特許第5950501号(P5950501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5950501累進屈折力レンズの設計方法及び累進屈折力レンズ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5950501
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】累進屈折力レンズの設計方法及び累進屈折力レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/06 20060101AFI20160630BHJP
【FI】
   G02C7/06
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-62514(P2011-62514)
(22)【出願日】2011年3月22日
(65)【公開番号】特開2012-198384(P2012-198384A)
(43)【公開日】2012年10月18日
【審査請求日】2014年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】313001099
【氏名又は名称】イーエイチエス レンズ フィリピン インク
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100090136
【弁理士】
【氏名又は名称】油井 透
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 歩
【審査官】 小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第97/019383(WO,A1)
【文献】 特開2000−227579(JP,A)
【文献】 特開2004−004436(JP,A)
【文献】 特開2010−096854(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0123049(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 − 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠用領域及び近用領域と、眼球側の屈折面である内面と物体側の屈折面である外面と、
を有し前記内面と前記外面とにそれぞれ累進領域が形成された累進屈折力レンズの設計方法であって、
前記外面の前記遠用領域の面屈折力に対する前記近用領域の面屈折力の差である外面加入度をα、前記内面の前記遠用領域の面屈折力に対する前記近用領域の面屈折力の差である内面加入度をβ、装用者の処方に基づく処方加入度をADDとすると、
α<0 ……(1)
β>ADD ……(2)
の関係を満たし、
前記遠用領域にはマイナスの度数が設定され、前記近用領域にはプラスの度数が設定されることを特徴とする累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項2】
遠用領域及び近用領域と、眼球側の屈折面である内面と物体側の屈折面である外面と、
を有し前記内面と前記外面とにそれぞれ累進領域が形成された累進屈折力レンズであって、
前記外面の前記遠用領域の面屈折力に対する前記近用領域の面屈折力の差である外面加入度をα、前記内面の前記遠用領域の面屈折力に対する前記近用領域の面屈折力の差である内面加入度をβ、装用者の処方に基づく処方加入度をADDとすると、
α<0 ……(1)
β>ADD ……(2)
の関係を満たし、
前記遠用領域の度数はマイナスであり、前記近用領域の度数はプラスであることを特徴とする累進屈折力レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼球側の内面と物体側の外面とにそれぞれ累進領域が形成された累進屈折力レンズの設計方法及び累進屈折力レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズには単焦点レンズの他に、累進屈折力レンズがある。この累進屈折力レンズは、遠方視に対応する面屈折力(度数)を持つ遠用領域と、近方視に対応する面屈折力を持つ近用領域と、これらの遠用領域と近用領域との間に設けられた累進領域と、この累進領域の両側に設けられた中間側方領域とを備えている。
【0003】
