【実施例1】
【0012】
本実施形態における圧縮機1の全体の構成、動作、機能などに関して、
図1〜
図6を参照しながら説明する。
【0013】
図1は冷暖房兼用の空気調和機の概略図である。本実施形態の空気調和機は、圧縮機1、室外熱交換器34、膨張機構35、室内熱交換器36を配管で接続し、冷媒が循環する。
【0014】
冷房運転の場合、圧縮機1で圧縮された高温高圧のガス冷媒は、四方弁33を介して室外熱交換器34に流れる。高温高圧のガス冷媒は、凝縮器として機能する室外熱交換器34で冷却され、高圧の液冷媒となる。高圧の液冷媒は、膨張機構35で膨張され、僅かにガスを含む低温低圧の液冷媒となって、室内熱交換器36に流れる。低温低圧の液冷媒は、蒸発器として機能する室内熱交換器36で加熱され、低温のガス冷媒となり、再び四方弁33を介して圧縮機1に戻る。暖房運転の場合、四方弁33によって冷媒の流れが変えられ、冷媒は冷房運転と逆方向に流れる。
【0015】
図2は圧縮機の縦断面図である。圧縮機1は、冷凍空調装置(例えば、空気調和機、冷蔵庫、冷凍庫、冷蔵・冷凍ショーケースなど)やヒートポンプ式給湯装置などの冷凍サイクルの構成機器として用いられ、密閉容器、圧縮機構2及び電動機7を主要構成要素として備えている。本実施形態の圧縮機1は、密閉型電動圧縮機である。
【0016】
圧縮機1の密閉容器は、円筒状の筒部1a、筒部1aの上下に溶着された蓋部1b及び底部1cから構成され、内部を密閉空間としている。圧縮機1は、圧縮機構2及び電動機7を収納し、底部の油溜9内にエーテル系又はエステル系冷凍機油で構成される潤滑油8を貯留している。潤滑油8の油面は副軸受15の上方に位置するよう設定されている。
【0017】
圧縮機1には、密閉容器の蓋部1bを貫通する吸込パイプ11と、密閉容器の筒部1aを貫通する吐出パイプ22が設けられている。吐出パイプ22は、フレーム5の直下に位置して、圧縮機1の密閉容器内の中心方向に突出して設けられている。吐出パイプ22の先端はエンドコイル17の外周面より中心側まで突出して開口している。
【0018】
圧縮機構2は、ガス冷媒を圧縮して密閉容器内に吐出するものであり、密閉容器内の上部に設置されている。圧縮機構2は、固定スクロール3、旋回スクロール4、フレーム5及びオルダムリング10を主要構成要素として備えている。
【0019】
固定スクロール3は、端板上に渦巻状のラップを立設して構成され、フレーム5上にボルト止めされている。固定スクロール3の周縁部には吸込口12が設けられ、中央部には吐出口14が設けられている。吸込口12は吸込パイプ11に連通し、吐出口14は密閉容器内の圧縮機構2の上方の空間に連通している。
【0020】
旋回スクロール4は、端板上に渦巻状のラップを立設して構成され、旋回スクロール4は固定スクロール3とフレーム5との間に挟み込まれている。旋回スクロール4と固定スクロール3を噛み合わせて圧縮室を形成する。旋回スクロール4の反固定スクロール側には旋回軸受が組み込まれるボス部が設けられている。旋回軸受には旋回スクロール4を偏心駆動させるために偏心ピン部6aが嵌合されている。
【0021】
オルダムリング10は、旋回スクロール4の自転規制機構を構成するものであり、旋回スクロール4とフレーム5との間に設置され、旋回スクロール4が自転するのを防止して円軌道運動を行わせる。
【0022】
フレーム5は、密閉容器に溶接で固定され、固定スクロール3、オルダムリング10及び旋回スクロール4を支持している。フレーム5の中央には下方に突出する筒部が設けられている。この筒部内には、シャフト6を軸支する主軸受5aが設けられている。
【0023】
固定スクロール3及びフレーム5の外周部には、固定スクロール3の上方空間とフレーム5の下方空間とを連通する複数の吐出ガス通路が形成されている。
【0024】
電動機7は、回転子7a、固定子7b、シャフト6及びバランスウェイト16を主要構成要素として備える。
【0025】
固定子7bは、電流を流して回転磁界を発生させる複数の導体を有するコイル24と、回転磁界を効率よく伝達するための鉄芯23と、コイル24と鉄芯23との間の絶縁に用いられる樹脂の成形品のインシュレータ26とを主要構成要素として備えている。固定子7bのコイル24は集中巻方式で巻かれている。
