特許第5950249号(P5950249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5950249銅合金線、銅合金撚線、被覆電線、及び端子付き電線
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5950249
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】銅合金線、銅合金撚線、被覆電線、及び端子付き電線
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20160630BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20160630BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20160630BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20160630BHJP
   H01B 5/08 20060101ALI20160630BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20160630BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20160630BHJP
【FI】
   C22C9/00
   C22F1/08 C
   H01B5/02 Z
   H01B1/02 A
   H01B5/08
   H01B7/00 301
   H01B7/00 306
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 604
   !C22F1/00 625
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686B
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 630B
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-162905(P2014-162905)
(22)【出願日】2014年8月8日
(65)【公開番号】特開2016-37652(P2016-37652A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2016年4月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】井上 明子
(72)【発明者】
【氏名】桑原 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】西川 太一郎
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 清高
(72)【発明者】
【氏名】藤田 博
(72)【発明者】
【氏名】大塚 保之
(72)【発明者】
【氏名】小林 啓之
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−268035(JP,A)
【文献】 特開昭60−39139(JP,A)
【文献】 特開2009−167450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00
C22F 1/08
H01B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体に利用される銅合金線であって、
Feを0.4質量%以上1.5質量%以下、
Tiを0.1質量%以上0.7質量%以下、
Mgを0.02質量%以上0.15質量%以下、
Si及びMnの少なくとも一方とCとを、合計で10質量ppm以上500質量ppm以下含有し、
残部がCu及び不純物からなる銅合金によって構成され、
線径が0.5mm以下である銅合金線。
【請求項2】
Fe/Ti(質量比)が1.0以上5.5以下である請求項1に記載の銅合金線。
【請求項3】
平均結晶粒径が10μm以下である請求項1又は請求項2に記載の銅合金線。
【請求項4】
伸びが5%以上である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の銅合金線。
