(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C:0.001〜0.07mass%、Si:0.1〜1.0mass%、Mn:0.1〜2.0mass%、Ni:30〜40mass%、Cr:18〜23mass%、Mo:1〜5mass%、Cu:1〜5mass%、Nb:0.2〜1mass%、Al:0.01〜0.5mass%、Mg:0.0001〜0.01mass%、Ca:0.0001〜0.01mass%およびO:0.0001〜0.01mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
合金中に含まれる非金属介在物が、CaO−MgO−Al2O3系、MgOおよびMgO・Al2O3のうちのいずれか1種または2種以上のみからなるFe−Ni−Cr系合金。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐硫酸腐食性や耐粒界腐食性に優れるだけでなく、表面性状にも優れるFe−Ni−Cr系合金を提供するとともに、上記合金にNbを高い歩留りで添加することができるFe−Ni−Cr系合金の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記課題の解決に向けて、Cu,Nb添加鋼において、鋼の成分組成と、表面品質を低下させる介在物の成分組成に着目して鋭意検討を重ねた。その結果、耐硫酸腐食性や耐粒界腐食性に優れ、かつ、表面品質にも優れる鋼板を得るためには、Cu:1〜5mass%、Nb:0.2〜1mass%を複合添加するとともに、表面疵の原因となるNb酸化物からなる介在物を生成させないことが重要であること、そして、その実現のためには、精錬工程においてSiで予備脱酸した後、Alで脱酸し、その後、Nbを添加することが重要であり、しかも、この方法によれば、Nbを高い歩留りで添加することができることを見出し、本発明を開発した。
【0009】
すなわち、本発明はC:0.001〜0.07mass%、Si:0.1〜1.0mass%、Mn:0.1〜2.0mass%、Ni:30〜40mass%、Cr:18〜23mass%、Mo:1〜5mass%、Cu:1〜5mass%、Nb:0.2〜1mass%、Al:0.01〜0.5mass%、Mg:0.0001〜0.01mass%、Ca:0.0001〜0.01mass%およびO:0.0001〜0.01mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、合金中に含まれる非金属介在物が、CaO−MgO−Al
2O
3系、MgOおよびMgO・Al
2O
3のうちのいずれか1種または2種以上のみからなるFe−Ni−Cr系合金である。
【0010】
本発明の上記Fe−Ni−Cr系合金は、上記成分組成に加えてさらに、B:0.005mass%以下を含有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の上記Fe−Ni−Cr系合金における上記CaO−MgO−Al
2O
3系介在物は、CaO:10〜50mass%、MgO:5〜70mass%およびAl
2O
3:10〜60mass%の成分組成を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記のいずれかに記載の合金の製造方法であって、Fe−Ni−Cr系合金の粗溶鋼を酸素吹精して脱炭精錬した後、Siを添加してCr還元および予備脱酸し、次いで、Alを添加しさらに石灰および蛍石を添加してCaO−SiO
2−Al
2O
3−MgO−F系スラグを生成させて脱酸および脱硫処理を施した後、Nbを添加する
ことによって、合金中に含まれる非金属介在物を、CaO−MgO−Al2O3系、MgOおよびMgO・Al2O3のうちのいずれか1種または2種以上のみとすることを特徴とするFe−Ni−Cr系合金の製造方法である。
【0013】
本発明のFe−Ni−Cr系合金の製造方法における上記CaO−SiO
2−Al
2O
