特許第5950223号(P5950223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5950223
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/22 20060101AFI20160630BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20160630BHJP
   B23C 5/20 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   B23B27/22
   B23B27/20
   B23C5/20
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-529736(P2015-529736)
(86)(22)【出願日】2014年12月2日
(86)【国際出願番号】JP2014081909
(87)【国際公開番号】WO2015083716
(87)【国際公開日】20150611
【審査請求日】2015年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2013-249914(P2013-249914)
(32)【優先日】2013年12月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 泰岳
【審査官】 五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】 特表昭58−501069(JP,A)
【文献】 特開平11−048006(JP,A)
【文献】 特表平11−510436(JP,A)
【文献】 特開2007−260848(JP,A)
【文献】 特開2007−301669(JP,A)
【文献】 特開2009−208216(JP,A)
【文献】 実開平05−051508(JP,U)
【文献】 国際公開第2013/129083(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/132944(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/22
B23B 27/20
B23C 5/20
B23B 51/00
B23B 27/16
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切れ刃部材(3)を備え、該切れ刃部材(3)は少なくとも1つのコーナ部(2)を形成する、切削工具(1、100)であって、
すくい面(8)と逃げ面(9)との交差部に形成された切れ刃(7)であって、該切れ刃(7)第1切れ刃(7b、7c)と該第1切れ刃(7b、7c)につながる第2切れ刃(7a)とを含み、該第2切れ刃(7a)は前記切れ刃部材(3)の前記コーナ部(2)に位置する、切れ刃(7)と、
少なくとも2つのブレーカ壁面(5)であって、前記第1切れ刃(7b、7c)の内側のブレーカ壁面(5b、5c)と前記第2切れ刃(7a)の内側のブレーカ壁面(5a)とを含む、ブレーカ壁面(5)と、
少なくとも1つの凸部(6)であって、該凸部(6)は、互いから離れた2つの前記ブレーカ壁面(5a、5b、5c)の間に、前記切れ刃(7)側に向けて、該ブレーカ壁面(5)に対して相対的に突き出すように前記切れ刃部材(3)に形成されている、凸部(6)と
を備え、
前記凸部(6)の一部は、前記第1切れ刃(7b、7c)と前記第2切れ刃(7a)との接続部付近に位置
前記切れ刃部材(3)は、ダイヤモンドおよび立方晶窒化硼素の少なくとも一方の材料を含む焼結体を含む、切削工具(1、100)。
【請求項2】
前記第1切れ刃(7b、7c)は直線状切れ刃であり、前記第2切れ刃(7a)はコーナ切れ刃であり、
