特許第5950265号(P5950265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5950265磁性ワイヤ熱処理装置および磁性ワイヤ熱処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5950265
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】磁性ワイヤ熱処理装置および磁性ワイヤ熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/00 20060101AFI20160630BHJP
   G01R 33/02 20060101ALI20160630BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   C22F1/00 B
   G01R33/02 B
   C22F1/00 625
   C22F1/00 660C
   C22F1/00 691Z
   C21D1/00 112L
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-201632(P2015-201632)
(22)【出願日】2015年10月11日
【審査請求日】2015年10月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】713000630
【氏名又は名称】マグネデザイン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 義信
(72)【発明者】
【氏名】菊池 永喜
【審査官】 川瀬 正巳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−030921(JP,A)
【文献】 特開平07−216461(JP,A)
【文献】 特許第5747294(JP,B2)
【文献】 特開平10−282194(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/067078(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
C22F 1/00
C21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性ワイヤを巻き付けた供給用ボビン、ワイヤリール、供給用キャプスタンおよびテンションローラからなるワイヤ供給部と、
寸法計測装置、寸法計測後キャプスタンおよびワイヤリールからなるワイヤ寸法計測部と、
張力計測装置、テンションローラおよびワイヤリールからなるワイヤ張力計測部と、
熱処理炉、温度計測装置、熱処理後キャプスタンおよびワイヤリールからなるワイヤ熱処理部と、
巻き取り用ボビン、巻き取り用キャプスタン、テンションローラおよびワイヤリールからなる巻き取り部と、
前記寸法計測装置により計測した前記磁性ワイヤの寸法、前記張力計測装置により計測した前記磁性ワイヤの張力、前記温度計測装置により計測した前記熱処理炉の温度、前記巻き取り用ボビンの巻き取り速度の入力信号に基づき、
前記供給用ボビンから前記巻き取り用ボビンまでの前記磁性ワイヤについてテンションローラによる張力を調整し、かつ前記の全キャプスタンを用いて前記巻き取り用ボビンによる巻き取り速度を調整して、前記熱処理炉内における前記磁性ワイヤの温度と応力を所定の値に制御する制御部とからなることを特徴とする磁性ワイヤ熱処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁性ワイヤ熱処理装置において、
前記磁性ワイヤはアモルファス合金ワイヤと表面絶縁被覆材料とからなり、前記磁性ワイヤの直径と前記アモルファス合金ワイヤの直径との2つの直径を計測する寸法計測装置から構成されていることを特徴とするワイヤ熱処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の磁性ワイヤ熱処理装置を使用して、