この累進屈折力レンズには、累進領域が内面に形成される内面累進屈折力レンズ、累進領域が外面に形成される外面屈折力累進レンズ、さらには、累進領域が内面と外面との双方に形成される両面累進屈折力レンズがある。
両面累進屈折力レンズの従来例として、累進屈折力レンズに必然的に生じる像の歪みやボケを減少させ、装用感を向上させるために、外面と内面の両面を累進面とする両面累進レンズとするとともに、外面の平均面屈折力が遠用領域から近用領域にかけて連続的に減少しているものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−4436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で示される従来例では、外面と内面の両面を累進面とする両面累進レンズにおいて、外面の平均面屈折力が遠用領域から近用領域にかけて連続的に減少する。つまり、外面の加入度をマイナスにすることにより、近用領域の倍率差を小さくして、歪みを減少させている。
しかしながら、装用感を向上させるために、遠用領域を見た遠方視と近用領域を見た近方視との倍率を1に近づけることが好ましいが、特許文献1の従来例では、この倍率比を1に近づけるには十分ではない。
【0006】
本発明の目的は、遠用領域と近用領域との倍率比を1に近づけて装用感を良好にできる累進屈折力レンズの設計方法及び累進屈折力レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の累進屈折力レンズの設計方法は、遠用領域及び近用領域と、眼球側の屈折面である内面と物体側の屈折面である外面と、を有し前記内面と前記外面とにそれぞれ累進領域が形成された累進屈折力レンズの設計方法であって、前記外面の前記遠用領域の面屈折力に対する前記近用領域の面屈折力の差である外面加入度をα、前記内面の前記遠用領域の面屈折力に対する前記近用領域の面屈折力の差である内面加入度をβ、装用者の処方に基づく処方加入度をADDとすると、α<0……(1)、β>ADD……(2)の関係を満たすことを特徴とする。
本発明の累進屈折力レンズは、遠用領域及び近用領域と、眼球側の屈折面である内面と物体側の屈折面である外面と、を有し前記内面と前記外面とにそれぞれ累進領域が形成された累進屈折力レンズであって、前記外面の前記遠用領域の面屈折力に対する前記近用領域の面屈折力の差である外面加入度をα、前記内面の前記遠用領域の面屈折力に対する前記近用領域の面屈折力の差である内面加入度をβ、装用者の処方に基づく処方加入度をADDとすると、α<0……(1)、β>ADD ……(2)の関係を満たすことを特徴とする。
内面が球面(内面の遠用領域の面屈折力に対する近用領域の面屈折力の差が0)であって、外面に累進領域が形成された外面累進レンズでは、β=0、α=ADDであり、外面が球面(外面の遠用領域の面屈折力に対する近用領域の面屈折力の差が0)であって、内面に累進領域が形成された内面累進レンズでは、α=0、β=ADDである。
本発明では、内面と外面との双方に累進領域を形成するにあたり、β>ADDとするとともに、α<0、とすることで、遠用領域と近用領域との倍率比を1に近づけることにした。倍率比が1に近づくことで、裸眼との差が少なくなり、装用感が向上する。
【0008】
本発明では、前記遠用領域にはマイナスの度数が設定され、前記近用領域にはプラスの度数が設定される構成が好ましい。
この構成の本発明では、遠用領域と近用領域とのそれぞれの倍率が1に近くなり、遠用領域と近用領域との双方において、裸眼との差がより少なくなり、装用感がより向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態にかかる累進屈折力レンズの正面の概略図。
図2】累進屈折力レンズの断面図。
図3】レンズ遠用度数と近用に対する遠用の倍率比とを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1から図3には本実施形態が示されている。
図1には本実施形態にかかる累進屈折力レンズ1の正面の概略構成が示されている。
図1において、累進屈折力レンズ1は、遠方視に対応する屈折力を持つ遠用領域11と、近方視に対応する屈折力を持つ近用領域12と、これらの遠用領域11と近用領域12との間に設けられた累進領域13と、この累進領域13の両側に設けられた中間側方領域14とを備え、遠方と近方との双方を見るための非球面レンズである。
本実施形態では、遠用領域11にはマイナスの度数が設定され、近用領域12にはプラスの度数又はマイナスの度数が設定される。
