特許第5950998号(P5950998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5950998
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】軸封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20160630BHJP
   F16J 15/3244 20160101ALI20160630BHJP
【FI】
   F16J15/3204 201
   F16J15/3244
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-500123(P2014-500123)
(86)(22)【出願日】2013年1月16日
(86)【国際出願番号】JP2013050605
(87)【国際公開番号】WO2013121813
(87)【国際公開日】20130822
【審査請求日】2015年7月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-31108(P2012-31108)
(32)【優先日】2012年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100116506
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 義宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116757
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 英雄
(74)【代理人】
【識別番号】100123216
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 祐一
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(72)【発明者】
【氏名】大島 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】真田 雅光
(72)【発明者】
【氏名】細江 猛
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−186665(JP,A)
【文献】 特開2001−214979(JP,A)
【文献】 特開2006−283775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向内外で同心状に配置されている回転部材と固定部材との間をシールするリップシールを備えたリップタイプシールの軸封装置において、
前記回転部材の外周面に、前記リップシールと前記回転部材との相対回転摺動によりポンピング作用を生起するポンピング部が円周方向に連続して形成され、
前記ポンピング部は、被密封流体を吸い込む方向に作用する吸入ポンピング部と被密封流体を吐き出す方向に作用する吐出ポンピング部とがそれぞれ独立して配置されて構成され、
前記リップシールのリップは、軸方向において、前記ポンピング部の被密封流体側の一部を残して大気側に延設されていることを特徴とする軸封装置。
【請求項2】
前記リップシールのリップが、軸方向において、前記ポンピング部の被密封流体側の一部を残して前記ポンピング部を覆うとともに大気側に延設され、前記ポンピング部より大気側の回転部材の外周面と摺接するように設定されていることを特徴とする請求項1記載の軸封装置。
【請求項3】
前記リップシールのリップが、軸方向において、前記ポンピング部の被密封流体側の一部及び大気側の一部を残して、前記ポンピング部の形成された回転部材の外周面と摺接するように設定されていることを特徴とする請求項1記載の軸封装置。
【請求項4】
前記ポンピング部は、複数の直線状の凹凸が所定のピッチからなる周期構造の溝の構成をしており、前記直線状の凹凸は、当該凹凸の方向が当該摺動面の摺動方向に対して所定の角度傾斜するように形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の軸封装置。
【請求項5】
前記複数のポンピング部は、隣接するポンピング部の前記直線状の凹凸の方向が当該摺動面の摺動方向に対して対称となるように形成されていることを特徴とする請求項4記載の軸封装置。
【請求項6】
前記ポンピング部の複数の直線状の凹凸の所定のピッチからなる周期構造の溝は、フェムト秒レーザの照射により形成されることを特徴とする請求項4または5記載の軸封装置。
【請求項7】
