(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記非導電性部における前記導電性微粒子を含まない線上で解析した算術平均表面粗さRa(I)が0.6〜0.9nmである請求項1〜4のいずれかに記載のタッチパネル。
前記非導電性部における前記導電性微粒子を含む線上で解析した算術平均表面粗さRa(S)が1.0〜2.4nmである請求項1〜5のいずれかに記載のタッチパネル。
透明フィルム基板上に少なくとも一層の絶縁性薄膜と透明電極層とをそれぞれスパッタリング法によって積層した透明電極付き基板を備えたタッチパネルの製造方法において、
前記透明電極層にエッチングにより導電性部と非導電性部とからなるパターン形状をする際、前記非導電性部に1平方マイクロメートルあたり2〜30個の導電性微粒子を残すことを特徴とするタッチパネルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[透明電極付き基板の構成]
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、透明フィルム基板10上に、下地層(絶縁性薄膜)21および透明電極層22を順に有する透明電極付き基板を示している。
【0013】
透明フィルム基板10を構成する透明フィルムは、少なくとも可視光領域において無色透明であるものが好ましい。透明フィルム上には透明誘電体下地層21が形成されている。透明誘電体下地層21は酸化物からなることが、特性や生産性の面から好ましく、構成する酸化物としては、少なくとも可視光領域において無色透明であり、抵抗率が10Ω・cm以上であるものが好ましい。なお、本明細書において、ある物質を「主成分とする」とは、当該物質の含有量が51重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%であることを指す。本発明の機能を損なわない限りにおいて、各層には、主成分以外の成分が含まれていてもよい。
【0014】
本発明の透明電極付き基板は、前記透明フィルム基板10上の誘電体下地層21上に、透明電極層22を備える。さらに、透明電極層は一部がエッチングされることで、導電性部31と非導電性部32に分けてパターニングされ、非導電性部32には導電性材料が一部粒子として残っている。
【0015】
非導電性部32中には、上記導電性微粒子(透明導電性微粒子)が2〜30個/平方マイクロメートル存在することが好ましい。さらには、5〜20個/平方マイクロメートルであることが好ましく、特に8〜15個/平方マイクロメートル存在することが好ましい。上記範囲にあることで、非導電性部上に形成される材料との付着性を向上させることが可能となる。
【0016】
さらに、導電性微粒子の大きさが40〜200nm程度である場合は、お互いの導電性材料が接触することがなく、絶縁性を維持することが可能となる。ここで、導電性微粒子の大きさとは、基板に平行な面方向の最大長さを表している。さらに、導電性微粒子は、結晶粒が1平方マイクロメートルあたり10個以下の集合体であることが好ましい。この大きさおよび結晶粒の個数となることで、非導電性部の絶縁を維持することが可能となる。さらに上記の導電性粒子数・大きさを満たすことで、パターニング後の導電性部と非導電性部の透過および反射光の色相の差が小さくなることから、いわゆるパターニング後の色ムラが目立たず、良好な非視認性を達成することができる。さらに、上記導電性微粒子は多角形であることが好ましい。導電性微粒子には多角形の他に球状のものなどがあるが、多角形となることでアンカー効果による付着強度の向上が期待できる。このような多角形は、種結晶を形成し、それをエッチングすることで形成することができる。
【0017】
パターニング後の非導電性部は、導電性微粒子を含まない線上で測定・解析した算術平均表面粗さ(Ra(I))が0.6〜0.9nmであり、導電性微粒子を含む線上で測定・解析した算術平均表面粗さ(Ra(S))が1.0〜2.4nmであることが好ましい。この領域であることで、光学的にはヘイズが低く、非視認性に優れるものができ、かつ導電性材料の表面性だけでなく、アンカー効果によりOCAなどとの付着強度が大きくなる。
【0018】
このような導電性微粒子を非導電性部に形成するには、エッチング後に導電性微粒子材料を印刷技術を用いて塗布する方法などが挙げられるが、膜厚方向の結晶性を制御することで、エッチング後に透明電極層を構成していた導電性材料が微粒子として残る状態にすることが最も簡便である。
【0019】
透明電極層22は酸化インジウムを、87.5重量%〜99.0重量%含有する。酸化インジウムの含有量は、90重量%〜95重量%であることがより好ましい。結晶質透明電極層は、膜中にキャリア密度を持たせて導電性を付与するためのドープ不純物を含有する。このようなドープ不純物としては、酸化スズまたは酸化亜鉛、酸化チタン、酸化タングステンが好ましい。ドープ不純物が酸化スズである場合の透明電極層は酸化インジウム・スズ(ITO)であり、ドープ不純物が酸化亜鉛である場合の透明電極層は酸化インジウム・亜鉛(IZO)である。透明電極層中の前記ドープ不純物の含有量は、4.5重量%〜12.5重量%であることが好ましく、5重量%〜10重量%であることがより好ましい。
【0020】
透明電極層を低抵抗かつ高透過率とする観点から、透明電極層22の膜厚は、15nm〜40nmが好ましく、20nm〜35nmがより好ましく、22nm〜32nmがさらに好ましい。
【0021】
透明電極層22は、結晶化度が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。結晶化度が前記範囲であれば、透明電極層による光吸収を小さくできるとともに、環境変化等による抵抗値の変化が抑制される。なお、結晶化度は、顕微鏡観察時において観察視野内で結晶粒が占める面積の割合から求められる。