【0026】
鉄芯23は密閉容器に焼き嵌めによって固定されている。この固定子7bの外周には全周にわたって多数の切欠きが形成され、この切欠きと密閉容器との間に吐出ガス通路が形成されている。
【0027】
回転子7aは、回転子鉄芯25と回転子鉄芯25に内蔵された永久磁石とを主要構成要素として備え、固定子7bからの回転磁界を回転運動に変換しシャフト6を中心に回転される。回転子7aは、固定子7bの鉄芯23の中央穴に回転可能に配置されている。
【0028】
シャフト6は、回転子7aの中央穴に嵌合されて回転子7aと一体化されている。シャフト6の一側は、回転子7aより突出して圧縮機構2に係合され、圧縮機構2の圧縮動作により偏心力が加えられる。本実施形態では、シャフト6は、その両側が回転子7aの両側より突出され、回転子7aの両側で主軸受5a及び副軸受15により軸支され、安定的に回転することができる。副軸受15は、圧縮機1の密閉容器に溶接して固定された支持部材により支持されると共に、潤滑油8に浸漬されている。
【0029】
シャフト6の下端は圧縮機1の密閉容器の底部の油溜9内に延びている。シャフト6には潤滑油8を各軸受部および各摺動面へ供給する貫通穴6bが設けられ、下端部の油溜9より潤滑油8を貫通穴6bから吸い上げられるようになっている。油溜9よりシャフト貫通穴6bを介して圧縮機構2に吸い上げられた潤滑油8は、各軸受及び圧縮機構2の摺動部に供給される。圧縮機構2の摺動部に供給された潤滑油8は、冷媒ガスと共に固定スクロール3の中央部の吐出口14から吐出される。
【0030】
バランスウェイト16は、回転子7aの圧縮機構2側に設置されたバランスウェイト(以下「上バランスウェイト」という。)16a及び回転子7aの圧縮機構2の反対側に設置された下バランスウェイト(以下「下バランスウェイト」という。)16bから構成され、複数のリベットにより回転子7aに固定されている。
【0031】
電動機7が通電されて回転子7aが回転すると、これに伴いシャフト6も回転され、偏心ピン部6aが偏心した回転運動をすることにより、旋回スクロール4が旋回駆動され、固定スクロール3と旋回スクロール4との間に形成される圧縮室が外周側から中央部に移動しながら小さくなる。これにより、圧縮機1の密閉容器の外部から吸込パイプ11及び吸込口12を介して吸入された冷媒ガスが圧縮機構2で圧縮され、圧縮された冷媒ガスは固定スクロール3の中央部の吐出口14から圧縮機1の密閉容器内の上部空間に吐出される。
【0032】
固定子7bは、固定子鉄芯23と、固定子鉄芯23の軸方向の両端面のそれぞれに対向して配置されたインシュレータ26と、固定子鉄芯23およびインシュレータ26に共に巻かれたコイル24とを有する。
【0033】
図3は固定子鉄芯の斜視図である。
図3に示すように、固定子鉄芯23は、積層された複数の鋼板からなり、固定子鉄芯環状部27と、固定子鉄芯環状部27の内周面から径方向内側に突出すると共に周方向に等間隔に配列されたティース部28を有する。
【0034】
電動機7は、いわゆる4極6スロットであり、複数のティース部28にまたがらず、1つのティース部28の回りに集中的にコイル24を巻くいわゆる集中巻方式を採用している。
【0035】
図4はインシュレータの底面図であり、
図5はインシュレータの斜視図である。インシュレータ26は、固定子鉄芯23とコイル24との間に挟持され、固定子鉄芯23とコイル24を絶縁している。インシュレータ26は、例えば、液晶ポリマー(LCP)やポリブチレンテレフタレート(PBT)やポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリイミドやポリエステル等の耐熱性のよい樹脂材料からなる。また、インシュレータ26は、例えば、強度向上のためにガラス繊維入りの材料からなる。
【0036】
なお、液晶ポリマー(LCP)の誘電率は3.6、ポリブチレンテレフタレート(PBT)の誘電率は3.1〜3.3、ポリフェニレンサルファイド(PPS)の誘電率は2.8である。