前記ポンピング部は、回転部材の外周面上、または、回転部材の外周面に円周方向に連続して形成された凹部の底面に設けられることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の軸封装置。
【請求項8】
前記吸入ポンピング部は、側面視において直線状の凹凸が回転軸の回転方向に向かって次第に深くなるように形成され、吐出ポンピング部は、側面視において直線状の凹凸が回転軸の回転方向に向かって次第に浅くなるように形成されていることを特徴とする請求項4ないし7のいずれか1項に記載の軸封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングと回転軸との間をシールするリップタイプシールの軸封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固定ハウジングに装着され、回転軸の表面を摺動密封するリップタイプシールにおいて、環境問題に対応するため、リップ形状・寸法及びリップ材質の適正化、リップ摺動面または相手軸表面のコーティング、並びに、相手軸表面粗さの適正化を通じて低フリクション化が図られている。
リップ摺動面または相手軸表面へコーティングするもの、及び、相手軸表面粗さを適正化するものにおいては、初期に効果があるのみで時間経過とともに摩耗により低フリクションを継続することができないという問題があった。
一方、潤滑特性を良好にする軸封装置として、図10に示す封止手段が知られている(以下、「従来技術1」という。例えば、特許文献1参照。)。
この従来技術1は、ハウジング50に取り付けられたリップタイプシール51を組み込んでおり、該リップタイプシール51は、回転軸52に接触するよう配設された封止縁部53を有し、該封止縁部53の接触する回転軸表面の接触部域54に、溝56及び畝部57が交互に設けられた矢形溝部55を備え、回転軸52がハウジング50内で回転する場合、矢形溝部55がポンピング効果を作り出し、大気側から浸入する異物を撥ね退けるとともに、被密封流体側からの流体を押し戻すことにより封止効果を維持するようにしたものである。
また、従来技術1の矢形溝部に代えて、らせん溝を設けた軸封装置も知られている(例えば、特許文献2参照。) 。
【0003】
さらに、低トルク化とシール性とを両立させる軸封装置として、図11に示す封止手段が知られている(以下、「従来技術2」という。例えば、特許文献3参照。)。
この従来技術2は、被密封流体をシールするシールリップ60と、該シールリップ60の大気側に配置され、回転軸61表面に形成されたネジ62と筒状部63とからなるネジポンプ機構64とを有し、該ネジポンプ機構64は、シールリップ60に向けて流体ポンピング作用をなしてシールリップ60の緊迫力を実質低下させるようにすることにより、シールリップ60によってシール性を確保するとともに、ネジポンプ機構64によってシールリップ60の低トルク化を実現したものである。
【0004】
しかしながら、図10に示す従来技術1の軸封装置では、回転軸表面の接触部域54に設けられた高硬度材料で形成された矢形溝部55にリップタイプシール51の封止縁部53が接触する構造であるため、封止縁部53の摩耗が早く、また、矢形溝部55の各溝56が大気側と被密封流体側とを軸方向に直接連通する「く字状」の形状をし、封止縁部53の先端部がく字状の溝56に接触していないため、被密封流体側と大気側とが常時連通した状態にあることから、装置の静止状態では被密封流体が大気側に漏出する可能性がある。通常のオイルシールにおいて軸の表面粗さが2.5μm以上になると静止時の漏れの原因になることが知られており、従来技術1の場合、溝56の深さが2.5μm以上であれば、静止時において深刻な漏れを発生する。
また、従来技術1の矢形溝部に代えて、らせん溝を設けた軸封装置においてもらせん溝を介して大気側と被密封流体側とが直接連通する形状であるため、従来技術1と同様の問題がある。
さらに、図11に示す従来技術2の軸封装置では、シールリップ60の低トルク化のためシールリップ60の緊迫力が低下されていることから、シールリップ60のシール性が低下すること、及び、被密封流体側に大気が混入されるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−214979号公報
【特許文献2】特開平10−331985号公報
【特許文献3】特開2005−273693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決するためになされたものであって、リップシールタイプの軸封装置において、静止時に漏れず、回転初期を含み回転時には流体潤滑で作動するとともに漏れを防止し、密封と潤滑を両立させることのできる軸封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために本発明の軸封装置は、第1に、
