ラジカル発生剤、リン酸エステル、ホスフィンオキシド、吸水性物質、熱線輻射抑制剤、その他の各種添加剤)を例えばドライブレンドして得られる混合物を押出機に供給して加熱溶融混練し、押出機の所望の位置で、この混練物に発泡剤を添加してスチレン系樹脂に圧入する。
本発明では、このように、特定の難燃剤組成物を予め調製し、これとスチレン系樹脂及び発泡剤を用いて発泡体とすることで、熱安定性及び難燃性に優れ且つ優れた外観を有する発泡体の提供を可能にした。
尚、スチレン系樹脂、難燃剤組成物、必要に応じて用いる添加剤を加熱溶融手段に供給する際に、前述の安定剤を更に添加してもよい。これにより、更にリサイクル性に優れたスチレン系樹脂押出発泡体を提供できる。
【0082】
スチレン系樹脂、難燃剤組成物、発泡剤及び必要に応じて用いる添加剤を加熱溶融混練する際の加熱温度、溶融混練時間および溶融混練手段については、特に制限するものではない。加熱温度は、使用するスチレン系樹脂が溶融する温度以上であればよいが、難燃剤である臭素化スチレンブタジエンポリマーなどの影響も含め、樹脂の分子劣化ができる限り抑制される温度、例えば160〜240℃程度が好ましく、更に好ましくは225℃以下である。溶融混練時間は、単位時間当たりの押出量、溶融混練手段などによって異なるので一概には決定することができないが、スチレン系樹脂と発泡剤が均一に分散混合するのに要する時間が適宜選ばれる。溶融混練手段としては、例えばスクリュー型の押出機などが挙げられるが、通常の押出発泡に用いられているものであれば特に限定はない。
【0083】
発泡成形方法も、特に制限されないが、例えば、スリットダイより圧力開放して得られた発泡体をスリットダイと密着または接して設置した成形金型および成形ロールなどを用いて、断面積の大きい板状発泡体を成形する一般的な方法を用いることができる。
【0084】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体の厚さは特に制限されず、用途に応じて適宜選択される。例えば、建材などの用途に使用される断熱材の場合、好ましい断熱性、曲げ強度および圧縮強度を付与せしめるためには、通常の板状物のように厚さのあるものが好ましく、通常10〜150mm、好ましくは20〜100mmである。
【0085】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体の密度については、軽量でかつ優れた断熱性および曲げ強度、圧縮強度を付与せしめるためには、15〜50kg/m
3であることが好ましく、25〜40kg/m
3であるのがさらに好ましい。
【0086】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体は、優れた熱安定性、難燃性能および断熱性能の点から、建材用途の断熱材として好適に用いられる。
【0087】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体は、JIS A9511の燃焼試験方法に合格することが耐燃焼性の観点から好ましい。
【0088】
また、本発明のスチレン系樹脂押出発泡体の酸素指数は、26%以上であることが耐燃焼性の観点から好ましい。
【実施例】
【0089】
次に、本発明の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに制限されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は重量部を、「%」は重量%を表す。
【0090】
実施例および比較例において使用した原料は、次の通りである。
(A)スチレン系樹脂[PSジャパン(株)製、680]
(B)難燃剤
・臭素化スチレンブタジエンブロックポリマー[ケムチュラ製、EMERALD INNOVATION 3000、臭素含有率65wt%]
(C)エポキシ化合物
・ビスフェノール−A−グリシジルエーテル[ADEKA製、EP−13,エポキシ当量180〜200g/eq.]
・クレゾールノボラック型エポキシ樹脂[ハンツマンジャパン製、ECN−1280,エポキシ当量212〜233g/eq.]
