【文献】
田尻晋太郎 他,銀ナノ粒子を用いた新規な可視光応答型光触媒の抗菌効果,第66回日本生物工学会大会講演要旨集,2014年 8月 5日,Page225(3P-123)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。
【0013】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態である三元複合体は、銀ナノ粒子と有機半導体とクレイを液相で混合してなる光機能性材料である。以下、三元複合体の製造方法を
図1に基づいて説明する。
【0014】
(原料液A:銀ナノ粒子水分散液の調製)
液相還元法によって銀ナノ粒子水分散液を調製する。ここで、最終生成物である三元複合体の光感応波長域が原料液Aに含まれる銀ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴による吸収波長域に依存するところ、プラズモン共鳴の吸収波長域は、銀ナノ粒子の結晶サイズに依存することが知られている。この点につき、以下の方法によれば、可視領域〜赤外領域にプラズモン共鳴の吸収波長域を持つ銀ナノ粒子を制御よく作製することができる。以下、原料液Aの好ましい調製方法を
図2に基づいて説明する。
【0015】
図2に示すように、本実施形態の調製方法は、大きく分けて3つの工程からなる。まず、第1の工程では、晶癖制御剤を含む銀イオン水溶液を調製する。具体的には、水(好ましくは純水、より好ましくは超純水)をよく攪拌しながら、これに硝酸銀(AgNO
3)などの銀塩と晶癖制御剤を加えることよって銀イオン水溶液を調製する。ここで、本実施形態で用いる晶癖制御剤の好適な例としては、銀結晶の(111)面に対して選択的な吸着性を示すクエン酸を挙げることができる。
【0016】
続く第2の工程では、上述した銀イオン水溶液をよく攪拌しながら、これに還元剤を添加する。添加された還元剤により、水溶液中の銀イオンが還元され、非常に微小な銀の結晶が形成される。本実施形態で用いる還元剤の好適な例としては、テトラヒドロホウ酸ナトリウム(NaBH
4)を挙げることができる。
【0017】
続く第3の工程では、上述した手順で得られた微小な銀結晶を含む水分散液をよく攪拌しながら、これに酸化剤を添加する。本実施形態で用いる酸化剤の好適な例としては、過酸化水素(H
2O
2)を挙げることができる。酸化剤が添加されると、水分散液中の金属銀の溶解度が増し、微小な銀結晶の一部が再イオン化する。そこで、酸化剤を複数回に分けて添加したり、添加流量を制御しながら酸化剤を連続添加するなどして、一定レベルの銀イオンが反応系に終始にわたって安定的に存在するようにしむけると、オストワルド熟成が進行し、大きい結晶が選択的に成長していく一方で、小さい結晶は消滅していく。その結果、反応系に主平面の長径サイズが増大化したプレート状の銀ナノ粒子が主成分として生き残る。こうして得られた大サイズの銀ナノ粒子は、可視領域〜赤外領域にプラズモン共鳴の吸収波長域を持つ。
【0018】
なお、最終生成物である三元複合体に期待する光感応波長域に応じて、原料液Aの銀ナノ粒子のサイズを制御することが必要となるが、本実施形態においては、第1の工程における銀イオンと晶癖制御剤の濃度、第2の工程における添加する還元剤の量、攪拌効率、反応温度などを調整することによって銀ナノ粒子のサイズを制御することが可能となる。
【0019】
(原料液B:有機半導体溶液の調製)
有機半導体を適切な有機溶媒に加えて混合・攪拌することで有機半導体の有機溶液を調製する。ここでいう有機半導体とは、半導体としての性質を示す有機物を意味し、好ましくは、有機電荷移動錯体であり、より好ましくは、窒素原子−ホウ素原子錯体構造を有する電荷移動型ボロンポリマーである。
【0020】
図3(a)は、原料液Bの材料として好適な電荷移動型ボロンポリマーの分子構造を模式的に示す。ここで、電荷移動型ボロンポリマーは、半極性有機ホウ素高分子化合物と三級アミンを反応させることによって得られる高分子電荷移動型結合体である。
