(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記低分子アリル性二リン酸が、ネリル二リン酸、ゲラニルゲラニル二リン酸、ヘプタプレニル二リン酸、デカプレニル二リン酸、およびウンデカプレニル二リン酸からなる群から選択される、請求項1に記載のイソプレノイドの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、イソプレノイドの効率的な製造方法、及び該製造方法により得られるイソプレノイドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、プレニルトランスフェラーゼ活性を示す酵素の存在下で、ファルネシル二リン酸を除く低分子アリル性二リン酸からプレニル鎖延長反応を行う、イソプレノイドの製造方法に関する。
【0008】
前記低分子アリル性二リン酸が、下記式:
【化1】
(式中、n=0〜3であり、m=1〜8であり、
【化2】
である)
の構造からなることが好ましい。
【0009】
前記低分子アリル性二リン酸が、ネリル二リン酸、ゲラニルゲラニル二リン酸、ヘプタプレニル二リン酸、デカプレニル二リン酸、およびウンデカプレニル二リン酸からなる群から選択されることが好ましい。
【0010】
pH8.5以上の塩基性条件下でプレニル鎖延長反応を行うことが好ましい。前記pHが9以上であることが好ましい。
【0011】
ホスファターゼ阻害剤の存在下、前記プレニル鎖延長反応を行うことが好ましい。前記ホスファターゼ阻害剤がフッ化カリウムであることが好ましい。
【0012】
前記プレニル鎖延長反応は、イソペンテニル二リン酸が順次縮合する反応であり、前記イソペンテニル二リン酸の反応効率が0.80nmol/(時間・50μg−protein)以上であることが好ましい。前記イソペンテニル二リン酸の反応効率が0.85nmol/(時間・50μg−protein)以上であることがより好ましい。
【0013】
前記イソプレノイドの重量平均分子量が10万以上であることが好ましい。
【0014】
前記イソプレノイドの製造方法は、前記イソプレノイドを1.0mg/(時間・l)以上の平均容積生産性で製造することが好ましい。また、前記イソプレノイドを1.2mg/(時間・l)以上の平均容積生産性で製造することがより好ましい。
【0015】
前記プレニルトランスフェラーゼ活性を示す酵素は、下記工程1〜2により得られる下記小ゴム粒子層1に含まれることが好ましい。
工程1:ヘベア・ブラジリエンシス樹から採取したラテックスを遠心分離して2層に分離し、前記2層のうちの下層を得る工程。
工程2:得られた前記下層を遠心分離して5層に分離し、前記5層のうちの最上層から数えて2層目の小ゴム粒子層1を得る工程。
【0016】
前記工程1の前記遠心分離が10000〜18000Gで行われ、
前記工程2の前記遠心分離が35000〜50000Gで行われることが好ましい。
【0017】
前記プレニルトランスフェラーゼ活性を示す酵素は、下記工程3により得られる下記小ゴム粒子層2に含まれることが好ましい。
工程3:前記小ゴム粒子層1を緩衝液で希釈し、希釈液を47000G以上で遠心分離し、小ゴム粒子層2を得る工程。
【0018】
前記工程1〜3の前記各遠心分離が0〜8℃で行われることが好ましい。
【0019】
前記ラテックスは、タッピングを開始してから10分以上経過した後に採取されたものであることが好ましい。また、前記ラテックスは、5℃以下で保存されたものであることが好ましい。
【0020】
前記イソプレノイドの製造方法は、金属イオンの存在下、前記プレニル鎖延長反応を行うことが好ましい。前記金属イオンがマグネシウムイオンであることが好ましい。
【0021】