ここで、遠用領域11は、中距離または近距離を視認する屈折力を持つ領域であってもよい。また、近用領域12は、遠用領域11の屈折力よりも大きい屈折力を有する領域であれば良く、中距離または近距離を視認する屈折力を持つ領域であってもよい。
【0011】
遠用領域11、累進領域13及び近用領域12のほぼ中央には主子午線Aが形成されている。この主子午線Aは、主注視線とも称されるものであり、眼鏡装用者が正面上方から正面下方にある物体を見た場合に視線が通過するレンズ上の仮想線である。
主子午線Aは、遠用領域11では鉛直に沿っており、近用領域12では近方視の時の輻輳により鼻側に寸法Bだけ内寄せ(インセット)している。
遠用領域11の主子午線Aの上には、遠用測定領域の中心である遠用測定ポイントDPが設けられ、遠用領域11での等価球面度数が設定される。
近用領域12の主子午線Aの上には、近用測定領域の中心である近用測定ポイントNPが設けられ、近用領域12での等価球面度数が設定される。
主子午線Aの上には原点としてフィッティングポイントFPが設定される。
累進領域13において累進開始点PSと累進終了点PEとの間の上下に沿った長さが累進帯長Pとされる。
【0012】
図2には、累進屈折力レンズ1の側面が示されている。
図2において、累進屈折力レンズ1は、眼球Eに対向する屈折面である内面1iと物体側の屈折面である外面1oとを有する。内面1iは、遠用領域11に対応する内面11iと、近用領域12に対応する内面12iと、累進領域13に対応する内面13iとを有する。外面1oは、遠用領域11に対応する外面11oと、近用領域12に対応する外面12oと、累進領域13に対応する外面13oとを有する。
外面1oの遠用領域11の面屈折力に対する近用領域12の面屈折力の差である外面加入度をα、内面1iの遠用領域11の面屈折力に対する近用領域12の面屈折力の差である内面加入度をβ、装用者の処方に基づく処方加入度をADDとすると、
本実施形態では、
α<0 ……(1)
β>ADD ……(2)
の関係が成り立つ。
この関係を成立させるために、本実施形態では、外面が円とされた内面累進レンズに対して遠用領域11の形状を変更し、あるいは、近用領域12の形状を変更する。
【0013】
図2には、本実施形態の累進屈折力レンズ1の断面が示されている。なお、図2では、図の内容をわかりやすくするために、断面を示すハッチングの図示が省略されている。
図2(A)には、外面1oの断面が球面とされた内面累進レンズに対して遠用領域11の形状を変更した例が示されている。
図2(A)において、外面1oの断面が球面とされた内面累進レンズの断面形状が想像線として図示されており、この想像線で示された断面形状に対して、実線で示される通り、遠用領域11の外面11oと内面11iとの曲率を変更したものが本実施形態である。つまり、内面累進レンズでは、外面1oの遠用領域11の面屈折力(ベースカーブ)をP11oとし、近用領域12の面屈折力(ベースカーブ)をP12oとし、遠用領域11の内面11iの面屈折力をP11iとし、近用領域12の内面12iの面屈折力をP12iとすると、P11o=P12oであって、α=0であり、β=ADDであるが、本実施形態では、P12o<P11oとしてα<0とし、面屈折力P11iを遠用領域11の内面11iの面屈折力P11iより大きくしてβ>ADDとする。
例えば、内面累進レンズでの面屈折力P11o,P12oを4、面屈折力P11iを5、面屈折力P12iを3とすると、α=0、β=ADD=2であるが、本実施形態では、遠用領域11の外面11oの面屈折力P11oを5、内面12iの面屈折力P11iを6とし、近用領域12の外面12oの面屈折力P12oを内面累進レンズと同じ4とし、内面12iの面屈折力P12iを3とすると、α=4−5=−1、β=2+1=3>ADD=2、となる。なお、面屈折力の設定位置は遠用測定ポイントDPや近用測定ポイントNPでもよいが、これらのポイントの近傍でもよい。
【0014】
図2(B)には、外面1oの断面が球面とされた内面累進レンズに対して近用領域12の形状を変更した例が示されている。
図2(B)において、本実施形態は、内面累進レンズの想像線で示された近用領域12の外形形状に対して、実線で示される通り、近用領域12の外面12oと内面12iとの曲率を変更したものである。つまり、遠用領域11の外面11oの面屈折力をP11oとし、近用領域12の外面12oの面屈折力をP12oとし、遠用領域11の内面11iの面屈折力をP11iとし、近用領域12の内面12iの面屈折力をP12iとすると、P11o=P12oである内面累進レンズに対して、本実施形態では、P12o<P11oとし、面屈折力P11iを内面累進レンズの近用領域12の面屈折力P12iより小さくして、α<0、β>ADDとする。
