(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5950311
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】ニッケル水素電池の初期活性化方法
(51)【国際特許分類】
H02J 7/02 20160101AFI20160630BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20160630BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
H02J7/02 E
H01M10/44 P
H01M4/38 A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-58152(P2014-58152)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-186282(P2015-186282A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2014年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】上野 智裕
(72)【発明者】
【氏名】久保 和也
(72)【発明者】
【氏名】河野 博
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊男
(72)【発明者】
【氏名】兜森 俊樹
【審査官】
馬場 慎
(56)【参考文献】
【文献】
特表2001−522132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00 − 7/12
H02J 7/34 − 7/36
H01M 10/42 − 10/48
H01M 10/30
H01M 4/00 − 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AB2型水素吸蔵合金を負極として用いたニッケル水素電池の初期活性方法において、充電および放電サイクルで、充電されたニッケル水素電池に対し定電圧放電を行い、
前記定電圧放電は、保持電圧を0.8V〜1.2V、放電時間を1時間〜10時間、または、放電電流が負極容量に対して0.02Cに低下するまで行うことを特徴とするニッケル水素電池の初期活性化方法。
【請求項2】
前記放電サイクルで、定電流放電を開始した後、放電電圧が前記保持電圧に到達した後、前記定電圧放電を開始することを特徴とする請求項1に記載のニッケル水素電池の初期活性化方法。
【請求項3】
前記定電流放電では、0.2C〜1Cの条件で行うことを特徴とする請求項2に記載のニッケル水素電池の初期活性化方法。
【請求項4】
前記AB2型水素吸蔵合金をアルカリ煮沸処理して前記負極に用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のニッケル水素電池の初期活性化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ニッケル水素電池の初期活性化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケル水素電池は、負極に水素吸蔵合金、正極に水酸化ニッケルを用いた電池で、ニッカド電池と同じ電圧で使用できることから、環境配慮の点でニッカド電池の代替材として普及している。現在、ニッケル水素電池の負極材料には、主にAB
5型やA
2B
7型の水素吸蔵合金が使用されている。上記AB
5型やA
2B
7型より水素吸蔵量の多いAB
2型の水素吸蔵合金を用いることができれば容量のアップが見込める。ところで、水素吸蔵合金は、電池を組み上げてから何度か充放電させ、所定の容量をスムーズに放電させるようにするために初期活性化が必要とされる。しかし、AB
2型の水素吸蔵合金は、AB
5型やA
2B
7型に比べて初期活性化の作業に長時間を要しており、実用化を妨げる要因のひとつになっている。
【0003】
従来、AB
2型水素吸蔵合金を活性化させる手段として、これまでに高温保持や長時間の充電を行う方法が提唱されてきた。例えば、特許文献1では、Zr−Ti−Cr−Mn−V−Ni系のAB
2型水素吸蔵合金を負極として用い、第1工程で、高温での陽極損傷を防止するために50〜80℃温度範囲のKOH電解質内でZr系水素吸蔵合金を8〜20時間含沈させ、第2工程で、KOH電解質内でZr系水素吸蔵合金を含沈させた後、水素の吸収をより容易にするために最初のサイクルで5〜50mA/gの低い電流密度で長い時間、例えば、10〜100時間程度の低速充電により活性化させる方法を行っている。また、特許文献2では、Zr−Ni−Mn−V系のAB
2型水素吸蔵合金を負極として用いており、本合金を負極として電池に組み込んだ後1〜2回の充放電を行い、さらに20℃〜40℃の温度範囲で1週間以上3ヶ月以下の期間で放置することで初期活性化を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−196056号公報
【特許文献2】特開平9−259919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、従来の負極にAB
