(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5951246
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】カップ状金属体誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/10 20060101AFI20160630BHJP
H05B 6/36 20060101ALI20160630BHJP
H05B 6/42 20060101ALI20160630BHJP
H05B 6/44 20060101ALI20160630BHJP
H05B 6/04 20060101ALI20160630BHJP
C21D 1/42 20060101ALI20160630BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
H05B6/10 331
H05B6/36 Z
H05B6/42
H05B6/44
H05B6/04 311
C21D1/42 J
C21D9/00 L
C21D9/00 M
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-269901(P2011-269901)
(22)【出願日】2011年12月9日
(65)【公開番号】特開2013-122824(P2013-122824A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2014年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110158
【氏名又は名称】トクデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100113468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】外村 徹
(72)【発明者】
【氏名】藤本 泰広
【審査官】
礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭57−018292(JP,U)
【文献】
米国特許第04281234(US,A)
【文献】
特開2002−181455(JP,A)
【文献】
特開2010−071624(JP,A)
【文献】
特開2011−023251(JP,A)
【文献】
特開2011−082387(JP,A)
【文献】
特開平10−055881(JP,A)
【文献】
特開昭57−053090(JP,A)
【文献】
米国特許第04761527(US,A)
【文献】
特開平06−208887(JP,A)
【文献】
特開平07−183079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/00 − 6/10
H05B 6/14 − 6/44
C21D 1/02 − 1/84
C21D 9/00 − 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の脚鉄心及び前記複数の脚鉄心の一端部に接続される第1の継鉄心からなる第1の分割鉄心部と、前記複数の脚鉄心の他端部に接続される第2の継鉄心からなる第2の分割鉄心部とを有し、前記複数の脚鉄心の他端部それぞれにカップ状金属体を覆い被せた状態でそれら非磁性金属からなるカップ状金属体を前記第1の分割鉄心部及び前記第2の分割鉄心部により挟むとともに、当該カップ状金属体の外周部又は内周部に設けた入力巻き線に交流電圧を印加して前記カップ状金属体を誘導加熱するものであり、
前記複数の脚鉄心が、インボリュート形状に湾曲された湾曲部を有する多数の磁性鋼板を放射状に積層して円筒状に形成した円筒状をなすものであり、
前記第2の分割鉄心部を、前記第1の分割鉄心部及び前記第2の分割鉄心部により前記カップ状金属体を挟んだ挟持位置及び前記カップ状金属体を前記第1の分割鉄心部から取り外すことができる取り外し位置の間で移動させる着脱機構を備えており、
前記複数の脚鉄心の内側周面に密着して冷却管を設け、当該冷却管に冷却媒体を流通させることにより前記複数の脚鉄心を冷却するものであり、
前記冷却管における前記脚鉄心の一端部側に前記冷却媒体を導入する導入ポート及び前記冷却媒体を導出する導出ポートが設けられているカップ状金属体誘導加熱装置。
【請求項2】
複数の脚鉄心及び前記複数の脚鉄心の一端部に接続される第1の継鉄心からなる第1の分割鉄心部と、前記複数の脚鉄心の他端部に接続される第2の継鉄心からなる第2の分割鉄心部とを有し、前記複数の脚鉄心の他端部それぞれにカップ状金属体を覆い被せた状態でそれら非磁性金属からなるカップ状金属体を前記第1の分割鉄心部及び前記第2の分割鉄心部により挟むとともに、当該カップ状金属体の外周部又は内周部に設けた入力巻き線に交流電圧を印加して前記カップ状金属体を誘導加熱するものであり、
