(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スライディングモード制御処理を実行することにより、制御対象機器からの制御量が目標量となるよう前記制御対象機器に操作量を出力するスライディングモードコントローラ部を備え、
前記スライディングモードコントローラ部は、複数の状態量を変数とする切換関数により切換線又は切換平面を規定して、前記複数の状態量が前記切換線又は前記切換平面において平衡状態に収束するように制御入力を算出すると共に、前記制御入力に基づく前記操作量を前記制御対象機器に出力する電子制御装置において、
前記複数の状態量は、第1の状態量と第2の状態量とから成り、前記スライディングモードコントローラ部は、前記制御量と前記目標量との偏差である偏差量を前記第1の状態量に設定すると共に前記偏差量の変化量である偏差変化量を前記第2状態量に設定した前記切換関数を用いて、前記スライディングモード制御処理を一定の時間周期で実行しながら、前記一定の時間周期毎に、今回の周期で検出した前記制御量と前記目標量との偏差である今回偏差量と、前記今回偏差量と前記今回の周期よりも以前の過去の周期で算出した過去偏差量との差である今回偏差変化量と、を算出し、前記今回偏差量と前記今回偏差変化量とを前記第1の状態量及び前記第2の状態量に代入して前記切換関数の値を算出し、
前記切換関数は、前記偏差変化量に乗算される係数を含み、前記係数は、前記第1の状態量及び前記第2の状態量が前記スライディングモード制御における平衡状態に収束する収束特性を規定する減衰特性成分と、前記一定の時間周期の周期長と同一の時間長を有する時間成分と、から成り、
前記スライディングモードコントローラ部は、前記一定の時間周期毎に、前記目標量に対する前記制御量の安定度合いを判断し、前記目標量に対して前記制御量が安定した状態にあると判断したときには、前記偏差変化量を算出するための前記今回の周期と前記過去の周期との時間間隔を、前記一定の時間周期の周期長と同一の時間長ずつ延長自在であることを特徴とする電子制御装置。
前記スライディングモードコントローラ部は、前記偏差変化量を算出するための前記今回の周期と前記過去の周期との時間間隔を、前記制御対象機器における前記操作量が入力されてから制御量を出力するまでの応答遅れ時間以上に設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の電子制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者の検討によれば、特許文献1における構成を電子制御スロットル装置に適用したとすれば、その制御量としてのスロットル弁の開度量をその目標値に収束するように制御するために、スライディングモード制御処理により制御入力を生成し、その制御入力に基づいて操作量を決定し、スロットル弁のアクチュエータを作動させるように構成することが考えられる。
【0008】
このようにスライディングモード制御を用いた電子制御スロットル装置によれば、原理的には、制御対象であるスロットル弁の複数の状態量を変数とする切換関数によって規定される切換平面上に、かかる複数の状態量を到達させ、更にそれらの状態量を切換平面上に拘束しつつ切換平面上の平衡点(各状態量がそれぞれの目標値に合致する点)に収束させるように構成することができる。ここで、スライディングモード制御は、原理的には、状態量を切換平面上に到達させさえすれば、かかる状態量は外乱等の影響をほとんど受けることなく、極めて安定に切換平面上の平衡点に収束させることができるという特性を有している。
【0009】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1における構成においては、制御量とその目標値との偏差、及びかかる偏差の時間微分値(偏差の変化速度)を状態量とする切換関数を用いる構成を有するものであるため、かかる偏差の変化速度を演算するには、現在の偏差から前回の偏差を引き、それをサンプリングタイム(時間間隔)で除することで
、偏差の変化速度を求めることが必要となる。このため、かかる時間間隔の計測と時間間隔で除する演算処理が煩雑となり、構成が煩雑なものとなると共にランプ応答性等の制御の応答性が低減される傾向があると考えられ、改良の余地がある。
【0010】
