(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リップシールのリップが、軸方向において、前記エアレーション生起部の被密封流体側の一部を残して前記エアレーション生起部を覆うとともに大気側に延設され、前記エアレーション生起部より大気側の回転部材の外周面と摺接するように設定されていることを特徴とする請求項1記載の軸封装置。
前記リップシールのリップが、軸方向において、前記エアレーション生起部の被密封流体側の一部及び大気側の一部を残して、前記エアレーション生起部の形成された回転部材の外周面と摺接するように設定されていることを特徴とする請求項1記載の軸封装置。
前記エアレーション生起部は、相互に平行で一定のピッチの複数の直線状の凹凸からなる周期構造の溝の構成をしていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の軸封装置。
前記エアレーション生起部の相互に平行で一定のピッチの複数の直線状の凹凸からなる周期構造の溝は、フェムト秒レーザの照射により形成されることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1項に記載の軸封装置。
【背景技術】
【0002】
従来、固定ハウジングに装着され、回転軸の表面を摺動密封するリップタイプシールにおいて、環境問題に対応するため、リップ形状・寸法及びリップ材質の適正化、リップ摺動面または相手軸表面のコーティング、並びに、相手軸表面粗さの適正化を通じて低フリクション化が図られている。
リップ摺動面または相手軸表面へコーティングするもの、及び、相手軸表面粗さを適正化するものにおいては、初期に効果があるのみで時間経過とともに摩耗により低フリクションを継続することができないという問題があった。
一方、潤滑特性を良好にする軸封装置として、
図10に示す封止手段が知られている(以下、「従来技術1」という。例えば、特許文献1参照。)。
この従来技術1は、ハウジング50に取り付けられたリップタイプシール51を組み込んでおり、該リップタイプシール51は、回転軸52に接触するよう配設された封止縁部53を有し、該封止縁部53の接触する回転軸表面の接触部域54に、溝56及び畝部57が交互に設けられた矢形溝部55を備え、回転軸52がハウジング50内で回転する場合、矢形溝部55がポンピング効果を作り出し、大気側から浸入する異物を撥ね退けるとともに、被密封流体側からの流体を押し戻すことにより封止効果を維持するようにしたものである。
また、従来技術1の矢形溝部に代えて、らせん溝を設けた軸封装置も知られている(例えば、特許文献2参照。) 。
【0003】
さらに、低トルク化とシール性とを両立させる軸封装置として、
図11に示す封止手段が知られている(以下、「従来技術2」という。例えば、特許文献3参照。)。
この従来技術2は、被密封流体をシールするシールリップ60と、該シールリップ60の大気側に配置され、回転軸61表面に形成されたネジ62と筒状部63とからなるネジポンプ機構64とを有し、該ネジポンプ機構64は、シールリップ60に向けて流体ポンピング作用をなしてシールリップ60の緊迫力を実質低下させるようにすることにより、シールリップ60によってシール性を確保するとともに、ネジポンプ機構64によってシールリップ60の低トルク化を実現したものである。
【0004】
しかしながら、
図10に示す従来技術1の軸封装置では、回転軸表面の接触部域54に設けられた高硬度材料で形成された矢形溝部55にリップタイプシール51の封止縁部53が接触する構造であるため、封止縁部53の摩耗が早く、また、矢形溝部55の各溝56が大気側と被密封流体側とを軸方向に直接連通する「く字状」の形状をし、封止縁部53の先端部がく字状の溝56に接触していないため、被密封流体側と大気側とが常時連通した状態にあることから、装置の静止状態では被密封流体が大気側に漏出する可能性がある。通常のオイルシールにおいて軸の表面粗さが2.5μm以上になると静止時の漏れの原因になることが知られており、従来技術1の場合、溝56の深さが2.5μm以上であれば、静止時において深刻な漏れを発生する。
また、従来技術1の矢形溝部に代えて、らせん溝を設けた軸封装置においてもらせん溝を介して大気側と被密封流体側とが直接連通する形状であるため、従来技術1と同様の問題がある。
さらに、
