特許第5950708号(P5950708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5950708
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】火花点火式内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/045 20060101AFI20160630BHJP
   F02P 3/05 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   F02P3/045 303B
   F02P3/05 D
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-135322(P2012-135322)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-1634(P2014-1634A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】浅野 守人
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−116863(JP,A)
【文献】 特開2011−117334(JP,A)
【文献】 特開平09−291870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00−23/10
F02D 43/00−45/00
F02P 1/00− 3/12、 5/145−5/155、
7/00−17/12
H01T 7/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒に設けられた点火プラグによる火花点火に先んじた点火コイルの一次側コイルへの通電の際、一次側コイルを流れる一次電流の大きさが点火プラグにおける火花放電を惹起するのに十分な値に到達する時点を学習し、
以後の点火の機会には、先に学習した時点に基づいて一次側コイルへの通電を開始する時点を決定するものであり、
一次電流の大きさが規定値以下である間は半導体スイッチを点弧する一方、規定値を超えたときには半導体スイッチを消弧する電流制限機能を有するイグナイタの電流制限機能が働く時点を、燃焼の際に点火プラグの電極を流れるイオン電流信号を検出するための回路を介して検知し、当該時点を一次電流の大きさが十分な値に到達する時点として学習することを特徴とする火花点火式内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記時点の学習にあたり、当該時点を一次側コイルへの通電の際の電源バッテリの状態を表す指標値とともに学習して記憶しておき、
以後の点火の機会において、そのときの電源バッテリの状態を表す指標値に対応した学習時点に基づいて、一次側コイルへの通電を開始する時点を決定する請求項1記載の火花点火式内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火花点火式内燃機関を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火花点火式内燃機関では、気筒に設けられた点火プラグによって燃焼室内の混合気に点火する。点火の際、点火プラグは、点火コイルにて発生する誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を発生させる。
【0003】
点火コイルは、互いに磁気回路及び磁束を共有する一次側コイル及び二次側コイルの組であり、一次側コイルを流れる電流を遮断した瞬間に二次側コイルに高圧の誘導電圧を誘起するものである。それ故、火花点火に先んじて、一次側コイルに予めある大きさ以上の一次電流を流しておく必要がある。一次電流の通電/遮断の切り替えは、半導体スイッチング素子を用いたイグナイタを介して行う(例えば、下記特許文献1を参照)。
【0004】
電源バッテリから供給される直流電圧を一次側コイルに印加して通電を開始すると、一次電流は逓増する。その増加の速さは時間の経過とともに衰えてゆき、究極的には、印加される直流電圧と回路内部の抵抗との比に応じた電流量に飽和することとなる。
【0005】
点火プラグにおいて火花放電を惹起するために要求される誘導電圧、換言すれば遮断前の一次電流の大きさは、上記の飽和電流量よりも小さい。近時のイグナイタには、一次電流の過大化を抑制する電流制限機能が実装されている。この種のイグナイタは、一次側コイルを流れる一次電流を恒常的にセンシングし、その一次電流の大きさが既定値以下である間は半導体スイッチを点弧する一方、既定値を超えたときには半導体スイッチを消弧することで、一次電流を既定値にクリップする(例えば、下記特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−084432号公報
【特許文献2】特開2008−045514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
遮断前の一次電流の大きさが不足していると、一次電流の遮断後に二次側コイルに発生する誘導電圧が低くなり、混合気の着火及び燃焼に悪影響を及ぼす。よって、従来、一次電流を十分に増大させるべく、一次側コイルに通電する時間をコイルの発熱限界を超えない範囲でできるだけ長く設定することが通例であった。