本発明は、以上の検討を経てなされたものであり、演算処理を簡素化することができると共に、ランプ応答性等の制御応答性を向上させたスライディングモード制御を実行することができる電子制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の目的を達成するべく、本発明は、第1の局面において、スライディングモード制御処理を実行することにより、制御対象機器からの制御量が目標量となるよう前記制御対象機器に操作量を出力するスライディングモードコントローラ部を備え、前記スライディングモードコントローラ部は、複数の状態量を変数とする切換関数により切換線又は切換平面を規定して、前記複数の状態量が前記切換線又は前記切換平面において平衡状態に収束するように制御入力を算出すると共に、前記制御入力に基づく前記操作量を前記制御対象機器に出力する電子制御装置において、前記複数の状態量は、第1の状態量と第2の状態量とから成り、前記スライディングモードコントローラ部は、前記制御量と前記目標量との偏差である偏差量を前記第1の状態量に設定すると共に前記偏差量の変化量である偏差変化量を前記第2状態量に設定した前記切換関数を用いて、前記スライディングモード制御処理を一定の時間周期で実行しながら、前記一定の時間周期毎に、今回の周期で検出した前記制御量と前記目標量との偏差である今回偏差量と、前記今回偏差量と前記今回の周期よりも以前の過去の周期で算出した過去偏差量との差である今回偏差変化量と、を算出し、前記今回偏差量と前記今回偏差変化量とを前記第1の状態量及び前記第2の状態量に代入して前記切換関数の値を算出
し、前記切換関数は、前記偏差変化量に乗算される係数を含み、前記係数は、前記第1の状態量及び前記第2の状態量が前記スライディングモード制御における平衡状態に収束する収束特性を規定する減衰特性成分と、前記一定の時間周期の周期長と同一の時間長を有する時間成分と、から成り、前記スライディングモードコントローラ部は、前記一定の時間周期毎に、前記目標量に対する前記制御量の安定度合いを判断し、前記目標量に対して前記制御量が安定した状態にあると判断したときには、前記偏差変化量を算出するための前記今回の周期と前記過去の周期との時間間隔を、前記一定の時間周期の周期長と同一の時間長ずつ延長自在であることを特徴とする電子制御装置である。
【0014】
また、本発明は、かかる第
1の局面に加えて、前記スライディングモードコントローラ部は、前記目標量に対する前記制御量の前記安定度合いに応じて前記減衰特性成分を変更自在であることを第
2の局面とする。
【0015】
また、本発明は、かかる第1
又は第
2の局面に加えて、 前記スライディングモードコントローラ部は、前記偏差変化量を算出するための前記今回の周期と前記過去の周期との時間間隔を、前記制御対象機器における前記操作量が入力されてから制御量を出力するまでの応答遅れ時間以上に設定することを第
3の局面とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の局面における電子制御装置においては、スライディングモードコントローラ部が、制御量と目標量との偏差である偏差量を第1の状態量に設定すると共に偏差量の変化量である偏差変化量を第2状態量に設定した切換関数を用いて、スライディングモ
ード制御処理を一定の時間周期で実行しながら、一定の時間周期毎に、今回の周期で検出した制御量と目標量との偏差である今回偏差量と、今回偏差量と今回の周期よりも以前の過去の周期で算出した過去偏差量との差である今回偏差変化量と、を算出し、今回偏差量と今回偏差変化量とを第1の状態量及び第2の状態量に代入して切換関数の値を算出することにより、偏差の時間微分値(偏差の変化速度)自体を計算することが無くなるため、演算処理を簡素化することができると共に、ランプ応答性等の制御応答性を向上させたスライディングモード制御を実行することができる。
【0017】
更に、本発明の第
1の局面における電子制御装置においては、切換関数が、偏差変化量に乗算される係数を含み、かかる係数が、第1の状態量及び第2の状態量がスライディングモード制御における平衡状態に収束する収束特性を規定する減衰特性成分と、一定の時間周期の周期長と同一の時間長を有する時間成分と、から成るものであるため、第1の状態量及び第2の状態量を平衡状態へと導くと共に、かかる状態量の内の一方の偏差変化量を一定の制御周期の周期長で除することができ、演算処理を確実に簡素化することができる。
【0018】
更に、本発明の第
1の局面における電子制御装置においては、スライディングモードコントローラ部が、一定の時間周期毎に、目標量に対する制御量の安定度合いを判断し、目標量に対して制御量が安定した状態にあると判断したときには、偏差変化量を算出するための今回の周期と過去の周期との時間間隔を、一定の時間周期の周期長と同一の時間長ずつ延長自在であることにより、目標量に対する制御量が安定している場合に最適な状態で、確実に偏差変化量を算出することができる。
【0019】
また、、本発明の第
2の局面における電子制御装置においては、スライディングモードコントローラ部が、目標量に対する制御量の安定度合いに応じて減衰特性成分を変更自在であることにより、偏差変化量に乗算される係数の値を変更でき、制御量に含まれるノイズ成分の影響を排して外乱の影響を受けにくい態様で、切換関数の値を算出することができる。