3−MgO−F系スラグは、CaO:40〜75mass%、SiO
2:30mass%以下、Al
2O
3:2〜25mass%、MgO:2〜20mass%およびF:1〜10mass%の成分組成を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、介在物中にNb酸化物が存在しない合金を製造することができるので、硫酸腐食性や耐粒界腐食性に優れ、かつ、表面品質にも優れるFe−Ni−Cr系合金を安定して提供することが可能となる。また、本発明によれば、合金精錬時に、添加したNbがスラグ相へ移行するのを抑止し、高い歩留まりでNbを添加することができるので、希少資源としてのNbの使用量の削減、ひいては原料コストの低減にも寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明者らは、前述した本発明の課題、すなわち、耐硫酸腐食性、耐粒界腐食性に優れるとともに、表面性状にも優れるFe−Ni−Cr系合金を開発するため、まず、上記合金へのCuとNbの添加量を種々に変化させて、耐硫酸腐食性、耐粒界腐食性に及ぼす影響を調査し、CuとNbの最適範囲を特定する実験を行った。
【0016】
実験は、まず、Fe−0.5mass%Si−0.5mass%Mn−33mass%Ni−20mass%Cr−2.6mass%Moをベース組成とし、これにCuとNbを種々の濃度で添加した合金を、高周波誘導溶解炉でマグネシア坩堝を用いて溶解し、鋳型に鋳込んで20kg鋼塊を作製した。次いで、上記鋼塊を鍛造して厚さ10mmの板状とした後、冷間圧延し、焼鈍して板厚2mmの合金板とし、この合金板の耐食性を下記の方法で評価した。
【0017】
<耐硫酸腐食性>
上記合金板から板厚×25mm×20mmの試験片を採取し、全面をSiC研摩紙(#400)で湿式研摩し、乾燥し、試験片の質量を測定した後、フラスコ内の40mass%H
2SO
4沸騰水溶液中に24hr浸漬する腐食試験を行った。試験終了後、試験片を取り出し、洗浄し、乾燥し、再び試験片の質量を測定し、試験前後における質量減少量から、腐食度(g/m
2・hr)を算出した。その結果、上記腐食度が2以下のものは耐硫酸腐食性が良好(○)、2を超えるものは耐硫酸腐食性が劣る(×)と評価した。
<耐粒界腐食性>
上記合金板から板厚×25mm×20mmの試験片を採取し、全面をSiC研摩紙(#80)で湿式研摩し、乾燥し、試験片の質量を測定した。その後、ASTM A262 PracticeBに準じて、236mlのH
2SO
4と400mlの蒸留水を混合した溶液に25gのFe
2(SO
4)
3を溶解した、フラスコ内のFe
2(SO
4)
3−H
2SO
4の沸騰水溶液中に120hr浸漬する腐食試験を行った。試験終了後、試験片を取り出して洗浄し、乾燥させた後、試験片を切断し、断面における最大粒界侵食深さを光学顕微鏡にて測定した。その結果、最大粒界侵食深さが50μm以下のものは耐粒界腐食性が良好(○)、50μmを超えるものは耐粒界腐食性が劣る(×)と評価した。
【0018】
上記試験結果を表1に示した。この結果から、Cu添加によって耐硫酸腐食性は向上するが、添加し過ぎると熱間加工性を阻害すること、また、Nb添加によって耐粒界腐食性は向上するが、添加し過ぎると、Cu同様、熱間加工性を阻害することがわかる。上記の結果から、本発明では、CuとNbの組成範囲をそれぞれCu:1〜5mass%、Nb:0.2〜1mass%の範囲とする。
【0020】
次いで、発明者らは、表面性状に優れたFe−Ni−Cr系合金を開発するため、脱酸条件の影響、すなわち、Si,Alの脱酸材の添加量を種々に変化させて、Nbの歩留り、介在物組成および合金板の表面疵に及ぼす影響を調査した。
実験は、まず、前記実験結果に基き、Fe−0.5mass%Mn−33mass%Ni−20mass%Cr−2.6mass%Mo−3mass%Cu合金を高周波誘導溶解炉でマグネシア坩堝を用いて溶解した後、その溶融合金の上に、実機での精錬を考慮して、各種特級試薬を配合して60mass%CaO−5mass%SiO
2−20mass%Al
2O