前記複数の脚鉄心が、インボリュート形状に湾曲された湾曲部を有する多数の磁性鋼板を放射状に積層して円筒状に形成した円筒状をなすものであり、
前記第2の分割鉄心部を、前記第1の分割鉄心部及び前記第2の分割鉄心部により前記カップ状金属体を挟んだ挟持位置及び前記カップ状金属体を前記第1の分割鉄心部から取り外すことができる取り外し位置の間で移動させる着脱機構を備えており、
前記複数の脚鉄心の内側周面に密着してヒートパイプを設け、当該ヒートパイプに冷却媒体を流通させることにより前記複数の脚鉄心を冷却するものであり、
前記ヒートパイプの一端部が、前記脚鉄心の一端部側から外部に延出するとともに、この延出した部分が冷却されるように構成されているカップ状金属体誘導加熱装置。
【請求項3】
前記カップ状金属体及び入力巻き線が2組設けられており、前記入力巻き線に交流電圧を印加する入力電源が単相電源である請求項1又は2記載のカップ状金属体誘導加熱装置。
【請求項4】
前記カップ状金属体及び入力巻き線が3組設けられており、前記入力巻き線に交流電圧を印加する入力電源が三相電源である請求項1、2又は3記載のカップ状金属体誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱によりカップ状をなす非磁性金属体を加熱するカップ状金属体誘導加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被加熱物である環状金属体を誘導加熱する装置としては、特許文献1に示すように、環状金属体の周方向に沿って複数の環状鉄心を設け、入力巻き線に交流電圧を印加することによって、環状金属体に短絡電流を流すことにより環状金属体を誘導発熱するものがある。
【0003】
具体的にこの誘導加熱装置は、被加熱物である環状金属体の周方向に沿って当該環状金属体が貫通するように設けられた複数の環状鉄心と、前記各環状鉄心の一部に巻装されて交流電圧が印加される入力巻き線とを備えている。
【0004】
ところで、有底筒状をなすカップ状金属体は、上記の誘導加熱装置では誘導加熱することができないことから、依然として特許文献2に示すような加熱炉を用いて加熱するようにしている。
【0005】
しかしながら、加熱炉を用いてカップ状金属体を加熱するものでは、昇温速度が遅い等の昇温効率の問題や、熱効率が悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−23251号公報
【特許文献2】特開2004−278930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、非磁性金属からなるカップ状金属体を効率良く加熱することができるとともに、複数のカップ状金属体を同時に加熱して生産性を向上させることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係るカップ状金属体誘導加熱装置は、環状鉄心を分割して構成される複数の分割鉄心部を有し、それら分割鉄心部の複数の分割端部それぞれに非磁性金属からなるカップ状金属体を覆い被せた状態でそれらカップ状金属体を複数の分割鉄心部により挟むとともに、当該カップ状金属体の外周部又は内周部に設けた入力巻き線に交流電圧を印加して前記カップ状金属体を誘導加熱することを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、分割鉄心部の分割端部に非磁性金属からなるカップ状金属体を覆い被せて複数の分割鉄心部によって挟み入力巻き線に交流電圧を印加させることによって、カップ状金属体に短絡電流が流れて誘導発熱するので、カップ状金属体を効率良く加熱することができる。また、分割鉄心部の複数の分割端部それぞれにカップ状金属体を覆い被せているので1つの環状鉄心により複数のカップ状金属体を誘導加熱することができ、複数のカップ状金属体を同時に加熱して生産性を向上させることができる。
【0010】
なお、カップ状金属体が磁性金属からなるものであれば、あえてカップ状金属体の内部に磁路を貫通させる構成にしなくてもカップ状金属体自身が磁路と短絡回路を形成して発熱する。一方、本発明は、カップ状金属体が非磁性金属からなるからこそ、カップ状金属体の内周側に磁路を構成する鉄心を配置して、非磁性金属に磁束を貫通させる構成が必要となる。
【0011】
