特許第5950060号(P5950060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5950060酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5950060
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20160630BHJP
【FI】
   C01G25/02
【請求項の数】12
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2015-553690(P2015-553690)
(86)(22)【出願日】2015年8月28日
(86)【国際出願番号】JP2015074349
【審査請求日】2015年11月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-181186(P2014-181186)
(32)【優先日】2014年9月5日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079120
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 考則
(72)【発明者】
【氏名】宮田 篤
(72)【発明者】
【氏名】大西 香澄
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/010533(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20重量%以上の含有率にて酸化ジルコニウム粒子をメタノール及びエタノールを除く有機溶媒に分散させてなる酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体であって、
上記酸化ジルコニウム粒子が一般式(I)
(RO)−Si−X4-n …(I)
(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、nは2又は3を示し、Xはアルキル基、フッ化アルキル基、ビニル基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を示す。)
で表されるシランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を含む表面処理剤にて表面処理されており、
上記有機溶媒分散体における酸化ジルコニウム粒子のD50が1〜20nmの範囲にあり、上記有機溶媒分散体の波長400nmにおける透過率が10%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上であり、25℃において、製造直後の粘度が10mPa・s以下であると共に、上記製造直後の粘度に対する7日後の粘度の増加量が10mPa・s以下である、酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体。
【請求項2】
酸化ジルコニウム粒子100重量部に対して上記シランカップリング剤1〜100重量部と12−ヒドロキシステアリン酸1〜20重量部を用いて酸化ジルコニウム粒子が表面処理されている請求項1に記載の酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体。
【請求項3】
前記有機溶媒がメチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ブタノール、プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−トリメチルプロピオンアミド、酢酸ブチル及びエチレングリコールから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2のいずれかに記載の酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体。
【請求項4】
20重量%以上の含有率にて酸化ジルコニウム粒子をメタノール及びエタノールを除く有機溶媒に分散させてなる酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法において、
上記有機溶媒分散体における酸化ジルコニウム粒子のD50が1〜20nmの範囲にあり、上記有機溶媒分散体の波長400nmにおける透過率が10%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上であり、25℃において、製造直後の粘度が10mPa・s以下であると共に、上記製造直後の粘度に対する7日後の粘度の増加量が10mPa・s以下であり、
上記製造方法が酸化ジルコニウム粒子をメタノールとエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコール溶媒に分散させてなる酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体をシランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を含む表面処理剤にて処理して、上記酸化ジルコニウム粒子を表面処理する表面処理工程と、
上記表面処理した酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体における分散媒である上記アルコール溶媒を上記メタノール及びエタノールを除く有機溶媒に置換する溶媒置換工程を含み、
上記シランカップリング剤が一般式(I)
(RO)−Si−X4-n …(I)
(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、nは2又は3を示し、Xはアルキル基、フッ化アルキル基、ビニル基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を示す。)
で表されるものである、酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法。
【請求項5】
酸化ジルコニウム粒子100重量部に対して前記シランカップリング剤1〜100重量部と12−ヒドロキシステアリン酸1〜20重量部を用いて酸化ジルコニウム粒子が表面処理されている請求項4に記載の酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒がメチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ブタノール、プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−トリメチルプロピオンアミド、酢酸ブチル及びエチレングリコールから選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法。
【請求項7】
前記酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体が20重量%以上の酸化ジルコニウム粒子を含有し、D50が1〜20nmの範囲にあり、波長400nmにおける透過率が15%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上である請求項4に記載の酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法。
【請求項8】
前記表面処理工程において、前記酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体を前記メタノール及びエタノールを除く有機溶媒の存在下に前記表面処理剤にて処理する請求項4に記載の酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法。
【請求項9】
前記表面処理工程において用いる前記酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体が次の工程(a)〜(e)、即ち、
(a)ジルコニウム塩を水中にてアルカリと反応させて、酸化ジルコニウム粒子の第1の水スラリーを得る工程、
(b)上記酸化ジルコニウム粒子の第1の水スラリーを濾過し、洗浄し、リパルプして、酸化ジルコニウム粒子の第2の水スラリーを得る工程、
(c)上記酸化ジルコニウム粒子の第2の水スラリーにこの第2の水スラリー中のジルコニウム1モル部に対して有機酸を1モル部以上加え、170℃以上の温度にて水熱処理して、酸化ジルコニウム粒子の水分散体を得る工程、
(d)このようにして得られた酸化ジルコニウム粒子の水分散体を洗浄する工程、及び
(e)上記工程(d)で得られた酸化ジルコニウム粒子の水分散体の分散媒である水を前記アルコール溶媒に置換する工程、
を含む方法によって得られたものである、請求項4に記載の酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法。
【請求項10】
前記ジルコニウム塩が硝酸塩、酢酸塩及び塩化物から選ばれる少なくとも1種の水溶性塩である請求項9に記載の酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法。
【請求項11】
前記ジルコニウム塩がオキシ塩化ジルコニウムである請求項9に記載の酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法。
【請求項12】
前記酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体が20重量%以上の酸化ジルコニウム粒子を含有し、D50が1〜20nmの範囲にあり、波長400nmにおける透過率が15%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上である請求項9に記載の酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体とその製造方法に関し、詳しくは、酸化ジルコニウム粒子を高含有率で含みながら、低粘度を有し、しかも、安定性と透明性にすぐれる酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体とその製造方法に関する。本発明による酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体は、酸化ジルコニウム粒子を高含有率で含みながら、低粘度を有し、しかも、安定性と透明性にすぐれるので、例えば、光学分野における種々の用途、特に、LED封止樹脂や反射防止膜等の光学用の複合樹脂の材料として有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化スズ、ジルコニア、チタニア等の無機酸化物粒子分散体は、種々の産業分野において用いられており、特に、光学分野においては屈折率を調節するために用いられている。なかでも、ジルコニアは屈折率が高いので、光学材料の屈折率を高めるために好ましく用いられている。
【0003】
従来、このような無機酸化物粒子分散体は、分散媒が水であるものが用いられてきたが、多くの光学材料用途、例えば、光学用フィルムの製造においては、通常、水分散体は樹脂成分と混合して用いられるが、水分散体は、特に非水溶性の樹脂成分との混練が容易ではないので、近年、分散媒が有機溶媒である分散体が強く求められるに至っている。酸化ジルコニウム粒子を含めて、無機酸化物粒子は、一般に、水性溶媒には概ね、良好な分散性を有するが、有機溶媒に対しては、分散性は一般に低い。
【0004】
そこで、例えば、酢酸のようなジルコニア安定化剤の存在下にジルコニア粒子の水分散体に有機溶媒を加え、上記水分散体の分散媒である水を上記有機溶媒に置換して、ジルコニア粒子がその有機溶媒に分散している有機溶媒分散体を得ることが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかし、酢酸のようなジルコニア安定化剤を用いるだけでは、有機溶媒中での酸化ジルコニウム粒子の安定性が十分ではないので、酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体を製造するに際しては、酸化ジルコニウム粒子を親油性に改質するために、シランカップリング剤のような表面処理剤にて表面処理して、これを有機溶媒に分散させる方法がよく知られている。
【0006】
例えば、酸化ジルコニウム粒子の水分散体にシランカップリング剤を加えて、酸化ジルコニウム粒子を表面処理した後、固液分離し、加熱乾燥させて、酸化ジルコニウム粉体を得、これを有機溶媒に分散させて、有機溶媒分散体を得る方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
同様に、酸化ジルコニウム粒子の水/メタノール分散体にシランカップリング剤を加え、溶媒置換することなく、上記溶媒を除去し、乾燥して、表面処理した酸化ジルコニウム粉体を得、これを例えば、ケトン溶媒に分散させて、有機溶媒分散体を得る方法も提案されている(特許文献3参照)
【0008】
また、表面をネオデカン酸のような高級脂肪酸で被覆した酸化ジルコニウム粒子を得、次いで、これを有機溶媒に分散させ、更に、シランカップリング剤で被覆し、固液分離して、かくして、表面を異なる2種類の被覆剤で被覆した酸化ジルコニウム粒子を得、これを有機溶媒に分散させて、有機溶媒分散体を得る方法が提案されている(特許文献4参照)。
