【文献】
佐藤威ほか,吹雪による視程障害の予測とその検証. 2010/2011 冬期の新潟市による吹雪対策への活用事例,防災科学技術研究所主要災害調査,2012年 2月,第47号,P.103−112,URL,http://dil-opac.bosai.go.jp/publication/nied_natural_disaster/pdf/47/47-12.pdf
【文献】
佐藤威ほか,吹雪による視程悪化の予測とその検証,寒地技術論文・報告集,2007年12月,Vol.23,P.75−80
【文献】
佐藤威ほか,吹雪とそれによる視程悪化の広域的予測について,寒地技術論文・報告,2004年10月,Vol.20,P.332−337
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
気象予測メッシュデータにおける気温データに基づいて、計算された浮遊粒子による視程を補正し、補正された浮遊粒子による視程を計算する手段を有することを特徴とする請求項1に記載の視程予測システム。
気象予測メッシュデータにおける気温データに基づいて、計算された浮遊粒子による視程を補正し、補正された浮遊粒子による視程を計算するステップを有することを特徴とする請求項5に記載の視程予測方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。まず、本発明の実施形態に係る視程予測方法及び視程予測システムが想定している寒冷地における吹雪による視程障害発生のメカニズムや、重要なパラメーターの説明を行う。
【0018】
寒冷強風時に雪面の雪が舞い上がる現象である吹雪は、
図1のように雪面近傍において吹雪粒子の跳躍運動が卓越する層(跳躍層)と、その上の浮遊運動が卓越する層(浮遊層)からなる。
【0019】
それぞれの運動をする粒子を跳躍粒子、浮遊粒子と呼ぶこともある。跳躍粒子は雪面に衝突した際に雪面を構成する雪粒子をはじき飛ばすことがあり(雪面は削剥される)、また降雪がある場合は、降雪粒子(雪片とも呼ばれる)が雪面に衝突した際に粉々に破壊され吹雪粒子になることもある。これらはいずれも吹雪の発達の原因となる。また、積雪がなくても地面が凍結している場合は、降雪粒子の破壊により吹雪が発達しうる。
【0020】
跳躍粒子が運動を停止すると吹きだまりができ、交通を阻害する。また、浮遊粒子は車両のドライバーの視界を妨げるなど、視程障害の原因となる。本発明は、後者による災害防止のための視程予測の手法に関するものである。
【0021】
ここで、跳躍層と浮遊層は独立して存在するものではなく、跳躍層の上部から浮遊層の下部はなめらかに遷移していると考えられている。すなわち、風速や気温などの気象状態、雪面の状態、降雪の状態などに依存する跳躍層の構造は、浮遊層の構造にも影響している。
【0022】
本発明に係る視程予測方法及び視程予測システムは、既往の研究成果及び発明者による研究成果を組み合わせて、様々な条件下での吹雪による視程悪化を予測するものである。
【0023】
なお、本発明に係る視程予測方法及び視程予測システムで用いた研究成果を記した参考文献のリストを後掲する。また、本明細書においては、必要に応じて、計算式などが依拠する根拠を示す参考文献を示すようにする。また、本明細書は、同リスト中の参考文献に記載された事項の内容を参照して援用するものである。
【0024】
次に、本発明に係る視程予測方法及び視程予測システムで用いる重要なパラメーターについて説明する。
図2は本発明に係る視程予測方法及び視程予測システムで用いる重要なパラメーターを説明する図である。
・吹雪強度(または飛雪流量)q[kg/m
2/s]:風に直交する単位面積を単位時間
に通過する吹雪粒子の質量で、吹雪粒子密度×風速から求まる。(
図2(A)参照)
・吹雪量Q[kg/m/s]:風に直交する単位幅を単位時間に通過する吹雪粒子の質量で、吹雪強度を鉛直(z)方向に積分したもの。(
図2(B)参照)
・吹雪粒子密度n[kg/m
3]:単位体積中に存在する吹雪粒子(跳躍粒子または浮遊
粒子)の質量。(
図2(C)参照)
・飽和吹雪量Q
