特許第5950859号(P5950859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5950859通信品質推定方法、通信品質推定装置、通信品質推定用プログラム及び無線通信システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5950859
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】通信品質推定方法、通信品質推定装置、通信品質推定用プログラム及び無線通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04W 24/08 20090101AFI20160630BHJP
   H04W 16/18 20090101ALI20160630BHJP
【FI】
   H04W24/08
   H04W16/18
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-70889(P2013-70889)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-195191(P2014-195191A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2015年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】縄田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】小頭 秀行
(72)【発明者】
【氏名】阿野 茂浩
【審査官】 松野 吉宏
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/069708(WO,A1)
【文献】 特開2010−148148(JP,A)
【文献】 縄田秀一、小頭秀行、横田英俊,統計情報に基づくユーザスループット推定手法の検討,電子情報通信学会ソサイエティ大会講演論文集,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2013年 9月 3日,2013年_通信(1),p.476
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24 − 7/26
H04W 4/00 − 99/00
3GPP TSG RAN WG1−4
SA WG1−2
CT WG1
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局と、前記基地局と通信可能な複数の携帯端末とを備える無線通信システムにおける通信品質を推定するための通信品質推定方法であって、
複数の携帯端末において測定された通信試行単位のスループットの統計値を含む端末統計情報を生成するステップと、
複数の第1測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第1測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末1台あたりのスループットである第1基地局スループットの統計値を含む第1基地局統計情報を生成するステップと、
前記第1基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第1測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第1推定統計情報を生成するステップと、
を備える通信品質推定方法。
【請求項2】
前記端末統計情報を生成するステップは、
前記複数の携帯端末から、通信試行単位のスループットの実測値と、それぞれの携帯端末の位置を示す位置情報とを受信するステップと、
前記位置情報に対応する位置が属するエリアごとに、前記実測値の平均と分散とを算出するステップと、
前記平均と前記分散との関係を示す関係情報を生成するステップと、
を有し、
前記第1推定統計情報を生成するステップにおいて、前記第1基地局統計情報と前記関係情報に基づいて前記第1推定統計情報を生成する、
請求項1に記載の通信品質推定方法。
【請求項3】
前記第1推定統計情報を生成するステップは、
前記第1基地局スループットの平均値と前記関係情報とに基づいて、複数の統計分布情報を生成するステップと、
前記複数の第1測定期間において前記平均値が発生した確率に基づいて前記複数の統計分布情報のそれぞれを重み付けすることで複数の重み付け統計情報を生成するステップと、
前記複数の重み付け統計情報のそれぞれを加算することで、前記第1推定統計情報を生成するステップと、
を有する、
請求項2に記載の通信品質推定方法。
【請求項4】
前記第1推定統計情報を生成するステップの後に、
複数の第2測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第2測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末1台あたりのスループットである第2基地局スループットの統計値を含む第2基地局統計情報を生成するステップと、
前記第2基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第2推定統計情報を生成するステップと、
前記第2推定統計情報と、前記端末統計情報に含まれる統計値と前記第1推定統計情報に含まれる統計値との差分を示す差分情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記携帯端末における通信試行単位のスループットの統計値を含む第3推定統計情報を生成するステップと、
をさらに備える、
請求項1から3のいずれか1項に記載の通信品質推定方法。
【請求項5】
前記第3推定統計情報を生成するステップは、
前記第1推定統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの最頻値又は平均値に対する、前記端末統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの最頻値又は平均値の減少率を算出するステップと、
前記第2推定統計情報と前記減少率とに基づいて、前記複数の第2測定期間の前記携帯端末における通信試行単位のスループットの最頻値又は平均値を算出するステップと、
を有する、
請求項4に記載の通信品質推定方法。
【請求項6】
前記第3推定統計情報を生成するステップは、
前記第1推定統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの分散又は標準偏差に対する、前記端末統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの分散又は標準偏差の減少率を算出するステップと、
前記第2推定統計情報と前記減少率とに基づいて、前記複数の第2測定期間の前記携帯端末における通信試行単位のスループットの分散又は標準偏差を算出するステップと、
を有する、
請求項4又は5に記載の通信品質推定方法。
【請求項7】
前記第3推定統計情報を生成するステップの後に、
