(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5951221
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 24/04 20060101AFI20160630BHJP
B43K 25/02 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
B43K24/04
B43K25/00 F
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-238378(P2011-238378)
(22)【出願日】2011年10月31日
(65)【公開番号】特開2013-95008(P2013-95008A)
(43)【公開日】2013年5月20日
【審査請求日】2014年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寛
【審査官】
砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】
実開平1−76295(JP,U)
【文献】
実開平1−171687(JP,U)
【文献】
特開2005−246971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 24/00−27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒に配設したクリップをスライドすることにより、筆記体の筆記先端部を軸筒の先端開口部より突出可能とする出没機構を有した筆記具において、前記軸筒の後端部に、長手方向に伸び、後端を開口した摺動溝を形成し、前記摺動溝にクリップの脚部を、前記摺動溝に摺動可能に配設するとともに、前記軸筒の後端部に、前記摺動溝に設けた被係合部と頭冠に設けた係合部を係合して、頭冠を装着してなり、前記摺動溝が、周方向の異なる位置に複数本、形成され、前記クリップの脚部及び頭冠の係合部が、前記摺動溝に対応して複数本、形成してあることを特徴とする筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒に配設したクリップをスライドすることにより、筆記体の筆記先端部を軸筒の先端開口部より突出可能とする繰出機構を有した筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸筒の後端部に頭冠を装着した筆記具はよく知られている。こうした筆記具においては、実開昭56−160888号公報「筆記具のクリップ装置」に開示のように、尾栓は、軸筒後端部内に圧入装着することが一般的であった。
【0003】
また、軸筒に配設したクリップをスライドすることにより、筆記体の筆記先端部を軸筒の先端開口部より突出可能とする繰出機構を有した筆記具もよく知れていて、実開平4−79688号公報「ノック式筆記具」等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭56−160888号公報
【特許文献2】実開平4−79688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2において、特許文献1のように、軸筒後端部に頭冠を圧入装着すると、軸筒後端部の内径が大きくなることがあり、出没機構に支障をきたす恐れがあった。こうした問題を鑑みて、圧入するラップ量を少なくすると、頭冠が外れやすくなる問題を抱えていた。
【0006】
また、特許文献2のように、摺動溝にクリップの脚部を摺動自在に配設した構造では、経時などによって、摺動溝の溝幅が変化する恐れがあり、特に溝幅が狭まると、出没作動に影響を及ぼす問題があった。
【0007】
本発明はこれらの従来技術に鑑みてなされたものであって、組立性が良好で、且つ安定した出没作動が得られる、軸筒後端部に頭冠を装着した筆記具を簡単な構造で提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記問題を解決するために、軸筒に配設したクリップをスライドすることにより、筆記体の筆記先端部を軸筒の先端開口部より突出可能とする出没機構を有した筆記具において、前記軸筒の後端部に、周方向の異なる位置に、長手方向に伸び、後端を開口した摺動溝を複数本、形成し、前記摺動溝に対応したクリップの脚部を、前記摺動溝に摺動可能に配設するとともに、前記軸筒の後端部に、前記摺動溝に設けた被係合部に、頭冠に設けた係合部を係合して装着したことを特徴とする。