図11に示す従来技術2の軸封装置では、シールリップ60の低トルク化のためシールリップ60の緊迫力が低下されていることから、シールリップ60のシール性が低下すること、及び、ネジポンプ機構64の流体ポンピング作用により被密封流体側に大気が混入されるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決するためになされたものであって、リップシールタイプの軸封装置において、シール機能の維持及びシール部分の低フリクション化の両方を実現できる軸封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために本発明の軸封装置は、第1に、
径方向内外で同心状に配置されている回転部材と固定部材との間をシールするリップシールを備えたリップタイプシールの軸封装置において、
前記回転部材の外周面に、前記リップシールと前記回転部材との相対回転摺動によりエアレーションを生起するエアレーション生起部が円周方向に形成され、
前記エアレーション生起部は、前記回転部材の軸方向に沿った微細な溝が円周方向に複数配置されて構成され、
前記リップシールのリップが、軸方向において、前記エアレーション生起部の被密封流体側の一部を残して大気側に延設されていることを特徴としている。
この特徴によれば、リップシールと前記回転部材との相対回転摺動により、回転部材のエアレーション生起部の溝内においてエアレーションが発生する。この発生したエアレーションにより、エアレーションゾーンを境界に被密封流体である液体が遮断される。同時に、エアレーションゾーンは液体に比較して粘性が小さいため、リップシールと回転部材との摺動面の摩擦が小さくなる。
よって、シール機能の維持及びシール部分の低フリクション化の両方を達成することができる。
【0008】
また、本発明の軸封装置は、第2に、第1の特徴において、
前記リップシールのリップが、軸方向において、前記エアレーション生起部の被密封流体側の一部を残して前記エアレーション生起部を覆うとともに大気側に延設され、前記エアレーション生起部より大気側の回転部材の外周面と摺接するように設定されていることを特徴としている。
この特徴によれば、リップシールのリップがエアレーション生起部より大気側の回転部材の外周面に圧接されるため、静止時における漏れを確実に防止することができる。
【0009】
また、本発明の軸封装置は、第3に、第1の特徴において、
前記リップシールのリップが、軸方向において、前記エアレーション生起部の被密封流体側の一部及び大気側の一部を残して、前記エアレーション生起部の形成された回転部材の外周面と摺接するように設定されていることを特徴としている。
この特徴によれば、リップシールのリップがエアレーション生起部の形成された回転部材の外周面に圧接されるように設定されているため、リップシールの軸方向の長さに比べてエアレーション生起部の軸方向の長さを大きく設定することができ、エアレーション作用を向上させることができる。
【0010】
また、本発明の軸封装置は、第4に、第1ないし第3のいずれかの特徴において、
前記エアレーション生起部は、相互に平行で一定のピッチの複数の直線状の凹凸からなる周期構造の溝の構成をしていることを特徴としている。
この特徴によれば、エアレーション生起部の形成が容易であり、また、各エアレーション生起部におけるエアレーション性能を均一なものとすることができる。
【0011】
また、本発明の軸封装置は、第5に、第1ないし第4のいずれかの特徴において、
前記エアレーション生起部の溝の断面形状が角形であることを特徴としている。
この特徴によれば、エアレーション生起部の溝の形成が容易である。
【0012】
また、本発明の軸封装置は、第6に、第1ないし第4のいずれかの特徴において、
前記エアレーション生起部の溝の断面形状が波形であることを特徴としている。
この特徴によれば、エアレーション生起部の溝に当接するリップシールのリップの摩耗を少なくすることができる。
【0013】
また、本発明の軸封装置は、第7に、第4ないし第6のいずれかの特徴において、
前記エアレーション生起部の相互に平行で一定のピッチの複数の直線状の凹凸からなる周期構造の溝は、フェムト秒レーザの照射により形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、周期構造の溝の方向性の制御が可能であり、加工位置の制御も可能であるため、離散的な小区画に分けて各区画ごとに所望の周期構造の形成ができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る軸封装置を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加えうるものである。