【0008】
このため、多くの場合、火花放電の直前期にはイグナイタの電流制限機能が働いている。一次側コイルに通電している時間のうち、イグナイタの電流制限機能が働く電流制限期間は、火花放電そのものには寄与せず、本来不要である。即ち、電流制限期間においては電気エネルギを浪費しており、その浪費が積み重なって燃費の低下につながっていた。
【0009】
本発明は、点火コイルの一次側コイルへの通電時間を適正化し、不要なエネルギの浪費を抑制することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するべく、本発明では、気筒に設けられた点火プラグによる火花点火に先んじた点火コイルの一次側コイルへの通電の際、一次側コイルを流れる一次電流の大きさが点火プラグにおける火花放電を惹起するのに十分な値に到達する時点を学習し、以後の点火の機会には、先に学習した時点に基づいて一次側コイルへの通電を開始する時点を決定するものであり、一次電流の大きさが規定値以下である間は半導体スイッチを点弧する一方、規定値を超えたときには半導体スイッチを消弧する電流制限機能を有するイグナイタの電流制限機能が働く時点を、燃焼の際に点火プラグの電極を流れるイオン電流信号を検出するための回路を介して検知し、当該時点を一次電流の大きさが十分な値に到達する時点として学習する火花点火式内燃機関の制御装置を構成した。
【0011】
一次側コイルに通電を開始してから一次電流の大きさが十分な値に到達するまでに要する通電時間は、一次側コイルと接続している電源バッテリの充電状態如何によって変動し得る。そこで、前記時点の学習にあたり、当該時点を一次側コイルへの通電の際の電源バッテリの状態を表す指標値とともに学習して記憶しておき、以後の点火の機会において、そのときの電源バッテリの状態を表す指標値に対応した学習時点に基づいて、一次側コイルへの通電を開始する時点を決定することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、点火コイルの一次側コイルへの通電時間を適正化でき、不要なエネルギの浪費を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態における内燃機関の概略構成を示す図。
図2】同実施形態における火花点火装置の回路図。
図3】イグナイタの点弧から火花点火へと至る期間における、点火コイルの一次側コイルを流れる一次電流の推移を示す図。
図4】内燃機関の気筒における燃焼圧及びイオン電流のそれぞれの推移を示す図。
図5】イグナイタの点弧から火花点火へと至る期間における、点火信号及び点火プラグの電極を流れる電流信号のそれぞれの推移を示す図。
図6】イグナイタの点弧から火花点火へと至る期間における、点火信号及び点火プラグの電極を流れる電流信号のそれぞれの推移を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。
【0015】
本実施形態における内燃機関は、火花点火式ガソリンエンジンであり、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。
【0016】
図2に、火花点火用の電気回路を示している。点火プラグ12は、点火コイル14にて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイル14は、半導体スイッチング素子131を包有するイグナイタ13とともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0017】
内燃機関の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0からの点火信号iをイグナイタ13が受けると、まずイグナイタ13の半導体スイッチ131が点弧して点火コイル14の一次側に電流が流れ、その直後の火花点火のタイミングで半導体スイッチ131が消弧してこの電流が遮断される。すると、自己誘導作用が起こり、一次側に高電圧が発生する。そして、一次側と二次側とは磁気回路及び磁束を共有するので、二次側にさらに高い誘導電圧が発生する。二次側の誘導電圧は、5kVないし20kVに達する。この高い誘導電圧が点火プラグ12の中心電極に印加され、中心電極と接地電極との間で火花放電する。
【0018】
点火コイル14の一次側コイルは、半導体スイッチ131を介して車載の電源バッテリ17に接続する。半導体スイッチ131を点弧し、バッテリ17から供給される直流電圧を一次側コイルに印加して通電を開始すると、一次側コイルを流れる一次電流は逓増する。
【0019】
図3に、一次側コイルへの通電開始後の一次電流の推移を例示する。図3中、電流制限機能が働かない場合を破線で示し、電流制限機能が働く場合を鎖線で示している(実線については、後述する)。バッテリ17及び一次側コイルを含む電気回路をRL直列回路と仮定すると、t=0時点にて直流電圧Eを印加した場合の一次電流I(t)は、
I(t)={1−e-(R/L)t}E/R
となる。即ち、過渡現象として一次電流は逓増するが、その増加の速さは徐々に衰える。十分に長い時間が経過すると、図3中の破線のように一次電流はE/Rに飽和する。