【0009】
しかし、このように、表面処理したジルコニア粒子を粉体として得、これを有機溶媒に分散させても、通常、粉体としたジルコニア粒子は著しく凝集し、再分散させることが困難であるので、得られる分散体は安定性に欠けるうえに、透明性も必ずしも十分ではない。
【0010】
そこで、ケトン溶媒の含有率が小さいアルコール溶媒中で酸触媒の存在下に無機酸化物粒子をシランカップリング剤の加水分解物及び/又はその部分縮合物で表面処理した後、上記アルコール溶媒をケトン溶媒の含有率のより多い有機溶媒と置換し、かくして、表面処理した無機酸化物粒子を有機溶媒中に分散させたまま、溶媒置換を行って、上記表面処理した無機酸化物粒子の有機溶媒分散体、特に、シリカ粒子のケトン溶媒分散体を得る方法が提案されている(特許文献5参照)。
【0011】
また、酸化ジルコニウム粒子のアルコール系溶媒分散体を有機酸の存在下に予め、シランカップリング剤で表面処理した後、上記アルコール系溶媒をより親油性の有機溶媒、例えば、ケトン溶媒に置換することによって、酸化ジルコニウムの有機溶媒分散体を得る方法も提案されている(特許文献6参照)。
【0012】
しかし、従来から知られている上述した方法によれば、得られる有機溶媒分散体は、用途によっては、透明性において十分に満足すべきでない場合があり、また、経時的に粘度が増加する等、安定性に欠ける問題もあり、一方において、近年、光学材料においても、より高性能化への要望が強まっており、近年、低粘度を有し、しかも、安定性と透明性にすぐれる酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体が強く要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−238422号公報
【特許文献2】特開2008−179514号公報
【特許文献3】特開2013−82609号公報
【特許文献4】特開2008−44835号公報
【特許文献5】特開2005−307158号公報
【特許文献6】国際公開WO2011/052762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体における上述した問題を解決するためになされたものであって、酸化ジルコニウム粒子を高含有率で含みながら、低粘度を有し、しかも、安定性と透明性にすぐれる酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、20重量%以上の含有率にて酸化ジルコニウム粒子をメタノール及びエタノールを除く有機溶媒に分散させてなる酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体であって、
上記酸化ジルコニウム粒子が一般式(I)
(RO)−Si−X4-n …(I)
(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、nは2又は3を示し、Xはアルキル基、フッ化アルキル基、ビニル基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を示す。)
で表されるシランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を含む表面処理剤にて表面処理されており、
上記有機溶媒分散体における酸化ジルコニウム粒子のD50が1〜20nmの範囲にあり、上記有機溶媒分散体の波長400nmにおける透過率が10%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上であり、25℃において、製造直後の粘度が10mPa・s以下であると共に、上記製造直後の粘度に対する7日後の粘度の増加量が10mPa・s以下である、酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体が提供される。
【0016】
更に、本発明によれば、上述した酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法が提供される。
【0017】
即ち、本発明によれば、20重量%以上の含有率にて酸化ジルコニウム粒子をメタノール及びエタノールを除く有機溶媒に分散させてなる酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法において、
上記有機溶媒分散体中の酸化ジルコニウム粒子のD50が1〜20nmの範囲にあり、上記有機溶媒分散体の波長400nmにおける透過率が10%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上であり、25℃において、製造直後の粘度が10mPa・s以下であると共に、上記製造直後の粘度に対する7日後の粘度の増加量が10mPa・s以下であり、
上記製造方法が酸化ジルコニウム粒子をメタノールとエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコール溶媒に分散させてなる酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体をシランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を含む表面処理剤にて処理して、上記酸化ジルコニウム粒子を表面処理する表面処理工程と、
上記表面処理した酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体における分散媒である上記アルコール溶媒を上記有機溶媒に置換する溶媒置換工程を含み、
上記シランカップリング剤が一般式(I)
(RO)−Si−X4-n …(I)
(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、nは2又は3を示し、Xはアルキル基、フッ化アルキル基、ビニル基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を示す。)
で表されるものである、酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法が提供される。
【0018】
本発明においては、上述した酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法の工程のうち、前記表面処理工程において用いる酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体は、次の工程(a)〜(e)、即ち、
(a)ジルコニウム塩を水中にてアルカリと反応させて、酸化ジルコニウム粒子の第1の水スラリーを得る工程、
(b)上記酸化ジルコニウム粒子の第1の水スラリーを濾過し、洗浄し、リパルプして、酸化ジルコニウム粒子の第2の水スラリーを得る工程、
(c)上記酸化ジルコニウム粒子の第2の水スラリーにこの第2の水スラリー中のジルコニウム1モル部に対して有機酸を1モル部以上加え、170℃以上の温度にて水熱処理して、酸化ジルコニウム粒子の水分散体を得る工程、
(d)このようにして得られた酸化ジルコニウム粒子の水分散体を洗浄する工程、及び
(e)上記工程(d)で得られた酸化ジルコニウム粒子の水分散体の分散媒である水をメタノール及びエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコール溶媒に置換する工程を含む方法によって得られたものであることが好ましい。
【0019】
特に、本発明においては、出発物質として用いる酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体は、20重量%以上の酸化ジルコニウム粒子を含有し、D50が1〜20nmの範囲にあり、波長400nmにおける透過率が15%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法によれば、メタノールとエタノールから選ばれるアルコール溶媒に分散させた酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体を上記表面処理剤にて処理して、酸化ジルコニウム粒子を表面処理する工程と、上記アルコール分散体の分散媒である上記アルコール溶媒を上記アルコール以外の有機溶媒と置換する溶媒置換を経ることによって、酸化ジルコニウム粒子を高含有率で含みながら、低粘度を有するうえに、経時的な粘度の上昇、粒子の沈殿、透明性の低下等が起こらず、安定性にすぐれており、しかも、透明性にすぐれている酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体を容易に且つ安定して得ることができる。
【0021】
本発明による酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体は、このように、酸化ジルコニウム粒子を高含有率で含みながら、低粘度で、安定性と透明性にすぐれており、高屈折率のような酸化ジルコニウム粒子が本来、有する望ましい特性が損なわれることがなく、例えば、光学分野における種々の用途、特に、LED封止樹脂や反射防止膜等の光学用の複合樹脂の材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明による酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体は、20重量%以上の含有率にて酸化ジルコニウム粒子をメタノール及びエタノールを除く有機溶媒に分散させてなる酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体であって、
上記酸化ジルコニウム粒子が一般式(I)
(RO)−Si−X4-n …(I)
(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、nは2又は3を示し、Xはアルキル基、フッ化アルキル基、ビニル基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を示す。)
で表されるシランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を含む表面処理剤にて表面処理されており、
上記有機溶媒分散体における酸化ジルコニウム粒子のD50が1〜20nmの範囲にあり、上記有機溶媒分散体の波長400nmにおける透過率が10%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上であり、25℃において、製造直後の粘度が10mPa・s以下であると共に、上記製造直後の粘度に対する7日後の粘度の増加量が10mPa・s以下である。
【0023】
このような本発明による酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体において、酸化ジルコニウム粒子は、結晶安定性を有するように、アルミニウム、マグネシウム、チタン及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の安定化元素を含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子、即ち、所謂安定化酸化ジルコニウム粒子を含む。上記希土類元素の具体例として、例えば、イットリウムを挙げることができる。
【0024】
本発明において、安定化酸化ジルコニウム粒子は、ジルコニウムと安定化元素の合計に基づいて、安定化元素を20モル%以下の範囲で含み、好ましくは、0.1〜20モル%の範囲で含む。
【0025】
本発明において、酸化ジルコニウムは、以下において、特に断りのない限りは、安定化酸化ジルコニウムを含むものとする。
【0026】
先ず、上述した本発明による酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法について説明する。
【0027】
本発明による酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法は、20重量%以上の含有率にて酸化ジルコニウム粒子をメタノール及びエタノールを除く有機溶媒に分散させてなる酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法において、
上記有機溶媒分散体における酸化ジルコニウム粒子のD50が1〜20nmの範囲にあり、上記有機溶媒分散体の波長400nmにおける透過率が10%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上であり、25℃において、製造直後の粘度が10mPa・s以下であると共に、上記製造直後の粘度に対する7日後の粘度の増加量が10mPa・s以下であり、
上記製造方法が酸化ジルコニウム粒子をメタノールとエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコール溶媒に分散させてなる酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体をシランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を含む表面処理剤にて処理して、上記酸化ジルコニウム粒子を表面処理する表面処理工程と、