径方向内外で同心状に配置されている回転部材と固定部材との間をシールするリップシールを備えたリップタイプシールの軸封装置において、
前記回転部材の外周面に、前記リップシールと前記回転部材との相対回転摺動によりポンピング作用を生起するポンピング部が円周方向に連続して形成され、
前記ポンピング部は、被密封流体を吸い込む方向に作用する吸入ポンピング部と被密封流体を吐き出す方向に作用する吐出ポンピング部とがそれぞれ独立して配置されて構成され、
前記リップシールのリップは、軸方向において、前記ポンピング部の被密封流体側の一部を残して大気側に延設されていることを特徴としている。
この特徴によれば、静止時には、リップシールのリップが回転部材の外周面に圧接されていることにより漏れを防止するとともに、起動時には、ポンピング部内に被密封流体を取り込むことによってすばやく潤滑流体膜を形成することができ、摺動面の摺動トルクを低くし摩耗を低減することができる。
さらに、運転時には、吸入ポンピング部内に被密封流体を取り込み、この被密封流体を隣接する吐出ポンピング部に送り込み、吐出ポンピング部の作用によりこの被密封流体を被密封流体側に戻すものであり、被密封流体の流れを通じて、摺動面の潤滑性を確保するとともに、漏れを防止し、シール性を保つことができる。
【0008】
また、本発明の軸封装置は、第2に、第1の特徴において、
前記リップシールのリップが、軸方向において、前記ポンピング部の被密封流体側の一部を残して前記ポンピング部を覆うとともに大気側に延設され、前記ポンピング部より大気側の回転部材の外周面と摺接するように設定されていることを特徴としている。
この特徴によれば、リップシールのリップがポンピング部より大気側の回転部材の外周面に圧接されるため、静止時における漏れを確実に防止することができる。
【0009】
また、本発明の軸封装置は、第3に、第1の特徴において、
前記リップシールのリップが、軸方向において、前記ポンピング部の被密封流体側の一部及び大気側の一部を残して、前記ポンピング部の形成された回転部材の外周面と摺接するように設定されていることを特徴としている。
この特徴によれば、リップシールのリップがポンピング部の形成された回転部材の外周面に圧接されるように設定されているため、リップシールの軸方向の長さに比べてポンピング部の軸方向の長さを大きく設定することができ、ポンピング作用を向上させることができる。
【0010】
また、本発明の軸封装置は、第4に、第1ないし第3のいずれかの特徴において、
前記ポンピング部は、複数の直線状の凹凸が所定のピッチからなる周期構造の溝の構成をしており、前記直線状の凹凸は、当該凹凸の方向が当該摺動面の摺動方向に対して所定の角度傾斜するように形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、ポンピング部を複数の直線状の凹凸が所定のピッチからなる周期構造の溝から形成できるため、ポンピングの形成が容易であり、また、傾斜角度を調節することでポンピング性能を自在に調節することができる。
【0011】
また、本発明の軸封装置は、第5に、第4の特徴において、
前記複数のポンピング部は、隣接するポンピング部の前記直線状の凹凸の方向が当該摺動面の摺動方向に対して対称となるように形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面が両方向に回転する場合に好適である。
【0012】
また、本発明の軸封装置は、第6に、第4または第5の特徴において、
前記ポンピング部の複数の直線状の凹凸の所定のピッチからなる周期構造の溝は、フェムト秒レーザの照射により形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、ポンピング部の複数の直線状の凹凸の所定のピッチからなる周期構造の溝がフェムト秒レーザの照射により形成されるため、その方向性の制御が可能であり、加工位置の制御も可能であるため、離散的な小区画に分けて各区画ごとに所望の周期構造の形成ができる。
【0013】
また、本発明の軸封装置は、第7に、第1ないし第6のいずれかの特徴において、
前記ポンピング部は、回転部材の外周面上、または、回転部材の外周面に円周方向に連続して形成された凹部の底面に設けられることを特徴としている。
この特徴によれば、ポンピング部が回転部材の外周面上に設けられる場合は、その加工が容易であり、また、ポンピング部が回転部材の外周面に形成された凹部の底面に設けられる場合には、起動時に、凹部内に取り込まれた被密封流体を利用して素早く潤滑流体膜を形成することができる。
