【実施例】
【0048】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
試験乳酸菌株の調製
<実験方法>
図1A及び
図1B、
図1Cに記載された乳酸菌株の加熱死菌体を調製した。まず国内外の微生物ライブラリーから、当該乳酸菌株を購入した。入手先は、理化学研究所・バイオリソースセンターのJapan Collection of Microorganisms(JCM)株、財団法人発酵研究所のInstitute of Fermentation, Osaka(IFO)株、東京農業大学・菌株保存室のNODAI Culture Collection Center(NRIC)株、及び米国・American Type Culture Collection(ATCC)株、 DANISCO社株である。内訳は31菌種125株となった。乳酸菌株はMRS培地もしくはGAM培地もしくはLM17培地で30℃もしくは37℃で24〜48時間、静置培養した。集菌後、滅菌水で3回洗浄し、100℃・30分オートクレーブすることにより、殺菌した。その後、菌体を凍結乾燥し、1mg/mlになるようにPBS(TAKARA BIO社製)で濃度を調整した。
【0050】
[実施例2]
IFN-α産生誘導能を有する乳酸菌株のスクリーニング
実施例1で調製した乳酸菌株のpDC活性化によるIFN-α産生誘導能を評価した。
【0051】
<実験方法>
C57BL/6マウス骨髄細胞を大腿骨から常法に従って回収し、赤血球除去処理を行った。次に得られた骨髄細胞を、10%FCS、2μM β-メルカプトエタノールを含有するRPMI培地(SIGMA社製)に、5×10
5個/mLになるように縣濁した。得られた細胞懸濁液に、pDC誘導サイトカインとしてFlt-3L(R&D systems社製)を終濃度100ng/mlで添加し、CO
2インキュベータ内で37℃、5%CO
2にて培養した。7日後に各種乳酸菌株を10μg/mlで添加し、48時間後に培養上清を回収した。培養上清は、IFN-α測定キット(PBL社製)を用いてELISA法にて測定した。
【0052】
<結果>
ELISAでの確実なIFN-α産生があると見なすことのできる50pg/ml以上の誘導があった株を
図2に示す。調べ125株のうち、わずか13株 (Lactococcus garvieae NBRC100934、Lactococcus lactis subsp.cremoris JCM16167、Lactococcus lactis subsp.cremoris NBRC100676、Lactococcus lactis subsp.hordniae JCM1180、Lactococcus lactis subsp.hordniae JCM11040、Lactococcus lactis subsp.lactis NBRC12007、Lactococcus lactis subsp.lactis NRIC1150、Lactococcus lactis subsp.lactis JCM5805、Lactococcus lactis subsp.lactis JCM20101、Leuconostoc lactis NBRC12455、Leuconostoc lactis NRIC1540、Pediococcus damnosus JCM5886、Streptococcus thermophilus TA-45)にしか活性は認められなかった。100pg/mlをクリアする株に至っては3株( Lactococcus lactis subsp.lactis NRIC1150、Lactococcus lactis subsp.lactis JCM5805、Lactococcus lactis subsp.lactis JCM20101 )しか存在しなかった。pDCに対するIFN-α産生誘導能は大半の菌株には存在せず、乳酸菌普遍的な活性ではないことが示された。
【0053】
また、選択された高産生誘導株(=100pg/ml以上)3株中3株がLactococcus lactis subsp.lactis に分類される球菌であった。さらに
図2Aに示すように乳酸桿菌のヒット率0.00%に対し、球菌のそれは34.29%と格段に高く、
図2Bの高産生誘導株では桿菌のヒット率0.00%に対し、球菌のそれは8.57%とやはり高いことから、pDCを刺激してIFN-α産生誘導を行う活性は乳酸球菌に特徴的な性質であることが示唆された。pDCに対する直接的な刺激活性については、黄色ブドウ球菌において報告があるが、無害でヒトが摂取できる細菌のpDC活性化能はこれが初めての発見である。
【0054】
また、以後の解析では特にIFN-α産生誘導能が顕著であったLactococcus lactis JCM5805、JCM20101及びネガティブコントロールとして桿菌であるLactobacillus rhamnosus ATCC53103の3株について行っていくこととした。
【0055】
なお、Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101の電子顕微鏡写真を
図3に示す。
図3AがJCM5805を示し、
図3BがJCM20101を示す。どちらも短径0.5μm、長径1μm程度の楕円型球菌であった。一般的な桿菌の大きさが短径1μm、長径3μm程度であることを考えると、かなり小さいといえる。
【0056】
[実施例3]
pDCの乳酸菌認識(取り込み)の違い
実施例2で明らかとなったpDC活性化乳酸菌Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101及びネガティブコントロールであるLactobacillus rhamnosus ATCC53103を用いて活性の有る無しがpDCによる認識、すなわち取り込みの有る無しに帰結するのではないかと考え実験を行った。
【0057】
<実験方法>
実施例2で骨髄細胞を培養する際に、マイクロカバーガラス(松浪ガラス社製)を敷いて培養した。そこへFITC(SIGMA社製)標識したLactococcus lactis JCM5805、JCM20101、Lactobacillus rhamnosus ATCC53103を添加し3時間、CO
2インキュベータ内で37℃、5%CO
