特許第5950440号(P5950440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5950440
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】中空エンジンバルブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F01L 3/14 20060101AFI20160630BHJP
   F01L 3/20 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   F01L3/14 A
   F01L3/20 B
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-17203(P2012-17203)
(22)【出願日】2012年1月30日
(65)【公開番号】特開2013-155676(P2013-155676A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2014年10月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】315017775
【氏名又は名称】三菱重工工作機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100182224
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲三
(73)【特許権者】
【識別番号】508282203
【氏名又は名称】株式会社 吉村カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230111796
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 忠敬
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(72)【発明者】
【氏名】中村 克己
(72)【発明者】
【氏名】森井 宏和
(72)【発明者】
【氏名】平尾 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉村 豹治
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/104903(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/104916(WO,A1)
【文献】 特開平3−264714(JP,A)
【文献】 特開2009−185655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/00−3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁傘部と当該弁傘部に接続する中空軸部とに亘って中空孔が形成された弁本体を備える中空エンジンバルブの製造方法において、
前記弁本体の素材となる中実丸棒を、1回の熱間鍛造によって、前記弁傘部に対応した半完成品弁傘部と前記中空軸部に対応した半完成品中空軸部とに亘って形成される前記中空孔に対応した半完成品中空孔に、中子の挿入による段差を生じさせることなく、弁本体半完成品に成形し、
前記弁本体半完成品に対して、前記弁本体半完成品を回転させながら、前記半完成品中空軸部の外周面を押圧するロータリスエージング加工を行うことにより、前記半完成品中空軸部の径を縮径すると共に、前記半完成品中空軸部の軸長を長くし、
ロータリスエージング加工後の前記弁本体半完成品に対して、前記半完成品中空軸部と、前記半完成品弁傘部と前記半完成品中空軸部との間の接続部分となる半完成品首部とを、段階的に絞り上げるネッキング加工を行うことにより、前記半完成品中空軸部の径を縮径すると共に、前記半完成品中空軸部の軸長を長くして、当該弁本体半完成品を前記弁本体に成形し、
前記弁本体における前記中空軸部の端部に、前記中空孔を封止するように軸端封止部材を接合する
ことを特徴とする中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の中空エンジンバルブの製造方法において、
前記半完成品弁傘部内における前記半完成品中空孔の下端に、内径が前記半完成品中空孔の内径よりも大径となる半完成品拡径孔部を加工する
ことを特徴とする中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の中空エンジンバルブの製造方法において、
ネッキング加工前に、前記半完成品首部が所定の肉厚となるように、当該半完成品首部を加工する
ことを特徴とする中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の中空エンジンバルブの製造方法において、