前記第3推定統計情報が示す、前記携帯端末における通信試行単位のスループットの良否を判定する基準を示す判定基準情報を取得するステップと、
前記判定基準情報に基づいて、前記第3推定統計情報が示す、前記携帯端末における通信試行単位のスループットの良否を判定するステップと、
前記第3推定統計情報の良否の判定結果に応じて、前記第3推定統計情報の推定に用いられた前記第2推定統計情報が示す、前記基地局における通信試行単位のスループットの良否を判定するステップと、
前記第2推定統計情報に関連付けて、通信品質の良否を示す通信品質判定基準を記憶部に記憶させるステップと、
前記通信品質判定基準に基づいて、前記基地局と前記携帯端末との間の通信品質の良否を判定するステップと、
をさらに備える、
請求項4から6のいずれか1項に記載の通信品質推定方法。
【請求項8】
前記第3推定統計情報を生成するステップの後に、
前記第3推定統計情報が示す、前記携帯端末における通信試行単位のスループットの良否を判定する基準を示す判定基準情報を取得するステップと、
前記判定基準情報に基づいて、前記第3推定統計情報が示す、前記携帯端末における通信試行単位のスループットの良否を判定するステップと、
前記第3推定統計情報の良否の判定結果に応じて、前記第3推定統計情報に対応する前記第2基地局統計情報及び前記第2基地局スループットのいずれかの良否を判定するステップと、
前記第2基地局統計情報及び前記第2基地局スループットのいずれかに関連付けて、通信品質の良否を示す通信品質判定基準を記憶部に記憶させるステップと、
前記通信品質判定基準に基づいて、前記基地局と前記携帯端末との間の通信品質の良否を判定するステップと、
をさらに備える、
請求項4から6のいずれか1項に記載の通信品質推定方法。
【請求項9】
基地局と、前記基地局と通信可能な複数の携帯端末とを備える無線通信システムにおける通信品質を推定するための通信品質推定用プログラムであって、
コンピュータに、
複数の携帯端末において測定された通信試行単位のスループットの統計値を含む端末統計情報を生成するステップと、
複数の第1測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第1測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末1台あたりのスループットである第1基地局スループットの統計値を含む第1基地局統計情報を生成するステップと、
前記第1基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第1測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第1推定統計情報を生成するステップと、
を実行させるための通信品質推定用プログラム。
【請求項10】
前記コンピュータに、
前記第1推定統計情報を生成するステップの後に、
複数の第2測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第2測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末1台あたりのスループットである第2基地局スループットの統計値を含む第2基地局統計情報を生成するステップと、
前記第2基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第2推定統計情報を生成するステップと、
前記第2推定統計情報と、前記端末統計情報と前記第1推定統計情報との差分を示す差分情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記携帯端末における通信試行単位のスループットの統計値を含む第3推定統計情報を生成するステップと、
前記第1推定統計情報、前記第2推定統計情報及び前記第3推定統計情報の少なくともいずれかに含まれる統計値を表示するステップと、
をさらに実行させるための、
請求項9に記載の通信品質推定用プログラム。
【請求項11】
基地局と、前記基地局と通信可能な複数の携帯端末とを備える無線通信システムにおける通信品質を推定する通信品質推定装置であって、
前記複数の携帯端末において測定された通信試行単位のスループットの統計値を含む端末統計情報を生成する第1生成部と、
複数の第1測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第1測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末1台あたりのスループットである第1基地局スループットの統計値を含む第1基地局統計情報を生成する第2生成部と、
前記第1基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第1測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第1推定統計情報を生成する第3生成部と、
を備える通信品質推定装置。
【請求項12】
複数の第2測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第2測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末1台あたりのスループットである第2基地局スループットの統計値を含む第2基地局統計情報を算出する第4生成部と、
前記第2基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第2推定統計情報を生成する第5生成部と、
前記第2推定統計情報と、前記端末統計情報と前記第1推定統計情報との差分を示す差分情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記携帯端末における通信試行単位のスループットの統計値を含む第3推定統計情報を生成する第6生成部と、
をさらに備える、
請求項11に記載の通信品質推定装置。
【請求項13】
基地局と、前記基地局と通信可能な複数の携帯端末と、前記基地局と前記複数の携帯端末との間の通信の品質を推定する通信品質推定装置を備える無線通信システムであって、
前記複数の携帯端末において測定された通信試行単位のスループットの統計値を含む端末統計情報を生成する第1生成部と、
複数の第1測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第1測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末1台あたりのスループットである第1基地局スループットの統計値を含む第1基地局統計情報を生成する第2生成部と、
前記第1基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第1測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第1推定統計情報を生成する第3生成部と、
前記端末統計情報及び前記第1推定統計情報を記憶する記憶部と、
を備える無線通信システム。
【請求項14】
複数の第2測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第2測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末1台あたりのスループットである第2基地局スループットの統計値を含む第2基地局統計情報を算出する第4生成部と、