(D)多価アルコール部分エステル
・ジペンタエリスリトール−アジピン酸反応混合物[味の素ファインテクノ製、プレンライザーST210]
(E)フェノール系安定剤
・ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート] [ケムチュラ製 ANOX20]
(F)ホスファイト系安定剤
・3,9−ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン [ケムチュラ製 Ultranox626]
(G)ラジカル発生剤
・ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン [UNITED INITIATORS製、CCPIB]
(H)リン系難燃剤
・トリフェニルホスフィンオキシド[住友商事ケミカル]
(I)発泡剤
・イソブタン[三井化学株式会社製]
・工業ブタン[岩谷産業株式会社製]
・水[水道水]
・ジメチルエーテル[三井化学株式会社製]
(J)その他添加剤
・タルク[林化成製、タルカンパウダーPK−Z]
・ベントナイト[ホージュン製、ベンゲルブライト11K]
・シリカ[エボニックデグサジャパン製、カープレックスBS304F]
【0091】
実施例および比較例にて実施した評価方法は、次の通りである。
【0092】
(1)難燃剤組成物中の臭素含有率
酸素フラスコ燃焼法にて、臭素系難燃剤の分解後、イオンクロマトグラフ法にてBr含有量を定量した。
【0093】
(2)TGAによる難燃剤組成物の5wt%減少温度
試料重量:7mg
測定装置:TG−DTG60A(島津製作所製)
測定セル:アルミニウム
測定雰囲気:窒素(20ml/min)
温度条件:室温(約25℃)から400℃まで10℃/minの昇温速度で加熱
5wt%減少温度:該試料の150℃における試料の質量を基準として、5%重量が減少する温度。
【0094】
(3)難燃剤組成物の外観検査
難燃剤組成物のペレット中に、黒スジ及び黒斑点等の変色が無いものを合格とした。
【0095】
(4)難燃剤組成物の形状
難燃剤組成物が、ストランドカット法にて円柱状にカットできたものについて合格とした。
【0096】
(5)発泡体密度
発泡体密度は、発泡体密度(g/cm
3)=発泡体重量(g)/発泡体体積(cm
3)に基づいて求め、単位を(kg/m
3)に換算して示した。
【0097】
(6)JIS燃焼性
得られたサンプルを室内に保管し、製造後7日経過した発泡体について、JIS A9511に準拠して測定した。
○:3秒以内に炎が消えて、残じんがなく、燃焼限界指示線を超えて燃焼しないとの基準を満たす。
×:上記基準を満たさない。
【0098】
(7)酸素指数
発泡体の酸素指数は、JIS K 7201:1999に準拠する方法で測定した。
【0099】
(8) 小気泡面積率
押出発泡体について、気泡径0.2mm以下の気泡の発泡体断面積あたりの占有面積比を、以下のようにして求めた。ここで、気泡径0.2mm以下の気泡とは、円相当直径が0.2mm以下の気泡とする。
a)走査型電子顕微鏡[(株)日立製作所製、品番:S−450]にて30倍に拡大して発泡体の縦断面を写真撮影する。
b)撮影した写真の上にOHPシートを置き、その上に厚さ方向の径が7.5mmよりも大きい気泡(実寸法が0.2mmより大きい気泡に相当する)に対応する部分を黒インキで塗りつぶして写しとる(一次処理)。
c)画像処理装置[(株)ピアス製、品番:PIAS−II]に一次処理画像を取り込み、濃色部分と淡色部分を、即ち黒インキで塗られた部分か否かを識別する。
d)濃色部分のうち、直径7.5mm以下の円の面積に相当する部分、即ち、厚さ方向の径は長いが、面積的には直径7.5mm以下の円の面積にしかならない部分を淡色化して、濃色部分の補正を行う。
e)画像解析計算機能中の「FRACTAREA(面積率)」を用い、画像全体に占める気泡径7.5mm以下(濃淡で分割した淡色部分)の面積比を次式により求める。
小気泡占有面積比(%)=(1−濃色部分の面積/画像全体の面積)×100
【0100】
(9)気泡径
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の気泡径は、ASTM D 3567に準拠する方法で測定した。
【0101】
(10)熱伝導率
発泡体作成後7日経過したスチレン系樹脂押出発泡体の熱伝導率を、JIS A9511に準じて測定した。
【0102】
(11)黒点発生率
幅910mm×長さ1820mmの押出発泡板の片一方のみの表面を目視(n=100サンプル)し、黒い点が目視で1つでも確認された場合を不合格品とし、その発生率を下記の評価基準によって評価した。
〇:不合格品が、2枚未満である。