ここで、分割した分割鉄心部(閉磁路鉄心)における互いに対応して対をなす分割端部の間に被加熱物であるカップ状金属体を挟むと、その厚さ分だけ鉄心長が増加する。互いに対向して対をなす分割端部が複数あり、その1つに被加熱物を挟む場合には、その他の対をなす分割端部の少なくとも一方を被加熱物の厚み分だけ長くしておけば、被加熱物を挟んだ状態でもその他の対をなす分割端部を密着させることができる。個の構成は、常に被加熱物が同一形状であれば問題無いが、異なる厚みを有する被加熱物を挟む場合には、対をなす分割端部の長さ(鉄心長)を調節する機構が必要となってしまう。したがって、複数対の全てに同一の被加熱物を挟むことによって、分割端部の長さ(鉄心長)を調節する機構が不要となり、一度の複数の被加熱物を加熱することができる。これは、毎回被加熱物の厚みが異なる場合であっても、各回毎に加熱する被加熱物が同一であれば良い。
【0012】
環状鉄心を簡単な構成により複数に分割するためには、前記環状鉄心がカットコア型巻鉄心により構成されていることが望ましい。
【0013】
環状鉄心をカットコア型巻鉄心により構成する場合の具体的な実施の態様としては、前記環状鉄心がカットコアからなる第1の分割鉄心部及び第2の分割鉄心部に分割されており、前記第1の分割鉄心部又は前記第2の分割鉄心部の少なくとも一方における複数の分割端部に前記カップ状金属体を覆い被せた状態でそれらカップ状金属体を前記第1の分割鉄心部及び前記第2の分割鉄心部により挟むように構成されていることが望ましい。
【0014】
このとき、第1の分割鉄心部及び前記第2の分割鉄心部の両方における複数の分割端部に前記カップ状金属体を覆い被せた状態でそれらカップ状金属体を前記第1の分割鉄心部及び前記第2の分割鉄心部により挟むように構成したものであれば、同時に加熱することができるカップ状金属体の数を増やすことができ、カップ状金属体の生産性をより一層向上させることができる。
【0015】
カットコア型巻鉄心以外の構成において環状鉄心を簡単な構成により複数に分割するためには、前記環状鉄心が、複数の脚鉄心と、前記複数の脚鉄心の一端部に接続される第1の継鉄心と、前記複数の脚鉄心の他端部に接続される第2の継鉄心とから構成されており、前記複数の脚鉄心が、インボリュート形状に湾曲された湾曲部を有する多数の磁性鋼板を放射状に積層して円筒状に形成した円筒状をなすもの(以下、インボリュート鉄心ともいう。)であることが望ましい。
【0016】
環状鉄心を複数の脚鉄心、第1の継鉄心及び第2の継鉄心により構成する場合の具体的な実施の態様としては、前記環状鉄心が、前記複数の脚鉄心及び前記第1の継鉄心からなる第1の分割鉄心部と、前記第2の継鉄心からなる第2の分割鉄心部とに分割されており、前記複数の脚鉄心の他端部に前記カップ状金属体を覆い被せた状態でそれらカップ状金属体を前記第1の下部鉄心部及び前記第2の分割鉄心部により挟むように構成されていることが望ましい。これならば、別部材として構成される脚鉄心及び第2の継鉄心の構成を活かして、脚鉄心を分割する等の加工を施すことなく、カップ状金属体を誘導加熱することができる。
【0017】
カップ状金属体の内径の関係により、脚鉄心の断面積に制約がある場合には、入力巻き線に印加する交流電圧の周波数を上げることによって、必要な入力電圧を確保しながら、磁束密度を飽和磁束密度以下に抑えることが可能となる。ところが、この場合、周波数の上昇によって鉄損が増加して脚鉄心の温度が上昇してしまうという問題が生じる。この問題をインボリュート鉄心の構成を活かして好適に解決するためには、前記複数の脚鉄心の内側周面に密着して冷却管を設け、当該冷却管に冷却媒体を流通させることにより前記複数の脚鉄心を冷却することが望ましい。
【0018】
カップ状金属体の着脱を容易に行うためには、前記複数の分割鉄心部における少なくとも1つの分割鉄心部を、前記複数の分割鉄心部により前記カップ状金属体を挟んだ挟持位置及び前記カップ状金属体を前記分割鉄心部から取り外すことができる取り外し位置の間で移動させる着脱機構を備えていることが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
このように構成した本発明によれば、カップ状金属体を均一に加熱するとともに、複数のカップ状金属体を同時に加熱して生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るカップ状金属体誘導加熱装置の構成を示す縦断面図である。
【
図2】着脱機構の具体的な構成を示す縦断面図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係るカップ状金属体誘導加熱装置の構成を示す縦断面図である。
【
図4】本発明の変形実施形態に係るカップ状金属体誘導加熱装置の構成を示す縦断面図である。
【
図5】本発明の変形実施形態に係るカップ状金属体誘導加熱装置の構成を示す縦断面図である。