前記第2基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第2推定統計情報を生成する第5生成部と、
前記第2推定統計情報と、前記端末統計情報と前記第1推定統計情報との差分を示す差分情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記携帯端末における通信試行単位のスループットの統計値を含む第3推定統計情報を生成する第6生成部と、
をさらに備える、
請求項13に記載の無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯端末と基地局との間の通信品質の推定に係る通信品質推定方法、通信品質推定装置、通信品質推定用プログラム及び無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線通信システムにおける携帯端末と基地局との間の通信品質を向上するために、それぞれの携帯端末における通信品質の測定結果を基地局に送信し、基地局が、測定結果に基づいて携帯端末との間のデータ送受信を制御する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、OFDMA方式を用いた無線通信システムにおいて、基地局が、サブフレームごとに携帯端末から収集したチャネル品質情報を平滑化して品質を推定することで、一時的な品質の変動の影響を低減させて無線チャネルのスケジューリングを行う方法も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−318861号公報
【特許文献2】特開2012−124585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法によれば、それぞれの携帯端末における通信品質の測定結果が基地局に送信される。ところが、それぞれの携帯端末が測定結果を基地局に送信すると、測定結果を送信するために無線チャネルが使用されてしまい、携帯端末が使用できる無線チャネルが減少するので、他の携帯端末の通信品質の劣化を招いてしまうという問題がある。
【0006】
特許文献2に記載の方法によれば、サブフレームごとに携帯端末からチャネル品質情報を受信するので、基地局は、頻繁にチャネル品質情報を集計する必要がある。したがって、当該方法においては、基地局における処理の負荷が大きいという問題がある。特に、1台の基地局に収容される携帯端末の数が増えると、多数の携帯端末からチャネル品質情報を受信する基地局の負荷が増大してしまう。
【0007】
そこで、本発明はこれらの課題を解決するためになされたものであり、無線チャネルを過剰に使用したり基地局に過大な負荷をかけたりすることなく、携帯端末と基地局との間の通信の品質を推定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る通信品質推定方法は、複数の携帯端末において測定された通信試行単位のスループットの統計値を含む端末統計情報を生成するステップと、複数の第1測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第1測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末1台あたりのスループットである第1基地局スループットの統計値を含む第1基地局統計情報を生成するステップと、前記第1基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第1測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第1推定統計情報を生成するステップと、を備える。
【0009】
前記端末統計情報を生成するステップは、例えば、前記複数の携帯端末から、通信試行単位のスループットの実測値と、それぞれの携帯端末の位置を示す位置情報とを受信するステップと、前記位置情報に対応する位置が属するエリアごとに、前記実測値の平均と分散とを算出するステップと、前記平均と前記分散との関係を示す関係情報を生成するステップと、を有し、前記第1推定統計情報を生成するステップにおいて、前記第1基地局統計情報と前記関係情報に基づいて前記第1推定統計情報を生成する。
【0010】
前記第1推定統計情報を生成するステップは、前記第1基地局スループットの平均値と前記関係情報とに基づいて、複数の統計分布情報を生成するステップと、前記複数の第1測定期間において前記平均値が発生した確率に基づいて前記複数の統計分布情報のそれぞれを重み付けすることで複数の重み付け統計情報を生成するステップと、前記複数の重み付け統計情報のそれぞれを加算することで、前記第1推定統計情報を生成するステップと、を有してもよい。
【0011】
上記の通信品質推定方法は、前記第1推定統計情報を生成するステップの後に、複数の第2測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第2測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末1台あたりのスループットである第2基地局スループットの統計値を含む第2基地局統計情報を生成するステップと、前記第2基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第2推定統計情報を生成するステップと、前記第2推定統計情報と、前記端末統計情報に含まれる統計値と前記第1推定統計情報に含まれる統計値との差分を示す差分情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記携帯端末における通信試行単位のスループットの統計値を含む第3推定統計情報を生成するステップと、をさらに備えてもよい。
【0012】
前記第3推定統計情報を生成するステップは、例えば、前記第1推定統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの最頻値又は平均値に対する、前記端末統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの最頻値又は平均値の減少率を算出するステップと、前記第2推定統計情報と前記減少率とに基づいて、前記複数の第2測定期間の前記携帯端末における通信試行単位のスループットの最頻値又は平均値を算出するステップと、を有する。
【0013】
前記第3推定統計情報を生成するステップは、前記第1推定統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの分散又は標準偏差に対する、前記端末統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの分散又は標準偏差の減少率を算出するステップと、前記第2推定統計情報と前記減少率とに基づいて、前記複数の第2測定期間の前記携帯端末における通信試行単位のスループットの分散又は標準偏差を算出するステップと、を有してもよい。
【0014】