前記凸部(6)は、前記第1切れ刃(7b、7c)と前記第2切れ刃(7a)との前記接続部付近であって、該第2切れ刃(7a)寄りに形成されている、
請求項に記載の切削工具(1、100)
【請求項3】
前記切れ刃部材(3)は、前記すくい面(8)に対向する方向からみて、前記コーナ部(2)の外郭形状の二等分線(B)に対して鏡像対称に形成され、該二等分線の一方側に前記第1切れ刃(7b、7c)が延在し、該第1切れ刃(7b、7c)と前記第2切れ刃(7a)との接続部が位置する、
請求項1または2に記載の切削工具(1、100)
【請求項4】
前記凸部(6)の数は、2つである、請求項1からのいずれか一項に記載の切削工具(1、100)
【請求項5】
前記凸部(6)は、平坦面または外側にふくらむように湾曲する凸曲面を有する、請求項1からのいずれか一項に記載の切削工具(1、100)
【請求項6】
前記凸部(6)は、前記切れ刃(7)から連続して形成され、前記平坦面または前記凸曲面は該切れ刃(7)に延びる、請求項に記載の切削工具(1、100)
【請求項7】
チップブレーカが少なくとも2段構造を有するように、前記ブレーカ壁面(5a、5b、5c)よりも前記切れ刃(7)から離れた位置に、かつ、該ブレーカ壁面(5a、5b、5c)よりも高められた位置に、高められたブレーカ壁面(5d、5e)がさらに形成されている、請求項1からのいずれか一項に記載の切削工具(1、100)
【請求項8】
前記切れ刃(7)側から順に、1段目の前記ブレーカ壁面(5a、5b、5c)と、2段目の前記高められたブレーカ壁面(5d、5e)とが形成され、
1段目の2つの前記ブレーカ壁面(5a、5b、5c)の間に前記凸部(6)が形成されるとともに、2段目の2つの前記高められたブレーカ壁面(5d、5e)の間に高められた凸部(10)が形成され、
該高められた凸部(10)は、前記切れ刃(7)に対して、前記凸部(6)とずれた位置に配置される、
請求項に記載の切削工具(1、100)
【請求項9】
前記切削工具(1、100)は、切削インサート(1)として形成されている、請求項1からのいずれか一項に記載の切削工具(1、100)
【請求項10】
請求項に記載の切削インサート(1)が着脱自在に取り付けられる工具ボデー(20)を備えた、切削工具(1、100)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーナ部を含む領域に切れ刃部材を備える切削工具に関し、特にその切れ刃部材が超高圧焼結体を含む切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切れ刃部分を所謂超高圧焼結体で形成した切削工具が知られている。このような切削工具は、焼入れ鋼や浸炭鋼等の高硬度材の切削、鋳鉄や鋳鋼の切削、焼結金属の切削またはアルミニウム合金等の非鉄金属の高速切削などへの使用に向けられている。
【0003】
従来の超高圧焼結体を備える切削工具には、特許文献1に示すものがある。特許文献1の切削工具では、ダイヤモンドおよび立方晶窒化硼素の少なくとも一方を含有する超高圧焼結体で、切れ刃部材が形成されている。切れ刃部材の上面にはすくい面が形成されている。切れ刃部材の周囲には逃げ面が形成されている。それらの交差部に、円弧状のコーナ切れ刃を有する切れ刃が形成されている。切れ刃部材の表面には、前述のコーナ切れ刃が設けられたコーナ部の二等分線上で互いに交差するように、2つのブレーカ壁面が形成されている。これら2つのブレーカ壁面の交差部に、切りくず処理性の向上を図るように、コーナ部の先端側に向く先端ブレーカ壁面がさらに形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−260848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、切削加工には、切りくずの流出方向がより頻繁に変化する切削形態があり、具体的には「ならい加工」と呼ばれる切削形態がある。このような切削においても、切りくず処理性を高めることが望まれている。特許文献1の切削工具は切りくずの流出方向の変化への柔軟な対応に改善の余地がある。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みて創案されたものであり、その目的は、切りくずの流出方向が変化する切削加工において、その切りくず処理性を高めることを可能にする切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、