例えば、内面累進レンズでの面屈折力P11o,P12oを4、面屈折力P11iを5、面屈折力P12iを3とすると、本実施形態では、面屈折力P12oを3、面屈折力P12iを2とし、面屈折力P11oを内面累進レンズと同じ4とし、面屈折力P11iを5とし、これにより、α=3−4=−1、β=2+1=3>ADD=2、となる。
【0015】
次に、本実施形態の累進屈折力レンズ1の設計方法について具体的に説明する。
[実施例1]
実施例1は、レンズの屈折率nを1.662とし、眼球側の面の頂点(内側頂点)から眼球までの距離である頂間距離Lを12mmとし、レンズの中心厚tを2.0mmとした。
遠用領域11の外面11oの面屈折力P11oであるベースカーブを4.0(D)とし、近用領域12における面屈折力をP12oであるベースカーブを2.5(D)として、α=−1.5とした。さらに、遠用領域11の設定度数を−1.00(D)とし、近用領域12の設定度数を1.00(D)とした。ADDは2.00(D)であり、βは3.5(>ADD)である。
【0016】
以上の条件において、レンズの倍率SMを求める。このレンズの倍率SMは、次の式で表される。
SM=MP×MS ……(3)
ここで、MPはパワー・ファクター、MSはシェープ・ファクターと呼ばれる。
L:頂間距離
Po:設定度数
Pb:ベースカーブ
とすると、遠用領域11、近用領域12それぞれでPb,Poの値を用いて計算を行う。
遠用領域11では、 Pb=4.00 Po=−1.00
近用領域12では、 Pb=2.50 Po=1.00
になる。
レンズの中心厚をt、レンズの屈折率をnとすると以下のように表される。
MP=1/(1−L×Po) ……(4)
MS=1/(1−(t×Pb)/n)……(5)
なお、式(4)及び(5)の計算にあたっては、内側頂点屈折力Po及び物体側の面の面屈折力Pbについてはディオプトリ(D)を、また、この数式において、頂間距離L及びレンズの中心厚tについては、メートル(m)を用いる。
以上の式から、遠用領域11におけるMSは1.005であり、MPは0.988であり、倍率SMは0.993である。近用領域12におけるMSは1.003であり、MPは1.012であり、倍率MSは1.015である。ここで、遠用領域11の倍率の近用領域12の倍率に対する比を倍率比とすると、実施例1の倍率比は97.81%である。
【0017】
[比較例1]
比較例1は実施例1を設計する前提となる内面累進レンズの例である。比較例1は、遠用領域11の外面11oのベースカーブを2.5(D)とし、近用領域12におけるベースカーブを2.5(D)として、α=0とし、さらに、β=ADD=2.00(D)とした点は実施例1とは相違するが、他の条件は実施例1と同じである。
以上の条件において、式(3)〜(5)に基づいて、MS、MP、SMを求めると、遠用領域11におけるMSは1.003であり、MPは0.988であり、倍率SMは0.991である。近用領域12におけるMSは1.003であり、MPは1.012であり、倍率SMは1.015である。比較例1の倍率比は97.63%である。
【0018】
[実施例2]
実施例2は、レンズの屈折率nと頂間距離Lとを実施例1と同様にした。さらに、レンズの中心厚tを1.1mmとした。
遠用領域11の外面11oのベースカーブを2.5(D)とし、近用領域12におけるベースカーブを1.0(D)として、α=−1.5とした。さらに、遠用領域11の設定度数を−5.00(D)とし、近用領域12の設定度数を−1.00(D)とした。ADDは2.00(D)であり、βは3.5(>ADD)である。
以上の条件において、式(3)〜(5)に基づいて、MS、MP、SMを求めると、遠用領域におけるMSは1.002であり、MPは0.943であり、倍率SMは0.945である。近用領域12におけるMSは1.001であり、MPは0.965であり、倍率SMは0.966である。そして、実施例2の倍率比は97.83%である。
【0019】
[比較例2]
比較例2は実施例2を設計する前提となる内面累進レンズの例である。比較例2は、遠用領域11の外面11oのベースカーブを1.0(D)とし、近用領域12におけるベースカーブを1.0(D)として、α=0とし、さらに、β=ADD=2.00(D)とした点は実施例2とは相違するが、他の条件は実施例2と同じである。