【0020】
イグナイタ13は、一次電流の過大化を抑制する電流制限機能を有している。この電流制限機能は、今日普及している既製のイグナイタと同様である。具体的には、制御回路132が、検出抵抗133を介して、一次電流を当該抵抗133の両端間電圧の形で恒常的に計測する。そして、その一次電流(抵抗133の両端間電圧)の大きさが既定値以下である間は半導体スイッチ131を点弧する一方、既定値を超えたときには半導体スイッチ131を消弧する。これにより、一次電流を図3中の鎖線のように既定値にクリップする。
【0021】
さらに、イグナイタ13は、点火コイル14またはイグナイタ13自身の温度が閾値を超えるような異常発熱を感知した場合に、一次側コイルへの通電を強制的に遮断する機能をも有している。
【0022】
ECU0は、燃料の爆発燃焼の際に気筒1の燃焼室内に発生するイオン電流を検出し、このイオン電流を参照して、燃焼状態の判定を行う。
【0023】
図2に示すように、本実施形態では、火花点火用の電気回路に、イオン電流を検出するための回路を付加している。この検出回路は、イオン電流を効果的に検出するためのバイアス電源部15と、イオン電流の多寡に応じた検出電圧を増幅して出力する増幅部16とを備える。バイアス電源部15は、バイアス電圧を蓄えるキャパシタ151と、キャパシタ151の電圧を所定電圧まで高めるためのツェナーダイオード152と、電流阻止用のダイオード153、154と、イオン電流に応じた電圧を出力する負荷抵抗155とを含む。増幅部16は、オペアンプに代表される電圧増幅器161を含む。
【0024】
点火プラグ12の中心電極と接地電極との間のアーク放電時にはキャパシタ151が充電され、その後キャパシタ151に充電されたバイアス電圧により負荷抵抗155にイオン電流が流れる。イオン電流が流れることで生じる抵抗155の両端間の電圧は、増幅部16により増幅されてイオン電流信号hとしてECU0に受信される。
【0025】
図4に、正常燃焼における、イオン電流及び気筒1内の燃焼圧力(筒内圧)のそれぞれの推移を例示する。図4中、イオン電流を実線で示し、燃焼圧を破線で示している。イオン電流は、点火のための放電中は検出することができない。正常燃焼の場合のイオン電流は、火花点火の終了後、化学反応により、圧縮上死点の手前で減少した後、熱解離によって再び増加する。また、燃焼圧がピークを迎えるのとほぼ同時にイオン電流も極大となる。
【0026】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0027】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0028】
内燃機関の運転制御を司るECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0029】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるクランク角信号(N信号)b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、車載バッテリ17の状態を表す指標値(バッテリ電圧、バッテリ電流、バッテリ温度のうち少なくとも一つまたは全て)を検出するバッテリセンサから出力されるバッテリ状態信号d、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号(G信号)g、燃焼室内での混合気の燃焼に伴って生じるイオン電流を検出する回路から出力される電流信号h等が入力される。
【0030】
出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタ13に対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k等を出力する。
【0031】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量等に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射時期(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火時期といった各種運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能である。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、kを出力インタフェースを介して印加する。
【0032】
しかして、本実施形態のECU0は、燃焼の際に点火プラグ12の電極を流れるイオン電流を検出する回路を利用して、点火コイル14の一次側コイルへの通電時間、つまりはイグナイタ13における半導体スイッチ131の点弧のタイミングを学習する学習制御を実施する。
【0033】
図5及び図6に、ECU0からイグナイタ13に与える点火信号i、及びECU0がイオン電流検出用の回路を介して取得する電流信号hの値の時系列の推移を示す。電流信号hは、点火プラグ12の電極を流れる電流を表すものであり、点火プラグ12の両電極間の抵抗の大きさを表すものでもある。
【0034】