前記磁性ワイヤを、ワイヤを巻き付けた前記供給用ボビンから供給し、その後、前記ワイヤ寸法計測部、前記ワイヤ張力計測部、前記ワイヤ熱処理部を経由して前記巻き取りボビンまでワイヤリール、キャプスタン、テンションローラを使って搬送し、速度調整機能を有する前記巻き取り用キャプスタン取り付けた前記巻き取り用ボビンに巻き取る一連の工程において、
前記ワイヤ寸法計測部で前記ワイヤの寸法を測定し、前記ワイヤ張力計測部で前記ワイヤの張力を測定し、前記ワイヤ熱処理部で熱処理温度を測定し、さらに前記巻き取り部では巻き取り速度を測定し、これらの測定値に基づいて、
前記熱処理炉内における前記磁性ワイヤの温度を450℃〜550℃、前記磁性ワイヤの応力を50MPa〜250MPa、送り速度を1m〜100m/分の範囲内で制御することを特徴とする磁性ワイヤ熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細線の磁性ワイヤの磁気特性を改善するために温度と応力を所定の値に制御する張力熱処理を行なう磁性ワイヤ熱処理装置および磁性ワイヤ熱処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超高感度マイクロ磁気センサには、FGセンサ、MIセンサおよびGSRセンサがある。最近開発された超高速スピン回転効果(GSR効果という。)を基礎にしたGSRセンサは、直径が30μm以下とこれまでより微細な磁性ワイヤを感磁体としている。将来電子コンパス、医療用センサ、セキュリティセンサなど幅広く使用されることが期待されている。そのGSRセンサの微小磁界検出性能は、磁性ワイヤの円周方向におけるスピン構造、磁性ワイヤの異方性磁界Hkおよびヒステリシス特性に依存しており、異方性磁界Hkおよびヒステリシスが小さいほど向上する。磁性ワイヤとしては主にワイヤ直径30μm以下のアモルファスワイヤが使用されており、その磁気特性を改善するために適切な張力熱処理装置および熱処理方法の発明が求められている。
【0003】
アモルファスワイヤは急冷凝固の後、張力熱処理を施して磁気特性を改善して使用される。熱処理温度はアモルファス合金組成に依存し、通常450℃から550℃程度で異方性磁界が最小となる。よって温度を高めた方が送り速度を大きくして生産性を高めることができるので望ましい。しかし、アモルファスの結晶化温度、通常は550℃を超えると急激に異方性磁界が大きくなるので温度を高くすることは臨界温度を超える危険がある。一方応力は弾性限内であれば、応力が大きいほどヒステリシスは小さくなる。特に550℃近くにおいては応力が大きいほど異方性磁界を大きくなるので、温度と応力の望ましい範囲は臨界的である。
【0004】
アモルファス磁性ワイヤの円周方向のスピン構造をつくる熱処理方法および熱処理装置に関しては、特許文献1に示されている。その熱処理方法は、直交フラックスゲートセンサのコアとして使用する磁性ワイヤの通電熱処理に関するものである。この方法は、磁性ワイヤに直流電流および交流電流を通電し、熱処理を行なうものであるが、接触抵抗が変化して安定した熱処理温度のコントロールが難しく、均一な熱処理はできない。また、ガラス被覆付の10μmの微細な磁性ワイヤでは接触抵抗による加熱は一層困難である。
【0005】
次に、張力熱処理に関する設備の詳細が非特許文献1に示されている。それによるとワイヤを巻付けたワイヤボビンからワイヤリールを介してワイヤを取り出し、ワイヤ熱処理部に搬送して熱処理を施し、その後テンションローラおよび速度調整機能付き巻上げ装置(以下、キャプスタンという。)を用いてワイヤをボビンに巻き取る装置となっている。
【0006】