2にて培養した。3時間後マイクロカバーガラスを回収し、抗B220-PE-Cy5.5(eBiosciencs社製)で染色し、スライドガラス(松浪ガラス社製)に接着させ、蛍光顕微鏡(オリンパス社製)で観察した。
【0058】
<結果>
結果を
図4に示す。
図4A、B及びCは、それぞれ、Lactococcus lactis JCM5805、JCM21101及びLactobacillus rhamnosus ATCC53103を示す。B220陽性の赤い細胞がpDCである。Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101株では、緑色に染まった乳酸菌が細胞内に取り込まれているのが観察されるが、Lactobacillus rhamnosus ATCC53103では細胞内に入っていない。従って、活性の有無はpDCによる認識の有無に帰結すると考えられる。
【0059】
[実施例4]
IFN産生誘導能における乳酸菌の活性
IFN-α産生誘導能を有する乳酸菌の他のサイトカイン産生能についても検討を行った。
【0060】
<実験方法>
Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101及びLactobacillus rhamnosus ATCC53103死菌凍結乾燥菌体を10μg/ml、ポジティブコントロールとして既知TLRLであるPam3CSK4(=TLR2L:InvivoGen社製, 1μg/ml)、LPS(=TLR4L:SIGMA-ALDRICH社製, 5ng/ml)、CpG DNA(=TLR9L:InvivoGen社製, 0.1μM)を実施例2に記載のpDC/mDC培養系に添加し、48時間後の培養上清を回収した。培養上清は、IFN-α測定キット(PBL社製)、IFN-β測定キット(PBL社製)、IFN-γ測定キット(BD Pharmingen社製)、IL-28/IFN-λ測定キット(eBiosciencs社製)を用いてELISA法にて測定した。
【0061】
<結果>
結果を
図5A〜Dに示す。
図5A、B、C及びDは、それぞれIFN-α、IFN-β、IFN-γ及びIFN-λの結果を示す。実施例2に記載の通り、IFN-α産生能はLactococcus lactis JCM5805、JCM20101で見られ、その力価はTLR9LであるCpG DNA (ODN 1585) 0.1μMと同程度であった。同じType I IFNであるIFN-βについてはLactococcus lactis JCM5805、JCM20101でのみ見られた。Type II IFNであるIFN-γについてはどの菌株でも程度の多少こそあれ産生誘導能が見られた。Type III IFNであるIFN-λについてはLactococcus lactis JCM5805、JCM20101でのみ誘導が起こった。
【0062】
IFN-λはIFN-αやIFN-βと比べてIFN誘導遺伝子群(ISG)の誘導は弱いことが知られているが、IFN-αと協調して働くことで抗ウイルス効果が増強されることが知られている(非特許文献5)。Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101はType I II III IFNのすべての産生を誘導できるため、非常に強い抗ウイルス作用を有することが考えられる。
【0063】
[実施例5]
pDC活性化における乳酸菌の活性
IFN-α産生誘導能を有する乳酸菌のpDC活性化能についても検討を行った。
【0064】
<実験方法>
実施例3で培養した細胞についてpDCゲート用に抗CD11b-APC-Cy7(BD Pharmingen社製)、抗B220-PerCP(BD Pharmingen社製)、抗CD11c-PE-Cy7(eBiosciencs社製)、活性化指標として抗MHC classII-FITC(eBiosciencs社製)、抗CD40-FITC(eBiosciencs社製)、抗CD80-APC(eBiosciencs社製)、抗CD86-APC(eBiosciencs社製)、抑制性マーカーとして抗OX40L-PE(eBiosciencs社製)、抗PDL-1-PE(eBiosciencs社製)、抗ICOS-L-PE(eBiosciencs社製)の各抗体を用いて30分間、4℃にて染色し、細胞を洗浄し、FACS CantoII(BD社製)を用いて解析した。
【0065】
<結果>
結果を
図6A及びBに示す。
図6AはMHCII、CD40、CD80及びCD86の発現量を示し、
図6BはOX40L、PDL-1及びICOS-Lの発現量を示す。無添加時のMedian Fluorescent Intensity(MFI)の数値を上段に、乳酸菌添加時のMFI値を下段に記載した。活性化マーカーにおいては、どの乳酸菌株添加によっても上昇が認められたが、Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101とIFN-α産生誘導能の無いLactobacillus rhamnosus ATCC53103の最大の差異は、T細胞上の活性制御分子であるCD28及びCTLA-4のリガンドであるCD80及びCD86において見られ、Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101では強く発現が活性化した。一方、抑制性マーカーではやはり乳酸菌添加によって発現量増大が認められたが、特にPDL-1ではLactococcus lactis JCM5805、JCM20101では強く発現が活性化した。
【0066】
前述のように、Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101で刺激されたpDCはIFN-αを産生することで免疫力の底上げを行う。しかしながら、免疫力を上昇させる副作用として、自己免疫疾患になる可能性は否めない。本試験において、Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101刺激によって産生誘導が確認されたPDL-1はT細胞のPD-1と結合し、制御性T細胞を誘導することが知られている因子である。すなわち、Lactococcus lactis JCM5805, JCM20101はIFN-α産生を通じて免疫力の底上げを行うだけではなく、PDL-1の発現を介して、免疫系が過剰に活性化しないようにバランスを取ることができると考えられる。