【請求項5】
導電率が60%IACS以上、引張強さが450MPa以上である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の銅合金線。
【請求項6】
導電率が60%IACS以上、引張強さσBが450MPa以上、伸びεが5%以上であり、
σB+25ε≧650を満たす請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の銅合金線。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の銅合金線を複数本撚り合わせてなる銅合金撚線。
【請求項8】
前記銅合金撚線は、圧縮線材である請求項7に記載の銅合金撚線。
【請求項9】
前記銅合金線の撚りピッチは、10mm以上20mm以下である請求項7又は請求項8に記載の銅合金撚線。
【請求項10】
前記銅合金撚線の断面積は、0.03mm以上0.5mm以下である請求項7〜請求項9のいずれか1項に記載の銅合金撚線。
【請求項11】
導体の外側に絶縁被覆層を備える被覆電線であって、
前記導体が、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の銅合金線又は請求項7〜請求項10のいずれか1項に記載の銅合金撚線である被覆電線。
【請求項12】
請求項11に記載の被覆電線と、この被覆電線の端部に装着された端子部とを備える端子付き電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に配策される電線などの導体に用いられる銅合金線、銅合金撚線、この銅合金線や銅合金撚線を導体とする被覆電線、この被覆電線を備える端子付き電線に関する。特に、極細線であって、強度・導電率・伸びをバランスよく備える銅合金線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの配策に用いられる電線導体の構成材料は、導電性に優れた銅や銅合金といった銅系材料が主流である。この導体の引張強さなどの機械的特性を向上させるために種々の研究がなされている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【0003】
特許文献1には、Mg,Ag,Sn,Znから選択されるいずれか1種を特定範囲の含有量で含有させた銅合金に、99%以上の冷間加工度で伸線加工を施すことで引張強度、縦弾性係数、導電率などの機械的特性を高めた硬質素線を、複数本撚り合わせてなる自動車用電線導体が開示されている。また、特許文献2には、析出強化元素としてTiと、析出促進元素としてFeとをそれぞれ特定範囲の含有量で含有させ、Cu母相中に固溶する添加元素を効果的に析出させることで、引張強度や導電率などの機械的特性を高めた銅合金を導体としたワイヤーハーネス用電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−016284号公報
【特許文献2】特開2009−167450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今、自動車の高性能化や高機能化が急速に進められてきており、車載される各種の電気機器、制御機器などの増加に伴い、これらの機器に使用される電線も増加傾向にある。一方、近年、環境対応のために自動車などの搬送機器の燃費を向上するべく、軽量化が強く望まれている。
【0006】
電線の軽量化のために、例えば線径0.5mm以下といった極細線の電線が望まれる。極細線の電線は、配策時の衝撃などによって断線する虞がある。従って、高強度・高導電率を有しながら伸びにも優れ、自動車などの配策に用いられる電線導体に適した特性をバランスよく備える銅合金線の開発が望まれる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、本発明の目的の一つは、極細線であって、高強度・高導電率を有しながら伸びにも優れる銅合金線を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記銅合金線を複数本撚り合わせてなる銅合金撚線を提供することにある。更に、本発明の別の目的は、上記銅合金線や銅合金撚線を導体とする被覆電線、この被覆電線を備える端子付き電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る銅合金線は、導体に利用される銅合金線であって、Feを0.4質量%以上1.5質量%以下、Tiを0.1質量%以上0.7質量%以下、Mgを0.02質量%以上0.15質量%以下、Si及びMnの少なくとも一方とCとを、合計で10質量ppm以上500質量ppm以下含有し、残部がCu及び不純物からなる銅合金によって構成され、線径が0.5mm以下である。