sat[kg/m/s]:ある風速の時に生じうる最も強い吹雪による吹雪
量で、既往の研究より高度1mの風速や摩擦速度(後述)の関数として実験式が得られている。
【0025】
次に、風速の対数分布、摩擦速度、粗度の一般的な概念について説明する。地表から高度10m程度(大気の安定度により異なる)までの範囲において、風速Uが高度zの対数に比例すると仮定(吹雪が発生するような低温・強風の気象条件の時にはこの仮定が成立する)した時、
【0027】
と表すことができる。(風速の対数分布)
(1)式において、u
*が摩擦速度で、k(=0.4)はカルマン定数、z
oは粗度である。
【0028】
次に、本発明の実施形態に係る視程予測方法を実行させるコンピューターシステムについて説明する。
【0029】
図3は本発明の実施形態に係る視程予測方法に基づいて視程予測システムを実現させるコンピューターの構成の一例を示す図である。
図3において、10はシステムバス、11はCPU(Central Processing Unit)、12はRAM(Random Access Memory)、13はROM(Read Only Memory)、14は外部情報機器との通信を司る通信制御部、15はキーボードコントローラなどの入力制御部、16は出力制御部、17は外部記憶装置制御部、18はキーボード、ポインティングデバイス、マウスなどの入力機器からなる入力部、19は印刷装置などの出力部、20はHDD(Hard Disk Drive)等の外部記憶装置、21はグラフィック制御部、22はディスプレイ装置をそれぞれ示している。
【0030】
図3において、CPU11は、ROM13内のプログラム用ROM、或いは、大容量の外部記憶装置20に記憶されたプログラム等に応じて、外部機器と通信することでデータを検索・取得したり、また、図形、イメージ、文字、表等が混在した出力データの処理を実行したり、更に、外部記憶装置20に格納されているデータベースの管理を実行したり、などといった演算処理を行うものである。
【0031】
また、CPU11は、システムバス10に接続される各デバイスを統括的に制御する。ROM13内のプログラム用ROMあるいは外部記憶装置20には、CPU11の制御用の基本プログラムであるオペレーティングシステムプログラム(以下OS)等が記憶されている。また、ROM13あるいは外部記憶装置20には出力データ処理等を行う際に使用される各種データが記憶されている。メインメモリーであるRAM12は、CPU11の主メモリ、ワークエリア等として機能する。
【0032】
入力制御部15は、キーボードや不図示のポインティングデバイスからの入力部18を制御する。また、出力制御部16は、プリンタなどの出力部19の出力制御を行う。
【0033】
外部記憶装置制御部17は、ブートプログラム、各種のアプリケーション、フォントデータ、ユーザーファイル、編集ファイル、プリンタドライバ等を記憶するHDD(Hard Disk Drive)や、或いはフロッピーディスク(FD)等の外部記憶装置20へのアクセスを制御する。本発明の視程予測方法を実現するシステムプログラムは、上記のような外部記憶装置20に記憶されている。また、グラフィック制御部21は、ディスプレイ装置22に表示する情報を描画処理するための構成である。
【0034】
また、通信制御部14は、ネットワークを介して、外部機器と通信を制御するものであり、これによりシステムが必要とするデータを、インターネットやイントラネット上の外部機器が保有するデータベースから取得したり、外部機器に情報を送信したりすることができるように構成される。
【0035】
外部記憶装置20には、CPU11の制御プログラムであるオペレーティングシステムプログラム(以下OS)以外に、本発明の視程予測システムをCPU11上で動作させるシステムプログラム、及びこのシステムプログラムで用いるデータなどがインストールされ保存・記憶されている。
【0036】