【
図6】本発明の変形実施形態に係るカップ状金属体誘導加熱装置の構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明に係るカップ状金属体誘導加熱装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
1.第1実施形態
第1実施形態に係るカップ状金属体誘導加熱装置100は、例えばステンレス製の非磁性金属からなる有底筒状をなすカップ状金属体Wを誘導加熱して熱処理するものである。なお、カップ状金属体Wとしては、例えば金属製缶容器や金型などが考えられる。
【0023】
具体的にこのものは、
図1に示すように、環状鉄心2を分割して構成される複数の分割鉄心部21、22を有し、それら分割鉄心部21、22の複数の分割端部21x、21yそれぞれにカップ状金属体Wを覆い被せた状態でそれらカップ状金属体Wを複数の分割鉄心部21、22により挟むとともに、当該カップ状金属体Wの外周部又は内周部に設けた入力巻き線3に交流電圧を印加して前記カップ状金属体Wを誘導加熱するものである。なお、このカップ状金属体誘導加熱装置100は、同一形状をなす複数のカップ状金属体Wを同時に誘導加熱するものである。
【0024】
環状鉄心2は、カットコア型巻鉄心により構成された概略矩形環状をなすものであり、カットコアからなる第1の分割鉄心部21及び第2の分割鉄心部22に分割されている。第1の分割鉄心部21及び第2分割鉄心部22は共に、正面視において概略U字形状をなすものである。
【0025】
下側に位置する第1の分割鉄心部21は、その左右2つの分割端部21x、21yにそれぞれカップ状金属体Wが覆い被された状態で設置される。このとき、カップ状金属体Wの底壁の内面は第1の分割鉄心部21の分割端部21x、21yの先端面(平面状のカット面21x1、21y1)に接触又は近接する。また、第1の分割鉄心部21における垂直部(脚鉄心部)211は、カップ状金属体Wの長さ寸法(具体的には深さ寸法等)よりも大きく構成されている。なお、第1の分割鉄心部21の垂直部211(特に分割端部21x、21y)は、カップ状金属体Wに挿入できる程度の断面積を有するものである。
【0026】
上側に位置する第2の分割鉄心部22は、着脱機構(
図1には不図示)により第1の分割鉄心部21に対して進退移動可能に構成されており、その左右2つの分割端部22x、22yの先端面(平面状のカット面22x1、22y1)は、第1の分割鉄心部21に設置されたカップ状金属体Wの底壁の外面に接触又は近接する。これにより、カップ状金属体Wは第1の分割鉄心部21及び第2の分割鉄心部22により挟まれるようにして設置される。なお、第2の分割鉄心部22の分割端部22x、22yは、前記第1の分割鉄心部21の分割端部21x、21yと略同一の断面積を有するものである。
【0027】
また、上記の通り第1の分割鉄心部21に設置された2つのカップ状金属体Wそれぞれの外周部には、周波数50Hz〜1000Hzの中周波電源(不図示)により単相交流電圧が印加される入力巻き線3が設けられている。この入力巻き線3の上下方向の巻回幅は、カップ状金属体Wの外形の長さ寸法と略同一である。そして、入力巻き線3に単相交流電圧が印加されることにより、第1の分割鉄心部21及び第2の分割鉄心部22に生じる磁束を介して、カップ状金属体Wに二次電流(短絡電流)が誘起されて、カップ状金属体Wが誘導発熱することにより加熱することができる。
【0028】
このように構成した本実施形態のカップ状金属体誘導加熱装置100によれば、第1の分割鉄心部21の分割端部21x、21yにカップ状金属体Wを覆い被せて2つの分割鉄心部21、22によって挟み入力巻き線3に交流電圧を印加させることによって、カップ状金属体Wに短絡電流が流れて誘導発熱するので、カップ状金属体Wを効率良く加熱することができる。また、第1の分割鉄心部21の2つの分割端部21x、21yそれぞれにカップ状金属体Wを覆い被せているので1つの環状鉄心2により複数のカップ状金属体Wを誘導加熱することができ、複数のカップ状金属体Wを同時に加熱して生産性を向上させることができる。
【0029】
次に本実施形態のカップ状金属体誘導加熱装置100における着脱機構4について説明する。
【0030】
本実施形態の着脱機構4は、
図2に示すように、下側に位置する第1の分割鉄心部21に対して上側に位置する第2の分割鉄心部22を進退移動させて、カップ状金属体Wを第1の分割鉄心部21に取り付け又は取り外しを可能にするものである。つまりこの着脱機構4は、上側に位置する第2の分割鉄心部22を、第1の分割鉄心部21及び第2の分割鉄心部22によりカップ状金属体Wを挟む挟持位置Pとカップ状金属体Wを第1の分割鉄心部21から取り外すことができる取り外し位置Qとの間で移動させるものである。なお、挟持位置Pは、第1の分割鉄心部21及び第2の分割鉄心部22により閉磁路が形成される状態であり、取り外し位置Qは、第2の分割鉄心部22が第1の分割鉄心部21から離間して第1の分割鉄心部21の上部が開放された状態である。