本発明はまた、前記製造方法により製造されたイソプレノイドに関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、単位時間当たり、及び酵素量当たりのイソプレノイド製造効率を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、プレニルトランスフェラーゼ活性を示す酵素の存在下で、ファルネシル二リン酸を除く低分子アリル性二リン酸からプレニル鎖延長反応を行う、イソプレノイドの製造方法に関する。プレニルトランスフェラーゼ活性を示す酵素によるイソプレノイドの製造に使用される基質として、一般にアリル性二リン酸のうちファルネシル二リン酸(FPP)が使用されているが、本発明の製法は、様々なアリル性二リン酸のうち、基質としてファルネシル二リン酸以外のアリル性二リン酸を使用することでイソプレノイドの製造効率を改善したものである。
【0025】
ファルネシル二リン酸以外の低分子量アリル性二リン酸としては、イソペンテニル二リン酸との反応性から、炭素数が55以下のアリル性二リン酸が好ましい。具体的には、ジメチルアリル二リン酸、ゲラニル二リン酸、ゲラニルゲラニル二リン酸、ゲラニルファルネシル二リン酸、ヘキサプレニル二リン酸、ヘプタプレニル二リン酸、オクタプレニル二リン酸、ソラネシル二リン酸、デカプレニル二リン酸、ネリル二リン酸、ウンデカプレニル二リン酸などを好適に使用でき、ゲラニル二リン酸、ゲラニルゲラニル二リン酸、ジメチルアリル二リン酸が特に好適である。
【0026】
ファルネシル二リン酸以外の低分子アリル性二リン酸のなかでも、下記式で示される構造を有する化合物を使用することがより望ましい。
【化3】
(式中、n=0〜3であり、m=1〜8であり、
【化4】
である)
【0027】
これまでイソプレノイドの製造に基質として用いられるアリル性二リン酸として、全てがtrans型のファルネシル二リン酸が最適と考えられてきたが、上記式で示されるような二リン酸側のプレニル基にcis構造を有するファルネシル二リン酸以外のアリル性二リン酸を使用することにより、イソプレノイドの製造効率を顕著に改善できる。
【0028】
上記式の構造からなるファルネシル二リン酸以外の低分子アリル性二リン酸としては、ネリル二リン酸、ゲラニルゲラニル二リン酸、ヘプタプレニル二リン酸、デカプレニル二リン酸、ウンデカプレニル二リン酸などが挙げられ、具体的には、cis−(trans)
2ゲラニルゲラニル二リン酸、(cis)
4−(trans)
2ヘプタプレニル二リン酸、(cis)
6−(trans)
3デカプレニル二リン酸などが列挙される。
【0029】
プレニルトランスフェラーゼ活性を示す酵素とは、単一のタンパク質(酵素)であってもよく、複数のタンパク質(酵素)からなるタンパク質群(酵素群)であってもよい。
【0030】
プレニル鎖延長反応は、イソペンテニル二リン酸(IPP)が順次縮合する反応であり、具体的には、前記ファルネシル二リン酸を除く低分子量アリル性二リン酸にイソペンテニル二リン酸が順次縮合する反応、より具体的には該低分子量アリル性二リン酸にイソペンテニル二リン酸が順次シス縮合する反応である。
【0031】
本発明では、プレニル鎖延長反応は、塩基性条件下で行われることが好ましい。
プレニル鎖延長反応におけるpH条件に関して、従来は、もっぱら基質であるイソペンテニル二リン酸の消費量にのみ着目し、ホスファターゼによるイソペンテニル二リン酸の加水分解の影響や、一般的なプレニルトランスフェラーゼ活性、長鎖長のイソプレノイドを生合成する活性を区別して評価されていなかったので、まず、極性が互いに異なる3種の溶媒を用いて、プレニル鎖延長反応の反応生成物から、基質であるイソペンテニル二リン酸がホスファターゼにより脱リン酸化されて生じるイソペンテノール、プレニルトランスフェラーゼによって重合された中鎖長(C10〜C100程度)のイソプレノイドや長鎖長(C100を超える)のイソプレノイドを分離することに成功した。
【0032】
そして、1−
14Cラベルされたイソペンテニル二リン酸を用いて反応を行い、上述の方法で各反応生成物を分離し評価することで、中鎖長のイソプレノイド及び長鎖長のイソプレノイドそれぞれにおけるイソペンテニル二リン酸の取り込み量を区別して測定した。