2型水素吸蔵合金を用いたニッケル水素電池の初期活性化方法では、高温保持や長時間の充電を組み込むことが必要となり、時間とコストがかかってしまうという問題がある。
【0006】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、負極にAB
2型水素吸蔵合金を用いたニッケル水素電池の充電と放電をスムーズに進めることができ、活性化にかかる時間を少なくすることができるニッケル水素電池の初期活性化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明のニッケル水素電池の初期活性化方法のうち第1の本発明は、AB
2型水素吸蔵合金を負極として用いたニッケル水素電池の初期活性方法において、充電および放電サイクルで、充電されたニッケル水素電池に対し定電圧放電を行
い、
前記定電圧放電は、保持電圧を0.8V〜1.2V、放電時間を1時間〜10時間、または、放電電流が負極容量に対して0.02Cに低下するまで行うことを特徴とする。
【0009】
第
2の本発明のニッケル水素電池の初期活性化方法は、前記第
1の本発明において、前記放電サイクルで、定電流放電を開始した後、放電電圧が前記保持電圧に到達した後、前記定電圧放電を開始することを特徴とする。
【0010】
第
3の本発明のニッケル水素電池の初期活性化方法は、前記
第2の本発明において、前記定電流放電では、0.2C〜1Cの条件で行うことを特徴とする。
【0011】
第
4の本発明のニッケル水素電池の初期活性化方法は、前記第1〜第
3の本発明のいずれかにおいて、前記AB
2型水素吸蔵合金をアルカリ煮沸処理して前記負極に用いることを特徴とする。
【0012】
上記本発明では、保持電圧を0.8V〜1.2Vとするのが望ましい。保持電圧が1.2Vより高いと放電が十分に行われず、一方、保持電圧が0.8Vより低いと負極の酸化を促進させるためにかえって初期活性が悪くなる。また、保持時間についても1時間より短すぎると放電が十分に行われず、一方、10時間より長すぎても単位時間当たりの放電容量が少なくなってしまうので時間のロスとなってしまう。したがって、放電時間は1時間〜10時間の範囲が適切であるが、この時間範囲に限らず、定電圧放電時の電流が負極容量の0.02Cに到達するまでの時間を放電終了の区切りとしてもよい。
【0013】
なお、「C」の単位は、放電の速度を表す単位で、It等で表記している場合もある。1Cは負極の全容量を1時間で放電する速度(電流)で、Cの値が大きくなると放電が早くなり、小さくなると放電が遅くなる。
例:負極容量200mAhを2Cで放電→電流400mA、全容量を30分で放電
3Cで放電→電流600mA、全容量を20分で放電
0.5Cで放電→電流100mA、全容量を2時間で放電
0.1Cで放電→電流020mA、全容量を10時間で放電
【0014】
上記低電圧放電の前に、定電流放電を行うことができる。定電流放電を開始した後、放電電圧が上記保持電圧に到達すると、定電圧放電を行うことができる。定電流放電の条件は、本発明としては特に限定されるものではなく、例えば、0.2C〜1Cの条件によって行うことができる。定電流放電の速度が速すぎると放電が十分でないままになり、遅すぎると時間がかかりすぎるという理由から上記条件が望ましい。
また、初期活性化を行う前に水素吸蔵合金粉末をアルカリ煮沸処理のような表面処理を施すことで、放電容量を増加させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、充放電サイクルに定電圧放電を組み入れることでスムーズな充放電を促し、初期活性を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態における放電条件(a)、および、比較例における放電条件(b)とを説明する図である。
【
図2】同じく、定電圧放電における保持電圧を変化させた実施例および比較例について、充放電のサイクル数と、これに対する放電容量の変化を示したグラフである。
【
図3】同じく、アルカリ煮沸処理を行った実施例、アルカリ煮沸処理を行っていない比較例、および、アルカリ煮沸処理を行った比較例について、充放電のサイクル数と、これに対する放電容量の変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態のニッケル水素電池を説明する。
本発明のニッケル水素電池は、負極にAB
2型水素吸蔵合金を用いる。AB
2型水素吸蔵合金としては、各種の合金を用いることができ、例えば、ZrNi
2系、ZrCr
2系、ZrCo
2系およびTiMn
2系およびTiCr
2系などを用いることができる。本発明としては、AB
2型水素吸蔵合金としては、ここに例示されたものに限定されない。
【0018】
前記ニッケル水素電池は、初期活性処理において充放電サイクルに定電圧放電が組み込まれて行われる。本発明では、放電サイクルを定電圧放電のみで行うことも可能であるが、処理時間が長くなるため、定電流放電と組み合わせて行うのが望ましく、定電流放電後に、定電圧放電を行うのが望ましい。
【0019】
前記放電条件を
図1(a)に基づいて説明する。前記ニッケル水素電池は、十分に充電が行われた後、
図1(a)に示すように定電流放電を行う。
充電は、負極を基準にして満充電で行うのが望ましい。その際に、正極容量>負極容量となるように充電を行うのが望ましい。
