特許第5950235号(P5950235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5950235肝細胞の分化誘導方法、ヒト化肝臓キメラ非ヒト動物の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5950235
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】肝細胞の分化誘導方法、ヒト化肝臓キメラ非ヒト動物の作製方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20060101AFI20160630BHJP
   C12N 5/073 20100101ALI20160630BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20160630BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20160630BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20160630BHJP
【FI】
   A01K67/027ZNA
   C12N5/073
   C12Q1/02
   G01N33/15 Z
   !C12N15/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-536414(P2013-536414)
(86)(22)【出願日】2012年9月28日
(86)【国際出願番号】JP2012075019
(87)【国際公開番号】WO2013047720
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2015年6月10日
(31)【優先権主張番号】特願2011-215977(P2011-215977)
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鄭 允文
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/139419(WO,A1)
【文献】 SCHMELZER,E. et al.,Human hepatic stem cells from fetal and postnatal donors.,J. Exp. Med.,2007年 8月 6日,Vol.204, No.8,pp.1973-87,全文
【文献】 ISHII,T. et al.,Transplantation of embryonic stem cell-derived endodermal cells into mice with induced lethal liver,Stem Cells,2007年12月,Vol.25, No.12,pp.3252-60
【文献】 MACHIMOTO,T. et al.,Improvement of the survival rate by fetal liver cell transplantation in a mice lethal liver failure,Transplantation,2007年11月27日,Vol.84, No.10,pp.1233-9
【文献】 SUEMIZU,H. et al.,Establishment of a humanized model of liver using NOD/Shi-scid IL2Rgnull mice.,Biochem. Biophys. Res. Commun.,2008年12月 5日,Vol.377, No.1,pp.248-52
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/027
C12N 5/073
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝障害を起こした免疫不全非ヒト動物へヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞を移植し、肝細胞に分化誘導させることを含む、ヒト型薬物代謝酵素を発現するヒト化肝臓を持つ非ヒト動物の作製方法であって、前記ヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞がCDCP1陽性/CD90陽性/CD66陰性の細胞である前記方法。
【請求項2】
肝障害が肝細胞特異的である請求項1記載の方法。
【請求項3】
肝障害を起こした免疫不全非ヒト動物が、ジフテリア毒素受容体であるヒトHB−EGFを肝細胞に発現する免疫不全非ヒト動物にジフテリア毒素を投与して肝炎を発病させた非ヒト動物である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
肝障害を起こした免疫不全非ヒト動物が、アルブミン遺伝子エンハンサー/プロモーターを用いて肝臓特異的にurokinase −type plasminogen activatorを発現させた自然発症型肝傷害免疫不全非ヒト動物である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
ヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞が、CDCP1陽性/CD90陽性/CD66陰性/CD13陽性の細胞である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法で作製した、ヒト化肝臓を持つ非ヒト動物。
【請求項7】
請求項6記載の非ヒト動物を用いて、被験物質の薬物動態及び/又は肝毒性を調べる方法。
【請求項8】
肝障害を起こした非ヒト動物へヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞を移植し、肝細胞に分化誘導させることを含む、ヒト型薬物代謝酵素を発現するヒト肝細胞の作製方法であって、前記ヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞がCDCP1陽性/CD90陽性/CD66陰性の細胞である前記方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法で作製したヒト肝細胞を用いて、被験物質の薬物動態及び/又は肝毒性を調べる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝細胞の分化誘導方法及びヒト化肝臓キメラ非ヒト動物の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、in vitroにおける2D、3D及び共培養等の細胞培養法を用いて、未熟肝細胞の分化誘導・機能維持が報告されている。しかし、生体内成熟肝細胞と比較した場合、機能維持は困難である。一方、ヒト成熟肝細胞は増殖性が乏しい上に入手が困難なため、製薬産業への大量供給は難しい。
【0003】
in vivoにおいて、Mercer、向谷らは、免疫不全肝障害マウス(uPA-Tg/scid)を用い、凍結保存したヒト肝細胞を移植した結果、肝臓の約50-70%がヒト肝細胞で置き換わったことを報告している (非特許文献1:Nat Med 7: 927-933, 2001、特許文献1:WO2003/080821) 。しかし、uPA-Tg/scidマウスからヒト由来肝細胞を持つキメラマウスを作製することは、そのキメラマウス自体に有用性は存在するものの、ヒト肝細胞を大量に増殖させるための手段としては不十分であった。また、ヒト肝細胞を移植したキメラマウスは長期間生存することができず(50日未満)、成長の過程でマウス肝細胞が増殖してしまうため、ヒト肝細胞に対する毒性や薬効のin vivo評価系としてもその利用対象が限定されていた。
【0004】
その他にSuらは、Fah-/-NOD/scidモデルを用いたヒト肝細胞移植では、最高で約33.6%がヒト肝細胞に置き換わったことを報告しており(非特許文献2:Sci China Life Sci 54: 227-234, 2011.)、Bissingらは Fah-/-/Rag2-/-/Il2rg-/- triple KO mouseを用いた移植では最高で約20%がヒト肝細胞に置き換わったと報告している(非特許文献3:Proc Natl Acad Sci 104(51): 20507-20511, 2007.) 。免疫不全TRECKマウスは、斉藤らがジフテリア毒素受容体であるヒトHB-EGFを特定の細胞に発現させたトランスジェニックマウスであり、任意の時期にジフテリア毒素を投与することによって標的細胞を特異的に破壊することが可能である(非特許文献4:Nat Biotechnol.;19(8):746-50. 2001)。また、松本らは、TRECK法を利用した肝炎モデルマウス(Alb-TRECK)にマウス胎仔肝細胞を移植した結果、生存率の改善が見られた事を報告している(非特許文献5:Transplantation. ;84(10):1233-9. 2007)。さらに石井らは、マウス胚性幹細胞由来の肝細胞を免疫不全Alb-TRECKマウスに移植した結果、35日生存率が改善されたことを報告している(非特許文献6:Stem Cells. 25(12):3252-60.2007)。松岡らは、ヒト成熟肝細胞を免疫不全Alb-TRECKマウスに移植して、血中にヒトアルブミンが検出されたことを報告している(非特許文献7:「ヒト肝置換Tgマウスの作製方法」米川博通、松岡邦枝 東京都臨床医学総合研究所・疾患モデル開発センター 第7回研究交流フォーラム、2008.2.27、東京)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nat Med 7: 927-933, 2001
【非特許文献2】Sci China Life Sci 54: 227-234, 2011.
【非特許文献3】Proc Natl Acad Sci 104(51): 20507-20511, 2007.