図3(b)に示すように、電荷移動型ボロンポリマーにおいては、半極性有機ホウ素高分子の半極性結合の部分と塩基性窒素とが結合することによってイオン対を形成する。このときに生じた酸性プロトンがホウ素側と窒素側の両方に結合性を残すかたちで移動することで共鳴構造を呈し、それが電子の動きをもたらしてフェルミ準位を与えることでp型半導体として振る舞うものと考えられている。なお、
図3(b)に構造式を示した電荷移動型ボロンポリマーは1つ例示であって、原料液Bの材料がこれに限定されないことはいうまでもない。
【0021】
(原料液C:クレイ分散液の調製)
クレイを適切な有機溶媒に加えて混合・攪拌することでクレイの有機分散液を調製する。ここでいうクレイとは、層状ケイ酸塩鉱物を意味し、好ましくは、スメクタイトである。なお、本実施形態においては、層間カチオンを有機イオンに置換することで親油化したクレイを用いることが好ましい。
【0022】
(3液混合)
最後に、手順で調製した原料液A、BおよびCを適切な配合比で混合・攪拌した後、十分な時間静置する。この間、混合溶液中で銀ナノ粒子とクレイと有機半導体とが互いに静電気的に吸着して複合化してABC複合体となる。以下、この三元複合体をABC複合体として参照する。本実施形態においては、混合溶液中に形成されたABC複合体を適切な方法で分離し、これを用途に応じた方法で精製する。
【0023】
以上、ABC複合体の製造方法について説明してきたが、次に、光機能性材料であるABC複合体の内部光電効果について説明する。本発明者は、ABC複合体の構造とその内部光電効果のメカニズムについて以下のように推察する。
【0024】
ABC複合体においては、有機半導体分子が銀ナノ粒子の表面に吸着しており、両者の接合界面付近の有機半導体側にショットキー接合による内蔵電位差が生じているものと推察する。
【0025】
ABC複合体に光が入射すると、銀ナノ粒子との接合界面近傍の有機半導体の自由電子が励起される。この光エネルギーによる励起だけでは、有機半導体の自由電子はバンドギャップを超えることができないが、銀ナノ粒子に発生する局在表面プラズモン共鳴による電場増強によって更に励起されることで、有機半導体の自由電子がバンドギャップを超えてキャリアの分離(光電荷分離)が生じるものと推察する。
【0026】
ABC複合体においてクレイ分子は、その層間に複数の有機半導体分子を束ねるように吸着することで有機半導体分子の配向を揃える役割を果たしており、これにより有機半導体分子の導電性を向上させているものと推察する。
【0027】
以上、ABC複合体の内部光電効果について説明してきたが、続いて、光機能性材料であるABC複合体の応用について説明する。
【0028】
(抗菌剤としての応用)
ABC複合体は、抗菌剤に応用することができる。本実施形態の抗菌剤は、光を受けることで抗菌活性を発現する。本発明者は、この光に応答した抗菌活性の発現のメカニズムを以下のように推察する。
【0029】
第1に、ABC複合体に生じた光電荷分離によって、空気との界面で1ボルト以上の帯電が維持されることで、空気中の細菌やウイルス等をいわゆる電界殺菌作用によって死滅させていることが考えられる。第2に、酸化チタンと同様の原理で、光電荷分離により生じたキャリアが空気中の水を酸化・還元することで活性酸素種を産生し、これが空気中の細菌やウイルス等を分解していることが考えられる。
【0030】
なお、酸化チタンが暗所では抗菌作用を発揮しないのに対し、本実施形態の抗菌剤は、抗菌成分であるABC複合体の構成要素である銀ナノ粒子、電荷移動型ボロンポリマーに含まれるホウ素およびクレイのいずれもが独自の抗菌性を有しているため、暗所においても抗菌作用を発揮する。
【0031】
さらに、酸化チタンの感応波長域が紫外領域に限定されているのに対し、本実施形態の抗菌剤の感応波長域は、抗菌成分であるABC複合体を構成する銀ナノ粒子のプラズモン共鳴吸収の吸収波長域を制御することによって(すなわち、銀ナノ粒子の結晶サイズを制御することによって)、自由に設定することができる。例えば、抗菌剤の感応波長域を照明光の波長域(可視領域)を含むように設定することで、手術室など外光が入らない室内で強力な抗菌活性を発現させることも可能になる。近年、医療施設における多剤耐性菌の問題が深刻化しているところ、本実施形態の抗菌剤がその問題解決の一助となることが期待される。また、抗菌剤の感応波長域を赤外領域の波長域を含むように設定することで、屋外において、太陽光の膨大な赤外放射エネルギーを利用して強力な抗菌活性を発現させることも可能になる。
