特許第5950107号(P5950107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5950107自己修復材料の製造方法、および自己修復材料を製造するための組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5950107
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】自己修復材料の製造方法、および自己修復材料を製造するための組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/67 20060101AFI20160630BHJP
   C08L 75/14 20060101ALI20160630BHJP
   C09D 175/14 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   C08G18/67
   C08L75/14
   C09D175/14
【請求項の数】8
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2012-164480(P2012-164480)
(22)【出願日】2012年7月25日
(65)【公開番号】特開2013-49839(P2013-49839A)
(43)【公開日】2013年3月14日
【審査請求日】2015年1月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-166908(P2011-166908)
(32)【優先日】2011年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅信
(72)【発明者】
【氏名】沢田 克敏
(72)【発明者】
【氏名】山村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】加茂 理
(72)【発明者】
【氏名】稲見 甫
(72)【発明者】
【氏名】森田 淳
(72)【発明者】
【氏名】松本 英之
(72)【発明者】
【氏名】金森 太郎
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−248077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/67
C08L 75/14
C09D 175/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が400〜1000の、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラエチレングリコール、ビスフェノールAのエチレングリコール変性ジオール及びポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種のポリオールと、ポリイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリレートと、を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレートを含有する組成物を硬化反応させて形成される自己修復材料の製造方法であって、
前記ウレタン(メタ)アクリレートは、ウレタン基濃度が2.414mmol/g以上4.02mmol/g以下であり、
前記組成物が、前記ポリオールの水酸基数[OH]と前記ポリイソシアネートのイソシアネート基数[NCO]との比を[NCO]/[OH]=1.0を超えて2.0以下の範囲内に調整して反応させた多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)を含有することを特徴とする、自己修復材料の製造方法。
【請求項2】
前記組成物が、前記多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)および前記ポリオールの水酸基数[OH]と前記ポリイソシアネートのイソシアネート基数[NCO]との比を[NCO]/[OH]=0.3以上1.0以下の範囲内に調整して反応させた単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)を含有する、請求項1に記載の自己修復材料の製造方法。
【請求項3】
前記組成物中の前記多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)および前記単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)の合計量を100質量部としたときの配合比率が、質量基準で多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A):単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)=90:10〜50:50の範囲内である、請求項2に記載の自己修復材料の製造方法。
【請求項4】
前記自己修復材料は、動的粘弾性測定により求めた架橋又は絡み合い密度が0.2〜2.5mmol/cmである、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の自己修復材料の製造方法。
【請求項5】
前記自己修復材料の膜厚が1〜1000μmである、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の自己修復材料の製造方法。
【請求項6】
数平均分子量が400〜1000の、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラエチレングリコール、ビスフェノールAのエチレングリコール変性ジオール及びポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種のポリオールと、ポリイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリレートと、を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレートを含有する組成物の製造方法であって、
前記ウレタン(メタ)アクリレートは、ウレタン基濃度が2.414mmol/g以上4.02mmol/g以下であり、
前記組成物が、前記ポリオールの水酸基数[OH]と前記ポリイソシアネートのイソシアネート基数[NCO]との比を[NCO]/[OH]=1.0を超えて2.0以下の範囲内に調整して反応させた多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)を含有する、自己修復材料を製造するための組成物の製造方法。
【請求項7】
前記組成物が、前記多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)および前記ポリオールの水酸基数[OH]と前記ポリイソシアネートのイソシアネート基数[NCO]との比を[NCO]/[OH]=0.3以上1.0以下の範囲内に調整して反応させた単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)を含有する、請求項に記載の自己修復材料を製造するための組成物の製造方法。
【請求項8】
前記組成物中の前記多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)および前記単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)の合計量を100質量部としたときの配合比率が、質量基準で多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A):単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)=90:10〜50:50の範囲内である、請求項に記載の自己修復材料を製造するための組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に発生した傷を自然に修復することができる自己修復材料および該自己修復材料で保護された自己修復性部材、ならびに該自己修復材料を製造するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー線、特に紫外線で硬化する液状樹脂は、液体であることによるハンドリングの良さや、高速硬化による高い製造性、耐候性という利点を活かして種々の保護膜として広く利用されている。
【0003】
例えば、携帯電話、ディスプレイのフラットパネルやその筐体、自動車の車体等に傷が付くことを防止するため、それらの表面にハードコート処理することが行われている。しかしながら、そのハードコートに傷が付いてしまった場合には修復することが難しく、物品の外観や機能が損なわれることにより物品の商品価値が著しく低下してしまう。近年、このような観点から表面に傷が付いてもその傷を自然に修復することができる材料が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ダングリング鎖を有し、かつ架橋構造を有する非晶性ポリマーと、動的粘弾性測定によるガラス転移温度が室温以上である非晶性ポリマーと、を含む自己修復性樹脂体が開示されている。
【0005】
特許文献2には、所定の構造を有するジエン系オリゴマーと、光重合開始剤と、を含む自己修復材料を製造するための光硬化性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−260979号公報
【特許文献2】特開2010−260905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した特許文献1の自己修復材料は、自己修復能が自律的に発現する訳ではなく、傷が生じた材料をガラス転移温度以上に昇温させる必要があった。また、架橋ポリマーを溶剤に溶解させているため、良好な塗布面を得るためには、架橋ポリマーの溶解に伴う溶剤の選択範囲が狭くなるという欠点があった。このため、特許文献1の自己修復材料は、現実的には応用が困難であると考えられる。
【0008】
一方、前述した特許文献2では、所定の構造を有するジエン系オリゴマーを使用しているが、ジエン系オリゴマーは分子鎖中に二重結合を有するため、硬化速度が遅くなると共に、得られる硬化膜の耐候性が低いという欠点があった。このため、特許文献2の自己修復材料も、現実的には応用が困難であると考えられる。
【0009】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、前記課題を解決することで、硬化性および透明性に優れると共に、自律的な自己修復作用に優れた自己修復材料、該自己修復材料で保護された自己修復性部材、ならびに該自己修復材料を製造するための組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0011】
[適用例1]
本発明に係る自己修復材料の一態様は、
脂肪族ポリオール及び環状構造を有するポリオールから選択される少なくとも1種のポリオールと、ポリイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリレートと、を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレートを含有する組成物を硬化反応させて形成された分子鎖を有する自己修復材料であって、