本発明の視程予測方法を実現するシステムプログラムで利用されるデータとしては、基本的には外部記憶装置20に保存されていることが想定されているが、場合によっては、これらのデータを、通信制御部14を介してインターネットやイントラネット上の外部機器から取得するように構成することも可能である。また、本発明の視程予測方法を実現するシステムプログラムで利用されるデータを、USBメモリやCD、DVDなどの各種メディアから取得するように構成することもできる。
【0037】
次に、上記のようなシステム構成のコンピューターにより実行可能な本発明に係る視程予測方法について、以下説明する。本発明に係る視程予測システムは、様々な条件下での吹雪による視程悪化を予測し、例えば、その結果を、ディスプレイ装置22などにより表示するものである。
【0038】
図4は、本発明に係る視程予測システムで実行される視程予測処理のフローチャートを示す図である。
【0039】
ステップS100で、視程予測処理開始で処理が開始されると、まず、ステップS101では、変数nに1がセットされる。ここで、nは気象予測メッシュデータ、及び、積雪深予測メッシュデータをカウントするための変数である。また、気象予測メッシュデータ、及び、積雪深予測メッシュデータにおいて、総メッシュ数はNであることを前提として、以下説明する。
【0040】
気象予測メッシュデータベースには、それぞれのメッシュにおける気象に係る予測データが記憶されている。本発明に係る視程予測システムでは、気象予測メッシュデータには、少なくとも、風ベクトルの2成分(高度10mにおける東西成分U[m/s]と南北成分V[m/s])、雪の混合比m[kg/kg]、地上気温T[℃](例えば、高さ1.5m気温)が含まれることを想定している。
【0041】
また、積雪深予測メッシュデータベースには、それぞれのメッシュにおける積雪深D[m]に係る予測データが記憶されている。
【0042】
気象予測メッシュデータベース及び積雪深予測メッシュデータベースは、外部記憶装置20に記憶されたものを用いてもよいし、通信制御部14からインターネット、イントラ
ネットなどを介して、取得されるものを用いてもよい。
【0043】
なお、「メッシュ」とは、網の目(格子)にデータを配置することを意味する。各メッシュは、「座標」と「データ」を有する。メッシュは、面的な情報の把握に有効な手段である。視認性の指標となる視程の値をメッシュ化することによって、広域の視程状況(視界状況)を面的に捉えることができる。
【0044】
ステップS102においては、着目するメッシュ(n)に対応した気象予測メッシュデータ、及び、積雪深予測メッシュデータを取得する。
【0045】
ステップS103では、吹雪強度計算処理サブルーチンが実行され、ステップS104では、視程予測値計算処理サブルーチンが実行される。これらのサブルーチンについては、後述する。
【0046】
ステップS104における視程予測値計算処理サブルーチンが実行されると、着目メッシュ(n)に対応する視程予測値を得ることができ、次のステップS105で、メッシュ(n)に対応した視程予測値を外部記憶装置20などに記憶する。
【0047】
ステップS106では、n=Nであるか否かが判定され、この判定がNOであれば、ステップS108に進み、nを1インクリメントし、ステップS102に戻る。一方、当該判定がYESであれば、全てのメッシュについて、視程予測値を得たことになるので、ステップS107に進み、メッシュ(n)に対応して記憶された視程予測値を、例えば、ディスプレイ装置22に表示する。なお、メッシュ(n)に対応した視程予測値に基づく表示データを、通信制御部14などを介して、インターネット、イントラネットに配信するように設定することもできる。
【0048】
図12は本発明に係る視程予測システムによる表示データの一例を示す図である。例えば、
図12に示すように、視程予測値に基づいてメッシュを濃淡で、または色分けして表示を行う。これにより、車両ドライバーなどに視程予測を報知することがすることができ、安全に資することできる。
【0049】
ステップS109においては、視程予測処理を終了する。
【0050】
次に、以上のような本発明に係る視程予測システムにおける、より詳細な計算処理について説明する。