【0009】
また、前記摺動溝が、周方向の異なる位置に複数本、形成してあり、前記クリップの脚部及び頭冠の係合部が、前記摺動溝に対応して複数本、形成してあることを特徴とする。
【0010】
本願発明の第1の構成によれば、軸筒に配設したクリップをスライドすることにより、筆記体の筆記先端部を軸筒の先端開口部より突出可能とする出没機構を有した筆記具において、前記軸筒の後端部に、周方向の異なる位置に、長手方向に伸び、後端を開口した摺動溝を複数本、形成し、前記摺動溝に対応したクリップの脚部を、前記摺動溝に摺動可能に配設するとともに、前記軸筒の後端部に、前記摺動溝に設けた被係合部に、頭冠に設けた係合部を係合して装着してあるため、経時などによって、摺動溝の溝幅が小さくなることを抑制し、クリップの脚部によって、安定した出没作動を得ることができる。
【0011】
本願発明の第2の構成によれば、前記摺動溝が、周方向の異なる位置に複数本、形成してあり、前記クリップの脚部及び頭冠の係合部が、前記摺動溝に対応して複数本、形成してあるため、クリップのスライドを安定するとともに、頭冠の回転を効果的に抑制して、頭冠の外れを防止することができる。
【0012】
また、本発明のクリップには、ステンレス鋼、銅合金、アルミニウム等の金属材料やPC樹脂、PP樹脂、AS樹脂等の樹脂材料など、筆記具のクリップとして一般的に知られている材料のなかから適宜選定すればよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、組立性が良好で、且つ安定した出没作動が得られる、軸筒後端部に頭冠を装着した筆記具を簡単な構造で提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1の出没式筆記具を示す縦断面図である。
【
図2】
図1における筆記先端部を突出した状態を示す縦断面図である。
【
図3】
図1における一部省略した要部拡大断面図である。
【
図4】
図1におけるクリップを省略した上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に図面を参照しながら、本発明の筆記具の軸筒の実施例を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
実施例1
図1から
図5に示す実施例1の筆記具1は、前軸2と後軸3を螺着して軸筒本体を構成し、後軸2の内壁面には、軸心方向に沿って延びた深さが深いカム溝(図示せず)と浅いカム溝(図示せず)とを交互に形成したカム溝(図示せず)を形成してある。また、クリップ9を前軸2側にスライドすると、クリップ9と連動して回転カム5、押し棒6、摺動部材7が前軸2側に移動し、回転カム5による出没機構が作動して、筆記体11の筆記先端13を、前軸2に螺着した口先部材4の先端開口部4Aからの突出を維持することができる。また、前軸2には外筒16を嵌着してある。
【0017】
具体的には、後軸3の側壁後部に長手方向に伸びた摺動溝3Aを周方向の異なる位置に、並列して形成する。また、クリップ9は、先端部下側に玉部9Aを突出させるとともに、後端部下側に脚部9Cを並列に形成する。この脚部9Cの両側壁部に互いに対向する連結孔9Dが形成される。
【0018】
この二つのクリップ9の脚部9Cを後軸3の後端開口部から摺動溝3Aに挿入し、摺動部材7の2つの片に形成した円柱形の隆起部7Cにクリップ9の脚部9Cに形成した連結孔9Dを嵌め込んで、隆起部7Cを連結孔9Dに回動自在に取り付けた連結部Rとしてある。更に、摺動部材7の棒状突起7Bにコイルスプリング15を挿入し、このコイルスプリング15をクリップ9の脚部9Cと摺動部材7との間に取付荷重(弾発力)850gで取り付け、通常クリップ9の脚部9C下側を後方に付勢することによって摺動部材7の隆起部7Cを軸にしてクリップ9の先端部が下方に押され、クリップ9の玉部9Aが後軸3の表面に押し付けられて閉じられる。
【0019】
また、摺動溝3Aは後軸3後端が開口して延びており、この後軸3後端の開口部から、頭冠8に並列して設けた突起8Aを挿入し、摺動溝3Aに設けた窓幅を小さくする突部3Aaを乗り越し嵌合によって装着してある。また、後軸3内の壁面には、後軸3後端が開口して長手方向に延びる凹部3Cを設けてあり、頭冠8に設けた凸部8Bを後軸3内の凹部3Cに挿通してある。尚、摺動溝3Aと頭冠8は、略面一状となるように係合してある。
【0020】