【0020】
また、、本発明の第
3の局面における電子制御装置においては、スライディングモードコントローラ部が、偏差変化量を算出するための今回の周期と過去の周期との時間間隔を、制御対象機器における操作量が入力されてから制御量を出力するまでの応答遅れ時間以上に設定することにより、制御量が出力されない無駄時間を考慮してかかる時間間隔を設定することができ、確実に偏差変化量を算出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態における電子制御装置につき、詳細に説明する。
【0023】
〔電子制御装置の構成〕
まず、
図1を参照して、本実施形態におけるスライディングモード制御を実行する電子制御装置の構成につき、詳細に説明する。
【0024】
図1は、本実施形態において、スライディングモード制御を実行する電子制御装置の構成を示すブロック図である。
【0025】
図1に示すように、本実施形態における電子制御装置1は、図示を省略する車両、典型的には自動二輪車や自動四輪車に搭載され、車両に搭載されたバッテリから供給される電力を利用して動作し、車両の各種構成要素を制御自在な制御装置であり、図示を省略するメモリ等を備える。また、電子制御装置1は、目標量算出部10と、スライディングモードコントローラ部20と、を備えている。スライディングモードコントローラ部20は、切換関数算出部22、制御入力算出部24、及び操作量処理部26を備えている。かかる目標量算出部10、スライディングモードコントローラ部20、切換関数算出部22、制御入力算出部24、及び操作量処理部26は、いずれも演算処理装置の機能ブロックとして示す。また、電子制御装置1は、入力機器30に電気的に接続された入力検出器40、並びに互いに電気的に接続された制御対象機器50及び制御量検出器60に対して、各々電気的に接続されている。かかる制御対象機器50は、アクチュエータ52と、アクチュエータ52で駆動される制御対象部材54と、を有する。なお、アクチュエータ52は、制御対象機器50の外部に別体に設けられていてもよい。また、制御量検出器60は、制御対象機器50に内蔵されていてもよい。
【0026】
ここで、本実施形態における電子制御装置1が自動二輪車や自動四輪車といった車両に搭載される場合には、入力機器30は、典型的には、運転者がアクセル操作量を与えるアクセルペダルやアクセルグリップであり、入力検出器40は、入力機器30に与えられた操作位置や印加された入力量、つまりアクセルペダルやアクセルグリップのアクセル開度を電気的に検出する検出器である。また、かかる場合、制御対象機器50は、典型的には、内燃機関に対する空気量を制御する電子制御スロットル装置であって、アクチュエータ52は電動モータであり、制御対象部材54はスロットルバルブである。かかる場合、典型的には、電動モータであるアクチュエータ52は、スロットルバルブである制御対象部材54の動作位置、つまり開度を可変とする。また、制御量検出器60は、制御対象部材54の開度といった動作位置を検出する検出器である。
【0027】
詳しくは、入力機器30は、それに与えられた操作位置や印加された入力量を電気信号として入力検出器40に出力し、入力検出器40は、かかる電気信号から入力機器30に印加された入力量を検出し、検出した入力検出量を電気信号として目標量算出部10に出力する。また、制御量検出器60は、制御対象部材54の動作位置を検出して、検出した動作位置を電気信号として目標量算出部10に出力する。
【0028】
目標量算出部10は、入力検出器40に電気的に接続されており、入力検出器40からの電気信号を受け、入力検出器40が検出した入力検出値に応じて目標量を算出する。かかる目標量は、アクチュエータ52の駆動を介し制御対象部材54に対して、入力機器30に印加された入力量に応じた所要の動作位置を与えるための値である。目標量算出部10は、算出した目標量を電気信号として切換関数算出部22及び制御入力算出部24に各々出力する。
【0029】
切換関数算出部22は、目標量算出部10及び制御量検出器60に各々電気的に接続されており、目標量算出部10及び制御量検出器60からの各々の電気信号を受け、目標量算出部10が算出した目標量、及び制御量検出器60が検出した制御対象部材54の動作位置に応じて切換関数σを具体的に規定して、切換関数σの値を算出する。この際、制御量検出器60が検出した制御対象部材54の動作位置は、スライディングモード制御にお
いて制御対象量となる制御量として取り扱われる。
【0030】