【0067】
[実施例6]
pDC・mDC共存下あるいは単独存在下における乳酸菌のIFN-α産生刺激能
実施例2によってIFN-α産生誘導活性によりLactococcus lactis JCM5805、JCM20101が選抜された。一方、アッセイ系に使用した培養系ではpDC以外にミエロイド系樹状細胞(myeloid dendritic cell=mDC)が生成してくる、言わばpDC/mDCの混合培養系である。生体においてはpDCとmDCの相互作用が重要と考えられており、例えばウイルス感染時にはpDCがmDCにコンバートされる現象も報告されている。そこで、pDC、mDC単一細胞培養系あるいは混合培養系、さらには混合培養で2つの細胞を物理的に遮断する系における乳酸菌添加の効果を検討した。
【0068】
<実験方法>
実施例2と同様にFlt-3Lによって骨髄細胞から誘導したpDC及びmDCの混合培養を行い、FACS Aria(BD社製)にてpDCとmDCを分離した。次に各細胞1×10
5 cells/mlで(1)pDC及びmDCを分離した単一培養系(データ内の表記:pDCあるいはmDC)。(2)pDCとmDCが物理的に接触する混合培養系(pDC:mDC-1:1)。(3)pDCとmDCの共培養だが、半透膜により物理的接触を遮断した培養系(pDC/mDCあるいはmDC/pDC、半透膜上に培養し乳酸菌と接触する細胞を左側に記載)。半透膜にはトランスウェル(CORNING社製)を使用し、乳酸菌添加量は10μg/mlとした。2日間培養後、培養上清中のIFN-α量を測定した。なお、ポジティブコントロールとしてpDC活性化能が知られているCpG DNA(ODN1585)を0.1μMで使用した。また、分離したpDCをサイトスピン(Thermo社製)を用いてスライドガラス(松浪ガラス工業社製)に付着させ、ディフクイック(シスメックス社製)を用いて染色し、顕微鏡(オリンパス社製)観察した。
【0069】
<結果>
結果を
図7に示す。Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101共に同様のレスポンスを示した。すなわち、mDC単独培養系ではIFN-α産生は起こらず、pDC単独培養系において少量のIFN-αを誘導し、pDC・mDC混合培養系で顕著な産生が起こった。また、Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101、Lactobacillus rhamnosus ATCC53103をpDC単独培養系に添加した際のpDC形態写真を
図8に示す。
図8Aはコントロール(乳酸菌無添加)の結果、
図8BはJCM5805を添加したときのpDC、
図8CはJCM20101を添加したときのpDC、
図8DはATCC53103を添加したときのpDCを示す。Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101添加時と無添加時のpDCを比較すると、Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101添加時に、活性化した樹状細胞に特徴的に認められる突起が明らかに観察された。一方Lactobacillus rhamnosus ATCC53103添加時にはLactococcus lactis JCM5805、JCM20101添加時に観察されたような突起は観察されなかった。さらに興味深いことに、半透膜でpDCとmDCの物理的接触を遮断するとpDC単独培養レベルにまでIFN-α産生が激減した。これらのことから、乳酸菌はpDCをプライマリーターゲットとするがその活性化によるIFN-α産生をフルに誘導するためにはmDCの共存を要求し、さらにpDCとmDCのクロストークを媒介するものは液性因子ではなく、細胞同士の接触であることが判明した。ほぼ同じ現象がCpG DNA添加によっても観察されており、このようなpDCの活性化現象におけるmDCの役割は、乳酸菌という素材に限定されない普遍的なメカニズムであることが証明された。ヒト生体においては、pDCとmDCは共存しており、このメカニズムはヒトへの応用を考える上で重要な証拠となる。
【0070】
[実施例7]
関与レセプターの同定
Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101のIFN-α産生における必須シグナルについて一連のTLRノックアウトマウスを用いて検討した。
【0071】
<実験方法>
TLR2、TLR4、TLR7、TLR9及びMyD88のノックアウトマウス(8〜10週齢・雄)及びwild typeであるC57BL/6(8〜10週齢・雄)をチャールズリバー社から購入した。それぞれの骨髄細胞から実施例2と同様な方法によってpDC/mDCの細胞を誘導し、Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101及びLactobacillus rhamnosus ATCC53103を添加した。ポジティブコントロールとして実施例3に記載の3つのTLRLに加えて、TLR7LであるssRNA40(InvivoGen社製, 5μg/ml)を使用した。48時間後の培養上清を回収し、培養上清中IFN-α産生量をELISAにて測定した。
【0072】
<結果>
結果を
図9A及び
図9Bに示す。
図9AはTLR2ノックアウトマウス及びTLR4ノックアウトマウスの結果を示し、
図9BはTLR7ノックアウトマウス、TLR9ノックアウトマウス及びMyD88ノックアウトマウスの結果を示す。図中、WTは野生型マウスの結果を示す。Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101によるIFN-α産生能はTLR2あるいはTLR4ノックアウトマウスで変化は見られず、それらの関与は否定された。TLR9及びMyD88ノックアウトマウスでは、Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101どちらの添加においてTLR9及びMyD88ノックアウトによって完全にIFN-αが消失した。従ってLactococcus lactis JCM5805、JCM20101のIFN-α産生を担うレセプターはTLR9であることが証明された。
