(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態に係る自動認識システム1Aおよびトルクレンチ2について、図面に基づいて説明する。しかしながら、本発明の自動認識システムおよびトルクレンチは、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0018】
<自動認識システム1Aの構成について>
図1は、本発明の一実施の形態に係る自動認識システム1Aの構成を示すブロック図である。
図2は、
図1に示すトルクレンチ2の外観の一例を示す斜視図である。
【0019】
自動認識システム1Aは、トルクレンチ2と、トルクレンチ2との間でネットワーク5を介して情報の送受信が可能な情報管理サーバ6とを少なくとも有している。そして、これらに加えて、ソケット3と、ICタグ付ボルト4とを自動認識システム1Aの構成要件としても良い。なお、ソケット3にはこのソケット3を一意に識別する識別情報が記録されたICタグ3Aが組み込まれており、ICタグ付ボルト4の頭部にはICタグ付ボルト4を一意に識別する識別情報が記録されたICタグ4Aが組み込まれている。
【0020】
トルクレンチ2は、ICタグ3A,4Aに対して情報を読み取ったり書き込んだりするリーダ/ライタ機能、情報管理サーバ6との間で情報の送受信を行う通信機能を備えている。なお、トルクレンチ2の構成の詳細については後述する。
【0021】
ソケット3は、ICタグ付ボルト4を被締付対象物に固定する際にトルクレンチ2の締付力をICタグ付ボルト4に伝達する際に用いられるものである。なお、このソケット3に組み込まれているICタグ3Aの位置については後述する。
【0022】
ソケット3としては、種々のタイプを用いることが可能である。たとえば、ソケット3を貫くように設けられているソケット穴31(差込角ともいう)の平面形状は、四角形のスクエアタイプ、六角形のヘキサゴンタイプ等、種々のタイプがある。また、ボルトを挿入する口径部32の平面形状も、六角形となるタイプや、12角となるタイプ等、種々のタイプがある。さらに、ソケット3の長さによる種々のタイプも存在している。
【0023】
図2に示すように、ICタグ付ボルト4は、頭部にICタグ4Aが埋設されている。このICタグ4Aには、ボルト自体の識別情報が記録されており、トルクレンチ2によって、識別情報が書き込まれたり、読み取ることができる。またICタグ付ボルト4は、ソケット3と嵌合された状態で、金属面を有する被締結対象物(不図示)に固定される。なお、
図1において、ソケット3は一つのみ示しているが、ソケット穴31と、口径部32のサイズと、口径部32の形状等のうちの少なくとも1つが異なるものが複数存在している。そして、ICタグ付ボルト4のサイズや形状等に応じて、作業者はソケット3を適宜交換することができる。また、
図1のICタグ付ボルト4は、六角ボルトを例としているが、これ以外の形状のボルトとしてもよい。
【0024】
情報管理サーバ6は、トルクレンチ2の第1通信部18あるいは第2通信部20(後述)から供給された情報と、トルクレンチ2、ソケット3、ICタグ付ボルト4それぞれの識別情報とを比較する。そして、情報管理サーバ6は、所定の作業を行う際に正しいトルクレンチ2であるか否か、作業対象であるICタグ付ボルト4であるか否か、トルクレンチ2とソケット3とが正しい組み合わせであるか否かといった判定処理を行って、これらの判定結果を示す情報についてトルクレンチ2の第2通信部20に対して送信する。
【0025】
以上のような構成を有する自動認識システム1Aでは、トルクレンチ2がICタグ付ボルト4およびソケット3を識別し、情報管理サーバ6に問い合わせることにより、ICタグ付ボルト4の種類に応じたソケット3であるか否かを確認し、どのような作業を行うべきかを作業者に対して提示したり、どの程度のトルク値で締結すればよいかなどを提示することが可能となっている。以下、各部について更に詳細に説明する。
【0026】
<トルクレンチ2の構成の詳細について>
次に、トルクレンチ2の構成の詳細について説明する。
図1および
図2に示すように、トルクレンチ2は、トルクレンチ本体11と、ヘッド12とを備えている。なお、トルクレンチ本体11は、リーダライタ部17と、第1通信部18と、表示部19と、第2通信部20とを有している。
