特許第5951315号(P5951315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5951315
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】車体前部の衝撃吸収構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/16 20060101AFI20160630BHJP
   B62D 25/12 20060101ALI20160630BHJP
   B62D 25/10 20060101ALI20160630BHJP
   B62D 25/08 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   B62D25/16 B
   B62D25/12 B
   B62D25/10 E
   B62D25/08 E
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-71820(P2012-71820)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-203138(P2013-203138A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087619
【弁理士】
【氏名又は名称】下市 努
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕司
(72)【発明者】
【氏名】上辻 圭吾
【審査官】 田合 弘幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−076543(JP,A)
【文献】 特開2007−331451(JP,A)
【文献】 特開2002−145121(JP,A)
【文献】 特開2004−182057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/16
B62D 25/10
B62D 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部を左,右側方から覆う外壁部と該外壁部の上端から下方に折り曲げられた縦壁部とを有する左,右のフェンダと、該左,右のフェンダを車体に取り付けるフェンダブラケットと、左,右のフェンダ間の空間を開閉するフードと、該フードを車体に対して回動可能に支持するヒンジアームとを備えた車体前部の、前記フード及びフェンダに跨がるように上方から作用する衝撃荷重を吸収する衝撃吸収構造において、
前記フェンダブラケットは、車体に固定された一対の脚部と、該両脚部を連結する天壁部とを有し、該天壁部には可変部が車幅方向内方に突出するように形成されており、
前記フェンダブラケットの天壁部に前記フェンダの縦壁部を固定し、前記可変部を前記ヒンジアームの下方に位置させ、前記衝撃荷重が前記フェンダを介して前記天壁部に入力されることで前記脚部が折れ変形し、続いて前記衝撃荷重により前記ヒンジアームが下方に変位して前記可変部に当接することで該可変部が下方に変形し、該変形が進むと前記ヒンジアームが可変部から外れる
ことを特徴とする車体前部の衝撃吸収構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フードに上方から作用する衝撃荷重を吸収する車体前部の衝撃吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部の衝撃吸収構造として、従来、例えば特許文献1には、フードに固定されたヒンジアームを支持するヒンジブラケットを車体の段差部の上部に固定し、衝撃吸収部材を前記ヒンジアームの下方に位置するように前記段差部の下部に取り付けた構造が開示されている。また、例えば特許文献2には、フェンダパネルの縦壁部に、開口部を車体前後方向に沿って長尺状に、かつ車体上下方向に沿って所定の間隔で複数本形成した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−145121号公報
【特許文献2】特開2002−249076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1の従来構造では、前記フード部に入力された衝撃荷重の吸収効果は発揮されるもののフェンダ部への入力に対しては効果が期待できない。一方、前記特許文献2の従来構造ではフェンダ部に入力された衝撃荷重がの吸収効果は発揮されるもののフード部への入力に対しては効果が期待できない。
【0005】
従って、フード部とフェンダ部との両方に跨がるように入力される衝撃荷重に対応するには、前記特許文献1及び特許文献2の構造を採用することが考えられるが、このようにすると、前記二重の衝撃吸収構造が必要となり、コスト高になると共に、二重の衝撃吸収構造の如何によっては荷重特性における最大衝撃値が高くなることが懸念される。
【0006】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、1つの衝撃吸収部材により前記フード部とフェンダ部との両方に跨がる入力に対応でき、荷重特性における衝撃値及びコストを低減できる車体前部の衝撃吸収構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車体前部を左,右側方から覆う外壁部と該外壁部の上端から下方に折り曲げられた縦壁部とを有する左,右のフェンダと、該左,右のフェンダを車体に取り付けるフェンダブラケットと、左,右のフェンダ間の空間を開閉するフードと、該フードを車体に対して回動可能に支持するヒンジアームとを備えた車体前部の、前記フード及びフェンダに跨がるように上方から作用する衝撃荷重を吸収する衝撃吸収構造において、