【0073】
[実施例8]
活性本体の同定
実施例5によってLactococcus lactis JCM5805、JCM20101の認識レセプターがTLR9であることが判明した。それらのリガンドの同定について試みた。TLR9のリガンドとしてはCpG DNAに代表されるDNAが知られており、同じ核酸であるRNAについてもRNAウイルスに代表されるssRNAがTLR7Lとして、dsRNAがTLR3Lとして知られている。従って、リガンドとしてDNAあるいはRNAが想定されたため、両株からDNA/RNAを抽出して活性を調べた。
【0074】
<実験方法>
・乳酸菌からのDNA調製
実施例1に従ってLactococcus lactis JCM5805、JCM20101及びLactobacillus rhamnosus ATCC53103を静置培養した。集菌後、滅菌水で3回洗浄した菌に50mM Tris-HCl,5mM EDTA,6.7%Sucrose(PH8.0)に調製した溶液を添加する。次にN-アセチルムラミディス(生化学工業社製, 2.5mg/ml)、リゾチーム(生化学工業社製, 50mg/ml)を添加し、37℃、45分静置した。そこへ50mM Tris-HCl,250mM EDTA(PH8.0),10%SDSを添加し、37℃、10分静置した。5.0M NaClを添加し、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(和光純薬社製)を添加し遠心分離した。上清のみを回収し、上清の2倍量のエタノールを加え遠心分離した。上清を除去し、沈殿物に70%エタノールを添加し遠心分離した。上清を除去しRNase(QIAGEN社製)を添加し、37℃、60分静置した。そこに5.0M NaClを添加しフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(和光純薬社製)を添加し遠心分離した。上清のみを回収し、上清の2倍量のエタノールを加え遠心分離した。上清を除去し、沈殿物に70%エタノールを添加し遠心分離した。上清を除去した沈殿物にNuclease Free Water(QIAGEN社製)を添加した。以上によって調製されたLactococcus lactis JCM5805、JCM20101及びLactobacillus rhamnosus ATCC53103のDNAをそれぞれ0.1、1、10μg/mlでpDC/mDCの培養系に添加した。48時間後の培養上清を回収し、培養上清中IFN-α産生量をELISAにて測定した。また、菌体そのものもコントロールとして使用した。
【0075】
・乳酸菌からのtotal RNA調製
実施例1に従ってLactococcus lactis JCM5805、JCM20101及びLactobacillus rhamnosus ATCC53103を静置培養した。集菌後、滅菌水で3回洗浄した菌にRNAprotect Bacteria Reagent(QIAGEN社製)を添加し37℃、5分静置し、遠心分離した。上清を除去し、リゾチーム(生化学工業社製, 5mg/ml)を添加し、37℃、10分静置した。その後DNase(QIAGEN社製)処理、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いてLactococcus lactis JCM5805、JCM20101及びLactobacillus rhamnosus ATCC53103のtotal RNAを調製した。Total RNAをそれぞれ0.1、1、10μg/mlで実施例3に従って培養した細胞培養系に添加した。48時間後の培養上清を回収し、培養上清中IFN-α産生量をELISAにて測定した。また、菌体そのものもコントロールとして使用した。
【0076】
<結果>
結果を
図10に示す。Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101 DNAは予想通り、強いIFN-α誘導活性を有しており、Lactococcus lactis JCM5805では1μg/mlで、Lactococcus lactis JCM20101では10μg/ml添加で活性が明らかに検出された。また、菌体自体では活性が検出されないLactobacillus rhamnosus ATCC53103においてもDNAはLactococcus lactis JCM20101と同程度の活性が見られた。さらに、驚くべきことにLactococcus lactis JCM20101ではtotal RNA添加によって活性が検出され、1μg/ml以上でIFN-α産生が誘導された。
【0077】
これらのことから、(1)IFN-α産生誘導活性の活性本体はDNAであり、菌体として活性の無い株のDNAにも活性はある。(2)Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101に代表されるpDC活性化・IFN-α産生誘導乳酸菌は菌体としてpDCに認識されるために、DNA抽出を行わないでも活性が検出されるが、Lactobacillus rhamnosus ATCC53103のような株に活性が無い理由はpDCに認識されないことである。(3)まれにDNA以外に乳酸菌RNAが活性を持つことがあり、TLRLとして機能する。ことが明らかとなった。今回のLactococcus lactis JCM20101 RNAは前実施例と合わせて考えると、DNAがリガンドとして知られているTLR9に対する初めてのRNAリガンドということになる。
【0078】
[実施例9]
健常マウスにおけるLactococcus lactis JCM5805摂取の効果
これまでの実施例からin vitroにおいて乳酸菌の一部にpDC活性化・IFN-α産生誘導能があることが見出された。そこで代表としてLactococcus lactis JCM5805を取り上げ、in vivoにおける経口投与での免疫賦活効果を検討した。
【0079】
<実験方法>