この装置を使って1km以上のワイヤの連続熱処理を行う時には、ワイヤ直径が±10%変化すると、張力を一定に保っても応力が大きく変化することになる。また熱処理炉内ではワイヤの伸びが大きくなるために張力を一定に保ちつつ一定速度で巻き取った場合には、炉内ワイヤの応力が変化してしまう。したがって、この熱処理装置では、寸法の変化や炉内での伸びの変化によって応力が変化するので磁性ワイヤの磁気特性が大きく低下してしまう。さらに磁性ワイヤの直径が小さくなるほど、応力変動は大きくなり断線しやすくなってしまう。
【0007】
上述の先行技術文献を下記にまとめて示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015−115551号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S.Ueno、 ”Cold drawn and tension annealed amorphous wires” 、99 NAGOYA International Workshop on AMORPHOUS WIRES, FILMS & MICRO MAGNETIC SENSORS
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
磁性ワイヤを1km以上連続的に張力熱処理する磁性ワイヤ熱処理装置において、ワイヤの寸法変動や熱処理炉内におけるワイヤの機械的性質の変化、特に伸び易さが変化するために、特許文献1で開示された通電熱処理方法補では熱処理温度のコントロールが難しく、また非特許文献1で開示された熱処理装置では炉内の応力を一定に制御することができない。
【0011】
本発明の課題は、ワイヤ寸法変動および熱処理炉内におけるワイヤの機械的性質の変化があっても温度と応力を所定の値に正確に制御して、優れたワイヤ磁気特性を安定的に得ることができる熱処理装置と熱処理方法を確立することである。同時に、速い送り速度で長時間の連続生産を実現して生産性を高くすることである。
【0012】
しかしながら、ワイヤ直径が小さいほど、一つのボビンに巻きつけられたワイヤが長いほど、また供給用ボビンと巻き取りボビンの間が長くなるほど、さらに送り速度が速いほど、ワイヤとワイヤリールやキャプスタンとの摩擦ムラおよびそれらの回転ムラによって各部位での張力や送り速度ムラが発生し、断線しやすくなり連続的生産が困難となる。このため速い送り速度で長時間の連続生産を実現することは困難な課題である。
【0013】
熱処理炉の長さを長くすることによりワイヤの温度は炉内設定温度に近づくが、ワイヤの伸びが大きくなり応力を一定に制御するのが難しくなるので、炉の長さは短いほど望ましい。一方熱処理炉の長さを短くしてワイヤの送り速度を小さくし滞留時間を長くするとワイヤの温度は炉内設定温度に近づけることができるが、生産性が著しく低下する結果となる。
したがって、ワイヤ温度と応力を所定値に制御して優れた磁気特性を実現することと、熱処理炉の長さおよび送り速度の制御による生産性とはトレードオフの関係にあり、解決が難しい課題である。
【0014】
磁性ワイヤがアモルファスワイヤの場合、熱処理温度はアモルファスが結晶化する温度、通常550℃(合金組成によって変化する合金固有の温度である。)より少し低めとし、応力はその温度における弾性限界、つまり塑性変形が生じない応力以下で、できるだけ高い応力とすることが望ましい。結晶化温度を超えると急激に異方性磁界が増加する。また結晶化温度近傍では応力が高いほど異方性磁界が増加する。そこで温度と応力ともに磁気特性が最適となる範囲内で、臨界値を超えない精密な制御が求められる。特にアモルファスワイヤの直径が10μmと小さくなるほど、最適範囲内に制御することは難しくなる。
【0015】