上記の通信品質推定方法は、前記第3推定統計情報を生成するステップの後に、前記第3推定統計情報が示す、前記携帯端末における通信試行単位のスループットの良否を判定する基準を示す判定基準情報を取得するステップと、前記判定基準情報に基づいて、前記第3推定統計情報が示す、前記携帯端末における通信試行単位のスループットの良否を判定するステップと、前記第3推定統計情報の良否の判定結果に応じて、前記第3推定統計情報の推定に用いられた前記第2推定統計情報が示す、前記基地局における通信試行単位のスループットの良否を判定するステップと、前記第2推定統計情報に関連付けて、通信品質の良否を示す通信品質判定基準を記憶部に記憶させるステップと、前記通信品質判定基準に基づいて、前記基地局と前記携帯端末との間の通信品質の良否を判定するステップと、をさらに備えてもよい。
【0015】
上記の通信品質推定方法は、前記第3推定統計情報を生成するステップの後に、前記第3推定統計情報が示す、前記携帯端末における通信試行単位のスループットの良否を判定する基準を示す判定基準情報を取得するステップと、前記判定基準情報に基づいて、前記第3推定統計情報が示す、前記携帯端末における通信試行単位のスループットの良否を判定するステップと、前記第3推定統計情報の良否の判定結果に応じて、前記第3推定統計情報に対応する前記第2基地局統計情報及び前記第2基地局スループットのいずれかの良否を判定するステップと、前記第2基地局統計情報及び前記第2基地局スループットのいずれかに関連付けて、通信品質の良否を示す通信品質判定基準を記憶部に記憶させるステップと、前記通信品質判定基準に基づいて、前記基地局と前記携帯端末との間の通信品質の良否を判定するステップと、をさらに備えてもよい。
【0016】
本発明の第2の態様に係る通信品質推定用プログラムは、コンピュータに、複数の携帯端末において測定された通信試行単位のスループットの統計値を含む端末統計情報を生成するステップと、複数の第1測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第1測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末一台あたりのスループットである第1基地局スループットの統計値を含む第1基地局統計情報を生成するステップと、前記第1基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第1測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第1推定統計情報を生成するステップと、を実行させる。
【0017】
上記の通信品質推定用プログラムは、前記コンピュータに、前記第1推定統計情報を生成するステップの後に、複数の第2測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第2測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末一台あたりのスループットである第2基地局スループットの統計値を含む第2基地局統計情報を生成するステップと、前記第2基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第2推定統計情報を生成するステップと、前記第2推定統計情報と、前記端末統計情報と前記第1推定統計情報との差分を示す差分情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記携帯端末における通信試行単位のスループットの統計値を含む第3推定統計情報を生成するステップと、前記第1推定統計情報、前記第2推定統計情報及び前記第3推定統計情報の少なくともいずれかに含まれる統計値を表示するステップと、をさらに実行させてもよい。
【0018】
本発明の第3の態様に係る通信品質推定装置は、前記複数の携帯端末において測定された通信試行単位のスループットの統計値を含む端末統計情報を生成する第1生成部と、複数の第1測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第1測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末一台あたりのスループットである第1基地局スループットの統計値を含む第1基地局統計情報を生成する第2生成部と、前記第1基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第1測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第1推定統計情報を生成する第3生成部と、を備える。
【0019】
上記の通信品質推定装置は、複数の第2測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第2測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末一台あたりのスループットである第2基地局スループットの統計値を含む第2基地局統計情報を算出する第4生成部と、前記第2基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第2推定統計情報を生成する第5生成部と、前記第2推定統計情報と、前記端末統計情報と前記第1推定統計情報との差分を示す差分情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記携帯端末における通信試行単位のスループットの統計値を含む第3推定統計情報を生成する第6生成部と、をさらに備えてもよい。
【0020】
本発明の第4の態様に係る無線通信システムは、基地局と、前記基地局と通信可能な複数の携帯端末と、前記基地局と前記複数の携帯端末との間の通信の品質を推定する通信品質推定装置を備える無線通信システムであって、前記複数の携帯端末において測定された通信試行単位のスループットの統計値を含む端末統計情報を生成する第1生成部と、複数の第1測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第1測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末一台あたりのスループットである第1基地局スループットの統計値を含む第1基地局統計情報を生成する第2生成部と、前記第1基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第1測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第1推定統計情報を生成する第3生成部と、前記端末統計情報及び前記第1推定統計情報を記憶する記憶部と、を備える。
【0021】
上記の無線通信システムは、複数の第2測定期間に前記基地局が前記複数の携帯端末から受信したデータの量と、前記複数の第2測定期間に前記データを送信した前記携帯端末の台数とに基づいて、携帯端末一台あたりのスループットである第2基地局スループットの統計値を含む第2基地局統計情報を算出する第4生成部と、前記第2基地局統計情報と前記端末統計情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記基地局における通信試行単位のスループットの統計値を含む第2推定統計情報を生成する第5生成部と、前記第2推定統計情報と、前記端末統計情報と前記第1推定統計情報との差分を示す差分情報とに基づいて、前記複数の第2測定期間内の前記携帯端末における通信試行単位のスループットの統計値を含む第3推定統計情報を生成する第6生成部と、をさらに備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態に係る無線通信システムの概要を示す。