切れ刃部材を備え、該切れ刃部材は少なくとも1つのコーナ部を形成する、切削工具であって、
すくい面と逃げ面との交差部に形成された切れ刃であって、該切れ刃は第1切れ刃と該第1切れ刃につながる第2切れ刃とを含み、該第2切れ刃は前記切れ刃部材の前記コーナ部に位置する、切れ刃と、
少なくとも2つのブレーカ壁面であって、前記第1切れ刃の内側のブレーカ壁面と前記第2切れ刃の内側のブレーカ壁面とを含む、ブレーカ壁面と、
少なくとも1つの凸部であって、該凸部は、互いから離れた2つの前記ブレーカ壁面の間に、前記切れ刃側に向けて、該ブレーカ壁面に対して相対的に突き出すように前記切れ刃部材に形成されている、凸部と
を備え、
前記凸部の一部は、前記第1切れ刃と前記第2切れ刃との接続部付近に位置する、
切削工具
が提供される。
【0008】
かかる構成を有する切削工具によれば、相対的に突き出すように形成されている凸部が、第1切れ刃の内側のブレーカ壁面とコーナ部に位置する第2切れ刃の内側のブレーカ壁面との間に設けられ、この凸部の一部は第1切れ刃と第2切れ刃との接続部付近に位置する。したがって、第1切れ刃から第2切れ刃に亘る範囲で被削材への関与が変化する切削加工において、1つの凸部とこの両脇の2つのブレーカ壁面との連携により、切りくずに好適に力を付与し、例えばそのカールを促し、切りくず処理性を高めることができる。
【0009】
前記切れ刃部材は、焼結体を含む。この焼結体は、立方晶窒化硼素およびダイヤモンドの少なくとも一方の材料を含む。好ましくはそれらの少なくとも一方を主成分として構成されているとよい。
【0010】
前記凸部は、前記第1切れ刃と前記第2切れ刃との前記接続部付近であって、該第2切れ刃寄りに形成されているとよい。これは、前記第1切れ刃が直線状切れ刃であり、前記第2切れ刃はコーナ切れ刃である場合に適用されるとなおよい。前記切れ刃部材は、前記すくい面に対向する方向からみて、前記コーナ部の外郭形状の二等分線に対して鏡像対称に形成されることができる。この場合、該二等分線の一方側に前記第1切れ刃が延在し、該二等分線の同じ一方側に該第1切れ刃と前記第2切れ刃との接続部が位置するとよい。前記凸部の数は、2つであり得る。
【0011】
前記凸部は、平坦面または外側にふくらむように湾曲する凸曲面を有するとよい。前記凸部は、切れ刃から連続して形成されることができる。たとえば、凸部の平坦面または凸曲面は切れ刃に延びるとよい。
【0012】
チップブレーカが少なくとも2段構造を有するように、前記ブレーカ壁面よりも前記切れ刃から離れた位置に、かつ、該ブレーカ壁面よりも高められた位置に、高められたブレーカ壁面がさらに形成されているとよい。前記切れ刃側から順に、1段目の前記ブレーカ壁面と、2段目の前記高められたブレーカ壁面とが形成されるとき、1段目の2つの前記ブレーカ壁面の間に前記凸部が形成されるとともに、2段目の2つの前記高められたブレーカ壁面の間に高められた凸部が形成されるとよい。好ましくは、高められた凸部は、切れ刃に対して、1段目の前記凸部とずれた位置に配置される。
【0013】
前記切削工具は、工作機械に直接的に取り付けられるように構成されてもよく、また、切削インサートとして形成されることができる。切削インサートとして形成される場合、本発明は、この切削インサートが着脱自在に取り付けられる工具ボデーを備えた、切削工具にも存する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る切削工具の先端部の拡大斜視図である。