冷媒用の金属ナトリウムを前記中空孔内に入れた後、前記軸端封止部材を前記中空軸部の端部に接合する
ことを特徴とする中空エンジンバルブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁傘部と当該弁傘部に接続する中空軸部とに亘って中空孔が形成された弁本体を備える中空エンジンバルブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンバルブの中には、エンジンの高出力化及び高性能化に伴って、その内部を中空状に形成したものが種々提供されている。これにより、中空のエンジンバルブにおいては、中実のエンジンバルブと比べて、軽量化が図られることとなり、高精度なバルブ開閉動作を行うことができる。そして、このような、従来の中空エンジンバルブの製造方法は、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4390291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の中空エンジンバルブの製造方法では、弁本体、中空軸部材、軸端封止部材をそれぞれ個別に製造した後、それら各部材同士を接合することにより、完成品としての中空エンジンバルブを得るようにしている。更に、それらの部材の中でも、弁本体の製造方法では、素材となる中実丸棒を2回の鍛造によって半完成品に成形した後、この半完成品をネッキング加工(絞り上げ加工)によって弁本体に成形するようにしている。
【0005】
しかしながら、上述したように、従来の鍛造工程においては、中実丸棒に対して、2回の鍛造を行う必要があり、1回目の鍛造で、中実丸棒をコップ状の中間品に成形した後、2回目の鍛造で、中間品を半完成品に成形するようにしている。
【0006】
更に、2回目の鍛造においては、中間品の下端部分を外側に拡げるような鍛造を行うことにより、半完成品の弁傘部を成形するようにしており、このような鍛造を実施するためには、コップ状の中間品の中空孔に中子を挿入した状態で、成型しなくてはならない。そして、このように、中子を挿入した状態で成型する場合には、中間品の下側部分を外側に拡げる過程の中で、中子を、1回目の鍛造によって成形された中間品の中空孔に挿入する必要があるため、必然的に、中子の外径は中間品における中空孔の内径よりも小径となる。これにより、中子の外径が中間品における中空孔の内径よりも小径となる分、その中空孔内に段差が生じるおそれがある。
【0007】
特に、弁本体の半完成品を熱間鍛造によって成形する場合には、そのような段差が生じ易くなる。そして、その段差は、次工程となるネッキング加工時において、絞り上げ不良を招くものとなるだけでなく、中空エンジンバルブの使用時において、応力集中を受ける強度低下部となってしまう。
【0008】
また、ネッキング加工よって成形される弁本体の中空軸部(中空孔)の内径は、ネッキング加工開始時における半完成品の中空軸部(中空孔)の内径から、その設定範囲がある程度決まってしまう。更に、ネッキング加工時においては、半完成品における中空軸部の肉厚が単調に増加するため、完成品としての弁本体における中空軸部の肉厚は、ネッキング加工開始時における半完成品の中空軸部の肉厚から、その設定範囲がある程度決まってしまう。これにより、従来の製造方法では、任意の寸法の弁本体(中空エンジンバルブ)を製造することが困難となっている。
【0009】
従って、本発明は上記課題を解決するものであって、製造工程の簡素化及び加工精度の向上を図ることができる中空エンジンバルブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する第1の発明に係る中空エンジンバルブの製造方法は、
弁傘部と当該弁傘部に接続する中空軸部とに亘って中空孔が形成された弁本体を備える中空エンジンバルブの製造方法において、
前記弁本体の素材となる中実丸棒を、1回の熱間鍛造によって、前記弁傘部に対応した半完成品弁傘部と前記中空軸部に対応した半完成品中空軸部とに亘って形成される前記中空孔に対応した半完成品中空孔に、中子の挿入による段差を生じさせることなく、弁本体半完成品に成形し、
前記弁本体半完成品に対して、前記弁本体半完成品を回転させながら、前記半完成品中空軸部の外周面を押圧するロータリスエージング加工を行うことにより、前記半完成品中空軸部の径を縮径すると共に、前記半完成品中空軸部の軸長を長くし、
ロータリスエージング加工後の前記弁本体半完成品に対して、前記半完成品中空軸部と、前記半完成品弁傘部と前記半完成品中空軸部との間の接続部分となる半完成品首部とを、段階的に絞り上げるネッキング加工を行うことにより、前記半完成品中空軸部の径を縮径すると共に、前記半完成品中空軸部の軸長を長くして、当該弁本体半完成品を前記弁本体に成形し、
前記弁本体における前記中空軸部の端部に、前記中空孔を封止するように軸端封止部材を接合する