直径20μm以下の磁性ワイヤの張力熱処理を施す磁性ワイヤ熱処理装置において、温度と張力を狭い最適範囲に制御して優れた磁気特性と同時に早い送り速度を確保して高い生産性を実現することは、ワイヤ寸法変動、炉内部におけるワイヤの伸び、リールやキャプスタンなどワイヤ搬送部品との摩擦や回転ムラ、炉内設定温度とワイヤ温度との差、送り速度と生産性、断線問題と多くの要因が複雑に絡み合っており、解決が困難な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、(1)熱処理炉内のワイヤの温度と応力を最適範囲の所定の値に保つための手段を考案した。
まず、応力を所定の応力値に一致させる方法として、炉に挿入する前のワイヤ寸法および張力を精密に計測しワイヤの応力を算出し、その応力が所定値と一致するように複数個のキャプスタンの各々の送り速度とキャプスタン間に設置したテンションローラの付加加重を制御するという手段を考案した。次に、ワイヤの温度を炉の設定温度に一致させる方法として、炉の長さ、ワイヤの直径を考慮してワイヤの送り速度を調整することにした。
【0017】
ワイヤの温度については、温度が高い程、異方性磁界が小さくなり、同時に搬送速度が大きくすることができるので好ましいが、ある臨界温度、たとえば550℃を超えると急激に異方性磁界は増加するので厳密な管理が必要である。炉内のワイヤの温度は、炉の設定温度とワイヤ直径および炉内滞留時間で決定される。炉内滞留時間は、炉の長さと搬送速度によって決まる。装置のコストおよびサイズを考慮すると炉長さはできるだけ短い方が望ましい。搬送速度を早くすると、炉入口と炉中央部および出口のワイヤ温度の差が大きくなり、所定の温度の値に管理することが難しくなる。そこで、炉の設定温度、ワイヤ直径および搬送速度を計測して、ワイヤ熱処理炉の長さを考慮して、炉の設定温度とワイヤ温度が対応するように、搬送速度を調整する。
【0018】
応力については、ワイヤ合金の弾性限度内での応力が大きいほどヒステリシスが小さくなり好ましいが、熱処理時の臨界温度は張力に依存して張力が大きいほど低下する。この温度と応力との相乗効果を考慮して厳密に応力を管理する必要がある。応力は負荷張力とワイヤ直径に依存し、炉内の温度によるワイヤの伸び量の変化にも影響を受ける。そこで、炉内におけるワイヤの張力を精密に測定するために炉の直前に張力測定装置を取り付ける。また、ワイヤ直径と張力を連続的に測定し、その測定値と所定の設定応力値が一致するように、キャプスタンの搬送速度とテンションローラの付加加重とを制御する。
【0019】
磁性ワイヤがガラス被覆付の場合、アモルファス合金ワイヤの直径とガラス被覆付ワイヤの直径との両方の直径を測定して、ワイヤ全体の負荷張力から合金部の応力値を算出して、張力熱処理の応力値として採用する。
【0020】
(2)速い送り速度で長時間の連続生産を実現する手段を考案した。
張力を負荷して熱処理に供する磁性ワイヤの直径が30μm以下と小さく、かつ寸法計測装置およびワイヤ張力計測装置を取り付けることにより、本発明の磁性ワイヤ熱処理装置はワイヤ供給用ボビンと巻き取り用ボビンの間が長くなっていることを考慮する。
複数個の部位に分割して、各部位にキャプスタンを設置するとともにキャプスタン間にはテンションローラを設置する。これらの設置によりリールやキャプスタンとワイヤとの摩擦ムラおよびそれらの回転ムラによって生じる各部位での張力や送り速度ムラを、キャプスタンによる送り速度調整およびテンションローラによる付加加重の調整ができる。両者の調整の結果、各部位での張力と送り速度を同一にかつ一定に保つことによって断線を防ぎ、速い送り速度と連続運転が可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、磁性ワイヤの張力熱処理を行なう磁性ワイヤ熱処理装置において、ワイヤ寸法測定装置、精密張力測定装置を取付け、さらに複数個のキャプスタンとキャプスタンの間にテンションローラを取り付けて、所定の温度と応力に制御することによって、優れた磁気特性を持つ磁性ワイヤを実現する効果を有する。
また各部位での張力と送り速度を一定に保って長時間連続運転を実現し、高い生産性を実現する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】磁性ワイヤ熱処理装置の構成を示す概念図である。