図2図2は、図1の切削工具の平面図である。
図3図3は、図1の切削工具の正面図である。
図4図4は、図1の切削工具の左側面図である。
図5図5は、図1の切削工具の斜視図である。
図6A図6Aは、図2のVIA−VIA線に沿った、図1の切削工具の一部の断面の模式図である。
図6B図6Bは、図2のVIB−VIB線に沿った、図1の切削工具の一部の断面の模式図である。
図6C図6Cは、図2のVIC−VIC線に沿った、図1の切削工具の一部の断面の模式図である。
図7図7は、図1の切削工具の使用例を説明するための図であり、取付部材を省略した図である。
図8図8は、本発明の第2の実施形態に係る切削工具の先端部の拡大斜視図である。
図9図9は、図8の切削工具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る切削工具を実施形態に基づいて説明する。
【0016】
図1から図5に示すように、本発明の第1の実施形態に係る切削工具1は、4つのコーナ部を有する。これらコーナ部のうちの1つのコーナ部2を含む領域は、切れ刃部材3により形成されている。切れ刃部材3は、超高圧焼結体を含有し、インサート基体1aの切り欠き部1bにろう付けで固着されている。そして、インサート基体1aには、工具ボデーへの取り付けのためにレバーなどの取付部材が挿入される貫通穴1fが上面1uおよび下面を貫通するように形成されている。つまり、切削工具1は、工具ボデーに着脱自在に取り付けられる切削インサート(つまり切削部材)である。以降、説明を簡単にすることを意図して、超高圧焼結体を有する切削工具1を、切削インサート1と呼称する。ただし、この第1の実施形態における超高圧焼結体は、立方晶窒化硼素を主成分として構成された焼結体である。切削インサート1は高硬度材の切削に向けられているが、他の材料からなる被削材の切削に用いられてもよい。なお、超高圧焼結体を有する切削工具1は、超高圧焼結体切削工具と称される場合もある。
【0017】
切削インサート1は、図2の平面視にて表される上面1uにすくい面8を有し、上面1uと下面との間に延在する周側面に逃げ面9を有し、すくい面8と逃げ面9との交差部に切れ刃7を有する。これらすくい面8、逃げ面9および切れ刃7は切れ刃部材3の範囲を超えて形成されているが、切れ刃部材3にのみ形成されてもよい。なお、切削インサートの上面の一部となる切れ刃部材3の面をその上面と呼び、切削インサートの周側面の一部となる切れ刃部材の周囲の面を側面と呼ぶ。
【0018】
切れ刃7は、コーナ部2に位置してコーナ部2に沿って湾曲するコーナ切れ刃7aと、コーナ切れ刃7aの一端につながる第1直線状切れ刃7bと、コーナ切れ刃7aの他端につながる第2直線状切れ刃7cとを含む。第1直線状切れ刃7bおよび第2直線状切れ刃7cのそれぞれは、図1図2図5から理解できるように、切れ刃部材3からインサート基体1aにまで延びている。
【0019】
切削インサート1の上面(表面)1uには、3つのチップブレーカ溝4が形成されている。切削インサート1では3つのチップブレーカ溝4は互いから独立して、離れている。各チップブレーカ溝4は、ブレーカ壁面5を有する。1つのチップブレーカ溝4はコーナ切れ刃7aに沿って延在し、もう1つのチップブレーカ溝4は第1直線状切れ刃7bに沿って延在し、残りのチップブレーカ溝4は第2直線状切れ刃7cに沿って延在している。
【0020】
この実施形態の切削インサート1は、右勝手での使用と左勝手での使用とのどちらにも対応できるように、すくい面(上面)8に対向する方向からみた図2において、コーナ部2の外郭形状の二等分線Bに対して鏡像対称な形状とされている。すなわち、複数のチップブレーカ溝4は、すくい面8に対向する方向からみて、コーナ部2の外郭形状の二等分線に対して鏡像対称に配置されている。
【0021】