図5は、半導体スイッチ131の点弧のタイミングの学習を完了する前の段階における信号i、hの推移を示している。ECU0は、火花点火に先んじて半導体スイッチ131を点弧し、点火コイル14の一次側コイルに通電する。そして、点弧の時点t0から十分な通電時間が経過した時点t1にて半導体スイッチ131を消弧し、点火コイル14の一次側コイルへの通電を遮断する。
【0035】
正常燃焼の場合の電流信号hは、半導体スイッチ131の消弧に伴い点火プラグ12の両電極間に惹起される火花放電の期間を経過した時点t2の後に顕著に現れる、気筒1の燃焼室内に発生したイオン電流の信号を含むものとなる。より詳しくは、時点t2にてLC共振による信号が現れ、その後に燃焼に起因したイオン電流信号が現れる。
【0036】
半導体スイッチ131の点弧時には、スパイク状のノイズが発生して電流信号hに重畳される。また、半導体スイッチ131の消弧前のある時点t3から消弧の時点t1までの期間において、電流信号hが振動している。この振動は、イグナイタ13の電流制限機能の働きによるものである。即ち、逓増する一次電流が時点t3にて規定値に到達し、その一次電流が規定値を超えるときに制御回路132が半導体スイッチ131を瞬断する(そして、一次電流が規定値以下になると半導体スイッチ131を再点弧する)動作を反復して行うことから、イオン電流検出用の回路に振動的なノイズが乗り、このノイズが電流信号hに重畳されるのである。
【0037】
一次側コイルに通電している時間のうち、イグナイタの電流制限機能が働く時点t3から時点t1までの電流制限期間は、火花放電そのものに寄与せず、本来不要である。一次電流が規定値に達している以上、既に一次電流は点火プラグ12による火花点火を行うために十分な誘導電圧を二次側コイルに誘起できる程度に大きくなっている。電流制限期間に一次側コイルへの通電を続けることにより消費される電気エネルギは、全くの無駄である。
【0038】
そこで、本実施形態のECU0は、一次側コイルに通電を開始した後、一次側コイルを流れる一次電流の大きさが点火プラグ12における火花放電を惹起するのに十分な値に到達する時点t3を学習する。そして、以後の点火の機会において、先に学習した時点t3に基づいて、一次側コイルへの通電を開始する時点t0’を決定する。その狙いは、上記の電流制限期間をできる限り短くすることにある。
【0039】
ECU0は、一次側コイルへの通電中にイオン電流検出用の回路を介して取得される電流信号hを参照し、半導体スイッチ131の点弧時点t0から電流信号hが振動し始める時点t3までの経過時間を計測する。時点t0から時点t3までの経過時間は、一次電流の大きさが十分な値に達するまでに要する時間であると言える。
【0040】
あるいは、電流信号hが振動する時点t3から時点t1までの電流制限期間の長さを計測してもよい。一次側コイルへの通電時間、即ち半導体スイッチ131の点弧の時点t0及び消弧の時点t1は、ECU0にとって所与のものである。一次側コイルへの通電時間から電流制限期間の長さを減算すれば、一次電流の大きさが十分な値に達するまでに要する時間を得ることができる。
【0041】
ECU0は、計測した時点t3(時点t0から時点t3までの経過時間、または、時点t3から時点t1までの経過時間)を、学習値として、学習時のバッテリ17の状態を表す指標値に関連付けて、メモリに記憶保持する。学習値をバッテリ17の状態の指標値毎に個別に学習するのは、バッテリ17の充電量その他の状態如何によって一次電流の逓増の速さが変わるからである。上掲の一次電流I(t)の式に則して述べれば、バッテリ電圧Eが変化するとI(t)も変化するということである。
【0042】
時点t3の学習は、広汎な運転領域[エンジン回転数,要求負荷]において実施することができる。加速の過渡期、減速の過渡期に限らず、運転領域が比較的変動せず安定している定常期においても、時点t3の学習を行う。
【0043】
但し、エンジン回転数が所定閾値を上回る高回転域では、時点t3を学習しないことが望ましい。高回転域では、各気筒1における膨張行程の頻度が高く、点火コイル14の一次側コイルに通電している時間の(吸気、圧縮、膨張、排気の一サイクルに対する)割合が大きくなって、点火コイル14が発熱する。点火コイル14の温度が顕著に高くなると、イグナイタ13が通電を強制的に遮断することになるが、このときに時点t3の学習を行うと、誤学習となってしまう。よって、高回転域では学習を行わない。
【0044】
また、時点t3の学習は、内燃機関の暖機が完了している、即ち冷却水温が所定値以上であるという条件を満足している場合に限り実施する。一次側コイルを含む電気回路の抵抗は温度によって変動するため、暖機完了前に学習を行うと誤学習となるおそれがある。上掲の一次電流I(t)の式に則して述べれば、抵抗Rが変化するとI(t)も変化するということである。よって、内燃機関の暖機が完了していない段階では行わない。
【0045】
その上で、ECU0は、以後の火花点火の機会において、先に学習した時点t3に基づいて、半導体スイッチ131を点弧し一次側コイルへの通電を開始する時点t0’を決定する。
【0046】
図6は、半導体スイッチ131の点弧のタイミングの学習を完了した後の段階における信号i、hの推移を示している。並びに、図3では、半導体スイッチ131の点弧のタイミングの学習を完了する前の段階における一次電流の推移を鎖線で示し、半導体スイッチ131の点弧のタイミングの学習を完了した後の段階における一次電流の推移を実線で示している。ECU0は、運転領域やノッキングの有無等に応じて決定する点火時期にタイミングを合わせて半導体スイッチ131を消弧することを前提として、その消弧時点t1の直前に一次側コイルを流れる一次電流が規定値近傍まで増大しているように、半導体スイッチの点弧時点t0’を設定する。