【非特許文献4】Nat Biotechnol.;19(8):746-50. 2001
【非特許文献5】Transplantation. ;84(10):1233-9. 2007
【非特許文献6】Stem Cells. 25(12):3252-60.2007
【非特許文献7】「ヒト肝置換Tgマウスの作製方法」米川博通、松岡邦枝 東京都臨床医学総合研究所・疾患モデル開発センター 第7回研究交流フォーラム、2008.2.27、東京
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2003/080821パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、以下のような課題があった。
1.生体外の細胞培養法を用いた分化誘導法は確立されていない。
2. 成熟ヒト肝細胞は増殖性が乏しい上に入手が困難である。
3. 成熟肝細胞を利用して作ったキメラマウスは移植効率が低く、また、製造コストが高いことから産業応用には適していない。
4. 移植したヒト細胞の増殖が早く、移植後の置換効率の高いキメラマウスは報告されていない。
5. ヒトと実験動物の間では、化学物質を代謝する能力が大きく異なる。そのため実験動物を用いた結果からヒトへの影響を正確に予測することは難しい。
【0008】
従来、様々なマウス(uPA-Tg/scid, Fah-/-NOD/scid, Fah-/-/Rag2-/-/Il2rg-/- triple
KO等)へヒト肝細胞の移植が行われているが、生着効率は改善されていない。
【0009】
本発明は、従来技術が持つ課題を解決できる肝細胞の分化誘導方法及びヒト化肝臓キメラ非ヒト動物の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ジフテリア毒素受容体を肝細胞のみに強制発現させた重症免疫不全トランスジェニックマウス(Alb-TRECK/scidマウス)を用いて移植を行った。Alb-TRECK/scidマウスを用いることにより、肝細胞特異的に障害を引き起こすことが可能となり、ヒト肝細胞の置換効率の上昇が望める。また、従来、肝障害トランスジェニックマウス(Alb-TRECK)と重症免疫不全マウス(SCID)の交配により創出していたAlb-TRECK/scidマウスを、SCIDマウスを背景とするAlb-TRECKマウス(Alb-TRECK/scid)を新たに作製することにより、大幅なマウス作製コストの低減を達成した。
従来行われている成熟肝細胞を使用した移植モデルでは置換効率が悪く、製造コストも高い。そこで本発明者らは、ヒト胎児肝幹/前駆細胞と未熟ヒト肝細胞をドナー細胞として用いた。この細胞は成熟肝細胞と比較して、増殖能力が高く、安定供給を行うことが可能である。しかし、in vitroでのヒト胎児肝幹/前駆細胞・未熟ヒト肝細胞の分化誘導法、機能維持の方法は確立されていない。
Alb-TRECK/scidマウスをレシピエントとし、ヒト胎児肝幹/前駆細胞・未熟肝細胞をドナーとすることにより、以下の点の改善を行った。
1. ヒト由来細胞の肝臓への置換効率を上昇させた。
2. 生体内に移植することにより、ヒト胎児肝幹/前駆細胞、未熟肝細胞の分化を誘導した。
また、自然発症型肝傷害uPA-NOGマウスでも、同様若しくはそれ以上の効果が確認された。
【0011】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)肝障害を起こした免疫不全非ヒト動物へヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞を移植し、肝細胞に分化誘導させることを含む、ヒト化肝臓を持つ非ヒト動物の作製方法。
(2)肝障害が肝細胞特異的である(1)記載の方法。
(3)肝障害を起こした非ヒト動物が、ジフテリア毒素受容体であるヒトHB-EGFを肝細胞に発現する免疫不全非ヒト動物にジフテリア毒素を投与して肝炎を発病させた非ヒト動物である(1)又は(2)に記載の方法。
(4)ヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞が、CDCP1陽性/CD90陽性/CD66陰性の細胞である(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)ヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞が、CDCP1陽性/CD90陽性/CD66陰性/CD13陽性の細胞である(4)記載の方法。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の方法で作製した、ヒト化肝臓を持つ非ヒト動物。
(7)(6)記載の非ヒト動物を用いて、被験物質の薬物動態及び/又は肝毒性を調べる方法。
(8)肝障害を起こした非ヒト動物へヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞を移植し、肝細胞に分化誘導させることを含む、ヒト肝細胞の作製方法。
(9)(8)記載の方法で作製したヒト肝細胞を用いて、被験物質の薬物動態及び/又は肝毒性を調べる方法。
【発明の効果】
【0012】
1. レシピエントとして使用できるAlb-TRECK/scid マウスは、飼育・繁殖において扱い易い。このことから産業応用化に向けた大量生産に対応可能であり、コスト面でも優れている。また、肝障害を引き起こす方法が確立されており、容易である。
2. ヒト胎児肝幹/前駆細胞及び未熟肝細胞は、成熟肝細胞と比較して増殖能が高く、生体内での定着性も高い。この特性を利用してヒト肝細胞の動物生体内での大量生産が可能になる。
3. Alb-TRECK/scidマウスを用いたキメラマウスモデルでは、ヒト肝細胞の置換率は最大84.5%、生存日数は100日を越えている。肝特異的機能性遺伝子の発現は、ヒト胎児肝臓組織と比較して同等の発現を示している。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2011‐215977の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】移植前後のAlb-TRECK/SCIDマウスの肝臓。移植前後のAlb-TRECK/SCIDマウスの肝臓の状態を比較した。左上図はDT処理前の正常肝臓、左下図はDT投与後48時間が経過した肝臓である。DT投与後では肝臓が白く変色し、肝障害が引き起こされていることが見た目からも分かる。しかし、DT投与後に肝幹細胞を5週間移植した肝臓(右図)では、肝臓の血色も良くなり、正常肝臓へと回復しつつある。激しく損傷していた肝臓が、肝幹細胞を移植することによって組織を再構築し、肝障害を緩和していた。
図2】ヒト化キメラマウス肝臓の置換率。移植した肝幹細胞が定着している状態をより正確に可視化するためにGFPを発現させた肝幹細胞を移植に用いた。移植後20日目の肝臓では肝組織の半分以上がGFP陽性を示す肝幹細胞由来の肝臓であった。置換効率は最大で84.5%となっていた。平均的な置換率は65.6±17.5%(n=3).