上記表面処理した酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体における分散媒である上記アルコール溶媒を上記有機溶媒に置換する溶媒置換工程を含み、
上記シランカップリング剤が一般式(I)
(RO)−Si−X4-n …(I)
(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、nは2又は3を示し、Xはアルキル基、フッ化アルキル基、ビニル基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を示す。)
で表されるものである。
【0028】
上記酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体における分散媒であるアルコール溶媒は、前述したように、メタノールとエタノールから選ばれる少なくとも1種であり、特に、本発明においては、メタノールが好ましく用いられる。
【0029】
本発明において、上記酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体における酸化ジルコニウム粒子のD50は、得られる有機溶媒分散体が低粘度で透明性にすぐれるように、1〜20nmの範囲にあるのが好ましく、2〜10nmの範囲にあるのがより好ましい。
【0030】
本発明において、酸化ジルコニウム粒子のD50は、動的光散乱法にて測定した分散体中の酸化ジルコニウム粒子の粒度分布から得られるメディアン径をいう。
【0031】
更に、本発明において、上記酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体における酸化ジルコニウム粒子の含有率は、通常、前記シランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を含む表面処理剤による酸化ジルコニウム粒子の表面処理が効率よく行うことができるように、通常、1〜40重量%の範囲であり、好ましくは、5〜30重量%の範囲である。
【0032】
特に、本発明においては、上記酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体としては、酸化ジルコニウム粒子を20重量%以上の含有率にて含有し、酸化ジルコニウム粒子のD50が1〜20nmの範囲、好ましくは、2〜10nmの範囲にあり、波長400nmにおける透過率が15%以上、より好ましくは30%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上、より好ましくは90%以上である高透明性を有するものが好ましく用いられる。
【0033】
本発明による酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法は、上述したように、酸化ジルコニウム粒子をメタノールとエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコール溶媒に分散させてなる酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体を一般式(I)
(RO)−Si−X4-n …(I)
(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、nは2又は3を示し、Xはアルキル基、フッ化アルキル基、ビニル基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を示す。)
で表されるシランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を含む表面処理剤にて処理して、上記酸化ジルコニウム粒子を表面処理する表面処理工程と、
上記表面処理した酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体における分散媒である上記アルコール溶媒を上記有機溶媒に置換する溶媒置換工程を含む。
【0034】
上記一般式(I)で表されるシランカップリング剤において、炭素原子数1〜4のアルキル基Rは、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基を示し、炭素原子数が3又は4であるアルキル基は直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。
【0035】
上記一般式(I)において、Xがアルキル基であるとき、炭素原子数は、通常、1〜20の範囲であり、好ましくは、1〜12の範囲である。従って、そのようなアルキル基の具体例として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、デシル基、ウンデシル基等を挙げることができる。炭素原子数が3以上であるアルキル基は直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。
【0036】
従って、上記一般式(I)において、Xがアルキル基である上記シランカップリング剤として、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ウンデシルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等を挙げることができる。
【0037】
上記一般式(I)において、Xがフッ化アルキル基であるとき、そのアルキル基は、通常、炭素原子数1〜18の範囲であり、好ましくは、1〜10の範囲である。従って、そのようなフッ化アルキル基の具体例として、例えば、トリフルオロメチル、トリフルオロエチル、トリフルオロプロピル、パーフルオロオクチルエチル基等を挙げることができる。
【0038】
従って、Xがフッ化アルキル基であるシランカップリング剤として、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリイソプロポキシシラン等を挙げることができる。
【0039】
上記一般式(I)で表されるシランカップリング剤において、Xがビニル基であるとき、具体例として、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0040】
また、上記一般式(I)で表されるシランカップリング剤において、Xが(メタ)アクリロイルオキシアルキル基であるシランカップリング剤としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。(メタ)アクリロイルとはアクリロイル又はメタクリロイルを意味する。
【0041】
本発明において、上記表面処理剤であるシランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸は、これらを酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体に同時に加えてもよく、また、いずれか一方を先に加えた後に他を加えてもよい。
【0042】
更に、上記表面処理剤は、いずれか一方又は両方を適宜の有機溶媒、例えば、酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体の分散媒と同じアルコール溶媒(以下、簡単のために、単に、アルコール溶媒Aということがある。)や、又は目的とする酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の分散媒と同じ有機溶媒(以下、簡単のために、単に、有機溶媒Sということがある。)に溶解させ、得られた溶液をアルコール分散体に加えてもよい。また、酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体に上記表面処理剤を加えた後、分散体に上記有機溶媒Sを加えてもよい。
【0043】
より詳細には、アルコール分散体中の酸化ジルコニウム粒子を上記シランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を含む表面処理剤にて表面処理するには、例えば、以下のような方法で行うことができる。
【0044】
(表面処理方法1)
常圧下において、酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体に常温で、又は必要に応じて、その分散媒の沸点よりも低い温度に加熱した上記アルコール分散体にシランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸をそのまま、加えて、混合、撹拌し、酸化ジルコニウム粒子を上記表面処理剤にて表面処理する。
【0045】
(表面処理方法2)
シランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を適宜の有機溶媒、例えば、アルコール溶媒Aに溶解し、得られたアルコール溶液を常圧下において、酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体に常温で、又は必要に応じて、その分散媒の沸点よりも低い温度に加熱した上記アルコール分散体に加え、混合、撹拌し、かくして酸化ジルコニウム粒子の上記アルコール分散体を処理して、酸化ジルコニウム粒子を上記表面処理剤にて表面処理する。
【0046】
(表面処理方法3)
シランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を適宜の有機溶媒、好ましくは、有機溶媒Sに溶解し、得られた溶液を常圧下において、酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体に常温で、又は必要に応じて、その分散媒の沸点よりも低い温度に加熱した上記アルコール分散体に加え、混合、撹拌して、かくして、酸化ジルコニウム粒子の上記アルコール分散体を上記有機溶媒の存在下に処理して、酸化ジルコニウム粒子を上記表面処理剤にて表面処理する。
【0047】
(表面処理方法4)
上記表面処理方法1〜3に記載したように、シランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体に加えた後、有機溶媒Sを加え、混合、撹拌し、かくして、酸化ジルコニウム粒子の上記アルコール分散体を上記有機溶媒Sの存在下に処理して、酸化ジルコニウム粒子を上記表面処理剤にて表面処理する。
【0048】
上記表面処理方法3及び4のように、上記酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体に、有機溶媒Sに上記表面処理剤を溶解させた溶液を加え、又は有機溶媒Sを加えることは、即ち、酸化ジルコニウム粒子の分散体の分散媒をアルコールと上記有機溶媒の混合物に変えることを意味し、従って、アルコールと上記有機溶媒Sの混合物を分散媒とする酸化ジルコニウム粒子の分散体を上記表面処理剤にて処理することによって、酸化ジルコニウム粒子を上記表面処理剤にて表面処理することを意味する。
【0049】
このように、表面処理工程において、上記有機溶媒の存在下に上記酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体を上記表面処理剤にて処理する方法、即ち、上記アルコールと上記有機溶媒Sの混合物を分散媒とする酸化ジルコニウム粒子の分散体を上記表面処理剤にて処理する方法は、本発明において、上記表面処理工程において好ましく用いることができる方法の1つである。
【0050】
本発明においては、上記表面処理剤は、酸化ジルコニウム粒子100重量部に対して、上記シランカップリング剤1〜100重量部と12−ヒドロキシステアリン酸1〜20重量部を含むように用いられる。
【0051】
特に、本発明によれば、シランカップリング剤は、酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体における酸化ジルコニウム粒子100重量部に対して、好ましくは、1〜20重量部の範囲、より好ましくは、2〜15重量部の範囲で用いられる。
【0052】
同様に、12−ヒドロキシステアリン酸も、本発明においては、酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体における酸化ジルコニウム粒子100重量部に対して、好ましくは、1〜15重量部の範囲、より好ましくは、2〜10重量部の範囲で用いられる。
【0053】
本発明においては、上記表面処理剤は、前記シランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸のみからなることが好ましい。即ち、本発明においては、表面処理剤は、前記シランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸以外の表面処理剤は含まないことが好ましい。
【0054】
本発明によれば、上記表面処理剤は、酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体における酸化ジルコニウム粒子100重量部に対して、シランカップリング剤を1〜100重量部の範囲で、12−ヒドロキシステアリン酸を1〜20重量部の範囲で、合計量が2〜120重量部の範囲にわたって用いることができ、これによって、透明性にすぐれる低粘度の酸化ジルコニウム粒子有機溶媒分散体を得ることができる。
