特許第5950103号(P5950103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5950103-貴金属と硫酸塩不純物の分離方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5950103
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】貴金属と硫酸塩不純物の分離方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/02 20060101AFI20160630BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   C22B11/02
   C22B7/00 H
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-147408(P2012-147408)
(22)【出願日】2012年6月29日
(65)【公開番号】特開2014-9383(P2014-9383A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】山口 健一
(72)【発明者】
【氏名】鍋井 淳宏
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−293049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属と共に硫酸鉛および硫酸バリウムを含む貴金属含有原料に、硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウムを加えて加熱することによって、800℃において液相の硫酸鉛と硫酸バリウムと硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウムの三元系硫酸塩を生成させ、この三元系硫酸塩と貴金属とを比重差によって分離することを特徴とする貴金属と硫酸塩不純物の分離方法。
【請求項2】
請求項1に記載する分離方法において、硫酸鉛50質量%〜85質量%、硫酸バリウム30質量%、および硫酸ナトリウム10質量%〜45質量%からなる800℃において液相の三元系硫酸塩を生成させる貴金属と硫酸塩不純物の分離方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載する分離方法において、坩堝内で、800℃において液相の硫酸鉛と硫酸バリウムと硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウムの三元系硫酸塩を生成させ、坩堝を傾けて上記液相の三元系硫酸塩を流れ出させる貴金属と硫酸塩不純物の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属等の乾式精製を行う際に、不純物成分である鉛やバリウムを溶融塩として分離除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅の電解精製によって生じる陽極泥(スライム)には銀等の貴金属が含まれており、湿式製錬または乾式製錬によって貴金属が分離され回収されている。従来、乾式製錬ではスライム中に含まれる不純物成分である鉛やバリウムを酸化物にし、これをシリケート系のスラグにして分離除去していた。
【0003】
例えば、銅電解スライムを硫酸浴に浸漬して銅電解スライム中の銅を溶出させて残渣と分離し、該残渣を焙焼してSe等を揮発分離し、この焙焼澱物を各種の貴金属含有繰返し物と混合し、さらに硅石と鉄屑とコ−クスとを加え、電気炉にて加熱熔融して、還元反応により貴金属を含む貴鉛とFeO−SiO2系のスラグとを生成させる乾式処理方法が知られている〔特開2004−76142号公報、特開2004−91898号公報〕。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−76142号公報
【特許文献2】特開2004−91898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
貴金属が含まれる陽極泥には鉛やバリウムが硫酸塩の形で含まれている。これらを乾式処理法において分離除去するには、硫酸塩を酸化物に還元した後に、硅砂等の溶剤を添加してシリケート系のスラグを生成させ、このスラグに酸化鉛や酸化バリウムを含有させる。このスラグは比重差によって貴金属相の上側に浮くので、スラグを掻き出して貴金属相と分離される。
【0006】
従来の上記乾式処理において、陽極スライムに含まれる鉛やバリウムなどの硫酸塩を酸化物にするためには、還元剤としてコークスやメタル鉄等を加えて加熱する。このため、熱源はもちろんのこと、還元剤や溶剤が必要であり、反応も長時間かかる。また、陽極スライムに含まれる硫酸バリウムは、銅アノードを鋳造する際に使用される離型剤に由来しており、スライム中の含有量が多い。さらに、硫酸バリウムは非常に安定であるため酸化物にするのは容易ではない。この硫酸バリウムを還元せずに、そのまま固体の硫酸塩の形態で排出しようとすると、スラグ中に懸垂し、極めて高粘性で流動性の劣るスラグになり、スラグ中への銀の懸垂ロスを招き操業にも支障をきたすことになる。
【0007】
本発明は、従来の上記乾式処理における上記問題を解決したものであり、陽極スライムなどに含まれる貴金属を、硫酸鉛や硫酸バリウム等の不純物から乾式処理によって分離する際に、従来の方法よりも低い加熱温度で処理することができ、スラグ化の時間も短く、作業効率が大幅に改善された処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に示す構成によって上記問題を解決した分離方法に関する。
〔1〕貴金属と共に硫酸鉛および硫酸バリウムを含む貴金属含有原料に、硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウムを加えて加熱することによって、800℃において液相の硫酸鉛と硫酸バリウムと硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウムの三元系硫酸塩を生成させ、この三元系硫酸塩と貴金属とを比重差によって分離することを特徴とする貴金属と硫酸塩不純物の分離方法。