△:不合格品が、2枚以上、5枚未満である。
×:不合格品が、5枚以上である。
【0103】
[難燃剤組成物の作製]
(実施例1)
難燃剤組成物総重量を100wt%とした場合、スチレン系樹脂(ポリスチレン680)42.25wt%、難燃剤として臭素化SBSブロックポリマー(EMERALD INNOVATION 3000)50wt%、安定剤として、エポキシ化合物であるクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(ARALDITE ECN−1280)2.5wt%、フェノール系安定剤であるペンタエリトリトールテトラキス[3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](ANOX20)5.0wt%、ホスファイト系安定剤である3,9−ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(Ultranox626)0.25wt%を、予めドライブレンドした。その後、口径46mm、L/D≒30の同方向2軸押出機に、シリンダ設定温度150℃の条件で、吐出量50kg/Hrで供給し、ストランドカット法にて難燃剤組成物を作製した。ダイ出口での樹脂温度は190℃であった。
【0104】
(実施例2〜4、比較例1〜4)
表1に示すように、難燃剤の比率、安定剤の種類・添加量を変更した以外は、実施例1と同様の操作により、難燃剤組成物を得た。得られた難燃剤組成物の特性を、表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
[押出発泡体の作製]
(実施例A)
スチレン系樹脂100部(難燃剤組成物中のスチレン系樹脂も含む)に対して、実施例1で得られた難燃剤組成物を6.0重量部(難燃剤として3.0重量部に相当するように調整)、ビスフェノールAグリシジルエーテル(EP−13)0.15部、多価アルコール部分エステル(プレンライザーST210)0.2部、ラジカル発生剤としてポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン/0.1部、ステアリン酸カルシウム/0.1部、タルク0.5部、ベントナイト0.5部およびシリカ0.2部をドライブレンドし、樹脂混合物を得た。
【0107】
その後、口径150mmの単軸押出機(第一押出機)と口径200mmの単軸押出機(第二押出機)、及び冷却機を直列に連結した押出機へ、約800kg/hrで供給した。
【0108】
第一押出機に供給した樹脂混合物を、樹脂温度225℃に加熱して溶融ないし可塑化、混練し、発泡剤(スチレン系樹脂100重量部に対して、水(水道水)0.7重量部、イソブタン3.5重量部およびジメチルエーテル2重量部)を第一押出機の先端付近で樹脂中に圧入した。その後、第一押出機に連結された第二押出機及び冷却機中にて、樹脂温度を120℃に冷却し、冷却機先端に設けた厚さ2mm×幅400mmの長方形断面の口金より大気中へ押出発泡させた後、口金に密着させて設置した成形金型とその下流側に設置した成形ロールにより、厚さ60mm×幅1000mmである断面形状の押出発泡板を得、カッターにて厚み50mm×幅910mm×長さ1820mmにカットした。
【0109】
(実施例B〜H、比較例A〜E、参考例A)
表2、3に示すように、発泡剤の種類・使用量、難燃剤組成物の種類、使用量、難燃助剤の種類・使用量、安定剤の種類・使用量、及び他の配合剤の種類・添加量を変更した以外は、実施例1と同様の操作により、発泡体を得た。尚、( )※
1と記載されたスチレン系樹脂の重量部は、難燃剤組成物内に含有されたスチレン系樹脂を含めての数値である。また、( )※
2と記載された難燃剤及び安定剤の重量部は、難燃剤組成物内に含有された難燃剤もしくは安定剤を、押出発泡体作成時のスチレン系樹脂を100重量とした時の換算値である。得られた発泡体の特性を、表2、3に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
実施例1〜4および比較例1〜4を比較して明らかなように、臭素化スチレンブタジエンポリマー、安定剤、及びスチレン系樹脂を含む難燃剤組成物であって、該組成物を100wt%とした場合、臭素化スチレンブタジエンポリマーが30〜80wt%であり、5wt%減少温度が255〜270℃であることによって、外観に優れた難燃剤組成物を安定して得られることが判る。
【0113】
更に、実施例A〜H及び比較例A〜Eを比較して明らかなように、実施例1〜4で作成した難燃剤組成物として、スチレン系樹脂押出発泡体に難燃剤を添加することによって、熱安定性能・難燃性能及び外観に優れるスチレン系樹脂押出発泡体を得られることが判る。