【0033】
ここで、反応系のpHを変えて反応を行い、上述の方法により、各反応生成物を分析した結果、ヘベア・ブラジリエンシス樹のラテックスのホスファターゼ活性の至適pHは、約8であり、中鎖長のイソプレノイドを生合成する反応の至適pHは、約6であることが判明した。一方、長鎖長のイソプレノイドを生合成する反応の至適pHは、約9〜9.5であることが判明した。このように、中鎖長のイソプレノイドを生合成する反応の至適pHと、長鎖長のイソプレノイドを生合成する反応の至適pHは異なるので、従来行われてきた中性条件下ではなく、pH8.5以上の塩基性条件下でプレニル鎖延長反応を行うことにより、長鎖長のポリイソプレノイドを効率的に製造できる。
【0034】
プレニル鎖延長反応は、pH8.5以上の塩基性条件下で行われることが好ましい。pH8.5未満では、イソプレノイドの製造効率が著しく悪化する傾向がある。該pHは好ましくは9以上である。また、該pHは、好ましくは11以下、より好ましくは10.5以下、更に好ましくは9.5以下である。11を超えると、イソプレノイドの製造効率が著しく悪化する傾向がある。
【0035】
イソプレノイドの製造方法としては、緩衝液、プレニルトランスフェラーゼ活性を示す酵素、イソペンテニル二リン酸、及び低分子量アリル性二リン酸を含む混合液を用いて、pH8.5以上の塩基性条件下でプレニル鎖延長反応を行う方法が好適である。
【0036】
緩衝液としては特に限定されず、公知の緩衝液を使用できるが、効率的にイソプレノイドを製造できるという点から、pH8.5以上の緩衝液を使用することが好ましい。該緩衝液のpHは好ましくは9以上である。また、該緩衝液のpHは好ましくは11以下、より好ましくは10.5以下、更に好ましくは9.5以下である。このような緩衝液としては、トリス−塩酸バッファー、グリシン−水酸化ナトリウムバッファー、ホウ酸(カリウム)バッファー、ホウ酸(ナトリウム)バッファー、炭酸−重炭酸バッファー、2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸バッファー、3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸バッファーなどが挙げられる。なかでも、グリシン−水酸化ナトリウムバッファー、2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸バッファー、3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸バッファーが好ましい。なお、該緩衝液の濃度は適宜設定できる。
【0037】
プレニルトランスフェラーゼ活性を示す酵素としては、前述のプレニル鎖延長反応を触媒するものであれば特に限定されないが、高分子量のイソプレノイドを良好に製造できるという点から、ヘベア・ブラジリエンシス樹から採取したラテックスに含まれるものが好ましい。なかでも、下記工程1〜2により得られる下記小ゴム粒子層1に含まれるものがより好ましい。
工程1:ヘベア・ブラジリエンシス樹から採取したラテックスを遠心分離して2層に分離し、上記2層のうちの下層を得る工程。
工程2:得られた上記下層を遠心分離して5層に分離し、上記5層のうちの最上層から数えて2層目の小ゴム粒子層1を得る工程。
【0038】
なお、上記5層のうちの最上層から数えて4層目の第4層に含まれるものを用いてもよい。
【0039】
ヘベア・ブラジリエンシス樹から採取したラテックスとしては特に限定されないが、例えば、タッピングを開始してから10分以上経過した後に採取されたものなどを好適に使用できる。該ラテックスは、タッピング開始から10分未満に得られた分を廃棄する方法などにより得られる。
【0040】
また、ラテックスは新鮮なものほど好ましく、例えば、使用時まで5℃以下で保存されたものなどを用いることができる。このようなラテックスとして、例えば、予め5℃以下に冷却した容器に採取され、採取直後から5℃以下で保存されたラテックスなどが好適である。