図3】ヒト化キメラマウス肝臓の組織学的解析(H&E染色と免疫染色)。作成したヒト由来キメラ肝臓の組織学的な解析を行った。H&E染色を行った結果、ヒト由来肝幹細胞が見られた(点線内)。
図4】ヒト化キメラマウス肝臓の組織学的解析(H&E染色と免疫染色)。より広範囲な組織学的解析を行うためH&E染色、免疫染色を行ったキメラ肝組織の“Scan large imaging”を行った。 H&E染色では広範囲に定着したヒト由来肝細胞が確認され、ヒト細胞由来のコロニーが多数確認された(左上図)。免疫染色では、ヒト核陽性細胞が、全組織中およそ50.0%が確認された(左下図)。さらにヒトアルブミン陽性、ヒト核陽性細胞が確認され、移植したヒト由来肝幹細胞が、Alb-TRECK/SCIDマウスの肝臓内で機能性を持っていることが確認された(右上図)
図5】マウス肝臓におけるヒト肝幹細胞から肝細胞への分化。移植を行ったヒト肝幹細胞がin vivoの環境下で分化誘導されているかを検証するためにヒトアルブミン、humanCK19の免疫染色を行った。ヒトアルブミン陽性/CK19陰性細胞群は比較的アルブミン分泌が高く、成熟肝細胞と同程度の発現を示していた。
図6】マウス肝臓におけるヒト肝幹細胞から肝細胞への分化。移植を行ったヒト肝幹細胞がin vivoの環境下で分化誘導されているかを検証するためにヒトアルブミン、Human nuclear antigenとhuman CK8/18の免疫染色を行った。この免疫染色結果より、マウス肝臓にヒト由来細胞も大量に存在を示した。図5図6に示す結果から、移植した肝幹細胞はレシピエントマウスの肝臓内において、肝細胞と胆管細胞の二方向へ分化することとなり、さらに組織再構築能を持っていることが示唆された。
図7】ヒト化キメラマウス肝臓の遺伝子解析。In vivoの解析からヒト由来キメラ肝臓が機能性を有している可能性が示唆された。そこで、このキメラ肝臓の遺伝子発現の解析を行った。薬物代謝酵素であるCYP3A4,CYP2C9,CYP2C19、肝特異的発現を示すhALBの発現を定量PCRにて解析を行った。その結果、移植前のドナー細胞と比較して、肝幹細胞(HSC)を移植した肝臓組織では、全ての遺伝子発現が上昇していた。hALBの遺伝子発現では、およそ60万倍の上昇、CYP3A4の発現ではおよそ22.7万倍と高い上昇が見られ、肝幹細胞がin vivoの環境下で分化誘導されていることが示唆された。さらに胎児肝臓細胞と比較した場合、肝幹細胞を移植した肝臓は遺伝子発現が高く、より分化が誘導されやすく、移植に適している細胞だと考えられた。FLC:初代胎児肝細胞、HSC: 肝幹細胞。
図8】さらに本発明者らは、ヒト化キメラマウス肝臓(Chimera)と成熟肝細胞(adult hepoatocyte : AH)、成熟肝臓組織(adult liver tissue : AL)、胎児肝臓組織(fetal liver tissue : FL)の遺伝子発現との比較を行った。成熟肝細胞と比較して、肝幹細胞由来キメラ肝臓組織ではhALBの遺伝子発現(1/18)以外は、CYPs遺伝子に関しては、同程度の発現が見られ、特にCYP2C19の発現はAHと比較して10倍高い発現を示していた。
図9】ヒト由来キメラ肝臓のアルブミン分泌測定。これまでの解析より、肝幹細胞由来キメラ肝臓が機能性を持っていることが示唆されている。そこで本発明者らは、キメラマウス血清中のヒトアルブミン分泌量をELISAにて解析した。コントロールとして使用した、非移植Alb-TRECK/SCIDマウス(Control)の血清中にはヒトアルブミンは検出されなかった。しかし、肝幹細胞を移植したヒト由来キメラ肝臓を持つマウス(#220, #221)では、移植50日後の血清中に1381ng/ml、1679ng/mlとヒトアルブミンの分泌が確認された。この結果から、移植した肝幹細胞は、Alb-TRECK/SCIDマウスの肝臓内で機能性を持った細胞に分化している事が示された。
図10】ヒト化肝臓のマイクロアレイ解析。
図11】キメラマウスの生存率。
図12】薬物代謝能(ヒト化キメラマウスにおけるヒト特異的代謝産物の確認)。
図13】ヒト化キメラマウス肝臓の置換率。
図14】ヒト化キメラマウス肝臓の組織学的解析(H&E染色と免疫染色)。
図15】ヒト化キメラマウス肝臓の置換率とヒトアルブミンの分泌。
図16】ヒト化キメラマウス肝臓の遺伝子解析。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0015】
本発明は、肝障害を起こした免疫不全非ヒト動物へヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞を移植し、肝細胞に分化誘導させることを含む、ヒト化肝臓を持つ非ヒト動物の作製方法を提供する。
【0016】
肝障害を起こした免疫不全非ヒト動物は、肝細胞特異的に肝障害を起こしたものであるとよい。肝障害を起こした免疫不全非ヒト動物は、免疫不全非ヒト動物に肝障害誘発処理を施すことにより作製することができる。免疫不全非ヒト動物としては、B細胞、T細胞、NK細胞の欠損により免疫不全になった動物(例えば、Rag1, Rag2, Jak3 or/and Foxn1などの遺伝子が欠損した非ヒト動物)などを挙げることができる。具体的には、NOD/SCID/Jak3-/-、Nude/Jak3-/-、NOG (NOD/Shi-SCID/IL2Rγ-/-)、NOD/RAG2-/-/IL2Rγ-/-、Nude/RAG2-/-、BALB/cA-RAG2-/-/IL2Rγ-/-、NOD-scid、NOD、SCID、X-SCID (IL2Rγ-/-)などのモデル動物を例示することができる。肝障害誘発処理としては、遺伝子改変(Alb-TRECK Tg動物、Alb-uPA Tg動物、Alb-herpes virus thymidine kinase(HSV-TK ) Tg動物、Fah-/-動物など)、薬剤投与(Retrorsine, 2AAF, DEN, CCl4など)、免疫反応(抗Fas抗体の添加など)、物理的な障害(肝切除、放射線照射など)などを挙げることができる。肝障害を起こした免疫不全非ヒト動物が遺伝子改変動物である場合には、改変した遺伝子がホモ接合体である動物を用いることが好ましい。
【0017】
肝障害を起こした免疫不全非ヒト動物の具体例としては、ジフテリア毒素受容体であるヒトHB-EGFを肝細胞に発現する免疫不全非ヒト動物にジフテリア毒素を投与して肝炎を発病させた非ヒト動物、正常非ヒト動物に薬物を投与し、肝臓を切除した非ヒト動物などを挙げることができる。
【0018】