【0027】
図3は、トルクレンチ2の構成の詳細を示す断面図である。
図3に示すように、トルクレンチ2は、ヘッドピン12aを支点として回動するヘッド12と、トグル13と、スラスタ14と、バネ受け15と、メインスプリング16と、図示を省略するバネ調整機構と、を備えている。ヘッド12には、スプリング121aおよびラチェット爪を備えるラチェット回転体121bを備えるラチェット機構121が設けられていて、右回りと左回りのいずれかの方向のみ締付けを可能として迅速に締付けを行うための周知の機構である。なお、ラチェット回転体121bには、ソケット穴31に差し込まれる柱状の角ドライブ部121cが一体的に設けられている。すなわち、角ドライブ部121cには、筒状のソケット3が装着される。
【0028】
また、ヘッド12には、アーム状のヘッドアーム122が設けられていて、そのヘッドアーム122のラチェット機構121側の位置で、上述したヘッドピン12aを支点に回動可能に設けられている。また、ヘッドアーム122の後端部123には、トグル13が連結されている。
【0029】
トグル13は、リンク状の部材であり、その一端側がヘッド12の後端部123に連結されていると共に、その他端側はスラスタ14に連結されている。スラスタ14は、メインスプリング16によってトグル13を介して後端部123を押さえ、トルクレンチ2による締付けトルクが所定トルクに達するまで後端部123のトルクレンチ本体11に対する相対的な回動を規制する。スラスタ14のトグル13に対する取付位置は、後端部123とはトルクレンチ2の幅方向において異なっている。バネ受け15は、メインスプリング16の押圧力を受け止めると共に、スラスタ14を押圧する部材である。
【0030】
メインスプリング16は、不図示のバネ調整機構での調整によって変形量が調整され、スラスタ14を押す力が変化し、それによってトグル13が回動するトルクが変化する。
【0031】
かかるトルクレンチ2を用いてICタグ付ボルト4を締め付ける際の動作について、簡単に説明する。ユーザがトルクレンチ本体11を把持して、ICタグ付ボルト4の締付けが開始されると、後端部123がスラスタ14を後方に押し戻すように回動しようとする力が作用する。そして、メインスプリング16の力に逆らって、後端部123がスラスタ14を後方に押し返そうとする力が、スラスタ14がメインスプリング16の力により後端部123を押さえる力を超えた場合に、トグル13が回動する。その回動により、後端部123は、
図3において上側に向かって移動し、ハウジングの内壁を叩くクリック音を発生させる。それにより、ユーザは、ICタグ付ボルト4の締付けトルクが所定の設定トルク値に達したことを認識することができる。なお、ケーブル12Bは、信号を伝送する高周波ケーブルで、一般によく使用される、例えばツイストペア線、同軸線、あるいはこれらの組み合わせとすることが出来る。
【0032】
リーダライタ部17は、トルクレンチ本体11内部またはヘッド12を覆うハウジングに組み込まれており、ヘッド12のICタグ検出部12Aとケーブル12Bにより接続されている。リーダライタ部17は、不図示のリーダライタ制御部を有し、このリーダライタ制御部がICタグ検出部12Aで検出した信号をケーブル12Bを介して取得し、その信号に基づいてICタグ3AおよびICタグ4Aからそれぞれの識別情報を取得することができる。
【0033】
第1通信部18は、不図示のリーダライタ制御部が、後述する情報管理サーバ6と情報のやりとりをするための通信インタフェースである。第1通信部18は、たとえば、Bluetooth(登録商標)モジュール、Wifiモジュール、その他の無線通信モジュールなどである。なお、第1通信部18は、必ずしも情報管理サーバ6と直接通信可能でなくてもよく、たとえば、USBインタフェースなどであってもよく、その場合、情報管理サーバ6と直接通信した装置とこのUSBインタフェースを接続して情報を送受信するようにしてもよい。
【0034】
表示部19は、不図示のトルク制御部が、後述する情報管理サーバ6から送信された情報を表示させる。なお、表示部19は、リーダライタ部17がソケット3のICタグ3AやICタグ付ボルト4のICタグ4Aから読み取った識別情報、あるいは識別情報から判明した情報を表示させるように構成されてもよい。
【0035】