【0055】
しかし、得られる分散体における上記表面処理剤の割合が増えるに従って、酸化ジルコニウム粒子の割合が相対的に減少して、例えば、分散体の屈折率が低下するので、高い屈折率が求められる用途には、上記表面処理剤は、酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体における酸化ジルコニウム粒子100重量部に対して、シランカップリング剤を1〜20重量部の範囲で、12−ヒドロキシステアリン酸を1〜15重量部の範囲で、合計量が2〜35重量部の範囲で用いることが好ましく、特に、シランカップリング剤を2.5〜10重量部の範囲で、12−ヒドロキシステアリン酸を2.5〜10重量部の範囲で、合計量が5〜20重量部の範囲で用いることが好ましい。
【0056】
本発明によれば、このようにして、酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体における酸化ジルコニウム粒子を上記表面処理剤で表面処理する表面処理工程と、上記表面処理した酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体の分散媒である上記アルコール溶媒を前記有機溶媒と置換する溶媒置換工程を行うことによって、目的とする上記酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体を得る。
【0057】
ここに、本発明によれば、上記表面処理工程を行った後に上記溶媒置換工程を行ってもよく、また、上記表面処理工程を行いつつ、上記溶媒置換工程を行ってもよい。
【0058】
例えば、前者の方法の1つとして、前述したように、常温常圧下に酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体にシランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を加えて、混合、撹拌し、上記酸化ジルコニウム粒子を上記表面処理剤にて表面処理した後、このアルコール分散体に連続的に又は間欠的に前記有機溶媒を加えて、アルコール分散体の分散媒であるアルコール溶媒と溶媒置換すれば、目的とする有機溶媒分散体を得ることができる。
【0059】
また、別の方法として、例えば、前述した表面処理方法3及び4のように、シランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を有機溶媒Sに溶解し、得られた溶液を酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体に加え、又はシランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸と有機溶媒Sを酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体に加え、得られた酸化ジルコニウム粒子の分散体を上記有機溶媒の存在下に、即ち、アルコールと上記有機溶媒Sの混合物を分散媒とする酸化ジルコニウム粒子の分散体中において、酸化ジルコニウム粒子を上記表面処理剤にて表面処理した後、溶媒置換する、即ち、得られた分散体から上記アルコールを除くことによって、目的とする有機溶媒分散体を得ることができる。この方法は、溶媒置換工程において、好ましく用いることができる方法の1つである。
【0060】
後者の方法の1つとして、例えば、シランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を有機溶媒Sに溶解し、得られた溶液を酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体に加え、又はシランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸と有機溶媒Sを酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体に加え、得られた酸化ジルコニウム粒子の分散体を上記有機溶媒の存在下に、即ち、アルコールと上記有機溶媒Sの混合物を分散媒とする酸化ジルコニウム粒子の分散体中において、酸化ジルコニウム粒子を上記表面処理剤にて表面処理しながら、一方において、上記分散体から上記アルコールを除いて、溶媒置換することによっても、目的とする有機溶媒分散体を得ることができる。
【0061】
本発明において、酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体における分散媒である上記有機溶媒はメタノール及びエタノールよりも親油性である有機溶媒が好ましく、そのような親油性有機溶媒としては、例えば、炭素原子数3以上のアルコール類、グリコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、炭化水素類、ハロゲン化炭素類、カルボン酸アミド類、スルホキシド類等を挙げることができる。
【0062】
具体的には、炭素原子数3以上のアルコール類としては、イソプロパノールのようなプロパノール類や1−ブタノールのようなブタノール類等を、グリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール等を、ケトン類としては、メチルエチルケトン(MEK)、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等を、エステル類としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等を、エーテル類としては、ジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジオキサン等を、炭化水素類としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等を、また、ハロゲン化炭素水素類としては、四塩化炭素、ジクロロエタン、クロロベンゼン等を、カルボン酸アミドとしては、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−トリメチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドン等を、スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド類等を挙げることができる。
【0063】
特に、本発明によれば、好ましい親油性有機溶媒として、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ブタノール、プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−トリメチルプロピオンアミド、酢酸ブチル及びエチレングリコールから選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0064】
本発明において、酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体の分散媒であるアルコール溶媒をこのアルコール溶媒以外の上記親油性有機溶媒と置換するには、方法それ自体は既によく知られている蒸留置換法や限外濾過濃縮置換法によることができる。
【0065】
蒸留置換法は、前述したように、表面処理剤で表面処理した酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体をその分散媒であるアルコールの沸点以上の温度に加熱して、上記アルコール分散体の分散媒であるアルコールを蒸留し、上記分散体から除去しながら、上記分散体に目的とする有機溶媒を加える方法である。例えば、前記表面処理剤で表面処理した酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体を常圧下又は減圧下において加熱し、上記アルコール溶媒を蒸留しつつ、好ましくは、その留出速度と同じ速度にて有機溶媒を分散体に加えることによって、上記酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体の分散媒であるアルコール溶媒を上記有機溶媒に置換することができる。
【0066】
別の方法として、前述した表面処理方法3又は4のように、前記表面処理剤を前記有機溶媒に溶解させ、得られた溶液を酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体に加え、又は前記表面処理剤と前記有機溶媒を酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体に加え、酸化ジルコニウム粒子を上記有機溶媒の存在下に上記表面処理剤で表面処理した後、常圧下又は減圧下において加熱して、上記アルコール分散体の分散媒であるアルコールを蒸留によって除去して、上記酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体の分散媒である上記アルコール溶媒を上記有機溶媒に置換することもできる。
【0067】
従って、酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体の分散媒をこのように蒸留置換法によって有機溶媒と置換するには、用いる有機溶媒は、蒸留条件下において、上記アルコールと同程度か、より高い沸点を有することが望ましい。
【0068】
限外濾過濃縮置換法は、酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体を限外濾過に付して、そのアルコール溶媒を膜透過させて、分散体から上記アルコールを除去しながら、一方において、上記分散体に目的とする有機溶媒を加え、かくして、上記酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体の分散媒であるアルコール溶媒を上記有機溶媒と置換する方法である。
【0069】
例えば、酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体を前記表面処理剤で処理した後、得られたアルコール分散体を限外濾過モジュールに圧送し、そのアルコール溶媒を膜透過させることによってアルコール溶媒を上記分散体から除去しながら、一方において、段階的に又は連続的に目的とする前記有機溶媒を上記分散体に加えることによって、酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体の分散媒であるアルコール溶媒を上記有機溶媒に置換するものである。
【0070】
本発明によれば、このようにして、好ましくは、酸化ジルコニウム粒子を20重量%以上の含有率にて含有し、分散体中の酸化ジルコニウム粒子のD50が1〜20nm、好ましくは、2〜10nmの範囲にあり、波長400nmにおける透過率が15%以上、好ましくは、30%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上、好ましくは、90%以上である酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体を出発原料として用いて、アルコール分散媒中の酸化ジルコニウム粒子を前記表面処理剤で表面処理する工程と、上記表面処理した酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体の分散媒であるアルコール溶媒を前記有機溶媒に置換する溶媒置換工程を経ることによって、その酸化ジルコニウム粒子の凝集が殆どなしに、通常、酸化ジルコニウム粒子含有率が20重量%以上、好ましくは、20〜50重量%であって、D50が1〜20nm、好ましくは、2〜20nm、最も好ましくは、2〜10nmであり、波長400nmにおける透過率が10%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上であり、25℃において、製造直後の粘度が10mPa・s以下であると共に、上記製造直後の粘度に対する7日後の粘度の増加量が10mPa・s以下である有機溶媒分散体を得ることができる。
【0071】
即ち、本発明の方法によれば、出発原料として用いる上記酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体中の酸化ジルコニウム粒子を前述した表面処理剤で表面処理した後、又は表面処理剤で表面処理しながら、その分散媒であるアルコール溶媒を前記有機溶媒と置換することによって、上記アルコール分散体における酸化ジルコニウム粒子の微細な分散径D50が得られる酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体に承継され、かくして、分散体中の酸化ジルコニウム粒子のD50が小さく、低粘度で高い安定性と透明性を有する酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体を得ることができるとみられる。
【0072】
かくして、本発明による酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体は、酸化ジルコニウム粒子を高含有率で含みながら、低粘度を有し、安定性と透明性にすぐれている。
【0073】