ジフテリア毒素受容体であるヒトHB-EGF(heparin-binding EGF-like growth factor)を肝細胞に発現する免疫不全非ヒト動物としては、マウスアルブミン(ALB)プロモーターにヒト由来のジフテリア毒素(DT)受容体を連結したDNA 組換え体を重症複合免疫不全マウス(SCIDマウス)の受精卵前核にマイクロインジェクションして作製したトランスジェニックマウス(SCID-Alb-TRECK-Tgマウス)(「ヒト肝置換Tgマウスの作製方法」米川博通、松岡邦枝 東京都臨床医学総合研究所・疾患モデル開発センター 第7回研究交流フォーラム、2008.2.27、東京)やその子孫を例示することができるが、これに限定されることはない。また、SCID-Alb-TRECK-Tgマウスは、ALBプロモーターにより駆動されるDT受容体アレルについてホモ接合性であることが好ましい。ホモ接合性は戻し交配により確保することができる。非ヒト動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、サル、チンパンジー、ゴリラなどの哺乳動物を例示することができる。
【0019】
ジフテリア毒素受容体であるヒトHB-EGFを肝細胞に発現する免疫不全非ヒト動物(レシピエント)にジフテリア毒素を投与して肝炎を発病させた後、ヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞を移植する。例えば、SCID-Alb-TRECK-Tgマウスを用いた場合、1.0〜1.5μg/kgのジフテリア毒素を投与することにより、肝炎を発病させることができる。
【0020】
ジフテリア毒素を投与した後、抗アシアロGM1を投与して、レシピエントのNK細胞活性を除去するとよい。
【0021】
肝炎の発病は、レシピエントの血液をサンプリングし、血清成分のトランスアミラーゼ(GOT)とアラニントランスアミナーゼ(GPT)の活性を測定することにより、確認することができる。トランスアミラーゼ(GOT)活性の値が5000以上であり、アラニントランスアミナーゼ(GPT)活性値が10000以上であれば、肝炎を発病していると言える。
【0022】
レシピエントに移植するヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞(ドナー細胞)は、E-cadherin, EpCam, Dlk, NCAM, ICAM-1, CD14, CD29, CD34, CD44, CD49f, CD133, CDCP1, CD90, CD13などのヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞に発現する表現マーカーを発現するものであるとよく、その一例として、CDCP1陽性/CD90陽性/CD66陰性の表現型を有する細胞を挙げることができる。ドナー細胞としては、例えば、大日本製薬株式会社から初代ヒト胎児肝細胞 (Human primary fetal hepatocytes; Cat No. CS-ABI-3716)として供給されている細胞、その培養細胞や継代培養細胞からFACSで分離したCDCP1陽性/CD90陽性/CD66陰性の細胞を用いることができる。この細胞の調製方法は、WO2009/139419に記載されている。ドナー細胞は、さらに、CD13陽性であることが好ましい。CD13は肝幹/前駆細胞のマーカーの一つである。この他にも、iPS細胞、ES細胞などから分化誘導された肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞を用いてもよい。iPS細胞、ES細胞などから肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞を分化誘導する方法は、Cell Res. 2009;19(11):1233-42; Mol Ther. 2011;19(2):400-7.などに記載されている。
【0023】
ドナー細胞は、レシピエントの脾臓、門脈、腸間膜、腎被膜、皮下などに移植するとよい。
【0024】
ドナー細胞移植後のレシピエントにおけるドナー細胞の生着は、H&E染色、免疫染色などにより確認することができる(後述の実施例参照)。
【0025】
また、移植したヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞(ドナー細胞)が肝細胞へ分化誘導されていることは、ヒトアルブミン、humanCK19の免疫染色などにより確認することができる(後述の実施例参照)。レシピエントに移植したヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞(ドナー細胞)が肝細胞へ分化誘導されていることと一定期間にヒト肝臓機能を維持できることが確認されれば、ヒト化肝臓を持つ、あるいは肝臓がヒト化されたとみなすことができる。例えば、肝炎を発症させたSCID-Alb-TRECK-Tgマウスに、1x106個のヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞を移植した場合、移植後30〜60日程度で肝細胞への分化誘導が観察される。
【0026】
また、本発明は、上記の方法で作製した、ヒト化肝臓を持つ非ヒト動物を提供する。
本発明のヒト化肝臓を持つ非ヒト動物は、ヒト型薬物代謝酵素(例えば、CYP3A4、CYP2C9、CYP2C19、2D6, 1A2など)を発現しうるので、ヒト肝臓と同様の薬物代謝を行うと考えられる。従って、この動物を用いて、被験物質の薬物動態及び/又は肝毒性を調べることは、創薬研究に役立つ。本発明は、肝障害を起こした非ヒト動物へヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞を移植し、肝細胞に分化誘導させることにより作製したヒト化肝臓を持つ非ヒト動物を用いて、被験物質の薬物動態及び/又は肝毒性を調べる方法を提供する。
【0027】
さらに、本発明の別の態様として、肝障害を起こした非ヒト動物へヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞を移植し、肝細胞に分化誘導させることにより、ヒト肝細胞を作製することができる。すなわち、本発明は、肝障害を起こした非ヒト動物へヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞を移植し、肝細胞に分化誘導させることを含む、ヒト肝細胞の作製方法を提供する。この方法により作製したヒト肝細胞は、ヒト型薬物代謝酵素(例えば、CYP3A4、CYP2C9、CYP2C19、2D6, 1A2など)を発現しうるので、ヒト肝細胞と同様の薬物代謝を行うと考えられる。従って、この細胞を用いて、被験物質の薬物動態及び/又は肝毒性を調べることは、創薬研究に役立つ。本発明は、肝障害を起こした非ヒト動物へヒト肝幹細胞及び/又は肝前駆細胞及び/又は未熟肝細胞を移植し、肝細胞に分化誘導させることにより作製したヒト肝細胞を用いて、被験物質の薬物動態及び/又は肝毒性を調べる方法を提供する。
【0028】