【0041】
工程1では、ラテックスを、必要に応じて試験管に移し、遠心分離により2層に分離した後、該2層のうちの下層(ラテックス下層)を回収する。工程1の遠心分離の遠心加速度は、好ましくは10000G以上、より好ましくは11000G以上である。該遠心加速度は、好ましくは18000G以下、より好ましくは14000G以下である。遠心加速度が上記範囲内であると、ラテックスを好適に2層に分離することができる。遠心分離の時間は特に限定されないが、好ましくは5〜60分、より好ましくは15〜45分である。また、遠心分離は、0〜8℃で行われることが好ましい。
【0042】
下層の回収方法としては特に限定されず公知の方法により回収でき、例えば、上層を廃棄した後で下層を回収する方法などが挙げられる。
【0043】
工程2では、得られた下層を遠心分離して5層に分離し、5層のうちの最上層から数えて2層目の小ゴム粒子層1を回収する。工程2の遠心分離の遠心加速度は、好ましくは35000G以上、より好ましくは40000G以上である。該遠心加速度は、好ましくは50000G以下、より好ましくは45000G以下である。遠心加速度が上記範囲内であると、希釈液を好適に5層に分離することができる。
遠心分離の好ましい時間、温度は工程1と同様である。
【0044】
遠心分離により下層が5層に分離された様子を
図1に示す。
図1に示すように、該5層の最上層から順に、第1層としてラバーフラクション層、第2層として小ゴム粒子層1、第3層としてフレイウィスリング層(Frey−Wyssling層)、第4層としてC−セラム層(可溶タンパク質層)、第5層としてボトムフラクション層(膜タンパク質層)を形成するように、工程2により下層は分離される。なお、該5層は容易に見分けることができる。特に、小ゴム粒子層1は青く光っているため、容易に見分けることができる。
【0045】
小ゴム粒子層1は、SRP(Small Rubber Particle)と呼ばれる小ゴム粒子を含む層である。
【0046】
小ゴム粒子層1の回収方法としては特に限定されず、小ゴム粒子層1をピペットやスパチュラなどで回収する方法などにより回収できる。
【0047】
前述の通り、プレニルトランスフェラーゼ活性を示す酵素として、上記小ゴム粒子層1に含まれる酵素を好適に使用できるが、イソプレノイドを極めて効率的に製造できるという点から、小ゴム粒子層1を下記工程3により処理して得られる下記小ゴム粒子層2に含まれる酵素を使用することがより好ましい。
工程3:上記小ゴム粒子層1を緩衝液(希釈用緩衝液)で希釈し、希釈液を47000G以上で遠心分離し、小ゴム粒子層2を得る工程。
【0048】
工程3では、小ゴム粒子層1を緩衝液(希釈用緩衝液)で希釈し、希釈液を調製する。該緩衝液としては特に限定されず、公知の緩衝液を使用できる。緩衝液のpHは好ましくは6.5〜8.0、より好ましくは7.0〜7.5である。このような緩衝液としては、トリス−塩酸バッファー、リン酸カリウムバッファー、リン酸ナトリウムバッファーなどが挙げられる。該緩衝液の濃度は適宜設定できる。また希釈方法は特に限定されず、公知の方法により希釈できる。
【0049】
その後、希釈液は、47000G以上で遠心分離され、小ゴム粒子層2が回収される。
【0050】
工程3の遠心分離の遠心加速度は、好ましくは47000G以上、より好ましくは49000G以上である。47000G未満であると、小ゴム粒子層2が緩衝液と充分に分離されない傾向がある。該遠心加速度の上限は特に限定されないが、例えば、60000G以下である。遠心分離の好ましい時間、温度は工程1と同様である。
【0051】
遠心分離後の希釈液の様子を
図2に示す。
図2に示すように、遠心分離により希釈液は、小ゴム粒子層2と緩衝液層の2層に分離される。小ゴム粒子層2は2層のうちの上層に形成される。小ゴム粒子層2は他の層と容易に見分けられる。小ゴム粒子層2は、小ゴム粒子層1と同様にSRPを含む層である。小ゴム粒子層2の回収方法としては特に限定されず、小ゴム粒子層2をピペットやスパチュラなどで回収する方法などにより回収できる。