【0031】
具体的に着脱機構4は、例えば油圧機構を用いたものが考えられ、手動又は自動により、
図2に示すように、所定の回転軸Cを回転中心として第2の分割鉄心部22を回転させて、第1の分割鉄心部21の上部を開放する方式や、第2の分割鉄心部22を第1の分割鉄心部21に対して上方に離間させて、第1の分割鉄心部21の上部を開放する方式や、第2の分割鉄心部22を第1の分割鉄心部21に対して側方に離間させて、第1の分割鉄心部21の上方を開放する方式等が考えられる。なお、第1の分割鉄心部21の上部が開放された状態で、カップ状金属体Wの取り付け又は取り外しを行う。
【0032】
なお、第1の分割鉄心部21の上部を開放する方式であれば、各部材をどのように移動させるものであっても良い。例えば、第1の分割鉄心部21を、第2の分割鉄心部22に対して下方に離間させる、第1の分割鉄心部21を所定の回転軸を回転中心として回転させる、又は側方に移動させるものであっても良い。
【0033】
2.第2実施形態
次に本発明の第2実施形態に係るカップ状金属体誘導加熱装置100について説明する。第2実施形態に係るカップ状金属体誘導加熱装置100は、前記第1実施形態と環状鉄心2の構成が異なる。
【0034】
本実施形態の環状鉄心2は、
図3に示すように、2つの脚鉄心2a、2aと、これら2つの脚鉄心2a、2aの一端部(下端部)に接続される第1の継鉄心2bと、2つの脚鉄心2a、2aの他端部(上端部)に接続される第2の継鉄心2cとから構成されている。そして、2つの脚鉄心2a、2aが、インボリュート形状に湾曲された湾曲部を有する多数の磁性鋼板を円周方向に放射状に積層して円筒状に形成した円筒状をなすインボリュート鉄心である。
【0035】
この構成の環状鉄心2は、2つの脚鉄心2a、2a及び第1の継鉄心2bからなる第1の分割鉄心部21と、第2の継鉄心2cからなる第2の分割鉄心部22とに分割されている。
【0036】
下側に位置する第1の分割鉄心部21の左右2つの分割端部21x、21y(2つの脚鉄心2a、2a)にそれぞれカップ状金属体Wが覆い被された状態で設置される。このとき、カップ状金属体Wの底壁の内面は第1の分割鉄心部21の分割端部21x、21yの先端面(脚鉄心2aの上端面)に接触又は近接する。また、第1の分割鉄心部21における脚鉄心2a、2aは、カップ状金属体Wの長さ寸法よりも大きく構成されており、カップ状金属体Wに挿入できる程度の断面積を有するものである。
【0037】
上側に位置する第2の分割鉄心部22は、着脱機構により第1の分割鉄心部21に対して進退移動可能に構成されており、その下面は、第1の分割鉄心部21に設置されたカップ状金属体Wの底壁の外面に接触又は近接する。これにより、カップ状金属体Wは第1の分割鉄心部21及び第2の分割鉄心部22により挟まれるようにして設置される。
【0038】
また、本実施形態の環状鉄心2は、脚鉄心2aの円形状をなす内側周面に密着して設けられた円筒状の冷却管5を備えており、冷却管5に冷却媒体を流通させることによって脚鉄心2aを冷却するように構成している。
【0039】
冷却管5は、脚鉄心2a及び第1の継鉄心2bの上下を貫通するように設けられており、その第1の継鉄心2bの下部に位置する端部に、冷却媒体を導入する導入ポートP1及び冷却媒体を導出する導出ポートP2を有する。導入ポートP1には冷却媒体供給配管(不図示)が接続され、導出ポートP2には冷却媒体導出配管(不図示)が接続されており、これら配管に接続された冷却媒体源(不図示)から冷却媒体が供給されることにより冷却管5内を冷却媒体が流通する。冷却媒体の温度及び流量は、図示しない例えば熱交換機などの温調機構及び例えばマスフローコントローラ等の流量制御機器等によって制御される。
【0040】
具体的に冷却管5は、ステンレス製であり、導入ポートP1及び導出ポートP2が同一端部(下側端部)に設けられた二重管構造であり、導入ポートP1から内管51内を通って内管51及び外管52の間に冷却媒体が流れ、そして外管52に設けられた導出ポートP2から導出されるように構成されている。なお、上部の第2の継鉄心2cが脚鉄心2aに対して着脱可能に構成されていることから、当該継鉄心2aの着脱の邪魔とならないように、本実施形態の冷却管5は、脚鉄心2aの上部には延出しておらず、冷却管5の上端面と脚鉄心2aの上端面とが略面一となるように構成されている。このため導入ポートP1及び導出ポートP2は、第1の継鉄心2bの下部に位置するように構成されている。