図2】磁性ワイヤの磁気特性に及ぼす熱処理温度の影響を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1実施形態)
第1実施形態の磁性ワイヤ熱処理装置の構成を図1に示す。
磁性ワイヤ熱処理装置1は、ワイヤ供給部10、ワイヤ寸法計測部20、ワイヤ張力計測部30、ワイヤ熱処理部40、ワイヤ巻き取り部50および制御部60とから構成される。
ワイヤ供給部10は供給用ボビン11、ワイヤリール12、テンションローラ13および供給用キャプスタン14からなり、ワイヤ寸法計測部20は寸法計測装置21、寸法計測後キャプスタン22およびワイヤリール12からなり、ワイヤ張力計測部30は張力計測装置31、ワイヤリール12およびテンションローラ13とからなり、ワイヤ熱処理部40は熱処理炉41、温度計測器42、熱処理後キャプスタン43およびワイヤリール12とからなり、ワイヤ巻き取り部50は巻き取り用ボビン51、巻き取り用キャプスタン52、ワイヤリール12およびテンションローラ13とからなる。制御部60は、ワイヤ寸法、張力および炉内温度の信号からなるセンサ信号61と、ワイヤ巻取り部50および炉内におけるワイヤの温度と応力を所定値に制御する制御命令62とからなる。
【0024】
制御部60は、寸法計測装置21で測定したワイヤ直径、高精度の張力計測装置31で測定したワイヤ張力、温度計測器42で測定した炉内温度ならびに各キャプスタン14、22、43、52のワイヤ送り速度と各テンションローラ13の張力値を入力信号とし、それらの値に基づいて各キャプスタン14、22、43、52のワイヤ送り速度と各テンションローラ13の張力値を制御して、炉内におけるワイヤの温度と応力を所定値に制御管理する機能を有している。
【0025】
磁性ワイヤ熱処理装置1を使用する磁性ワイヤ熱処理方法としては、ワイヤ供給部10から磁性ワイヤ2を引出し、寸法計測部20でワイヤ直径を計測する。次に、テンションローラ13と寸法計測後キャプスタン22で張力と送り速度を調整し、続いてワイヤ張力計測部30で張力を精密に計測した後、ワイヤ熱処理部40で所定の応力と温度で熱処理され、キャプスタン43で送り速度を調整してからワイヤをワイヤ巻き取り部50に移送する。そこで、テンションローラ13とキャプスタン52で張力と送り速度を調整しながら磁性ワイヤ2を巻き取りボビンに巻き取る。
【0026】
磁性ワイヤ2は、外周がガラス被覆された直径10μmから30μmの磁性アモルファスワイヤを使用する。供給用ボビン11は内径30mmにて、フランジ付きタイプで1km〜5kmの磁性ワイヤ2を巻き付けている。ワイヤリール12はV溝タイプである。テンションローラ13は1〜20gの張力を調整でき、制御能力は0.1gのタイプである(ワイヤ直径を10μmとすると、100MPa〜2000MPaの張力で制御能力は10MPaとなる。)。各キャプスタン(14、22、43および52)は、回転速度を毎分1mから1000mまで制御できるタイプを使用する。熱処理炉は縦型炉として曲げ応力がかからない構造にし、炉の長さは10cmから100cm程度が適切である。
【0027】
熱処理温度は、図2に示すように、張力熱処理において磁性ワイヤの磁気特性にもっとも重要な影響を及ぼす。最適温度域は450℃から550℃である。温度範囲については磁性ワイヤ2の合金組成によって異なる。アモルファス合金の場合、その磁気特性は550℃付近に存在する結晶化温度以上では極端に低下する。熱処理炉41の温度設定は550℃に近いほど送り速度を早くできるので好ましい。しかし応力、ワイヤ直径、送り速度のばらつきによって磁性ワイヤ2の炉内温度はバラついて550℃を超える危険が増す。応力や送り速度を所定の値に管理して550℃にできるだけ近づけることにする。
【0028】