3−10mass%MgO−F系スラグを形成した。次いで、Siを0.5mass%添加して予備脱酸し、あるいは、上記Siを添加し、さらにAlを0.005〜0.6mass%の範囲で変化させて添加して(Si+Al)脱酸した後、Nbを0.5mass%を目標として添加し、5分間放置した後、鋳型に鋳込んで20kg鋼塊とした。次いで、前述した実験と同様、鍛造し、冷間圧延して板厚2mmの合金板とした。これらの合金板について、Nbの歩留まり、非金属介在物の成分組成および合金板表面の疵発生有無を、下記の要領で調査した。
【0021】
<Nbの歩留まり>
鋼塊中のNb濃度を測定し、添加したNbの歩留りを100%と仮定したときの鋼塊中のNb濃度に対する比(百分率)を求め、Nbの歩留りとした。
<非金属介在物組成>
上記合金板から切り出したサンプルのL方向断面を鏡面研摩し、観察された介在物の成分組成を、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDS)を用いて分析した。
<表面疵の発生有無>
上記合金板表面に発生した疵の有無を目視観察して判定した。
【0022】
上記調査結果を表2に示した。この結果から、Si脱酸のみでは、Nbの歩留まりが不十分であり、介在物としてNb酸化物が形成され、表面疵が発生すること、また、(Si+Al)脱酸した場合でも、Alの添加量が0.005mass%と少な過ぎると、Al
2O
3介在物が形成してクラスター化し、表面疵が発生し、逆に、Alを0.6mass%と添加し過ぎると、CaOが主体の介在物が形成されて大型化し、やはり表面疵が発生することがわかる。したがって、Nbを添加する場合には、(Si+Al)脱酸する必要があること、その場合、Al添加量は0.1〜0.5mass%の範囲とする必要があることがわかった。
本発明は、上記の知見に基いて開発したものである。
【0024】
次に、本発明のFe−Ni−Cr系合金の成分組成について説明する。
C:0.001〜0.07mass%
Cは、オーステナイトを安定化する元素であり、所望の合金強度を確保するのに必要な元素であり、要求される強度に応じて、0.001mass%以上を含有させる。しかし、0.07mass%を超えて過剰に添加すると、Cr,Mo,Nbと炭化物を形成して合金を鋭敏化し、耐食性を低下させる。よって、Cの含有量は0.001〜0.07mass%の範囲とする。好ましくは0.005〜0.03mass%の範囲である。
【0025】
Si:0.1〜1.0mass%
Siは、脱酸材として添加される元素であり、また、耐酸性や耐粒界腐食性の向上にも有効な元素であるので、本発明では0.1mass%以上を含有させる。しかし、1.0mass%を超える添加は、Fe,Cr,Moから構成されるシグマ相の生成を促進し、脆化を引き起こしたり、溶接性を低下させたりする。よって、Siの含有量は0.1〜1.0mass%の範囲とする。好ましくは0.2〜0.7mass%の範囲である。
【0026】
Mn:0.1〜2.0mass%
Mnは、脱酸材として有効な元素であるので、0.1mass%以上を添加する。しかし、2.0mass%を超える過剰な添加は、Siと同様、シグマ相の生成を促進し、脆化を引き起こす。よって、Mnの含有量は0.1〜2.0mass%の範囲とする。好ましくは0.2〜0.9mass%の範囲である。
【0027】
Ni:30〜40mass%
Niは、オーステナイト組織を安定化するために不可欠な元素である。また、Niは、塩化物を含む溶液環境における耐孔食性、耐隙間腐食性ならびに耐応力腐食割れ性を改善する効果を有する。斯かる効果を得るためには、30mass%以上の添加が必要である。しかし、40mass%を超える添加は、その効果が飽和し、原料コストの上昇を招く。よって、Niは30〜40mass%の範囲とする。好ましくは32〜36mass%の範囲である。
【0028】
Cr:18〜23mass%