【0037】
図4及び
図5に示すように、インシュレータ26は、インシュレータ環状部29と、インシュレータ環状部29の内周面から径方向内側に突出すると共に周方向に等間隔に配列された複数の胴部30を有している。
【0038】
インシュレータ26のインシュレータ環状部29は、固定子鉄芯23の固定子鉄芯環状部27の両端面に接するように配置され、インシュレータ26の複数の胴部30は、固定子鉄芯23の複数のティース部28の両端面に接するように配置されている。言い換えると、固定子鉄芯23は2つのインシュレータ26によって軸受方向から挟まれている。
【0039】
インシュレータ環状部29は、固定子鉄芯23に接する面では周方向の両端で面取りされておらず、固定子鉄芯23と反対側の面では周方向の両端で面取りされている。
【0040】
圧縮機1は、コイル24に電流を流して固定子7bに発生する電磁力によって、回転子7aをシャフト6と共に回転させることで駆動している。そして、コイル24に流した電流のうち、一部の電流が固定子鉄芯23へ漏れる。
【0041】
ここで、圧縮機1においては、固定子が鋼板製の密閉容器に直に固定されるため、人体に影響がないよう電気用品取締法に規定されている値(充電部と器体の表面との間に流れる漏洩電流は、1mA以下のこと)以内にする必要がある。そのため、コイル24に流した電流のうち、固定子鉄芯23へ漏れる漏洩電流を1mA以下となるよう対策をする必要がある。
【0042】
漏洩電流の原理はコンデンサの原理と同じであり、漏洩電流をi、周波数をf、浮遊静電容量をC、電圧をVとすると、式(1)の関係が成り立つ。
〔数1〕
i=2πfCV ・・・(1)
コイル24と固定子鉄芯23との間の浮遊静電容量Cは、コイル24と固定子鉄芯23との間の比誘電率をε、コイル24と固定子鉄芯23との間の面積をS、コイル24と固定子鉄芯23との間の距離をdとすると、式(2)の関係が成り立つ。
〔数2〕
C=εS/d ・・・(2)
[R32の誘電率]
ところで、R410Aに比べて、地球温暖化係数が低く次世代冷媒の候補として検討されているR32は、比誘電率εが高い。例えば、40℃でのR410Aの比誘電率εは7.7045であるのに対し、40℃でのR32の比誘電率εは11.268である。
【0043】
つまり、R32を冷媒として採用した場合、式(2)より浮遊静電容量Cが大きくなる。すると、式(1)より漏洩電流iが電気用品取締法に規定されている値を超えるおそれがある。
【0044】
コイル24と固定子鉄芯23との間に絶縁材32を挟むことで、漏洩電流iを低減することができる。しかしながら、冷媒としてR32を採用した場合、現在汎用されている絶縁材32では、漏洩電流iを電気用品取締法に規定されている値以下に保つことができない。現在汎用されている絶縁材32の厚みは最大3mmであるが、厚みを3mmより厚くし、又は、絶縁材32を2枚重ねて使用すると、コストが高く、組立て性が悪化する。
【0045】
図6は、固定子鉄芯のティース部とインシュレータの胴部の周方向における断面図である。コイル24は、巻線機によって固定子鉄芯23のティース部28とインシュレータ26の胴部30に巻きつけられている。
【0046】
従来、コイル24と固定子鉄芯23のティース部28は密着していた。一方、本実施形態では、
図6に示すように、インシュレータ26の胴部30の周方向の幅を、固定子鉄芯23のティース部28の周方向の幅よりも大きくしている。このような固定子鉄心23及びインシュレータ26にコイル24を巻きつけることで、コイル24は固定子鉄芯23には接触せず、固定子鉄芯23とコイル24の間に隙間31を設けることができる。
【0047】
本実施形態によれば、隙間31によってコイル24と固定子鉄芯23の間の距離dを確保することで、式(2)より浮遊静電容量Cを小さくし、式(1)より漏洩電流iを電気用品取締法に規定されている値以下にすることができる。
【0048】