図5は本発明に係る視程予測システムで実行される吹雪強度計算処理サブルーチン(ステップS103)のフローチャートを示す図である。
【0051】
図5において、ステップS200で、吹雪強度計算処理サブルーチンが開始されると、続いて、ステップS201に進み、降雪/降雨判定処理サブルーチンが実行される。
図6は本発明に係る視程予測システムで実行される降雪/降雨サブルーチン(ステップS201)のフローチャートを示す図である。
【0052】
図6において、ステップS300で降雪/降雨判定処理サブルーチンが開始されると、続いて、ステップS301では、(地上気温T)<2℃であるか否かが判定される。
【0053】
ステップS301における判定がYESであるときには、ステップS302に進み、降雪とみなし、雪の混合比mを用いて以下の計算を実行する。一方、ステップS301における判定がNOであるときには、ステップS303に進み、降雨と見なし、m=0を用いて以下の計算を実行する。ステップS304で、元のルーチンにリターンする。
【0054】
以上のような降雪/降雨判定処理サブルーチンの意義について説明する。雪の混合比mは大気中に含まれる雪(降雪粒子)の割合を示すもので、1kgの乾燥大気中にmkgの雪を含むときに混合比はm[kg/kg]となる。地上気温がプラスの場合もm≠0となることがあるが、ここでは参考文献1を参考に地上気温が2℃以上では雪は降らず雨が降ると仮定しm=0としている。
【0055】
図5に戻り、ステップS201に続いて、ステップS202では、雪面状態判定処理サブルーチンが実行される。
図7は本発明に係る視程予測システムで実行される雪面状態判定処理サブルーチンステップS202)のフローチャートを示す図である。
【0056】
図7において、ステップS400で、雪面状態判定処理サブルーチンが開始されると、続いて、ステップS401で、(積雪深D)>0mであるか否かが判定される。ステップS401における判定がYESであると、ステップS402に進み、(地上気温T)<0℃であるか否かが判定される。ステップS402における判定がYESであると、ステップS403に進み、過去3時間の積雪深Dの増加が3cm以上であるかが判定される。
【0057】
ステップS403の判定がYESであるときには、ステップS405に進み、軟雪として以下の計算を実行する。この場合、雪面は削剥されるものと想定している。
【0058】
一方、ステップS403の判定がNOであるときには、ステップS406に進み、準硬雪として以下の計算を実行する。この場合、雪面はある程度削剥されるものと想定している。
【0059】
ステップS402における判定がNOであるときには、ステップS407に進み、硬雪として以下の計算を実行する。この場合、雪面は削剥されないものと想定している。
【0060】
ステップS401における判定がNOであるときには、ステップS404に進み、(地上気温T)<0℃であるか否かが判定される。
【0061】
ステップS404における判定がYESであるときには、ステップS408に進み、硬雪として以下の計算を実行する。この場合、地面は凍結し硬雪と同様に削剥されないものと想定している。
【0062】
ステップS404における判定がNOであるときには、ステップS409に進み、吹雪は発生しないものと想定する。
【0063】
以上のような雪面状態判定処理サブルーチンの意義について説明する。雪面状態判定処理サブルーチンで判定された雪面の状態に応じて、雪面近傍の跳躍層における跳躍粒子の挙動を規定するパラメーターを選択するようにする。このようなパラメーターの選択については、後述する。
【0064】
跳躍粒子が雪面に衝突した際に、雪面を構成する雪粒子をはじき出すが、かなりはじき出す雪面を「軟雪」、ほとんどはじき出さない雪面を「硬雪」、その中間を「準硬雪」と区別し、それぞれに対してはじき出す過程を記述するパラメーターなどを与えている。
【0065】
本来であれば、これらの雪面の区別は、降雪後の積雪の変化を考慮して予測すべきであるが、便宜上、積雪深、地上気温、過去3時間の積雪深の増分から判別することにしている。
【0066】