被験物質は、いかなる物質であってもよく、タンパク質、ペプチド、ビタミン、ホルモン、多糖、オリゴ糖、単糖、低分子化合物、核酸(DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、モノヌクレオチド等)、脂質、上記以外の天然化合物、合成化合物、植物抽出物、植物抽出物の分画物、それらの混合物などを例示することができる。
【0029】
被験物質の薬物動態及び/又は肝毒性は、常法により調べることができる
被験物質の薬物動態を調べるには、例えば、被験物質を非ヒト動物に投与あるいはヒト肝細胞に添加した後、その代謝物または、排泄物、血漿、肝臓組織などを回収し、質量分析、HPLC分析などの方法により測定する。
【0030】
また、被験物質の肝毒性を調べるには、例えば、被験物質を非ヒト動物に投与あるいはヒト肝細胞に添加した後、肝細胞の状態(例えば、壊死など)を観察する。あるいは、非ヒト動物の血液中のヒトalbumin, GOT、GPT、LDHなどを測定してもよい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。下記実施例においては、Alb-TRECK/SCIDマウスをTRECK/SCIDマウスと記す。
【0032】
〔実施例1〕
1.材料及び方法
ヒト肝細胞の供給源
本研究に用いるヒト胎児肝臓細胞は、米国のACBRI(Applied Cell Biology Research Institute a registered Washington non-profit research institution)により提供者の同意の下に分離され、米国セルシステムズ社により無償で供与されているものである(Cat No. CS-ABI-3716)。本邦においては、大日本製薬株式会社から初代ヒト胎児肝細胞 (Human
primary fetal hepatocytes; Cat No. CS-ABI-3716)として供給されており、本研究においてはこれを使用した。感染症の検査(HIV, HBV, HCV)と細菌類検査(真菌、細菌、マイコプラズマ)については陰性である。本研究については、本学倫理委員会において審議され許可されている。
【0033】
細胞培養及び継代
既に確立され、報告されているコロニー形成能を持つ胎児肝細胞低密度培養系(Zheng YW, Taniguchi H, et al. Transplant Proc 2000;32:2372-2373; Suzuki A, Zheng YW, et
al. Hepatology 2000;32:1230-1239)に以下のような改変を行った。
【0034】
IV型コラーゲンコートディッシュ(Becton Dickinson Labware) に10%ウシ胎仔血清(FBS)、ヒトγ-インスリン(1.0 μg/ml, Wako, Japan)、ニコチンアミド(10 mM, SIGMA)、デキサメタゾン(1x10-7M, SIGMA)、L-グルタミン(2 mM, GIBCO BRL)を加えたDMEM栄養混合F-12 Ham培地(DMEM/F12 1:1 mixture, SIGMA)を添加し、初代胎児肝細胞又はフローサイトメトリーで画分化した細胞を播種し、約2-3週間又はそれ以上の期間にわたり、培養した。完全培地交換を5日毎に行った。ヒト組換えHGF (50 ng/ml, SIGMA)及び上皮増殖因子(EGF) (10 ng/ml, SIGMA)のような増殖因子を播種後24時間で添加した。
【0035】
細胞が培養皿中で90%コンフルエントになった際、以下の手順で継代を行った。培養培地を除去し、細胞を0.05%トリプシン-EDTA (GIBCO)で室温にて5分間処理し、細胞を優しくタッピングし、培養皿から剥離し、浮遊細胞を10% FBSを含有する培養培地洗浄した後、培養培地中に再播種した。トリパンブルー染色を行ったところ、解離した細胞の生存率が90%を下回ることはなかった。細胞の播種密度は、実験設計に応じて、単細胞培養(フローサイトメトリーでソーティングした細胞1個/を96穴プレートの1ウェル中で培養する手法)、100-500個の細胞/cm2の低密度細胞培養から1×103個の細胞/cm2の高密度細胞培養から選択した。
【0036】
フローサイトメトリーによる細胞プロファイリング及びソーティング
浮遊細胞を、氷上で30分間、蛍光標識モノクローナル抗体(mAb)の至適濃度下で遮光してインキュベートした。2% FBSを添加したPBSを洗浄液及び抗体希釈液として用いた。ビオチン標識一次抗体を用いた際はストレプトアビジン標識の施された蛍光抗体で二次反応を行った。すべての蛍光標識モノクローナル抗体はBecton Dickinsonから購入した。フルオレセイン-イソチオシアネート(FITC)結合抗ヒトCD66 (hCD66FITC)、アロフィコシアニン(APC)結合hCD90、フィコエリトリン(PE)結合hCD318。ソーティングは高速セルソーターMoFlo (DakoCytomation)を用いて行った。*CD318はCDCP1と称されることもある。
【0037】
細胞化学及び免疫細胞化学アッセイ
多重免疫細胞化学染色の際は、細胞を冷エタノールで30分間固定し、10%正常ヤギ血清(NGS)で60分間ブロッキングを行った後、一次抗体を1%NGS添加PBSで希釈し、湿室にて4℃で一晩反応させた。二次抗体を10%グリセロールを含むPBSで希釈し、湿室にて室温で60分間反応させた。細胞核をDAPIで染色し、FAマウント液で封入した。(画像は、Zeiss AxioImager顕微鏡で取得した。)
免疫細胞化学には、一次抗体としてマウス抗ヒトアルブミンmAb(SIGMA)、マウス抗ヒトCK19 mAb (Progen)、及びモルモット抗CK8/18 pAb (Progen)、マウス抗ヒトNuclei mAb (Millipore)。二次抗体としてAlexa488標識ヤギ抗guinea pig IgG、Alexa-555標識ヤギ抗マウスIgG2a、Alexa647結合ヤギ抗マウスIgG1 (Invitrogen, Molecular Probes)を用いた。
【0038】
リアルタイムPCR
細胞又は細胞コロニー由来の全RNAをIsogen試薬(Nippon Gene, Toyama, Japan)を用いて抽出した。逆転写(RT)の前に、150 ngのランダムプライマーと1 μlの10 mM dNTP混合物を全RNA溶液に添加した。反応混合物を65℃で5分間加熱し、氷上で1分間インキュベートした後、1x first-strand buffer、0.5 mM dNTP mix、5mM DTT及び200 unitsのSuper Script III (invitrogen)を加え、25℃で5分間、50℃で45分間、70℃で15分間インキュベートし、全RNA からcDNAを合成した。
【0039】
