特許第5951349号(P5951349)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5951349
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】人工芝構造体
(51)【国際特許分類】
   E01C 13/08 20060101AFI20160630BHJP
【FI】
   E01C13/08
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-108340(P2012-108340)
(22)【出願日】2012年5月10日
(65)【公開番号】特開2013-234510(P2013-234510A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083404
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】島田 菜実
(72)【発明者】
【氏名】谷川 政弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 克往
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−293326(JP,A)
【文献】 特開2009−083289(JP,A)
【文献】 特開2007−138644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工芝のパイル間に充填材を充填してなる人工芝構造体において、
上記充填材として、表面に融解熱型の温度抑制効果を有する温度抑制材を塗布してなる融解熱型の第1充填材と、吸水性および/または保水性を有する気化熱型の第2充填材とを混合して用いることを特徴とする人工芝構造体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工芝のパイル間に充填される人工芝用充填材に関し、さらに詳しく言えば、温度抑制効果を有する人工芝用充填材に関する。
【背景技術】
【0002】
テニスやサッカー、ラグビー、野球などのスポーツ用人工芝は、そのパイル間に硬質粒状物や弾性粒状物からなる充填材を充填したものが一般的に用いられている。その中でも弾性粒状物からなる充填材は、主に安価かつ大量に入手できる廃タイヤなどの廃ゴム製品を原材料として製造されている。
【0003】
この弾性粒状物からなる充填材は、廃タイヤが故に黒色を呈しており、熱を吸収しやすい。したがって、夏場には日光の熱を吸収し、人工芝の表面が高温となるため、快適性が悪く、プレーヤーに大きな負担がかかっている。
【0004】
そこで、この温度上昇を抑制する方法の1つとして、最表層の充填材を熱吸収率の低い色の充填材に変更する方法がある(特許文献1)。これによれば、最表層の充填材が熱吸収率の低い色であるため、充填材に熱が吸収されにくく、結果、温度抑制効果が得られる。
【0005】
また別の方法として、熱吸収率の低い色の塗料を塗布した充填材に変更したり、酸化チタンを含有する反射型遮熱塗料を塗布した充填材に変更する方法がある(先行文献2)。
【0006】
しかしながら、上述した従来の方法では、ある程度の温度抑制効果は確認されるものの、長時間にわたって十分な温度抑制効果は得られにくい。また、反射型遮熱塗料では反射による輻射熱が非常に大きいため、快適性の改善効果は期待できない。
【0007】
また、従来技術では表面に汚れが付着すると、当初期待される効果(色による熱吸収の抑制や熱線の反射による熱吸収の防止)が失われ、さらにその汚れが熱吸収体として働く場合もあり、温度抑制効果の著しい低下につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−34906号公報
【特許文献2】特開2007−138644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、長時間にわたって安定した温度抑制効果が得られる人工芝構造体を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するため、本発明は、人工芝のパイル間に充填材を充填してなる人工芝構造体において、上記充填材として、表面に融解熱型の温度抑制効果を有する温度抑制材を塗布してなる融解熱型の第1充填材と、吸水性および/または保水性を有する気化熱型の第2充填材とを混合して用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