前記フェンダブラケットは、車体に固定された一対の脚部と、該両脚部を連結する天壁部とを有し、該天壁部には可変部が車幅方向内方に突出するように形成されており、 前記フェンダブラケットの天壁部に前記フェンダの縦壁部を固定し、前記可変部を前記ヒンジアームの下方に位置させ、前記衝撃荷重が前記フェンダを介して前記天壁部に入力されることで前記脚部が折れ変形し、続いて前記衝撃荷重により前記ヒンジアームが下方に変位して前記可変部に当接することで該可変部が下方に変形し、該変形が進むと前記ヒンジアームが可変部から外れることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、上方からの衝撃荷重がフード及びフェンダに跨がるように入力されると、該衝撃荷重は前記フェンダの縦壁部を介して前記フェンダブラケットに入力されるとともに、前記衝撃荷重により前記ヒンジアームが下方に変位してフェンダブラケットに当接することにより該フェンダブラケットを変形させるので、フェンダブラケットが広い範囲の衝撃吸収部材として機能し、二重に衝撃吸収構造を設けた場合に比較してコストを低減でき、また荷重特性における最大衝撃値を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1による衝撃吸収構造が採用された車体前部の正面斜視図である。
図2】前記衝撃吸収構造の側面図である。
図3】前記衝撃吸構造の正面斜視図である。
図4】前記衝撃吸収構造の正面図である。
図5】前記衝撃吸収構造におけるフェンダブラケットの斜視図である。
図6】前記衝撃吸収構造における効果を説明するための荷重−変形量特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
図において、1は本実施例構造が採用された自動車の車体前部であり、これはエンジンルーム2の側壁を構成するフレーム部材を左,右側方から覆う左,右のフロントフェンダ3,3と、該左,右のフロントフェンダ3,3間の空間である前記エンジンルーム2を開閉するフード4と、前記エンジンルーム2の前壁を構成するフロントバンパ5とを備えている。
【0012】
前記フロントフェンダ3は、車幅方向最外側に位置し、前輪6を上方から覆うように形成された外壁部3aと、該外壁部3aの上端から略垂直下方に折り曲げられた縦壁部3bと、該縦壁部3bの下端からエンジンルーム2側に折り曲げ形成されたフランジ部3cとを有する。
【0013】
前記フランジ部3cは、フェンダブラケット7にボルト3dにより締め付け固定されている。該フェンダブラケット7は、前記エンジンルーム2の左,右側部に配置されて前記フレーム部材の一部を構成するアッパメンバ8に固定されている。
【0014】
前記フェンダブラケット7は、一対の脚部7a,7aと、該両脚部7a,7aの上端部同士を連結する天壁部7bと、前記両脚部7a,7aの下端に折り曲げ形成されたフランジ部7c,7cとを有し、該両フランジ部7cが上記アッパメンバ8の前部8aに溶接固定されている。
【0015】
そして前記両脚部7aの中途部には折れ線7dが外側に膨らむように形成されている。また前記天壁部7bには可変部7eがエンジンルーム2側に突出するように一体形成されている。このようにして、本実施例のフェンダブラケット7は、大きな衝撃荷重が作用すると前記折れ線7d,可変部7e部分が変形することにより該衝撃荷重を吸収する衝撃吸収部材として機能する。
【0016】
前記フード4は、フード本体9と、該フード本体9に取り付けられたヒンジアーム10とを有する。このヒンジアーム10はヒンジブラケット11により回動可能に支持され、該ヒンジブラケット11は、前記アッパメンバ8の後部8bに固定されている。
【0017】
前記フード本体9は、鋼板製のアウタパネル9aとインナパネル9bとを最中状をなすようにその周縁をヘミング加工等で固定したものである。また、前記ヒンジアーム10は、鋼板をプレス成形したものであり、支持フランジ部10cが形成されたアーム前部10aと、下方に凹む円弧状に形成されたアーム後部10bとを有する。前記支持フランジ部10cに前記フード本体9がボルト締め固定されている。また前記後部10bの後端に形成されたボス部10dがヒンジピン12により前記ヒンジブラケット11に回動可能に連結されている。
【0018】
ここで図4に示すように、前記フロントフェンダ3の縦壁3bは、前記フェンダブラケット7の天壁部7bの車幅方向外側端部付近に上方から対向当接するように位置している。また前記ヒンジアーム10のアーム前部10aは、前記フェンダブラケット7の可変部7eに上方から少し隙間を明けて対向している。
【0019】
本実施例構造では、図4又は図2に示すように、上方から大きな衝撃荷重Fがフード4及びフェンダ3に跨がるように入力されると、該衝撃荷重Fは、衝撃吸収過程の最初期には前記フロントフェンダ3の縦壁部3bを介して前記フェンダブラケット7に入力され、続いて前記衝撃荷重Fにより前記フード本体9及びヒンジアーム10のアーム前部10aが下方に変位してフェンダブラケット7の可変部7eに当接する。
【0020】
このようにして、前記フェンダブラケット7の脚部7a,7aが前記折れ線7dを起点にして外方に膨らむように折れ変形し(図2の二点鎖線参照)、また前記可変部7eが下方に折れ曲がるように変形する(図4の符号7e′参照)、アーム前部10aは車幅方向内側斜め下方に変位し(図4の符号10a′参照)、さらに変形が進むとアーム前部10aは可変部7eから外れる(図4の符号10a′′参照)。
【0021】
このように本実施例では、上方からの衝撃荷重Fに対して、フェンダブラケット7の脚部7aの折れ変形及び可変部7eの折れ変形を誘発でき、前記衝撃荷重Fを効率良く吸収できる。また、可変部7eの変形が進むと、アーム前部10aが可変部7eから外れるので、 衝撃吸収過程の後半において最大衝撃値が過大になるのを回避できる。
【0022】
荷重−変形量特性を示す図6において、特性線Aは従来の特性カーブを示し、特性線Bは本実施例における特性カーブを示す。同図から、本実施例構造では、衝撃吸収過程の前半における荷重値b1は従来の荷重値a1に比べて高くなっており、その分、後半における最大荷重値b2は従来の最大荷重値a2より低くなっていることが判る。なお、特性線Cは理想的な荷重特性を示す。
【0023】
また、本実施例では、フロントフェンダ3からの荷重及びフード4からの荷重を、1つの、しかもフェンダ取付け用のフェンダブラケット7をその形状を工夫することにより衝撃吸収部材に兼用して吸収するようにしたので、部品点数の増加や構造の複雑化を来すことがない。また、専用の衝撃吸収部材を必要としないので、その配置スペースを確保する必要もない。
【符号の説明】
【0024】
1 車体前部
3 フロントフェンダ
3b 縦壁部
4 フード
7 フェンダブラケット
8 アッパメンバ(車体)
10 ヒンジアーム
F 衝撃荷重
図1
図2
図3
図4
図5
図6