前記組成物が、前記ポリオールの水酸基数[OH]と前記ポリイソシアネートのイソシアネート基数[NCO]との比を[NCO]/[OH]=1.0を超えて2.0以下の範囲内に調整して反応させた多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)を含有することを特徴とする。
【0012】
[適用例2]
適用例1の自己修復材料において、
前記組成物が、前記多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)および前記ポリオールの水酸基数[OH]と前記ポリイソシアネートのイソシアネート基数[NCO]との比を[NCO]/[OH]=0.3以上1.0以下の範囲内に調整して反応させた単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)を含有することができる。
【0013】
[適用例3]
適用例2の自己修復材料において、
前記組成物中の前記多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)および前記単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)の合計量を100質量部としたときの配合比率が、質量基準で多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A):単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)=100:0〜50:50の範囲内であることができる。
【0014】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例の自己修復材料において、
ウレタン基濃度が2.0mmol/g以上であり、かつ動的粘弾性測定により求めた架橋又は絡み合い密度が0.2〜2.5mmol/cmであることができる。
【0015】
[適用例5]
本発明に係る自己修復性部材の一態様は、
基材の表面に、適用例1ないし適用例4のいずれか一例の自己修復材料からなる被膜が形成されたことを特徴とする。
【0016】
[適用例6]
適用例5の自己修復性部材において、
前記被膜の厚さが50μm以下であることができる。
【0017】
[適用例7]
本発明に係る自己修復材料を製造するための組成物の一態様は、
脂肪族ポリオール及び環状構造を有するポリオールから選択される少なくとも1種のポリオールと、ポリイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリレートと、を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレートを含有する組成物であって、
前記ポリオールの水酸基数[OH]と前記ポリイソシアネートのイソシアネート基数[NCO]との比を[NCO]/[OH]=1.0を超えて2.0以下の範囲内に調整して
反応させた多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)を含有することを特徴とする。
【0018】
[適用例8]
適用例7の自己修復材料を製造するための組成物において、
前記多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)および前記ポリオールの水酸基数[OH]と前記ポリイソシアネートのイソシアネート基数[NCO]との比を[NCO]/[OH]=0.3以上1.0以下の範囲内に調整して反応させた単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)を含有することができる。
【0019】
[適用例9]
適用例8の自己修復材料を製造するための組成物において、
前記多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)および前記単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)の合計量を100質量部としたときの配合比率が、質量基準で多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A):単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)=100:0〜50:50の範囲内であることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る自己修復材料は、優れた硬化性および透明性を有すると共に、優れた自己修復能を自律的に発揮することができる。そのため、透明性および耐擦り傷性が要求される製品(モバイル機器、皮革製品、自動車のインパネ等)の表面に該自己修復材料を適用することで、外観や機能が損なわれることを効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施の形態に係る自己修復材料を模式的に示す説明図である。
図2】実施例1に係る自己修復性部材の傷の消失試験の様子を示す写真である。
図3】実施例1に係る自己修復性部材の傷の消失試験の様子を示す写真である。
図4】実施例1に係る自己修復性部材の傷の消失試験の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変型例も含む。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートはアクリレートおよびメタクリレートを表す。
【0023】
1.自己修復材料
1.1.構造および特徴
本実施の形態に係る自己修復材料は、脂肪族ポリオール及び環状構造を有するポリオールから選択される少なくとも1種のポリオールと、ポリイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリレートと、を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレートを含有する組成物を硬化反応させて形成された分子鎖を有することを特徴とする。
【0024】
図1は、本実施の形態に係る自己修復材料を模式的に示す説明図である。図1に示すように、本実施の形態に係る自己修復材料100は、多官能ウレタン(メタ)アクリレートにより形成された基本骨格となる三次元架橋構造10aと、該三次元架橋構造10aに単官能ウレタン(メタ)アクリレートが物理的及び/又は化学的に架橋して形成された長鎖の分岐鎖10bと、を含む構造体である。なお、図1に示す自己修復材料100において、架橋点12はそれぞれウレタン(メタ)アクリレートの(メタ)アクリレートによる化学的結合を表すが、基本骨格となる三次元架橋構造10aと分岐鎖10bとは、共有結合を介して繋がっていてもよいし、非共有結合を介して繋がっていてもよい。そして、この構造体中に含まれるウレタン基同士が相互作用することで、非共有結合による物理的架橋
点(図示せず)が形成されている。したがって、三次元架橋構造10a中にも物理的架橋点及び化学的架橋点の二種類が存在する。以上のように、本実施の形態に係る自己修復材料100は、共有結合による架橋点と非共有結合による架橋(絡み合い)点とが存在している。なお、本発明において「非共有結合」とは、共有結合以外の水素結合、イオン結合、疎水結合またはファンデルワールス力による結合のことをいう。
【0025】
自己修復材料100は、上述したような共有結合によるネットワークが形成されることで、耐溶剤性を維持することができる。また、自己修復材料100は、分子鎖中に含まれるウレタン基同士の非共有結合により弾性的性質を示すことができる。さらに、自己修復材料100は、分岐鎖10bが存在することにより擬似的な粘性的性質を示すと考えられる。このような構造及び特徴を有する自己修復材料100の自己修復メカニズムは、いまだ不透明な部分が多いため理論に束縛されることを好まないが以下のように推測される。自己修復材料100には上述のように適度な弾性的性質が付与されているため、この自己修復材料が何らかの物理的外力によって傷を受けた場合には、共有結合が切断されずにより強度の低い分子鎖間の非共有結合が切断され、その後に非共有結合によって再結合するものと考えられる。さらに分岐鎖10bが存在する場合には、その分岐鎖10bが受けた傷を塞ぐように動くことができるため、自己修復能がより向上すると考えられる。すなわち、非共有結合である、水素結合、イオン結合、疎水結合またはファンデルワールス力による結合により、自己修復材料100は共有結合体ながら適度な弾性的性質を有し、その構造中に含まれる分子鎖が自由に動くことができるため、より優れた自己修復能が発現するものと考えられる。
【0026】
自己修復材料100に含まれる分子鎖は、脂肪族ポリオール及び環状構造を有するポリオールから選択される少なくとも1種のポリオールと、ポリイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリレートと、を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレートを含有する組成物を硬化反応させることによって形成された分子鎖である。かかる分子鎖が含まれる自己修復材料によれば、優れた透明性および硬化性を有すると共に、優れた自己修復性を自律的に発揮することができる。
【0027】
詳細は後述するが、上記の反応によって得られるウレタン(メタ)アクリレートは、2個以上の反応性基((メタ)アクリロイル基)を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)もしくは1個の反応性基((メタ)アクリロイル基)を有する単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)またはその両方である。これらのウレタン(メタ)アクリレートを含有する組成物を硬化反応させると、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)から三次元架橋構造10aが形成される。これに、単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)が物理的及び/又は化学的に架橋されて長鎖の分岐鎖10bがさらに形成される。このようにして得られた構造体中には、極性基部分となるウレタン基が多数存在する。このウレタン基同士が非共有結合(この場合には水素結合)することにより、物理的架橋点が形成される。
【0028】
本実施の形態に係る自己修復材料は、ウレタン基濃度が2.0mmol/g以上であることが好ましく、2.5mmol/g以上4mmol/g以下であることがより好ましく、2.5mmol/g以上3.5mmol/g以下であることが特に好ましい。ウレタン基濃度が前記範囲内であると、分子鎖間の相互作用による物理的架橋点が十分に形成されているので適度な弾性的性質を有し自己修復能がより向上する。一方、ウレタン基濃度が前記範囲未満であると、物理的架橋点が十分に形成されていないので自己修復能が低下する傾向がある。
【0029】
本実施の形態に係る自己修復材料は、動的粘弾性測定により求めた架橋又は絡み合い密度が0.2〜2.5mmol/cmの範囲内であることが好ましく、0.3〜2.3m