図2】本実施形態に係る通信品質推定装置の構成例を示す。
図3】通信品質推定装置が通信品質を推定する動作のフローチャートを示す。
図4】第1生成部が生成した複数のエリアにおけるユーザスループット情報の平均及び分散の関係を示す。
図5】第1基地局スループットを対数正規分布で近似した場合の累積分布関数を示す。
図6】複数の対数正規分布の累積分布関数を示す。
図7】第3生成部が生成した一の対数正規分布を示す。
図8】記憶部に記憶された端末統計情報及び第1推定統計情報と、基地局において測定された基地局スループットに基づいて推定された第1推定統計情報との関係を示す。
図9】第3推定統計情報を生成する処理の概要を示す。
図10】推定された携帯端末における通信試行単位のスループットの分布を示す。
図11】通信品質の良否の判定に用いる第3推定統計情報の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[無線通信システムSの概要]
図1は、本実施形態に係る無線通信システムSの概要を示す。
無線通信システムSは、携帯電話網の基地局1と、複数の携帯端末2(例えば携帯端末2−1及び携帯端末2−2)と、通信品質推定装置3とを備える。基地局1とそれぞれの携帯端末2との間は、無線通信回線により接続されている。通信品質推定装置3は、基地局1と携帯端末2との間の通信の通信品質を推定する。
【0024】
基地局1と通信品質推定装置3との間は、ネットワークNを介して通信可能に接続されている。ネットワークNは、例えばインターネットである。複数の携帯端末2と通信品質推定装置3との間は、基地局1及びネットワークNを介して通信可能に接続されている。なお、複数の携帯端末2は、Wi−Fiアクセスポイント及びネットワークNを介して通信品質推定装置3と通信可能に接続されていてもよい。
【0025】
[携帯端末2におけるユーザスループットの測定]
通信品質推定装置3が通信品質を推定する動作を実行するのに先立って、それぞれの携帯端末2は、予めインストールされたスループット測定用プログラムを用いて、通信試行単位のスループットを測定する。ここで、「通信試行単位」は、携帯端末2が通信を開始してから通信を終了するまでの1回の動作を意味する。「スループット」は、単位時間あたりのデータ伝送量である。したがって、「通信試行単位のスループット」は、携帯端末2が通信を開始してから通信を終了するまでの1回の動作における、単位時間あたりのデータ伝送量を意味する。
【0026】
なお、本明細書において、携帯端末2において測定された通信試行単位のスループットを、「ユーザスループット」と称することがある。ユーザスループットの大きさは、携帯端末2のユーザがWebページや動画コンテンツ等を取得する時に感じる快適性に影響する。
【0027】
携帯端末2は、通信を開始してから通信を終了するまでの間に基地局1に送信したデータ量を測定し、送信したデータ量を通信時間で除することにより、ユーザスループットを測定する。携帯端末2は、ユーザスループットの実測値を含むユーザスループット情報と、通信を行った位置を示す位置情報とを関連付けて、通信品質推定装置3に送信する。携帯端末2は、所定の期間内に複数のユーザスループットを測定し、複数のユーザスループット情報を通信品質推定装置3に送信する。なお、携帯端末2によるユーザスループットの測定は、通信環境の変化に伴うユーザスループットの傾向の変化に対応できるように、例えば数ヶ月〜1年ごとに行われる。
【0028】
[通信品質推定装置3の構成例]
図2は、本実施形態に係る通信品質推定装置3の構成例を示す。通信品質推定装置3は、例えばサーバである。通信品質推定装置3は、記憶部31、通信部32、表示部33及び制御部34を備える。
【0029】
記憶部31は、例えば、ROM及びRAM等により構成される。記憶部31は、携帯端末2を機能させるための各種プログラムを記憶する。記憶部31は、外部メモリやCD−ROM等の記憶媒体に記憶されたプログラムを読み取って記憶してもよく、ネットワークNを介して外部装置からダウンロードされたプログラムを記憶してもよい。
【0030】
通信部32は、制御部34の制御により、ネットワークNを介して基地局1又は携帯端末2と通信を行う。通信部32は、例えば通信コントローラである。
表示部33は、例えば、液晶ディスプレイや有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等により構成される。表示部33は、制御部34の制御に応じて文字や図形等を表示する。
【0031】
制御部34は、例えば、CPUにより構成される。制御部34は、記憶部31に記憶されている通信品質推定用プログラムを実行することにより、通信品質推定装置3に係る機能を統括的に制御する。具体的には、制御部34は、通信品質推定用プログラムを実行することにより、第1生成部341、第2生成部342、第3生成部343、第4生成部344、第5生成部345、第6生成部346及び判定部347として機能する。
【0032】
[通信品質を推定する動作の説明]
図3は、通信品質推定装置3が通信品質を推定する動作のフローチャートを示す。以下、図2及び図3を参照しながら、制御部34の各部の動作について説明する。
【0033】
まず、第1生成部341は、所定の大きさのエリアごとに、それぞれのエリアに含まれる位置を示している位置情報に関連付けて携帯端末2から取得した、複数のユーザスループット情報の統計値を含む端末統計情報を生成する(S1)。具体的には、まず、第1生成部341は、通信部32を介して、携帯端末2におけるユーザスループットの実測値を含むユーザスループット情報と、それぞれの携帯端末2の位置を示す位置情報とを受信する。
【0034】
次に、第1生成部341は、位置情報に対応する位置が属するエリアごとに、ユーザスループットの実測値の平均と分散とを算出する。第1生成部341は、ユーザスループットの分布を、例えば対数正規分布に近似して、端末統計情報として記憶部31に記憶させる。また、第1生成部341は、複数のユーザスループット情報の平均と分散との関係に基づいて、平均と分散との関係を示す関係情報を生成する。
【0035】
図4は、第1生成部341が生成した複数のエリアにおけるユーザスループット情報の平均と分散との関係を示す。図4に示されているそれぞれの点は、数十km四方のエリアをメッシュ状に分割することにより予め定められた複数の500m四方のエリアのうちの、それぞれのエリアにおけるユーザスループット情報の平均及び分散を示している。平均E(X)及び分散V(X)が図4に示した例のように分布している場合、第1生成部341は、V(X)=(1.05×E(X)+60)の関係式により表される関係情報を生成する。
【0036】