ことを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決する第2の発明に係る中空エンジンバルブの製造方法は、
前記半完成品弁傘部内における前記半完成品中空孔の下端に、内径が前記半完成品中空孔の内径よりも大径となる半完成品拡径孔部を加工する
ことを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する第3の発明に係る中空エンジンバルブの製造方法は、
ネッキング加工前に、前記半完成品首部が所定の肉厚となるように、当該半完成品首部を加工する
ことを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する第4の発明に係る中空エンジンバルブの製造方法は、
冷媒用の金属ナトリウムを前記中空孔内に入れた後、前記軸端封止部材を前記中空軸部の端部に接合する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
従って、本発明に係る中空エンジンバルブの製造方法によれば、弁本体の素材となる中実丸棒を、1回の熱間鍛造によって、弁本体半完成品に成形し、この弁本体半完成品を、ロータリスエージング加工及びネッキング加工によって、完成品としての弁本体に成形することにより、製造工程の簡素化及び加工精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施例に係る中空エンジンバルブの製造方法により製造される中空エンジンバルブの縦断面図である。
図2】(a)〜(f)は中実丸棒を弁本体に成形するまでの過程を順に示した図である。
図3】熱間鍛造用プレス金型の概略構成図であって、(a)〜(d)は中実丸棒を半完成品に成形するまでの動作を順に示した図である。
図4】半完成品の中空孔に対する切削加工の様子を示した図である。
図5】ロータリスエージング加工装置の概略構成図であって、(a)はその平面図、(b)はその側面図である。
図6】半完成品の首部に対する切削加工の様子を示した図である。
図7】ネッキング加工装置の概略構成図であって、半完成品を弁本体に成形するまでの動作を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る中空エンジンバルブの製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
図1に示すように、本発明に係る製造方法によって製造される中空エンジンバルブ1は、車両等のエンジンにおいて、吸気バルブまたは排気バルブとして使用されるものであって、中空軸状の弁本体10と軸状の軸端封止部材20とから構成されている。そして、弁本体10と軸端封止部材20とは、互いの軸端間で接合されている。
【0018】
また、図1及び図2(f)に示すように、弁本体10は、傘状の弁傘部10a及び中空軸状の中空軸部10bを有しており、その弁本体10の内部には、中空孔10cが、弁傘部10aと中空軸部10bとに亘って、当該弁傘部10a及び中空軸部10bの外形形状に沿うように形成されている。そして、中空孔10c内には、冷媒用の金属ナトリウムNが封入可能となっている。
【0019】
更に、弁傘部10a内における中空孔10cの下端には、拡径孔部10dが形成されており、この拡径孔部10dの最大内径d2は、中空孔10cの内径よりも大径となっている。そして、弁傘部10aと中空軸部10bとの間には、首部10eが形成されている。
【0020】
なお、弁本体10及び軸端封止部材20の材質は、例えば、耐熱鋼となるSUH1,SUH3、SUH11、SUH35、SUH38等を採用することができる。
【0021】
次に、中空エンジンバルブ1の製造方法について、図1乃至図7を用いて詳細に説明する。
【0022】
ここで、図2(a)〜(f)に示すように、弁本体10は、その素材となる中実丸棒11を熱間鍛造することにより成形された半完成品12に対して、弁傘部12a内の中空孔12cへの切削加工、中空軸部12bへのロータリスエージング加工(冷間鍛造加工)、首部13eへの切削加工(旋削加工)、及び、中空軸部13b及び首部13eへのネッキング加工(絞り上げ加工)を順次行うことにより、その形状を半完成品12の形状から半完成品13の形状に変えた後、最終的に成形されるものである。なお、上記ネッキング加工は、原則として、加工精度の観点から、半完成品13を常温に保持した状態の冷間鍛造とすることが望ましいが、素材の加工性に応じて、半完成品13を加熱した状態の鍛造としても構わない。
【0023】
先ず、図2(a),(b)及び図3(a)〜(d)に示すように、予め所定の形状に形成された中実丸棒11を、熱間鍛造用のプレス金型40を用いて、半完成品12に成形する。
【0024】
図3(a)に示すように、プレス金型40は、円柱状の上型(パンチ)41と円筒状の下型42とから構成されている。このうち、下型42は、ダイブロック51、フローティングダイ52、及び、シリンダブロック53から構成されており、ダイブロック51の上部及び下部には、フローティングダイ52及びシリンダブロック53が、それぞれ設けられている。