ここで、かかる切換関数σは、各々が状態量である偏差量e及び偏差変化量Δe、並びに係数Gを用いて以下の数式(数1)で与えられる。なお、切換関数σの数式やそれに関連する演算式は、電子制御装置1内のメモリに予めデータやプログラムとして格納されている。
【0032】
具体的には、数式(数1)において、偏差量eは、スライディングモード制御の各制御周期(時間に関する周期)における目標量と制御量との差、つまり、スライディングモード制御の各制御周期において、目標量から制御量を引いて算出される値である。偏差変化量Δeは、スライディングモード制御の特定の制御周期における偏差量とその特定周期から所定の過去の制御周期における偏差量との差、つまり、スライディングモード制御の特定の制御周期において、その時点で算出される偏差量から、その時点から所定の過去時点で算出された偏差量を引いて算出される値である。また、係数Gは、切換関数σの傾き、つまり、横軸を偏差量e及び縦軸を偏差変化量Δeとした直交座標系で切換関数σをその直交座標系の原点を通るように表した切換線の傾きを与えるものであり、減衰特性成分gを周期長Δtで除した以下の数式(数2)で与えられる。
【0034】
具体的には、数式(数2)において、減衰特性成分gは、切換線の傾きの大きさを調整自在とする係数Gの成分で、切換線上の制御量の座標である偏差量e及び偏差変化量Δeの組が、切換関数σが表される直交座標系の原点に収束する収束速度、つまり、切換線上に拘束された偏差量e及びそれに対応する偏差変化量Δeが、スライディングモード制御における平衡状態を各々示す値であるゼロに収束する収束速度に関する収束特性を規定する係数成分である。また、数式(数2)において、周期長Δtは、スライディングモード制御が実行される制御の時間周期の値であり、本実施形態では、一定値として設定される。つまり、周期長Δtは、スライディングモード制御が実行される一定の時間周期の周期長と同一の時間長を有する係数Gの成分であり、係数Gは、1/時間の次元を有する。なお、かかる周期長Δtは、数ミリ秒のオーダである。
【0035】
よって、切換関数算出部22は、スライディングモード制御の各制御周期において、偏差量eの時間微分値である偏差変化速度を算出することなく、切換関数σを具体的に規定して、切換関数σの値を算出する。切換関数算出部22は、算出した切換関数σの値、並びにその算出時に算出した各状態量である偏差量e及びそれに対応する偏差変化量Δeを電気信号として制御入力算出部24に各々出力する。
【0036】
制御入力算出部24は、目標量算出部10及び切換関数算出部22に各々電気的に接続されており、目標量算出部10及び切換関数算出部22からの各々の電気信号を受け、目標量算出部10が算出した目標量、並びに切換関数算出部22が算出した切換関数σの値、偏差量e及びそれに対応する偏差変化量Δeに応じて制御入力量を算出する。
【0037】
ここで、かかる制御入力量には、等価則入力量、到達則入力量、及び非線形則入力量が含まれる。
【0038】
具体的には、等価則入力量は、各々が状態量である偏差量e及びそれに対応する偏差変化量Δeを切換線上に拘束するための制御入力量の成分である。到達則入力量は、各々が状態量である偏差量e及びそれに対応する偏差変化量Δeを切換線に近づけてそれに到達させるための制御入力量の成分である。また、非線形則入力量は、切換関数σに関するモデル化誤差を抑制するための制御入力量の成分である。制御入力算出部24は、目標量算出部10が算出した目標量、並びに切換関数算出部22が算出した切換関数σの値、偏差量e及びそれに対応する偏差変化量Δeを対応して用いて、等価則入力量、到達則入力量、及び非線形則入力量を各々算出し、これらの和を用いて制御入力量を算出する。制御入力算出部24は、算出した制御入力量を電気信号として操作量処理部26に出力する。
【0039】
操作量処理部26は、制御入力算出部24に電気的に接続されており、制御入力算出部24からの電気信号を受け、アクチュエータ52を駆動して制御対象部材54を移動させるための操作量を算出する。かかる操作量は、アクチュエータ52が制御対象部材54を目標量に対応する目標位置に向かって収束するように動かす移動量であり、制御入力算出部24が算出した制御入力量に対応する値である。操作量処理部26は、算出した操作量を電気信号としてアクチュエータ52に出力する。
【0040】
アクチュエータ52は、操作量処理部26に電気的に接続されており、操作量処理部26からの電気信号を受け、操作量処理部26が算出した操作量に応じて制御対象部材54を目標位置に向かって移動させ、対応して、制御対象部材54は、目標位置に向かって移動される。制御量検出器60は、かかるアクチュエータ52により移動させられた制御対象部材54の動作位置を検出して、検出した動作位置を電気信号として目標量算出部10に出力する。
【0041】
〔スライディングモード制御処理〕