【0009】
本発明の一態様に係る銅合金撚線は、上記銅合金線を複数本撚り合わせてなる。
【0010】
本発明の一態様に係る被覆電線は、導体の外側に絶縁被覆層を備える被覆電線であって、前記導体が、上記銅合金線又は上記銅合金撚線である。
【0011】
本発明の一態様に係る端子付き電線は、上記被覆電線と、この被覆電線の端部に装着された端子部とを備える。
【発明の効果】
【0012】
上記銅合金線、銅合金撚線、被覆電線、及び端子付き電線は、極細線であって、高強度・高導電率を有しながら伸びにも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0014】
(1)実施形態の銅合金線は、導体に利用される銅合金線であって、Feを0.4質量%以上1.5質量%以下、Tiを0.1質量%以上0.7質量%以下、Mgを0.02質量%以上0.15質量%以下、Si及びMnの少なくとも一方とCとを、合計で10質量ppm以上500質量ppm以下含有し、残部がCu及び不純物からなる銅合金によって構成され、線径が0.5mm以下である。
【0015】
上記構成によれば、Cu−Fe−Ti−Mg系合金からなることで高強度であり、かつ添加元素が特定の範囲であることで導電率も高い。銅合金が特定の組成であることで、高温に長時間保持される熱処理を施しても引張強さが低下し難く、伸びを向上させることができる。特に、Si及びMnの少なくとも一方とCとが特定の範囲で含有されることで、線径が0.5mm以下の極細線であっても、高強度・高導電率であり伸びにも優れる銅合金線とできる。この理由は、Si及びMnの少なくとも一方とCとが含有されることで、上流工程における連続鋳造時に添加元素、特にFeやTiの酸化物の生成を抑制でき、Fe,Ti,Mgの三元素をバランスよく含有させることができるからである。また、上記酸化物の生成を抑制でき、伸線時に上記酸化物を起点とした破断を防止できるため、線径が0.5mm以下まで伸線を行うことができるからである。
【0016】
(2)実施形態の銅合金線の一形態として、Fe/Ti(質量比)が1.0以上5.5以下であることが挙げられる。
【0017】
銅合金線の引張強さ及び導電率は、基本的にはFeやTiを含む析出物によって決まるものである。よって、FeとTiの質量比が重要となり、上記質量比であることで、引張強さ及び導電率の向上を図ることができる。
【0018】
(3)実施形態の銅合金線の一形態として、平均結晶粒径が10μm以下であることが挙げられる。
【0019】
平均結晶粒径が10μm以下の微細組織であることで、伸びに優れる。また、微細組織であることで、端子圧着を行った場合に端子固着力を高めることができる。
【0020】
(4)実施形態の銅合金線の一形態として、伸びが5%以上であることが挙げられる。
【0021】
伸びが5%以上であることで、耐衝撃性や屈曲特性が求められる電線の導体素材に好適に利用することができる。伸びが5%以上であることで、電線の配策時において断線し難い。
【0022】
(5)実施形態の銅合金線の一形態として、導電率が60%IACS以上、引張強さが450MPa以上であることが挙げられる。
【0023】
導電率が60%IACS以上、引張強さが450MPa以上であることで、耐衝撃性や屈曲特性が求められる電線の導体素材に好適に利用することができる。引張強さが450MPa以上であることで、破断し難く、端子圧着を行った場合に長期的にその圧着状態を維持できる。
【0024】
(6)実施形態の銅合金線の一形態として、導電率が60%IACS以上、引張強さσBが450MPa以上、伸びεが5%以上であり、σB+25ε≧650を満たすことが挙げられる。
【0025】
引張強さσBと伸びεが上記関係式を満たすことで、より優れた耐衝撃性や屈曲特性を有する。
【0026】
(7)実施形態の銅合金撚線は、上記(1)〜(6)の実施形態の銅合金線を複数本撚り合わせてなる。
【0027】