【0020】
定電流放電は、例えば、0.2C〜1Cの条件により行うことができる。
前記定電流放電開始後、所定の保持電圧まで電圧が低下すると定電圧放電に切り替え、該保持電圧のまま1〜10時間、または、放電電流が負極容量に対して0.02Cに低下するまで保持する。定電圧放電は、0.8〜1.2Vの範囲が望ましい。
定電圧の保持時間は、1時間未満では放電が十分ではなく、10時間を超えても放電量は僅かになる。また、放電電流を基準とする場合、0.02Cまで低下すれば放電量としては十分であり、それ以上継続しても放電量は僅かである。
【0021】
また、前記AB
2型水素吸蔵合金はアルカリ煮沸処理されてから負極として用いられるものであってもよい。前記初期活性化を行う前に水素吸蔵合金をアルカリ煮沸処理のような表面処理を施すことで、放電容量を増加させることができる。
アルカリ煮沸処理としては、例えば、KOH、NaOHなどの溶液を用い、40℃〜95℃で、5分〜90分の処理を行うことができる。
【実施例1】
【0022】
以下に、本発明の実施例を説明する。
ニッケル水素電池における負極用のAB
2型水素吸蔵合金として、Ti
0.1Zr
0.9Ni
1.1Mn
0.6V
0.2Co
0.1をアルゴン雰囲気中にてアーク溶解で作製した。これを熱処理後75μmアンダーまで分級した後に、バインダーやカーボン系導電助材と混練後に多孔体ニッケルに塗布し、圧延と乾燥を行い負極とした。
【0023】
正極はNi(OH)
2粉末をバインダーと共に混練したものを多孔体ニッケルに塗布し、圧延と乾燥を行い作製した。電解液はKOHとNaOH、LiOHを3:3:0.4の割合で混合し、トータルで6.4規定となる溶液を用いた。上記の手法で作製した電極を、負極と正極の容量が約1:2になるように電気化学セルに組み込み、負極の容量がセルの容量となるようにした。また、正極と負極の間には厚さ約0.2mmのセパレータを介して短絡を防止した。
【0024】
本発明の活性化の充放電サイクルの条件を表1に示す。表1に示す充放電速度0.2Cはセル容量(負極容量に等しい)を基準とした。比較例として定電圧放電を組み込まない場合の充放電サイクルの条件も表1に示す。また、
図1に実施例と比較例の放電における時間の経過に対しての電流と電圧の変化を示す。実施例と比較例の充放電サイクルを表1、
図1に基づいて説明する。
【0025】
表1に示すように、実施例、比較例ともに前記ニッケル水素電池において負極容量に対して0.2Cの充電速度で、負極基準で150%になるまで充電を行った。
その後、実施例、比較例ともに定電流放電を行った。定電流放電の条件は、0.2Cの放電速度とした。
なお、「C」は、前記したように放電の速度を表す単位である。
【0026】
図1(a)に示すように、実施例では、放電開始後所定の保持電圧まで電圧が低下すると、定電圧放電に切り替え、該保持電圧のまま、5時間経過することで定電圧放電を終了した。前記保持電圧として、0.8V、1.0V、1.2V、1.3Vに設定した。比較例では、
図1(b)に示すように、放電開始後、電圧が0.8Vまで低下することにより放電を終了した。
【0027】
初期活性化処理後、セルの温度を35℃一定にして、前記充放電サイクルを行ったニッケル水素電池について充放電サイクル数に応じて放電電流を測定し、その結果を
図2に示した。
図2では、横軸は充放電サイクル数、縦軸は負極に充填された水素吸蔵合金の重量で規格化した放電容量(mAh/g)でプロットした。
図2に示すように、実施例では、定電圧放電のときの保持電圧によって放電容量に差が見られ、保持電圧が0.8V、1.0V、1.2Vの場合に比較例よりも高い放電容量を示した。この中でも保持電圧が1.2Vの場合に、放電容量が一番高いことがわかった。
【0028】
【表1】
【0029】
(実施例2)
次に、上記AB
2型水素吸蔵合金にアルカリ煮沸処理を行った後、前記充放電サイクルを行った結果を
図3に示す。
図3では、横軸は充放電サイクル数、縦軸は負極に充填された水素吸蔵合金の重量で規格化した放電容量(mAh/g)でプロットした。
実施例として、前記AB
2型水素吸蔵合金をあらかじめ35wt%のKOH溶液で95℃、1時間のアルカリ煮沸処理を行い、その後、煮沸処理したAB
2型水素吸蔵合金を負極に組み込み、ニッケル水素電池を用意した。
上記ニッケル水素電池に対する充放電サイクルでの保持電圧を1.2Vに設定し、上記と同じ条件で定電流放電と、表1に示す条件で放電を行った。また、比較例として、負極に組み込む前に実施例と同様のアルカリ煮沸処理のみを行ったものと、前記アルカリ煮沸処理を行わないものの2種類を用意し、表1に示す条件で定電流放電を行った。
【0030】
初期活性化処理後、セルの温度を35℃一定にして、前記充放電サイクルを行ったニッケル水素電池について、サイクル数に応じた放電電流を測定し、その結果を
図3に示した。
アルカリ煮沸処理を行った実施例、アルカリ煮沸処理を行った比較例、アルカリ煮沸処理未実施の比較例の順に放電容量が高いことがわかった。上記結果から、アルカリ煮沸処理を行った方がアルカリ煮沸処理未実施よりも放電容量が高く、アルカリ煮沸処理+定電圧放電を行った方が、さらに放電容量が高いことがわかった。よって、アルカリ煮沸処理と定電圧放電の相乗効果により、さらに活性化を早める効果を確認することができた。