【0032】
(光電変換素子としての応用)
ABC複合体は光電変換素子に応用することができる。ここでいう光電変換素子には、光センサや太陽電池が含まれる。
図4は、ABC複合体を応用した光電変換素子10の模式図を示す。
図4(a)に示すように、光電変換素子10は、裏面電極12(Alなど)の上に、ABC複合体を含むABC複合体層16、透明電極層18(ITO、SnO
2など)および透明基板19(ガラス、プラスチックなど)を積層した構造を備えており、ABC複合体層16が光電変換層として機能する。
【0033】
本実施形態の光電変換素子10に対して光を照射すると、光は透明基板19および透明電極層18を透過してABC複合体層16に入射する。これを受けて、ABC複合体を構成する銀ナノ粒子と有機半導体の接合界面近傍に光電荷分離が生じる。バンドギャップを超えた自由電子がABC複合体層16内の銀ナノ粒子を介して透明電極層18側に移動する一方で、正孔はABC複合体層内の有機半導体を介して裏面電極12側に移動し、その結果、両電極間に電流が流れる。
【0034】
また、光電変換素子10の光電変換層は、
図4(b)に示すように、ABC複合体層16とBC複合体層14を積層した2層構造とすることもできる。ここで、BC複合体は、ABC複合体の構成要素である有機半導体とクレイを液相で混合してなる二元複合体である。この場合、ABC複合体層16とBC複合体層14の間の仕事関数の差により電流の向きが安定化する。なお、ABC複合体層およびBC複合体層は、転写法や塗布成膜法によって形成することができる(以下において同様)。
【0035】
本実施形態の光電変換素子10では、ABC複合体を構成する銀ナノ粒子の結晶サイズを制御することによって、その感応波長域を自由に設定することができる。よって、ABC複合体の感応波長域を赤外領域を含むように設定すれば、これまで利用することができなかった太陽光の膨大な赤外放射エネルギーから電気を取り出すことが可能になる。
【0036】
(光感応式ポインティングデバイスしての応用)
ABC複合体は光ビームの入射位置を入力位置として検出する光感応式ポインティングデバイスに応用することができる。
図5は、ABC複合体を応用した光感応式ポインティングデバイス20の模式図を示す。
図5に示すように、光感応式ポインティングデバイス20は、ガラス基板22の上に、透明電極層24(ITO、SnO
2など)、ABC複合体を含むABC複合体層26、および保護層28(ガラス、プラスチックなど)を積層した構造と、透明電極層24の両端に電流検出用抵抗を通して同相・同電位の交流電圧を印加し、静電容量方式で入力位置を検出するための位置検出手段(図示せず)とを含んで構成されている。
【0037】
換言すれば、本実施形態の光感応式ポインティングデバイス20は、従来の静電容量方式タッチパネルの構造において、透明電極層と保護層の間にABC複合体を含む層を挿入した構成を備えている。
【0038】
本実施形態の光感応式ポインティングデバイス20では、ABC複合体を構成する銀ナノ粒子の結晶サイズを制御することによって、その感応波長域を自由に設定することができる。
【0039】
従来の静電容量方式タッチパネルが指が触れた位置を入力位置として検出していたのに対し、本実施形態の光感応式ポインティングデバイス20は、光ビームが入射した位置を入力位置として検出する。
図5に示すように、光感応式ポインティングデバイス20に向けて所定波長の光ビームを照射すると、当該光ビームは保護層28を透過してABC複合体層26に入射する。このとき、ABC複合体層26の光ビームが入射した部位に光電荷分離に起因した静電容量の変化が生じ、この変化を位置検出手段(図示せず)が検出する。
【0040】
以上、本発明の第1実施形態である三元複合体について説明してきたが、次に、本発明の第2実施形態である二元複合体について説明する。