磁性ワイヤ2の応力は、張力熱処理時の応力を大きくするほど磁性ワイヤのヒステリシスを小さくできる。しかし550℃近傍で応力を大きくすると異方性磁界が大きくなるので好ましくない。さらに応力を大きくし過ぎるとローラの摩擦力が大きくなり断線の危険が増す。このように炉内のワイヤの張力を所定の値に制御することが重要である。
そこで、熱処理炉41の前にワイヤの直径を計測する寸法計測装置21および張力を高精度に測定できる張力計測装置31を取付けて、両者の値から炉内ワイヤの応力値を算出する。テンションローラ13と熱処理後キャプスタン43で張力と送り速度を調整してその値が所定の応力値となるように制御する。
【0029】
寸法計測装置21は、直径10〜30μmの磁性ワイヤを0.5μm程度の分解能で非接触計測する必要があり、レーザ寸法計測装置、磁気インピーダンスによる寸法計測装置、顕微鏡寸法計測装置などが使用可能である。高精度の張力計測装置としては、0〜2000MPaの張力を1MPaの精度で測定できる性能が必要であるので磁性ワイヤ2を巻き付けたローラにかかる張力をひずみゲージで測定するタイプを用いる。
【0030】
磁性ワイヤ熱処理装置1は、寸法計測装置21および張力測定装置31を取り付けることによって、ワイヤボビン11と巻き取りボビン51の間隔が長くなっていることを考慮することが必要である。また、供給ボビンから供給される磁性ワイヤの応力、熱処理中における磁性ワイヤの応力および熱処理後に巻き取りボビンに巻き取られる磁性ワイヤの応力は相互に異なっていることを考慮しなければならない。そこで、キャプスタンを4個設置し、さらにキャプスタンの間にはテンションローラ3個を設置して、ワイヤリールやキャプスタンとワイヤとの摩擦ムラおよびそれらの回転ムラによって生じる各部位での張力や送り速度ムラを常時計測し制御部60に信号入力する。それらの値からキャプスタンによる送り速度調整およびテンションローラによる付加加重を調整することにより各部位での張力と送り速度を同一にかつ一定に保つことができる。このようにして断線を防ぐことができるとともに1m〜10m/分の速い送り速度と1km以上の巻取り連続運転を可能となる。
【0031】
(第2実施形態)
第2実施形態は、第1実施形態において、磁性ワイヤ2がその表面に絶縁材料で被覆されている場合に、アモルファス合金ワイヤ直径と絶縁材料被覆付ワイヤ直径の両方を測定するために二つの寸法測定装置を有する装置で、ワイヤ全体の負荷張力から合金部の応力値を算出して、張力熱処理の応力値として採用するものである。
【0032】
(第3実施形態)
第3実施形態は、第1実施形態と第2実施形態のいずれかに記載された磁性ワイヤ熱処理装置を用いて、磁性ワイヤの熱処理方法に関する。
ワイヤ寸法計測部20で磁性ワイヤ2の寸法を測定し、ワイヤ張力計測部30で磁性ワイヤ2の張力を測定し、ワイヤ熱処理部40で熱処理温度を測定し、さらにワイヤ巻き取り装置部50で巻き取り速度を測定する。これらの測定値を利用して、磁性ワイヤ2の熱処理炉内におけるワイヤの温度を450℃〜550℃、熱処理炉内のワイヤ応力を50MPa〜250MPa、送り速度を1m〜10m/分の範囲内の所定値に制御する磁性ワイヤ熱処理方法ある。この方法は、制御部60のプログラムとして構成される。
【実施例】
【0033】
図面を参照にしつつ以下に挙げる実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0034】
(実施例1)
第1実施例である磁性ワイヤ熱処理装置1について、図1図2を用いて以下に説明する。
磁性ワイヤ熱処理装置1は、供給用ボビン11、ワイヤリール12、テンションローラ13および供給用キャプスタン14からなるワイヤ供給部10と、ワイヤリール12、寸法計測装置21および寸法計測後キャプスタン22からなる寸法計測部20と、ワイヤリール12、テンションローラ13および張力計測装置31とからなる張力計測部30と、ワイヤリール12、熱処理炉41、温度計測器42およびと熱処理後キャプスタン43とからなる熱処理部40と、ワイヤリール12、テンションローラ13、巻き取り用ボビン51および巻き取り用キャプスタン52とからなるワイヤ巻取り部50、および熱処理炉内における磁性ワイヤの温度と応力を所定値に制御管理する制御部60とから構成されている。