第2通信部20は、不図示のトルク制御部が、後述する情報管理サーバ6と情報のやりとりをするための通信インタフェースである。第2通信部20は、たとえば、Bluetooth(登録商標)モジュール、Wifiモジュール、その他の無線通信モジュールなどである。なお、第2通信部20は必ずしも情報管理サーバ6と直接通信可能でなくてもよく、たとえば、USBインタフェースなどであってもよく、その場合、情報管理サーバ6と直接通信した装置とこのUSBインタフェースを接続して情報を送受信するようにしてもよい。なお、第1通信部18と第2通信部20とは別々に構成しているが、これらを一つの通信部で構成するようにしてもよい。また、不図示のリーダライタ制御部とトルク制御部を統括して、トルクレンチ2の動作全体を制御する統括制御部を設けてもよい。
【0036】
また、
図1に示すように、角ドライブ部121cは、ソケット3のソケット穴と嵌合する部分であり、その内部側には、ケーブル12Bを挿通させるための挿通孔124が設けられている。角ドライブ部121cのうち、挿通孔124の端部側には、凹部125が挿通孔124と連通するように設けられている。そして、凹部125には、ICタグ検出部12Aが出入可能に設けられている。
【0037】
ICタグ検出部12Aは、たとえばアンテナコイルを備えた検出部位であり、ケーブル12Bに電気的に接続されている。ICタグ検出部12Aのアンテナコイルは角ドライブ部121cの回転軸Lの中心に配置される。また、ケーブル12BのうちICタグ検出部12A側の外周にはバネ12Cが配置されており、設置領域33に対してICタグ検出部17Aを押し当てる役割を果たしている。また、詳細は後述するが、ICタグ検出部12Aはソケット3自体が有するICタグ3Aと、ICタグ付ボルト4が有するICタグ4Aの両方を、トルクレンチ2での一連の動作の中で検出することができるように構成されている。
【0038】
続いて、情報管理サーバ6の構成について説明する。
図1に示すように、情報管理サーバ6は、制御部21と、通信部22と、記憶部23を有している。制御部21は、サーバ全体の動作を制御している。具体的には、制御部21は、トルクレンチ2から供給されたソケット3に組み込まれているICタグ3Aの識別情報からソケット3の正誤判定を行ったり、ICタグ付ボルト4に組み込まれているICタグ4Aの識別情報からICタグ付ボルト4の正誤判定を行ったり、これらの正誤判定に基づいて所定のトルク値の指示をトルクレンチ2に対して行うことができる。記憶部23には、トルクレンチ2、ソケット3、ICタグ付ボルト4それぞれの識別情報を登録している登録ID台帳23Aと、情報管理サーバ6が受信した情報を記録した時間情報とこれらの識別情報とを関連付けて記録する記録台帳23Bと、所定の作業に関する情報(たとえば、作業に用いられる工具情報、工具のトルク値情報など)が登録されている登録作業台帳23Cが格納されている。
【0039】
<ソケット3の外観>
図2に示すように、ソケット3は、トルクレンチ2の角ドライブ部121cが挿入される側に設けられているソケット穴31と、ICタグ付ボルト4の頭部と嵌合される側に設けられている口径部32とから構成される。ソケット穴31と口径部32と間には、ICタグ3Aの設置領域33が設けられている。
【0040】
<ICタグ付ボルト4の外観>
図4および
図5は、
図1に示すICタグ付ボルト4の他の一例のICタグ付ボルト51,52を示す図である。なお、ICタグ付ボルト51,52では、金属表面にUHF帯域の高周波電磁波を当てたときに、渦電流とは異なる定在波などの高周波電流がICタグ付ボルト51,52の金属表面上に流れるように構成しても良いが、ICタグ検出部12Aが十分にICタグ51Aに近接するためにそのような高周波電流が流れる構成でなくても良い。
【0041】
図4に示すICタグ付ボルト51は、ボルトの頭部にICタグ51Aが埋め込まれているタイプの締付部材である。
図4の(a)に示すように、ICタグ付ボルト51は、頭部61とアンカーボルト62とから構成される。また、ICタグ付ボルト51は、頭部61の頂点部に形成された凹部に対し頭部61の両端まで切られている溝を少なくとも一つ有する十字形状の第1の凹部61Aと、この第1の凹部61Aの十字形状の中央部分の溝の底面に第1の凹部61Aより更に凹んで形成される第2の凹部61Bとから構成されている。また、このアンカーボルト62の頭部61に形成されている第1の凹部61A,第2の凹部61Bには、ICタグフォルダ63を嵌合することで、ICタグ付ボルト51となる。