ALBUMIN (Hs00609411_m1)、AFP(Hs01040607_m1)、CYP3A4 (Hs01546612_m1)、CYP2C9 (Hs00426397_m1)、CYP2C19(Hs00426380_m1)及びhACTB (4326315E)用のTaqmanプローブ及びプライマーはTaqMan Gene Expression Assays (Applied Biosystems)から購入した。
【0040】
キメラマウス作成と解析
本研究で用いたマウスは、標的細胞ノックアウトマウス(Toxin Receptor Mediated Cell Knockout マウス: TRECKマウス)と重症免疫不全マウス(SCIDマウス)を交配して作出したTRECK/SCIDマウスをレシピエントとして用いた(東京都医学総合研究所より提供)。マウス肝実質細胞を標的とするため、マウスALBプロモーターにヒト由来のジフテリア毒素受容体を連結したDNA 組換え体を用いて、トランスジェネシスを施しており、ジフテリア毒素を投与すると、ヒトの受容体を発現した臓器のみを特異的に殺すことが可能である。このマウスの遺伝的背景を均一化するため、戻し交配を3回行い、安定的な状態を保っている。細胞移植には四週齢から八週齢のTRECK/SCIDマウスを用い、移植48時間前に1.5ug/kgのジフテリア毒素(Diphtheria toxin : DT)を投与し肝障害を引き起こし、1 mg/ml の抗アシアロ GM1 (Wako, Japan) 100ulを投与し、マウスのNK細胞活性除去を施した。48時間後に尾静脈から血液をサンプリングし、4000rpm 20分間 4℃で遠心分離を行い、血清成分を得た。得られた血清成分のトランスアミラーゼ(GOT)とアラニントランスアミナーゼ(GPT)の活性をFUJIFILM DRY-CHEM kitを用いて測定した。DT処理を施し、肝障害を引き起こしたTRECK/SCIDマウスの脾臓に1x106個の胎児肝幹細胞(hepatic stem cell : HSC)もしくは胎児肝臓細胞(fetal liver cell : FLC)を移植した。移植後のマウスは6週間後に肝臓をサンプリングし、免疫染色、H&E染色、遺伝子解析、ELISAを行った。ELISA解析は移植後4週間以上のキメラマウスの尾静脈から血液をサンプリングし、血清成分を分離し、サンプルとして用いた。ヒトアルブミンELISA kit (Bethyl Laboratories)を用いて血清中のヒトアルブミンの分泌量を測定した。
【0041】
2.実験結果
胎児肝臓細胞(FLC)より単離した肝幹細胞がin vivo で分化誘導能や機能性を有するかを検討した。本発明者らは、CDCP1陽性/CD90陽性/CD66陰性の肝幹細胞(HSC)を、DT投与によって肝障害を引き起こさせたTRECK/SCIDマウスに移植を行った。In vivo に定着し、肝幹細胞によって再構築されたマウスの肝臓を40日後にサンプリングし、組織学的な解析を行った。
【0042】
移植前後のTRECK/SCIDマウスの肝臓(図1
移植前後のTRECK/SCIDマウスの肝臓の状態を比較した。左上図はDT処理前の正常肝臓、左下図はDT投与後48時間が経過した肝臓である。DT投与後では肝臓が白く変色し、肝障害が引き起こされていることが見た目からも分かる。しかし、DT投与後に肝幹細胞を5週間移植した肝臓(右図)では、肝臓の血色も良くなり、正常肝臓へと回復しつつある。激しく損傷していた肝臓が、肝幹細胞を移植することによって組織を再構築し、肝障害を緩和していた。
【0043】
ヒト化キメラマウス肝臓の置換率(図2
移植した肝幹細胞が定着している状態をより正確に可視化するためにGFPを発現させた肝幹細胞を移植に用いた。移植後20日目の肝臓では肝組織の半分以上がGFP陽性を示す肝幹細胞由来の肝臓であった。置換効率は最大で84.5%となっていた。平均的な置換率は65.6±17.5%(n=3).
【0044】
ヒト化キメラマウス肝臓の組織学的解析(H&E染色と免疫染色)(図3及び4)
作成したヒト由来キメラ肝臓の組織学的な解析を行った。H&E染色を行った結果、ヒト由来肝幹細胞が見られた(図3の点線内)。
【0045】
より広範囲な組織学的解析を行うためH&E染色、免疫染色を行ったキメラ肝組織の“Scan large imaging”を行った。 H&E染色では広範囲に定着したヒト由来肝細胞が確認され、ヒト細胞由来のコロニーが多数確認された(図4の左上図)。免疫染色では、ヒト核陽性細胞が、全組織中およそ50.0%が確認された(図4の左下図)。さらにヒトアルブミン陽性、ヒト核陽性細胞が確認され、移植したヒト由来肝幹細胞が、TRECK/SCIDマウスの肝臓内で機能性を持っていることが確認された(図4の右上図)。
【0046】
マウス肝臓におけるヒト肝幹細胞から肝細胞への分化(図5及び6)
移植を行ったヒト肝幹細胞がin vivoの環境下で分化誘導されているかを検証するためにヒトアルブミン、humanCK19の免疫染色を行った。ヒトアルブミン陽性/CK19陰性細胞群は比較的アルブミン分泌が高く、成熟肝細胞と同程度の発現を示していた(図5)。Human nuclear antigenとhuman CK8/18の免疫染色結果より、マウス肝臓にヒト由来細胞も大量に存在を示した(図6)。この結果から、移植した肝幹細胞はレシピエントマウスの肝臓内において、肝細胞と胆管細胞の二方向へ分化することとなり、さらに組織再構築能を持っていることが示唆された。
【0047】
ヒト化キメラマウス肝臓の遺伝子解析(図7及び8)
In vivoの解析からヒト由来キメラ肝臓が機能性を有している可能性が示唆された。そこで、このキメラ肝臓の遺伝子発現の解析を行った。薬物代謝酵素であるCYP3A4,CYP2C9,CYP2C19、肝特異的発現を示すhALBの発現を定量PCRにて解析を行った。その結果、移植前のドナー細胞と比較して、肝幹細胞(HSC)を移植した肝臓組織では、全ての遺伝子発現が上昇していた(図7)。hALBの遺伝子発現では、およそ66万倍の上昇、CYP3A4の発現ではおよそ22.7 万倍と高い上昇が見られ、肝幹細胞がin vivoの環境下で分化誘導されていることが示唆された。さらに胎児肝臓細胞と比較した場合、肝幹細胞を移植した肝臓は遺伝子発現が高く、より分化が誘導されやすく、移植に適している細胞だと考えられた。
【0048】
さらに本発明者らは、ヒト化キメラマウス肝臓(Chimera)と成熟肝細胞(adult hepoatocyte : AH)、成熟肝臓組織(adult liver tissue : AL)、胎児肝臓組織(fetal liver tissue : FL)の遺伝子発現との比較を行った。成熟肝細胞と比較して、肝幹細胞由来キメラ肝臓組織ではhALBの遺伝子発現(1/18)以外は、CYPs遺伝子に関しては、同程度の発現が見られ、特にCYP2C19の発現はAHと比較して10倍高い発現を示していた(図8)。
【0049】
ヒト由来キメラ肝臓のアルブミン分泌測定(図9