上記構成によれば、上記実施形態の銅合金線の特性を実質的に維持するため、高強度・高導電率であり伸びにも優れる。複数本の上記実施形態の銅合金線を撚り合わせることで撚線全体としての耐衝撃性や屈曲特性といった機械的特性を単線の場合よりも向上することができる。
【0028】
(8)実施形態の銅合金撚線の一形態として、前記銅合金撚線は、圧縮加工されていることが挙げられる。
【0029】
撚線全体を圧縮加工することで、撚線形状の安定性が高まる。また、撚線の断面積に占める空隙率を減少することができる。
【0030】
(9)実施形態の銅合金撚線の一形態として、前記銅合金線の撚りピッチは、10mm以上20mm以下であることが挙げられる。
【0031】
銅合金線の撚りピッチを10mm以上とすることで、生産性を向上することができる。一方、撚りピッチを20mm以下とすることで、屈曲特性を向上することができる。
【0032】
(10)実施形態の銅合金撚線の一形態として、前記銅合金撚線の断面積は、0.03mm以上0.5mm以下であることが挙げられる。
【0033】
撚線の断面積が0.03mm以上であることで、端子圧着が確実になされる。一方、撚線の断面積が0.5mm以下であることで、撚線の軽量化を図ることができる。
【0034】
(11)実施形態の被覆電線は、導体の外側に絶縁被覆層を備える被覆電線であって、前記導体が、上記(1)〜(6)の実施形態の銅合金線又は上記(7)〜(10)の実施形態の銅合金撚線である。
【0035】
上述のように高強度・高導電率であり伸びにも優れる銅合金線や銅合金撚線を導体とすることで、実施形態の被覆電線も高強度・高導電率であり伸びにも優れ、優れた耐衝撃性や屈曲特性を有する。
【0036】
(12)実施形態の端子付き電線は、上記(11)の実施形態の被覆電線と、この被覆電線の端部に装着された端子部とを備える。
【0037】
上述のように高強度・高導電率であり伸びにも優れる被覆電線を備えることで、実施形態の端子付き電線も高強度・高導電率であり伸びにも優れ、優れた耐衝撃性や屈曲特性を有する。
【0038】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態の詳細を、以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0039】
[銅合金線]
《組成》
銅合金線を構成する銅合金は、純Cuを主成分(母材)とし、Feを0.4質量%以上1.5質量%以下、Tiを0.1質量%以上0.7質量%以下、Mgを0.02質量%以上0.15質量%以下含有し、さらにSi及びMnの少なくとも一方とCとを合計で10質量ppm以上500質量ppm以下含有する。
【0040】
Feは、0.4質量%以上含有することで、強度に優れる銅合金線が得られる。Feの含有量は、多いほど銅合金線の強度は高まるが、一方で導電率が低下したり、伸線加工時などで断線が生じ易くなるため、1.5質量%以下とする。Feの含有量は、0.45質量%以上1.3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上1.1質量%以下がより好ましい。
【0041】
Tiは、Feと共存させることで、導電率及び強度が向上する。Tiは、0.1質量%以上含有することで、強度に優れる銅合金線が得られる。Tiの含有量は、多いほど銅合金線の強度は高まるが、一方で導電率が低下したり、伸線加工時などで断線が生じ易くなるため、0.7質量%以下とする。Tiの含有量は、0.1質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。
【0042】
FeとTiは、化合物でCuに析出して存在することで、銅合金線は強度及び導電率に優れる。このFeとTiの質量比(Fe/Ti)は、1.0以上とすることが好ましい。それにより、FeとTiの化合物を適度に析出することができ、導電率が向上する。Fe/Tiは、Feが過剰となると導電率が低下するため、5.5以下とすることが好ましい。Fe/Tiは、1.4以上5.0以下が好ましく、さらに1.6以上4.0以下、特に1.8以上3.6以下がより好ましい。
【0043】
Mgは、0.02質量%以上含有することで、強度が向上する。Mgの含有量は、多いほど銅合金線の強度は高まるが、一方で導電率が低下するため、0.15質量%以下とする。Mgの含有量は、0.02質量%以上0.1質量%以下が好ましく、0.03質量%以上0.06質量%以下がより好ましい。
【0044】