【0025】
ダイブロック51の中心部には、円筒状の収容部51aが、そのダイブロック51を上下方向に貫通するように形成されており、更に、この収容部51a内には、中子54が、その収容部51aを上下方向に貫通するように配置されている。このとき、中子54は、収容部51aとシリンダブロック53の上面と間で、その軸方向(上下方向)への移動が規制されるように支持されている。
【0026】
また、収容部51a内には、円筒状のノックアウトピン55が配置されており、このノックアウトピン55の中空孔55a内には、中子54が挿入されている。そして、ノックアウトピン55の下端には、フランジ部55bが形成されており、このフランジ部55bは、収容部51a内において、上下方向に摺動可能に支持されている。
【0027】
更に、収容部51aの内周面とノックアウトピン55の外周面との間には、複数のばね56が設けられている。これらばね56は、フローティングダイ52の下面とノックアウトピン55のフランジ部55bとの間において、圧縮状態で介在されている。
【0028】
そして、フローティングダイ52の中心部には、キャビティ52aが、そのフローティングダイ52を上下方向に貫通するように形成されている。このキャビティ52aの中心部には、中子54の上端が配置されており、当該中子54の径方向外側に配置されるノックアウトピン55の上端は、そのキャビティ52aの下方から、当該キャビティ52a内に出没可能となっている。
【0029】
また、フローティングダイ52の外周部には、複数のピン摺動孔52bが、その周方向に沿って設けられており、これらピン摺動孔52bは、フローティングダイ52を上下方向に貫通するように形成されている。更に、ピン摺動孔52b内には、摺動ピン57が摺動可能に支持されており、この摺動ピン57の下端は、ダイブロック51の上部に固定されている。
【0030】
一方、シリンダブロック53の中心部には、シリンダ部53aが形成されており、このシリンダ部53a内には、ピストン部材58が上下方向に摺動可能に支持されている。そして、ピストン部材58の上端は、シリンダブロック53の上部及びダイブロック51の下部を貫通して、収容部51a内におけるフランジ部55bの下面を押圧可能となっている。
【0031】
従って、中実丸棒11をプレス金型40を用いて半完成品12に成形する場合には、先ず、図3(a)に示すように、下型42を下限位置に下降させた後、そのキャビティ52a内に配置された中子54の上端面に、所定の温度に加熱した中実丸棒11を載置する。
【0032】
なお、中実丸棒11は、熱間鍛造前において、例えば、950〜1200℃の温度で、予め加熱されている。また、その温度範囲内で加熱された中実丸棒11を中子54の上端面に載置した場合には、当該中実丸棒11は、その上半分以上がキャビティ52a内からその上方に突出した状態となっている。
【0033】
更に、上記熱間鍛造開始時(プレス金型40の可動開始時)においては、ピストン部材58は、シリンダ部53a内において、下限位置に位置決めされているため、ノックアウトピン55も、収納部51a内において、下限位置に配置されている。これにより、ダイブロック51の上面とフローティングダイ52の下面とは密着している。
【0034】
次いで、図3(b)に示すように、下型42を、下限位置から上型41に当接するまで、上昇させる。これにより、中実丸棒11は、上型41によって、中子54の上端を覆うように、キャビティ52a内の下方に向けて押し込まれる。即ち、中実丸棒11は、上型41、キャビティ52a、及び、中子54によって囲まれた空間内に、充填されることにより、半完成品12に成形される。
【0035】
そして、図3(c)に示すように、下型42を下限位置に下降させた後、ピストン部材58を上方に移動させる。これにより、ノックアウトピン55のフランジ部55bがピストン部材58によって上方に向けて押圧されるため、フローティングダイ52は、ばね56の付勢力によって、ダイブロック51から上昇して離間する。このとき、フローティングダイ52が所定の上昇量に到達すると、そのピン摺動孔52bと摺動ピン57とが当接することになり、そのフローティングダイ52の上昇が規制される。
【0036】
次いで、図3(d)示すように、更に、ピストン部材58を上方に移動させると、ノックアウトピン55のみがばね56の付勢力に抗して上昇する。これにより、フローティングダイ52のキャビティ52a内に嵌め込まれていた半完成品12が、ノックアウトピン55により、上方に押圧される。即ち、キャビティ52a内で成形された半完成品12は、ノックアウトピン55による下方からの押圧力によって、中子54から外れて、そのキャビティ52a内から外方へ弾き出される。
【0037】
このように、中実丸棒11の熱間鍛造をプレス金型40によって行うことにより、中実丸棒11を1回の鍛造によって半完成品12に成形することができる。このとき、図2(b)に示すように、成形された半完成品12における中空孔12cの内径は、d1に形成されている。