【0041】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態である二元複合体は、銀ナノ粒子とクレイを液相で混合してなる光機能性材料である。本実施形態の二元複合体の製造にあたっては、銀ナノ粒子水分散液(原料液A)とクレイ分散液(原料液C)を適切な配合比で混合・攪拌した後、十分な時間静置する。この間、混合溶液中で銀ナノ粒子とクレイが互いに静電気的に吸着して複合化する。その後、この複合体を適切な方法で分離・精製することで本実施形態の二元複合体を得る。以下、この二元複合体をAC複合体として参照する。なお、原料液Aおよび原料液Cの調製方法は、第1実施形態において説明した内容と基本的には同じである。ただし、原料液Cは、親水性のクレイ(好ましくは、スメクタイト)を使用して調製することが好ましい。
【0042】
以上、AC複合体の製造方法について説明してきたが、続いて、光機能性材料であるAC複合体の応用について説明する。
【0043】
(薄膜太陽電池の発電効率を向上させる機能層としての応用)
AC複合体は、薄膜太陽電池の発電効率を向上させる機能層に応用することができる。
図6は、AC複合体を応用して構成した薄膜太陽電池30の模式図を示す。
図6に示すように、薄膜太陽電池30は、裏面電極32(Alなど)の上に、発電層34(有機半導体化合物、CIGS化合物、アモルファスシリコンなど)、ITO透明電極層36、AC複合体を含むAC複合体層38、および透明基板39(ガラス、プラスチックなど)を積層した構造を備えている。
【0044】
換言すれば、本実施形態の薄膜太陽電池30では、従来の薄膜太陽電池の構造において、発電層を被覆するITO透明電極層と透明基板の間にAC複合体を含む層を挿入した構成を備えている。本発明者は、当該構成の採用により薄膜太陽電池の発電効率が向上する理由を以下のように推察する。
【0045】
図6において、薄膜太陽電池30に対して太陽光が入射すると、太陽光は、透明基板39、AC複合体層38およびITO透明電極層36を透過して発電層34に到達し、発電層34において光電荷分離による起電力が生じる。このとき、AC複合体層38を透過する太陽光がAC複合体を構成する銀ナノ粒子の表面に局在表面プラズモン共鳴を発生させる結果、銀ナノ粒子と透明電極層36のITO(半導体)の接合界面近傍に光電荷分離が生じる。このとき、ITO内で生じた起電力と発電層34内で生じた起電力が重畳することによって、薄膜太陽電池30の発電効率が向上するものと推察される。
【0046】
本実施形態の薄膜太陽電池30では、AC複合体を構成する銀ナノ粒子の結晶サイズを制御することによって、その感応波長域を自由に設定することができる。よって、AC複合体の感応波長域を赤外領域を含むように設定すれば、これまで利用することができなかった太陽光の膨大な赤外放射エネルギーから電気を取り出すことが可能になる。
【0047】
以上、説明したように、本発明によれば、新規な光機能性材料として銀ナノ粒子を含む複合体が提供される。本発明の複合体は、常温常圧の湿式プロセスにより簡便に製造することができ、大平面化も容易であり、且つ、その感応波長域を紫外領域から赤外領域にかけて自由に設定することができるので、光機能性材料として様々な応用展開が期待できる。
【0048】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、当業者が推考しうるその他の実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0049】
以下、本発明のABC複合体について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0050】
<ABC複合体の作製>
以下の手順で本発明のABC複合体を作製した。なお、試薬は全て和光純薬工業社製の特級グレードのものを使用した。
【0051】
(原料液A:銀ナノ粒子水分散液の調製)