以上の構成を有する電子制御装置1は、以下に示すスライディングモード制御処理を実行することによって、その演算処理を簡素化し、ランプ応答性等の制御応答性を向上させたスライディングモード制御処理を実行する。以下、
図2に示すフローチャート及び
図3に示すタイミングチャートを参照して、かかるスライディングモード制御処理を実行する際の主として操作量を算出するまでの電子制御装置1の動作につき、詳細に説明する。
【0042】
図2(a)は、本実施形態における電子制御装置のスライディングモードコントローラ部の算出処理の流れを示すフローチャートであり、
図2(b)は、
図2(a)のフローチャートの算出処理中の切換関数の算出処理の流れを示すフローチャートである。また、
図3は、本実施形態における電子制御装置のスライディングモードコントローラ部の算出処理中の切換関数の算出処理を説明するタイミングチャートである。
【0043】
図2(a)に示すフローチャートは、車両のイグニッションスイッチがオフ状態からオン状態に切り替えられたタイミングで開始となり、スライディングモードコントローラ部20の算出処理はステップS1の処理に進む。スライディングモード制御処理、つまりスライディングモードコントローラ部20の算出処理は、イグニッションスイッチがオン状態である間、一定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0044】
ステップS1の処理では、切換関数算出部22が、目標量算出部10が算出した目標量、及び制御量検出器60が検出した制御対象部材54の動作位置である制御量に応じ数式(数1)を用いて切換関数σを具体的に規定し、切換関数σの値を算出する。
【0045】
具体的には、
図2(b)に示すS10の処理では、切換関数算出部22が、今回の制御周期よりも(n−1)番目前の制御周期において得られた偏差量eの値を、今回の制御周期よりもn番目前の制御周期において得られた偏差量eの値として繰り下げて更新する。ここで、
図3を参照して、今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期Kがk番目であるとすると、k番目の制御周期K=kで算出される偏差量eは、e(k)で示され、k番目の制御周期K=kよりもd番目前の制御周期K=(k−d)において算出された偏差量eは、e(k−d)で示される。つまり、今回の制御周期kで、偏差量e(k)を算出して、それを最新の偏差量eとしてメモリに格納しようとすると、今回の制御周期kより1つ前の制御周期K=(k−1)で算出してメモリに格納した偏差量e(k−1)及び今回の制御周期kより1つ前の制御周期K=(k−1)よりも更に前の各制御周期K=(k−2)、…、(k−d)、…、1で算出して今回の制御周期kより1つ前の制御周期K=(k−1)でメモリに格納した偏差量e(k−2)、…、e(k−d)、…、e(1)がメモリに存在しているために、不要にメモリに格納されたこれらの値が上書きされることがないように、これらの制御周期Kの番号を各々1つずつ繰り下げて、これらの値をメモリに格納して更新する。この結果、ステップS10の処理が終了した時点でメモリに格納されている偏差量eは、e(k−1)、…、e(k−d)、…、e(1)となる。なお、kは正の整数、並びにd及びnは1以上でN以下の正の整数であり、Nは典型的にはk−1である。これにより、ステップS10の処理は完了し、スライディングモードコントローラ部20の算出処理中の切換関数の算出処理はステップS11の処理に進む。
【0046】
ステップS11の処理では、切換関数算出部22が、目標量算出部10が算出した目標量から、制御量検出器60が検出した制御対象部材54の動作位置である制御量を引いて、偏差変Δeを算出する。ここで、
図3を参照して、今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期Kがk番目であるとすると、k番目の制御周期K=kで算出される偏差量eは、e(k)で示される。つまり、今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kで偏差量e(k)が算出され、算出された偏差量e(k)は、メモリに格納される。この結果、ステップS11の処理が終了した時点でメモリに格納されている偏差量eは、e(k)、e(k−1)、…、e(1)となる。これにより、ステップS11の処理は完了し、スライディングモードコントローラ部20の算出処理中の切換関数の算出処理はステップS12の処理に進む。
【0047】