即ち、本発明による酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体は、D50が1〜20nmの範囲にある微細な酸化ジルコニウム粒子を20重量%以上という高含有率で含みながら、25℃において、製造直後の粘度が10mPa・s以下であり、その製造直後の粘度に対する7日後の粘度の増加量が10mPa・s以下であり、好ましくは、5mPa・s以下であって、経時的な粘度の上昇、粒子の沈殿、透明性の低下等が起こらず、安定性にすぐれており、しかも、波長400nmにおける透過率が10%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上であって、透明性にすぐれている。
【0074】
本発明による酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法における前記表面処理工程において用いる酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体は、市販品であってもよいが、本発明によれば、ジルコニウム塩から出発して、酸化ジルコニウム粒子の水分散体を得、この酸化ジルコニウム粒子の水分散体の分散媒である水を前記アルコール溶媒と置換する方法によって得られるものであることが好ましい。
【0075】
以下に、本発明の方法における前記表面処理工程において好ましく用いることができる酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体の製造について説明する。
【0076】
本発明の方法における前記表面処理工程において好ましく用いることができる酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体は、
(a)ジルコニウム塩を水中にてアルカリと反応させて、酸化ジルコニウム粒子の第1の水スラリーを得る工程、
(b)上記酸化ジルコニウム粒子の第1の水スラリーを濾過し、洗浄し、リパルプして、酸化ジルコニウム粒子の第2の水スラリーを得る工程、
(c)上記酸化ジルコニウム粒子の第2の水スラリーにこの第2の水スラリー中のジルコニウム1モル部に対して有機酸を1モル部以上加え、170℃以上の温度にて水熱処理して、酸化ジルコニウム粒子の水分散体を得る工程、
(d)このようにして得られた酸化ジルコニウム粒子の水分散体を洗浄する工程、及び
(e)上記工程(d)で得られた酸化ジルコニウム粒子の水分散体の分散媒である水をメタノール及びエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコール溶媒に置換する工程、を含む方法によって得ることができる。
【0077】
上記工程(d)においては、得られた酸化ジルコニウム粒子の水分散体を、必要に応じて、濃縮してもよい。
【0078】
このようにして、上述した工程(a)から(d)を行うことによって、ジルコニウム塩から出発して、酸化ジルコニウム粒子含有率が20重量%以上であり、酸化ジルコニウム粒子のD50が1〜20nm、好ましくは、2〜10nmの範囲にあり、波長400nmにおける透過率が30%以上であり、波長800nmにおける透過率が90%以上であり、温度25℃における粘度が20mPa・s以下、好ましくは、10mPa・s以下である酸化ジルコニウム粒子の水分散体を得ることができ、次いで、このようにして得られる酸化ジルコニウム粒子の水分散体の分散媒である水を前記アルコール溶媒に置換する工程(e)を行うことによって、本発明による酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法において好ましく用いることができる酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体、即ち、20重量%以上の酸化ジルコニウム粒子を含有し、D50が1〜20nm、好ましくは、2〜10nmの範囲にあり、波長400nmにおける透過率が15%以上、好ましくは、30%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上、好ましくは、90%以上であり、温度25℃における粘度が20mPa・s以下、好ましくは、10mPa・s以下である酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体を得ることができる。
【0079】
本発明の方法における前記表面処理工程において用いる酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体が安定化酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体であるときは、そのような安定化酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体は、ジルコニウム塩に代えて、ジルコニウム塩と安定化元素の塩を用いて、上述した方法と同様にして得ることができる。
【0080】
即ち、安定化酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体は、
(a)ジルコニウム塩と安定化元素の塩をアルカリと反応させて、酸化ジルコニウムと上記安定化元素との共沈物の粒子の第1の水スラリーを得る工程、
(b)上記第1のスラリーを濾過し、洗浄し、リパルプして、酸化ジルコニウムと上記安定化元素との共沈物の粒子の第2の水スラリーを得る工程、
(c)上記酸化ジルコニウムと上記安定化元素との共沈物の粒子の第2の水スラリーにこの第2の水スラリー中のジルコニウムと上記安定化元素の合計量1モル部に対して有機酸1モル部以上加え、170℃以上の温度にて水熱処理して、安定化酸化ジルコニウム粒子の水分散体を得る工程、
(d)このようにして得られた安定化酸化ジルコニウム粒子の水分散体を洗浄する工程、及び
(e)上記工程(d)で得られた安定化酸化ジルコニウム粒子の水分散体の分散媒である水をメタノール及びエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコール溶媒に置換する工程、を含む方法によって得ることができる。
【0081】
上記工程(d)においては、得られた安定化酸化ジルコニウム粒子の水分散体を、必要に応じて、濃縮してもよい。
【0082】
このようにして、上述した工程(a)から(d)を行うことによって、ジルコニウム塩と安定化元素の塩から出発して、安定化酸化ジルコニウム粒子含有率が20重量%以上であり、安定化酸化ジルコニウム粒子のD50が1〜20nm、好ましくは、2〜10nmの範囲にあり、波長400nmにおける透過率が30%以上であり、波長800nmにおける透過率が90%以上であり、温度25℃における粘度が20mPa・s以下、好ましくは、10mPa・s以下である安定化酸化ジルコニウム粒子の水分散体を得ることができ、次いで、このようにして得られる安定化酸化ジルコニウム粒子の水分散体の分散媒である水をメタノール及びエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコール溶媒に置換する上記工程(e)を行うことによって、本発明による酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の製造方法において好ましく用いることができる安定化酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体、即ち、安定化酸化ジルコニウム粒子含有率が20重量%以上であり、D50が1〜20nm、好ましくは、2〜10nmの範囲にあり、波長400nmにおける透過率が15%以上、好ましくは、30%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上、好ましくは、90%以上であり、温度25℃における粘度が20mPa・s以下、好ましくは、10mPa・s以下である安定化酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体を得ることができる。
【0083】
上記酸化ジルコニウムと安定化元素との共沈物とは、ジルコニウム塩と安定化元素の塩を水中にてアルカリと反応させて得られる酸化ジルコニウムと安定化元素の塩の中和物の共沈物を意味する。
【0084】
上述したように、ジルコニウム塩から出発することによって、酸化ジルコニウム含有率20重量%以上であって、D50が1〜20nmの範囲にあり、波長400nmにおける透過率が15%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上であって、透明性にすぐれる酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体を容易に得ることができ、そして、本発明においては、そのような酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体を用いることによって、目的とする酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体を容易に且つ安定して得ることができる。
【0085】
上記ジルコニウム塩は、特に、限定されるものではないが、例えば、硝酸塩、酢酸塩、塩化物等の水溶性塩が用いられ、なかでも、オキシ塩化ジルコニウムが好ましく用いられる。また、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のようなアルカリ金属水酸化物やアンモニアが好ましく用いられる。
【0086】
上記安定化元素の塩も、特に限定されるものではなく、通常、塩化物や硝酸塩等の水溶性塩が用いられる。例えば、安定化元素がアルミニウムであるときは、塩化アルミニウムが好ましく用いられ、また、安定化元素がイットリウムであるときは、塩化イットリウムが好ましく用いられる。上記安定化元素は、通常、ジルコニウム元素に対して、1〜20モル%の範囲で用いられる。
【0087】
上述したように、ジルコニウム塩又はジルコニウム塩と安定化元素の塩を水中にてアルカリと反応させる際の温度は、特に限定されるものではないが、通常、10〜50℃の範囲であり、好ましくは、15〜40℃の範囲である。更に、ジルコニウム塩又はジルコニウム塩と安定化元素の塩をアルカリと水中にて反応させる方法についても、例えば、ジルコニウム塩水溶液又はジルコニウム塩と安定化元素の塩の混合水溶液にアルカリ水溶液を添加する方法、アルカリ水溶液にジルコニウム塩又はジルコニウム塩と安定化元素の塩の混合水溶液を添加する方法、ジルコニウム塩水溶液又はジルコニウム塩と安定化元素の塩の混合水溶液とアルカリ水溶液を同時に張り込み液(沈殿反応器に予め、入れてある水)に添加する方法等、いずれであってもよいが、なかでも、ジルコニウム塩水溶液又はジルコニウム塩と安定化元素の塩の混合水溶液とアルカリ水溶液を同時に張り込み液に添加する同時中和法が好ましい。
【0088】
ジルコニウム塩水溶液の濃度、例えば、オキシ塩化ジルコニウム水溶液の濃度は、2.4モル/L以下であることが好ましく、また、アルカリ水溶液は、その濃度が10モル/L以下であることが好ましい。
【0089】
このように、ジルコニウム塩か、又はジルコニウム塩と安定化元素の塩を水中にてアルカリと反応させて、それぞれ酸化ジルコニウム粒子の第1の水スラリーか、又は酸化ジルコニウムと安定化元素との共沈物の粒子の第1の水スラリーを得、次いで、この第1の水スラリーを濾過し、洗浄し、水にリパルプして、第2の水スラリーとするに際して、この第2の水スラリーは500μS/cm以下の電気伝導度を有することが好ましい。
【0090】
一般に、ジルコニウム塩をアルカリと反応させて中和したとき、副生物が生じる。例えば、ジルコニウム塩としてオキシ塩化ジルコニウムを水中にて水酸化ナトリウムと反応させて中和したとき、塩化ナトリウムが副生する。そこで、ジルコニウム塩を水中にてアルカリと反応させて得られたスラリー中に含まれる上記副生塩、即ち、塩化ナトリウムが十分に除去されていないときは、そのようなスラリーに有機酸を加え、水熱処理しても、十分な分散効果が得難く、透明性の高い酸化ジルコニウム粒子の分散体を得ることができない。
【0091】
更に、得られた第1の水スラリーを濾過し、洗浄し、得られたケーキを水中にリパルプして、第2の水スラリーを得るために、上記ケーキを水中に投入し、攪拌機にて攪拌して、第2の水スラリーとしてもよいが、必要に応じて、ビーズミル等の湿式メディア分散のほか、超音波照射、高圧ホモジナイザー等の手段を用いて、上記ケーキを水中にリパルプして、第2の水スラリーとしてもよい。
【0092】
このようにして、通常、酸化ジルコニウム粒子含有率又は酸化ジルコニウムと安定化元素との共沈物の粒子の合計量の含有率1〜20重量%、好ましくは、1〜10重量%の範囲の第2の水スラリーを得る。
【0093】
次いで、このようにして得られた第2の水スラリーにこの水スラリー中のジルコニウム又はジルコニウムと安定化元素の合計量の1モル部に対して有機酸1モル部以上を加え、170℃以上の温度にて水熱処理する。
【0094】
有機酸は、上記第2の水スラリー中の酸化ジルコニウム粒子又は酸化ジルコニウムと前記安定化元素との共沈物の粒子を相互に電荷的に反発させることによって分散させる、所謂酸解膠させるために用いられる。特に、本発明によれば、上記第2の水スラリーを過酷な条件下に水熱処理するので、酸化ジルコニウム粒子又は上記酸化ジルコニウムと前記安定化元素との共沈物の粒子は、より効果的に解膠される。