純水10リットルを攪拌しながら、これに500mMクエン酸三ナトリウム水溶液60mLおよび100mM硝酸銀水溶液20mLを順次加えて第1液を調製した。また、超純水10リットルを攪拌しながら、これにテトラヒドロホウ酸ナトリウム0.76gを加えて溶解し第2液を調製した。続いて、第1液および第2液それぞれをダイヤフラムポンプを用いて流速5リットル/分でスタティックミキサー内に送液して混合した。その結果、混合液は薄黄色を呈した。
【0052】
薄黄色を呈する混合液(1650mL)を撹拌しながら、これに300mMクエン酸三ナトリウム水溶液407μlを加え、さらに、これに対して、30%過酸化水素水990μlを加えて3時間攪拌した。その結果、藍色を呈する銀ナノ粒子水分散液(0.001wt%)を得た。
【0053】
図7は、上述した手順で調製した銀ナノ粒子水分散液の吸収スペクトルを分光光度計(V-670UV/Vis/NIR,日本分光社製)を用いて測定した結果を示す。
図7に示すように、プレート状の銀ナノ粒子に由来するシャープな吸収バンドが336nm付近に現れるとともに、720nm付近をピークとするブロードな吸収バンドが現れた。一方、非プレート状の銀ナノ粒子に由来する吸収バンド(400〜420nm付近をピークとするバンド)は現れなかった。この結果から、調製した銀ナノ粒子水分散液が概ねプレート状の銀ナノ粒子のみを含むことが示された。
【0054】
(原料液B:有機半導体溶液の調製)
有機半導体として帯電防止剤(BN−2、ボロンインターナショナル社製)を使用した。1gのBN−2を300mLのビーカに計り取り、エタノール100gを加えて超音波照射することによって、BN−2溶液(1wt%エタノール)を得た。
【0055】
(原料液C:クレイ分散液の調製)
クレイとして親油性合成スメクタイト(SAN、コープケミカル社製)を使用した。SANの白色粉末1gを300mLのビーカに計り取り、トルエン100gを加えて15分間超音波照射することによって、クレイ分散液(2wt%トルエン)を得た。
【0056】
(3液の混合)
原料液A〜Cを銀ナノ粒子、BN−2およびSANの固形分比が1:2:1となるように混合した。具体的には、酢酸ブチル15mLに原料液B(972μl)と原料液C(243μl)を入れて混合したものに対して、原料液A(486mL)をスターラーで高速撹拌しながら投入し、そのまま数分撹拌してから一晩静置した。その結果、容器中の液体は無色の水層(下層)と酢酸ブチル層(上層)に相分離し、その界面に濃い紺色の層が現れた。この紺色の層を試験管に取り、溶媒を留去したところぺースト状のABC複合体が得られた。
【0057】
<抗菌活性の検証>
以下の手順で、本発明のABC複合体の抗菌活性を調べた。
【0058】
(菌液の調製)
試験菌として、腸管出血性病原性大腸菌E.coli O157:H7を使用した。具体的には、福岡県保健環境研究所が独自に分離したE.coli O157:H7の菌株をリフレッシュした後、これ接種したブイヨン液体培地10mLを振とう機で培養した(30℃・24時間・120rpm)。この培養液を10
7倍に希釈したものを菌液として使用した。
【0059】
(培養条件)
上述した手順で作製したぺースト状のABC複合体を酢酸ブチルで128倍に希釈した。以下、この128倍希釈液を抗菌剤という。次に、ブイヨン平板培地(1/100濃度)を用意し、抗菌剤を塗布した平板培地と抗菌剤を塗布しない平板培地のそれぞれに対して、上述した手順で調製した菌液を100μl接種した後、インキュベータ(温度30℃)内を下記(1)〜(4)に示す5種類の光条件に置いて、数日間培養した。
(1)暗所
(2)白色光を照射
(3)赤色光を照射
(4)青色光を照射
(5)緑色光を照射
【0060】
すなわち、本実験では、抗菌剤の有無と5種類の光条件の組み合わせによる10個の条件について、条件ごとに2つの培地を用意して培養を行った。また、光源としてLEDを使用し、その照射光量を室内光レベルと同等の15μmol・m
-2・s
-1とした。
【0061】
(培養結果)
数日間の培養後、培地に発生したコロニー数をカウントした。本実験では、各条件について用意した2つの培地のカウント数の平均を当該条件のコロニー数とし、5種類の光条件につき、下記式(1)に基づいて抗菌率(%)を求めた。