次に、出没機構の動作について詳述すると、筆記体11は回転カム5内に圧入保持されており、筆記体11の筆記先端部13が口先部材4の開口部4A内に没入した状態からクリップ9を前軸2側にスライドすることにより、クリップ9に連動して、摺動部材7が連動し、摺動部材7に連動して押し棒6はカム溝に係合した突起6Aに導かれて前軸2方向に移動する。また、押し棒6に連接した回転カム5も深いカム溝に係合したカム突起5Aに導かれて前進する。カム突起5Aが深いカム溝の先端に達してカム溝から離脱すると、押し棒6の凹凸部の頂部及び後軸3内に固着したバネ受け部材10によって、コイルスプリングからなる弾発部材14により後方へ付勢された回転カム
5は回転して浅いカム溝に後退する。それに伴い、回転カム
5及び筆記体11はそれ以上後退することができず、筆記体11の筆記先端部13は、口先部材4の先端開口部4Aより突出した状態で維持することができ、再度、クリップ9を前軸2方向に押圧すると、筆記体11の筆記先端部13を口先部材4の先端開口部4A内に没入することができる、従来から知られている回転カムによる出没機構である。尚、弾発部材14の取付荷重(弾発力)は250gであった。
【0021】
摺動部材7の先端部には、前方に向かって突出する棒状突起7Aを設けてあり、この棒状突起7Aには、外径を大きくした先端側突部7Aaと、先端側突部7Aaよりも外径の大きい後端側突部7Bbとを長手方向で離間して設けてある。
【0022】
また、摺動部材7の棒状突起7Aの先端側突部7Aaと後端側突部7Ab間に、回転カム5に設けた環状突起5Bを係合し、回転カム5が摺動部材7に対し回転及び前後動可能に係合してあり、さらに、摺動部材7の棒状突起7Aの先端側突部7Aaが回転カム5の前方側への移動を規制し、摺動部材7の棒状突起7Aの後端側突部7Abが回転カム5の後方側への移動を規制してある。また、摺動部材7の棒状突起7Aの後端側突部7Ab後方と摺動部材7の壁面7D間に、押し棒6に設けた環状突起6Bを係合し、押し棒6が摺動部材7に対し回転可能、摺動部材7の棒状突起7Aの後端側突部7Abが押し棒6の前方側への移動を規制し、また、摺動部材7の壁面7Dが押し棒6の後方への移動を規制してある。
【0023】
そのため、筆記体11の筆記先端部13が口先部材4の先端開口部4Aから突出した状態では、回転カム5の環状突起5Bと摺動部材7の棒状突起7Aの先端側突部7Aaによって、摺動部材7の後方への移動を規制するので、クリップ9のガタツキを抑制することができる。
【0024】
また、筆記体11の筆記先端部13が口先部材4の先端開口部4A内に没入した状態では、押し棒6は後軸3内に設けた内方突部3Bによって後方への移動を規制され、押し棒6の環状突起6Bによって、摺動部材7の後方への移動を規制するので、クリップ9の脚部9Cは頭冠8及び後軸3とは当接していないので、クリップ9のガタツキを抑制し、頭冠8の外れを防止することができる。
【0025】
次にクリップ9の開閉操作を説明すると、クリップ9の先端部の玉部9Aが閉じた状態からクリップ9の後端部9Bを下方に押圧すると、摺動部材7の隆起部Bを軸にしてクリップ9の先端部の玉部9Aが上方に開くとともにクリップ9の脚部9C下側でコイルスプリング15を圧縮した状態となる。また、クリップ9の後端部9Bの押圧を止めればコイルスプリング15に押されてクリップ9の先端部の玉部9Aが閉じられ元の状態に復帰する。
【0026】
筆記体11は、ボールペンレフィルであり、インキ収容筒の先端部に、ボールが回転可能に抱持された筆記先端部13を、チップホルダー12を介して装着し、インキ収容筒の内部には、黒色の剪断減粘性を有する水性ゲルインキ及びインキ追従体(図示せず)を直に収容してある。
【0027】
尚、本実施例では、回転カムによる出没機構を例示しているが、クリップをスライドして筆記体の筆記先端部を突出可能な出没機構であれば、出没機構は特に限定されるものではない。また、図示はしていないが、頭冠に、消しゴムや摩擦部材などの付設部を一体又は着脱自在に設けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の筆記具は、ボールペンに限定されるものではなく、種々の筆記具に利用できるものである。
【符号の説明】
【0029】
1 筆記具
2 前軸
3 後軸
3A 摺動溝
3Aa 突部
3B 内側段部
4 口先部材
4A 先端開口部
5 回転カム
5A カム突起
5B 環状突起
6 押し棒
6A 突起
6B 環状突起
7 摺動部材
7A 棒状突起
7Aa 前方突起
7Ab 後方突起
7B 隆起部
7C 係合部
7D 壁面
8 頭冠
8A 突起
9 クリップ
9A 玉部
9B 後端部
9C 脚部
9D 連結孔
11 筆記体
13 筆記先端部
14 弾発部材
15 コイルスプリング