これによれば、充填材の表面に融解熱特性を有するマイクロカプセルが配合された温度抑制材を塗布することにより、充填材が吸収しようとする熱や、吸収してしまった熱をマイクロカプセル内の薬剤を融解させるための融解熱に変換することで、温度上昇を防ぐことができる。その結果、人工芝の温度抑制を図ることができ、人工芝や充填材が汚れたりしてもその効果を長期間にわたって維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る人工芝構造体を模式的に示す断面図。
図2】本発明の人工芝用充填材の要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
図1に示すように、この人工芝構造体1は、基盤2上に敷設された人工芝3を有し、人工芝3のパイル4の間には、粒状の充填材5が充填されている。この実施形態において、基盤2は、地面を平坦に均した簡易舗装面が用いられるが、これ以外に、砂利などを敷き詰めてあってもよいし、アスファルトなどで舗装された既設舗装面を用いてもよい。
【0017】
さらには、基盤2の上に弾性舗装などを設けてもよいし、既設の人工芝を残したまま、その上に新たに人工芝構造体1を敷設するような態様であってもよく、本発明において、基盤2の構成は、仕様に応じて変更可能であり、任意的事項である。
【0018】
人工芝3は、基布31に所定間隔でパイル4が植設されている。基布31は、例えばポリプロピレン,ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂が好適に選択されるが、本発明では特に限定されない。
【0019】
この例において、基布31は、ポリプロピレンやポリエチレンなどの合成樹脂製の平織り布が用いられているが、これ以外に、平織り布に合成樹脂の綿状物をパンチングにより植え付けたものであってもよい。
【0020】
パイル4は、基布31の表面から先端までのパイル長さが40〜75mmと長い、いわゆるロングパイルであることが好ましい。パイル4は、ポリプロピレン,ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂が好適に選択されるが、本発明では特に限定されない。
【0021】
パイル4には、モノテープヤーンまたはモノフィラメントヤーンを複数本束ねたもの、あるいは、帯状のスプリットヤーンが用いられてよい。この例において、パイル4は、太さが8000〜16000dtexであって、植え付け量1000〜2000g/mで基布31に植え付けられている。
【0022】
また、基布31の裏面には、タフティングされたパイル4の抜け落ちを防止するため、裏止め材32(バッキング材)が一様に塗布されている。裏止め材32には、例えばSBRラテックスやウレタンなどの熱硬化性樹脂が用いられるが、必要に応じて例えば炭酸カルシウムなどの増量剤が添加される。この例において、裏止め材32は、塗布量が600〜800g/m(乾燥時)となるように一様に塗布されている。
【0023】
このように作成された人工芝3のパイル4の間には、充填材5が充填されている。充填材5は、熱可塑性樹脂、ゴムチップなどの弾性粒状物からなるコア材51と、コア材51の表面に形成されたコーティング層52とを備えている。
【0024】
この実施形態において、コア材51は、図2に示すように廃タイヤを破砕したゴムチップが用いられているが、これ以外の材質であってもよく、砂などの硬質粒状物であってもよい。パイル4の間に充填可能な形状であれば、コア材51の形状は特に限定されない。
【0025】
コーティング層52は、融解熱型の温度抑制効果を有する温度抑制材を塗布して乾燥したものからなる。温度抑制材としては、ベースとなる液体塗料に、所定の融解熱特性を有する薬剤を内包するマイクロカプセルが配合されたものからなる。ここで、本発明の融解熱とは、潜熱の一種であり、物質が固体から液体に相変化を起こす際に必要な熱量をいう。
【0026】
融解熱型マイクロカプセルは、カプセルを形成する外殻物質と、外殻物質に内包される薬剤とを有し、外殻物質としては、任意の水に不溶性の樹脂皮膜が用いられる。
【0027】
融解熱特性を有する薬剤(内包物質)としては、n−パラフィン、iso−パラフィン、脂肪酸、高級アルコールなどから選ぶことができるが、特に限定されず、仕様に応じて任意に設定してかまわない。融解熱特性を有する薬剤を内包するマイクロカプセルの一例としては、例えばエイチ&エス化工社製の「クールサーモ」がある。
【0028】
これによれば、コーティング層52内に含まれたマイクロカプセル内の薬剤の固体から液体に相変化する際の融解熱が周囲の熱を奪ため、相対的に人工芝3の熱を下げることができる。
【0029】
また、反射型遮熱塗料では、人工芝の温度を人為的に制御できないが、本発明の融解熱型温度抑制材を用いると、熱を吸収し、物質の融解熱へ変換するため、人工芝の温度を狙った温度域にコントロールすることができる。さらには、表面の汚れによる効果の著しい低下が起こらず、持続的に温度抑制効果を保つことができる。
【0030】