以上の条件において、式(3)〜(5)に基づいて、MS、MP、SMを求めると、遠用領域11におけるMSは1.001であり、MPは0.943であり、倍率SMは0.944である。近用領域12におけるMSは1.001であり、MPは0.965であり、倍率SMは0.966である。比較例2の倍率比は97.74%である。
【0020】
[実施例3]
実施例3は、レンズの屈折率nと頂間距離Lとを実施例1と同様にした。さらに、レンズの中心厚tを3.0mmとした。
遠用領域11の外面11oのベースカーブを6.0(D)とし、近用領域12におけるベースカーブを5.0(D)として、α=−1.0とした。さらに、遠用領域11の設定度数を1.00(D)とし、近用領域12の設定度数を3.00(D)とした。ADDは2.00(D)であり、βは3.0(>ADD)である。
以上の条件において、式(3)〜(5)に基づいて、MS、MP、SMを求めると、遠用領域11におけるMSは1.011であり、MPは1.012であり、倍率SMは1.023である。近用領域12におけるMSは1.009であり、MPは1.037であり、倍率SMは1.047である。そして、実施例3の倍率比は97.75%である。
【0021】
[比較例3]
比較例3は実施例3を設計する前提となる内面累進レンズの例である。比較例3は、遠用領域11の外面11oのベースカーブを5.0(D)とし、近用領域12におけるベースカーブを5.0(D)として、α=0とし、さらに、β=ADD=2.00(D)とした点は実施例3とは相違するが、他の条件は実施例2と同じである。
以上の条件において、式(3)〜(5)に基づいて、MS、MP、SMを求めると、遠用領域11におけるMSは1.009であり、MPは1.012であり、倍率SMは1.021である。近用領域12におけるMSは1.009であり、MPは1.037であり、倍率SMは1.047である。比較例3の倍率比は97.57%である。
【0022】
[実施例4]
実施例4は、レンズの屈折率nと頂間距離Lとを実施例1と同様にした。さらに、レンズの中心厚tを1.5mmとした。
遠用領域11におけるベースカーブを2.5(D)とし、近用領域12におけるベースカーブを1.0(D)として、α=−1.5とした。さらに、遠用領域11の設定度数を−3.00(D)とし、近用領域12の設定度数を−1.00(D)とした。ADDは2.00(D)であり、βは3.5(>ADD)である。
以上の条件において、式(3)〜(5)に基づいて、MS、MP、SMを求めると、遠用領域11におけるMSは1.002であり、MPは0.965であり、倍率SMは0.967である。近用領域12におけるMSは1.001であり、MPは0.988であり、倍率SMは0.989である。そして、実施例4の倍率比は97.82%である。
【0023】
[比較例4]
比較例4は実施例4を設計する前提となる内面累進レンズの例である。比較例4は、遠用領域11の外面11oのベースカーブを2.5(D)とし、近用領域12におけるベースカーブを2.5(D)として、α=0とし、さらに、β=ADD=2.00(D)とした点は実施例4とは相違するが、他の条件は実施例4と同じである。
以上の条件において、式(3)〜(5)に基づいて、MS、MP、SMを求めると、遠用領域11におけるMSは1.002であり、MPは0.965であり、倍率SMは0.967である。近用領域12におけるMSは1.002であり、MPは0.988であり、倍率SMは0.990である。比較例4の倍率比は97.68%である。
【0024】
[実施例5]
実施例5は、レンズの屈折率nと頂間距離Lとを実施例1と同様にした。さらに、レンズの中心厚tを3.0mmとした。
遠用領域11におけるベースカーブを7.0(D)とし、近用領域12におけるベースカーブを6.0(D)として、α=−1.0とした。さらに、遠用領域11の設定度数を3.00(D)とし、近用領域12の設定度数を5.00(D)とした。ADDは2.00(D)であり、βは3.0(>ADD)である。
以上の条件において、式(3)〜(5)に基づいて、MS、MP、SMを求めると、遠用領域11におけるMSは1.013であり、MPは1.037であり、倍率SMは1.051である。近用領域12におけるMSは1.011であり、MPは1.064であり、倍率SMは1.075である。そして、実施例5の倍率比は97.69%である。
【0025】
[比較例5]