具体的には、コーナ部2に対して配置される第1のブレーカ壁面5aを有するチップブレーカ溝4は、コーナ切れ刃7aの内側に形成され、図2においてコーナ部2の外郭形状の二等分線Bに対して鏡像対称な形状とされる。なお、コーナ切れ刃7aも図2において二等分線Bに対して鏡像対称な形状とされている。右勝手での使用のための第1直線状切れ刃7bの内側には、第2のブレーカ壁面5bを有するチップブレーカ溝4が形成されている。左勝手での使用のための第2直線状切れ刃7cの内側には、第3のブレーカ壁面5cを有するチップブレーカ溝4が形成されている。第2のブレーカ壁面5bと、第3のブレーカ壁面5cとは、図2において、二等分線Bに対して鏡像対称な位置に配置され、かつ鏡像対称な形状関係とされている。この鏡像対称な関係は第1直線状切れ刃7bと第2直線状切れ刃7cとの間にも成立する。このように、この実施形態の切削インサート1では、すべての部分(切れ刃部材3を含む)が、図2においてコーナ部2の外郭形状の二等分線Bに対して鏡像対称な関係とされる。そこで以降の説明を簡単にするため、二等分線Bのうちの第1直線状切れ刃7b側に関して以下では主として説明し、鏡像対称な他方の側の説明を実質的に省略する。なお、本明細書では、「壁面」(すなわちブレーカ壁面)という表現を、屹立するように上方へ向かう面に対して用いているが、これは便宜上のものであって、空間内の絶対的な向きや位置関係を規定することを企図したものではない。その他の空間内の向きや位置関係を表す用語も同様である。
【0022】
互いに対して隣り合うブレーカ壁面5の間には、1つの凸部(凸状部)6が形成されている。すなわち、互いから離れた第1および第2のブレーカ壁面5a、5bの間には、第1の凸部6aが形成される。同様に、第1および第3のブレーカ壁面5a、5cの間には、第2の凸部6bが形成される。これら凸部は、それぞれ、互いから離れた2つの隣り合うブレーカ壁面5の間に、切れ刃7側に向けて、ブレーカ壁面に対して相対的に突き出すように形成されている。このように、切削インサート1では、凸部の両脇にチップブレーカ溝4があることで、チップブレーカ溝4のブレーカ壁面5に対してそれよりも凸部が突き出てみえていることに留意されたい。つまり、凸部6は、両隣のブレーカ壁面5に対して凸状であり、周囲が凹状にされることで凸状に形成されている。本発明において、凸部は、積極的に凸状に形成されることに限定されず、消極的に凸状に形成されてもよい。
【0023】
凸部6aに近づくに従ってブレーカ壁面5a、5bの幅がそれぞれ減少するように、チップブレーカ溝4は形成されている。切削インサート1では、ブレーカ壁面の幅は、凸部6aの近傍で、概ねゼロに近づくが、ある程度の大きさの所定幅を有してもよい。同様に、凸部6bに近づくに従ってブレーカ壁面5a、5cの幅がそれぞれ減少するように、チップブレーカ溝4は形成されている。したがって、ブレーカ壁面5aの幅は、切削インサート1では、二等分線Bの箇所において最大であるが、これに限定されない。
【0024】
さらに、この実施形態では、第1および第2の凸部6a、6bは、1つの共通の曲面に沿った壁面を有するように形成されていて、一体につながっている。すなわち、第1および第2の凸部6a、6bは、1つの凸曲面状部6cの一部として形成されている。このように形成されると、研削加工などで凸曲面状部6cを形成することで、2つの凸部6a、6bを容易に形成でき、製造コストを抑制できる。
【0025】
さらに、各凸部6は、直線状切れ刃とコーナ切れ刃との接続部付近に形成されている。第1の凸部6aは、第1直線状切れ刃7bとコーナ切れ刃7aとの接続部付近に位置する。加えて、第1の凸部6aは、コーナ切れ刃7aの内側に位置するように位置付けられている。ここで、図2において、第1直線状切れ刃7bを延長するように延長線Eを定める。延長線Eは、第1直線状切れ刃7bとコーナ切れ刃7aとの接続部を通る。図2において、延長線Eが切削インサートから離れた切削インサートの部分に向けて凸部6が延びている。このように、第1の凸部6aは、第1直線状切れ刃7bとコーナ切れ刃7aとの接続部付近に位置するが、コーナ切れ刃7a寄りに位置付けられている。これは、第2の凸部6bに関しても同様である。