【0041】
ここで、冷却管5において内管51の外側周面及び外管52の内側周面に螺旋状のリブや溝を設けることが望ましい。この螺旋状のリブや溝により、冷却媒体が内管51及び外管52の間の空間で撹拌されることになり、外管52と脚鉄心2aとの熱交換を効率良く行うことができる。また、冷却管5と脚鉄心2aとの間に例えばエポキシ樹脂等の耐熱性に優れ熱伝導性に優れた接着剤を充填することで脚鉄心等をより一層効率良く冷却することができる。
【0042】
このように構成した第2実施形態のカップ状金属体誘導加熱装置100によれば、インボリュート鉄心の上端部にカップ状金属体Wを覆い被せて第2の継鉄心2cとの間で挟み入力巻き線3に交流電圧を印加させることによって、カップ状金属体Wに短絡電流が流れて誘導発熱するので、カップ状金属体Wを効率良く加熱することができる。また、左右2つの脚鉄心2a、2aの上端部それぞれにカップ状金属体Wを覆い被せているので1つの環状鉄心2により2つのカップ状金属体Wを誘導加熱することができ、2つのカップ状金属体Wを同時に加熱して生産性を向上させることができる。
【0043】
特に本実施形態では、冷却管5によりインボリュート鉄心2aを冷却しているので、入力巻き線3に印加する交流電圧の周波数を上げてカップ状金属体Wを効率良く加熱しながらも、磁束密度を飽和磁束密度以下に抑えることが可能となる。
【0044】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、
図4に示すように、カットコア型巻鉄心を用いて構成された環状鉄心2においては、第1の分割鉄心部21及び第2の分割鉄心部22を共に、正面視において概略E字形状をなすものとして、3つの脚鉄心部を有する環状鉄心2としても良い。この場合、第1の分割鉄心部21には、その左右3つの分割端部21x、21y、21zにそれぞれカップ状金属体Wが覆い被された状態で設置される。また、各カップ状金属体Wに対応して3つの入力巻き線3が設けられている。この3つの入力巻き線3には、三相電源により三相交流電圧が印加される。このようなものであれば、1つのカップ状金属体誘導加熱装置により同時に3つのカップ状金属体Wを誘導加熱することができる。
【0045】
また、
図5に示すように、インボリュート鉄心(脚鉄心)2a及び継鉄心2b、2cを用いて構成された環状鉄心2においては、インボリュート鉄心(脚鉄心)を3つ有するものとしても良い。この場合、3つのインボリュート鉄心2a、2a、2a及び第1の継鉄心2bにより第1の分割鉄心部21が構成される。このようなものであっても、1つのカップ状金属体誘導加熱装置100により同時に3つのカップ状金属体Wを誘導加熱することができる。
【0046】
さらに、前記実施形態では、第1の分割鉄心部21の分割端部21x、21yにカップ状金属体Wを設置するものであったが、
図6に示すように、第1の分割鉄心部21に加えて、第2の分割鉄心部22の分割端部22x、22yにカップ状金属体Wを設置するとともに、当該カップ状金属体Wの外周部にそれぞれ入力巻き線3を設けた構成としても良い。これならば、2つの脚鉄心を有する環状鉄心2では4つのカップ状金属体Wを同時に誘導加熱することができ、3つの脚鉄心を有する環状鉄心2では6つのカップ状金属体Wを同時に誘導加熱することができる。
【0047】
その上、前記各実施形態では、環状鉄心2を上下2つの分割鉄心部21、22に分割するものであったが、上下3つ以上の分割鉄心部に分割するものであっても良い。このように分割数を増やすことにより、分割端部の数が増えるので、同時に誘導加熱できるカップ状金属体Wの個数を増やすことができる。
【0048】
その上、前記第2実施形態においては、冷却管5の替わりにヒートパイプを脚鉄心の内側周面に密着して設けても良い。この場合、ヒートパイプの一端部を脚鉄心の下面から外部に延出するようにして、この延出した部分を冷却するように構成しても、前記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0049】
また、前記実施形態では入力巻き線3がカップ状金属体Wの外周部に設けられているが、入力巻き線3をカップ状金属体Wの内周部に設けたものであっても良い。
【0050】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0051】
100・・・カップ状金属体誘導加熱装置
W・・・カップ状金属体
2・・・環状鉄心
21・・・第1の分割鉄心部
21x、21y・・・分割端部
22・・・第2の分割鉄心部
22x、22y・・・分割端部
2a・・・脚鉄心
2b・・・第1の継鉄心
2c・・・第2の継鉄心
3・・・入力巻き線
4・・・着脱機構
5・・・冷却管