【0016】
〔実施形態1〕
図1は、本発明の実施形態1に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図1において、ハウジング1には回転軸2を挿通するための回転軸貫通穴3が設けられ、該回転軸貫通穴3に回転軸2が挿通され、図示しないベアリングなどにより回転軸2が回転軸貫通穴3周壁と所要の間隙をもって支持される。
ここで、径方向内外で同心状に配設されている回転部材と固定部材とにおいて、ハウジング1は固定部材に相当し、回転軸2は回転部材に相当する。
回転軸2と回転軸貫通穴3周壁との間には、軸封装置10が配設され、被密封流体側Lと大気側Aとを密封する。
図1において、右側が被密封流体側Lであり、左側が大気側Aである。
なお、本発明において、被密封流体は液体である。
【0017】
軸封装置10は、リップシール11を備え、ハウジング1と回転軸2とが対向する環状空間を被密封流体側Lと、大気圧側Aとの2つの空間に仕切ってその内外を遮断するようになっており、径方向断面形状がほぼ横L字形の補強環12にエラストマー製のシールリップ部材13が環状に被着されている。シールリップ部材13の回転軸2側、つまり内周部分は、被密封流体側Lへ延びかつ内周側へ向けて延び、断面形状がほぼ逆三角形で、その三角形の頂点に対応するエッジ形状の部分がリップ14を形成している。このリップ14は、回転軸2の外周面上に圧接されたときエッジが変形して所定の軸方向接触幅で該回転軸2の外周面上を摺動することができる。
【0018】
リップ14の外周には、リップ14を回転軸2の外周面に対して圧接させるガータスプリング15が装着されている。
【0019】
回転軸2の外周面Sには、周方向にエアレーション生起部20が形成されている。エアレーション生起部20とシールリップ部材13のリップ14とは、軸方向において、エアレーション生起部20の被密封流体側Lの一部を残してエアレーション生起部20が形成された回転軸20の外周面と摺動するように配置されている。エアレーション生起部20の大気側の一部はリップ14に覆われていない。
このように、エアレーション生起部20は、被密封流体側Lとは連通しているが、大気側Aとはリップ14の圧接により非連通となっている。
【0020】
エアレーション生起部20の軸方向の長さa1は、リップ14の回転軸2の外周面と接触する長さa2よりやや大きく設定される。
なお、エアレーション生起部20については、後記において詳細に説明する。
【0021】
〔実施形態2〕
図2は、本発明の実施形態2に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図2において、
図1に付された符号と同じ符号は
図1における部材と同じ部材を意味しており、詳細な説明は省略する。
軸封装置30は、リップシール31を備え、ハウジング1と回転軸2とが対向する環状空間を被密封流体側Lと、大気圧側Aとの2つの空間に仕切ってその内外を遮断するようになっている。リップシール31は、断面がL形状の樹脂製のシールリップ部材32を備え、該シールリップ部材32は、断面が略L形状の外側の結合金属環33と断面が略L形状の内側の押え金属環34とにより挟持される。
【0022】
断面がL形状のシールリップ部材32の内周側に筒状リップ35が形成され、この筒状リップ35は回転軸2の外周面と強く密接して被密封流体をシールする。
筒状リップ35と回転軸2の外周面との密接部の付近において、回転軸2の外周面Sには、周方向にエアレーション生起部20が形成されている。該エアレーション生起部20は、基本的には実施の形態1のエアレーション生起部20と同じである。
【0023】
エアレーション生起部20とシールリップ部材32の筒状リップ35とは、実施形態1と同様に、軸方向において、エアレーション生起部20の被密封流体側Lの一部を残してエアレーション生起部20が形成された回転軸20の外周面と摺動するように配置されている。エアレーション生起部20の大気側の一部は筒状リップ35に覆われていない。
このように、エアレーション生起部20は、被密封流体側Lとは連通しているが、大気側Aとは筒状リップ35の圧接により非連通となっている。エアレーション生起部20の大気側の一部は筒状リップ35に覆われていない。
【0024】
エアレーション生起部20の軸方向の長さa1は、筒状リップ35の回転軸20の外周面と接触する軸方向の長さa2よりやや大きく設定される。