mol/cmの範囲内であることがより好ましく、0.4〜2.0mmol/cmの範囲内であることが特に好ましい。架橋又は絡み合い密度が前記範囲内にあると、それぞれの分子鎖が自由に動くことができるので自己修復能がより向上する。架橋又は絡み合い密度が前記範囲を超えると、分子鎖が動きにくくなるため、自己修復能が低下する傾向がある。一方、架橋又は絡み合い密度が前記範囲未満であると、分子鎖間の相互作用による物理的架橋点が十分に形成されていないため、自己修復能が低下する傾向がある。
【0030】
架橋又は絡み合い密度は、動的粘弾性測定装置を用いて測定試料のゴム状平坦領域における平衡弾性率E’(MPa)を求めて、下記式(1)から算出することができる。
n=E’/3RT ・・・(1)
ここで、n:架橋又は絡み合い密度(mol/cm)、E’:平衡弾性率(MPa)、R:気体定数(8.314J/(K・mol))、T:絶対温度(K)である。
【0031】
本実施の形態に係る自己修復材料は、流動性を完全に失っており、ゲルではなく、ハードコートまでの表面硬度を有しないが爪等で擦っても簡単に傷が付かない程度の表面硬度を有している。さらに、タック(ベタつき)がなく、表面の粘着性によって異物が付着したり、又は表面同士を押し付けて再び分離する際に該自己修復材料の粘着物が剥離・付着したりすることがない。そして、本実施の形態に係る自己修復材料に傷が付いた場合には、その傷が自律的に数分以内に修復するのである。自己修復材料の表面硬度は用途や目的に応じて選択されるが、一つの目安として、アスカー硬度計(TYPE EP)で測定したときの指針値が3以上であることが好ましい。硬度計として、高分子計器株式会社製の「アスカーゴム硬度計 TYPE EP」等を用いることができる。
【0032】
次に、本実施の形態に係る自己修復材料に含まれる分子鎖を製造するための組成物(以下、単に「組成物」ともいう)について詳細に説明する。
【0033】
1.2.分子鎖を製造するための組成物
1.2.1.ウレタン(メタ)アクリレート
本実施の形態に係る組成物は、脂肪族ポリオール及び環状構造を有するポリオールから選択される少なくとも1種のポリオールと、ポリイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリレートと、を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレートを含有する。かかるウレタン(メタ)アクリレートは、例えば以下のようにして製造される。
【0034】
まず、ポリイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリレートとに、有機金属触媒または塩基性触媒および酸化防止剤の存在下で攪拌し、ポリイソシアネートのイソシアネート基と水酸基含有(メタ)アクリレートの水酸基とを付加反応させて、ポリイソシアネートのイソシアネート基と水酸基含有(メタ)アクリレートの水酸基とをウレタン結合させる。ここで、ポリイソシアネートと水酸基含有(メタ)アクリレートとの配合比率は、反応系中において、ポリイソシアネートの総イソシアネート基数の方が水酸基含有(メタ)アクリレートの総水酸基数よりも多くなるようにする。
【0035】
上記有機金属触媒としては、公知の有機錫化合物の他、非錫系の有機金属化合物を用いることができる。例えば、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物等が挙げられる。各構造としては、アルコキシド、キレート、アシレート等がある。これらの中でも、有機ジルコニウム化合物のアセチルアセトンキレートが好ましく、具体的にはZr(CHCOCHCOCHが好ましい。
【0036】
次いで、ポリイソシアネートの残存イソシアネート基と、ポリオールの水酸基と、を加熱しながら攪拌し、ポリイソシアネートの残存イソシアネート基をポリオールの水酸基に付加させる。この残存イソシアネート基とポリオールの水酸基とが、ウレタン結合してウ
レタン(メタ)アクリレートが製造される。
【0037】
なお、上記の製造例では、ポリイソシアネートに水酸基含有(メタ)アクリレートを付加させた後、ポリオールを反応させているが、ポリイソシアネートとポリオールを反応させた後、水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させてもよいし、又はこれらを一度に反応させてもよい。
【0038】
また、上記の製造例で使用する溶剤は特に限定されない。溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、又はメチルエチルケトン/シクロヘキサノン、メチルエチルケトン/酢酸エチル、メチルエチルケトン/酢酸ブチル、メチルエチルケトン/エチレングリコールモノブチルエーテル、n−ブタノール/酢酸ブチル等の混合溶剤が挙げられる。なお、上記の製造例において、溶剤は必要な場合に用いればよく、溶剤なしで合成することもできる。
【0039】
上記ウレタン(メタ)アクリレートの製造方法において、ポリオールの水酸基数[OH]とポリイソシアネートのイソシアネート基数[NCO]との比を[NCO]/[OH]=1.0を超えて2.0以下の範囲に調整して反応させることで、2個以上の反応性基((メタ)アクリロイル基)を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)を製造することができる。このようにして得られた多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)を硬化反応させると、ウレタン基を有する三次元架橋構造が形成される。
【0040】
また、上記ウレタン(メタ)アクリレートの製造方法において、ポリオールの水酸基数[OH]とポリイソシアネートのイソシアネート基数[NCO]との比を[NCO]/[OH]=0.3以上1.0以下の範囲に調整して反応させることで、1個の反応性基((メタ)アクリロイル基)を有する単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)を製造することができる。このようにして得られた単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)が前記三次元架橋構造に物理的又は化学的に架橋することで、ウレタン基を有する長鎖の分岐鎖が形成される。
【0041】
本実施の形態に係る組成物は、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)を含有すれば自己修復能を備えた自己修復材料を作製できるが、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)および単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)の両方を含有することが好ましく、それらが以下の比率で配合されることがより好ましい。
【0042】
すなわち、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)および単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)の合計量を100質量部とした場合、質量基準で多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A):単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)=100:0〜50:50の範囲内であることが好ましく、90:10〜75:25の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内で配合されることで、得られる自己修復材料のウレタン基濃度および架橋又は絡み合い密度を好ましい範囲とすることができ、分子鎖間の相互作用と分子鎖のレオロジー的な運動しやすさとの良好なバランスを図ることができる。これにより、自己修復材料の自己修復能をより効果的に発現することができる。
【0043】
本実施の形態で使用されるポリオールとしては、脂肪族ポリオール及び環状構造を有するポリオールから選択される少なくとも1種のポリオールであれば特に限定されないが、例えば、ヒドロキシ末端ポリエステル、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリエステルカーボネートポリオール、ポリエーテルカーボネートポリオール、ポリエステルアミドポリオール等が挙げられる。これらの中でも、得られる分子鎖の硬さが適度となり良好な弾性を示す観点から、ポリエーテルポリオールが好ましい。これらのポリオールは、1種単独で用いて
もよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
上記ポリエーテルポリオールとしては、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリオキシエチレン−プロピレングリコール(EO−PO)、ポリオキシエチレン−ビスフェノールAエーテル、ポリオキシプロピレン−ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレングリコール変性ジオール等が挙げられる。
【0045】
上記ポリオールは、数平均分子量が200〜4,000であることが好ましく、300〜2,000であることがより好ましく、400〜1,000であることが特に好ましい。数平均分子量が上記範囲内であると、得られる分子鎖の硬さが適度となり良好な弾性を示す点で好ましい。なお、上記数平均分子量は、ゲルパーミエーション(GPC)によって測定された数平均分子量をポリスチレン換算した相対値である。
【0046】
なお、使用するポリオールに結晶性がある場合は、ウレタン(メタ)アクリレートを合成した後、溶剤に溶解させることで、結晶化による凝固を防ぐことができる。溶剤としては、特に限定されないが、ケトン系又はアルコール系溶剤であることが好ましく、メチルエチルケトンがより好ましい。
【0047】
本実施の形態で使用されるポリイソシアネートとしては、1分子中にイソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネートであれば特に制限されないが、付加される反応性基が増えるほど硬度が高くなる一方で自己修復能が低下する傾向があることから、ジイソシアネートであることが好ましい。
【0048】
ジイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類;エチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類;イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート類等が挙げられる。これらのジイソシアネートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本実施の形態で使用される水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等が挙げられる。
【0050】
1.2.2.光重合開始剤
本実施の形態に係る組成物には、放射線(光)照射により活性ラジカル種を発生させる光重合開始剤を添加することが好ましい。
【0051】
光重合開始剤としては、光照射により分解しラジカル種を発生して重合反応を開始せしめるものであれば特に限定されないが、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フル
オレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1,4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)等が挙げられる。
【0052】
光重合開始剤の市販品としては、例えば、イルガキュア 184、369、651、500、819、907、784、2959、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24−61、ダロキュア 1116、1173、ルシリン TPO、8893(以上、BASFジャパン株式会社製);ユベクリル P36(UCB社製);エザキュアーKIP150、KIP65LT、KIP100F、KT37、KT55、KTO46、KIP75/B(以上、ランベルティ社製)等が挙げられる。
【0053】
本実施の形態に係る組成物における光重合開始剤の添加量は、ウレタン(メタ)アクリレートの合計を100質量部としたときに、好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.1〜10質量部の範囲内である。
【0054】
1.2.3.防汚剤
本実施の形態に係る組成物には、防汚剤を添加することが好ましい。防汚剤としては、脂肪酸エステルからなる非イオン界面活性剤(C)(以下、「脂肪酸エステル系界面活性剤(C)」ともいう。)が好適である。脂肪酸エステル系界面活性剤(C)は、本発明で得られる自己修復材料に付着した指紋を見えにくくすると共に、指紋の拭き取り性を良好にする目的で配合される。
【0055】
本実施の形態に係る組成物には、HLBが2〜7の範囲の脂肪酸エステル系界面活性剤(C)を使用することが好ましく、HLBが2〜4の範囲の脂肪酸エステル系界面活性剤(C)を使用することがより好ましい。また、脂肪酸エステル系界面活性剤(C)に(メタ)アクリロイル基を付与することにより、本発明の組成物中のバインダー成分と結合して固定化することができるため、脂肪酸エステル系界面活性剤(C)が自己修復材料表面にブリードアウトするのを防止することができる。これにより、得られる自己修復材料の耐久性が向上する。さらに、脂肪酸エステル系界面活性剤(C)は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数6〜30の1価又は2価の炭化水素基を有することが好ましい。炭素数6〜30の炭化水素基を有することで、得られる自己修復材料に指紋付着防止性や指紋拭き取り性をより高めることができる。ここで「指紋付着防止性」とは、フィルム表面に指紋を付着させたときの肉眼での見え難さを意味する。
【0056】
ここで、HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値とは、界面活性剤の特性を示す重要な指数であって、親水性又は親油性の大きさの程度を示す。HLB値は次の計算式によって求めることができる。
HLB=7+11.7Log(MW/MO)
ここにMWは親水基の分子量、MOは親油基の分子量である。MW+MO=M(界面活性剤の分子量)である。
【0057】
脂肪酸エステル系界面活性剤(C)に(メタ)アクリロイル基を付与する方法として、例えば、水酸基を有する脂肪酸エステル系界面活性剤の水酸基を(メタ)アクリロイル基に変換することにより得ることができる。具体的には、脂肪酸エステル系界面活性剤(C)は、脂肪酸エステル系界面活性剤が有する水酸基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0058】
(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、例えば、イソシアネート基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物を使用することができる。このような化合物を用いることにより、脂肪酸エステル系界面活性剤の水酸基とイソシアネート基とが反応しウレタン結合を形成することで(メタ)アクリロイル基が導入される。
【0059】
イソシアネート基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物の具体例としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、1,1−ビス[(メタ)アクリロイルオキシメチル]エチルイソシアネート等を使用することができる。また、ジイソシアネート化合物に水酸基と(メタ)アクリロイル基を含有する化合物を反応させて得ることもできる。このようなジイソシアネート化合物としては、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0060】
水酸基を有する脂肪酸エステル系界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル等が挙げられ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルが好ましい。
【0061】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の市販品としては、例えば、EMALEX HCシリーズ(日本エマルジョン社製)、ノイゲンHCシリーズ(第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0062】
ポリオキシエチレン脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、EMALEX GWIS−100EX(イソステアリン酸グリセリル、日本エマルジョン社製)、ノイゲンGISシリーズ(第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0063】
水酸基を有する脂肪酸エステル系界面活性剤と、イソシアネート基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物との反応は、以下のようにして行うことができる。即ち、イソシアネート化合物と水酸基含有化合物の反応であり、通常ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、ジブチル錫ジラウレート、トリエチルアミン、1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン、2,6,7−トリメチル−1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン等のウレタン化触媒を、反応物の総量100重量部に対して0.01〜1重量部用いるのが好ましい。また、これらの化合物の反応においては、無触媒で行うこともできる。反応温度は、通常0〜90℃であり40〜80℃で行うのが好ましい。反応は、無溶剤で行っても、溶剤に溶解させて行ってもよい。
【0064】
脂肪酸エステル系界面活性剤(C)は、例えば下記式(1)で示される構造を有することができる。
【0065】
【化1】
【0066】
式(1)中、各記号の意味は下記の通りである。Xは置換されていてもよい炭素数3〜10の(m+m)価の炭化水素基を示す。複数個あるY及びYはそれぞれ独立にエーテル結合、エステル結合、或いはウレタン結合を含む2価の基又は単結合を示し、Y及びYの少なくとも1個は脂肪酸に由来する構造を有する。Zは(メタ)アクリロイル基を1個以上有する基を示す。複数個あるR11及びR12はそれぞれ独立に炭素数1〜4の直鎖又は分岐の炭化水素基を示す。m及びmはそれぞれ0〜10の整数であり、n及びnはそれぞれ独立に0〜20の整数である。ただし、m及びmは同時に0ではない。
【0067】
脂肪酸エステル系界面活性剤(C)は、次のようにして合成することができる。水酸基を有する界面活性剤に対し、反応後のHLBが所望の範囲となる様な比率で(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物又は(メタ)アクリル酸を反応させることで得ることができる。例えば、3個の水酸基を有する界面活性剤を原料として使用する場合、原料の界面活性剤のHLBが5の場合は、水酸基の1/3モル当量の(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物又は(メタ)アクリル酸を反応させるだけでもよい。原料の界面活性剤のHLBが9の場合、水酸基の等モル当量の(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物又は(メタ)アクリル酸を反応させることが好ましい。
【0068】
本実施の形態に係る組成物における脂肪酸エステル系界面活性剤(C)の含有量は、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部に対して、0.5〜20質量部の範囲内であり、1〜5質量部の範囲内であることがより好ましい。脂肪酸エステル系界面活性剤(C)の含有量を上記範囲とすることで、十分な指紋拭き取り性が得られる。なお、脂肪酸エステル系界面活性剤(C)が(メタ)アクリロイル基を有しない場合は、自己修復材料の硬度が低下する場合あるため、脂肪酸エステル系界面活性剤(C)の配合量を、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部に対して、10〜50質量部とすることが好ましい。
【0069】
1.2.4.スリップ剤
本実施の形態に係る組成物には、必要に応じてスリップ剤を添加してもよい。スリップ剤を添加することにより表面滑り性が改善されるため、得られる自己修復材料に傷が付きにくくなる。
【0070】
本実施の形態で使用されるスリップ剤としては、シロキサン骨格を有する化合物が好ましい。シロキサン骨格を有する化合物は、表面滑り性を改善し、得られる自己修復材料の耐擦傷性を向上させる効果があると共に、防汚性を付与することもできる。これらの効果により、自己修復材料の自己修復能がより一層高められる。スリップ剤としては、非反応性スリップ剤、反応性スリップ剤のどちらを用いてもよく、又はこれらを混合して用いてもよい。非反応性スリップ剤の例としては、東レ・ダウコーニング株式会社製 SH8400、SH190等が挙げられる。反応性スリップ剤の例としては、ビッグケミー・ジャパン社製 BYK−371、BYK−3500等が挙げられる。
【0071】
本実施の形態に係る組成物におけるスリップ剤の添加量は、ウレタン(メタ)アクリレートの合計を100質量部としたときに、好ましくは0.01〜20質量部、より好まし
くは0.1〜10質量部、特に好ましくは0.5〜8質量部の範囲内である。
【0072】
1.2.5.その他のモノマー