【0014】
また、本発明の軸封装置は、第8に、第4ないし第7のいずれかの特徴において、前記吸入ポンピング部は、側面視において直線状の凹凸が回転軸の回転方向に向かって次第に深くなるように形成され、吐出ポンピング部は、側面視において直線状の凹凸が回転軸の回転方向に向かって次第に浅くなるように形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、吸入ポンピング部においては、より一層、被密封流体を取り込んで吐出ポンピング部に送り込むことができ、また、吐出ポンピング部においては、送り込まれた被密封流体を、より一層、被密封流体側に戻すことができるため、摺動面の潤滑性及び漏れを防止をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態1に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図2】本発明の実施形態2に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図3】本発明の実施形態3に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図4】本発明の実施形態4に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図5】本発明の実施形態5に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図6】本発明の実施形態6に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図7】本発明の実施形態1ないし6に係る軸封装置において回転軸またはスリーブ外周面の円周方向に連続して設けられるポンピング部の一部を説明する平面図であって、回転軸又はスリーブの外周面の一部を平面状に展開した状態を示している。
図8図7のA−A断面図であって、図(a)は、ポンピング部が回転部材の外周面上に設けられる場合を、また、図(b)は、ポンピング部が回転部材の外周面に形成された凹部の底面に設けられる場合を示している。
図9】ポンピング部の変形例を説明する図であって、図8と同様に、回転軸と直交する面から見た断面図である。
図10】従来技術1を説明する縦断面図である。
図11】従来技術2を説明する縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る軸封装置を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加えうるものである。
【0017】
〔実施形態1〕
図1は、本発明の実施形態1に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図1において、ハウジング1には回転軸2を挿通するための回転軸貫通穴3が設けられ、該回転軸貫通穴3に回転軸2が挿通され、図示しないベアリングなどにより回転軸2が回転軸貫通穴3周壁と所要の間隙をもって支持される。
ここで、径方向内外で同心状に配設されている回転部材と固定部材とにおいて、ハウジング1は固定部材に相当し、回転軸2は回転部材に相当する。
回転軸2と回転軸貫通穴3周壁との間には、軸封装置10が配設され、被密封流体側Lと大気側Aとを密封する。
図1において、右側が被密封流体側Lであり、左側が大気側Aである。
【0018】
軸封装置10は、リップシール11を備え、ハウジング1と回転軸2とが対向する環状空間を被密封流体側Lと、大気圧側Aとの2つの空間に仕切ってその内外を遮断するようになっており、径方向断面形状がほぼ横L字形の補強環12にエラストマー製のシールリップ部材13が環状に被着されている。シールリップ部材13の回転軸2側、つまり内周部分は、被密封流体側Lへ延びかつ内周側へ向けて延び、断面形状がほぼ逆三角形で、その三角形の頂点に対応するエッジ形状の部分がリップ14を形成している。このリップ14は、回転軸2の外周面上に圧接されたときエッジが変形して所定の軸方向接触幅で該回転軸2の外周面上を摺動することができる。
【0019】
リップ14の外周には、リップ14を回転軸2の外周面に対して圧接させるガータスプリング15が装着されている。
【0020】
回転軸2の外周面Sには、シールリップ部材13と回転軸2との相対回転摺動によりポンピング作用を生起するポンピング部20が円周方向に連続して形成されている。該ポンピング部20とシールリップ部材13のリップ14とは、軸方向において、ポンピング部20の被密封流体側Lの一部を残してポンピング部20が形成された回転軸20の外周面と摺動するように配置されている。図1においては、ポンピング部20の大気側の一部はリップ14に覆われていない。