続いて、第2生成部342が、複数の第1測定期間に基地局1が複数の携帯端末2から受信したデータの量と、複数の第1測定期間にデータを送信した携帯端末2の台数とに基づいて、携帯端末2の一台あたりのスループットである第1基地局スループットの統計値を含む第1基地局統計情報を生成する(S2)。具体的には、第2生成部342は、第1基地局統計情報を算出する対象となるエリア(例えば数十km四方のエリア)に設置されている複数の基地局1のそれぞれが、第1測定期間として定められた時間(例えば5分間)に複数の携帯端末2から受信したデータの量を示す情報と、第1測定期間にそれぞれの基地局1が通信した携帯端末2の台数を示す情報とを取得する。次に、第2生成部342は、第1測定期間に通信した携帯端末2の台数で、計測したデータの量を除することにより、1台の携帯端末2あたりのデータ通信量を算出する。
【0037】
続いて、第2生成部342は、算出したデータ通信量を通信時間(例えば5分×60秒=300秒)で除することにより、1台の携帯端末2あたりの、1秒あたりのデータ通信量である第1基地局スループットを算出する。第2生成部342は、例えば24時間にわたって5分ごとに測定されたデータ通信量に基づいて、1つの基地局1あたり24時間×60分÷5分=288個の第1基地局スループットを示す情報を得ることができる。第2生成部342は、第1基地局統計情報を算出する対象となるエリアに設置されている基地局1の台数×288個の第1基地局スループットを示す情報を得る。
【0038】
第2生成部342は、複数の第1基地局スループットの平均及び分散を算出することにより、第1基地局スループットの分布を示す第1基地局統計情報を生成する。第2生成部342は、第1基地局スループットを所定の統計分布で近似することにより、第1基地局統計情報を生成してもよい。例えば、第2生成部342は、第1基地局スループットを対数正規分布で近似して、第1基地局統計情報を生成する。
【0039】
図5は、第1基地局スループットを対数正規分布で近似した場合の累積分布関数を示す。図5における横軸は、任意の基地局1において測定された第1基地局スループットの平均値を示し、縦軸は累積分布関数の値を示す。ここで、第1基地局スループットの平均値とは、任意の基地局1において、5分ごとに測定された複数の第1基地局スループットの平均値である。図5においては、第1基地局スループットの平均値が、約800kbps〜約1600kbpsの間に多く分布していることが示されている。
【0040】
続いて、第3生成部343が、第1基地局統計情報と端末統計情報とに基づいて、複数の第1測定期間内の基地局1における通信試行単位のスループットの統計値を含む第1推定統計情報を推定する(S3)。具体的には、第3生成部343は、第2生成部342によって生成された第1基地局統計情報と、第1生成部341によって生成された関係情報とに基づいて第1推定統計情報を推定する。
【0041】
より具体的には、まず、第3生成部343は、複数の第1基地局スループットの平均値と上記の関係情報とに基づいて、対数正規分布を用いて近似された複数の統計分布情報を生成する。例えば、第3生成部343は、第1基地局統計情報を構成する複数の第1基地局スループットの平均値のそれぞれの平均と分散との関係が、第1生成部341が生成した端末統計情報が示す平均と分散との関係に等しいと仮定して、複数の平均値のそれぞれの平均と分散との関係を算出し、複数の対数正規分布を求める。
【0042】
第3生成部343は、第1生成部341が生成したV(X)=(1.05×E(X)+60)の関係式におけるE(X)に、測定された第1基地局スループットの平均値を代入することにより、第1基地局スループットの平均値が代入した平均値になる場合の分散を算出する。第3生成部343は、例えば、E(X)に10kbpsを代入することにより、平均値が10kbpsと測定された第1基地局スループットの分散を算出する。第3生成部343は、平均値と分散とに基づいて、それぞれの平均値に対応する統計分布情報として、対数正規分布の累積分布関数を生成する。
【0043】
図6は、平均値と分散とに基づいて第3生成部343が生成した複数の対数正規分布の累積分布関数を示す。平均値が小さければ小さいほど、累積分布関数の曲線が曲線aに近づき、平均値が大きければ大きいほど、累積分布関数の曲線が曲線bに近づく。
【0044】
続いて、第3生成部343は、複数の第1測定期間において、それぞれの平均値が発生した確率に基づいて複数の統計分布情報のそれぞれを重み付けすることで、複数の重み付け統計情報を生成する。さらに、第3生成部343は、複数の重み付け統計情報のそれぞれを加算することで、第1推定統計情報を生成する。例えば、第1基地局スループットの平均値の累積分布関数が図5に示されるものである場合、平均値が1000kbps〜1500kbpsになる確率は、平均値が他の値になる確率よりも高い。そこで、第3生成部343は、平均値が1000kbps〜1500kbpsである場合の対数正規分布の重み付けを、平均値が他の値である場合の対数正規分布の重み付けよりも大きくする。
【0045】
続いて、第3生成部343は、重み付けした複数の対数正規分布を加算することにより、基地局1における通信試行単位のスループットの第1推定統計情報である、一の対数正規分布を生成する。第3生成部343は、生成した第1推定統計情報を、記憶部31に記憶させる(S4)。
【0046】
図7は、第3生成部343が生成した一の対数正規分布を示す。図7における曲線cが、第1推定統計情報に対応する対数正規分布である。曲線cに示される対数正規分布は、曲線aに示される対数正規分布と曲線bに示される対数正規分布との間に位置していることがわかる。
【0047】
図8は、第1基地局統計情報と、第1推定統計情報と、端末統計情報との関係を示す。図8における1点鎖線は、基地局1において測定された第1基地局スループットに対応する第1基地局統計情報の累積分布関数を示している。図8における実線は、基地局1における通信試行単位のスループットに対応する第1推定統計情報の累積分布関数を示している。図8における破線は、携帯端末2において測定されたユーザスループットに対応する端末統計情報の累積分布関数を示している。
【0048】
図8から、第1推定統計情報に含まれる統計値と端末統計情報に含まれる統計値との間には差分があることがわかる。端末統計情報に含まれる統計値とは、携帯端末2において測定された通信試行単位のスループットの平均、分散又は標準偏差である。第1推定統計情報に含まれる統計値とは、第3生成部343が推定して生成した、基地局1における通信試行単位のスループットの平均、分散又は標準偏差である。
【0049】
例えば、累積分布関数の値が50%の場合、端末統計情報が示しているユーザスループットは、第1推定統計情報が示している基地局1における通信試行単位のスループットの約60%の大きさである。すなわち、端末統計情報に含まれる統計値と第1推定統計情報に含まれる統計値との間には、差分dが存在している。所定の条件下で測定されたユーザスループットに基づいて生成された端末統計情報と、同じ条件下で測定された第1基地局スループットに基づいて生成された第1推定統計情報との関係は、測定される時間帯等の条件が変化してもほぼ同一であると考えられる。
【0050】