なお、地上に積雪がなくても、地面が凍結している場合には降雪があれば吹雪は発生し
うるので、その場合は「硬雪」として扱っている。
【0067】
図5に戻り、ステップS203においては、風速WS[m/s]、風向WD[deg]、降雪の空間密度R[kg/m
3]、降雪強度F[mm/hr]、飽和吹雪量Q
sat[kg/m/s]の計算を実行する。
【0068】
風速WSはスカラー風速(風ベクトルの大きさ)のことである。風ベクトルの2成分(東西成分Uと南北成分V)からWSは(2)式によって求める。
【0070】
降雪粒子の空間密度R[kg/m
3]は1m
3の大気中の雪(降雪粒子)の質量である。1kgの乾燥大気の体積は、その密度をρ
airとすると1/ρ
airである。気温が−10℃の時ρ
air =1.34kg/m
3であるから、1/ρ
air =1/1.34=0.746となり、Rは雪の混合比m[kg/kg]から(3)式によって、求めることができる。
【0072】
降雪強度Fは、単位時間(通常は1時間あたり)に積もる雪の量であるが、(水換算)降雪強度Fはそれを融かした時の水の深さで表し、単位はmm/hとするのが一般的である。降雪粒子の落下速度を1m/sと仮定すると、1m
2に1時間に積もる雪の質量はR
[kg/m
3]×1[m/s]×3600[s/h]=R×3600[kg/m
2/h]である。水の密度ρ
w =1000kg/m
3であるから、それを融かした時の水の深さはR×3600[kg/m
2/h]/ 1000[kg/m
3]= R×3.6[m/h] =
R×3.6×1000[mm/h]となる。前述のRとmの関係を代入すると(水換算)降雪強度F[mm/h]は、(4)式によって求めることができる。
【0074】
先に説明した風速の対数分布を仮定し、雪面の代表的粗度としてz0=0.0001mとすると、z=10mではk=0.4として、WS=(u
*/k)ln(10/0.00
01)=28.78u
*であるから、摩擦速度はu
*は、式(5)によって求める。
【0076】
吹雪量と風速または摩擦速度の関係に関する既往の研究成果はかなりばらついており、飽和吹雪量Q
sat[kg/m/s]はそれらの上限値に近いものと考え、摩擦速度u
*[m/s]から式(6)によって求めている。(参考文献2)。
【0078】
続いて、ステップS204においては、跳躍粒子の跳躍距離L[m]、跳躍粒子の跳躍高さh[m]、跳躍粒子の射出率f
E、降雪の堆積率f
Sの計算を実行する。
図8は吹雪の発達のモデルの概念図である。
【0079】
図8は、跳躍層における吹雪の発達を考慮して吹雪量を計算する方法を示したもので、個々の跳躍粒子には注目せず、その集合体を「仮想的な跳躍粒子」と考え、それが雪面に衝突する度にどの程度増大するかを射出率f
Eを導入してモデル化している。また、降雪
がある場合は、それが雪面に衝突した後にどの程度留まるか(すなわち、積もるか)を堆積率f
Sで表している。(1−f
S)は、降雪が粉々になり跳躍粒子となって雪面に留まらない(すなわち、跳躍粒子に変わる)割合である。これらの考え方は参考文献8に示されたものを改良したものである。また、モデルでは、跳躍粒子の跳躍高度をh、跳躍粒子の跳躍距離をLとしている。
【0080】
上記のような跳躍粒子の跳躍距離L[m]、跳躍粒子の跳躍高さh[m]、跳躍粒子の射出率f
E、降雪の堆積率f
Sを求めるためは、雪面状態判定処理サブルーチンで判定した雪面の状態が「軟雪」、「硬雪」、「準硬雪」であるかに係る情報と、先に求めた摩擦速度u
*と、表1に示すテーブルとを参照することによる。なお、表1は風洞実験の結果(参考文献については最右欄)に基づき摩擦速度の関数として定式化したものである。
【0082】
このように、雪面の状態に応じて雪面近傍の跳躍層における跳躍粒子の挙動を規定するパラメーターを選択するとともに、降雪が吹雪の発達に直接的に及ぼす影響を計算に入れている。これにより、本発明に係る視程予測システム及び視程予測方法によれば、様々な雪面状態と降雪状態に対応して吹雪の発達程度を考慮した視程障害の予測が可能となるのである