このように、円周方向に連続して形成されたポンピング部20は、被密封流体側Lとは連通しているが、被密封流体側Lと大気側Aとはリップ14の圧接により非連通となっている。
【0021】
ポンピング部20の軸方向の長さa1は、リップ14の回転軸2の外周面と接触する長さa2よりやや大きく設定されている。
なお、ポンピング部20の構成については、後記において詳細に説明する。
【0022】
〔実施形態2〕
図2は、本発明の実施形態2に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図2において、図1に付された符号と同じ符号は図1における部材と同じ部材を意味しており、詳細な説明は省略する。
軸封装置30は、リップシール31を備え、ハウジング1と回転軸2とが対向する環状空間を被密封流体側Lと、大気圧側Aとの2つの空間に仕切ってその内外を遮断するようになっている。リップシール31は、断面がL形状の樹脂製のシールリップ部材32を備え、該シールリップ部材32は、断面が略L形状の外側の結合金属環33と断面が略L形状の内側の押え金属環34とにより挟持される。
【0023】
断面がL形状のシールリップ部材32の内周側に筒状リップ35が形成され、この筒状リップ35は回転軸2の外周面と強く密接して被密封流体をシールする。
筒状リップ35と回転軸2の外周面との密接部の付近において、回転軸2の外周面Sには、シールリップ部材32と回転軸2との相対回転摺動によりポンピング作用を生起するポンピング部20が円周方向に連続して形成されている。
該ポンピング部20は、基本的には実施の形態1のポンピング部20と同じである。
【0024】
円周方向に連続して形成されたポンピング部20とシールリップ部材32の筒状リップ35とは、実施形態1と同様に、軸方向において、ポンピング部20の被密封流体側Lの一部を残してポンピング部20が形成された回転軸20の外周面と摺動するように配置されている。
このように、円周方向に連続して形成されたポンピング部20は、被密封流体側Lとは連通しているが、被密封流体側Lと大気側Aとはリップ14の圧接により非連通となっている。ポンピング部20の大気側の一部は筒状リップ35に覆われていない。
【0025】
ポンピング部20の軸方向の長さa1は、筒状リップ35の回転軸20の外周面と接触する軸方向の長さa2よりやや大きく設定されている。
なお、ポンピング部20の構成については、後記において詳細に説明する。
【0026】
〔実施形態3〕
図3は、本発明の実施形態3に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図3において、図2に付された符号と同じ符号は図1における部材と同じ部材を意味しており、詳細な説明は省略する。
本実施形態3では、回転軸2にシール用スリーブ4が嵌合されている点が実施形態2と相違するが、その他の構成は実施形態2と同じであり、該スリーブ4の外周面Sにシールリップ部材32と回転軸2との相対回転摺動によりポンピング作用を生起するポンピング部20が円周方向に連続して形成されている。ここで、スリーブ4は回転部材に相当する。
なお、ポンピング部20の構成については、後記において詳細に説明する。
【0027】
〔実施形態4〕
図4は、本発明の実施形態4に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図4において、図2に付された符号と同じ符号は図2における部材と同じ部材を意味しており、詳細な説明は省略する。
本実施形態4においては、シールリップ部材32と回転軸2との相対回転摺動によりポンピング作用を生起するポンピング部20の軸方向の長さa1が、筒状リップ35の回転軸2の外周面と接触する軸方向の長さa2とほぼ同じか、あるいは、やや小さく設定され、円周方向に連続して形成されたポンピング部20とシールリップ部材32の筒状リップ35とは、軸方向において、ポンピング部20の被密封流体側Lの一部を残して筒状リップ35がポンピング部20を覆うように配置され、筒状リップ35はさらに大気側Aに延設された形状をしており、ポンピング部20より大気側Aの回転軸2の外周面と摺動するように配置されている点で実施形態2と相違する。
このように、円周方向に連続して形成されたポンピング部20は、被密封流体側Lとは連通しているが、大気側Aとは筒状リップ35と回転軸2の摺動面Sとの圧接により非連通となっている。
なお、ポンピング部20の構成については、後記において詳細に説明する。
【0028】
〔実施形態5〕