【0042】
ICタグフォルダ63は、
図4の(b),(c),(d)に示すように、頭部61に嵌合することができる円形状の蓋部62Aと、この円形状の蓋部62Aから隆起して形成され、頭部61の凹部61A,61Bの形状に対応した凸部64,65とから構成され、ICタグフォルダ63の内部には、頭部61の両端まで切られている溝に対して必ず直交する配置となるようにICタグ51Aが固定されている。
【0043】
図5に示すタイプのICタグ付ボルト52は、ネジ部の貫通孔にICタグ52Aが埋め込まれているタイプのものである。
図5の(a)に示すICタグ付ボルト52は、ナット71を取り付けた状態を示している。ICタグ付ボルト52は、ネジ部材72と、ICタグフォルダ73とを有している。ネジ部材72は、通常のネジと同様に、頭部74と、ネジ部75とを有している。そのうち、頭部74は、ネジ部75よりも大径に設けられている部分であり、ネジ山およびネジ谷が形成されていない部分である。また、ネジ部75は、ネジ山およびネジ谷が形成されている部分であり、ナット71が捻じ込まれる部分である。ICタグ付ボルト52では、その幅方向が中心線となるように貫通孔76が形成されていて、さらに頂面77から貫通孔76に向かい、その貫通孔76と連なるようにスリット78とが設けられている。そのため、磁力線は、ICタグフォルダ73のうちナット71で覆われていない端面からICタグフォルダ73の内部に入り込むことを可能としていると共に、スリット78を通過可能としている。
【0044】
なお、これらのICタグ付ボルト51、52は、平面視したときの形状が六角形状の頭部61,74が図示されている。しかしながら、平面視したときの頭部61,74の形状は、たとえば三角形状や矩形状といった多角形状、円形状や楕円形状といった曲線を有する形状、その他の規則的または不規則な輪郭を有する形状等、種々の形状を採用可能である。また、これらのICタグ付ボルト51、52は、市販のリーダライタ装置によって上空からでも検出することができるように構成されているため、
図1のICタグ付ボルト4のICタグ3Aとは異なる構成となっているが、このようなICタグ付ボルト51、52であっても検出することが可能である。また、ICタグ付ボルト51の表面の十字溝は、頭部61の両端まで切られている溝としたが、ICタグ51A内のコイルアンテナに2次電流を発生させることでき、低い感度であっても動作可能であれば必ずしも両端まで切られている溝でなくてもよい。
【0045】
<トルクレンチ2の操作手順について>
以上で説明したトルクレンチ2、ソケット3およびICタグ付ボルト51,52から構成される自動認識システム1Aでは、たとえば以下のステップによって作業者がトルクレンチ2を用いて一連の作業を実行することができる。
【0046】
たとえば作業者が作業指示書等にしたがって、トルクレンチ2を用いて一連の作業を開始する。作業者が一連の作業を開始する際、トルクレンチ2は、第1通信部18により、情報管理サーバ6の通信部22との間で通信を行って、トルクレンチ2の識別処理、作業の識別処理、トルクレンチ2に装着されるソケット3の識別処理、ICタグ付ボルト4の識別処理を実行する。たとえば、トルクレンチ2から、トルクレンチ2の識別情報、ソケット3の識別情報、作業担当者のユーザ情報、作業場所を示す情報、作業を特定する識別情報などを情報管理サーバ6へと送信する。
【0047】
情報管理サーバ6側では、トルクレンチ2から送信されてきた各情報に基づいて記憶部23に記憶されている登録ID台帳23A、記録台帳23B、登録作業台帳23Cの情報を参照して作業者が行おうとしている作業を特定する。そして、情報管理サーバ6において、作業者の作業が特定された場合、引き続き、ソケット3の判定およびICタグ付ボルト4の判定作業に移行する。そして、情報管理サーバ6よりソケット3の判定結果を示す情報がトルクレンチ2に送信されると、トルクレンチ2の表示部19に判定結果が表示される。また、情報管理サーバ6は、ソケット3の判定結果が正しい場合には、トルクレンチ2でのトルク値を示す情報を送信し、トルクレンチ2の表示部19には指示されたトルク値が表示される。