【0035】
制御部60は、寸法計測装置21で測定したワイヤ直径、高精度の張力計測装置31で測定したワイヤ張力、温度計測器42で測定した炉内温度ならびに各キャプスタン14、22、43、52のワイヤ送り速度と各テンションローラ13の張力値を入力信号とし、それらの値に基づいて各キャプスタン14、22、43、52のワイヤ送り速度と各テンションローラ13の張力値を制御して、炉内におけるワイヤの温度と応力を所定値に制御管理する機能を有している。
【0036】
磁性ワイヤ熱処理装置1を使用する磁性ワイヤ熱処理方法としては、ワイヤ供給部10から磁性ワイヤ2を引出し、寸法計測部20でワイヤ直径を計測する。次に、テンションローラ13と寸法計測後キャプスタン22で張力と送り速度を調整し、続いてワイヤ張力計測部30で張力を精密に計測する。その後、ワイヤ熱処理部40で所定の応力と温度で熱処理され、キャプスタン43で送り速度を調整してからワイヤをワイヤ巻き取り部50に移送する。そこで、テンションローラ13とキャプスタン52で張力と送り速度を調整しながら磁性ワイヤ2を巻き取りボビンに巻き取る。
【0037】
磁性ワイヤ2は、外周がガラス被覆された直径10μmの磁性アモルファスワイヤを使用する。供給用ボビン11は内径30mm、フランジ付きタイプで磁性ワイヤを1km巻き付けた。リールはV溝タイプとした。テンションローラは所定の張力として2g(200MPa)を負荷した。連続運転中の張力変動を0.1g(10MPa)の精度で検知して制御部60に入力し、制御部60から2g(200MPa)になるように制御した。キャプスタンは、所定の回転速度を毎分10RPM、送り速度1m/分として、運転中の回転変動を0.01RPMの精度で検知して制御部60に入力し、制御部60から毎分10RPM、送り速度1m/分になるように制御した。熱処理炉41は縦型炉として曲げ応力がかからない構造にし、炉の長さは30cmとした。
【0038】
温度は、図2に示すように、張力熱処理において磁性ワイヤの磁気特性にもっとも重要な影響を及ぼす。所定温度を結晶化温度より20℃低い530℃とした。その磁気特性は550℃付近に存在する以上では極端に低下するので精密管理が必要である。送り速度を1m/分として、30cmの熱処理炉内の滞留時間を18秒とした。炉の温度設定の530℃に昇温するワイヤ部位の長さを極力小さくしワイヤの伸びを抑制し炉内ワイヤの張力変動小さくした。
【0039】
ワイヤ応力は、張力熱処理時の応力を大きくするほどワイヤのヒステリシスを小さくできるので、所定応力を200MPaとし所定温度530℃で張力熱処理をした結果、ヒステリシスの大小の目安である保磁力を0.01Oeと小さくできた。しかも異方性磁界を1Oeと小さくできた。また連続運転試験の結果、断線は発生せず、1kmの連続運転が可能であることが確認できた。
また、炉の前にワイヤの直径を計測する寸法計測装置21および張力計測装置31を取付けて、両者の値から炉内ワイヤの応力値を算出した。テンションローラ13とキャプスタン43で張力と送り速度を調整してその値が所定の応力値となるように制御した。
【0040】
寸法計測装置31としてレーザ寸法計測装置を用いて、直径10μmのワイヤを0.5μmの分解能で、非接触で連続的に計測した。この計測値を制御装置に入力し、ワイヤが取り出しはじめからの特定の距離に対応して記録し、その部位が炉内の挿入された時、その時点の張力を測定し付加されている応力を計算し、所定の応力200MPaになるように制御した。この時に使用する張力は張力計測装置31としてワイヤを巻き付けたローラにかかる張力をひずみゲージで測定するタイプを用いて計測した。応力は200MPa±1MPaで制御管理した。
【0041】