なお、エアレーション生起部20については、後記において詳細に説明する。
【0025】
〔実施形態3〕
図3は、本発明の実施形態3に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図3において、
図2に付された符号と同じ符号は
図1における部材と同じ部材を意味しており、詳細な説明は省略する。
本実施形態3では、回転軸2にシール用スリーブ4が嵌合されている点が実施形態2と相違するが、その他の構成は実施形態2と同じであり、該スリーブ4の外周面Sに周方向にエアレーション生起部20が形成されている。ここで、スリーブ4は回転部材に相当する。
なお、エアレーション生起部20については、後記において詳細に説明する。
【0026】
〔実施形態4〕
図4は、本発明の実施形態4に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図4において、
図2に付された符号と同じ符号は
図2における部材と同じ部材を意味しており、詳細な説明は省略する。
本実施形態4においては、エアレーション生起部20の軸方向の長さa1が、筒状リップ35の回転軸2の外周面と接触する軸方向の長さa2とほぼ同じか、あるいは、やや小さく設定され、エアレーション生起部20とシールリップ部材32の筒状リップ35とは、軸方向において、エアレーション生起部20の被密封流体側Lの一部を残して筒状リップ35がエアレーション生起部20を覆うように配置され、筒状リップ35はさらに大気側Aに延設された形状をしており、エアレーション生起部20より大気側Aの回転軸2の外周面と摺動するように配置されている点で実施形態2と相違する。
このように、エアレーション生起部20は、被密封流体側Lとは連通しているが、大気側Aとは筒状リップ35と回転軸2の摺動面Sとの圧接により非連通となっている。
なお、エアレーション生起部20については、後記において詳細に説明する。
【0027】
〔実施形態5〕
図5は、本発明の実施形態5に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図5において、
図4に付された符号と同じ符号は
図4における部材と同じ部材を意味しており、詳細な説明は省略する。
本実施形態5では、回転軸2にシール用スリーブ4が嵌合されている点が実施形態4と相違するが、その他の構成は実施形態4と同じであり、該スリーブ4の外周面Sに周方向にエアレーション生起部20が形成されている。
ここで、スリーブ4は回転部材に相当する。
なお、エアレーション生起部20については、後記において詳細に説明する。
【0028】
〔実施形態6〕
図6は、本発明の実施形態6に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図6において、
図1に付された符号と同じ符号は
図1における部材と同じ部材を意味しており、詳細な説明は省略する。
本実施形態6においては、エアレーション生起部20の軸方向の長さa1が、リップ14の回転軸2の外周面と接触する軸方向の長さa2とほぼ同じか、あるいは、やや小さく設定され、エアレーション生起部20とシールリップ部材13のリップ14とは、軸方向において、エアレーション生起部20の被密封流体側Lの一部を残してリップ14がエアレーション生起部20を覆うように配置され、リップ14はさらに大気側Aに延設された形状をしており、エアレーション生起部20より大気側Aの回転軸2の外周面と摺動するように配置されている点で実施形態1と相違する。
このように、エアレーション生起部20は、被密封流体側Lとは連通しているが、大気側Aとはリップ14と回転軸2の摺動面Sとの圧接により非連通となっている。
なお、エアレーション生起部20については、後記において詳細に説明する。
【0029】
上記した
図1の実施の形態1及び
図6の実施形態6の場合において、
図3の実施形態3及び
図5の実施形態5と同様に、回転軸2にシール用スリーブ4を嵌合したものにも適用できることはいうまでもない。
【0030】
〔エアレーション生起部の構成〕
図7は、本発明の実施形態1ないし6に係る軸封装置において回転軸またはスリーブのような回転部材の外周面に設けられるエアレーション生起部を説明する図であって、回転部材の外周面の一部を展開した状態を示している。
図7では、実施形態1〜6のうち、実施形態1のエアレーション生起部20を例にして説明するが、実施形態2〜6のエアレーション生起部20も同様の構造である。