図5は、本発明の実施形態5に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図5において、図4に付された符号と同じ符号は図4における部材と同じ部材を意味しており、詳細な説明は省略する。
本実施形態5では、回転軸2にシール用スリーブ4が嵌合されている点が実施形態4と相違するが、その他の構成は実施形態4と同じであり、該スリーブ4の外周面Sに円周方向に連続して形成されたポンピング部20が形成されている。
ここで、スリーブ4は回転部材に相当する。
なお、ポンピング部20の構成については、後記において詳細に説明する。
【0029】
〔実施形態6〕
図6は、本発明の実施形態6に係る軸封装置を示す縦断面図である。
図6において、図1に付された符号と同じ符号は図1における部材と同じ部材を意味しており、詳細な説明は省略する。
本実施形態6においては、シールリップ部材13と回転軸2との相対回転摺動によりポンピング作用を生起するポンピング部20の軸方向の長さa1が、リップ14の回転軸2の外周面と接触する軸方向の長さa2とほぼ同じか、あるいは、やや小さく設定され、ポンピング部20とシールリップ部材13のリップ14とは、軸方向において、円周方向に連続して形成されたポンピング部20の被密封流体側Lの一部を残してリップ14がポンピング部20を覆うように配置され、リップ14はさらに大気側Aに延設された形状をしており、ポンピング部20より大気側Aの回転軸2の外周面と摺動するように配置されている点で実施形態1と相違する。
このように、円周方向に連続して形成されたポンピング部20は、被密封流体側Lとは連通しているが、大気側Aとはリップ14と回転軸2の摺動面Sとの圧接により非連通となっている。
なお、ポンピング部20の構成については、後記において詳細に説明する。
【0030】
上記した 図1の実施の形態1及び図6の実施形態6の場合において、図3の実施形態3及び図5の実施形態5と同様に、回転軸2にシール用スリーブ4を嵌合したものにも適用できることはいうまでもない。
【0031】
〔ポンピング部の構成〕
図7は、本発明の実施形態1ないし6に係る軸封装置において回転軸またはスリーブ外周面の円周方向に連続して設けられるポンピング部の一部を説明する平面図であって、回転軸又はスリーブの外周面の一部を平面状に展開した状態を示している。図7では、実施形態1〜6のうち、実施形態4〜6のポンピング部20を例にして説明するが、実施形態1〜3のポンピング部20も同様の構造である。
【0032】
シールリップ部材と回転部材の外周面との摺動面を低摩擦化させるためには、被密封流体の種類、温度などによるが、通常、摺動面間に0.1μm〜10μmほどの液膜が必要である。この液膜を得るため、本発明では、上記したように、回転部材の摺動面Sに、シールリップ部材13と回転部材との相対回転摺動によりポンピング作用を生起するポンピング部20が円周方向に連続して形成されている。該ポンピング部20は、被密封流体を吸い込む方向に作用する吸入ポンピング部20aと被密封流体を吐き出す方向に作用する吐出ポンピング部20bとがそれぞれ独立して配置されて構成されている。
【0033】
吸入ポンピング部20a及び吐出ポンピング部20bの各々には、相互に平行で一定のピッチの複数の直線状の凹凸(本発明においては、「周期構造の溝」ともいう。)が形成される。この周期構造の溝は、後述するように、例えば、フェムト秒レーザにより形成される微細な構造である。また、周期構造の溝は、回転軸2又はスリーブ4の外周面と面一に形成される場合の他、外周面に凹部21を形成し、該凹部の底面に形成されてもよいが、この点については、後に、詳細に説明する。
なお、図1図9においては、便宜上、吸入ポンピング部20aと吐出ポンピング部20bとの境界を破線で示しているが、実際には境界線は存在しない。
【0034】
図7において、回転軸2またはスリーブ4がR方向に回転する場合を示しており、吸入ポンピング部20a及び吐出ポンピング部20bに形成される直線状の凹凸は、摺動面Sの摺動方向に対して所定の角度θで傾斜するように形成される。所定の角度θは、摺動面Sの摺動方向に対して10°〜80°の範囲であることが好ましい。
【0035】
吸入ポンピング部20a及び吐出ポンピング部20bの各々における直線状の凹凸の回転接線に対する傾斜角度θは、全て同じであってもよいし、ポンピング部20a、20bごとに異なっていてもよい。しかし、この傾斜角度θに応じて摺動面Sの摺動特性が影響を受けるので、要求される潤滑性や摺動条件等に応じて、適切な特定の傾斜角度θに各吸入ポンピング部20a及び吐出ポンピング部20bの凹凸の傾斜角度を統一することは安定した摺動特性を得るために有効である。
【0036】