【0026】
ここで、凸部6およびチップブレーカ溝4の形状に関して説明する。図6Aは、図2のVIA−VIA線に沿った切削インサート1の一部の断面を模式的に示す。図6Bは、図2のVIB−VIB線(つまり上記二等分線B)に沿った切削インサート1の一部の断面を模式的に示す。図6Cは、図2のVIC−VIC線に沿った切削インサート1の一部の断面を模式的に示す。図2において、VIA−VIA線、VIB−VIB線、VIC−VIC線はそれぞれ切れ刃に直交する。また、VIA−VIA線は第1の凸部6aを横断し、VIB−VIB線は第1のブレーカ壁面5aを横断し、VIC−VIC線は第2のブレーカ壁面5bを横断する。なお、図6Aから図6Cでは、各部の寸法、各部間の比率などに正確さを求めずに、形状的特徴が誇張して表されている。
【0027】
図6Aは、ホーニング面1eを介して、凸部6aを含む凸曲面状部6cがコーナ切れ刃7aに向けて延びることを示す。ここでは、凸曲面状部6cはホーニング面1eと一体に形成されていて、実質的にコーナ切れ刃7aに延びている。図6Bは、チップブレーカ溝4の第1のブレーカ壁面5aがホーニング面1eから離れていることを示す。さらに、図6Cは、チップブレーカ溝4の第2のブレーカ壁面5bがホーニング面1eから離れていることを示す。したがって、図6Aから図6Cより、凸部6aが第1および第2のブレーカ壁面5a、5bよりも切れ刃7側に延び、それらブレーカ壁面に対して相対的に切れ刃7側に突き出るように形成されていることが明らかである。
【0028】
なお、第1および第2の凸部6a、6bは、それぞれ、切れ刃7から連続するように形成されるとよい。このように凸部を形成することで、切れ刃7のより近くで、生じたばかりの切りくずへその流出を制御する力(換言すると拘束力)を付与することができ、切りくず処理性を大幅に向上できる。
【0029】
この実施形態では、第1および第2の凸部6a、6bは、凸曲面状に形成されたが、これに限定されない。各凸部6は、切れ刃側に向いた平坦面を単に有するように構成されてもよい。凸部6は、切れ刃に直角な断面(図2のVIA−VIA線参照)においても外方に凸となるように略半球状に湾曲した曲面を有してもよい。凸部6は、多数の平坦面を並べて、凸曲面を近似するような多面体構造とされても構わない。各凸部6は、切れ刃7の近傍に切りくず処理のための凸壁面部分を少なくとも2つ備えて構成されてもよい。具体的には、凸部は、コーナ切れ刃7a側の凸壁面部分と第1直線状切れ刃7b側の凸壁面部分とを備えることができる。
【0030】
切削インサート1では、各々のチップブレーカ溝4は略溝状とされて、凹部として形成されている。このように形成されると、研削加工などでチップブレーカ溝4を容易に形成でき、製造コストを抑制できる。また、切削インサート1では、各々のチップブレーカ溝4の底部(切れ刃側部分)は、下面に略平行、好ましくは平行に形成されている(図6Bおよび図6C参照)。ここでは切削インサート1の上下面は略平行であるので、チップブレーカ溝の底部は上面に略平行である。そして、切削インサート1では、チップブレーカ溝の底部は取付穴1fの軸線1gに略直角に延びる平坦面とされている。しかし、これに限定されない。各々のチップブレーカ溝4は、様々なチップブレーカ形状を選択できる。チップブレーカ溝4(つまりチップブレーカ壁面5)は、凸部6と協働するように設計される。以下に説明するように、この実施形態の切削インサート1は、凸部6と、チップブレーカ溝4との組み合わせの相互作用により、従来の切削インサートと比較して、切りくずの流出方向が変動し易い切削加工において切りくず処理性を大幅に向上することが可能である。
【0031】