比較例5は実施例5を設計する前提となる内面累進レンズの例である。比較例5は、遠用領域11の外面11oのベースカーブを6.0(D)とし、近用領域12におけるベースカーブを6.0(D)として、α=0とし、さらに、β=ADD=2.00(D)とした点は実施例5とは相違するが、他の条件は実施例5と同じである。
以上の条件において、式(3)〜(5)に基づいて、MS、MP、SMを求めると、遠用領域11におけるMSは1.011であり、MPは1.037であり、倍率SMは1.049である。近用領域12におけるMSは1.011であり、MPは1.064であり、倍率SMは1.075である。比較例5の倍率比は97.51%である。
実施例1〜6及び比較例1〜6の詳細が表1に示され、さらに、遠用領域の度数と倍率比との関係が図3のグラフに示されている。
【0026】
【表1】
【0027】
表1及び図3において、実施例1は比較例1に対して、遠用領域11のベースカーブを変更したものであるが、これにより、実施例1の倍率比97.81%は比較例1の倍率比97.63%に比べて100%に近いものとなる。
実施例2は比較例2に対して、遠用領域11のベースカーブを変更したものであるが、これにより、実施例2の倍率比97.83%は比較例1の倍率比97.74%に比べて100%に近いものとなる。
実施例3は比較例3に対して、遠用領域11のベースカーブを変更したものであるが、これにより、実施例3の倍率比97.75%は比較例1の倍率比97.57%に比べて100%に近いものとなる。
実施例4は比較例4に対して、近用領域12のベースカーブを変更したものであるが、これにより、実施例4の倍率比97.82%は比較例4の倍率比97.68%に比べて100%に近いものとなる。
実施例5は比較例5に対して、遠用領域11のベースカーブを変更したものであるが、これにより、実施例5の倍率比97.69%は比較例5の倍率比97.51%に比べて100%に近いものとなる。
なお、特許文献1で示される特開2004−4436号公報では、実施例として、遠用領域における外面の面屈折力(ベースカーブ)を5.0(D)、内面の面屈折力を−5.0(D)、近用領域の外面の面屈折力(ベースカーブ)を+4.0(D)、内面の面屈折力を−1.0(D)とした両面累進レンズが記載されている。この例では、遠用領域での倍率が1.0091であり、近用領域での倍率が1.0384であり、倍率比は97.17となって実施例1〜5までの倍率比より低い。
【0028】
さらに、実施例1から実施例5を比較すると、実施例1は、遠用領域11でマイナスの度数(−1.00(D))が設定され、近用領域12でプラスの度数(1.00(D))が設定されているため、遠用領域11の倍率SMが0.993となり、近用領域12の倍率SMが1.015となり、他の実施例及び比較例に比べて、遠用領域11と近用領域12との双方とも1に近い値となる。
【0029】
従って、本実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)累進屈折力レンズ1の外面1iの外面加入度をα、内面1iの内面加入度をβ、装用者の処方に基づく処方加入度をADDとすると、α<0、β>ADD、という関係を満たすものにしたので、遠用領域11と近用領域12との倍率比を1に近づけることができる。従って、裸眼との差が少なくなり、装用感が向上する。
【0030】
(2)遠用領域11にマイナスの度数が設定され、近用領域12にはプラスの度数が設定される場合では、遠用領域11と近用領域12との双方にプラスの度数が設定されたり、マイナスの度数が設定されたりする場合に比べて、遠用領域11と近用領域12とのそれぞれの倍率が1に近くなり、遠用領域11と近用領域12との双方において、裸眼との差がより少なくなり、装用感がより向上する。
【0031】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。
例えば、本発明では、外面1oの遠用領域11や近用領域12で設定される面屈折力の数値は実施例1〜5に記載されるものに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、物体側の外面と眼球側の内面との双方に累進領域が形成された累進屈折力レンズに利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1…累進屈折力レンズ、1i,11i,12i,13i…内面、1o,11o,12o,13o…外面、11…遠用領域、12…近用領域、13…累進領域、E…眼球
図1
図2
図3