なお、固定子鉄芯23のティース部28とインシュレータ26の胴部30は、固定子鉄芯23の軸方向(シャフト6の回転軸方向)からみて、周方向の幅以外は略同じ形状である。但し、コイル24の劣化を防ぐために、インシュレータ26の胴部30のうち、固定子鉄芯23のティース部28から周方向に吐出した部分は楕円形状となっている。
【0049】
また、隙間31にはR32と冷凍機油が溜まっている。R32及び冷凍機油よりも誘電率が低い絶縁材32を隙間31の一部に配置することで、隙間31における比誘電率εの平均値を下げることができ、漏洩電流iをさらに低減することができる。
【0050】
また、インシュレータ26の胴部30の周方向の幅を、固定子鉄芯23のティース部28の周方向の幅よりも大きくすることに加えて、コイル24と固定子鉄芯23との間に絶縁材32を配置することを併用してもよい。
【0051】
また、インシュレータ26の胴部30の周方向の幅を、固定子鉄芯23のティース部28の周方向の幅よりも大きくすることに加えて、インシュレータ環状部29の内周面を固定子鉄芯環状部27の内周面よりも径方向の内側に突出させてもよい。
【0052】
以上説明した通り、本実施形態によれば、コイル24と固定子鉄芯23との間の距離を広げ、浮遊静電容量Cを低減し、漏れ電流の低減効果を得ることができる。
【実施例2】
【0053】
本実施形態において第1実施形態と同様の構成要素についての説明は省略する。
図7は、絶縁材の両端の折り返し部の説明図である。
図8は、固定子鉄芯のティース部とインシュレータの胴部の周方向における断面図である。
【0054】
図7に示すように、本実施形態の絶縁材32は、軸受方向の両端が折り返されている折り返し部32aを有する。つまり、固定子鉄芯23の軸受方向の両端では、絶縁材32が折り返されて重なった状態で固定子鉄芯23とコイル24の径方向の間に配置される。
【0055】
本実施形態の絶縁材32は1枚であるが、コイル24は絶縁材32の折り返し部32aで支持されるため、中央付近においてもコイル24と固定子鉄芯23との間の距離dを絶縁材32の厚みの2倍にすることができる。
【0056】
本実施形態によれば、
図8に示すように、コイル24と固定子鉄芯23との間に絶縁材32を配置することに加え、固定子鉄芯23と絶縁材32の間に隙間31を設けることができる。従って、絶縁材32を折り返してコイル24と固定子鉄芯23の間の距離dを確保することで、式(2)より浮遊静電容量Cを小さくし、式(1)より漏洩電流iを低減することができる。
【0057】
なお、本実施形態では、
図8に示すように、絶縁材32の折り返し部32aをコイル24よりも固定子鉄芯23側に位置させているが、絶縁材32の折り返し部32aをコイル24側に位置させてもよい。
【0058】
しかし、絶縁材32の折り返し部32aをコイル24側に位置させた場合、中央付近では、隙間31がコイル24と絶縁材32との間に位置する。この隙間31には、冷媒が溜まるため、コイル24から冷媒に電流が漏洩しやすい。
【0059】
一方、絶縁材32の折り返し部32aを固定子鉄芯23側に位置させた場合、
図8に示すように、隙間31が固定鉄芯23と絶縁材32の間に位置する。すなわち、隙間31は、絶縁材32を介してコイル24に接するため、コイル24から隙間31に溜まった冷媒へ電流が漏洩するのを低減することができる。
【0060】
また、固定子鉄芯23の軸受方向の両端で、固定子鉄芯23の周方向の厚みを厚くすることで、コイル24と固定子鉄芯23の間の距離dを確保してもよい。
【0061】
以上説明した通り、本発明の圧縮機によれば、コイル24と固定子鉄芯23との間の距離を広げ、浮遊静電容量Cを低減し、漏れ電流の低減効果を得ることができる。
【0062】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0063】
例えば、圧縮機構2として、スクロールタイプ以外に、ロータリータイプ、スイングタイプ又はレシプロタイプを用いてもよい。
【0064】
また、冷媒としてR32を用いる場合について説明したが、これに限らない。例えば、冷媒として、R32を50重量%より多く含む混合冷媒や、漏洩電流対策が必要となる他の冷媒を用いてもよい。