【0052】
なお、得られた小ゴム粒子層2を再度、同様の緩衝液(希釈用緩衝液)で希釈し、希釈液を同様の条件(47000G以上)で遠心分離し、小ゴム粒子層2を回収してもよい。
【0053】
混合液の混合方法としては特に限定されず、公知の方法で混合でき、例えば、緩衝液に、プレニルトランスフェラーゼ活性を示す酵素、イソペンテニル二リン酸及び低分子量アリル性二リン酸を添加して混合液を調製し、撹拌する方法などが挙げられる。撹拌方法は特に限定されず、公知の方法で実施できる。
【0054】
また、上記混合液には、ジチオトレイトール(DTT)などの還元剤、ホスファターゼ阻害剤、金属イオンなどを適宜添加できる。なかでも、基質であるイソペンテニル二リン酸がホスファターゼにより脱リン酸化されるのを防止し、イソプレノイドを効率的に製造できるという理由から、ホスファターゼ阻害剤を混合液に添加することが好ましい。また、良好な製造効率が得られるという理由から、金属イオンを添加することが好ましい。
【0055】
ホスファターゼ阻害剤としては特に限定されないが、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、モリブデン(IV)酸二ナトリウム、オルトバナジン(V)酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、テトラミゾール塩酸塩、レバミゾール塩酸塩、アデノシン二リン酸(ADP)などが挙げられる。なかでも、イソペンテニル二リン酸の脱リン酸化を良好に抑制でき、プレニルトランスフェラーゼ反応を阻害しないという点から、フッ化カリウムが好ましい。
【0056】
金属イオンとしては特に限定されないが、本発明の効果が良好に得られるという点から、マグネシウムイオン、マンガンイオン、カルシウムイオンなどの2価金属イオンが好ましく、マグネシウムイオンがより好ましい。
【0057】
得られた混合液のpHは、好ましくはpH8.5以上である。pH8.5未満では、イソプレノイドの製造効率が著しく悪化する傾向がある。該pHは好ましくは9以上である。また、該pHは、好ましくは11以下、より好ましくは10.5以下、更に好ましくは9.5以下である。11を超えると、イソプレノイドの製造効率が著しく悪化する傾向がある。
【0058】
混合液のpHを8.5以上に調整する方法としては特に限定されず、例えば、前述のpH8.5以上の緩衝液を用いることで上記範囲に調整できる。また、反応を行いながら、混合液に、アンモニアなどを添加して上記範囲に調整してもよい。
【0059】
混合液中のイソペンテニル二リン酸の濃度は、好ましくは20μM以上、より好ましくは50μM以上、更に好ましくは80μM以上である。20μM未満であると、イソプレノイドの製造効率上好ましくない。また、該濃度の上限は特に限定されない。
【0060】
混合液中の低分子量アリル性二リン酸の濃度は、好ましくは5μM以上、より好ましくは10μM以上、更に好ましくは12μM以上である。また、該濃度は、好ましくは50μM以下、より好ましくは30μM以下、更に好ましくは15μM以下である。50μMを超えると、長鎖長イソプレノイドの製造効率上好ましくない。
【0061】
混合液中のプレニルトランスフェラーゼ活性を示す酵素の濃度は、好ましくは0.1g/l以上、より好ましくは0.3g/l以上である。0.1g/l未満であると、充分な製造効率が得られないおそれがある。該濃度の上限は特に限定されない。
なお、本明細書において、プレニルトランスフェラーゼ活性を示す酵素として、該酵素以外に他のタンパク質成分を含むものを使用する場合(前述の小ゴム粒子層1に含まれる酵素や前述の小ゴム粒子層2に含まれる酵素などを使用する場合)、該濃度は、全タンパク質量(該酵素及び他のタンパク質成分の合計量)を該酵素量として算出される。該濃度は、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0062】