ステップS12の処理では、切換関数算出部22が、目標量算出部10が算出した目標量に対する制御量検出器60が検出した制御対象部材54の動作位置である制御量の安定度合いを判断する。具体的には、切換関数算出部22は、制御量を目標量で除した値の絶対値が、所定量未満であるか否かを判断する。判断の結果、制御量を目標量で除した値の絶対値が所定量未満である場合には、切換関数算出部22は、目標量に対する制御量が安定していると判断して、スライディングモードコントローラ部20の算出処理中の切換関数の算出処理をステップS13の処理に進める。一方、判断の結果、制御量を目標量で除した値の絶対値が所定量以上である場合には、切換関数算出部22は、目標量に対する制御量が不安定であると判断して、スライディングモードコントローラ部20の算出処理中の切換関数の算出処理をステップS15の処理に進める。
【0048】
ステップS13の処理では、切換関数算出部22が、今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kよりもd番目前の制御周期K=(k−d)における偏差量e(k−d)を算出するためのd番目を意味するdの値にd2を設定してメモリに格納する。d2の値は、0<d1<d2<Nを満足する正の整数である。つまり、目標量に対する制御量が不安定であると判断された場合のステップS15において偏差量e(k−d)を算出するためにdの値に設定されるd1よりも、d2は大きい。これは、ステップS13の処理は、目標量に対する制御量が安定であると判断された場合に実行さ
れるものであるため、各制御周期Kにおける偏差量eの値自体の時間的は変動がより少ないと考えられることを考慮して、dに相対的に大きなd2の値を設定して、今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kからより遡った制御周期K=k−d2における偏差量e(k−d2)を用いて、今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kにおける偏差変化量Δe(k)を算出することとしたものである。また、かかるdの値を設定する際には、アクチュエータ52に操作量が入力されてから制御量検出器60が制御量を出力するまでの応答遅れ時間を考慮して、dの値を設定することが好ましい。というのは、制御量が出力されない無駄時間よりも短い時間間隔で今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理で偏差量eや偏差変化量Δeを算出しようとしても、制御量自体が検出され得ないので、今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理が無駄になってしまうからである。これにより、ステップS13の処理は完了し、スライディングモードコントローラ部20の算出処理中の切換関数の算出処理はステップS14の処理に進む。
【0049】
ステップS14の処理では、切換関数算出部22が、切換関数σを示す数式(数1)において用いられ、かつ数式(数2)で規定される係数Gに、所定ゲイン値G2を設定する。所定ゲイン値G2は、目標量に対する制御量が安定であると判断された場合であることを考慮して、目標量に対する制御量が不安定であると判断された場合のステップS16における所定ゲイン値G1とは異なった値に設定することが可能である。つまり、かかる係数Gは、目標量に対する制御量の安定度合いに応じて変更自在である。例えば、制御量に制御量検出器60の検出時のノイズ成分が含まれているため安定しない場合等には、係数Gを相対的に小さくすれば、切換関数σの値における偏差変化量Δeの項中の制御量の変動の影響が小さくなり、切換関数σの値中の変動要因が低減される。一方で、制御量が安定している場合には、係数Gを相対的に大きくしてもかまわない。ここで、係数Gに関しては、周期長Δtは、スライディングモード制御処理が実行される一定の時間周期に等しいため一定値となるから、係数Gを変更するには、目標量に対する制御量の安定度合いを考慮して減衰特性成分gの値を変更することになる。これにより、ステップS14の処理は完了し、スライディングモードコントローラ部20の算出処理中の切換関数の算出処理はステップS17の処理に進む。
【0050】
ステップS15の処理では、切換関数算出部22が、今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kよりもd番目前の制御周期K=(k−d)における偏差量e(k−d)を算出するためのd番目を意味するdの値にd1を設定してメモリに格納する。d1の値は、0<d1<d2<Nを満足する正の整数である。つまり、目標量に対する制御量が安定であると判断された場合のステップS13において偏差量e(k−d)を算出するためにdの値に設定されるd2よりも、d1は小さい。これは、ステップS15の処理は、目標量に対する制御量が不安定であると判断された場合に実行されるものであるため、各制御周期Kにおける偏差量eの値自体の時間的は変動がより大きいと考えられることを考慮して、dに相対的に小さなd1の値を設定して、今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kからより接近した制御周期K=k−d1における偏差量e(k−d1)を用いて、今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kにおける偏差変化量Δe(k)を算出することとしたものである。これにより、ステップS15の処理は完了し、スライディングモードコントローラ部20の算出処理中の切換関数の算出処理はステップS16の処理に進む。