なお、温度抑制効果は任意の温度で設定できるが、人工芝の場合、夏場の天然芝表面温度が50℃程度まで上昇することから、50℃度程度に設定することが好ましい。
【0031】
充填材5は、人工芝3のパイル4全体に充填されていることが最も好ましいが、例えば従来のゴムチップからなる弾性粒状物や目砂などの硬質粒状物とを積層するなどして、少なくとも表層に本発明のコーティング層52を有する充填材5を充填しても良い。このような態様も本発明に含まれる。
【0032】
また、充填材5としてさらに吸水性や保水性を有する吸水性チップをさらに添加して、本発明の融解熱型の温度抑制材と、気化熱型の温度抑制材とを混合して、充填材5としても良い。
【実施例】
【0033】
次に、本発明の具体的な実施形態について、比較例とともに検討する。まず、以下の方法でサンプルを作製した。
【0034】
〔サンプルの作製方法〕
60×60mm、厚さ2mmのEPDM系ゴムシート(硬度60)を、黒、ベージュ、白の3色を用意し、その表面に融解型温度抑制塗料(エイチ&エス化工社製の「クールサーモ、ベージュ色」、抑制温度設定:50℃)を、下塗り(塗布量:0.15kg/m)、上塗り(塗布量:0.15kg/m)の順に塗り、乾燥させてサンプルシートを作製した。
【0035】
比較例1〜3として、3色のゴムシート単体のものを用意した。また、比較例4として、同じゴムシート(黒色)に反射型遮熱塗料(東日本塗料社製の「スーパートップ遮熱」、ライトベージュ(B−12))を1層目(塗布量:0.15kg/m)、2層目(塗布量:0.15kg/m)で塗布したのち、乾燥させたものを用意した。
【0036】
さらに、比較例5として、同じゴムシート(黒色)に色塗料(日本特殊塗料社製の「水性ユータックSi」、色:U−52)を1層目(塗布量:0.2kg/m)、2層目(塗布量:0.2kg/m)で塗布したのち、乾燥させて散布シートを作製した。
【0037】
〔温度測定試験〕
サンプルシートの表面と裏面の中央にそれぞれT型熱電対を耐熱テープで固定したのち、水平な設置面に置き、200mm上方から屋外用投光器(株式会社シバタ社製、消費電力160W)にて均等に光を照射した。その温度変化をデータロガー(NR1000)で測定した。
【0038】
〔温度抑制効果の評価方法〕
評価方法としては、表面上昇温度と裏面上昇温度の平均値を、そのサンプルシートの上昇温度とし、投光を開始してから温度が一定になった時点での温度が、55℃以下の場合は○、55℃超の場合を×とした。また、汚れの有無については、各塗料の塗布後にカーボンを乾いた布を用いて汚したものを「あり」とした。
【0039】
以下に、実施例1〜3および比較例1〜5の仕様と測定結果を示す。
【0040】
《実施例1》
ゴムシート色 :黒
塗料種類 :融解熱型
汚れ :なし
測定温度 :50.7℃
温度抑制効果 :○
【0041】
《実施例2》
ゴムシート色 :ベージュ
塗料種類 :融解熱型
汚れ :なし
測定温度 :45.8℃
温度抑制効果 :○
【0042】
《実施例3》
ゴムシート色 :白
塗料種類 :融解熱型
汚れ :なし
測定温度 :48.7℃
温度抑制効果 :○
【0043】
《実施例4》
ゴムシート色 :黒
塗料種類 :融解熱型
汚れ :あり
測定温度 :52.3℃
温度抑制効果 :○
【0044】
〈比較例1〉
ゴムシート色 :黒
塗料種類 :なし
汚れ :なし
測定温度 :84.7℃
温度抑制効果 :×
【0045】
〈比較例2〉
ゴムシート色 :ベージュ
塗料種類 :なし
汚れ :なし
測定温度 :57.8℃
温度抑制効果 :×
【0046】
〈比較例3〉
ゴムシート色 :白
塗料種類 :なし
汚れ :なし
測定温度 :55.7℃
温度抑制効果 :×
【0047】
〈比較例4〉
ゴムシート色 :黒
塗料種類 :反射型
汚れ :あり
測定温度 :81.2℃
温度抑制効果 :×
【0048】
〈比較例5〉
ゴムシート色 :黒
塗料種類 :色塗料
汚れ :なし
測定温度 :71.0℃
温度抑制効果 :×
【0049】
実施例1〜4および比較例1〜5の結果のまとめを表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例および比較例により以下の知見を得た。すなわち、
(1)融解熱型の熱抑制塗料を用いた場合は、シートのベース色に関係なく、ほぼ50℃以下の設定温度を持続することができる。ベース色が黒色の場合に至っては、30℃以上の温度上昇を抑制することができる。
(2)融解熱型の熱抑制塗料を用いた場合は、ゴムシートが吸収しようとする熱や吸収した熱を融解熱に変換するため、ゴムシートに汚れがあっても、設定された温度域に温度を保つことができる。
(3)反射型塗料については、汚れがあると、その性能を発揮することが困難となる。
【符号の説明】
【0052】
1 人工芝構造体
2 基盤
3 人工芝
31 基布
32 裏止め材
4 パイル
5 充填材
51 コア材
52 コーティング層
53 円筒部
図1
図2