これまでの解析より、肝幹細胞由来キメラ肝臓が機能性を持っていることが示唆されている。そこで本発明者らは、キメラマウス血清中のヒトアルブミン分泌量をELISAにて解析した。コントロールとして使用した、非移植TRECK/SCIDマウス(Control)の血清中にはヒトアルブミンは検出されなかった。しかし、肝幹細胞を移植したヒト由来キメラ肝臓を持つマウス(#220, #221)では、移植50日後の血清中に1381ng/ml、1679ng/mlとヒトアルブミンの分泌が確認された。この結果から、移植した肝幹細胞は、TRECK/SCIDマウスの肝臓内で機能性を持った細胞に分化している事が示された。肝幹細胞と初代胎児肝細胞を移植して、ヒト化肝臓を持つキメラマウスの生存日数について120日を越えていることも観察された。
【0050】
ヒト化肝臓のマイクロアレイ解析(図10
マウス肝臓内で作成したヒト胎児肝幹細胞由来キメラ肝臓の分化度を検証するため、網羅的な遺伝子プロフィールの解析を行った。対象群としてドナー細胞である胎児肝幹細胞とヒト成人肝細胞(XenoTech CatNo: H1500.H15A+)を用い、発現パターンを比較検証した。その結果、胎児肝幹細胞では発現が確認されず、キメラ肝臓と成人肝細胞にのみに発現する1049遺伝子が確認された。その中には、肝臓特異的マーカーとして用いられるALB、AFP、HNF4aや、薬物代謝酵素であるCYP2C9、CYP2C19、CYP2D6の発現が確認された。マイクロアレイ中のCYP遺伝子プローブ全53個中、キメラ肝臓では27遺伝子の発現が見られた。成人肝細胞では49遺伝子、胎児肝幹細胞では15遺伝子の発現であったことから、キメラ肝臓は分化誘導が進み、成人肝細胞へと分化していると考えられる。その他にも脂質代謝、アンモニア代謝、アルコール代謝に関与する機能性遺伝子の発現が確認された。キメラ肝臓と胎児肝幹細胞との間で、2倍以上の発現上昇が見られる遺伝子を検証したところ、各種CYP遺伝子、肝臓マーカーであるCEBPAやKRT遺伝子、各種代謝に関与する遺伝子の上昇が見られた。このことから、ヒト胎児肝幹細胞はマウス生体内環境下において分化誘導が促進し、成人肝細胞へ近づきながら、肝臓組織を再構築していることが示唆された。
なお、ドナー細胞としては、大日本製薬株式会社から初代ヒト胎児肝細胞 (Human primary fetal hepatocytes; Cat No. CS-ABI-3716)として供給されている細胞、その培養細胞や継代培養細胞からFACSで分離したCDCP1陽性/CD90陽性/CD66陰性の細胞を用いた。この細胞の調製方法は、WO2009/139419に記載されている。
【0051】
キメラマウスの生存率(図11
作成したヒト肝細胞キメラマウスの肝臓が機能を有し、肝障害に対する治療効果を有するか否かを検討するため、生存率解析を行った。その結果、移植を行わなかったコントロール(SHAM)群と比較して、移植群では優位に生存率が高く、マウス肝臓内でヒト胎児肝細胞が機能性を有していることが示唆された。コントロール群(SHAM)と比べて、ヒト肝幹細胞を移植したマウスは有意な長期間生存ができた(P=0.0169, Log-rank (Mantel-Cox)test)。ヒト肝細胞に対する毒性や薬効のin vivo評価系としてもその利用対象になりうる。
【0052】
薬物代謝能(ヒト化キメラマウスにおけるヒト特異的代謝産物の確認(図12
ヒト肝細胞を移植したTRECK/SCIDマウスにケトプロフェン(15 mg/kg)を静脈内投与した。対照として、偽手術したマウスを用いた。尿(0-4時間)を0.5 M 酢酸バッファー (pH 5.0)中に集めた。尿サンプルに1 N KOHを添加し、80℃で3時間インキュベーションし、その後、等容量の1 N HCLを用いて中和した。1%酢酸を含むアセトニトリルを添加し、遠心にかけた(15000 rpm, 4oC, 5分)。上清を液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC/MS/MS)にかけた。液体クロマトグラフィー実験には、Intersil ODS-3カラム(ジーエルサイエンス株式会社、東京、日本)を備えたLC-20Aシリーズ(島津、京都、日本)を用いた。クロマトグラフィーによる分離は、Intersil ODS-3カラム(5 μm, 4.6 x 150 mm I.D.; ジーエルサイエンス株式会社、東京、日本)を用いて達成した。カラム温度は40℃に維持した。0.1%酢酸(溶媒A)および0.1%酢酸含有アセトニトリル(溶媒B)からなる移動相を、以下の勾配スケジュールに従って、流速0.5 mL/分で注入した:25-80%溶媒Bの直線勾配(0-15分)、80%溶媒B(15-25分)、80-25%溶媒Bの直線勾配(25-26分)、および25%溶媒B(26-35分)。液体クロマトグラフィーは、4000 Q Trapシステム(AB SCIEX, Foster City, CA)に連結し、陰性エレクトロスプレーイオン化モードで操作した。turboガスは600℃に維持した。親および/または断片イオンは第一の四極子でろ過し、そして衝突ガスとして窒素を用いて衝突セル内で解離した。イオンスプレー電圧は-4500Vで、ケトプロフェンおよび1-ヒドロキシケトプロフェンの分析された m/z移行(Q1/Q3)は、それぞれ253.1/209.3 および 269.1/209.3であった。
【0053】
KTPはマウス中でシトクロームP450によって第一に代謝され、1-ヒドロキシケトプロフェン(OH-KTP)を形成する。他方、ヒトにおいては、KTPは主としてUDP-グルコロノシルトランスフェラーゼ(UGT)によって代謝され、ケトプロフェングルクロニド(KTP-G)を形成する。
【0054】
肝臓ヒト化マウスは、ヒト特異的薬物代謝を研究する上で有用なツールである。肝臓ヒト化マウスにおけるヒト特異的薬物代謝機能は、高品質の成体肝細胞および酷く損傷した肝臓を有する免疫不全マウスを用いて、以前に報告されている。KTPの投与後、UGTがKTPグルクロニド化を容易にすること、および加水分解によりKTPがKTP-Gに代謝されること、が観察された。KTP/OH-KTPピーク面積比を計算し、加水分解サンプルと非加水分解サンプルの間でこの面積比を比較した。KTP/OH-KTPピーク面積比の倍増は、サンプル中におけるKTP-Gの形成を示唆する。ヒト肝細胞を移植されたTRECK/SCIDマウス(n=8)および対照マウス(n=3)における尿中の倍増は、ヒト肝細胞を移植したTRECK/SCIDマウスにおいてKTPグルクロニド化(ヒト特異的薬物代謝機能)が観察されることを示唆している。
【0055】
ヒトCYP2D6に対する一般的な表現型検査剤として働くデブリソキンは、ヒトの中で4-ヒドロキシデブリソキン(4-OHDB)に代謝されるが、マウスでは無視できる。重要なことに、ヒトCYP2D6は公知薬物の25%の代謝に関与しており、そして多型が多数存在することにより、顕著な個体差に寄与している。デブリソキンの経口投与後、4-OHDBの血漿濃度は、偽手術群におけるそれよりも高く、これはヒト特異的薬物代謝物の産生を反映している。