【0038】
また、中実丸棒11を1回の鍛造によって半完成品12に成形することにより、上述したような、中実丸棒を2回の鍛造によって半完成品に成形する際に形成される段差の発生を、防止することができる。これにより、鍛造工程の簡素化を図ることができるだけでなく、弁本体10(中空エンジンバルブ1)の強度も向上させることができる。
【0039】
更に、プレス金型40の下型42においては、フローティングダイ52をばね56によって浮上させるフローティング構造を採用しているため、ばね56の付勢力を調整することにより、プレス速度(下型42の移動速度)を調整することができる。これにより、中実丸棒11を半完成品12に成形する際には、背圧を発生させながら成形する金型を用いたときと同じような作用が発揮されるため、半完成品12における弁傘部12a側と中空軸部12b側とに、中実丸棒11を十分に分流させることができる。この結果、フローティング構造を採用したプレス金型40によって成形された半完成品12は、フローティング構造を有しないプレス金型によって成形されたものに比べて、その成形性が大幅に向上することになる。
【0040】
続いて、図2(b),(c)及び図4に示すように、熱間鍛造により得られた半完成品12の中空孔12cに対して、切削工具60を用いて切削加工を行う。
【0041】
具体的には、図4に示すように、先ず、切削工具60を準備する。この切削工具60は、軸状の工具本体61と、この工具本体61の先端に設けられる複数の切れ刃62とから構成されている。また、切れ刃62は、工具本体61の径方向外側に向けて出没可能に支持されている。
【0042】
次いで、切削工具60の先端側を、半完成品12の中空孔12c内に挿入した後、当該切削工具60を回転させながら、その工具回転軸方向に移動させると共に、切れ刃62を、その工具径方向外側に向けて徐々に移動させる。これにより、中空孔12cの下端が切れ刃62によって切削され、その下端に拡径孔部12dが形成される。
【0043】
このとき、図2(c)及び図4に示すように、拡径孔部12dは、その内径が、底面に向かうに従って、漸次増大するように形成されており、その拡径孔部12dの最大内径d2は、中空孔12cの内径d1よりも大径となっている。
【0044】
即ち、図2(b)に示すように、熱間鍛造後の半完成品12においては、弁傘部12a、中空軸部12b、弁傘部12aと中空軸部12bとに亘る中空孔12c、及び、弁傘部12aと中空軸部12bとの接続部分となる首部12eが形成されることになる。更に、図2(c)に示すように、切削加工後の半完成品12においては、弁傘部12a内における中空孔12cの下端に、拡径孔部12dが形成されることになる。
【0045】
つまり、半完成品12における弁傘部(半完成品弁傘部)12a、中空軸部(半完成品中空軸部)12b、中空孔(半完成品中空孔)12c、拡径孔部(半完成品拡径孔部)12d、及び、首部(半完成品首部)12eは、完成品としての弁本体10における弁傘部10a、中空軸部10b、中空孔10c、拡径孔部10d、及び、首部10eに対応したものとなっている。
【0046】
続いて、図2(c),(d)及び図5(a),(b)に示すように、切削加工により得られた半完成品12を、冷間鍛造用のロータリスエージング加工装置70を用いて、半完成品13に成形する。
【0047】
図5(a),(b)に示すように、ロータリスエージング加工装置70は、回転テーブル71、中子72、及び、ダイス73a,73bから構成されている。
【0048】
回転テーブル71は、その中心軸周りに回転可能に支持されており、その上面には、半完成品12が装着可能となっている。また、中子72は、回転テーブル71の上方において、当該回転テーブル71と同軸上に配置されると共に、その中心軸周りに回転可能で、且つ、その中心軸方向に移動可能に支持されている。なお、中子72の外径は、半完成品12における中空孔12cの内径d1よりも小径となっている。
【0049】
更に、ダイス73a,73bは、回転テーブル71及び中子72の中心軸を中心として対向配置されている。そして、このように対向配置されたダイス73a,73bの各組においては、回転テーブル71及び中子72(半完成品12)の径方向において、互いに接近離間するように支持されており、ダイス73a,73bの先端面は、ロータリスエージング加工後の半完成品13における中空軸部13bの外周面に沿うような、曲面に形成されている。
【0050】
従って、半完成品12をロータリスエージング加工装置70を用いて半完成品13に成形する場合には、図5(a),(b)に示すように、先ず、回転テーブル71上に半完成品12を装着した後、中子72をその半完成品12の中空孔12c内に挿入する。次いで、回転テーブル71と中子72とを同じ方向に回転させ、中子72と半完成品12とを同期回転させる。そして、ダイス73a,73bを、回転する半完成品12における中空軸部12bの外周面に押圧させる。
【0051】