【0062】
【数1】
【0063】
各条件のコロニー数と抗菌率(%)を下記表1にまとめて示す。
【0064】
【表1】
【0065】
上記表1に示す結果から、本発明のABC複合体は、暗所において一定の抗菌活性を示し、且つ、ABC複合体を構成する銀ナノ粒子の吸収バンドに合致する波長光を受けると、その抗菌活性が大幅に増強することが示された。
【0066】
<内部光電効果の検証>
本発明のABC複合体の内部光電効果を調べた。
【0067】
(実験用セルの作製)
以下の手順で
図8に示す実験用セルを作製した。ポリエーテルスルホンフィルム(PES)にITOを被覆してなる透明導電性フィルム52(厚さ約200μm、ペクセル・テクノロジーズ社製)のITO面に、上述した原料液A〜Cを混合して相分離後の界面に現れる紺色の層(ABC複合体)を移しとり、自然乾燥の後にドライヤーで5分間強熱することで、約0.2μmのABC複合体層54を形成した。その後、ABC複合体層54を形成した透明導電性フィルムを2枚のITO電極付きガラス基板56a,56bで挟み、バネ付きクリップで固定したものを実験用セル50とした。
【0068】
(光起電力の測定)
実験用セル50の2枚のガラス基板56のITO電極からとったリードをポテンショ/ガルバノスタット(IVIUM社製)に繋いだ状態で、ABC複合体層54側に白色LED光源を配置して、点灯・消灯を繰り返した。本実験では、白色LED光源を実験用セル上の照射面の照度が10
4luxになるように配置し、光源の点灯・消灯に伴ってITO電極間に発生する起電力を経時的に測定した。
図9は、光起電力の測定結果を示す。
【0069】
図9に示すように、光源の点灯後、起電力は数秒で1.0Vに達した。この結果から、本発明のABC複合体が光起電力効果を有することが示された。一方、光源を消灯すると0.5V程度までは直ちに電位が低下するが、その後は緩やかに電位が減衰した。
【0070】
<光電変換素子としての応用>
本発明のABC複合体を含む光電変換素子を作製し、その動作を検証した。
【0071】
(光電変換素子の作製)
以下の手順で
図10に示す実験セルを作製した。54mgのAgNO
3を300mLの水に溶解させてなる硝酸銀水溶液を脱気下で還流し沸騰させた。これに、15分間脱気した10wt%のクエン酸三ナトリウム水溶液6mLを添加して約1時間還流した後、一晩放置した。その結果、黄色がかった灰色を呈する銀ナノ粒子水分散液を得た。この銀ナノ粒子水分散液の吸収スペクトルを測定したところ、410nm付近に吸収バンドが現れた。
【0072】
親油性合成スメクタイト(STN、コープケミカル社製)の1wt%アセトン溶液2.5mLに、上述した手順で調製した銀ナノ粒子水分散液30mLを加えたところ、緑褐色を呈する沈殿物が析出した。この沈殿物をメタノール洗浄、室温乾燥の後に、γブチロラクトンに超音波分散した。その結果、緑色を呈する透明な分散液を得た。
【0073】
得られた緑色の分散液(固形分3wt%)に厚さ30μmのガラス繊維紙(日本板硝子社製)を1分間浸漬して引き上げた後、続いて、帯電防止剤(BN−2、ボロンインターナショナル社製)のエタノール溶液(10wt%)に5分間含浸させた。その後、ガラス繊維紙を大量のメタノールで洗浄して風乾した結果、内部にABC複合体が形成されたガラス繊維紙64(濃緑色)を得た。
【0074】
次に、帯電防止剤(BN−2、ボロンインターナショナル社製)と親油性合成スメクタイト(SEN、コープケミカル社製)を固形分比で2:1になるように配合したエタノール溶液(固形分5wt%)をITO電極付きガラス基板62aのITO面上に塗布乾燥して厚さ数μm程度のBC複合体層65を形成した。その後、BC複合体層65上にABC複合体が形成されたガラス繊維紙64を載せ、さらにガラス繊維紙64の上にもう1枚のITO電極付きガラス基板62bのITO面を重ね合わせた後、2枚のITO電極付きガラス基板62a,62bをバネ付きクリップで固定したものを実験セルとした。
【0075】
(光電流の測定)