C57BL/6マウス(7週齢・雌)を1群5匹で、標準食群(AIN93G:オリエンタル酵母工業社製)・Lactococcus lactis JCM5805混餌投与群・Lactobacillus rhamnosus ATCC53103混餌投与群の3群を設定した。乳酸菌の投与量は1日1匹あたり10mgに設定した。採血はday0、3、7(解剖時)に行い、血中IFN-α産生量をELISAにて測定した。また、解剖時の脾臓及び腸間膜リンパ節を摘出し、樹状細胞が濃縮される低密度細胞画分を以下の方法で調製した。(常法に従い脾臓リンパ球及び腸間膜リンパ節リンパ球を調製し、20mM HEPES(GIBCO社製)を含有するHBSS(GIBCO社製)に懸濁し、終濃度が15%となるようにHistodenz(SIGMA-ALDRICH社製)を溶解させた10%FCSを含有するRPMI培地(SIGMA社製)の上に細胞液を重層する。遠心分離の後、中間層の細胞(低密度細胞画分)を回収する。)低密度細胞画分は、pDCゲート用に抗CD11b-APC-Cy7(BD Pharmingen社製)、抗mPDCA-1-APC(Milteny Biotec社製)、抗CD11c-PE-Cy7(eBiosciencs社製)、活性化指標として抗MHC classII-FITC(eBiosciencs社製)、抗CD86-PE(eBiosciencs社製)抗体で染色し、フローサイトメーターでin vivoにおけるpDCゲート(CD11c
intCD11b
-mPDCA-1
+)を設定し、pDC上の活性化マーカーであるMHC classII及びCD86の発現量を測定した。健常マウスにおけるLactococcus lactis JCM5805摂取の効果の検討方法の概要を
図11に示す。
【0080】
<結果>
図12に血中IFN-αの測定結果を
図13A〜DにpDCの活性化の結果を示す。
図13A及び
図13Bがそれぞれ脾臓及び腸間膜リンパ節におけるpDCでのMHC classIIの変動を示し、
図13C及び
図13Dはそれぞれ脾臓及び腸間膜リンパ節におけるpDCでのCD86の変動を示す。血中IFN-αについては、Lactobacillus rhamnosus ATCC53103投与群においては標準食群同様全く増加が起こらなかった。一方、Lactococcus lactis JCM5805投与群においてはday3及びday7でIFN-α上昇傾向が観察された(
図12)。また、pDCの活性化状態については、MHC classII及びCD86の変動はLactobacillus rhamnosus ATCC53103投与群では脾臓・腸間膜リンパ節いずれの組織のリンパ球でも観察されなかった。Lactococcus lactis JCM5805投与群では、脾臓でのpDC活性化は起こらなかったが、腸間膜リンパ節では有意な活性化がMHC classII、CD86共に観察された。
【0081】
以上の結果から、Lactococcus lactis JCM5805はin vitro同様in vivoにおいてもpDCを刺激し、IFN-α産生を誘導しうることが示唆された。
【0082】
[実施例10]
免疫抑制モデルにおけるJCM5805株摂取の効果
本発明で規定される乳酸菌は健常人はもとより、特に免疫の低下している人あるいは老人への投与が想定されるため、免疫抑制モデルでのLactococcus lactis JCM5805摂取効果を検討した。
【0083】
<実験方法>
C57BL/6マウス(7週齢・雌)を1群5匹で、標準食群(AIN93G:オリエンタル酵母工業社製)・Lactococcus lactis JCM5805混餌投与群の2群に分けた。Lactococcus lactis JCM5805投与期間は2週間で、Lactococcus lactis JCM5805投与開始時をday-7とし、day0に免疫抑制剤であるシクロホスファミド(SIGMA-ALDRICH社製)を200mg/kgの用量で腹腔内投与した。採血はday -7、-1、3、7(解剖時)に行い、前実施例同様に血中IFN-αの量を測定した。最後に解剖を行い、脾臓中のpDC活性化度を前実施例と同様に測定した。また、採血と同時に体重測定も行った。
図14に免疫抑制モデルを用いたJCM5805の評価法の概要を示す。
【0084】
<結果>
図15Aに免疫抑制マウスモデルの体重の変化を示し、
図15Bに血中IFN-α濃度の変動を示す。
図16AにpDCでのMHC classIIの変動を示し、
図16BにpDCでのCD86の変動を示す。また、
図16CにpDCの割合を示し、
図16Dにフローサイトメーターでの測定結果を示す。体重変化については、標準食群ではシクロホスファミド投与後に大きな減少が起こったが、Lactococcus lactis JCM5805投与群では減少が抑制傾向となった。血中IFN-αについては標準食群では最終的に検出されなくなったが、Lactococcus lactis JCM5805投与群では解剖時においても産生が維持されていた。脾臓中のpDC活性化度合い比較では、Lactococcus lactis JCM5805投与群においてMHC classII及びCD86共に標準食群に比べて有意な上昇を認めた。さらに、興味深いことに脾臓中のpDCの比率がLactococcus lactis JCM5805投与群では有意に増加していた。これらの結果から、Lactococcus lactis JCM5805は摂取することにより、ストレスや老化などの原因により日常生活で生じる免疫抑制現象に対して拮抗的に働き、免疫低下に伴って起こる感染症予防に大きく寄与することが示唆された。
【0085】
[実施例11]
乳製品製造適正化確認
本発明で規定される乳酸菌を用いて、発酵乳(ハードタイプ、ソフトタイプヨーグルト)、ナチュラルチーズの作成を検討した。
【0086】
ここで言うハードタイプヨーグルトとは、別名セット型ヨーグルト、静置型ヨーグルトと呼ばれているカップ充填後に発酵するヨーグルトである。
【0087】
ここで言うソフトタイプヨーグルトとは、別名前発酵ヨーグルト、攪拌型ヨーグルトと呼ばれているカップ充填前に発酵させるタイプをいう。
【0088】
<実験方法>
1.ハードタイプヨーグルト
(Lactobacillus bulgaricus、Streptococcus thermophilus との混合培養)
(1) 原材料として、乳原料(牛乳、脱脂粉乳等)、高度分岐環状デキストリン(日本食品化工株式会社製“クラスターデキストリン”(商品名))、乳ペプチド(汎用品)、ヨーグルトフレーバー(長谷川香料)を使用した。
【表1】
【0089】