Si及びMnの少なくとも一方とCとを、合計で10質量ppm含有することで、Fe,Tiの酸化物の生成を抑制することができ、Fe,Ti,Mgの三元素をバランスよく含有させることができ、強度・導電率・伸びがバランスよく向上する。また、上記酸化物を抑制できることで、線径が0.5mm以下の極細線の銅合金線とすることができる。Si及びMnの少なくとも一方とCとの合計含有量は、多いほど脱酸効果は高まるが、一方でCuの母材中にこれらが残存して導電率が低下するため、500質量ppm以下とする。上記合計含有量は、20質量ppm以上300質量ppm以下が好ましく、30質量ppm以上100質量ppm以下がより好ましい。各元素の好ましい含有量として、Cは、20質量ppm以上200質量ppm以下が好ましく、30質量ppm以上100質量ppm以下がより好ましい。SiまたはMnの少なくとも一方の合計含有量は、5質量ppm以上100質量ppm以下が好ましく、10質量ppm以上50質量ppm以下がより好ましい。Si及びMnの少なくとも一方とCとを特定量含有することで、酸素の含有量を、20質量ppm以下、さらに15質量ppm以下、特に10質量ppm以下とし易い。
【0045】
《線径》
銅合金線は、伸線加工時の加工度(断面減少率)を適宜調整することで、線径を変化させることができる。例えば、自動車用電線導体に利用する場合、線径は0.5mm以下の極細線が挙げられる。本実施形態の銅合金線は、線径が0.5mm以下といった極細線であっても、引張強さ、導電率、及び伸びに優れる。銅合金線の線径は、0.35mm以下、さらに0.25mm以下が挙げられる。
【0046】
《組織》
上記特定の組成からなる銅合金線は、平均結晶粒径が10μm以下の微細組織である。平均結晶粒径は、小さいほど銅合金全体の組織が微細になり易く、破断の起点となるような粗大粒が存在し難くなり、伸びに優れると考えられる。また、微細組織であることで、端子圧着を行った場合に端子固着力を高めることができる。平均結晶粒径は、連続鋳造時の熱処理条件などを適宜調整することで、2μm以下といったさらに微細な組織とすることができる。平均結晶粒径の測定方法は後述する。
【0047】
《断面形状》
銅合金線は、伸線加工時のダイス形状によって種々の横断面形状を有することができる。横断面が円形状である丸線が代表的である。その他、横断面形状は、楕円形状、矩形や六角形といった多角形状などの種々の形状が挙げられる。上記楕円形状や多角形状といった異形状の場合、線径は、横断面における等面積相当円の直径とする。
【0048】
《機械的特性》
上述した銅合金線は、強度・導電率・伸びをバランスよく備え、高強度・高導電率であり伸びにも優れる。引張強さ及び導電率は、添加元素の種類、含有量、製造条件(伸線加工度、熱処理の温度など)により変化させることができる。例えば、添加元素を多くしたり、伸線加工度を高めたり(線径を細くしたり)すると、引張強さが高く、導電率が低くなる傾向にある。引張強さは、450MPa以上が好ましく、さらに470MPa以上、特に490MPa以上が好ましい。導電率は、60%IACS以上が好ましく、さらに62%IACS以上、特に64%IACS以上が好ましい。
【0049】
伸びは、伸線後に特定の熱処理を施すことにより変化させることができる。例えば、熱処理として焼鈍を行い、焼鈍温度を高くしたり、焼鈍時間を長くすると、伸びが高くなる傾向にある。具体的な焼鈍条件は後述する。伸びは、5%以上が好ましく、さらに6%以上、特に8%以上が好ましい。
【0050】
特に、導電率が60%IACS以上、引張強さσBが450MPa以上、伸びεが5%以上であるとき、σB+25ε≧650の関係式を満たすことが挙げられる。上記関係式を満たすことで、一定の導電率に対して強度と伸びとのバランスがよく、耐衝撃性や屈曲特性により優れる。上記関係式は、さらにσB+25ε≧680、特にσB+25ε≧700が好ましい。
【0051】
[銅合金撚線]
上記銅合金線は、複数本を撚り合わせた撚線(本実施形態の銅合金撚線)とすることで、耐衝撃性や屈曲特性に更に優れる導体が得られる。撚り合わせ本数は、特に問わない。この銅合金撚線を圧縮加工して圧縮線材とすると、撚線形状の安定性が高まる。また、撚線の断面積に占める空隙率を減少し、圧縮前の撚り合わせた状態よりも線径を小さくすることができる。撚線の断面積は、0.03mm以上とすることで端子圧着を確実にでき、0.5mm以下とすることで撚線の軽量化を図ることができる。また、撚線の撚りピッチは、10mm以上とすることで生産性を向上でき、20mm以下とすることで屈曲特性を向上することができる。