この切削インサート1は、右勝手の切削工具として使用されるとき、第1のブレーカ壁面5aおよび第2のブレーカ壁面5bが、第1の凸部6aと協働して作用する。この切削インサート1は、左勝手の切削工具として使用されるとき、第1のブレーカ壁面5aおよび第3のブレーカ壁面5cが、第2の凸部6bと協働して作用する。ここでは切削インサート1が、右勝手の切削工具として使用されるときの作用を説明し、左勝手の切削工具として使用されるときについての説明を省略する。
【0032】
一般に、立方晶窒化硼素の焼結体を切れ刃7(つまり切れ刃部材3)に使用する切削加工、特に旋盤加工やフライス加工では、切削条件の切り込みおよび送りが小さく設定される。このため、生成される切りくずは幅が狭く、かつ薄くなり、切りくず処理を行うことが極めて難しくなりやすい。特に旋盤でならい加工を行うとき、コーナ部2に関して切削に関与する部分が頻繁に変化し、切りくずの流出方向の変動が大きい。このため、切りくず処理が非常に難しくなる。
【0033】
図7に、切削インサート1を、(工具ボデーとしての)ホルダ20の先端に着脱自在に取り付けたバイト(切削工具)を用いて、旋盤でならい加工を行う様子が模式的に表されている。図7中の矢印LAはバイトの送り方向を示す。図7に表された被削材Wの形状から、切りくずの流出方向が切削加工中に大きく変化することが明らかである。
【0034】
この実施形態の切削インサート1では、切りくずが切削インサート1の先端付近で生成されるとき、すなわちコーナ部2の外郭形状の二等分線付近で生成されるとき、第1のブレーカ壁面5aが、第1の凸部6aと協働して切りくずに作用する。第1のブレーカ壁面5aは、切りくずの生成位置の変動に対して、チップブレーカが適正に対応するように設けられ、切りくずの流出をよりしっかりと制御できる。しかし、切りくずの生成位置がさらに変化し、第1の凸部6aの略中間位置を第1直線状切れ刃側に超えると、今度は第2のブレーカ壁面5bが、第1の凸部6aと協働して作用する。したがって、ならい加工などで、切れ刃に対する切りくずの生成位置が大幅に変化しても、常に、その生成位置に対応するブレーカ壁面と凸部とで、切りくずの流出をしっかりと制御し続けることができる。このため従来の切削インサートと比較して、切削インサート1によれば、大幅に切りくず処理性を向上させることが可能となる。
【0035】
次に、本発明の第2実施形態に係る切削工具100について説明する。第2の実施形態における切削工具100を、図8および図9に示す。切削工具100も切削インサートとして構成されている。以下の切削インサート100の説明では、第1の実施形態の切削インサート1の構造部分と対応する構造部分には、既に用いた参照番号を同様に付し、それらの重複説明を省略する。この実施形態の切削インサート100では、チップブレーカが2段構造とされる。以下では、この点について主として説明する。
【0036】
切れ刃7に近い方から順に1段目のチップブレーカ溝4(図8では「4f」)と2段目のチップブレーカ溝4sが形成される。2段目の2つのチップブレーカ溝4sにより、第4および第5のブレーカ隆起壁面5d、5eが形成される。2段目のブレーカ壁面5d、5eは、切れ刃から、1段目のブレーカ壁面5a、5b、5cに比べて、さらに高められた位置(軸線1g方向でさらに切れ刃から離れた位置)にあるので、高められたブレーカ壁面と称される。
【0037】
チップブレーカを2段構造とすることで、切りくず処理性をさらに高めることが可能である。すなわち、送りが比較的小さいときの薄い切りくずは、1段目のブレーカ壁面5a、5b、5cと凸部6a、6bとの協働で処理されることができる。送りが比較的大きいときの厚い切りくずは、1段目のブレーカ壁面5a、5b、5cを乗り越えるときがある。この場合、2段目の高められたブレーカ壁面5d、5eと2段目の凸部10との協働で切りくずはさらに処理されることができる。2段目の2つの高められたブレーカ壁面5d、5eの間にある凸部10は、切れ刃7から、1段目のブレーカ壁面間の凸部6に比べて、さらに高められた位置にあるので、高められた凸部と称される。高められた凸部10は第1のブレーカ壁面5aにつながり、一段目の凸部6が隣り合う切れ刃部分からずれた位置にある切れ刃部分に向かって突き出ている。特に、高められた凸部10は、平面視で、コーナ部2の上記二等分線B上に位置するように形成されている。この実施形態のように、1段目の凸部6の位置と、2段目の高められた凸部10の位置とを切れ刃に対してずらして配置すると、切削加工中に切りくずが種々の方向に生じた場合であっても、切りくずがブレーカ壁面または凸部のいずれにも接触せずに排出されることを抑制することができる。よって、切りくず処理性をより大幅に向上させることができる。