プレニル鎖延長反応を行う方法としては特に限定されず、例えば、上記混合液を、所定温度で静置及び/又は撹拌することで、プレニル鎖延長反応を行うことができる。
【0063】
反応の温度は適宜設定できるが、好ましくは10〜50℃、より好ましくは20〜40℃、更に好ましくは25〜35℃である。反応の時間は適宜設定できる。また、撹拌方法は特に限定されず、公知の方法で実施できる。
【0064】
本発明の製造方法において、イソペンテニル二リン酸の反応効率は、好ましくは0.80nmol/(時間・50μg−protein)以上、より好ましくは0.85nmol/(時間・50μg−protein)以上である。特に塩基性条件下でプレニル鎖延長反応を行う場合、このように優れた反応効率が得られる。
なお、本明細書において、イソペンテニル二リン酸の反応効率は、プレニルトランスフェラーゼ活性を示す酵素を50μg使用した場合に、単位時間当たりにイソプレノイドへ取り込まれるイソペンテニル二リン酸の物質量であり、後述の実施例に記載の方法により測定、算出される。
【0065】
また、本発明の製造方法は、通常、イソプレノイドを1.00mg/(時間・l)以上の平均容積生産性で製造し、好ましくは1.20mg/(時間・l)以上の平均容積生産性で製造する。特に塩基性条件下でプレニル鎖延長反応を行う場合、このように優れた平均容積生産性が得られる。なお、本明細書において、イソプレノイドの平均容積生産性は、後述の実施例に記載の方法により測定、算出される。
【0066】
本発明の製造方法により得られたイソプレノイドの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10万以上であり、より好ましくは50万以上である。該Mwの上限は特に限定されないが、好ましくは1000万以下、より好ましくは700万以下である。なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0067】
以上のように、本発明の製造方法では、イソプレノイドを効率的に製造できる。このような効果は、例えば、1−
14Cラベルされたイソペンテニル二リン酸をモノマーとして用い、その放射活性を測定することなどにより、明らかにできる。また、極性が互いに異なる3種の溶媒を用いて、プレニル鎖延長反応後の溶液から、高分子量のイソプレノイドを分離抽出することで、高分子量イソプレノイドの製造効率を明らかにできる。
【0068】
以下に、プレニル鎖延長反応後の溶液から、高分子量のイソプレノイドを分離抽出する方法について具体的に説明する。反応後の溶液に、まず、飽和NaCl水溶液及びジエチルエーテルを加え、ジエチルエーテル層にイソペンテノールを抽出する。そして、このジエチルエーテル層を除去することにより、イソペンテノールの分離を行う。次いで、残った水層に水飽和ブタノールを加え、ブタノール層に中鎖長(C
10〜C
100程度)のイソプレノイドを抽出する。このブタノール層を除去することにより、中鎖長のイソプレノイドの分離を行う。その後さらに、水層とブタノール層の界面で凝固した高分子量のイソプレノイド(長鎖長(C
100を超える)のイソプレノイド)をトルエン/ヘキサン(1:1)溶液に溶解させ、トルエン/ヘキサン層に高分子量のイソプレノイドを抽出することができる。
【0069】
ラテックス中には、ホスファターゼが含まれており、該ホスファターゼがイソペンテニル二リン酸をイソペンテノールへ加水分解する。そのため、ジエチルエーテル抽出を行わなかった場合(イソペンテノールの分離を行わなかった場合)、イソペンテノールがトルエン/ヘキサン層に抽出されてしまい、ホスファターゼ活性の影響を除去できず、トルエン/ヘキサン層のイソプレノイド合成活性を正確に評価できない。
【実施例】
【0070】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0071】