(2) 上記原材料を混合分散し、70℃付近まで加熱し、均質圧(15〜17MPa)でホモジナイザーにかける。95℃10分ほど加熱殺菌し、35℃付近まで冷却し、乳酸菌を添加し(菌種:L.bulgaricus、St.thermophilus、Lc.lactis JCM5805株)、カップに充填し蓋を装着後32℃で6〜7時間程度で発酵させた。乳酸酸度が0.70に達した時点で10℃まで冷却保管した。
【0090】
結果:
(1) 香味 良好
(2) 乳酸菌数 (Lc.lactis JCM5805株) 10
7/g以上
2.ハードタイプヨーグルト
(1) 原材料として、乳原料(牛乳、脱脂粉乳等)、高度分岐環状デキストリン(日本食品化工株式会社製“クラスターデキストリン”(商品名))、乳ペプチド(汎用品)、ヨーグルトフレーバー(長谷川香料)を使用した。
【表2】
【0091】
(2) 上記原材料を混合分散し、70℃付近まで加熱し、均質圧(15〜17MPa)でホモジナイザーにかける。95℃10分ほど加熱殺菌し、35℃付近まで冷却し、乳酸菌を添加し(菌種:Lc.lactis JCM5805株)、カップに充填し蓋を装着後32℃で16時間程度で発酵させた。乳酸酸度が0.70に達した時点で10℃まで冷却保管した。
【0092】
結果:
(1) 香味 良好
(2) 乳酸菌数 (Lc.lactis JCM5805株) 10
7/g以上
3.ソフトタイプヨーグルト
(1) 原材料として、乳原料(牛乳、脱脂粉乳等)、高度分岐環状デキストリン(日本食品化工株式会社製“クラスターデキストリン”(商品名))、乳ペプチド(汎用品)、ヨーグルトフレーバー(長谷川香料)を使用した。
【表3】
【0093】
上記原材料を混合分散し、70℃付近まで加熱し、均質圧(15〜17MPa)でホモジナイザーにかける。125℃まで加熱殺菌し、35℃付近まで冷却し、乳酸菌を添加し(菌種: Lc.lactis JCM5805 株)、32℃で16時間程度で発酵させた。pH4.6で発酵終了とし、20℃程度に冷却し、攪拌充填する。10℃以下で冷却保管した。
【0094】
結果:
(1) 香味 良好
(2) 乳酸菌数 (Lc.lactis JCM5805株) 10
7/g以上
4.ドリンクタイプヨーグルト
(1) 原材料として、乳原料(牛乳、脱脂粉乳等)、高度分岐環状デキストリン(日本食品化工株式会社製“クラスターデキストリン”(商品名))、乳ペプチド(汎用品)、ヨーグルトフレーバー(長谷川香料)を使用した。
【表4】
【0095】
(2) 上記原材料を混合分散し、70℃付近まで加熱し、均質圧(15〜17MPa)でホモジナイザーにかける。125℃まで加熱殺菌し、35℃付近まで冷却し、乳酸菌を添加し(菌種: Lc.lactis JCM5805 株)、32℃で16時間程度で発酵させた。pH4.6で発酵終了とし、10℃程度に冷却し、均質化(無圧)を行い。10℃以下で冷却保管した。
【0096】
結果:
(1) 香味 良好
(2) 乳酸菌数 (Lc.lactis JCM5805株) 10
7/g以上
5. ナチュラルチーズ
(1) 原材料として、乳原料(牛乳)、レンネット(クリスチャンハンセン社 Standard Plus290)、塩化カルシウム(汎用品)を使用した。
【表5】
【0097】
(2) 生乳を75℃15秒加熱殺菌し、30℃付近まで冷却し、乳酸菌を添加し(菌種: Lc.lactis JCM5805 株)、30℃で1時間程度で発酵させた。pH6.4、酸度0.13程度目安で発酵終了とし、塩化カルシウム、レンネット(クリスチャンハンセン社 Standard Plus290)を添加し3分程度攪拌し30分後にカード形成を確認。カードサイズ1〜2cm角程度でカッティングを行う。ホエイを除去し固詰め(モルディング)、反転を数回行い12時間静置。
【0098】
モールドに入れてカード重量に対して10倍程度の重量をかけて加圧し水分調整を行った。
【0099】
結果:
(1) 香味 良好
(2) 乳酸菌数 (Lc.lactis JCM5805株) 10
7/g以上
[実施例12]
Lactococcus lactis JCM5805、20101及びLactobacillus rhamnosus ATCC53103の生菌での効果
これまでの実施例より加熱死菌体での活性はわかっているが、生菌においてpDCに作用し得るか明らかではなかった。そこで、pDC/mDCの培養系を用いて、マウスpDCに対するLactococcus lactis JCM5805、20101及びLactobacillus rhamnosus ATCC53103の生菌での効果を調べた。
【0100】
<実験方法>
生菌乳酸菌株の調製
実施例1に従ってLactococcus lactis JCM5805、JCM20101及びLactobacillus rhamnosus ATCC53103を静置培養した。集菌後、滅菌水で3回洗浄した菌をPBSに懸濁し、粒度分布測定装置 CDA-1000X(sysmex社製)を用いて乳酸菌数を測定し、1×10
6、1×10
7、1×10
8cellsとなるようにpDC/mDCの培養系に添加し、48時間 CO
2インキュベータで培養した。その後、培養上清を回収し、培養上清中IFN-α産生量をELISA法にて測定した。
【0101】
<結果>
結果を
図18に示す。Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101の生菌は細菌数依存的にIFN-α産生誘導が見られた。一方で、Lactobacillus rhamnosus ATCC53103の生菌ではIFN-α産生産生誘導は全く見られなかった。Lactococcus lactis JCM5805、JCM20101は加熱死菌体・生菌であることを問わず、pDCに作用し強力なIFN-α産生誘導を引き起こしていることが明らかとなった。
【0102】
[実施例13]
Lactococcus lactis JCM5805のヒトpDCに対する作用
これまでの実施例よりマウスpDCに作用し得る乳酸菌株を発見した。一方で、ヒトpDCに作用し得るかについてはわかっていなかったため、ヒトPBMCからpDCをMACS法にて分離し、代表としてJCM5805を取り上げ、ヒトpDCに対する作用を調べた。
【0103】
<実験方法>
・PBMCについて
LONZA社より購入した。
【0104】
・MACS法によるpDCの分離・純度確認