本実施の形態に係る組成物は、上記の成分以外に必要に応じて、その他のモノマー成分を含んでもよい。その他のモノマー成分としては公知のものを広く用いることができるが、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(A)および単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B)と共重合可能なものが好ましい。特に、環状エーテル基、ヒドロキシ基及び芳香族炭化水素基からなる群から選択される置換基を有しかつ1分子中に1又は2のビニル基若しくは(メタ)アクリロイル基又は両方を有するモノマーは、アクリル系基材との密着性を向上させる効果があるため好ましい。ここでアクリル系基材とは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリアルキル(メタ)アクリレート(以下、PMMA類と略記する場合がある。)、PMMA類とポリスチレン共重合体との混合物、PMMA類とアクリロニトリル−スチレン共重合体との混合物、メチル(メタ)アクリレートとスチレンの共重合体、メチル(メタ)アクリレートとスチレンアクリロニトリルの共重合体等をいう。このようなモノマーの具体例として、レゾルシンジエトキシジビニルエーテル、ビスフェノールAジエトキシジビニルエーテル、ビスフェノールSジエトキシジビニルエーテル、ジビニルベンゼン、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート等のラジカル重合性基を2個有する二官能モノマー;(メタ)アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル等のラジカル重合性基を1個有する単官能モノマーが挙げられる。以上例示したモノマーは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用することもできる。その他のモノマー成分の配合量は、全重合性成分中5〜80質量%が好ましく、10〜60質量%がさらに好ましく、25〜50質量%が特に好ましい。5質量%未満の場合、基材との密着性が不足する場合がある。一方、80質量%を超える場合、自己修復の速度が低下する場合がある。
【0073】
1.2.6.その他の添加剤
本実施の形態に係る組成物は、上記成分以外に必要に応じて、単官能モノマー、多官能モノマー、非重合性オリゴマー、重合性オリゴマー、非反応性ポリマー、重合性ポリマー、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、塗面改良剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、着色剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、溶剤、フィラー、老化防止剤、濡れ性改良剤、防汚剤、撥水剤等を含んでもよい。
【0074】
1.2.7.組成物の製造方法
本実施の形態に係る組成物は、上記成分をそれぞれ添加して、室温または加熱条件下で混合することにより調製することができる。具体的には、ミキサー、ニーダー、ボールミル等の公知の混合機を用いて調製することができる。ただし、加熱条件下で混合する場合には、重合開始剤や重合性不飽和基の分解開始温度以下で行うことが好ましい。本実施の形態に係る組成物は、放射線(光)によって硬化反応が進行するため、放射線(光)が遮断された容器内で混合することが好ましい。
【0075】
2.自己修復性部材
本実施の形態に係る自己修復性部材は、基材の表面に上述した自己修復材料からなる被膜が形成された構造を有するものである。基材の表面に自己修復材料からなる被膜が形成されているので、表面に付けられた傷を自律的に自己修復して基材の外観や機能が損なわれることを防止できる。また、上述した自己修復材料が透明性を有しているため、不透明
な基材を使用した場合には、基材が透けて見えるような自己修復部材を得ることができる。一方、透明な基材を使用した場合には、透明な自己修復部材を得ることができる。
【0076】
本実施の形態に係る自己修復性部材は、例えば、基材の表面に上述した組成物を塗布し、熱および/または放射線(光)により硬化させて被膜を形成することにより製造することができる。
【0077】
基材の種類は特に限定されず、基材の厚さも用途により適宜変更することができる。なお、基材の表面に上述の組成物を直接塗布して硬化処理を行った場合に、基材と自己修復材料との密着性が劣る場合には、あらかじめ基材表面にコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理等の処理を行ってもよい。
【0078】
基材への塗布方法は、通常の方法、例えば、スプレー塗工、バーコート塗工、ディッピングコート、フローコート、シャワーコート、ロールコート、スピンコート、転写法、真空圧空法、刷毛塗り等を使用することができる。
【0079】
被膜の厚さは、乾燥、硬化後の膜厚で、好ましくは1〜1,000μmであり、より好ましくは5〜500μmであり、特に好ましくは10〜50μmである。通常のハードコートよりも膜厚を厚くする理由は、傷が基材にまで到達した場合、もはや傷を修復することができないので、基材に傷が容易に到達しない程度の膜厚(体積)を有することが望ましいからである。
【0080】
なお、従来の自己修復性部材では、自己修復材料からなる被膜の厚さが通常100μm、少なくとも50μmを超える必要があった。なお、被膜の厚さが50μm以下となる場合には、被膜の下層としてプライマー層等を別途設ける必要があった。このような厚さが必要な理由としては、従来の自己修復材は硬度の低いものが多かったため傷が基材に到達することを防止すること、及び体積効果を利用する(塗膜層が凹む余地を確保する)ことの2点が挙げられる。一方、本発明に係る自己修復性部材は、自己修復材料からなる被膜の厚さを10μm程度の単層とした場合であっても、従来の自己修復材よりも硬度が高いため傷が基材に到達することを防止できると共に、十分な自己修復能を発現することができる。すなわち、本発明に係る自己修復性部材は、被膜の厚さをより薄くできる点で、従来の自己修復性部材よりも優れている。
【0081】
熱により硬化させて被膜を形成する場合には、前記組成物中に熱硬化剤をさらに添加することが好ましい。一方、放射線(光)を照射することにより硬化させて被膜を形成する場合には、放射線(光)を照射する前に、必要に応じてウレタン(メタ)アクリレートを合成する際に添加された有機溶剤等の揮発成分を0〜200℃の温度で揮発させて除去する工程を設けてもよい。
【0082】
放射線(光)としては、短時間で硬化させることができるものであれば特に限定されないが、照射装置の入手しやすさ等の理由で、紫外線、電子線が好ましい。紫外線の線源としては、水銀ランプ、ハライドランプ、レーザー等を使用でき、また電子線の線源としては、市販されているタングステンフィラメントから発生する熱電子を利用する方式等を使用することができる。放射線として紫外線または電子線を用いる場合、好ましい紫外線の照射光量は0.01〜10J/cmであり、より好ましくは0.1〜2J/cmである。また、好ましい電子線の照射条件は、加速電圧は10〜300kV、電子密度は0.02〜0.30mA/cmであり、電子線照射量は1〜10Mradである。
【0083】
3.実施例
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に
よって何ら限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「%」は質量%を表し、「部」は質量部を表す。
【0084】
3.1.ウレタン(メタ)アクリレートの合成例
3.1.1.合成例1:多官能ウレタン(メタ)アクリレート(U−1)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、トリレンジイソシアネート28.28g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.024g、ジブチル錫ジラウレート(共同薬品工業株式会社製 商品名 KS−1200A−1)0.08gおよびメチルエチルケトン99.95gを仕込み、これらを攪拌しながら液温度が10℃以下になるまで氷冷した。ヒドロキシエチルアクリレートを液温度が20℃以下になるように制御しながら18.85g滴下した後、さらに1時間攪拌して反応させた。次に、数平均分子量650のポリテトラエチレングリコール(保土谷化学工業株式会社製)を52.82g仕込み、液温度70〜75℃にて3時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。このようにして多官能ウレタン(メタ)アクリレート(U−1)を含有する溶液を得た。
【0085】
3.1.2.合成例2:多官能ウレタン(メタ)アクリレート(U−2)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、トリレンジイソシアネート35.49g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.024g、ジブチル錫ジラウレート(共同薬品工業株式会社製 商品名 KS−1200A−1)0.08gおよびメチルエチルケトン99.95gを仕込み、これらを攪拌しながら液温度が10℃以下になるまで氷冷した。ヒドロキシエチルアクリレートを液温度が20℃以下になるように制御しながら23.66g滴下した後、さらに1時間攪拌して反応させた。次に、数平均分子量400のポリエチレングリコール(日油株式会社製)を40.80g仕込み、液温度70〜75℃にて3時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。このようにして多官能ウレタン(メタ)アクリレート(U−2)を含有する溶液を得た。
【0086】
3.1.3.合成例3:多官能ウレタン(メタ)アクリレート(U−3)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、トリレンジイソシアネート14.139g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.024g、ジブチル錫ジラウレート(共同薬品工業株式会社製、商品名「KS−1200A−1」)0.06gおよびメチルエチルケトン49.974gを仕込み、これらを攪拌しながら液温度が10℃以下になるまで氷冷した。ヒドロキシエチルアクリレートを液温度が20℃以下になるように制御しながら9.426g滴下した後、さらに1時間攪拌して反応させた。次に、数平均分子量650のポリテトラエチレングリコール(保土谷化学工業株式会社製)を26.409g仕込み、液温度70〜75℃にて3時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.01質量%以下になった時を反応終了とした。このようにしてウレタン(メタ)アクリレート(U−3)を含有する溶液を得た。
【0087】
3.1.4.合成例4:多官能ウレタン(メタ)アクリレート(U−4)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、トリレンジイソシアネート27.13g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.024g、ジブチル錫ジラウレート(共同薬品工業株式会社製 商品名 KS−1200A−1)0.08gおよびメチルエチルケトン99.95gを仕込み、これらを攪拌しながら液温度が10℃以下になるまで氷冷した。ヒドロキシエチルアクリレートを液温度が20℃以下になるように制御しながら18.12g滴下した後、さらに1時間攪拌して反応させた。次に、数平均分子量700のビスフェノールAのエチレングリコール変性ジオール(日油株式会社製)を54.66g仕込み、液温度70〜75℃にて3時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。このようにして多官能ウレタン(メタ)アクリレート(U−4)を含有する溶液を得た。
【0088】