【0051】
ステップS16の処理では、切換関数算出部22が、切換関数σを示す数式(数1)において用いられ、かつ数式(数2)で規定される係数Gに、所定ゲイン値G1を設定する。所定ゲイン値G1は、目標量に対する制御量が不安定であると判断された場合であることを考慮して、目標量に対する制御量が安定であると判断された場合のステップS14に
おける所定ゲイン値G2とは異なった値に設定することが可能である。つまり、かかる係数Gは、目標量に対する制御量の安定度合いに応じて変更自在である。これにより、ステップS14の処理は完了し、スライディングモードコントローラ部20の算出処理中の切換関数の算出処理はステップS17の処理に進む。
【0052】
ステップS17の処理では、切換関数算出部22が、ステップS11の処理で算出された今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kでの偏差量e(k)から、ステップS13の処理で設定されたdの値であるd2を用いた今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kよりもd2番目前の制御周期K=(k−d2)における偏差量e(k−d2)又はステップS15の処理で設定されたdの値であるd1を用いた今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kよりもd1番目前の制御周期K=(k−d1)における偏差量e(k−d1)を引いて今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kにおける偏差変化量Δe(k)を算出し、算出した値をメモリに格納する。これにより、ステップS17の処理は完了し、スライディングモードコントローラ部20の算出処理中の切換関数の算出処理はステップS18の処理に進む。
【0053】
ステップS18の処理では、切換関数算出部22が、ステップS11の処理で算出された今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kでの偏差量e(k)に対して、ステップS14の処理で設定された係数Gの値であるG2をステップS17の処理で算出された今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kでの偏差変化量Δe(k)に掛けた値又はステップS16の処理で設定された係数Gの値であるG1をステップS17の処理で算出された今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kでの偏差変化量Δe(k)に掛けた値を足して、切換関数σを具体的に規定すると共にその値を算出し、算出した切換関数σの値をメモリに格納する。これにより、ステップS17の処理は完了すると共にステップS1の処理も完了し、スライディングモードコントローラ部20の算出処理は
図2(a)に示すステップS2の処理に進む。
【0054】
ステップS2の処理では、制御入力算出部24が、目標量算出部10が算出した目標量、並びに切換関数算出部22がステップS1の処理で各々算出した今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kでの切換関数σの値、偏差量e(k)及び偏差変化量Δe(k)に応じて、等価則入力量、到達則入力量及び非線形則入力量を含む制御入力量を算出する。
【0055】