従って、摺動面Sの回転摺動方向が一方向であれば、吸入ポンピング部20a及び吐出ポンピング部20bの各々における凹凸の回転接線に対する傾斜角度θは、最適な特定の角度に規定される。
【0037】
また、摺動面Sの回転摺動方向が正逆両方向であれば、一方の方向の回転の際に適切な摺動特性となる第1の角度で回転接線に対して傾斜する凹凸を有する第1のポンピング部と、それとは反対方向の回転の際に適切な摺動特性となる第2の角度で回転接線に対して傾斜する凹凸を有する第2のポンピング部とを混在させることが望ましい。そのような構成であれば、摺動面Sが正逆両方向に回転する際に、各々適切な摺動特性を得ることができる。
【0038】
さらに具体的には、摺動面Sが正逆両方向に回転する場合には、吸入ポンピング部20aと吐出ポンピング部20bとの各凹凸の傾斜角度は、回転接線に対して対称となるような角度となるように形成しておくのが好適である。
また、吸入ポンピング部20aと吐出ポンピング部20bとは、摺動面Sの周方向に沿って交互に配置されるように形成するのが好適である。
図7に示す摺動面Sは、そのような摺動面Sが両方向へ回転する場合に好適な摺動面Sの構成である。
なお、吸入ポンピング部20aと吐出ポンピング部20bとは、摺動面Sの周方向に沿って交互に同じ周方向の長さのものが配置されていなくてもよく、例えば、吸入ポンピング部20aの周方向長さを吐出ポンピング部20bの2倍にする等、吸入ポンピング部20aと吐出ポンピング部20bの周方向長さの割合をで適宜変更してもよい。
【0039】
相互に平行で一定のピッチの複数の直線状の凹凸を精度よく所定のピッチで配置した構造(周期構造の溝)である吸入ポンピング部20a及び吐出ポンピング部20bは、例えば、フェムト秒レーザを用いて、摺動面Sの所定の領域に厳密に区画分けされ、さらに各区画において凹凸の方向を精度よくコントロールして形成される。
加工しきい値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを基板に照射すると、入射光と基板の表面に沿った散乱光又はプラズマ波の干渉により、波長オーダーのピッチと溝深さを持つ凹凸状の周期構造が偏光方向に直交して自己組織的に形成される。この時、フェムト秒レーザをオーバーラップさせながら操作を行うことにより、その周期構造パターンを表面に形成することができる。
【0040】
このようなフェムト秒レーザを利用した周期構造の溝では、その方向性の制御が可能であり、加工位置の制御も可能であるため、離散的な小区画に分けて各区画ごとに所望の周期構造の溝の形成ができる。すなわち、円筒状の回転軸又はスリーブの外周面を回転させながらこの方法を用いれば、外周面に選択的に微細な周期パターンを形成することができる。そしてまたフェムト秒レーザを利用した加工方法では、リップタイプシールの潤滑性向上及び漏洩低減に有効なサブミクロンオーダーの深さの凹凸の形成が可能である。
【0041】
前記周期構造の溝の形成は、フェムト秒レーザに限らず、ピコ秒レーザや電子ビームを用いてもよい。また、前記周期構造の溝の形成は、周期構造の溝を備えた型を用いて円筒状の摺動面を回転させながらスタンプ又は刻印することにより行われてもよい。
さらに、外周面(摺動面)の凹部の底部に前記周期構造の溝を形成する場合には、エッチングで外周面に凹部を形成し、その後、フェムト秒レーザなどにより凹部の底部に周期構造の溝を形成させてもよい。さらに、フェムト秒レーザなどにより、外周面に周期構造のみ形成させ、その後、周期構造の溝の周囲にメッキあるいは成膜を行うことで囲いを形成させてもよい。
【0042】
図8は、図7のA−A断面図であって、図(a)は、ポンピング部が回転部材の外周面上に設けられる場合を、また、図(b)は、ポンピング部が回転部材の外周面に形成された凹部の底面に設けられる場合を示している。
シールリップ部材と回転部材の外周面との摺動面を低摩擦化させるためには、被密封流体の種類、温度などによるが、通常、摺動面間に0.1μm〜10μmの液膜hが形成されるが、その場合、吸入ポンピング部20a及び吐出ポンピング部20bにおいて、凹凸の頂点を結ぶような仮想平面をとると、該仮想平面は液膜hに応じて摺動面Sに対して面一あるいは下方に設定される。図8(a)には、摺動面Sと仮想平面との距離d1=0、すなわち、仮想平面が摺動面Sと面一の場合が示され、また、図8(b)には、摺動面Sに形成された凹部21の底部にポンピング部20が形成される場合が示されており、仮想平面は摺動面Sに対してd1>0だけ低い位置に設定されている。
図1〜3に示されるように、リップシールのリップ14または筒状リップ35がポンピング部20の形成された回転軸2の外周面と摺接する場合、摺動面Sと仮想平面との距離d1は、静止時の漏れ防止の観点から、0≦d1≦2μmに設定するのが望ましい。また、凹凸の頂点を結ぶ仮想平面と底部との深さd2は、0<d2≦2μmの範囲が望ましく、d1とd2との合計は、0<d1+d2≦2.5μmが望ましい。