【0038】
以上、本発明の第1および第2実施形態を説明したが、種々の変更が可能である。切れ刃7および切れ刃7の周辺の工具材料(つまり焼結体の材料)は、立方晶窒化硼素等の硬質材料から選択されるとよい。硬質材料として、立方晶窒化硼素と共にまたはその代わりにダイヤモンドが用いられてもよい。ダイヤモンドが用いられるとき、それは多結晶ダイヤモンドであり得る。さらにこれら硬質材料の表面に、特に立方晶窒化硼素が用いられる場合、PVDまたはCVDコーティング膜が被膜されてもよい。このように、切れ刃部材3は、立方晶窒化硼素およびダイヤモンドの少なくとも一方を含む焼結体で、またはその焼結体を含んで構成されるとよく、さらに、それら焼結体の表面にPVDまたはCVDコーティング膜が被膜されたものとされてもよい。
【0039】
上記切削工具1、100は、工作機械に装着されることにより、鋼材などの切削加工に利用できる。実施形態として旋盤用の切削インサート1、100だけを記載したが、異なる態様で旋盤用のバイトに、または回転切削工具に、本発明は適用可能である。本発明が適用切削工具への制約をほとんど有しないことは当業者には理解可能であろう。例えば、上記切削工具1、100はそれぞれ切削インサートであったが、旋盤用のろう付けバイトの刃先部に本発明は適用されてもよい。
【0040】
また、本発明の上記実施形態の切削インサート1、100の各々は、1つの切れ刃のみを有した。しかし、複数の切れ刃を有してもよい。例えば、取付穴の軸線周りに回転対称に複数の切れ刃が配置され、その切れ刃の各々に関して上記構成が採用されてもよい。さらに、上下面(つまり対向する2つの端面)のそれぞれに切れ刃を設け、その切れ刃の各々に関して上記構成が採用されてもよい。
【0041】
また、1つの切れ刃部材3に、複数のコーナ部2が形成されてもよい。この場合、複数のコーナ部の各々に対して、上記構成が採用されてもよい。さらに、1つのコーナ部に関して、1つのコーナ切れ刃と2つの直線状切れ刃とを備える切れ刃(または切れ刃セクション)が形成されることに限定されず、1つのコーナ切れ刃と1つの直線状切れ刃(または非コーナ切れ刃)からなる切れ刃が形成されてもよい。
【0042】
また、上記実施形態では、(本発明の第1切れ刃に対応する)直線状切れ刃は、平面視および側面視の両方において、略直線状であった。しかし、本発明の第1切れ刃は、直線状であることに限定されず、平面視および側面視の少なくとも一方において湾曲してもよい。また、上記実施形態では、(本発明の第2切れ刃に対応する)コーナ切れ刃は、側面視において上下面に略平行であった。しかし、本発明は、第2切れ刃が側面視で湾曲することを排除しない。
【0043】
また、超高圧焼結体にダイヤモンドを用い、本発明に係る切削工具は、アルミニウム合金の切削に適するチップブレーカ形状を有してもよい。また、切れ刃7部分にワイパー刃のような仕上げ刃部分が設けられてもよい。
【0044】
前述した実施形態では本発明をある程度の具体性をもって説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明については、請求の範囲に記載された発明の精神や範囲から離れることなしに、さまざまな改変や変更が可能であることは理解されなければならない。すなわち、本発明には、請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9