【0048】
<動作原理について>
続いて、トルクレンチ2でのICタグ3A,4Aを検出する動作原理について説明する。
図6は、ICタグ検出部17Aの検出アンテナ81と、ソケット3のICタグ3Aが有するアンテナコイル82のコイル面C1と、ICタグ付ボルト4のICタグ4Aのアンテナコイル83のコイル面C2との相互誘導関係について説明するための図である。なお、
図6において、金属の構造体は説明の便宜上省略している。
【0049】
図6において、検出アンテナ81をトランスの1次コイルに例えると、これと相互誘導関係を形成する2次コイルがソケット3内部のICタグ3Aのアンテナコイル82となり、3次コイルがICタグ付ボルト4に組み込まれたICタグ4Aのアンテナコイル83となる。なお、
図5では、1つのICタグの検出アンテナ81が2つのアンテナコイル82,83と相互誘導関係にある磁力線ループΦ1で結合している様子を説明しているが、ソケット3が交換可能なものではなく、当初からソケット3がトルクレンチ2に固定されるタイプの場合には、ソケット3自体の識別が不要となる。この場合、ソケット3へ組み込むICタグ3Aは、省略されてもよい。
図6において検出アンテナ81は、1回巻きのコイルが示されているが、相互誘導の能率を最良に調整する場合などは、2回巻きや3回巻きであってもよく1回巻きに限定されない。
【0050】
<検出感度について>
続いて、検出感度について説明する。
図7は、ICタグ検出部12Aのアンテナコイル面と各ICタグ内部のアンテナコイル面との関係に応じた検出感度について説明するための図である。
図7において、ICタグ検出部12Aのアンテナコイルのコイル面とICタグ3A内部のアンテナコイルの面とは平行になっていることが好ましい。しかしながら、磁力線Φ1の共有部分を有する範囲であれば、これらのコイル面間のなす角度θが平行(θ=0°または180°)から直交(θ=90°)の間での角度となる位置関係であってもよい。
図7に示す例では、ICタグ検出部17Aのアンテナコイル面と、ソケット3のICタグ3Aのアンテナコイル面の角度θ1は、回転軸線Lに対して45°傾いている。一方、ICタグ付ボルト4のICタグのアンテナコイル面の角θ2は回転軸線Lと直交している。なお、コイル面間のなす角度θが、平行の場合は非共有部分の磁力線Φ2が最小となり、密の相互誘導を生じる。一方、コイル面間のなす角度θが、直交(θ=90°)の場合は、共有部分の磁力線Φ1が最小となり、粗の相互誘導関係となり、検出感度が低くなる。
【0051】
以上、本実施の形態のトルクレンチ2は、ICタグ付ボルト4(締付部材)の種類に応じたソケット3を取り付け可能であり、ソケット3のソケット穴に挿入され、ソケット3を回転させる角ドライブ部121cと、その角ドライブ部121cに取り付けられたICタグ検出部12A,17Aとを有するように構成されている。このような構成により、ICタグ検出部12A,17Aがトルクレンチと一体化されていることにより、1回のレンチ操作でICタグの情報を認識することができ、従来のようにリーダライタ装置とトルクレンチとを持ち替えるという手間が省けるだけでなく、持ち替える必要が無いので、目線移動による目視ミスが低減でき、さらに各装置の操作ミスをなどのヒューマンエラーを低減させることができる。
【0052】
また、本実施の形態のICタグ検出部12A,17Aは、ICタグ3A,4Aを検出するためのアンテナを有し、アンテナが角ドライブ部121cの回転軸上に位置するように構成されている。これにより、ICタグ検出部12AがICタグ付ボルト4に取り付けられているICタグ4Aが読み取りやすい位置になると共に、確実に目的のICタグボルト4に取り付けられているICタグ4Aを検出することができる。
【0053】
さらに、本実施の形態では、角ドライブ部121cとICタグ検出部12A,17Aのアンテナとの間にバネ12C(弾性部材)が設けられている。これにより、確実にソケット3の底面にICタグ検出部12A,17Aが固定されると共に、ICタグ検出部12A,17Aのアンテナコイルは工具の角ドライブ部121cの回転軸Lの中心に配置されるため、ソケット3のICタグ3AおよびICタグ付ボルト4のICタグ4Aの検出状態を良好に保つことができる。
【0054】