続く、ステップS205では、吹雪量Qの計算を実行する。ただし、吹雪量Qの上限値は、飽和吹雪量Q
satであるものとしている。吹雪量Q[kg/m/s]の計算は、下式
(7)による。
【0084】
(7)
ただし、Q
i: 衝突後の吹雪量
Q
i―
1:衝突前の吹雪量
である。
【0085】
(7)式の右辺の第1項は吹雪の発達に対する雪面の削剥の寄与を、第2項は降雪の寄与を表す。(7)式においてiを0からメッシュサイズXをLで除した値まで1ずつ増やしながら吹雪量Q
iを計算する。このようにして、メッシュ内の吹雪量の変化を計算し、
メッシュ内での吹雪量の最大値を求める(参考文献8)。ただし、(7)式の計算の途中で吹雪量Q
iが摩擦速度に対応する飽和吹雪量に達したら、それ以後は吹雪の発達はない
ものとして式(7)は適用せず、飽和吹雪量をそのメッシュにおける吹雪量とする。
【0086】
続く、ステップS206においては、ガストの考慮に係る計算を実行する。ガストとは、風速変動に伴う瞬間的な強風のことである。
【0087】
一般に風の強さは時々刻々と変動している。入力とする風速の予測データは時間的・空間的に平均化されたものであり、風速の瞬間値とは異なる(天気予報で通常示される風速も同様で、特に瞬間的に強くなることを強調する時は「最大瞬間風速」として示されることがある)。
【0088】
吹雪による視程障害に対処するには瞬間的に強くなる風速に対応する吹雪状態を予測することが重要であり、ここでは、摩擦速度を1.5倍とし、吹雪量を3.51倍として(Q
satがu
*3.1に比例することから、その類推として(1.5)
3.1=3.51倍して)瞬間最大の吹雪状態を考慮することとしている。
【0089】
すなわち、ステップS206においては、式(8)及び式(9)による置換を行う。
【0092】
続く、ステップS207においては、跳躍層の厚さh
salと、跳躍層上端(浮遊層下端
)における吹雪強度q(h
sal)・跳躍粒子密度(浮遊粒子密度)n(h
sal)、浮遊層内高度1.2mにおける浮遊粒子密度n(1.2m)と吹雪強度q(1.2m)の計算を実行する。
【0093】
以下、ステップS207で実行される計算の詳細について説明する。なお、z=1.2mにおける浮遊粒子密度nと吹雪強度qを計算するのは、小型自動車ドライバーの目線の高さがz=1.2mに相当するからである。
【0094】
ここで、ステップS207で実行される計算を説明するために、
図9及び
図10を援用する。
図9は吹雪強度(飛雪流量)と高度の関係を示す図である。また、
図10は吹雪強度計算処理サブルーチンのステップS207で行われる計算の概要を説明するブロック図である。
【0095】
河村の式(参考文献9)を用いると跳躍層内の吹雪強度(飛雪流量)の分布q(z)は次式(10)で表せる。
【0097】
ただし、hは跳躍粒子の跳躍高さ、q
0は雪面における吹雪強度である(
図9の点線が
(10)式に対応する)。
【0098】
また、吹雪量Qは次式(11)で与えられる。
【0100】
(11)式のhとQは、ステップ206でガストの影響を考慮したもので、hは表1を用いて計算し直したものである。各メッシュにおける最大の吹雪量に対応するq
0は(11
)式から求まる。
【0101】
跳躍層と浮遊層の境界の高さ(跳躍層の厚さ)h
salは、h
sal=5h(参考文献4)であるので、(10)式からそこでの吹雪強度q(h
sal)が求まる。また、z=h
salにおける吹雪粒子密度はその定義からn(h
sal)=q(h
sal)/WS(h
sal)と表される
。
【0102】
一方、z≧h
salに存在する浮遊層に対しては乱流拡散理論に基づく次の塩谷の式(参
考文献10)が適用できる。
【0104】
ここで、Wは吹雪粒子の落下速度で、参考文献11および参考文献12を参考に0.3m/sと仮定している。
【0105】
以上より、小型自動車のドライバーの目線の高さであるz=1.2mにおける吹雪粒子(浮遊粒子)密度n(1.2m)は、下式(13)により求められる。
【0107】
となる。z=1.2mの風速は対数分布を仮定して、下式(14)より求められる。
【0109】