キメラマウス(n=3)およびコントロールマウス(n=4)におけるデブリソキンに対するデブリソキン代謝物4-OHDBの血清比。デブリソキン(2.0 mg/kg)を経口投与した。データは経口投与8時間後、平均値±標準偏差で表す。
【0056】
ヒト化キメラマウス肝臓の置換率(図13
ヒト胎児肝細胞、肝幹細胞或いは自己複製能強化したBMI導入し幹細胞株(WO2009/139419参照)を用い、肝障害を引き起こしたTRECK/Scidマウスに移植を行い、再構築されたマウスの肝臓を40日後にサンプリング、組織学的解析を行った。移植後約3から7週後にサンプリング、組織学的解析を行った。さらに詳しく置換率を検討するため、定量PCRを用いて検討した。プライマー設計をマウスACTB特異的配列とヒトACTB特異的配列、両種のACTBを検出する配列で作成し、置換率を求めた。その結果、平均置換率はFLC: 79.9±26.4% (mean±SD, n=10); HSC: 65.5±28.9% (n=9), BMI1 clone3: 69.3±32.9% (n=5)と高く、最も高い個体ではHSC由来、99.9%と98.4%と、高効率でマウス肝細胞と置き換わっていた。
【0057】
ヒトACTB特異的配列を検出するプライマー:
hACTB F gcacaatgaagatcaagatcattg(配列番号1)
hACTB R taaagccatgccaatctcatc(配列番号2)
【0058】
マウスACTB特異的配列を検出するプライマー:
mACTB F aagatcaagatcattgctcctcct(配列番号3)
mACTB R gccatgccaatgttgtctctta(配列番号4)
【0059】
ヒト及びマウスの両種のACTBを検出するプライマー:
hm ACTB F gcaccacaccttctacaatga(配列番号5)
hm ACTB R gctggggtgttgaaggtctc(配列番号6)
【0060】
〔実施例2〕
uPA-NOGを用いたキメラマウスの作成
マウスアルブミン遺伝子エンハンサー/プロモーターを用いて肝臓特異的にmouse urokinase -type plasminogen activator(uPA)を発現させる自然発症型肝傷害uPA-NOG(uPA-NOD/scid Il2KO)免疫不全マウスは(財)実験動物中央研究所から提供された。
【0061】
ヒト化キメラマウス肝臓の組織学的解析(H&E染色と免疫染色)(図14
移植した肝幹細胞が定着している状態をより正確に可視化するためにGFPを発現させた肝幹細胞を移植に用いた。移植後30日目の肝臓では肝組織のほぼ100%がGFP陽性を示す肝幹細胞由来の肝臓であった。より広範囲な組織学的解析を行うためH&E染色、免疫染色を行ったキメラ肝組織の“Scan large imaging”を行った。H&E染色では広範囲に定着したヒト由来肝細胞が確認され、ヒト細胞由来のコロニーが多数確認された。免疫染色では、ヒト核陽性細胞が、全組織中およそ50.0%以上が確認された。さらにヒトアルブミン陽性、ヒト核陽性細胞が確認され、移植したヒト由来肝幹細胞が、uPA-NOGマウスの肝臓内で機能性を持っていることが確認された。肝実質細胞マーカーであるALBと胆管上皮細胞マーカーであるCK19共発現細胞が見られ、肝細胞、胆管上皮細胞の双方向に分化した細胞が存在することが示唆された。
【0062】
ヒト化キメラマウス肝臓の置換率とヒトアルブミンの分泌(図15
未熟ヒト肝細胞を用いて、自然発症型肝傷害uPA-NOGマウスに移植を行い、再構築されたマウスの肝臓を4から7週間後に肝臓組織と血清をサンプリング、置換率を検討するため、定量PCRを用いて検討した。プライマー設計をマウスACTB特異的配列とヒトACTB特異的配列、両種のACTBを検出する配列で作成し、置換率を求めた。その結果、平均置換率は76.6±17.7% (mean±SD, n=10)と高く、最も高い個体ではHSC由来、93.3%と、高効率でマウス肝細胞と置き換わっていた。更に、ヒトアルブミンをマウス血清に存在するか、ELISA法で調べました。移植しないマウスに、ヒトのアルブミンを全く検出されない、ヒト肝幹細胞由来移植群は1000ng/mlの血清アルブミンとヒトアルブミン分泌が確認された。
【0063】
ヒト化キメラマウス肝臓の遺伝子解析(図16
In vivoの解析からヒト由来キメラ肝臓が機能性を有している可能性が示唆された。そこで、このキメラ肝臓の遺伝子発現解析を行った。薬物代謝酵素であるCYP2C9, CYP2C18,CYP2C19,CYP3A4,CYP3A7肝特異的発現を示すhALBの発現を定量PCRにて解析を行った。その結果、移植前ドナー細胞と比較して、移植した肝臓組織では、全ての遺伝子発現が上昇していた。成熟肝細胞(adult hepoatocyte)の遺伝子発現と比較して、一部サンプルは、CYPs遺伝子に関しては、同程度の発現が見られ、未熟肝細胞in vivoの環境下で分化誘導されていることが示唆された。
【0064】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によって、分離した肝幹/前駆細胞または未熟なヒト肝細胞を非ヒト動物生体内において分化誘導させることにより、成熟肝細胞が得られる。この産物は人工肝臓やin vitroにおける薬物代謝試験などに大きく貢献できるものである。また、ヒト肝細胞に置換したキメラ非ヒト動物が得られ、このキメラ非ヒト動物を用いることで、創薬化合物の薬物代謝試験や安全性試験が可能となる。
【0066】
本発明により得られるヒト肝臓を持つキメラ非ヒト動物は、薬剤代謝試験、安全性試験、薬効のスクリーニング等の創薬研究における実験動物として使用可能である。また、生体内で分化誘導を行った成熟肝細胞は、in vitroでの創薬研究や人工肝臓のソースとして有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0067】
<配列番号1>
配列番号1は、ヒトACTB特異的配列を検出するプライマー(フォワード)のヌクレオチド配列を示す。
<配列番号2>
配列番号2は、ヒトACTB特異的配列を検出するプライマー(リバース)のヌクレオチド配列を示す。
<配列番号3>
配列番号3は、マウスACTB特異的配列を検出するプライマー(フォワード)のヌクレオチド配列を示す。
<配列番号4>
配列番号4は、マウスACTB特異的配列を検出するプライマー(リバース)のヌクレオチド配列を示す。
<配列番号5>
配列番号5は、ヒト及びマウスの両種のACTBを検出するプライマー(フォワード)のヌクレオチド配列を示す。
<配列番号6>
配列番号6は、ヒト及びマウスの両種のACTBを検出するプライマー(リバース)のヌクレオチド配列を示す。
図1
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]