さらに、本実施の形態では、ICタグ検出部12A,17Aと接続され、ソケット3およびICタグ付ボルト4の各識別情報を取得するリーダライタ部17と、リーダライタ部17で取得したソケット3およびICタグ付ボルト4の各識別情報を情報管理サーバ6へと送信する第1通信部18と、情報管理サーバ6から送信されてきた情報を表示する表示部19と、とを有している。これにより、作業者は、正しいソケット3であるか否か、正しいICタグ付ボルト4であるか否か、これらの組み合わせが正しいか否か、トルク値はどのくらいかといったことをトルクレンチ2の表示部19を確認しながら作業を行うことができるため、効率的に一連の作業が行えると共に、ヒューマンエラーを低減させることが可能となる。
【0055】
なお、本実施の形態の自動認識システム1Aは、トルクレンチ2の第1通信部18から送信されてきたソケット3およびICタグ付ボルト4のICタグ3A,4Aの各識別情報を受信する通信部22(受信部)と、通信部22で受信した各識別情報に基づいて所定の作業判定を行い、その判定結果情報をトルクレンチ2の第2通信部20へと送信する制御部21(判定部)を有する情報管理サーバ6と、を有し、トルクレンチ2は、情報管理サーバ6から送信されてきた判定結果を表示部19に表示させることができる。これにより、この自動認識システム1Aでは、作業者が正しいソケット3であるか否か、正しいICタグ付ボルト4であるか否か、これらの組み合わせが正しいか否か、トルク値はどのくらいかといったことを確認しながら作業を行うことができるため、効率的に一連の作業が行えると共に、ヒューマンエラーを低減させることが可能となる。
【0056】
<その他の変形例について>
以上、本発明の一実施の形態としてトルクレンチ2および自動認識システム1Aを説明したが、種々の変形が可能である。たとえば、1つのICタグ検出部12Aのアンテナコイルが複数のICタグと相互誘導関係にある場合と、1つのICタグ検出部12Aのアンテナコイルが単一のICタグと相互誘導関係にある場合とを比較した場合、単一の相互誘導関係にある電磁結合の方が強いことが知られている。そこで、ソケット3において単一の相互誘導関係となるように構成してもよい。以下、単一の相互誘導関係となる変形例について説明する。
【0057】
図8は、本発明の他の実施の形態に係る自動認識システム1Bの構成を示すブロック図である。
図9は、
図8に示すトルクレンチ2とソケット30Aの外観の一例を示す斜視図である。
図10は、
図8および
図9に示すソケット30AにおけるICタグ3Aの好ましい位置関係について説明するための図である。また、
図11は、ソケット30Aとは異なるタイプのソケット30BにおけるICタグ3Aの好ましい位置について説明するための図である。なお、
図1に示す自動認識システム1Aと同様の機能については同一の符号を付して、その説明を省略する。
図8に示す自動認識システム1Bでは、ソケット30Aの構成が
図1に示すソケット3と異なるため、以下のソケット30Aについて説明する。
【0058】
<ソケット30AにおけるICタグの好ましい位置関係について>
図10の(a)に示すように、ソケット30Aの外縁に切欠部34を設け、その切欠部34の内部にICタグ3Aを配置する。なお、ソケット穴31に隣接して強度維持部31Aが設けられていて、この強度維持部31Aを挟んだ部位に切欠部34が設けられている。上述した回転軸線Lに沿う方向であって、切欠部34を切断するようにA−A線断面を取る場合、切欠部34は、A−A断面が三角形状となるように設けられる。このとき、切欠部34には、誘電部材である絶縁樹脂41でICタグ3Aが覆われたICタグユニット40が配置される。また、
図10の(b),(c),(d)で示すように、ICタグ3Aの傾斜角度θは、設置面T1を基準とした場合に90度となるように配置している。
【0059】
また、アンテナコイル82(
図6等参照;
図10においては図示省略)を有するICタグ3Aの表面と裏面のそれぞれは、誘電部材である絶縁樹脂41の異なる位置における外表面に対して平行または傾斜した配置に設けられている。たとえば、
図10に示す構成では、ICタグユニット40のうちソケット30Aの端面側と同一面に設けられる端面40aと、ICタグユニット40の湾曲した外周面40bとは、ICタグ3Aの表面と裏面に対して、それぞれ傾斜した配置となっている。それにより、磁力線は金属のソケット30Aによって遮られることがない状態で、閉ループを形成することができる。