具体的には、制御入力算出部24が、各々、ステップS21の処理で、今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kでの偏差量e(k)及び今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kでの偏差変化量Δe(k)を切換線上に拘束するための等価則入力量UEを算出し、ステップS22の処理で、今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kでの偏差量e(k)及び今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kでの偏差変化量Δe(k)を切換線に近づけてそれに到達させるための到達則入力量URを算出し、及び、ステップS23の処理で、切換関数σに関するモデル化誤差を抑制するための非線形則入力量UNを算出する。そして、ステップS24の処理で、制御入力算出部24が、このように各々算出した等価則入力量UE、到達則入力量UR、及び非線形則入力量UNを足し合わせて今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kでの制御入力量を算出し、算出したその値をメモリに格納する。これにより、ステップS2の処理は完了し、スライディングモードコントローラ部20の算出処理はステップS3の処理に進む。
【0056】
ステップS3の処理では、操作量処理部26が、ステップS24の処理で算出された今回のスライディングモードコントローラ部20の算出処理の制御周期K=kでの制御入力量に応じて、アクチュエータ52を駆動して制御対象部材54を目標量に対応する目標位置に向かって移動させるための操作量を算出する。これにより、ステップS3の処理は完了し、今回の制御周期K=kでのスライディングモードコントローラ部20の算出処理は終了する。よって、今回の制御周期K=kでは、アクチュエータ52が、かかる操作量に応じて制御対象部材54を目標位置に向かって移動させ、対応して、制御対象部材54は、目標位置に向かって収束するように移動されることになる。
【0057】
以上の本実施形態の構成によれば、スライディングモードコントローラ部20が、制御量と目標量との偏差である偏差量eを第1の状態量に設定すると共に偏差量の変化量である偏差変化量Δeを第2状態量に設定した切換関数σを用いて、スライディングモード制御処理を一定の時間周期で実行しながら、一定の時間周期毎に、今回の周期で検出した制御量と目標量との偏差である今回偏差量e(k)と、今回偏差量e(k)と今回の周期よりも以前の過去の周期で算出した過去偏差量e(k−d)との差である今回偏差変化量Δe(k)と、を算出し、今回偏差量e(k)と今回偏差変化量Δe(k)とを第1の状態量及び第2の状態量に代入して切換関数σの値を算出することにより、偏差の時間微分値(偏差の変化速度)自体を計算することが無くなるため、演算処理を簡素化することができると共に、ランプ応答性等の制御応答性を向上させたスライディングモード制御を実行することができる。
【0058】
また、切換関数σが、偏差変化量Δeに乗算される係数Gを含み、かかる係数Gが、第1の状態量e及び第2の状態量Δeがスライディングモード制御における平衡状態に収束する収束特性を規定する減衰特性成分gと、一定の時間周期の周期長と同一の時間長を有する時間成分Δtと、から成るものであるため、第1の状態量e及び第2の状態量Δeを平衡状態へと導くと共に、かかる状態量e、Δeの内の一方の偏差変化量Δeを一定の制御周期の周期長Δtで除することができ、演算処理を確実に簡素化することができる。
【0059】
また、スライディングモードコントローラ部20が、一定の時間周期毎に、目標量に対する制御量の安定度合いを判断し、目標量に対して制御量が安定した状態にあると判断したときには、偏差変化量Δeを算出するための今回の周期と過去の周期との時間間隔を、一定の時間周期の周期長と同一の時間長Δtずつ延長自在であることにより、目標量に対する制御量が安定している場合に最適な状態で、確実に偏差変化量Δeを算出することができる。
【0060】
また、スライディングモードコントローラ部20が、目標量に対する制御量の安定度合いに応じて減衰特性成分gを変更自在であることにより、偏差変化量Δeに乗算される係数Gの値を変更でき、制御量に含まれるノイズ成分の影響を排して外乱の影響を受けにくい態様で、切換関数σの値を算出することができる。
【0061】
また、スライディングモードコントローラ部20が、偏差変化量Δeを算出するための今回の周期と過去の周期との時間間隔を、制御対象機器50における操作量が入力されてから制御量を出力するまでの応答遅れ時間以上に設定することにより、制御量が出力されない無駄時間を考慮してかかる時間間隔を設定することができ、確実に偏差変化量Δeを算出することができる。
【0062】
なお、以上の本実施形態では、目標量に対する制御量の安定度合いを判断するために、制御量を目標量で除した値の絶対値が所定量未満であるか否かで判断したが、目標量と制御量との比で判断してもよいし、場合によっては、切換関数の値がゼロ近傍に維持されているか否かで判断してもよい。
【0063】
また、本発明においては、構成要素の種類、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。