作製した実験セルの2枚のガラス基板のITO電極からとったリードをポテンショ/ガルバノスタット(IVIUM社製)に繋いだ状態で、白色LED光源を着色繊維紙側に配置して、点灯・消灯を繰り返した。本実験では、白色LED光源を実験用セル上の照射面照度が10
4luxになるように配置し、光源の点灯・消灯に伴って発生する電流を経時的に測定した。
図11は、測定結果を示す。
【0076】
図11に示すように、光源を点灯すると数秒で数百nA程度の電流が立上がり、飽和に達した後に恒常的な電流が流れ続けた。この結果から、作製した実験セルが光電変換素子として機能することが示された。一方、光源を消灯すると百nAまでは直ちに電流値が低下し、その後は緩やかに電流が減衰した。
【0077】
<薄膜太陽電池の発電効率を向上させる機能層としての応用>
本発明のAC複合体からなる機能層既存の薄膜太陽電池セルに追加して、その効果を検証した。
【0078】
(AC複合体の作製)
超純水140mLを攪拌しながら、これに450mMクエン酸三ナトリウム水溶液2.5mLおよび100mM硝酸銀水溶液750μlを順次加えて出発溶液を調製した。調製した出発溶液を攪拌しながら、300mMテトラヒドロホウ酸ナトリウム水溶液2.5mLを還元剤として添加した。還元剤の添加に伴い、水溶液が薄黄色を呈したのを確認した後、直ちに、30%過酸化水素水3.6mLを加えて攪拌を続けた。以降、1時間毎に30%過酸化水素水3.6mLを撹拌しながら加える工程を14回繰り返して行った。その結果、薄灰色で光をよく乱反射・散乱する銀ナノ粒子水分散液(0.0038wt%)を得た。
【0079】
図12は、上述した手順で調製した銀ナノ粒子水分散液の吸収スペクトルを分光光度計(V-670UV/Vis/NIR,日本分光社製)を用いて測定した結果を示す。
図12に示すように、プレート状の銀ナノ粒子に由来するブロードな吸収バンドが338nm付近に現れた。一方で、非プレート状の銀ナノ粒子に由来する吸収バンド(400〜420nm付近をピークとするバンド)は現れなかった。この結果から、調製した銀ナノ粒子水分散液が概ねプレート状の銀ナノ粒子のみを含むことが示された。
【0080】
光の乱反射・散乱が肉眼で顕著に観察されることは、調製した銀ナノ粒子水分散液に主平面の長径がμmオーダーに達する大サイズのプレート状粒子が含まれることを示唆する。測定限界によりその吸収バンドを確認することはできなかったが、調製した銀ナノ粒子水分散液には1300nm以上の赤外領域に最大吸収波長を有するプレート状粒子が含まれることが推察された。
【0081】
上述した手順で調製した銀ナノ粒子水分散液100mLに親水性有機化クレイ(SA#3、クニミネ工業社製)の1wt%溶液(溶媒IPA75,水25)42.5mLを加え、さらにメチルエチルケトン10mLを加えて撹拌して超音波洗浄機で数分間混合した。その結果、やや空色に色味がかった灰色を呈する本発明のAC複合体の分散液が得られた。
【0082】
市販の薄膜太陽電池(LL-37、パワーフィルム社製)をイソプロピルアルコール中に一昼夜浸漬した後に最外表面のラミネート層を剥離してITO透明電極層を露出させた。その後、露出したITO透明電極層を上述した手順で調製したAC複合体の分散液に数秒間浸漬して引き上げ、直ちにエアーで残留する塗料を吹き飛ばした後にドライヤーで室温乾燥するという工程を数回繰り返した。その結果、市販の薄膜太陽電池のITO透明電極層の表面にAC複合体の膜が形成された。
【0083】
(光電流の測定)
ITO透明電極層の表面にAC複合体膜を形成した薄膜太陽電池(実施例)とAC複合体膜を形成しない薄膜太陽電池(比較例)を用意し、各薄膜太陽電池にキノセン光(波長域:可視〜近赤外)を照射して短絡電流を測定した。その結果、実施例の短絡電流が比較例のそれに比べて10〜20%増大することが分かった。
【解決手段】本発明によれば、銀ナノ粒子と有機半導体とクレイを液相で混合してなる三元複合体が提供される。前記有機半導体は、好ましくは、有機電荷移動錯体であり、より好ましくは、電荷移動型ボロンポリマーである。また、前記クレイは、層状ケイ酸塩鉱物であり、好ましくは、スメクタイトである。また、本発明によれば、前記三元複合体を利用した抗菌剤、光電変換素子および光感応性ポインティングデバイスが提供される。