これにより、半完成品12は、中空軸部12bの外径が縮径されると共に、中空軸部12bの軸長が長くなるように変形して、半完成品13に成形される。このとき、図2(d)に示すように、半完成品13における拡径孔部13dの最大内径は、d2のままとなっている。
【0052】
即ち、ロータリスエージング加工装置70によるロータリスエージング加工を、後述する、ネッキング加工装置90によるネッキング加工前に行うことにより、ネッキング加工前に、半完成品12の中空軸部12bを半完成品13の中空軸部13bに予備的に成形することができるので、その中空軸部13bを任意の寸法に容易に制御することができる。また、中子72の外径及びダイス73a,73bにおける先端面の曲率を、任意の寸法に設定することにより、半完成品13における中空軸部13bの肉厚を、均一にすることができるだけでなく、半完成品12における中空軸部12bの肉厚に比べて、厚くしたり、薄くしたりするように、中空軸部13bの肉厚を容易に制御することができる。なお、半完成品13の寸法によっては、中子72を使用しないロータリスエージング加工としても構わない。
【0053】
続いて、図2(d),(e)及び図6に示すように、ロータリスエージング加工により得られた半完成品13の首部13eに対して、バイト80を用いて切削加工を行う。
【0054】
具体的には、図6に示すように、旋削盤(図示省略)に取り付けた半完成品13を、その軸心周りに回転させながら、当該半完成品13における首部13eの外周面を、旋削盤に装着されたバイト80によって切削する。これにより、首部13eの外周面は、当該首部13eの肉厚が所定の肉厚となるようなR形状となる。
【0055】
そして、上述したように、半完成品13における首部13eの外周面を切削して、当該首部13eの肉厚を所定の肉厚に形成することにより、後述する、ネッキング加工装置90によるネッキング加工時において、首部13eの内周面がその内側に向けて膨出することを防止することができる。
【0056】
即ち、図2(d)に示すように、ロータリスエージング加工後の半完成品13においては、弁傘部13a、中空軸部13b、弁傘部13aと中空軸部13bとに亘る中空孔13c、弁傘部13a内における中空孔13cの下端に配置される拡径孔部13d、及び、弁傘部13aと中空軸部13bとの接続部分となる首部13eが形成されることになる。更に、図2(e)に示すように、切削加工後の半完成品13においては、首部13eの肉厚調整が行われることになる。
【0057】
つまり、半完成品13における弁傘部(半完成品弁傘部)13a、中空軸部(半完成品中空軸部)13b、中空孔(半完成品中空孔)13c、拡径孔部(半完成品拡径孔部)13d、及び、首部(半完成品首部)13eは、完成品としての弁本体10における弁傘部10a、中空軸部10b、中空孔10c、拡径孔部10d、及び、首部10eに対応したものとなっている。
【0058】
続いて、図2(e),(f)及び図7に示すように、切削加工により得られた半完成品13を、冷間鍛造用または温間鍛造用のネッキング加工装置90を用いて、弁本体10に成形する。
【0059】
図7に示すように、ネッキング加工装置90は、半完成品13の中空軸部13b及び首部13eを段階的に絞り上げて、最終的に、半完成品13を弁本体10に成形するものである。そして、そのネッキング加工装置90の下部には、ベッド91が設けられると共に、このベッド91の上部には、可動台92が昇降可能に支持されている。
【0060】
また、可動台92の下面には、筒状のn個のダイスD1,D2,…D(m−1),Dm,…D(n−1),Dnが、半完成品13の搬送方向に沿って設けられている。但し、添え字mはm番目を示し、添え字nはn番目(最後)を示しており、m及びnは、m<nで、且つ、いずれも3を超える正の整数となっている。
【0061】
更に、ダイスD1,D2,D(m−1),Dm,D(n−1),Dnの中央部には、円形断面をなす成形孔M1,M2,M(m−1),Mm,M(n−1),Mnが、それぞれ下方に向けて開口されている。そして、成形孔M1,M2,M(m−1),Mm,M(n−1),Mnの内径は、搬送方向下流側に配置されるに従って、漸次小径となるように形成されている。
【0062】
一方、ベッド91の上面には、半完成品13及び弁本体10が、搬送手段(図示省略)によって、成形孔M1,M2,M(m−1),Mm,M(n−1),Mnに対応した位置に、搬送及び位置決め可能となっている。
【0063】
従って、半完成品13をネッキング加工装置90を用いて弁本体10に成形する場合には、図7に示すように、先ず、半完成品13を、ベッド91上における搬送方向最上流側の所定位置に載置する。次いで、上記搬送手段の搬送動作及び位置決め動作と、可動台92の昇降動作とを、交互に行って、ダイスD1,D2,D(m−1),Dm,D(n−1),Dnによるn回のネッキング加工を行う。これにより、半完成品13は、例えば、その形状を半完成品13A,13B,13Cの形状に変えながら、最終的に、完成品としての弁本体10に成形される。