Plasmacytoid Dendritic Cell Isolation Kit(Miltenyi Biotec社製)のプロトコルに従い、MACS法にてヒトpDCを分離した(純度97%)。ヒトpDCは5×10
4cellsを96well平底プレート(CORNING社製)で培養した。分離したヒトpDCにはsurvival factorとしてIL-3(R&D SYSTEMS社製)を10ng/mlで添加した。ヒトpDCの純度確認にヒトpDCゲート用に抗CD123-FITC(AC145)、抗BDCA4-APC(AD-17F6) (Miltenyi Biotec社製)の各抗体を用いて染色し、FACS CantoII(BD社製)を用いて解析した。
【0105】
・リガンド添加・細胞培養・ELISA法
Lactococcus lactis JCM5805の最終濃度が10μg/mlとなるように添加し、24時間CO
2インキュベータで培養した。ヒトIFN-αはHuman IFN-α ELISA Kit(PBL BIOMEDICAL LABORATORIES社製)を用いて測定した。
【0106】
・RT-PCR法によるIFNs遺伝子発現の解析
培養後の細胞を回収し、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いてtotal RNAを抽出した。iScript cDNA Synthesis Kit(BIO-RAD社製)を用いてtotal RNA 200ngからcDNAを合成し、これを鋳型にして、IFN-α1、IFN-β、IFN-λ1、及びGAPDH遺伝子について、PCR法による増幅を行った。PCR反応は、TaKaRa Ex Taq(TaKaRa社製)及び非特許文献7に記載のプライマーを用い、一般的な反応組成に従って、94℃で1分間、続いて、94℃で30秒間、各遺伝子49,45,49,45℃で30秒間、72℃で15秒間を35サイクル、最後に72℃で3分間反応させた。PCR反応液を一般的な方法で電気泳動し、増幅断片の有無及び濃淡を確認した。
【0107】
<結果>
結果を
図19に示す。
図19A、B及びCは、それぞれ、MACS法にて分離されたヒトpDCの純度、ELISA法でタンパク質レベルで検出されたIFN-α産生量、RT-PCR法にて検出されたIFN-α1、β、λ、及びGAPDHの遺伝子発現を示す。Lactococcus lactis JCM5805の添加によって、タンパク質レベルでIFN-α産生誘導が見られた。また、IFN-α1、β、λ1の遺伝子発現が誘導されることも確認した。これらの結果から、Lactococcus lactis JCM5805はヒトpDCに対しても作用することが明らかとなった。
【0108】
[実施例14]
Lactococcus lactis JCM5805ヨーグルトのヒトにおける抗ウイルス活性に及ぼす影響の検討試験
これまでの実施例よりLactococcus lactis JCM5805のマウス及びヒトの細胞に対するin vitroでの効果、またマウスに摂食させた際の効果を確認できており、これらの結果をふまえてヒトに摂取させた際の効果の検証を行った。
【0109】
<試験概要>
・試験食品
試験食品として以下の2種類を用いた。
【0110】
(1)被験食品:Lactococcus lactis JCM5805ヨーグルト飲料
(2)プラセボ:乳酸菌非含有ヨーグルト様飲料
・目的 本試験は、健康な勤労者成人男女にLactococcus lactis JCM5805ヨーグルト飲料を約4週間連続摂取させた際の、抗ウイルス活性に関する血液バイオマーカー、及び体調アンケートによる主観的評価に及ぼす影響について、プラセボである乳酸菌非含有ヨーグルト様飲料を対照として検討することを目的として行った。
【0111】
・試験対象 試験対象は、重篤な持病や乳アレルギー等が無く、所定のウイルス検査で問題の無い被験者、試験食品摂取期間中のヨーグルト及びチーズの摂取を制限できる被験者、及びステロイド系の薬品を服用(内服・外用)されていない被験者であった。
【0112】
・被験者数 38名(各グループ19名ずつ)の被験者を用いた。
【0113】
・試験デザイン ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を行った。
【0114】
・関与成分の一日の摂取量 Lactococcus lactis JCM5805株を目安として約1×10
11cfuを1日の摂取量とした。
【0115】
・摂取方法
試験食品の摂取量は1日1本(100ml)とし、食前食後問わず午前中に摂取した。
【0116】
・試験スケジュール
試験食品摂取期間は約4週間とした。採血は、グループ分けのための事前検査(摂取開始1ヶ月前)、0週検査(摂取開始前日)、4週検査(摂取終了翌日)の3度実施した。被験者は体調アンケートに摂取期間中毎日記載した。
【0117】
・評価項目
血中pDC活性(pDC表面マーカー:MHC classII、CD86)、血中IFN-α遺伝子発現、末梢血単核球(PBMC)をCpG DNA刺激した際のIFN-α産生能を測定し、体調アンケートによる風邪症状の主観的評価を行った。
【0118】
<実験方法>
血液バイオマーカーの解析において、0週検査と4週検査で採取した血液よりPBMCを分離し、検査に供した。
【0119】
1×10
6 cellsのPBMCを抗CD123-FITC(AC145)(Miltenyi Biotec社製)、抗BDCA4-APC(AD-17F6)(Miltenyi Biotec社製)、抗CD86-PE(B7.2) (eBioscience社製)、及び抗HLA-DR-PerCP(L243)(BD Biosciences社製)を用いて定法に従って染色し、FACS CantoII(BD社製)を用いてCD123
+BDCA4
+で検出される細胞集団のHLA-DR(MHC classII)とCD86の蛍光強度を測定し、これをpDC活性の指標とした。
【0120】
血中IFN-α遺伝子発現について、1×10