Crは、耐食性を確保するのに必要な不動態皮膜を合金板表面に形成させる元素であり、耐酸性、耐孔食性、耐隙間腐食性ならびに耐応力腐食割れ性を改善するための母材の構成成分として不可欠の元素でもある。斯かる効果を得るためには、18mass%以上の添加が必要である。しかし、23mass%を超える過剰の添加は、シグマ相を生成し、脆化を招く。よって、Crの含有量は18〜23mass%の範囲とする。好ましくは19〜22mass%の範囲である。
【0029】
Mo:1〜5mass%
Moは、耐酸性や、耐孔食性、耐隙間腐食性、耐応力割れ性といった耐食性を改善するために不可欠な元素であり、1mass%以上の添加を必要とする。しかし、5mass%を超える添加は、シグマ相の生成を促進し、母材を脆化させる。よって、Moの含有量は1〜5mass%の範囲とする。好ましくは1.5〜3mass%の範囲である。
【0030】
Cu:1〜5mass%
Cuは、耐硫酸腐食性を改善するために必要な元素であり、その効果は1mass%以上の添加で得られる。しかし、5mass%を超えて過剰に添加すると、熱間加工性を低下させ、鍛造や熱間圧延において割れを発生させる。よって、Cuの含有量は1〜5mass%の範囲とする。好ましくは1.5〜4mass%の範囲である。
【0031】
Nb:0.2〜1mass%
Nbは、Cを固着することによって耐粒界腐食性を改善するのに有効な元素であり、その効果は0.2mass%以上の添加で得られる。しかし、1mass%を超える過剰な添加は、Cuと同様、熱間加工性を低下させ、鍛造や熱間圧延において割れを発生させる。よって、Nbの含有量は0.2〜1mass%の範囲とする。好ましくは0.2〜0.6mass%の範囲である。
【0032】
Al:0.01〜0.5mass%
Alは、脱酸材として、また、スラグ中のMgO,CaOを還元して、溶融合金中にMgを0.0001〜0.01mass%、Caを0.0001〜0.01mass%供給するために添加される必須元素であり、本発明においては特に重要な元素である。というのは、後述するように、MgとCaは、非金属介在物の成分組成を適正範囲に制御し、表面疵の発生を防止するために有効に作用する元素であるからである。Alの添加量が0.01mass%未満では、脱酸不足のためO濃度が0.01mass%を超えて高くなり、Nbの歩留まりを低下させてしまう。一方、0.5mass%を超えて添加すると、MgO,CaOの還元が進行し過ぎて、Mg,Ca濃度が0.01mass%を超えて高くなり、非金属介在物の成分組成が本発明の範囲から逸脱し、表面疵発生の原因となる。よって、本発明では、Alの含有量を0.01〜0.5mass%の範囲とする。好ましくは0.02〜0.3mass%の範囲である。
【0033】
Mg:0.0001〜0.01mass%
Mgは、非金属介在物を、CaO−MgO−Al
2O
3系、MgOおよびMgO・Al
2O
3のうちの1種または2種以上のみからなる成分組成に制御することによって、表面疵の発生を防止するのに有効な元素である。上記効果は、0.0001mass%未満の添加では得られず、一方、0.01mass%を超えて添加すると、連続鋳造時のノズル閉塞を招いて操業を阻害したり、鋼スラブ中にMg起因の気泡欠陥を発生させ、表面疵を発生させたりする。よって、Mgの含有量は0.0001〜0.01mass%の範囲とする。好ましくは0.0001〜0.006mass%の範囲である。
【0034】
Ca:0.0001〜0.01mass%
Caは、Mgと同様、非金属介在物を、CaO−MgO−Al
2O
3系、MgOおよびMgO・Al
2O
3のうちの1種または2種以上のみからなる成分組成に制御することによって、表面疵の発生を防止するのに有効な元素である。上記効果は、0.0001mass%未満の添加では得られず、一方、0.01mass%を超えて添加すると、CaO−MgO−Al
2O
3系介在物中のCaO成分が50mass%を超えてCaO主体となる。その結果、連続鋳造時にノズル閉塞を引き起こし、却って、表面疵を発生させる原因となってしまう。よって、Caの含有量は0.0001〜0.01mass%の範囲とする。好ましくは0.0001〜0.006mass%の範囲である。
【0035】
O:0.0001〜0.01mass%