以下、実施例
、参考例、及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
なお、各種バッファーは、表1に示すpHに調整した。
精製SRP層(小ゴム粒子層2):調製例3
Potassium phosphate buffer:リン酸カリウムバッファー
Tris−HCL buffer:トリス−塩酸バッファー
Glycine−NaOH buffer:グリシン−水酸化ナトリウムバッファー
アリル性二リン酸(FPP):ファルネシル二リン酸
アリル性二リン酸(DMAPP):ジメチルアリル二リン酸
アリル性二リン酸(GPP):ゲラニル二リン酸
アリル性二リン酸(GGPP):ゲラニルゲラニル二リン酸
アリル性二リン酸(cis−trans−trans−GGPP):cis−trans−trans−ゲラニルゲラニル二リン酸
[1−
14C]IPP:1−
14Cラベルされたイソペンテニル二リン酸(比活性:5Ci/mol)
【0072】
(調製例1)
(天然ゴムラテックスの採取)
定期的に天然ゴムラテックスを採集しているパラゴムノキ(ヘベア・ブラジリエンシス樹)をタッピングして、新鮮な天然ゴムラテックスを採取した。なお、タッピング開始から10分未満に得られた分を廃棄し、それ以降に得られた分を使用した。得られた天然ゴムラテックスを5℃以下に冷却された容器に集め、使用するまで冷蔵(5℃以下)で保管した。
【0073】
(調製例2)
(天然ゴムラテックスの遠心分離、SRP層及びC−セラム層の回収)
新鮮な天然ゴムラテックスを遠心管に入れ、12000Gで30分間遠心を行い、天然ゴムラテックスを2層に分離した。上層のゴム層を除去し、下層を回収した。
次いで、該下層を43000Gで60分間遠心し、5層に分離した。上記5層は、最上層から順に、ラバーフラクション層(ゴム層)、SRP層(小ゴム粒子層1)、フレイウィスリング層(Frey−Wyssling層)、C−セラム層(可溶タンパク質層)、ボトムフラクション層(膜タンパク質層)であった(
図1)。
このうち、SRP層を回収した。
【0074】
(調製例3)
(精製SRP(小ゴム粒子)層の回収)
得られたSRP層に5倍量の50mMトリス−塩酸バッファー(pH7.4)を加え、50000Gで30分間遠心を行い、SRP層を精製、回収した。同様の操作を3回繰り返してSRP層を精製し、精製SRP層(小ゴム粒子層2)を回収した(
図2)。
【0075】
(タンパク質濃度の測定)
精製SRP層のタンパク質濃度は、ブラッドフォード法(Protein Assay:BIO−RAD社)を用いて測定した。
【0076】
(
参考例1)ジメチルアリル二リン酸からのプレニル鎖延長反応
表1に従い、2mlマイクロチューブに反応溶液(トータル100μl)を調製した。基質としてジメチルアリル二リン酸を使用した。反応溶液を30℃で所定時間反応させた。
【0077】
(
参考例2)ゲラニル二リン酸からのプレニル鎖延長反応
基質としてゲラニル二リン酸(GPP)を使用して反応溶液を調製した以外は、
参考例1と同様の操作を行った。
【0078】
(
参考例3)ゲラニルゲラニル二リン酸からのプレニル鎖延長反応
基質としてゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を使用して反応溶液を調製した以外は、
参考例1と同様の操作を行った。
【0079】
(実施例4)cis-trans-transゲラニルゲラニル二リン酸からのプレニル鎖延長反応
基質としてcis-trans-transゲラニルゲラニル二リン酸(cis-trans-trans GGPP)を使用して反応溶液を調製した以外は、
参考例1と同様の操作を行った。
【0080】
(比較例1)ファルネシル二リン酸からのプレニル鎖延長反応
基質としてファルネシル二リン酸(FPP)を使用して反応溶液を調製した以外は、
参考例1と同様の操作を行った。
【0081】
(製造されたイソプレノイドの解析)