【0031】
液体側と気体側とを密封して相対的に摺動する摺動面に微細な突起が存在すれば、エアレーションが発生することは一般的に知られている(例えば、「Microasperity Lubrication」J.N.Anno,J.A.Walowit,C.M.Allen著 ASME J.Tribology 24929巻 p.351−355、1968年 参照。) 。
このエアレーションは相対的に摺動する摺動面におけるシール部の圧力が低下することにより、液中に泡が生じる現象である。
本発明は、シールリップ部材のリップ14あるいは筒状リップ35と回転部材2あるいは4の外周面との摺動面を低摩擦化(「低フリクション化」ともいう。)させるために、摺動面間にエアレーションを生起させることとしている。このエアレーションを得るため、本発明では、上記したように、回転部材の摺動面Sに、シールリップ部材13と回転部材との相対回転摺動によりエアレーションを生起するエアレーション生起部20が円周方向に形成されている。該エアレーション生起部20は、前記回転部材の軸方向に沿った微細な溝21が円周方向に複数配置されて構成されている。
【0032】
回転部材の軸方向に沿った微細な溝21は、代表的には
図7に詳細に示すように、相互に平行で一定のピッチの複数の直線状の凹凸(本発明においては、「周期構造の溝」ともいう。)であるが、これに限らず、非周期構造でもよい。
図7(a)には、溝21の断面形状が角形である周期構造の溝が、また、
図7(b)には、溝21の断面形状が波形である周期構造の溝が示されている。溝21の断面形状は、角形及び波形に限らず、他の形状でもよい。
【0033】
上記周期構造の溝は、後述するように、例えば、フェムト秒レーザにより形成される微細な構造である。
また、周期構造の溝は、回転軸2又はスリーブ4の外周面と面一に形成される場合の他、外周面に凹部を形成し、該凹部の底面に形成されてもよい。
図8は、
図7のA−A断面図であって、図(a)は、エアレーション生起部が回転部材の外周面上に設けられる場合を、また、図(b)は、エアレーション生起部が回転部材の外周面に形成された凹部の底面に設けられる場合を示している。
【0034】
シールリップ部材と回転部材の外周面との摺動面を低摩擦化させるためには、被密封流体の種類、温度などによるが、通常、摺動面間に0.1μm〜10μmの液膜hが形成されるが、その場合、エアレーション生起部20において、凹凸の頂点を結ぶような仮想平面をとると、該仮想平面は液膜hに応じて摺動面Sに対して面一あるいは下方に設定される。
図8(a)には、摺動面Sと仮想平面との距離d1=0、すなわち、仮想平面が摺動面Sと面一の場合が示され、また、
図8(b)には、摺動面Sに形成された凹部22の底部にエアレーション生起部20が形成される場合が示されており、仮想平面は摺動面Sに対してd1>0だけ低い位置に設定されている。
図1〜3に示されるように、リップシールのリップ14または筒状リップ35がエアレーション生起部20の形成された回転軸2の外周面と摺接する場合、摺動面Sと仮想平面との距離d1は、静止時の漏れ防止の観点から、0≦d1≦2μmに設定するのが望ましい。また、凹凸の頂点を結ぶ仮想平面と底部との深さd2は、0<d2≦2μmの範囲が望ましく、d1とd2との合計は、0<d1+d2≦2.5μmが望ましい。
一方、
図4〜6に示されるように、リップシールのリップ14または筒状リップ35がエアレーション生起部20より大気側の回転軸2の外周面とも摺接する場合、摺動面Sと仮想平面との距離d1は、d1=0〜10h、凹凸の頂点を結ぶ仮想平面と底部との深さd2は、d2=0.1〜10hの範囲が望ましい。
さらに、エアレーション生起部20の凹凸のピッチpは、被密封流体の粘度に応じて設定されるが、
図1〜6のいずれの場合も、0.1μm〜100μmが望ましい。被密封流体の粘度が高い場合、溝内に流体が十分に入り込めるようにピッチpを大きくした方がよい。
【0035】
摺動面Sに形成された凹部22の底部にエアレーション生起部20が形成される場合、フェムト秒レーザにより、まず、凹部22が形成され、その後続いて、エアレーション生起部20が形成される。摺動面Sに形成された凹部22の底部にエアレーション生起部20が形成される場合、凹部22内の空間に被密封流体が取り込むことができ、エアレーション生起部20により大気側に漏れないようなエアレーションを多く生起することができる。
【0036】