【0095】
上記有機酸としては、好ましくは、カルボン酸やヒドロキシカルボン酸が用いられ、これらカルボン酸やヒドロキシカルボン酸は塩であってもよい。そのような有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のモノカルボン酸とその塩、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸等の多塩基酸とその塩、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸等のヒドロキシカルボン酸とその塩を挙げることができる。上記カルボン酸塩やヒドロキシカルボン酸塩としては、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩のようなアルカリ金属塩が好ましく用いられる。
【0096】
また、これらの有機酸は、上述したように、水熱処理に供する上記第2の水スラリー中のジルコニウム又はジルコニウムと安定化元素の合計量1モル部に対して、通常、1モル部以上の範囲で用いられるが、好ましくは、1〜5モル部の範囲で用いられ、より好ましくは、1〜3モル部の範囲で用いられる。第2の水スラリー中のジルコニウム又はジルコニウムと安定化元素の合計量1モル部に対して有機酸の量が1モル部よりも少ないときは、得られる酸化ジルコニウム粒子の水分散体がその透明性において不十分であるのみならず、粘度も高くなることがある。他方、第2の水スラリー中のジルコニウム又はジルコニウムと安定化元素の合計量1モル部に対して有機酸の量が5モル部を超えても、それに見合う効果も特になく、経済的でもない。
【0097】
次に、このように、上記有機酸を含む酸化ジルコニウム粒子か、又は酸化ジルコニウムと前記安定化元素との共沈物の粒子の第2の水スラリーを水熱処理する。この水熱処理の温度は、通常、170℃以上であり、好ましくは、170℃〜230℃の温度である。水熱処理の温度が170℃よりも低いときは、得られる酸化ジルコニウム粒子の水分散体が十分な透明性をもたないのみならず、粗大な沈降性の凝集粒子を含み、また、高い粘度を有することがある。
【0098】
水熱処理の時間は、通常、1時間以上であり、好ましくは、3時間以上である。水熱処理の温度が1時間よりも短いときは、得られる酸化ジルコニウム粒子の水分散体が十分な透明性をもたないのみならず、粗大な沈降性の凝集粒子が生成して、目的とする透明性の高い酸化ジルコニウム粒子の水分散体を得ることができない。この水熱処理を幾ら長くしてもよいが、それに見合う効果も特に得られないので、通常、10時間以下で十分である。
【0099】
このようにして得られた酸化ジルコニウム粒子の水分散体を洗浄するには、イオン交換樹脂によるイオン交換、半透膜を用いる拡散透析、電気透析、限外濾過膜を用いる限外濾過等の手段によることができる。本発明においては、特に限定されるものではないが、これらのなかでは、限外濾過膜を用いる限外濾過による洗浄が好ましい。
【0100】
また、このように洗浄した酸化ジルコニウム粒子の水分散体を濃縮するには、ロータリーエバポレーターによる蒸発濃縮、限外濾過膜を用いる限外濾過による濃縮等の手段によることができる。この濃縮手段は、特に限定されるものではないが、限外濾過膜を用いる限外濾過による濃縮が好ましい。
【0101】
特に、上記水熱処理によって得られた酸化ジルコニウム粒子の水分散体を限外濾過膜を用いて洗浄すると同時に濃縮することが好ましい。即ち、水分散体を限外濾過して濃縮し、得られた濃縮液に水を加えて希釈し、洗浄し、得られたスラリーを再度、限外濾過し、このようにして、水分散体を限外濾過して、その濃縮と希釈を繰り返すことによって、水熱処理によって得られた酸化ジルコニウム粒子の水分散体を濃縮しつつ、残存副生塩類を水と共に繰り返して除いて、かくして、酸化ジルコニウム含有率20重量%以上であって、しかも、高透明性と低粘度を有する酸化ジルコニウム粒子の水分散体を得ることができる。
【0102】
しかし、上述した方法によって得る酸化ジルコニウム粒子の水分散体の酸化ジルコニウム含有率の上限は、通常、50重量%であり、好ましくは、40重量%である。酸化ジルコニウム含有率が50重量%を超える酸化ジルコニウム粒子の水分散体は粘度が高く、最終的には、流動性を失って、ゲル化するからである。
【0103】
このようにして、水中でジルコニウム塩を熱又はアルカリ加水分解して酸化ジルコニウム粒子の水スラリーを得、このスラリーを前記有機酸の存在下に水熱処理し、かくして、得られた酸化ジルコニウム粒子の水分散体を洗浄し、必要に応じて、濃縮することによって、酸化ジルコニウム含有率20重量%以上、酸化ジルコニウム粒子のD50が1〜20nm、好ましくは、2〜10nmの範囲にあり、波長400nmにおける透過率が30%以上であり、波長800nmにおける透過率が90%以上であり、温度25℃における粘度が20mPa・s以下であり、好ましくは、10mPa・s以下である酸化ジルコニウム粒子の水分散体を得ることができる。
【0104】
そこで、このようにして得られる酸化ジルコニウム粒子の水分散体の分散媒である水を前記アルコール溶媒と置換することによって、そのアルコール溶媒を分散媒とし、酸化ジルコニウム粒子含有率が20重量%以上であって、波長400nmにおける透過率が15%以上、好ましくは、30%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上、好ましくは、90%以上であり、温度25℃における粘度が20mPa・s以下、好ましくは、10mPa・s以下である酸化ジルコニウム分散体、即ち、アルコール分散体を得ることができる。
【0105】
酸化ジルコニウム粒子の水分散体における分散媒である水をアルコール溶媒と置換するには、基本的には、前述した酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体の分散媒であるアルコール溶媒を前記親油性有機溶媒と溶媒置換する方法と同じであってよい。例えば、水分散体をロータリーエバポレーターで処理して、水を除いた後、新たに上記アルコール溶媒を加えたり、また、水分散体を限外濾過して、分散媒である水を除去してスラリーを得、これに上記アルコール溶媒を加えて希釈し、再度、限外濾過し、このようにして、濾過と希釈を繰り返すことによって、当初の分散媒である水を上記アルコール溶媒に置換して、分散媒がそのアルコール溶媒である酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体を得ることができる。
【0106】
このようにして得られた酸化ジルコニウム粒子アルコール分散体は、必要に応じて、ビーズミル等の湿式メディア分散、超音波照射、高圧ホモジナイザー等による分散処理を行ってもよい。
【実施例】
【0107】
以下の参考例は、酸化ジルコニウム粒子の水分散体及びアルコール分散体の調製例を示す。これらの参考例において、限外濾過には旭化成ケミカルズ(株)製「マイクローザ」(型式ACP−0013)、分画分子量13000)を用いた。
【0108】
以下の実施例及び比較例は、以下の参考例において得られた酸化ジルコニウム粒子のアルコール分散体を用いる酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体の調製例を示す。
【0109】
以下の参考例の酸化ジルコニウム粒子の水分散体、アルコール分散体、並びに以下の実施例及び比較例の有機溶媒分散体中の酸化ジルコニウム粒子の分散径、即ち、分散体中に分散している粒子の大きさ(直径)、上記有機溶媒分散体の濁度計透過率、波長400nm及び800nmにおける透過率及び粘度は下記のようにして測定した。
【0110】
酸化ジルコニウム粒子の分散径は動的光散乱法(日機装(株)製UPA−UT)によって測定した。
【0111】
濁度計透過率は、ヘーズメーター(日本電色工業(株)製NDH4000)を用いて、光路長10mmのセルにイオン交換水を充填して全光線透過率(ブランク値)T0を測定し、同様にセルに分散体を充填して光線透過率Tを測定し、(T/T0)×100として求めた。
【0112】
波長400nm及び800nmにおける透過率は、光路長が10mmのセルに分散体を充填して、可視紫外分光光度計(日本分光(株)製V−570)にて測定した。
【0113】
粘度は音叉型振動式SV型粘度計(エー・アンド・デイ(株)製 SV−1A(測定粘度範囲0.3〜1000mPa・s))にて測定した。
【0114】
また、以下において用いた有機溶媒の略語は下記のとおりである。
【0115】
MEK:メチルエチルケトン
MIBK:メチルイソブチルケトン
IPA:イソプロピルアルコール
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
DMAC:N,N−ジメチルアセトアミド
DMSO:ジメチルスルホキシド
EG:エチレングリコール
DMIB:N,N−トリメチルプロピオンアミド
【0116】
参考例1
(酸化ジルコニウム粒子の水分散体(I)の調製)
0.6モル/L濃度のオキシ塩化ジルコニウムと0.03モル/L濃度の塩化イットリウムの混合水溶液90Lと1.9モル/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液68Lを調製した。
【0117】
予め、純水82Lを張った沈殿反応器に上記オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムの混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムを同時中和にて共沈させて、酸化ジルコニウムとイットリウムとの共沈物の粒子の第1の水スラリーを得た。この第1の水スラリーを濾過、洗浄して、固形分含有率が酸化ジルコニウムと酸化イットリウム換算にて11重量%となるように純水にリパルプして、第2の水スラリー60Lを得た。この第2の水スラリーの電気伝導度は70μS/cmであった。
【0118】
酢酸4.2kg(上記スラリー中のジルコニウムとイットリウムの合計量1モル部に対して1.3モル部)を上記第2の水スラリーに加え、190℃で3時間水熱処理して、透明な水分散体を得た。この透明な分散体を限外濾過膜にて洗浄、濃縮し、イットリウムを4.8モル%含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子含有率30重量%の酸化ジルコニウム粒子の水分散体(I)を得た。
【0119】
このようにして得られた酸化ジルコニウム粒子の水分散体(I)は、波長400nmにおける透過率が59%であり、波長800nmにおける透過率が97%であり、温度25℃における粘度が6mPa・sであった。
【0120】
また、得られた酸化ジルコニウム粒子の水分散体(I)から水を除去し、得られた酸化ジルコニウム粒子を乾燥した。得られた酸化ジルコニウム粒子粉末をTEM(透過型電子顕微鏡)にて観察したところ、酸化ジルコニウム粒子の平均一次粒子径は3nm程度であった。
【0121】
一方、上記酸化ジルコニウム粒子の水分散体(I)中の酸化ジルコニウム粒子の分散径D50は3nmであった。従って、得られた酸化ジルコニウム粒子の水分散体(I)においては、酸化ジルコニウム粒子の凝集が殆ど生じていないことがわかった。
【0122】
(酸化ジルコニウムメタノール分散体(II)の調製)
上記酸化ジルコニウム水分散体(I)10kgを限外濾過膜を用いて濃縮し、このようにして得られた濃縮分散体に得られた濾液量と等量のメタノールを投入して、分散体の濃縮とメタノールによる希釈を連続的に且つ同時に並行して行うことによって、分散体中の酸化ジルコニウム含有率を30重量%に維持しつつ、分散体の分散媒を水からメタノールに置換して、イットリウムを4.8モル%含む固溶体である酸化ジルコニウム含有率30重量%の酸化ジルコニウム粒子メタノール分散体(II)を得た。この際、希釈に用いたメタノール量は90Lであった。
【0123】
このようにして得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)は、波長400nmにおける透過率が43%であり、波長800nmにおける透過率が93%であり、温度25℃における粘度が2mPa・sであった。
【0124】
また、この酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)からメタノールを除去し、得られた酸化ジルコニウム粒子を乾燥した。得られた酸化ジルコニウム粒子粉末をTEM(透過型電子顕微鏡)にて観察したところ、酸化ジルコニウム粒子の平均一次粒子径は3nm程度であった。
【0125】
一方、上記酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)中の酸化ジルコニウム粒子の分散径D50は3nmであった。従って、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)においては、酸化ジルコニウム粒子の凝集が殆ど生じていないことがわかった。
【0126】
以下の実施例1〜38及び比較例1〜23において、用いた置換有機溶媒、用いた表面処理剤、表面処理温度、得られた有機溶媒分散体の固形分含有率と酸化ジルコニウム粒子含有率及び溶媒置換率を表1、表2、表5及び表6に示し、得られた有機溶媒分散体の濁度計透過率、400nmと800nmにおける透過率、得られた有機溶媒分散体中の酸化ジルコニウム粒子の粒度分布及び粘度を表3、表4、表7及び表8に示す。溶媒置換方法は、実施例1、2、3及び4において説明する。