【0052】
[被覆電線]
上記銅合金線や上記銅合金撚線は、電線の導体に利用することができる。導体の外側に絶縁被覆層を備える被覆電線として使用することもできる。絶縁被覆層を構成する絶縁材料は、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)やノンハロゲン樹脂、難燃性に優れる材料等が挙げられる。絶縁被覆層の厚さは、所望の絶縁強度を考慮して適宜選択することができ、特に限定されない。
【0053】
[端子付き電線]
上記被覆電線は、端子付き電線に好適に利用することができる。端子付き電線は、代表的には、上記被覆電線を1本以上含む電線を備え、各電線の端部に端子部が取り付けられている。上記各電線は、上記端子部を介して電気機器等の接続対象に接続される。端子付き電線は、電線ごとに一つの端子部がそれぞれ設けられた形態の他、複数の電線が一つの端子部にまとめて取り付けられた電線群を含む形態でもよい。上記端子部の形状は、雄型、雌型等が挙げられ、この端子部と被覆電線の導体との接続は、導体を圧着する圧着型や、溶融した導体が接続される溶融型等が挙げられ、特に限定されない。端子付き電線に備える複数の電線は、結束具等により一纏まりに束ねると、ハンドリング性に優れる。
【0054】
[製造方法]
上述した銅合金線は、代表的には、以下の製造方法により製造することができる。この製造方法は、導体に利用される銅合金線の製造方法であって、以下の連続鋳造工程と、伸線工程と、熱処理工程とを備える。
連続鋳造工程:後述する銅合金の溶湯を連続鋳造して鋳造材を作製する工程。
伸線工程:上記鋳造材、または上記鋳造材に塑性加工を施した加工材に伸線加工を施して伸線材を作製する工程。
熱処理工程:上記伸線材に熱処理を施す工程。
【0055】
《連続鋳造工程》
まず、銅合金の溶湯を連続鋳造して鋳造材を作製する。銅合金の溶湯は、Cu材と各添加元素のうちFe,Ti,Mgの主添加元素材を、不純物量が20質量ppm以下の高純度カーボン製の坩堝で溶解することで得られる。Fe,Ti,Mgの各含有量は、上述した銅合金線のFe,Ti,Mgの含有量とすればよい。溶解は、大気雰囲気中で行うことで、生産性を向上できる。このとき、上記主添加元素、特にFeやTiが酸化しないように、脱酸効果を有するCやSi,Mnといった酸化防止材を混合する。各酸化防止材の混合方法としては、湯面が大気に接触しないように、湯面を木炭片や木炭粉の第一の酸化防止材で覆うことが挙げられる。湯面を第一の酸化防止材で覆ったとしても、第一の酸化防止材間に隙間が生じ、この隙間において湯面が大気と接触する虞があるため、脱酸効果を有するSiやMnといった第二の酸化防止材を溶湯中に混合することが挙げられる。SiやMnは、Fe合金として混合してもよいし、主添加元素と同様に個別に混合してもよい。各酸化防止材の含有量は、上述した銅合金線のCやSi,Mnの含有量とすればよい。湯面を第一の酸化防止材で覆う場合、第一の酸化防止材と湯面とが接触することで、第一の酸化防止材(C)が溶湯に混入する量が、上述した銅合金線のCの含有量となるように、第一の酸化防止材の量を決定すればよい。
【0056】
連続鋳造は、溶湯面に配した鋳型内で溶湯を凝固させて上方に連続的に引上げる上方引上連続鋳造法(アップキャスト法)を用いる形態が挙げられる。鋳型は、不純物量が20質量ppm以下の高純度カーボン製鋳型を用いることが好ましい。連続鋳造時における急冷は、適宜選択することができるが、5℃/sec以上が好ましい。
【0057】
上記連続鋳造により得られた鋳造材に、鋳造に引き続いてコンフォーム押出を行ってもよい。コンフォーム押出を行うことで、鋳造材の表面欠陥を低減できる。他に、コンフォーム押出に代えて、冷間圧延や皮剥ぎを行ってもよい。
【0058】
《伸線工程》
上記鋳造材、または上記鋳造材にコンフォーム押出や冷間圧延を施した加工材に伸線加工を施して最終線径の伸線材を作製する。伸線加工(代表的には冷間)は、最終線径になるまで複数パスに亘って行う。各パスの加工度は、組成、最終線径などを考慮して適宜調整するとよい。
【0059】
《熱処理工程》