O(酸素)は、通常、鋼中に酸化物として存在する元素であり、Nb添加鋼においては、0.01mass%を超えると、Nbを酸化して非金属介在物中にNb
2O
5のみからなる介在物が存在するようになり、表面疵を発生する。しかし、Oが0.0001mass%未満になると、スラグ中に存在するMgOやCaOが還元されて、溶鋼中のMg,Ca濃度がともに0.01mass%を超えてしまい、連続鋳造時のノズル閉塞を招いて、換業を阻害したり、表面疵を発生させたりする原因となる。よって、Oの含有量は0.0001〜0.01mass%の範囲とする。好ましくは0.0001〜0.002mass%の範囲である。なお、上記範囲内への酸素濃度の調整は、後述するように、Alの添加量を適正範囲に制御することでなされる。
【0036】
本発明のFe−Ni−Cr系合金は、上記必須成分の他に、Bを下記の範囲で添加してもよい。
B:0.005mass%以下
Bは、熱間加工性を改善する元素であるが、過剰に添加すると、逆に、熱間での延性を阻害する。そのため、Bを添加する場合は、0.005mass%以下とするのが好ましい。
【0037】
なお、本発明のFe−Ni−Cr系合金は、上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。この不可避的不純物としては、例えばP,Sが挙げられるが、これらの元素は耐食性や熱間加工性を低下させる元素であるので、それぞれ0.05mass%以下、0.005mass%以下に抑えることが好ましい。ただし、本発明の効果を害しない範囲であれば、その他の元素の含有を拒むものではない。
【0038】
次に、本発明の合金中に含まれる非金属介在物について説明する。
本発明のFe−Ni−Cr系合金は、その成分組成を上記範囲内に制御することによって、十分な耐硫酸腐食性、耐粒界腐食性が確保される。しかし、表面性状にも優れたものとするには、併せて非金属介在物の成分組成を適正範囲に制御する必要がある。
すなわち、本発明の合金中に含まれる非金属介在物は、CaO−MgO−Al
2O
3系、MgO、MgO・Al
2O
3のうちのいずれか1種または2種以上のみからからなるものであることが必要である。すなわち、表面疵を発生させ、表面品質を著しく低下させるNb酸化物(Nb
2O
5)が存在しないことが必要である。望ましくは、上記Nb
2O
5の他に、クラスターを形成して表面品質の低下をもたらすAl
2O
3のみからなる介在物も存在しないことが好ましい。
【0039】
なお、上記Nb
2O
5のみからなる介在物や、Al
2O
3のみからなる介在物も存在させないためには、後述するように、Si脱酸後、Al脱酸してO含有量を適正範囲に制御し、その後、Nbを添加することが重要である。
【0040】
また、合金中に存在する介在物を上記CaO−MgO−Al
2O
3系、MgOおよびMgO・Al
2O
3のみに限定する理由は、上記介在物は、凝集して大型化することがないので、表面疵の発生を防止することができるからである。
ここで、上記CaO−MgO−Al
2O
3系介在物が凝集して大型化するのをより防止するためには、CaO:10〜50mass%、MgO:5〜70mass%、Al
2O
3:10〜60mass%であることが好ましい。
また、MgO・Al
2O
3の介在物は、MgO濃度が5mass%未満(Al
2O
3濃度が95mass%超)となると、介在物の特性が急激にアルミナ質に変化し、鋼板表面にクラスター起因の表面疵を発生させるようになるので、MgO≧5mass%(Al
2O
3≦95mass%)であることが好ましい。
【0041】
次に、本発明の合金の製造方法(精錬方法)について説明する。
本発明のFe−Ni−Cr系合金は、粗溶鋼を溶製した後、酸素吹精して脱炭精錬し、Si合金鉄を添加してCr還元および予備脱酸し、次いで、Alを添加し、さらに石灰および蛍石を添加してCaO−SiO
2−Al
2O
3−MgO−F系スラグを生成させて脱酸および脱硫処理した後、Nbを添加することにより製造するのが最良の方法である。
【0042】