〔2〕上記[1] に記載する分離方法において、硫酸鉛50質量%〜85質量%、硫酸バリウム30質量%、および硫酸ナトリウム10質量%〜45質量%からなる800℃において液相の三元系硫酸塩を生成させる貴金属と硫酸塩不純物の分離方法。
上記[1]に記載する貴金属と硫酸塩不純物の分離方法。
〔3〕上記[1]または上記[2]に記載する分離方法において、坩堝内で、800℃において液相の硫酸鉛と硫酸バリウムと硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウムの三元系硫酸塩を生成させ、坩堝を傾けて上記液相の三元系硫酸塩を流れ出させる貴金属と硫酸塩不純物の分離方法。
【0009】
〔具体的な説明〕
本発明の処理方法は、貴金属と共に硫酸鉛および硫酸バリウムを含む貴金属含有原料に、硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウムを加えて加熱することによって、800℃において液相の硫酸鉛と硫酸バリウムと硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウムの三元系硫酸塩を生成させ、この三元系硫酸塩と貴金属とを比重差によって分離することを特徴とする貴金属と硫酸塩不純物の分離方法である。
【0010】
本発明の分離方法において、貴金属と共に硫酸鉛および硫酸バリウムを含む貴金属含有原料とは、例えば、銅の電解精製によって生じる陽極スライム、工程内で発生する煙灰や澱物などである。該原料に含まれている貴金属とは銀等である。また、該原料に含まれている硫酸鉛および硫酸バリウムは融点が1100℃以上の硫酸塩であり、具体的には、例えば、硫酸鉛の融点は1175℃、硫酸バリウムの融点は1580℃であり、何れも融点1100℃以上の高融点物質である。
【0011】
本発明の分離方法は、硫酸鉛や硫酸バリウムと共に三元系溶融硫酸塩を形成する硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウムを上記貴金属含有原料に加えて加熱し、800℃において液相の低融点の三元系溶融硫酸塩を生成させる。
【0012】
本発明の分離方法は、例えば、貴金属と共に硫酸鉛および硫酸バリウムを含む貴金属含有原料に硫酸ナトリウムを添加して加熱することにっよって、硫酸鉛50質量%〜85質量%、硫酸バリウム30質量%、および硫酸ナトリウム10質量%〜45質量%からなる800℃において液相の三元系硫酸塩を生成させ、この三元系硫酸塩と貴金属とを比重差によって分離する方法である。
【0013】
硫酸鉛、硫酸バリウム、および硫酸ナトリウムを加えて加熱溶融して形成した三元系硫酸塩の状態図を図1に示す。図示するように、硫酸鉛30質量%〜90質量%、硫酸ナトリウム10質量%〜60質量%、および残余が硫酸バリウムの領域は概ね1000℃において液相の三元系硫酸塩であり、硫酸鉛50質量%〜85質量%、硫酸ナトリウム10質量%〜45質量%、および残余が硫酸バリウムの領域は概ね800℃において液相の三元系硫酸塩である。
【0014】
本発明は、例えば、貴金属と共に硫酸鉛および硫酸バリウムを含む貴金属含有原料について、硫酸鉛50質量%〜85質量%、硫酸ナトリウム10質量%〜45質量%、および硫酸バリウムが30質量%未満の組成になるように硫酸ナトリウムを加えて加熱し、800℃において液相の三元系溶融硫酸塩を形成する。
【0015】
なお、図1の状態図に示すように、硫酸バリウムの含有量が50質量%以上になると、三元系硫酸塩の融点が1000℃を上回るので、原料に加える硫酸ナトリウムの量は、生成される三元系硫酸塩において硫酸バリウムが50質量未満、好ましくは30質量%未満になる量を用いる。
【0016】
一般に銀等の貴金属の比重よりも上記三元系硫酸塩の比重は小さいので、上記三元系硫酸塩を生成させることによって硫酸塩のままスラグ化し、比重差によって貴金属と硫酸塩を分離することができる。本発明の分離方法は、貴金属と共に原料に含まれる高融点の硫酸鉛および硫酸バリウム800℃において液相の三元系溶融硫酸塩に変えて溶融状態にし、比重差によって貴金属と分離するので、原料に含まれる貴金属は金属の状態でもよく、化合物の状態でもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の分離方法は、原料の陽極スライム等に含まれる不純物成分の鉛やバリウムを硫酸塩の形態のまま、硫酸ナトリウム及び/または硫酸カリウム等の硫酸塩を添加して加熱し、800℃において液相の三元系溶融硫酸塩にするので、貴金属を含む相と不純物成分の鉛やバリウムを比重差によって容易に分離することができる。
【0018】
また、本発明の分離方法では、スラグの組成を、シリケートスラグから溶融硫酸塩に変えることにより、溶融温度を、例えば従来の1100℃から低下させることができ、重油等の燃料を削減でき、しかもスラグ化に要する時間が短時間になり、また、上記液相の三元系溶融硫酸塩は坩堝を傾けると流れ出すので分離が容易であり、作業効率も大幅に改善される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】三元系硫酸塩(PbSO4−BaSO4−Na2SO4)の状態図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施例を示す。なお、融点は熱分析装置TG-DTAを用い、混合溶融塩のDTAの吸熱ピークから溶融点を測定した。
【0021】
〔実施例1〕
貴金属として銀を含み、不純物として硫酸鉛、硫酸バリウムを含む原料として、Agを6g(32.4質量%)、PbSO4を10.2g(55.1質量%)、BaSO4を2.3g(12.5質量%)をよく混合して原料を調製した。この原料に添加剤としてNa2SO4を2.6g加え、さらに混合した。その後、この混合した材料をマグネシア坩堝に入れ、空気中、温度1000℃に加熱して溶融し、1時間保持した。その後、坩堝を常温に取り出し、水噴霧により急冷した。この坩堝を切断し断面を観察したところ、銀(比重10.5)と溶融塩(比重3.5)は比重差により完全に分離しており、銀が回収された。
【0022】
〔実施例2〕
PbSO4:10.2g(68wt%)、BaSO4:2.3g(15wt%)、Na2SO4:2.6g(17wt%)を坩堝に入れて混合し、1000℃に加熱して溶融し、1時間保持し、実施例1の溶融硫酸塩と同組成の三元系硫酸塩を調製した。この溶融状態の硫酸塩は坩堝を傾けると流れ出し、低粘性であり良好な流動性を有するものであった。
図1