最終線径まで伸線加工が施された伸線材に特定の熱処理を施し、鋳造時における過飽和固溶状態、またはこの過飽和固溶状態から微量のFeやTiを含む析出物が析出した状態から前記析出物を人工時効によって析出させる。熱処理には、バッチ軟化処理または連続軟化処理が利用できる。バッチ軟化処理は、加熱炉内に加熱対象を封入した状態で加熱する処理方法であり、一度の処理量が限られるものの、加熱対象全体の加熱状態を管理し易い。一方、連続軟化処理は、加熱炉内に加熱対象を連続的に供給して、加熱対象を連続的に加熱する処理方法であり、連続的に加熱できるため作業性に優れる。
【0060】
バッチ軟化処理は、熱処理温度を350℃以上660℃以下、保持時間を30分以上とすることで、析出物を十分に析出させることができる。所望の特性に応じて、熱処理温度を選択するとよい。熱処理温度は、400℃以上550℃以下、保持時間は、2時間以上20時間以下がより好ましい。熱処理の保持時間は長いほど、析出物をより多く析出できることから、導電率を向上できることがある。熱処理を伸線加工後に行うことで、熱処理によって析出した析出物が起点となって断線することを低減できるため、伸線性よく加工できる。
【0061】
他に、熱処理を時効析出処理としての熱処理と軟化処理としての熱処理とに分けて行うことが挙げられる。時効析出処理としての熱処理は、上述した冷間圧延や伸線加工などの歪を導入後に行う。例えば、冷間圧延後で伸線加工前の加工材に熱処理を施してもよいし、伸線途中の中間伸線材に熱処理を施してもよい。この時効析出処理としての熱処理は、350℃以上600℃以下、保持時間は、30分以上40時間以下が挙げられる。軟化処理としての熱処理は、時効析出処理後に最終伸線加工を施した伸線材に行う。この軟化処理としての熱処理は、350℃以上800℃以下とする連続軟化処理を利用することが挙げられる。熱処理を時効析出処理としての熱処理と軟化処理としての熱処理とに分けて行うことで、軟化処理後の結晶粒径を小さく保てるため、高い強度と伸びを実現できる。
【0062】
上述した熱処理工程により、上記特定の組成からなり、線径が0.5mm以下の極細線で、導電率が60%IACS以上、引張強さが450MPa以上、伸びが5%以上を満たす銅合金線が得られる。
【0063】
《撚り合わせ工程》
上記銅合金線を複数本撚り合わせることで、銅合金撚線を製造することができる。この銅合金撚線を圧縮加工して圧縮線材としてもよい。線材を複数本撚り合わせた撚線構造とする場合、上記軟化工程を撚線に対して行うことで、撚線の撚りが戻り難いため好ましい。具体的には、伸線工程において最終線径まで伸線加工が施された伸線材を複数本撚り合わせて撚線とし、この撚線に上記軟化工程を施す。上記軟化工程を行った銅合金線を複数本撚り合わせてもよいし、撚り合わせた後に更に軟化工程を施してもよい。
【0064】
《被覆工程》
上記銅合金線または上記銅合金撚線の外周に、上述した絶縁材料からなる絶縁被覆層を形成することで、被覆電線を製造することができる。絶縁被覆層の形成方法は、押出被覆や粉体塗装による被覆が挙げられる。
【0065】
《端子の取り付け工程》
上記被覆電線の端部に端子部を装着し、代表的には、端子付きの被覆電線を複数本束ねることで、端子付き電線を製造することができる。導体と端子部とは、被覆電線の絶縁被覆層の一部を剥いで導体を露出させて圧着することが挙げられる。
【0066】
[試験例]
・試験例1
銅合金線を作製し、銅合金線の種々の特性を調べた。
【0067】
銅合金線は、以下に示す2つの製造パターンによって製造した。一つ目の製造パターンAは、純度99.99%以上の電気銅と各添加元素のうちFe,Ti,Mgの主添加元素含有の母合金を用意し、高純度カーボン製の坩堝に投入して大気雰囲気中で溶解させ、表1に示す主成分を含有する混合溶湯を作製した。このとき、湯面を木炭片で十分に覆い、湯面が大気に接触しないようにした。木炭片は、木炭片と湯面との接触によってCが溶湯に混入する量が表1に示すCの微量成分となるように調整した。また、表1に示すSi,Mnの微量成分を上記主成分のFeの合金として混合した。得られた混合溶湯と高純度カーボン製鋳型とを用いて上方引上連続鋳造法(アップキャスト法)により、線径φ12.5mmの断面円形状の鋳造材を作製した。得られた鋳造材を線径φ9.5mmまでコンフォーム押出して加工材を作製した。その後、上記加工材を表1に示す線径(mm)まで伸線加工を施し伸線材を作製し、表1に示す熱処理条件でバッチ軟化処理(焼鈍)を行った。
【0068】
二つ目の製造パターンBは、上記製造パターンAと同様に鋳造材を作製した。この鋳造材を線径φ9.5mmまで冷間圧延⇒熱処理(500℃×8時間)⇒皮剥ぎダイスによりφ8mmまで皮剥ぎを行い加工材を作製した。その後、上記加工材を表1に示す線径(mm)まで伸線加工を施して伸線材を作製し、連続軟化を行った。