上記製造方法において、Nbよりも先にAlを添加する理由は、既に説明したように、Al脱酸してOを0.0001〜0.01mass%の範囲に制御するためである。すなわち、Oを上記範囲に制御し、スラグ中のMgO,CaOを還元して、溶融合金中にMgを0.0001〜0.01mass%、Caを0.0001〜0.01mass%供給することによって、非金属介在物の成分組成を適正範囲に制御し、表面疵の発生を防止するため、および、Oを上記範囲(0.01mass%以下)に制御することによって、Nbの酸化物の生成を防止し、表面疵の発生を防止するとともに、添加したNbの歩留まりを向上させるためである。
【0043】
また、Alを添加する前にSiで予備脱酸する理由は、合金中のO濃度をある程度まで低減しておくことによって、Al脱酸の負荷を軽減し、Al
2O
3のみからなる介在物の生成を抑制するためである。
【0044】
また、CaO−SiO
2−Al
2O
3−MgO−F系スラグを生成させる理由は、Alを添加することによって、スラグ中のMgOとCaOを還元し、溶融合金中にMgを0.0001〜0.01mass%、Caを0.0001〜0.01mass%供給するためである。つまり、下記の反応を利用する。
3(MgO)+2
Al=(Al
2O
3)+3
Mg
3(CaO)+2
Al=(Al
2O
3)+3
Ca
(括弧( )内はスラグ中成分を、下線部は溶融合金中成分を示す。)
【0045】
上記スラグの生成は、CaOは生石灰の投入によって、Fは蛍石の投入によって、SiO
2は、スラグ中に移行したCr酸化物を還元するCr還元処理に、Si合金鉄(フェロシリコン合金)を投入することによって、また、Al
2O
3は、Alを投入して脱酸することによって生成させるのが好ましい。また、MgOは、AOD炉やVOD炉の耐火物にマグネシア系のレンガを使用して、そのレンガをスラグに溶解させることによって供給する方法でもよいし、MgO源としてドロマイトやMgOレンガ層を投入する方法で生成させてもよい。また、MgやCaを供給する方法として、NiMg合金などのMg源や、CaSiワイヤーなどのCa源を用いて添加してもよい。
【0046】
ここで、上記CaO−SiO
2−Al
2O
3−MgO−F系スラグは、CaO:40〜75mass%、SiO
2:30mass%以下、Al
2O
3:2〜25mass%、MgO:2〜20mass%、F:1〜10mass%の成分組成を有することが好ましい。その理由は、脱酸、脱硫を効率的に進めるためと、Alによりスラグ中のMgOとCaOを還元して、溶融合金中にMgを0.0001〜0.01mass%、Caを0.0001〜0.01mass%供給する反応を効率的に進行させるためである。
【0047】
なお、本発明の合金に添加することができるBは、Nbと同様、高価で歩留りが安定しない元素であるため、添加する場合には、Nbを添加した後で添加するのが好ましい。
【実施例】
【0048】
容量が60トンの電気炉で、フェロニッケル、純ニッケル、フェロクロム、鉄屑、ステンレス屑、Fe−Ni合金屑等から適宜選択した原料を溶解してFe−Ni−Cr−Mo−Cu合金の溶湯とした後、内張耐火物としてマグクロ系レンガを用いたAOD炉あるいはVOD炉で酸化精錬を行った。次いで、フェロシリコンを投入してクロム還元および予備脱酸を行った後、Alを添加し、さらに石灰石、螢石を投入して、表3に示した成分組成のCaO−SiO
2−Al
2O
3−MgO−F系スラグを生成させて脱酸および脱硫処理を施し、最後に、NbおよびBを添加(ただし、No.7はB無添加)して、同じく表3に示した成分組成の溶融合金を得た。
【0049】
なお、上記表3に示した鋼の成分組成は、冷延板から切り出したサンプルについて、O、Nは酸素窒素同時分析装置にて、C,Sは炭素硫黄同時分析装置にて分析し、その他の元素は、蛍光X線分析装置を用いて分析した値である。
また、上記スラグの成分組成は、スラグサンプルを取鍋から採取し、粉砕してタブレットにして蛍光X線分析装置を用いて分析した値である。なお、表3に示したスラグ組成の合計が100mass%に満たない理由は、微量のCrやFe等が含まれているためである。