【0127】
表1、表2、表5及び表6において、固形分含有率、酸化ジルコニウム粒子含有率及び溶媒置換率はそれぞれ、下記のようにして得られる値である。
【0128】
固形分含有率(S)
得られた分散体のW重量部を乾燥皿に取り、乾固させて、乾固分をw重量部得たとき、固形分含有率Sは次式
S=(w/W)x100
から求めることができる。
【0129】
酸化ジルコニウム粒子含有率(T)
酸化ジルコニウム粒子含有率Tは、得られた分散体中の固形分中の酸化ジルコニウム粒子の割合であるので、酸化ジルコニウム粒子100重量部に対して用いた表面処理剤の重量部数をpとしたとき、次式
T=Sx100/(100+p)
から求めることができる。
【0130】
溶媒置換率
得られた分散体を重クロロホルムに溶解させて試料を調製し、この試料について、核磁気共鳴装置(ブルカー・バイオスピン(株)製AV400M)を用いてプロトンの1次元NMRスペクトルを測定し、これに基づいて、各溶媒のピークの面積比(物質量比)を質量比に換算して溶媒比率を算出し、この溶媒比率に基づいて溶媒置換率を求めた。
【0131】
また、表1、表2、表5及び表6において、表面処理剤の欄のHSAは12−ヒドロキシステアリン酸を示し、シランカップリング剤の欄の(a)から(l)はそれぞれ用いたシランカップリング剤を示し、表面処理剤の欄の数値は、用いた表面処理剤の酸化ジルコニウム100重量部に対する重量部数を示す。
【0132】
シランカップリング剤(a)から(l)はそれぞれ、下記のシランカップリング剤を示す。
【0133】
(a):3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
(b):3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン
(c): 3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン
(d):ヘキシルトリメトキシシラン
(e):ビニルトリメトキシシラン
(f):3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
(g):デシルトリメトキシシラン
(h):トリフルオロプロピルトリメトキシシラン
(i):N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン
(j):3−アミノプロピルトリメトキシシラン
(k):3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
(l):2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン
【0134】
実施例1
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)と12−ヒドロキシステアリン酸1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)を加えて、温度22℃で5分間、攪拌して、上記分散体を表面処理剤で処理した。
【0135】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体を常圧下に加熱して、メタノールを留出させつつ、上記メタノールの留出速度と同じ速度でMEKを上記分散体に滴下しながら加えて、溶媒置換を行って、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子含有率約30重量%の酸化ジルコニウム粒子のMEK分散体を得た。
【0136】
上述したように、表面処理剤で処理した酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体を常圧下に加熱して、メタノールを留出させつつ、上記メタノールの留出速度と同じ速度で有機溶媒を上記分散体に滴下しながら加えて溶媒置換する方法を溶媒置換方法1とする。
【0137】
実施例2
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)と12−ヒドロキシステアリン酸1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)を加えた後、MEKを加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を温度29℃で5分間、攪拌して、上記分散体を表面処理剤で処理した。
【0138】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を常圧下に加熱して、メタノールを留出させることによって溶媒置換を行って、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子含有率約30重量%の酸化ジルコニウム粒子のMEK分散体を得た。
【0139】
上述したように、表面処理剤を酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体に加えた後、有機溶媒を加え、かくして、得られた分散体を表面処理剤で処理した後、メタノールを常圧下に蒸留して溶媒置換する方法を溶媒置換方法2とする。
【0140】
実施例3
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)と12−ヒドロキシステアリン酸1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)を加えた後、MEKを加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を温度26℃で5分間、攪拌して、上記分散体を表面処理剤で処理した。
【0141】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を減圧下において加熱し、メタノールを留出させることによって溶媒置換を行って、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子含有率約30重量%の酸化ジルコニウム粒子のMEK分散体を得た。
【0142】
上述したように、表面処理剤を酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体に加えた後、有機溶媒を加え、かくして、得られた分散体を表面処理剤で処理した後、メタノールを減圧下に蒸留して溶媒置換する方法を溶媒置換方法3とする。
【0143】
実施例4
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gにMEKに溶解させた3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン2.7g(酸化ジルコニウム100重量部に対して9.0重量部)と12−ヒドロキシステアリン酸0.3g(酸化ジルコニウム100重量部に対して1.0重量部)を加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を温度28℃で5分間、攪拌して、上記表面処理剤で処理した。
【0144】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を減圧下において加熱し、メタノールを留出させることによって溶媒置換を行って、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子含有率約30重量%の酸化ジルコニウム粒子のMEK分散体を得た。
【0145】
上述したように、有機溶媒に表面処理剤を溶解させ、得られた溶液を酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体に加え、かくして、得られた分散体を表面処理剤で処理した後、メタノールを蒸留して溶媒置換する方法を溶媒置換方法4とする。
【0146】
実施例5〜38
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gにそれぞれ表1及び表2に示す量のシランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸(と有機溶媒)を加えて、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール(と有機溶媒の)分散体を表1及び表2に示す温度で5分間、攪拌して、上記分散体を上記表面処理剤で処理した。
【0147】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を表1及び表2に示すように、溶媒置換方法1、2又は3にて溶媒置換を行って、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子含有率約30重量%の酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体を得た。
【0148】
比較例1
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと12−ヒドロキシステアリン酸のいずれも加えることなく、MEKのみを加えて、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を温度15℃で5分間、攪拌した。
【0149】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を溶媒置換方法2にて溶媒置換を行ったところ、分散体は途中で流動性を失ってゲル化した。
【0150】
比較例2
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)を加えた後、MEKを加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を温度13℃で5分間、攪拌して、上記分散体を上記表面処理剤で処理した。
【0151】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を溶媒置換方法2にて溶媒置換を行ったところ、途中で酸化ジルコニウム粒子が沈降して、MEK分散体を得ることができなかった。
【0152】
比較例3〜5
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに表5に示す量の3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと12−ヒドロキシステアリン酸のいずれか一方とMEKを加えて、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を表5に示す温度にてそれぞれ5分間攪拌して、上記分散体を上記表面処理剤で処理した。
【0153】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を溶媒置換方法2にて溶媒置換を行って、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子含有率約30重量%の酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体を得た。得られた有機溶媒分散体はいずれも、製造から7日後にはゲル化した。
【0154】
比較例6〜8
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに表5に示す量の3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと12−ヒドロキシステアリン酸のいずれか一方と表5に示す有機溶媒を加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールと上記有機溶媒の分散体を5分間、攪拌して、上記分散体を上記表面処理剤で処理した。
【0155】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を溶媒置換方法3にて溶媒置換を行ったところ、分散体は途中で流動性を失ってゲル化した。
【0156】
比較例9
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに12−ヒドロキシステアリン酸1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)を加えた後、IPAを加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとIPAの分散体を温度39℃で3分間、攪拌して、上記分散体を上記表面処理剤で処理した。
【0157】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を溶媒置換方法3にて溶媒置換を行って、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子含有率約30重量%の酸化ジルコニウム粒子のIPA分散体を得た。得られたIPA分散体は、透明性にすぐれるものであったが、製造から7日後にはゲル化した。
【0158】
比較例10