【0069】
【表1】
【0070】
得られた銅合金線について、平均結晶粒径(μm)、酸素量(質量ppm)、引張強さ(MPa)、導電率(%IACS)、伸び(破断伸び(%))を調べた。その結果を表2に示す。
【0071】
平均結晶粒径は、各試料の銅合金線の横断面にクロスセクションポリッシャ(CP)加工を施して、この断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で観察した。平均結晶粒径は、任意の観察範囲の面積をその中に存在する粒子数で割った面積の相当円の直径とする。ただし、観察範囲は、存在する粒子数が50個以上又は横断面全体とする。
【0072】
酸素量は、酸素分析装置を用いて不活性ガス融解⇒赤外線吸収法により測定した。
【0073】
引張強さ(MPa)及び伸び(%、破断伸び)は、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法、1998)に準拠して、汎用の引張試験機を用いて測定した。導電率(%IACS)は、ブリッジ法により測定した。
【0074】
【表2】
【0075】
表1及び表2に示すように、特定の組成の銅合金からなる試料No.1〜14は、引張強度が450MPa以上、導電率が60%IACS以上、伸びが5%以上であり、高強度・高導電率である上に、伸びにも優れる。銅合金が特定の組成であることで、線径が0.32mm以下の極細線でも、高強度・高導電率を有しながら伸びにも優れる。
【0076】
・試験例2
銅合金線を複数本撚り合わせた撚線構造の被覆電線を作製し、被覆電線の機械的特性を調べた。
【0077】
被覆電線は以下に示す2つの製造パターンによって製造した。一つ目の製造パターンA’は、上述した銅合金線の製造パターンAの伸線材を7本撚り合わせて、断面外形が円形状となるように圧縮加工を施し、0.13mmの圧縮線材を作製し、この圧縮線材に表3に示す熱処理条件で軟化(焼鈍)を行った。そして、この軟化を行った撚線の外周に、PVC樹脂を厚さ0.2mmで押出被覆して絶縁被覆層を形成した。
【0078】
二つ目の製造パターンB’は、上述した銅合金線の製造パターンBの伸線材を7本撚り合わせて、断面外形が円形状となるように圧縮加工を施し、0.13mmの圧縮線材を作製し、この圧縮線材に連続軟化を行った。そして、この連続軟化を行った撚線の外周に、PVC樹脂を厚さ0.2mmで押出被覆して絶縁被覆層を形成した。
【0079】
得られた被覆電線について、端子固着力(N)と耐衝撃エネルギー(J/m)を調べた。
【0080】
端子固着力(N)は、被覆電線の端部の絶縁被覆層を剥いで、撚線を露出させる。この露出させた撚線に端子部を圧着する。汎用の引張試験機を用いて、端子部を100mm/minで引っ張ったときに端子部が抜けない最大荷重(N)を測定し、この最大荷重を端子固着力(N)として評価した。その結果を表3に示す。
【0081】
耐衝撃性(J/mまたは(N/m)/m)は、被覆電線の先端に錘を取り付け、この錘を1m上方に持ち上げた後、自由落下させる。このとき、被覆電線が断線しない最大の錘の重量(kg)を測定し、この重量に重力加速度(9.8m/s)と落下距離とをかけた積値を落下距離で割った値を耐衝撃性(J/mまたは(N/m)/m)として評価した。その結果を表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
表3に示すように、特定の組成の銅合金からなる試料No.1〜14は、53N以上の端子固着力と7J/m以上の耐衝撃性を有し、端子固着力と耐衝撃性共に優れることがわかる。従って、この被覆電線は、自動車などの配策に用いられる電線として好適に利用できると期待される。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の銅合金線及び本発明の銅合金撚線は、軽量で、高強度・高導電率を有する上に、耐衝撃性や屈曲特性にも優れることが望まれる用途、例えば、自動車や飛行機等の搬送機器、産業用ロボット等の制御機器といった各種の電気機器に利用される電線の導体に好適に利用することができる。本発明の被覆電線及び本発明の端子付き電線は、軽量化が望まれている種々の分野の電気機器、特に、燃費の向上のために更なる軽量化が望まれている自動車の配策構造に好適に利用することができる。