3.1.5.合成例5:多官能ウレタン(メタ)アクリレート(U−5)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、トリレンジイソシアネート17.52g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.024g、ジブチル錫ジラウレート(共同薬品工業株式会社製 商品名 KS−1200A−1)0.08gおよびメチルエチルケトン99.95gを仕込み、これらを攪拌しながら液温度が10℃以下になるまで氷冷した。テトラメチロールメタントリアクリレート(新中村化学株式会社製)を液温度が20℃以下になるように制御しながら49.62g滴下した後、さらに1時間攪拌して反応させた。次に、数平均分子量650のポリテトラメチレングリコール(保土谷化学株式会社製)を32.732g仕込み、液温度70〜75℃にて3時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。このようにして多官能ウレタン(メタ)アクリレート(U−5)を含有する溶液を得た。
【0089】
3.1.6.合成例6:ウレタン(メタ)アクリレート(U−6)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、ポリイソシアネートとしてトリレンジイソシアネート10.90g、ポリオールとして数平均分子量400のビスフェノールA EO変性グリコール(日油株式会社製)を15.60g、ポリオールとして数平均分子量1000のポリエステルポリオール(株式会社クラレ製 商品名P1010)を22.44g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.024g、ジブチル錫ジラウレート(共同薬品工業株式会社製 商品名 KS−1200A−1)0.08gおよびメチルエチルケトン150gを仕込み、これらを攪拌しながら60〜75℃の液温度にて3時間攪拌を継続させた。その後、水酸基含有(メタ)アクリレートとしてテトラメチロールメタントリアクリレート(新中村化学株式会社製)1.05gを滴下し、これらを攪拌しながら60〜75℃の液温度にて3時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.01質量%以下になった時を反応終了とした。このようにしてウレタン(メタ)アクリレート(U−6)を含有する溶液を得た。
【0090】
3.1.7.合成例7:多官能ウレタン(メタ)アクリレート(U−7)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、トリレンジイソシアネート13.460g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.012g、メチルエチルケトン49.974g、数平均分子量400のビスフェノールAのEO変性ジオール(日油株式会社製)20.629g、数平均分子量1000のポリテトラメチレングリコール(保土谷化学工業株式会社製)12.893gを仕込み、これらを攪拌しながら液温度が15℃以下になるまで氷冷した。そこにジブチル錫ジラウレート(共同薬品工業株式会社製 商品名 KS−1200A−1)0.060gを滴下し、液温度が35℃以下になるように制御しながら3時間反応させた。その後ヒドロキシエチルアクリレート2.991g滴下した後、液温度70〜75℃にて4時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.01質量%以下になった時を反応終了とした。このようにしてウレタンアクリレート(U−7)を含有する溶液を得た。
【0091】
3.1.8.合成例8:多官能ウレタン(メタ)アクリレート(U−8)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、トリレンジイソシアネート13.167g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.012g、メチルエチルケトン49.974g、数平均分子量400のビスフェノールAのEO変性ジオール(日油株式会社製)18.161g、数平均分子量1000のポリテトラメチレングリコール(保土谷化学工業株式会社製)15.134gを仕込み、これらを攪拌しながら液温度が15℃以下になるまで氷冷した。そこにジブチル錫ジラウレート(共同薬品工業株式会社製、商品名「KS−1200A−1」)を0.060g滴下し、液温度が35℃以下になるように制御しながら3時間反応をした。その後ヒドロキシエチルアクリレート3.511gを滴下した後、液温度70〜75℃にて4時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.01質量%以下になった
時を反応終了とした。このようにしてウレタンアクリレート(U−8)を含有する溶液を得た。
【0092】
3.1.9.合成例9:多官能ウレタン(メタ)アクリレート(U−9)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、トリレンジイソシアネート14.728g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.012g、メチルエチルケトン49.974g、数平均分子量400のビスフェノールAのEO変性ジオール(日油株式会社製)20.315g、数平均分子量650のポリテトラメチレングリコール(保土谷化学工業株式会社製)11.004gを仕込み、これらを攪拌しながら液温度が15℃以下になるまで氷冷した。そこにジブチル錫ジラウレート(共同薬品工業株式会社製、商品名「KS−1200A−1」)を0.060g滴下し、液温度が35℃以下になるように制御しながら3時間反応をした。その後ヒドロキシエチルアクリレート3.927gを滴下した後、液温度70〜75℃にて4時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.01質量%以下になった時を反応終了とした。このようにしてウレタンアクリレート(U−9)を含有する溶液を得た。
【0093】
3.1.10.合成例10:多官能ウレタン(メタ)アクリレート(U−10)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、イソホロンジイソシアネート16.000g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.012g、メチルエチルケトン49.974g、数平均分子量400のビスフェノールAのEO変性ジオール(日油株式会社製)19.194g、数平均分子量1000のポリテトラメチレングリコール(保土谷化学工業株式会社製)11.997gを仕込み、これらを攪拌しながら液温度が15℃以下になるまで氷冷した。そこにジブチル錫ジラウレート(共同薬品工業株式会社製、商品名「KS−1200A−1」)を0.060g滴下し、液温度が35℃以下になるように制御しながら3時間反応をした。その後ヒドロキシエチルアクリレート2.783g滴下した後、液温度70〜75℃にて4時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.01質量%以下になった時を反応終了とした。このようにしてウレタンアクリレート(U−10)を含有する溶液を得た。
【0094】
3.1.11.合成例11:ウレタン(メタ)アクリレート(U−11)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、ポリイソシアネートとしてトリレンジイソシアネート12.25g、ポリオールとして数平均分子量400のビスフェノールA EO変性グリコール(日油株式会社製)を19.22g、ポリオールとして数平均分子量1000のポリテトラメチレングリコール(保土谷化学株式会社製)を17.60g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.024g、ジブチル錫ジラウレート0.08gおよびメチルエチルケトン150gを仕込み、これらを攪拌しながら60〜75℃の液温度にて3時間攪拌を継続させた。その後、水酸基含有(メタ)アクリレートとしてグリセリンモノメタクリレート(日油株式会社製)を0.93g滴下し、これらを攪拌しながら60〜75℃の液温にて3時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.01質量%以下になった時を反応終了とした。このようにしてウレタン(メタ)アクリレート(U−11)を含有する溶液を得た。得られたウレタン(メタ)アクリレートの分子量をテトラヒドロフランを溶離液としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社製 HLC−8200GPC、カラム 東ソー(株)製 TSKGel−G4000HXL×1、TSKGel−G3000HXL×1、TSKGel−G2000×2、TSKガードカラムHXL−L×1)により測定したところ、標準ポリスチレン換算の数平均分子量は45万であった。
【0095】
3.1.12.合成例12:ウレタン(メタ)アクリレート(U−12)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、ポリイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート14.65g、ポリオールとして数平均分子量400のビスフェノールA EO変性グリコ
ール(日油株式会社製)を18.00g、ポリオールとして数平均分子量1000のポリテトラメチレングリコール(保土谷化学株式会社製)を16.48g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.024g、ジブチル錫ジラウレート0.08gおよびメチルエチルケトン150gを仕込み、これらを攪拌しながら60〜75℃の液温度にて3時間攪拌を継続させた。その後、水酸基含有(メタ)アクリレートとしてグリセリンモノメタクリレート(日油株式会社製)を0.87g滴下し、これらを攪拌しながら60〜75℃の液温度にて3時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.01質量%以下になった時を反応終了とした。このようにしてウレタン(メタ)アクリレート(U−12)を含有する溶液を得た。得られたウレタン(メタ)アクリレートの分子量をテトラヒドロフランを溶離液としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社製 HLC−8200GPC、カラム 東ソー(株)製 TSKGel−G4000HXL×1、TSKGel−G3000HXL×1、TSKGel−G2000×2、TSKガードカラムHXL−L×1)により測定したところ、標準ポリスチレン換算の数平均分子量は26万であった。
【0096】