【0047】
具体的には、ECU0が、新たな点弧時点t0’から消弧時点t1までの経過時間が、過去の学習において計測した点弧時点t0から電流制限期間の開始時点t3までの経過時間にほぼ等しくなるように時点t0’を決定する。あるいは、過去の学習における点弧時点t0から新たな点弧時点t0’までの遷移の時間差が、過去の学習において計測した電流制限期間の長さ、即ち電流制限期間の開始時点t3から消弧時点t1までの経過時間にほぼ等しくなるように時点t0’を決定する。
【0048】
新たな点弧時点t0’の決定の根拠となる時点t3の学習値は、その点火機会における電源バッテリ17の状態に対応したものを用いる。ECU0は、火花点火に先んじた一次側コイルへの通電の際、メモリに記憶保持している学習値の中から、そのときのバッテリ17の状態を表す指標値に対応している学習値を検索して読み出す。そして、読み出した学習値を基に、一次側コイルへの通電を開始する時点t0’を決定する。
【0049】
決定した点弧時点t0’にて半導体スイッチ131を点弧することにより、点火時期のタイミングに合わせた消弧時点t1にて一次側コイルを流れる一次電流が規定値近傍まで増大している状態を実現でき、点火プラグ12における火花放電及び混合気への着火を確実ならしめることができる。しかも、図3及び図6に示しているように、無駄な通電時間である、一次電流が規定値にクリップされる電流制限期間(時点t3から時点t1まで)の長さを可及的に短縮することができ、エネルギの消費量を削減できる。
【0050】
時点t3の学習、及び学習した時点t3に基づく半導体スイッチ131の点弧のタイミングt0’の制御は、気筒1毎に個別に行う。時点t3の学習値は気筒1毎に異なり、半導体スイッチ131の点弧のタイミングt0’もまた気筒1毎に異なり得る。
【0051】
本実施形態では、燃焼の際に点火プラグ12の電極を流れるイオン電流を検出する回路を利用し、点火プラグ12による火花点火に先んじた点火コイル14の一次側コイルへの通電の際、一次側コイルを流れる一次電流の大きさが点火プラグ12における火花放電を惹起するのに十分な値に到達する時点t3を学習し、以後の点火の機会には、先に学習した時点t3に基づいて一次側コイルへの通電を開始する時点t0’を決定することを特徴とする火花点火式内燃機関の制御装置0を構成した。
【0052】
本実施形態によれば、既に一次電流が火花放電を惹起するのに十分な大きさになっているにもかかわらず、一次側コイルに通電し続けることによる電気エネルギの浪費を低減することができる。ひいては、燃費の一層の向上に資する。
【0053】
また、学習値t3の学習を通じて、点火コイル14の個体差または点火系の電気回路の個体差を吸収することができる。
【0054】
点火コイル14に通電している時間が短縮(電流制限期間が減少)することで、点火コイル14の過加熱を抑制することにつながり、点火コイル14を含む点火系の寿命の延長にも奏効する。
【0055】
加えて、前記時点t3の学習にあたり、当該時点t3を一次側コイルへの通電の際の電源バッテリ17の状態を表す指標値とともに学習して記憶しておき、以後の点火の機会において、そのときの電源バッテリ17の状態を表す指標値に対応した学習時点t3に基づいて、一次側コイルへの通電を開始する時点t0’を決定することとしているので、変動する電源バッテリ17の状態に応じて一次側コイルへの通電時間を最適化できる。
【0056】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、一次電流が火花放電を惹起するのに十分な値に到達する時点t3の学習にあたり、当該時点t3を一次側コイルへの通電の際の点火コイル14の温度、内燃機関の温度(冷却水温)または運転領域(エンジン回転数及び/または要求負荷)とともに学習して記憶しておき、以後の点火の機会において、そのときの点火コイル14の温度、内燃機関の温度または運転領域に対応した学習時点t3に基づいて、一次側コイルへの通電を開始する時点t0’を決定するようにしてもよい。
【0057】
上記実施形態では、イオン電流検出用の回路を利用して取得される電流信号hを参照して学習を行っていた。これ以外に、一次側コイルを流れる一次電流の大きさを直接計測可能な回路を併設しておき、ECU0がこの回路を介して一次電流を恒常的にサンプリング計測し、一次電流が火花放電を惹起するのに十分な規定値に到達する時点t3を学習値として知得するものとしてもよい。
【0058】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関の制御に適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
0…制御装置(ECU)
1…気筒
12…点火プラグ
13…イグナイタ
14…点火コイル
17…電源バッテリ
d…バッテリ状態信号
i…点火信号
h…電流信号
0’…学習値に基づき決定する一次側コイルへの通電開始時点
3…一次電流の大きさが火花放電の惹起に十分な値まで増大する時点
図1
図2
図3
図4
図5
図6