【0064】
このとき、半完成品13から、半完成品13A〜13Cを介して、弁本体10に成形される過程においては、中空軸部13bの外径及び中空孔13cの内径が徐々に縮径されると共に、中空軸部13bの軸長が徐々に長くなるだけでなく、外周面が所定のR形状となる首部13eが、その肉厚を徐々に変えながら、最終的に、所定の肉厚の首部10eに変形する。
【0065】
また、半完成品13,13A〜13Cの弁傘部13aは、成形孔M1,M2,M(m−1),Mm,M(n−1),Mn内に接触しないため、当該半完成品13,13A〜13Cの拡径孔部13d及び弁本体10の拡径孔部10dにおける最大内径は、d2のままとなっている。
【0066】
続いて、図1に示すように、ネッキング加工により得られた弁本体10の中空孔10c内に、金属ナトリウムNを注入した後、軸端封止部材20をその中空孔10cを塞ぐように中空軸部10bの端部に接合する。これにより、中空エンジンバルブ1を得ることができる。
【0067】
なお、上述した実施形態では、熱間鍛造後の半完成品12に対して、中空孔12cへの切削加工を行って、拡径孔部12dを形成するようにしているが、ロータリスエージング加工後の半完成品13や、首部13eへの切削加工後の半完成品13に対して、中空孔13cへの切削加工を行って、拡径孔部13dを形成するようにしても構わない。
【0068】
また、上述した実施形態では、弁本体10の製造方法として、半完成品12に対して、弁傘部12a内の中空孔12cへの切削加工、中空軸部12bへのロータリスエージング加工、首部13eへの切削加工、及び、中空軸部13b及び首部13eへのネッキング加工を順次行うようにしているが、中空エンジンバルブ1のバルブ特性に応じて、弁傘部12a内の中空孔12cへの切削加工、及び、首部13eへの切削加工を除いた製造方法としても構わない。
【0069】
更に、中空エンジンバルブ1においては、その使用環境に応じて、金属ナトリウムNを入れなくても構わない。
【0070】
従って、本発明に係る中空エンジンバルブ1の製造方法によれば、弁本体10の素材となる中実丸棒11を、1回の熱間鍛造によって、半完成品12に成形した後、この弁本体半完成品12を、半完成品13を介して、完成品としての弁本体10に成形することにより、製造工程の簡素化及び加工精度の向上を図ることができる。
【0071】
また、ロータリスエージング加工において、中子72を半完成品12の中空孔12c内に挿入した状態で、その中空軸部12bの外周面をダイス73a73bによって押圧することにより、当該中空軸部12b(中空軸部13b)の肉厚を均一にすることができる。更に、熱間鍛造中に発生した中空孔12cにおける内周面の傷や打痕を除去することができるので、中空エンジンバルブ1に金属ナトリウムNを封入した場合には、その金属ナトリウムNの流動性を向上させることができる。これにより、中空エンジンバルブ1における熱伝導性を向上させることができる。
【0072】
更に、軽量化及び熱伝導性の向上を図ることを目的とした弁本体10の拡径孔部10dを、半完成品12の成形時において、予め、拡径孔部12dとして形成させることにより、中空孔12cの内径が中空孔10cの内径よりも大径となる分、拡径孔部12dを容易に加工することができる。
【0073】
また更に、ネッキング加工前に、半完成品13における首部13eの外周面を、所定のR形状となるように切削して、当該首部13eの肉厚調整を行うことにより、ネッキング加工時において、半完成品13(半完成品13A〜13C)の首部13eの肉厚調整を容易に行うことができる。これにより、弁本体10における首部10eの肉厚を、所定の肉厚に容易に形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係る中空エンジンバルブの製造方法によれば、軽量で、且つ、耐熱性に優れた中空エンジンバルブを容易に製造することができるため、例えば、自動車産業等において有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 中空エンジンバルブ
10 弁本体
12,13 半完成品
10a,12a,13a 弁傘部
10b,12b,13b 中空軸部
10c,12c,13c 中空孔
10d,12d,13d 拡径孔部
10e,12e,13e 首部
11 中実丸棒
20 軸端封止部材
40 プレス用金型
41 上型
42 下型
51 ダイブロック
52 フローティングダイ
53 シリンダブロック
54 中子
55 ノックアウトピン
56 ばね
57 摺動ピン
58 ピストン部材
60 切削工具
61 工具本体
62 切れ刃
70 ロータリスエージング加工装置
71 回転テーブル
72 中子
73a,73b ダイス
80 バイト
90 ネッキング加工装置
91 ベッド
92 可動部
D ダイス
M 成形孔
N 金属ナトリウム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7