3.1.13.合成例13:ウレタン(メタ)アクリレート(U−13)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、ポリイソシアネートとしてトリレンジイソシアネート11.46g、ポリオールとして数平均分子量400のビスフェノールA EO変性グリコール(日油株式会社製)を15.73g、ポリオールとして数平均分子量1000のポリプロピレングリコール(旭硝子ウレタン株式会社製)を21.95g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.024g、ジブチル錫ジラウレート0.08gおよびメチルエチルケトン150gを仕込み、これらを攪拌しながら60〜75℃の液温度にて3時間攪拌を継続させた。その後、水酸基含有(メタ)アクリレートとしてグリセリンモノメタクリレート(日油株式会社製)0.87gを滴下し、これらを攪拌しながら60〜75℃の液温度にて3時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.01質量%以下になった時を反応終了とした。このようにしてウレタン(メタ)アクリレート(U−13)を含有する溶液を得た。得られたウレタン(メタ)アクリレートの分子量をテトラヒドロフランを溶離液としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社製 HLC−8200GPC、カラム 東ソー(株)製 TSKGel−G4000HXL×1、TSKGel−G3000HXL×1、TSKGel−G2000×2、TSKガードカラムHXL−L×1)により測定したところ、標準ポリスチレン換算の数平均分子量は35万であった。
【0097】
3.1.14.合成例14:ウレタン(メタ)アクリレート(U−14)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、イソホロンジイソシアネート18.150g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.024g、ジブチル錫ジラウレート(共同薬品工業株式会社製、商品名「KS−1200A−1」)0.06gおよびメチルエチルケトン49.974g、数平均分子量400のビスフェノールAのEO変性ジオール(日油株式会社製)21.925g、数平均分子量1000のポリテトラメチレングリコール(保土谷化学工業株式会社製)3.364g、数平均分子量1000のポリプロピレングリコール(旭硝子ウレタン株式会社製)3.364g、グリセリンモノメタクリレート(日油株式会社製、商品名「ブレンマーGLM」)3.213gを仕込み、これらを攪拌しながら液温度が70〜75℃にて4時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.01質量%以下になった時を反応終了とした。このようにしてウレタンメタアクリレート(U−14)を含有する溶液を得た。得られたウレタン(メタ)アクリレートの分子量をテトラヒドロフランを溶離液としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社製 HLC−8200GPC、カラム 東ソー(株)製 TSKGel−G4000HXL×1、TSKGel−G3000HXL×1、TSKGel−G2000×2、TSKガードカラムHXL−L×1)により測定したところ、標準ポリスチレン換算の数平均分子量は38万であった。
【0098】
3.1.16.合成例15:単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B−1)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、トリレンジイソシアネート18.50g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.024g、ジブチル錫ジラウレート0.08gおよびメチルエチルケトン99.95gを仕込み、これらを攪拌しながら液温度が10℃以下になるまで氷冷した。ヒドロキシエチルアクリレートを液温度が20℃以下になるように制御しながら12.33g滴下した後、さらに1時間攪拌して反応させた。次に、数平均分子量650のポリテトラメチレングリコール(保土谷化学株式会社製)を69.11g仕込み、液温度70〜75℃にて3時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。このようにして単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B−1)を含有する溶液を得た。
【0099】
3.1.17.合成例16:単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B−2)の製造
攪拌機を備えた反応容器に、トリレンジイソシアネート25.20g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.024g、ジブチル錫ジラウレート0.08gおよびメチルエチルケトン99.95gを仕込み、これらを攪拌しながら液温度が10℃以下になるまで氷冷した。ヒドロキシエチルアクリレートを液温度が20℃以下になるように制御しながら16.83g滴下した後、さらに1時間攪拌して反応させた。次に、数平均分子量400のポリエチレングリコール(日油株式会社製)を57.94g仕込み、液温度70〜75℃にて3時間攪拌を継続させ、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。このようにして単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B−2)を含有する溶液を得た。
【0100】
3.2.脂肪酸エステル系界面活性剤(防汚剤)の製造
3.2.1.合成例17:化合物(C−1)の製造
【化2】
式(2)中、Rは、下記式(3)で表される基である。a+b+c=7である。
【0101】
【化3】
【0102】
撹拌機を取り付けた3つ口フラスコに、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(吉富ファインケミカル社製、ヨシノックスBHT)0.030g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(新中村化学工業株式会社製、NKエステル A−TMM−3LM−N)21.60g、トリレンジイソシアネート(三井化学ポリウレタン株式会社製、TOLDY−100)8.05g、及びメチルイソブチルケトン(三菱化学株式会社製)50.00gを仕込み、そこにジラウリル酸ジオクチル錫(共同薬品株式会社製、KS−1200
−A)0.292gを添加した後、室温で2時間撹拌した。次いで、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(日本エマルジョン株式会社製、EMALEX HC−7;HLB値6)20.03gを添加した。反応液を60℃まで昇温して2時間攪拌し、化合物(C−1)を得た。また、アクリル化反応はほぼ定量的に進行するため、仕込量から求めた化合物(C−1)のHLBは3である。
【0103】
3.3.自己修復性部材の製造
紫外線を遮蔽した容器中において、表1〜表5に記載の組成となるように各材料を加えて室温で2時間攪拌することにより、実施例1〜43および比較例1〜6の各組成物を得た。
【0104】
次いで、実施例1〜38、比較例1〜6では、厚さ188μmのPETフィルム上に、得られた組成物を表1〜表4に記載の膜厚となるようにそれぞれバーコーターで塗布し、80℃オーブンで溶剤を揮発させた後、UV硬化装置(アイグラフィックス社製)を用いて、空気下、1,000mJ/cmで硬化させるか、または140℃にて5分間加熱処理することにより硬化させた。すなわち、実施例16および実施例28では熱硬化処理し、それ以外の実施例および比較例ではUV硬化処理した。得られた硬化膜の表面硬度を高分子計器株式会社製の「アスカーゴム硬度計 TYPE EP」で測定し、いずれも指針値が3以上であることを確認した。
【0105】
一方、実施例39〜43に係る自己修復性部材は、以下のようにして作製した。厚さ3mmのアクリル系基材上に、実施例39、40、42、43では表5に記載の膜厚となるように得られた組成物をアネスト岩田製スプレーガン(型式W−101−101G)を用いてスプレーコーティングし、実施例41では表5に記載の膜厚となるように得られた組成物をバーコーターで塗布した。その後、80℃オーブンで溶剤を揮発させた後、UV硬化装置(アイグラフィックス社製)を用いて、空気下、1,000mJ/cmで硬化させた。得られた硬化膜の表面硬度を高分子計器株式会社製の「アスカーゴム硬度計 TYPE EP」で測定し、指針値が3以上であることを確認した。
【0106】
3.4.評価試験
3.4.1.組成物の状態
上記「3.3.自己修復性部材の製造」の項で得られた組成物を、温度23℃、湿度50%の条件下に静置して、7日後に凝固物が発生しているか否かを目視にて確認した。評価基準は、以下のとおりである。その結果を表に併せて示す。
○:透明かつ均一な溶液である。
×:溶液中に凝固物が発生している。
【0107】
3.4.2.架橋又は絡み合い密度の測定
動的粘弾性測定装置(エー・アンド・デイ株式会社製 RHEOVIBRON MODEL DDV−01FP)を用いて得られた自己修復性部材のゴム状平坦領域における平衡弾性率E’(MPa)を求めた。得られた平衡弾性率E’(MPa)を下記式(4)に代入することにより架橋又は絡み合い密度nを算出した。その結果を表に併せて示す。
n=E’/3RT ・・・(4)
ここで、n:架橋又は絡み合い密度(mol/cm)、R:気体定数(8.314J/(K・mol))、T:絶対温度(K)、E’:平衡弾性率(MPa)である。
【0108】
3.4.3.破断強度、破断伸びおよび抗張積
実施例17〜28および比較例6に係る自己修復性部材について、引張試験機(株式会社島津製作所製、型式「AGS−50G」)を用い、試験片の破断強度および破断伸びを下記測定条件にて測定した。また、得られた破断強度および破断伸びの値から下記式(5
)により抗張積を算出した。その結果を表3に併せて示す。
抗張積=(破断強度)×(破断伸び) ・・・(5)
<測定条件>
引張速度:50mm/分
標線間距離(測定距離):25mm
測定温度:23℃
相対湿度:50%
【0109】
3.4.4.全光線透過率の測定
カラーヘイズメーター(スガ試験機株式会社製 Color Cute iおよびヘイズコンピューター HZ−2)を用い、JIS K7105に準拠して、得られた自己修復性部材(PETフィルム込み)の全光線透過率(%)を測定した。その結果を表に併せて示す。
【0110】
3.4.5.ヘイズの測定
カラーヘイズメーター(スガ試験機株式会社製 Color Cute iおよびヘイズコンピューター HZ−2)を用い、JIS K7105に準拠して、得られた自己修復性部材(PETフィルム込み)のヘイズ値(%)を測定した。その結果を表に併せて示す。
【0111】
3.4.6.貼り合わせ試験
得られた自己修復性部材の硬化膜の表面同士を貼り合わせた後、剥がして両面の状態を目視により観察した。その結果を表に併せて示す。なお、表において、両硬化面に粘着性物質の付着が見られた場合を「あり」、両硬化面に粘着性物質の付着が見られなかった場合を「なし」と記載した。
【0112】
3.4.7.耐擦傷性試験
#0000のスチールウール(日本スチールウール株式会社製)を用い、JIS K5400に準拠して、硬化膜の表面を荷重100g/cmの条件で10回繰り返し擦過した。その後、硬化膜の表面の状態を目視により観察した。評価基準は、以下のとおりである。その結果を表に併せて示す。
○:硬化膜の表面に傷が認めらない。
×:硬化膜の表面に傷が認められる。
【0113】
3.4.8.傷の消失試験
真鍮ブラシ(トラスコ中山株式会社製 品番 TB−5008−10)を用い、硬化膜の表面を10回繰り返し擦過して傷を付けた。その後、硬化膜の表面に付けられた傷が3分以内に消失するか否かを目視にて確認した。評価基準は、以下のとおりである。その結果を表に併せて示す。