寸法計測装置21、張力測定装置31を取り付けることによって、供給用ボビン11と巻き取りボビン51の間隔が4mと長くなっていることを考慮して、キャプスタンを4個(14、22、43および52)設置し、各キャプスタンの間にはテンションローラ13を3箇所に設置した。
これにより、ワイヤリール12やキャプスタンとワイヤとの摩擦ムラおよびそれらの回転ムラによって生じる各部位での張力や送り速度ムラを常時計測し制御部60に入力でき、それらの値からキャプスタンによる送り速度調整およびテンションローラによる付加加重を調整して、各部位での
張力と送り速度を同一にかつ一定に保つことによって断線の発生もなく、毎分1mの速い送り速度と1km以上の巻取り連続運転ができた。
【0042】
以上の結果から分かるように、本実施例は、磁性ワイヤを温度530℃、応力200MPa、送り速度1m/分で連続に張力熱処理を施すことができる装置であって、磁性ワイヤの磁気特性を熱処理前の異方性磁界と保磁力をそれぞれ5Oeから1Oeに、0.1Oeから0.01Oeに改善することができた。
したがって、GSRセンサの磁気感度特性を大幅に改善することができ、その工業的意義は非常に大きいものである。
【0043】
(実施例2)
第2の実施例は、第1の実施例において、磁性ワイヤ2としてはガラス被覆付アモルファス合金ワイヤを用いる場合、合金部の直径10μmとガラス付直径12μmの両方を測定するために二つの寸法測定装置を有する装置である。搬送の際に必要な張力はワイヤ全体の負荷された張力を採用した。一方熱処理炉内にあるワイヤの応力値は、530℃においてはガラス被覆部の寄与はないと考え、張力計測装置31で測定した応力に、合金部直径を磁性ワイヤ2の直径で除して求めた比を、乗して求めた。
【0044】
(第3実施例)
第3実施例は、第1実施例に記載された磁性ワイヤ熱処理装置1を用いて、ワイヤ供給部10で磁性ワイヤ2の張力を測定し、ワイヤ寸法計測部20で磁性ワイヤ2の寸法を測定し、ワイヤ張力計測部30で磁性ワイヤ2の張力を測定し、ワイヤ熱処理部40では、熱処理温度を測定し、さらにワイヤ巻き取り装置部50で巻き取り速度を測定する。これらの測定値を利用して、磁性ワイヤ2の熱処理炉内におけるワイヤの温度を450℃〜550℃、熱処理炉内のワイヤ応力を50MPa〜250MPa、送り速度を1m〜10m/分の範囲内の所定値に制御する磁性ワイヤ熱処理方法ある。この方法は、制御部のプログラムとして構成した。

【産業上の利用可能性】
【0045】
以上のように、本発明の磁性ワイヤ熱処理装置とワイヤ熱処理方法は、磁性ワイヤの磁気特性を改善してGSRセンサの性能を改善する上で極めて重要な装置と方法である。
【符号の説明】
【0046】
1:磁性ワイヤ熱処理装置
2:磁性ワイヤ
10:ワイヤ供給部
11:供給用ボビン
12:ワイヤリール
13:テンションローラ
14:供給用キャプスタン
20:ワイヤ寸法計測部
21:寸法計測装置
22:寸法計測後キャプスタン
30:ワイヤ張力計測部
31:張力計測装置
40:ワイヤ熱処理部
41:熱処理炉
42:温度計測器
43:熱処理後キャプスタン
50:ワイヤ巻き取り部
51:巻き取り用ボビン
52:巻き取り用キャプスタン
60:制御部
61:センサ信号
62:制御命令





























【要約】
【課題】
細線の磁性ワイヤの磁気特性を改善するために、温度と応力を狭い最適範囲に制御して優れた磁気特性と高い生産性を確保できる磁性ワイヤ熱処理装置と磁性ワイヤ熱処理方法を提供する。
【解決手段】
磁性ワイヤ熱処理装置において、磁性ワイヤ寸法測定装置、精密張力測定装置を取り付け、さらに複数個のキャプスタンとキャプスタンの間にテンションロールを取り付けて磁性ワイヤの熱処理温度と応力とを制御する。また、磁性ワイヤ供給ボビンから巻き取りボビンまでの磁性ワイヤの搬送において、各部位における磁性ワイヤにかかる張力と送り速度を一定に保って長時間連続熱処理を行なう。
【選択図】図1
図1
図2