【0060】
また、
図11の(a)に示すように、ソケット30Aのうち外周面からソケット穴31に向かって突っ切るように切欠部34を設け、その切欠部34の内部にICタグ3Aを有するICタグユニット40を配置するようにしてもよい。上述した回転軸線Lに沿う方向であって、切欠部34を切断するようにB−B線断面を取る場合、切欠部34は、
図11(a)に示すB−B断面が四角形状となるように設けられている。なお、
図11に示す構成では、ICタグユニット40は、そのB−B線断面が矩形となるように設けられていて、回転軸線Lに対してICタグ3Aが平行となるような配置となっている。このとき、切欠部34の底面をICタグユニット40の設置面とした場合、
図11の(b),(c),(d)で示すように、ICタグ3Aの傾斜角度θは、設置面T2を基準とした場合に90度となるように配置している。
【0061】
図12は、
図10および
図11のソケット30A,30Bとトルクレンチ2の操作の状態に応じた電磁相互誘導の関係について説明するための図である。
図12の(a)には、
図11に示すタイプの切欠部34に埋め込まれているICタグユニット40が備えるICタグ3Aが示されている。また、
図12の(b)は、
図10に示すタイプの切欠部34に埋め込まれているICタグユニット40のICタグ3Aが示されている。なお、
図12の(a)や(b)の位置関係となるためには、例えば作業者がトルクレンチ2の角ドライブ部121cをソケット30A,30Bのソケット穴31の付近に近づけることでICタグ検出部12AとICタグ3Aとの位置関係となるように操作する必要がある。
【0062】
図12の(c)に示す図は、トルクレンチ2の角ドライブ部121cにソケット30A,30Bが完全に挿入され、ストッパー126(突起部)で固定し、トルクレンチ2がいつでも動作可能な状態となっている。この状態のとき、ソケット30A,30BのICタグ3Aは、ICタグ検出部12Aから相互誘導の関係とはならない程度に離れた位置関係にある。なお、ICタグ検出部12Aの直径が4mm程度で、1mWを0dBとして、電力の大きさをdBで表したものをdBmとすると、UHF(920MHz)の30dBmでは、相互誘導の関係とはならない程度に離れた位置とは5mm以上となることが実験で確かめられている。更に、
図12の(d)では、トルクレンチ2をICタグ付ボルト4にあてて押し込むと、ICタグ検出部12AはICタグ付ボルト4のICタグ4Aを検出することになる。このとき、単一の相互誘導である。つまり、
図11の(a)、(b)、(d)に示す場合、単一の相互誘導状態となり、高い感度の条件で検出することが可能となっている。
【0063】
なお、
図10および
図11に示すタイプのソケット30A,30Bの場合、リーダライタ装置の、遠くまで届く放射電波で一括して検出する際に特に有効である。
図13は、
図1に示すような平面形状が四角形のソケット穴31を有すると共に、口径部32のサイズの異なる複数のソケット91〜94をリーダライタ装置95により一括で検出する概念を示す図である。なお、それぞれのソケット91〜94には、ICタグユニット401〜404がそれぞれ取り付けられている。
【0064】
図14は、
図13に示す複数のソケット91〜94をリーダライタ装置95により一括で検出する処理を説明するための図である。なお、
図14では、ソケット93を例として説明するが、他のソケット91,92,94であっても同様である。
【0065】
図14は、放射電波の電磁界成分の中の磁界成分Φを抜き出して示し、リーダライタ装置95から照射され、ICタグユニット401のICタグ3Aのアンテナコイル面を貫通し、コイルに誘導電流を流し、アンテナコイルにつながる不図示のICチップを起動させる。ICチップはタグ情報をアンテナコイルの誘導電流とそれが空間につくる磁界を介し、照射を受けたときとは逆のコースをたどりリーダライタ装置95に応答することでICタグとの通信を成立させる。なお、
図14に示す図は放射電波の伝搬の概念を示しているものであって、金属面の形状や媒質定数などを考慮した精密な電磁気解析による磁界分布図ではない。
【0066】
なお、ソケット91〜94のそれぞれの外縁部に組み込まれているICタグユニット401〜404におけるICタグ3Aの組み込み角度θは、