そこで、記憶部31に記憶された端末統計情報の統計値と第1推定統計情報の統計値との関係を示す情報を用いることにより、複数の第2測定期間内に基地局1において測定された第2基地局スループットに基づいて、当該第2基地局スループットが測定された期間におけるユーザスループットを推定することができる。具体的には、制御部34は、S5〜S7の処理を実行することによって、携帯端末2において測定されたユーザスループットの情報を取得することなく、第1推定統計情報に対応する対数正規分布の平均が任意の値の場合のユーザスループットを推定する。
【0051】
以下、ユーザスループットを推定する処理について説明する。
第4生成部344は、第1基地局統計情報の算出に用いられた複数の基地局1のうちの任意の基地局1が、複数の第2測定期間に複数の携帯端末2から受信したデータの量と、複数の第2測定期間にデータを送信した携帯端末2の台数とに基づいて、当該基地局1における携帯端末2の1台あたりのスループットである第2基地局スループットの統計値を含む第2基地局統計情報を生成する(S5)。複数の第2測定期間は、第2生成部342が第1基地局統計情報を生成する処理(S2)において用いられた、携帯端末2から基地局1に送信されたデータの量が測定された複数の第1測定期間よりも、後の期間である。第4生成部344は、S2において第2生成部342が第1基地局統計情報を生成する処理と同等の手順で、第2基地局統計情報を生成する。
【0052】
続いて、第5生成部345は、第2基地局統計情報と端末統計情報とに基づいて、複数の第2測定期間内の基地局1における通信試行単位のスループットの統計値を含む第2推定統計情報を生成する(S6)。第5生成部345が第2推定統計情報を生成する処理は、S3において第3生成部343が第1推定統計情報を生成する処理と同等の処理である。
【0053】
続いて、第6生成部346は、第2推定統計情報と、第1推定統計情報に含まれる統計値と端末統計情報に含まれる統計値との間の差分を示す差分情報とに基づいて、複数の第2測定期間内の携帯端末2における通信試行単位のスループットの統計値を含む第3推定統計情報を生成する(S7)。
【0054】
図9は、第6生成部346が第3推定統計情報を生成する処理の概要を示す。図9における実線は、記憶部31に記憶されている第1推定統計情報に対応する対数正規分布を示す。破線は、記憶部31に記憶されている端末統計情報に対応する対数正規分布を示す。1点鎖線は、第2推定統計情報に対応する対数正規分布を示す。
【0055】
第6生成部346は、差分情報として、例えば、第1推定統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの最頻値に対する、端末統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの最頻値の減少率Xを算出し、第2推定統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの最頻値に対する第3推定統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの最頻値の減少率Yが減少率Xに等しいと仮定して、図9の2点鎖線が示す第3推定統計情報に対応する対数正規分布を生成する。以下、第6生成部346が第3推定統計情報を生成する手順について説明する。
【0056】
まず、第6生成部346は、第1推定統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの最頻値又は平均値に対する、端末統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの最頻値又は平均値の減少率を算出する。次に、第6生成部346は、算出した減少率に基づいて、携帯端末2における通信試行単位のスループットの最頻値又は平均値を算出する。具体的には、第6生成部346は、最頻値の減少率を、1−(端末統計情報の最頻値/第1推定統計情報の最頻値)によって算出する。第6生成部346は、平均値の減少率を、1−(端末統計情報の平均値/第1推定統計情報の平均値)によって算出してもよい。
【0057】
また、第6生成部346は、携帯端末2における通信試行単位のスループットの最頻値を、第2推定統計情報の最頻値×(1−最頻値の減少率)によって算出する。第6生成部346は、携帯端末2における通信試行単位のスループットの平均値を、第2推定統計情報の平均値×(1−平均値の減少率)によって算出してもよい。
【0058】
続いて、第6生成部346は、第1推定統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの分散又は標準偏差に対する、端末統計情報に含まれる通信試行単位のスループットの分散又は標準偏差の減少率を算出する。次に、第6生成部346は、算出した減少率に基づいて、携帯端末2における通信試行単位のスループットの分散又は標準偏差を算出する。具体的には、第6生成部346は、標準偏差の減少率を、1−(端末統計情報の標準偏差/第1推定統計情報の標準偏差)によって算出する。第6生成部346は、分散の減少率を、1−(端末統計情報の分散/第1推定統計情報の分散)によって算出してもよい。続いて、第6生成部346は、携帯端末2における通信試行単位のスループットの分散を、{第2推定統計情報の標準偏差×(1−標準偏差の減少率)}によって算出する。
【0059】
以上の手順により、第6生成部346は、携帯端末2における通信試行単位のスループットの最頻値及び分散の推定値を算出することで、携帯端末2における通信試行単位のスループットの分布を推定することができる。
【0060】
図10は、以上の手順により推定された携帯端末2における通信試行単位のスループットの分布を示す。図9と同様に、実線は、記憶部31に記憶されている第1推定統計情報に対応する対数正規分布を示す。破線は、記憶部31に記憶されている端末統計情報に対応する対数正規分布を示す。1点鎖線は、第2推定統計情報に対応する対数正規分布を示す。2点鎖線は、第3推定統計情報に対応する対数正規分布を示す。
【0061】
図10から、基地局1における通信試行単位のスループットに対応する第2推定統計情報とユーザスループットに対応する第3推定統計情報との関係は、基地局1における通信試行単位のスループットに対応する第1推定統計情報とユーザスループットに対応する端末統計情報との関係にほぼ等しいことがわかる。制御部34は、第1推定統計情報、第2推定統計情報及び第3推定統計情報の少なくともいずれかに含まれる統計値を表示部33に表示させてもよい。
【0062】
[通信品質の良否を判定する]
通信品質推定装置3は、第6生成部346が生成した第3推定統計情報に基づいて、携帯端末2と基地局1との間の通信品質の良否を判定することができる。
判定部347は、第6生成部346が生成した第3推定統計情報が示す、携帯端末2における通信試行単位のスループットの良否を判定する基準を示す判定基準情報を取得する。例えば、判定基準情報は、携帯端末2における通信試行単位のスループットの60%以上が300kbps以上の場合に「通信品質が良好」と判定し、当該スループットの60%未満が300kbps以上の場合に「通信品質が不良」と判定するための情報であり、記憶部31に記憶されている。
【0063】