○:3分以内に傷が消失した。
×:傷が消失するのに3分以上かかった、あるいは傷が消失しなかった。
【0114】
3.4.9.カール性
上記「3.2.自己修復性部材の製造」で得られた自己修復性部材を10cm×10cmの正方形に切り出し、四隅の反り上がり量の平均値を測定した。評価基準は、以下のとおりである。その結果を表に併せて示す。
○:反り上がり量の平均値が1mm以下であった。
×:反り上がり量の平均値が1mmを超えていた。
【0115】
3.4.10.指紋拭き取り性
実施例29〜38で得られた自己修復性部材の裏面を黒打ちし、自己修復性部材の硬化膜表面に指紋を付着させた。その後、指紋をテッシュで拭き取り、下記評価基準に従って評価した。
○:拭き取れる。
×:拭き取れない。
【0116】
3.4.11.塗膜外観
実施例39〜43で得られた自己修復性部材を目視にて観察し、以下の評価基準に従って評価した。
○:硬化膜180mm×100mm中にゆず肌状の面観が確認できない。
×:硬化膜180mm×100mm中にゆず肌状の面観が一部分もしくは全体的に確認できる。
【0117】
3.4.12.クロスカット試験
実施例39〜43で得られた自己修復性部材について、JIS K5600−5−6に準拠して評価した。全く、或いは、一部しかはがれないものを合格として○、全剥離したものを不合格として×とした。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
【表5】
【0123】
なお、表1〜表5中に記載した略号等は下記の通りであり、表1〜表5の組成には固形分のみが記載されている。
・U−1:合成例1で製造した多官能ウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[O
H]=2.00)
・U−2:合成例2で製造した多官能ウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[OH]=2.00)
・U−3:合成例3で製造した多官能ウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[OH]=2.00)
・U−4:合成例4で製造した多官能ウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[OH]=2.00)
・U−5:合成例5で製造した多官能ウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[OH]=2.00)
・U−6:合成例6で製造した多官能ウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[OH]=1.02)
・U−7:合成例7で製造した多官能ウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[OH]=1.20)
・U−8:合成例8で製造した多官能ウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[OH]=1.25)
・U−9:合成例9で製造した多官能ウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[OH]=1.25)
・U−10:合成例10で製造した多官能ウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[OH]=1.20)
・U−11:合成例11で製造したポリウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[OH]=1.43、数平均分子量:45万)
・U−12:合成例12で製造したポリウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[OH]=1.07、数平均分子量:26万)
・U−13:合成例13で製造したポリウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[OH]=1.07、数平均分子量:35万)
・U−14:合成例14で製造したポリウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[OH]=1.33、数平均分子量:38万)
・B−1:合成例15で製造した単官能ウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[OH]=1.00)
・B−2:合成例16で製造した単官能ウレタン(メタ)アクリレート([NCO]/[OH]=1.00)
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:日本化薬株式会社製、KAYARAD DPHA
・テトラエチレングリコールジアクリレート:共栄社化学株式会社製、ライトアクリレート4EG−A
・ポリプロピレングリコールモノメタクリレート:日油株式会社製、ブレンマーPP 800
・Irg.184:BASFジャパン株式会社製、光重合開始剤
・パーブチルZ:日油株式会社製、熱硬化剤
・BYK371:ビッグケミー・ジャパン社製、スリップ剤
・SH8400:東レ・ダウコーニング株式会社製、スリップ剤
・SH190:東レ・ダウコーニング株式会社製、スリップ剤
・BYK3500:ビッグケミー・ジャパン社製、スリップ剤
・HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
・THF−A:テトラヒドロフルフリルメタクリレート
【0124】
なお、ポリウレタン(メタ)アクリレート(U−11〜U−14)の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションカラムクロマトグラフィー(GPC)により保持容量を測定し、その保持容量から標準ポリスチレン法により数平均分子量(Mn)へ換算することにより求めた。その具体的な測定条件は、下記の通りである。
・使用機種:東ソー株式会社製、HLC−8200GPC
・溶媒:テトラヒドロフラン
・カラム:東ソー株式会社製、TSKGel−G4000HXL×1、TSKGel−G3000HXL×1、TSKGel−G2000×2、TSKガードカラムHXL−L×1
【0125】
3.5.評価結果
表1の結果から、本発明に係る実施例1〜16の自己修復性部材によれば、優れた透明性を有し、耐擦傷性試験の結果から傷が付きにくい(すなわち硬度が高い)こと及び傷の消失試験の結果から自律的な自己修復能にも優れていることが判った。特に自己修復材料のウレタン基濃度が2.0mmol/g以上でかつ架橋又は絡み合い密度が0.2〜2.5mmol/cmの範囲内であると、自己修復材料の自己修復能が効果的に発揮されることが判った。以上のように、本発明に係る自己修復性部材は、特に高い硬度及び優れた自己修復性を併せ持つ点で、従来の自己修復性部材とは異なるものである。
【0126】
表3に記載の実施例17〜28は、水酸基含有(メタ)アクリレートのモル数を少なくし、ポリイソシアネートとポリオールとを合成させることにより得られたウレタン系ポリマーを含有する組成物を硬化反応させて形成されたものである。このウレタン系ポリマーは、ウレタン基の分子間相互作用およびビスフェノールA骨格のスタッキング作用に基づく凝集層(ハード層)と、ポリテトラメチレングリコール等の長鎖セグメント(ソフト層)を有している。実施例17〜28より、このような自己修復性部材はポリマー構造に基づく分子鎖の絡み合いにより、高い靱性および延伸性を示すことが判った。これらの自己修復性部材は高延伸性を示すことから、インモールド成形用材料、特に延伸性が要求される真空圧空成形材に好適であると考えられる。
【0127】
表4に記載の実施例29〜38は、本発明に係る自己修復性部材に防汚剤を添加したものである。これらの結果より、本発明に係る防汚剤を添加した自己修復部材によれば、良好な指紋拭き取り性が発現することが判った。このような自己修復性部材は耐擦傷性、自律的な自己修復能に優れることに加えて指紋の付着をも防ぐことができるため、直接手に持って使用する物品、例えば携帯情報端末のコーティング材として好適であると考えられる。
【0128】
表5に記載の実施例39〜43は、本発明に係る自己修復性部材形成用組成物をアクリル系基材に塗布し、基材との密着性と自己修復性能とを評価したものである。ここで用いたアクリル系基材は、メタクリル酸メチル(MMA)と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)とを40/10(wt/wt)の割合で含有する(メタ)アクリル系共重合体と、スチレンとアクリロニトリルとを73/27(mol/mol)の割合で含有するスチレン−アクリロニトリル共重合体と、を90/10(wt/wt)の割合で含有するものである。これらの結果より、本発明に係る組成物によれば表面塗膜とアクリル系基材とが良好に密着し、かつ高い自己修復性を発現する自己修復性部材が得られることが判った。アクリル系材料は比較的安価で透明性に優れ、かつ吸湿性が低く寸法安定性にも優れることから、このような自己修復性部材は表示装置の外部構成部材や、携帯情報端末の前面板のコーティング材、またはこれらに貼付して用いられる傷付き防止フィルムに好適であると考えられる。
【0129】
図2乃至図4は、実施例1に係る自己修復性部材の傷の消失試験の様子を示す写真である。なお、図2は、自己修復性部材の表面に真鍮ブラシで傷を付けた直後の状態を示す写真である。図3は、自己修復性部材の表面に真鍮ブラシで傷を付けた3秒後の状態を示す写真である。図4は、自己修復性部材の表面に真鍮ブラシで傷を付けた3分後の状態を示す写真である。図2乃至図4の写真から、実施例1に係る自己修復性部材の表面に付けら
れた傷は、3秒後には修復が進行している様子が確認され、3分以内に目視で確認できない程度にまで消失していることがわかる。
【0130】
一方、比較例1〜3の自己修復性部材では、硬い骨格に片末端長鎖メタクリレートを組み合わせた材料を用いている。比較例1の耐擦傷性試験では、得られた自己修復性部材にカールがあり、そのカールを伸ばしたときに部分的にクラックが入ったため試験することができなかった。また、比較例1の傷の消失試験では、得られた自己修復性部材の硬化膜に傷が全く付かなかった。一方、比較例2および3では付いた傷が全く消失しなかった。
【0131】
比較例4〜5の自己修復性部材では、柔らかい骨格に片末端長鎖メタクリレートを組み合わせた材料を用いているが、付いた傷が全く消失しなかった。
【0132】
比較例6では、[NCO]/[OH]=1.00となる単官能ウレタン(メタ)アクリレート(B−1)のみを含有する組成物を硬化反応させたが、十分な硬度を有する膜を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明に係る自己修復材料は、優れた硬化性および透明性を有すると共に、優れた自己修復能を自律的に発揮することができる。そのため、透明性および耐擦り傷性が要求される製品、例えば携帯情報機器、携帯通信端末、皮革製品、自動車のインパネ、家電製品、パーソナルコンピューター等の様々な物品の表面に、本発明に係る自己修復材料を適用することにより外観や機能が損なわれることを効果的に防止することができる。
【符号の説明】
【0134】
10a…多官能ウレタン(メタ)アクリレートによる三次元架橋構造、10b…単官能ウレタン(メタ)アクリレートによる分岐鎖、12…架橋点、100…自己修復材料
図1
図2
図3
図4