図10や
図11で説明したように、設置面を基準とした場合に90°であることが好ましく、その場合には、通信の飛距離が大きくなり、それぞれのICタグユニット401〜404のICタグ3Aはリーダライタ装置の放射電波で一括検出することができる。たとえばソケット91〜94が工具箱内に収められている場合などであっても、複数のソケット91〜94に対して一括して確認を行う工具チェック作業の際に有効なものである。
【0067】
以上の実施の形態では、角ドライブ部121cの外側面にストッパー126(突起部)を有し、このストッパー126は、ソケット3のソケット穴31(ソケット穴)に角ドライブ部121cが挿入された際に、その角ドライブ部121cを固定するためのものであり、角ドライブ部121cがソケット穴31に挿入され、ストッパー126により固定された状態となると、
図12の(c)で説明したように、ICタグ検出部12Aが有するアンテナとソケット3に設けられたICタグ3Aとの間で電磁結合関係が生じない位置関係となっている。
【0068】
そして、その状態でソケット30A,30B,ソケット91〜94とICタグ付ボルト4とを嵌合させると、ICタグ検出部12Aのアンテナと、ICタグ付ボルト4に設けられたICタグ4Aとの相互誘導での電磁結合関係が生じて、ICタグ付ボルト4のICタグ4Aのみから情報を読み取ることができる。これにより、トルクレンチ2のアンテナが誤って異なるICタグ3A,4Aから情報を読み取ることがないように構成されている。なお、上述の例では、電磁結合関係が生じない位置関係としているが、仮に相互誘導での電磁結合関係が仮に生じてもソケット30A,30B,ソケット91〜94のICタグ3Aから情報を読み取ることができない程度の感度となる位置関係であってもよい。
【0069】
上述したトルクレンチ2では、リーダライタ部17が一体化されていたが、それ以外にも従来のリーダライタ部17の検出機能のみがトルクレンチ2と一体化され、その他の機能(リーダ装置および電源)は別の装置とケーブルを介して接続されるものであってもよい。
図15は、他の実施形態を示す自動認識システム1Cの構成を示すブロック図である。なお、
図1に示す自動認識システム1Aと同様の機能については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0070】
自動認識システム1Cのトルクレンチ2Aでは、リーダライタ部17および第1通信部18がトルクレンチ本体11に内蔵されておらず、外部のリーダライタ装置110の内部にあり、ケーブル12Bで接続している構成である。このようなトルクレンチ2Aとすることで、リーダライタ装置110分の重量およびリーダライタ装置110の電源コンセント111から電力を確保することができるため、これらの容量の分だけ、トルクレンチ2と比較して軽量かつ小型化を図ることができる。
【0071】
また、上述の実施の形態では、トルクレンチ2として、シグナル式のトルクレンチを例に説明している。なお、シグナル式のトルクレンチは、プリセット形、単能形、プリロック形他、いずれのタイプであっても良い。しかしながら、トルクレンチは、シグナル式のものには限られなく、たとえば負荷されているトルクを目盛にて読み取るタイプの直読式トルクレンチであっても良い。直読式のトルクレンチとしては、プレート形、ダイヤル形、デジタル形他、いずれのタイプであっても良い。また、トルクレンチ2はソケット3が交換できるタイプのものを例として説明しているが、ソケット3を交換できないタイプのものであってもよい。
【0072】
また、上述の実施の形態のICタグ検出部12A,17Aのアンテナ、ICタグ3A,4A,51A,52Aとしては、たとえば920MHzといったUHF帯の電磁波に対応しているものが挙げられる。しかしながら、本実施の形態のICタグ3A,4A,51A,52Aとしてはそれ以外の周波数に対応していてもよい。それ以外の周波数としては、たとえばLF帯(125/135kHz)の周波数、13.56MHzといったHF帯域の周波数、2.45GHzといったマイクロ波帯域の電磁波に対応していてもよい。
【0073】
なお、上述の実施の形態におけるICタグの取付構造は、ソケット30A,30B,ソケット91〜94を例として挙げたが、その他の金属製の工具に適用してもよい。