一方、図4〜6に示されるように、リップシールのリップ14または筒状リップ35がポンピング部20より大気側の回転軸2の外周面とも摺接する場合、摺動面Sと仮想平面との距離d1は、d1=0〜10h、凹凸の頂点を結ぶ仮想平面と底部との深さd2は、d2=0.1〜10hの範囲が望ましい。
さらに、吸入ポンピング部20a及び吐出ポンピング部20bの直線状の凹凸のピッチpは、被密封流体の粘度に応じて設定されるが、図1〜6のいずれの場合も、0.1μm〜100μmが望ましい。被密封流体の粘度が高い場合、溝内に流体が十分に入り込めるようにピッチpを大きくした方がよい。
【0043】
摺動面Sに形成された凹部21の底部にポンピング部20が形成される場合、フェムト秒レーザにより、まず、凹部21が形成され、その後続いて、ポンピング部20が形成される。摺動面Sに形成された凹部21の底部にポンピング部20が形成される場合、凹部21内の空間に被密封流体が取り込むことができ、ポンピング部20により大気側に漏れないような液体の流れを多く生起することができる。
【0044】
上記のように、静止時には、実施の形態1〜3の場合、回転軸(またはスリーブ)の外周面のポンピング部20にリップ部材が密接することにより、また、実施の形態4〜6の場合、回転軸(またはスリーブ)の外周面のポンピング部20及び摺動面Sにリップ部材が密接することにより漏れを防止するとともに、起動時には、ポンピング部20内に被密封流体を取り込むことによってすばやく潤滑流体膜を形成することができ、摺動面Sの摺動トルクを低くし摩耗を低減することができる。さらに、運転時には、吸入ポンピング部20a内に被密封流体を取り込み、この被密封流体を隣接する吐出ポンピング部20bに送り込み、吐出ポンピング部20bの作用によりこの被密封流体を被密封流体側に戻すものである。このような被密封流体の流れを通じて、回転軸(またはスリーブ)の外周面とリップ部材との間の潤滑性を確保するとともに、漏れを防止し、シール性を保つことができる。特に、ポンピング部20の凹凸の頂点を結ぶ仮想平面が摺動面Sより低く設定される場合、仮想平面が摺動面Sと段差d1を有する形状となっていることにより、起動時に、凹部21内に取り込まれた被密封流体を利用して素早く潤滑流体膜を形成することができる。
【0045】
〔ポンピング部の変形例〕
図9は、ポンピング部の変形例を説明する図であって、図8と同様に、回転軸と直交する面から見た断面図である。
図9において、凹部21の底部に形成されるポンピング部20の吸入ポンピング部20aは、その直線状の凹凸が回転軸2の回転方向Rに向かって次第に深くなるように形成され、吐出ポンピング部20bは、その直線状の凹凸が回転軸2の回転方向Rに向かって次第に浅くなるように形成されている。
このように、直線状の凹凸が、平面から見た際の回転接線に対する傾斜に加えて、側面から見ても傾斜して形成されていることから、吸入ポンピング部20aにおいては、より一層、被密封流体を取り込んで吐出ポンピング部20bに送り込むことができ、また、吐出ポンピング部20bにおいては、送り込まれた被密封流体を、より一層、被密封流体側に戻すことができる。
なお、直線状の凹凸は周方向に傾斜される場合の他、軸方向に傾斜されてもよく、また、周方向及び軸方向の両方向に傾斜されてもよい。
本例の場合、摺動面間に形成される液膜厚さをhとした場合、摺動面からのポンピング部の凹凸の頂点を結ぶ仮想平面の最深部及び最浅部の深さは、リップシールのリップ14または筒状リップ35がポンピング部20より大気側の回転軸2の外周面とも摺接する場合、0〜10hの範囲内に入るように設定されればよい。また、リップシールのリップ14または筒状リップ35がポンピング部20の形成された回転軸2の外周面と摺接する場合、摺動面からのポンピング部の凹凸の頂点を結ぶ仮想平面の最深部及び最浅部の深さは、0〜2μmの範囲内に入るように設定されればよい。
【符号の説明】
【0046】
1 ハウジング
2 回転軸
3 回転軸貫通穴
4 スリーブ
10 軸封装置
11 リップシール
12 補強環
13 シールリップ部材
14 リップ
15 ガータスプリング
20 ポンピング部
20a 吸入ポンピング部
20b 吐出ポンピング部
21 凹部
30 軸封装置
31 リップシール
32 シールリップ部材
33 結合金属環
34 押え金属環
35 筒状リップ
S 回転部材の摺動面
L 被密封流体側
A 大気側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11