相互に平行で一定のピッチの複数の直線状の凹凸を精度よく所定のピッチで配置した構造(周期構造の溝)であるエアレーション生起部20は、例えば、フェムト秒レーザを用いて、摺動面Sの所定の領域に厳密に区画分けされ、さらに凹凸の方向を軸方向と平行に精度よくコントロールして形成される。
加工しきい値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを基板に照射すると、入射光と基板の表面に沿った散乱光又はプラズマ波の干渉により、波長オーダーのピッチと溝深さを持つ凹凸状の周期構造が偏光方向に直交して自己組織的に形成される。この時、フェムト秒レーザをオーバーラップさせながら操作を行うことにより、その周期構造パターンを表面に形成することができる。
【0037】
このようなフェムト秒レーザを利用した周期構造の溝では、その方向性の制御が可能であり、加工位置の制御も可能であるため、所望の周期構造の溝の形成ができる。すなわち、円筒状の回転軸又はスリーブの外周面を回転させながらこの方法を用いれば、外周面に微細な周期パターンを形成することができる。そしてまたフェムト秒レーザを利用した加工方法では、リップタイプシールの潤滑性向上及び漏洩低減に有効なサブミクロンオーダーの深さの凹凸の形成が可能である。
【0038】
前記周期構造の溝の形成は、フェムト秒レーザに限らず、ピコ秒レーザや電子ビームを用いてもよい。また、前記周期構造の溝の形成は、周期構造の溝を備えた型を用いて円筒状の摺動面を回転させながらスタンプ又は刻印することにより行われてもよい。
さらに、外周面(摺動面)の凹部の底部に前記周期構造の溝を形成する場合には、エッチングで外周面に凹部を形成し、その後、フェムト秒レーザなどにより凹部の底部に周期構造の溝を形成させてもよい。さらに、フェムト秒レーザなどにより、外周面に周期構造のみ形成させ、その後、周期構造の溝の周囲にメッキあるいは成膜を行うことで囲いを形成させてもよい。
【0039】
図9は、
図7に示すエアレーション生起部におけるエアレーションの生起状態を説明する図である。
回転軸2が矢印方向に回転すると、リップシールと前記回転部材との相対回転摺動により、回転部材2、4のエアレーション生起部20の溝21内においてエアレーションが発生する。この発生したエアレーションにより、エアレーションゾーンを境界に被密封流体である液体が遮断される。同時に、エアレーションゾーンは液体に比較して粘性が小さいため、リップシールと回転部材との摺動面の摩擦は小さくなる。
【0040】
摺動面Sに形成された凹部の底部にエアレーション生起部20が形成される場合、凹部内の空間に被密封流体が取り込むことができ、エアレーションゾーンの厚みを大きくすることができる。
【0041】
上記のように、静止時には、リップの圧接により大気側Aとは非連通となっているため漏れが防止されるとともに、起動時及び運転時には、エアレーション生起部20内においてエアレーションを生起することができ、漏れを防止するとともに、摺動面Sの摺動トルクを低くし摩耗を低減することができる。
【0042】
以上、本発明の実施の形態を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0043】
例えば、エアレーション生起部20の回転部材の軸方向に沿った微細な溝21は、相互に平行で一定のピッチの複数の直線状の凹凸に限らず、非周期構造でもよい。
【0044】
また例えば、溝21の断面形状は角形または波形に限らず、他の形状でもよい。
【0045】
また例えば、周期構造の溝は、フェムト秒レーザにより形成される場合に限らず、ピコ秒レーザや電子ビームを用いてもよい。
【0046】
また例えば、エアレーション生起部20の回転部材の軸方向に沿った微細な溝21は、回転軸2又はスリーブ4の外周面と面一に形成される場合の他、外周面に凹部22を形成し、該凹部の底面に形成されてもよい。
【0047】
なお、回転部材の軸方向に沿った微細な溝を設けた場合、上記実施の形態で説明したとおり、エアレーションの効果を奏する。しかし、回転部材の軸方向に対して一定の角度をもって微細な溝を設けた場合は、エアレーションは発生するものの、溝の角度により次のような問題生じる。
例えば、溝の角度が軸方向に対して被密封流体を取り込む方向に傾斜している場合、エアレーションは発生するが、被密封流体が多く取り込まれ過ぎるため、遮断できずに漏れの原因になる。また、溝の角度が軸方向に対して被密封流体を送り出す方向に傾斜している場合、エアレーションが発生し難く、摩擦の原因となる。