ただし、z
0=0.0001m, k=0.4(カルマン定数)である。(13)式と
(14)式からz=1.2mの吹雪強度q(1.2m)は次式(15)で与えられる。
【0111】
以上の計算ステップを実行すると、ステップS208で、元のルーチンにリターンする。
【0112】
ステップS103の吹雪強度計算処理サブルーチンが実行された後には、続いて、ステップS104の視程予測値計算処理サブルーチンが実行される。以下、この視程予測値計算処理サブルーチンについて説明する。
【0113】
図11は本発明に係る視程予測システムで実行される視程予測値計算処理サブルーチン(ステップS104)のフローチャートを示す図である。
【0114】
図11において、ステップS500で、視程予測値計算処理サブルーチンが開始されると、続く、ステップS501では、吹雪強度q(1.2m)>0であるか否かが判定される。ここで、ステップS501における判定がYESであるときには、ステップS502に進み、浮遊粒子による視程の悪化を評価する。Vis_bsを、浮遊粒子による視程と定義する。
【0115】
ステップS502において計算には、Vis_bs[m]はq(1.2m)[kg/m
2/s]から下式(16)を用いて計算される。
【0117】
(16)式は、参考文献13の
図5.25のBudd他・竹内他のデータから作成したものである。
【0118】
また、ステップS501における判定がNOであるとき(すなわち、吹雪が発生しないとき)には、ステップS510に進み、Vis_bs=5000[m]としている。
【0119】
ステップS503においては、地上気温≦1℃であるか否かが判定される。ステップS503における判定がYESであるときには、ステップS504に進み、ステップS502で計算した視程(Vis_bs)の補正計算を実行する。
【0120】
ステップS502で計算した視程(Vis_bs)は、寒冷条件下での観測に基づいているため、ステップS504では、地上気温が0℃前後の野外観測により得られた視程の風速・気温依存性(参考文献14)から決めた、表2により求められる補正係数を、ステップS502で計算した視程(Vis_bs)に乗ずることにより補正する。
【0122】
ステップS503における判定がNOであるとき(すなわち、地上気温が1℃を超えるとき)には、ステップS505に進み、Vis_bs=5000mとする。
【0123】
降雪があるときにおいては、降雪粒子そのものによる視程の悪化も生じる。Vis_bsを計算した後に、降雪粒子による視程の悪化を評価するために、ステップS506に進む。Vis_sfを、降雪粒子による視程と定義する。
【0124】
ステップS506では、降雪の空間密度R>0であるか否かが判定される。ステップS
506における判定がYESであるときには、ステップS507に進み、Vis_sf[m]をR[kg/m
3]から下式(17)により計算する。
【0126】
(17)は参考文献13の
図5.23のMellorのデータから作成したものである。
【0127】
ステップS506における判定がNOであるとき、すなわち、降雪がない場合(R=0の場合)には、ステップS508に進み、Vis_sf=5000mとする。
【0128】
降雪を伴う吹雪の場合は、吹雪粒子と降雪粒子がともに存在し、視程の悪化をもたらす。この場合の視程は、ステップS509で、Vis_bs、Vis_sfのうち、小さいほうを視程予測値として採用する。
【0129】
ステップS511で、元のルーチンにリターンする。
【0130】
以上、本発明に係る視程予測システム及び視程予測方法は、雪面の状態に応じて雪面近傍の跳躍層における跳躍粒子の挙動を規定するパラメーターを選択するとともに、降雪が吹雪の発達に直接的に及ぼす影響を計算に入れているので、このような本発明に係る視程予測システム及び視程予測方法によれば、吹雪の発達程度を考慮した視程障害の予測が可能となる。また、変動する吹雪によって生じる瞬間的な最低視程の的確な予測も可能となる。
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