参考例1〜
3、実施例4、及び比較例1の反応後の溶液を用いて、下記方法により、ジエチルエーテル層(イソペンテノールを含む層)、ブタノール層(C
10〜C
100程度の中鎖長のポリプレニル二リン酸を含む層)、トルエン/ヘキサン層(高分子量ゴム(C
100を超える長鎖長のイソプレノイド)を含む層)を得て、各層について放射活性の測定を行った。
放射活性の測定結果から、IPP取り込み率、反応効率、平均容積生産性を下記方法により算出した。また、得られたイソプレノイドの重量平均分子量Mwを下記方法により測定した。
結果を表1に示す。
【0082】
(放射活性の測定)
反応後の溶液に、飽和NaCl200μl及びジエチルエーテル1mlを加え、イソペンテノールの抽出を行った。ジエチルエーテル層は他の容器に取り除き、放射活性の測定に用いた。なお、イソペンテノールは、ホスファターゼ活性によりIPPの二リン酸が脱離しアルコールへと変換されることで生成する。
次いで、水層に水飽和ブタノール0.5mlを加え、水飽和ブタノールを用いた中鎖長のポリプレニル二リン酸の抽出操作を2回行った。ブタノール層は他の容器に取り除き、放射活性の測定に用いた。
その後さらに、水層とブタノール層との界面、又は水層に存在していた高分子量ゴムをトルエン/ヘキサン(1:1)0.5mlに抽出した。トルエン/ヘキサンを用いた高分子量ゴムの抽出操作を2回行った。これにより高分子量ゴムを含むトルエン/ヘキサン層を得た。
ジエチルエーテル層、ブタノール層、トルエン/ヘキサン層について、液体シンチレーションカウンターを用いて
14Cの放射活性を測定した。
【0083】
(IPP取り込み率(天然ゴム生合成酵素活性)の算出)
2時間反応させた反応溶液のジエチルエーテル層、ブタノール層、トルエン/ヘキサン層を用いて、放射活性の測定を行い、下記式によりIPP取り込み率(%)を算出した。
IPP取り込み率(%)=取り込まれたIPPの放射活性量/添加したIPPの放射活性量×100
【0084】
(反応効率の算出)
反応開始2時間まで(反応開始後0時間、0.5時間、1時間、2時間)の反応溶液のトルエン/ヘキサン層を用いて、放射活性の測定を行い、反応時間を横軸、放射活性を縦軸にプロットした。これにより、反応溶液のトルエン/ヘキサン層の放射活性は、反応開始2時間まで、反応時間に対して直線的に増加することがわかった。そこで、これらのプロットを直線近似し、反応初速度(dpm/時間)を算出し、上記反応初速度を下記条件に従い換算し、精製SRP層のタンパク質50μgあたりの反応効率(nmol/(時間・50μg−protein))を算出した。
1dpm=4.505X10
−13Ci
IPPの比活性:5Ci/mol
【0085】
(平均容積生産性(生成物収量)の算出)
前述の反応効率(nmol/(時間・50μg−protein))を、イソプレン(C
5H
8)単位当たりの分子量を68として、平均容積生産性(mg/(時間・50μg−protein・l))を算出した。
【0086】
(重量平均分子量Mwの測定)
2時間反応させた反応溶液のトルエン/ヘキサン層を用いて、トルエン/ヘキサン層中の高分子量ゴムについて、Radio HPLC(下記条件)により重量平均分子量Mwを測定した。
HPLCシステム:GILSON社製
カラム:TOSOH社製のTSKguardcolumn MP(XL),TSKgel Multipore HXL−M(2本)
カラム温度:40℃
溶媒:Merck社製のTHF
流速:1ml/分
UV検出:215nm
RI検出:Ramona Star(Raytest GmbH)
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示す通り、比較例1において基質としてファルネシル二リン酸を使用した場合、充分な反応効率及び平均容積生産性を達成することができなかった。これに対して、
参考例1〜
3、実施例4では、反応効率及び平均容積生産性の両方を大幅に改善することができた。