また、スラブ中のNb濃度を測定し、添加したNbの歩留りを100%と仮定したときのスラブ中のNb濃度に対する比を求め、その結果は、後述する表4中に、Nbの歩留りとして示した。
【0050】
【表3】
【0051】
その後、上記溶解合金を連続鋳造機にて鋳造してスラブとした後、熱間圧延し、冷間圧延し、焼鈍して板厚2mmの合金板とし、以下の各種評価試験に供した。
<非金属介在物組成>
上記合金板から切り出したサンプルのL方向断面を鏡面研摩し、観察された介在物からランダムに20点(n=20)選択し、EDSを用いて定量分析した。
<表面疵の発生有無>
上記合金板表面を目視で観察し、0.1mm幅以上の線状疵の発生が確認されなかった場合は表面性状が良好(○)、確認された場合は表面性状に劣る(×)と判定した。
<耐硫酸腐食性>
上記合金板から板厚×25mm×20mmの試験片を採取し、全面をSiC研摩紙(#400)で湿式研摩し、乾燥し、試験片の質量を測定した後、フラスコ内の40mass%H
2SO
4沸騰水溶液中に24hr浸漬する腐食試験を行い、試験終了後、試験片を取り出し、洗浄し、乾燥し、再び試験片の質量を測定し、試験前後における質量減少量から、腐食度(g/m
2・hr)を算出した。その結果、上記腐食度が2以下のものは耐硫酸腐食性が良好(○)、2を超えるものは耐硫酸腐食性が劣る(×)と評価した。
<耐粒界腐食性>
上記合金板から板厚×25mm×20mmの試験片を採取し、全面をSiC研摩紙(#80)で湿式研摩し、乾燥し、試験片の質量を測定した。その後、ASTM A262 PracticeBに準じて、236mlのH
2SO
4と400mlの蒸留水を混合した溶液に25gのFe
2(SO
4)
3を溶解した、フラスコ内のFe
2(SO
4)
3−H
2SO
4の沸騰水溶液中に120hr浸漬する腐食試験を行った。試験終了後、試験片を取り出して洗浄し、乾燥させた後、試験片を切断し、断面における最大粒界侵食深さを光学顕微鏡にて測定した。その結果、最大粒界侵食深さが50μm以下のものは耐粒界腐食性が良好(○)、50μmを超えるものは耐粒界腐食性が劣る(×)と評価した。
【0052】
上記評価試験の結果を、Nbの歩留りとともに表4に示した。
この結果から、本発明の条件にすべて適合するNo.1〜8の発明例の合金は、いずれも表面疵の発生もなく、耐食性も良好であり、また、Nbの歩留まりも100%である。
これに対して、Cu,Nb,Al,Mg,CaおよびOのいずれか1以上の組成が本発明の範囲を逸脱しているNo.9〜14の比較例の合金は、表面疵が発生するか、あるいは、耐食性に劣る結果となっている。
具体的に説明すると、No.9および10は、Alを添加せず、O濃度が高かったため、Nbが、歩留まり低下により0.2mass%に満たず、さらに、Mg,Caも0.0001mass%に満たないため、Nb
2O
5介在物が生成し、その結果、表面疵が発生し、耐粒界腐食性にも劣っている。No.11は、Alの添加量が少なく、O濃度が高かったため、Nbが、歩留まり低下により0.2mass%に満たず、さらに、Nb
2O
5介在物が生成したため、表面疵が発生し、耐粒界腐食性にも劣っている。No.12は、同じくAlの添加量が少なく、O濃度が高かったため、Nbが0.2mass%に満たず、さらに、Mg,Caも0.0001mass%に満たないため、CaO−MgO−Al
2O
3系介在物中のAl
2O
3が93.7mass%と高く、Al
2O
3介在物も生成したため、表面疵が発生し、耐粒界腐食性も劣っている。逆に、No.13は、Alが高過ぎたためにO濃度が0.0001mass%よりも低くなり、MgとCaの含有量が本発明の上限を超えたため、CaO−MgO−Al
2O
3系介在物中のCaOが92.3mass%と高く、CaO主体になったため、連続鋳造時にノズル閉塞を起こし、取鍋に溶鋼を5トン残して鋳込を中断せざるを得なかった。そのため、鋳造できたものも表面疵が発生している。また、No.14は、Cuの添加量が低いため、耐粒界腐食性に劣っている。
【0053】
【表4】