6 cellsのPBMCからRNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いてtotal RNAを抽出した。iScript cDNA Synthesis Kit(BIO-RAD社製)を用いてtotal RNA 100ngからcDNAを合成し、これを鋳型にして、IFN-α1遺伝子(リファレンスとしてGAPDH遺伝子)についてReal-time PCR解析を行った。Real-time PCR解析は、SYBR Premix Ex Taq(TaKaRa社製)及び非特許文献7に記載のプライマーを用い、一般的な反応組成に従って、95℃で10秒間、続いて、95℃で10秒間、49で5秒間、72℃で10秒間を50サイクル反応させた。
【0121】
血中pDCをCpG DNA刺激した際のIFN-α産生能について、5×10
5 cellsのPBMCを24 well平底プレート(CORNING社製)に播き、CpG-ODN2216(CpG-A)(InvivoGen社製)を最終濃度0.5μM/mLとなるように添加した。また、全ての被験者サンプルにおいてCpG DNA添加しないコントロールを設定した。37℃のCO
2インキュベータで24時間培養し、上清を回収してHuman IFN-α Matched Antibody Pairs for ELISA(eBioscience社製)を用いてIFN-α産生量を測定した。
【0122】
なお、in vitroにおいてヒトpDCに化膿レンサ球菌やインフルエンザウイルスを作用させるとMHC classIIはレスポンス良く発現上昇するがCD86には有意な上昇が見られないことが報告されているため(非特許文献8)、MHC classIIを主要な活性化マーカーとし、全てのバイオマーカーの解析において解析対象はMHC classII活性平均値±2SDの36サンプル(各グループ18サンプル)とした。また、全ての解析において、0週検査時のMHC classII活性平均値より高い方(以下pDC活性高値)と低い方(以下pDC活性低値)を分けて解析を実施した。
【0123】
体調アンケートについて、風邪の主な症状(鼻水、鼻づまり、くしゃみ、のどの痛み・いがいが感、咳、頭痛、熱っぽさ)7項目について5段階(1:症状なし<5:重症)の評価を毎日行い、7項目の平均値を風邪の症状の程度を表す指標とした。
【0124】
<結果>
血中pDC活性の結果を
図20に示す。
図20A,DはpDCにおけるMHC classII及びCD86活性の0週検査から4週検査にかけての変化率を示す。MHC classII及びCD86活性の変化率は、いずれもLactococcus lactis JCM5805ヨーグルト飲料摂取グループ(以下JCM5805グループ)において乳酸菌非含有ヨーグルト様飲料摂取グループ(以下プラセボグループ)に対して有意に高かった。また、pDC活性高値とpDC活性低値で分けて解析を行った結果を、MHC classII活性変化率についてそれぞれ
図20Bと
図20Cに、CD86活性変化率についてそれぞれ
図20Eと
図20Fに示した。MHC classII活性の変化率について、pDC活性高値ではJCM5805グループとプラセボグループの間で有意な差はないが、pDC活性低値ではJCM5805グループがプラセボグループに対して有意に高かった。また、CD86活性変化率についてはpDC活性高値・低値いずれにおいてもプラセボグループとJCM5805グループに有意な差は認められなかった。これは非特許文献8に記載のように、CD86がpDC活性を反映しにくいことに起因しているものと考えられた。以上の結果より、Lactococcus lactis JCM5805を摂取することによりpDC活性が上昇すること、特にpDC活性が低く免疫力が弱い方において効果を発揮することが示された。
【0125】
pDC活性低値における血中IFN-α遺伝子発現解析の結果を
図21に示す。pDC活性低値において、プラセボグループでは0週検査から4週検査にかけて有意な変化はないが、JCM5805グループでは0週検査から4週検査にかけて有意な発現上昇が認められた。なお、pDC活性高値においてはプラセボグループとJCM5805グループともに0週検査から4週検査にかけて有意な変化は認められなかった(data not shown)。以上の結果より、Lactococcus lactis JCM5805を摂取することにより、ヒト血中IFN-α遺伝子の転写量が上昇することが示された。
【0126】
pDC活性低値における血中pDCにCpG DNA刺激を与えた際のIFN-α産生能の結果を
図22に示す。pDC活性低値において、プラセボグループでは0週検査から4週検査にかけて有意な変化はないが、JCM5805グループでは0週検査から4週検査にかけて有意に上昇した。なお、pDC高値においてはJCM5805グループで0週検査から4週検査にかけて有意な変化は認められなかった(data not shown)。認められなかった(data not shown)。CpG DNAはTLR9をターゲットとする核酸リガンドであり、pDCのウイルス認識機構は、ウイルスDNAあるいはRNAをTLR9あるいはTLR7/8によって感知することによることから、CpG DNAという核酸リガンド刺激によって擬似的にウイルス認識機構を刺激したものである。すなわち、本試験の結果より、CpG DNA刺激によって誘発されるpDC活性化がLactococcuslactis JCM5805株摂取グループで強化されることは、ウイルス感染時のレスポンスが向上することが示唆された。
【0127】
体調アンケートの結果を
図23に示す。JCM5805グループとプラセボグループにおいて、風邪の症状が出た延べ日数と風邪の症状が出なかった延べ日数を1週間ごとに出し、Χ二乗検定を行ったところ、4週目においてJCM5805グループはプラセボグループ対して有意に風邪症状の出た延べ日数が少なく、風邪症状の出なかった延べ日数が多かった。すなわち、Lactococcus lactis JCM5805を4週間連続で摂取したことにより被験者が風邪をひきにくくなったことが示された。
【0128】
以上の結果、Lactococcus lactis JCM5805をヒトにおいて摂取することで血中pDCが活性化されIFN-α産生能が上昇し、ウイルス罹患時の反応性が向上し、その結果風邪をひきにくくなることが示唆された。特に、これらの効果は抗ウイルス感染に関わる免疫力(pDC活性)が低く風邪をひくリスクが高い方において、顕著に認められた。
【0129】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。