次に、判定部347は、第3推定統計情報の良否の判定結果に応じて、それぞれの第3推定統計情報の生成に用いられた第2推定統計情報が示す、基地局1における通信試行単位のスループットの良否を判定する。判定部347は、第2基地局統計情報(単位時間平均値)が、「通信品質が良好」と判定されるユーザスループットに対応する第2推定統計情報の平均値よりも大きい場合、基地局1における通信試行単位のスループットに基づいて「通信品質が良好」と判定する。判定部347は、例えば、ユーザスループットの60%以上が300kbpsである場合の第2推定統計情報の平均値が800kbpsである場合、第2基地局統計情報(単位時間平均値)が800kbps以上の場合に「通信品質が良好」と判定する。
【0064】
判定部347は、第2推定統計情報に関連付けて、通信品質の良否を示す通信品質判定基準を記憶部31に記憶させる。具体的には、判定部347は、基地局1における通信試行単位のスループットの統計値又は統計分布の形状に関連付けて、通信品質の良否を記憶部31に記憶させる。このようにすることで、判定部347は、第5生成部345により生成された第2推定統計情報と通信判定基準情報とに基づいて、携帯端末2と基地局1との間の通信品質の良否を判定する。したがって、判定部347は、携帯端末2において測定されたスループットを用いることなく、基地局1における通信試行単位のスループットに基づいて、通信品質の良否を判定することができる。その結果、制御部34は、判定部347が、通信品質が不良であると判定した場合に、その旨を基地局1に通知したり表示部33に表示させたりすることにより、基地局1が使用する無線通信回線を変更するなどの措置を講じることが可能になる。
【0065】
なお、判定部347は、第3推定統計情報の良否の判定結果に応じて、それぞれの第3推定統計情報に対応する第2基地局統計情報が示す、第2基地局スループットの良否を判定してもよい。また、判定部347は、第2基地局統計情報及び第2基地局スループットのいずれかに関連付けて、通信品質の良否を示す通信品質判定基準を記憶部31に記憶させ、第2基地局統計情報及び第2基地局スループットのいずれかと通信品質判定基準情報とに基づいて、携帯端末2と基地局1との間の通信品質の良否を判定してもよい。このようにすることで、通信品質推定装置3は、基地局1において測定された携帯端末2の1台あたりのスループットである第2基地局スループットに基づいて、通信品質の良否を判定することができる。
【0066】
図11は、通信品質の良否の判定に用いる第3推定統計情報の一例を示す。図11における実線、1点鎖線、2点鎖線は、それぞれ異なる第3推定統計情報の累積分布関数を示している。ここで、実線の第3推定情報に対応する第2推定統計情報の平均値は800kbps、1点鎖線の第3推定情報に対応する第2推定統計情報の平均値は600kbps、2点鎖線の第3推定情報に対応する第2推定統計情報の平均値は400kbpsであるとする。
【0067】
ここで、第3推定統計情報に基づいて通信品質の良否を判定するための基準が「ユーザスループットの60%以上が300kbps以上」である場合、スループットが300kbpsの場合の累積分布関数の値が0.4未満の場合に「通信品質が良好」と判定され、スループットが300kbpsの場合の累積分布関数の値が0.4以上の場合に「通信品質が不良」と判定される。したがって、図11に示した第3推定統計情報のうち、実線で示した第3推定統計情報のみが「良好」と判定される。
【0068】
また、実線で示した第3推定統計情報に対応する第2推定統計情報の平均値が800kbpsである場合、第2基地局統計情報に基づいて通信品質の良否を判定するための基準は「第2基地局スループットの単位時間の平均値が800kbps以上」となる。判定部347は、例えば5分毎に通信品質の良否を判定する場合、第2基地局スループットが800kbps以上であるか否かに基づいて、通信品質の良否を判定する。判定部347は、例えば1時間毎に通信品質の良否を判定する場合、第2基地局スループットの1時間の平均値が800kbps以上であるか否かに基づいて、通信品質の良否を判定する。
【0069】
[本実施形態における効果]
本実施形態に係る通信品質推定装置3は、複数の携帯端末2において測定された通信試行単位のスループットの統計値を含む端末統計情報を生成し、携帯端末2の1台あたりのスループットである第1基地局スループットの統計値を含む第1基地局統計情報を生成し、第1基地局統計情報と端末統計情報とに基づいて、基地局1における通信試行単位のスループットの統計値を含む第1推定統計情報を生成する。このようにすることで、基地局1において、通信試行ごとにスループットを実測することなく、通信試行単位のスループットを推定することができる。その結果、無線チャネルを過剰に使用したり基地局に過大な負荷をかけたりすることなく、携帯端末と基地局との間の通信の品質を推定することができるという効果を奏する。
【0070】
また、通信品質推定装置3は、位置情報に対応する位置が属するエリアごとに、実測値の平均と分散とを算出して、平均と分散との関係を示す関係情報を生成し、第1基地局統計情報と関係情報に基づいて第1推定統計情報を生成する。このようにすることで、通信品質推定装置3は、携帯端末2の位置によるユーザスループットのばらつきを考慮して、通信試行単位のスループットを推定することができる。
【0071】
また、通信品質推定装置3は、第1基地局スループットの平均値と上記の関係情報とに基づいて、複数の統計分布情報を生成し、平均値が発生した確率に基づいて複数の統計分布情報のそれぞれを重み付けすることで第1推定統計情報を生成する。このようにすることで、通信品質推定装置3は、通信試行単位のスループットの推定精度を向上することができる。
【0072】
また、通信品質推定装置3は、第1推定統計情報の生成に用いられた第1基地局スループットが測定された期間と異なる期間に基地局1で測定された第2基地局スループットに基づいて推定された第2推定統計情報と、端末統計情報に含まれる統計値と第1推定統計情報に含まれる統計値との差分を示す差分情報とに基づいて、携帯端末2における通信試行単位のスループットの統計値を含む第3推定統計情報を生成する。このようにすることで、携帯端末2においてスループットを実測することなく、携帯端末2におけるスループットを推定することができる。
【0073】
また、通信品質推定装置3は、第2推定統計情報に関連付けて、通信品質の良否を示す通信品質判定基準を記憶部に記憶させ、当該通信品質判定基準に基づいて、基地局1と携帯端末2との間の通信品質の良否を判定する。したがって、通信品質推定装置3は、携帯端末2におけるスループットを実測することなく、基地局1における第2基地局スループットを測定することによって、通信品質の良否を判定することができる。そして、通信品質推定装置3は、通信品質が不良であると判定した場合に、その旨を基地局1に通知したり表示部33に表示させたりすることにより、基地局1が使用する無線通信回線を変更するなどの措置を講じることが可能になるので、基地局1の運営者は、通信品質の向上を図ることができる。
【0074】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。
【符号の説明】
【0075】
1・・・基地局、2・・・携帯端末、3・・・通信品質推定装置、31・・・記憶部、32・・・通信部、33・・・表示部、34・・・制御部

図1
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