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)とPGMEを加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとPGMEの分散体を温度20℃で5分間、攪拌して、上記分散体を上記表面処理剤で処理した。
【0159】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を溶媒置換方法3にて溶媒置換を行ったところ、分散体は途中で流動性を失ってゲル化した。
【0160】
比較例11
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに12−ヒドロキシステアリン酸1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)を加えた後、PGMEを加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとPGMEの分散体を温度29℃で5分間、攪拌して、上記分散体を上記表面処理剤で処理した。
【0161】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を溶媒置換方法3にて溶媒置換を行って、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子含有率約30重量%の酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体を得た。得られた分散体は製造から7日後にはゲル化した。
【0162】
比較例12
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)と12−ヒドロキシステアリン酸1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)を加えて、温度22℃で5分間、攪拌して、上記分散体を上記表面処理剤で処理した。
【0163】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を常圧下に加熱し、メタノールを完全に留出させた後、残留物を乾燥して、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム粉末を得た。
【0164】
このようにして得られた酸化ジルコニウム粉末をMEKに加えて、攪拌し、放置したところ、酸化ジルコニウム粒子が沈降して、MEK分散体を得ることができなかった。
【0165】
比較例13
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン0.15g(酸化ジルコニウム100重量部に対して0.5重量部)と12−ヒドロキシステアリン酸0.15g(酸化ジルコニウム100重量部に対して0.5重量部)を加えた後、MEKを加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を温度20℃で5分間、攪拌して、上記分散体を上記表面処理剤で処理した。このように処理した酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を溶媒置換方法3にて溶媒置換を行ったところ、分散体は途中で流動性を失って、ゲル化した。
【0166】
比較例14
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5重量部)とステアリン酸1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5重量部)を加えた後、MEKを加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を温度24℃で5分間、攪拌して、上記分散体を上記表面処理剤で処理した。
【0167】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を溶媒置換方法2にて溶媒置換を行って、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子含有率約30重量%の酸化ジルコニウム粒子のMEK分散体を得た。しかし、溶媒置換の間に酸化ジルコニウム粒子が著しく凝集して、得られたMEK分散体は透明性に劣るものであった。
【0168】
比較例15
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gを常圧下に加熱し、メタノールを完全に留出させた後、残留物を乾燥して、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム粉末を得た。
【0169】
得られた粉末に3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)と12−ヒドロキシステアリン酸1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)を加え、乳鉢を用いて混合、即ち、乾式処理を行った。このようにして得られた酸化ジルコニウム粉末をMEKに加えて、攪拌し、放置したところ、酸化ジルコニウム粒子が沈降して、MEK分散体を得ることができなかった。
【0170】
比較例16
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gにN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)と12−ヒドロキシステアリン酸1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)を加えた後、MEKを加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を23℃で5分間、攪拌して、上記分散体を上記表面処理剤で処理した。
【0171】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を溶媒置換方法2にて溶媒置換を行って、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子含有率約30重量%の酸化ジルコニウム粒子のMEK分散体を得た。得られたMEK分散体は、透明性にすぐれるものであったが、製造から7日後にはゲル化した。
【0172】
比較例17
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに3−アミノプロピルトリメトキシシラン1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)と12−ヒドロキシステアリン酸1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)を加えた後、MEKを加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を25℃で5分間、攪拌して、上記分散体を上記表面処理剤で処理した。
【0173】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を溶媒置換方法2にて溶媒置換を行ったところ、分散体は途中で流動性を失って、ゲル化した。
【0174】
比較例18
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)と12−ヒドロキシステアリン酸1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)を加えた後、MEKを加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を24℃で5分間攪拌して、上記分散体を上記表面処理剤で処理した。
【0175】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を溶媒置換方法2にて溶媒置換を行って、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子含有率約30重量%の酸化ジルコニウム粒子のMEK分散体を得た。得られたMEK分散体は、溶媒置換の間の酸化ジルコニウム粒子の凝集が著しく、透明性に劣るものであった。また、製造から7日後にはゲル化した。
【0176】
比較例19
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)、12−ヒドロキシステアリン酸1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)及びMEKを加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を温度24℃で5分間、攪拌して、上記分散体を上記表面処理剤で処理した。
【0177】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を溶媒置換方法2にて溶媒置換を行ったところ、酸化ジルコニウム粒子が沈降して、分散体を得ることができなかった。
【0178】
比較例20〜21
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gにそれぞれ表6に示す量の3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと12−ヒドロキシステアリン酸を加えた後、MEKを加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を表6に示す温度で5分間、攪拌した。
【0179】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を溶媒置換方法3にて溶媒置換を行ったところ、分散体は途中で流動性を失ってゲル化した。
【0180】
比較例22
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)と12−ヒドロキシステアリン酸12g(酸化ジルコニウム100重量部に対して40.0重量部)を加えた後、MEKを加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を温度24℃で5分間、攪拌した。
【0181】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を溶媒置換方法3にて溶媒置換を行って、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子含有率約30重量%の酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体を得た。得られた有機溶媒分散体は透明性に劣るうえに、特に、粘度の高いものであった。
【0182】
比較例23
上記参考例1において得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノール分散体(II)100gに3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン36g(酸化ジルコニウム100重量部に対して120重量部)と12−ヒドロキシステアリン酸1.5g(酸化ジルコニウム100重量部に対して5.0重量部)を加えた後、MEKを加え、得られた酸化ジルコニウム粒子のメタノールとMEKの分散体を温度20℃で5分間、攪拌した。
【0183】
このように処理した酸化ジルコニウム粒子の分散体を溶媒置換方法3にて溶媒置換を行って、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子含有率約30重量%の酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体を得た。得られた有機溶媒分散体は透明性に劣るものであった。
【0184】
【表1】
【0185】
【表2】
【0186】
【表3】
【0187】
【表4】
【0188】
【表5】
【0189】
【表6】
【0190】
【表7】
【0191】
【表8】
【要約】
本発明によれば、20重量%以上の含有率にて酸化ジルコニウム粒子をメタノール及びエタノールを除く有機溶媒に分散させてなる酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体であって、上記酸化ジルコニウム粒子が一般式(I)
(RO)−Si−X4-n …(I)
(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、nは2又は3を示し、Xはアルキル基、フッ化アルキル基、ビニル基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を示す。)で表されるシランカップリング剤と12−ヒドロキシステアリン酸を含む表面処理剤にて表面処理されており、上記有機溶媒分散体における酸化ジルコニウム粒子のD50が1〜20nmの範囲にあり、上記有機溶媒分散体の波長400nmにおける透過率が10%以上であり、波長800nmにおける透過率が80%以上であり、25℃において、製造直後の粘度が10mPa・s以下であると共に、上記製造直後の粘度に対する7日後の粘度の増加量が10mPa・s以下である酸化ジルコニウム粒子の有機溶媒分散体が提供される。