【0022】
さらに、本発明に係る透明電極層22は、エッチング後に導電性材料が一部残ることに特徴がある。このような形状を作る為には、透明電極材料の結晶性の制御が必要であり、特に製膜初期の所謂「種結晶」が重要である。このような種結晶は周辺の透明電極材料よりもエッチングレートが遅く、これらが存在することで、エッチング後の非導電性部に導電性材料の微粒子を残すことができる。このような種結晶を形成することは、膜中の酸素量を制御することで可能となる。膜中に酸素が化学量論値に近い量含まれると、酸化インジウムでは一般的に結晶質になりやすく、このような種結晶と、その周辺の導電性材料は、配向性などの影響によりエッチングレートが異なり、結果としてエッチング後にも絶縁性薄膜上に導電性材料の微粒子が残ることとなる。
【0023】
一方で、下地層に用いる誘電体層の表面形状や化学状態によっても種結晶状態を形成することが可能である。例えば、誘電体層製膜時の酸素量を多くし、誘電体材料を過酸化状態にすることで誘電体層表面に算術平均表面粗さRa=3nm以下の凹凸を形成することができる。また、過酸化状態とすることで、その後に製膜される透明電極層に酸素を供給することができ、結果その箇所に種結晶を形成することができる。下地層を形成する材料は透明な誘電体であればどのようなものでも使用可能であるが、透明金属酸化物であることが好ましい。透明金属酸化物としては、たとえばチタンやシリコン、ジルコニウムやニオブ、ハフニウム、レニウム、アルミニウムの酸化物が挙げられるが、生産性や屈折率等の観点からシリコンの酸化物が特に好ましく用いることができる。このような透明金属酸化物は公知の種々の方法で作製することができる。たとえばスパッタリング法やゾルゲル法などがあるが、薄膜での膜厚均一性を考慮するとスパッタリング法が特に好ましい。
【0024】
透明電極層22は、抵抗率が3.5×10
-4Ω・cm以下であることが好ましい。また、結晶質透明電極層22の表面抵抗は、150Ω/□であることが好ましく、130Ω/□であることがより好ましい。透明電極層が低抵抗であれば、静電容量方式タッチパネルの応答速度向上や、有機EL照明の面内輝度の均一性向上、各種光学デバイスの省消費電力化等に寄与し得る。
【0025】
透明電極層22のキャリア密度は、4×10
20/cm
3〜9×10
20/cm
3であることが好ましく、6×10
20/cm
3〜8×10
20/cm
3であることがより好ましい。キャリア密度が上記範囲内であれば、透明電極層22を低抵抗化できる。また、本発明においては、非晶質の透明電極層を低温加熱あるいは室温で結晶化することにより、酸化スズや酸化亜鉛等のドープ不純物の含有量が比較的小さい場合でも、結晶化後の透明電極層のキャリア密度を上記範囲内に高めることができる。
【0026】
本発明の透明電極付き基板は、熱収縮開始温度が、75℃〜120℃であることが好ましく、78℃〜110℃であることがより好ましく、80℃〜100℃であることがさらに好ましい。熱収縮開始温度は、熱機器分析(TMA)により、所定の荷重および昇温速度で昇温を行った際の変位量の極大値から求めることができる。
【0027】
[透明電極付き基板の製造方法]
以下、本発明の好ましい実施の形態について、透明電極付き基板の製造方法に沿って説明する。本発明の製造方法では、透明フィルム基板上にハードコートなど透明誘電体層を備える透明フィルム基板10が用いられる(基板準備工程)。透明フィルム基板10にスパッタリング法により透明電極層が形成され(製膜工程)、その後、透明電極層が結晶化される(結晶化工程)。一般に、酸化インジウムを主成分とする非晶質の透明電極層を結晶化するためには、150℃程度の高温での加熱が必要である。
【0028】
(基板準備工程)
透明フィルム基板10を構成する透明フィルムは、少なくとも可視光領域で無色透明であり、透明電極層形成温度における耐熱性を有していれば、その材料は特に限定されない。透明フィルムの材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフテレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。中でも、ポリエステル系樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましく用いられる。
【0029】
透明フィルム10の厚みは特に限定されないが、10μm〜400μmが好ましく、50μm〜300μmがより好ましい。厚みが上記範囲内であれば、透明フィルム10が耐久性と適度な柔軟性とを有し得るため、その上に各透明誘電体層および透明電極層をロール・トゥー・ロール方式により生産性高く製膜することが可能である。
【0030】
透明フィルム10としては、二軸延伸により分子を配向させることで、ヤング率などの機械的特性や耐熱性を向上させたものが好ましく用いられる。透明電極層が製膜される前の透明フィルム基板10の150℃30分間加熱時の熱収縮率は、0.4%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。熱収縮率が方向により異なる場合(例えば、MD方向とTD方向で異なる場合)、いずれか一方向の熱収縮率が前記範囲であればよい。基板の熱収縮率が前記範囲であれば、その上に形成される非晶質透明電極層が、低温加熱あるいは室温で結晶質に転化され得る膜となりやすい。
【0031】
一般に、延伸フィルムは、延伸による歪が分子鎖に残留するため、加熱された場合に熱収縮する性質を有している。このような熱収縮を低減させるために、延伸の条件調整や延伸後の加熱によって応力を緩和し、熱収縮率を0.2%程度あるいはそれ以下に低減させるとともに、熱収縮開始温度が高められた二軸延伸フィルム(低熱収縮フィルム)が知られている。透明電極付き基板の製造工程における基板の熱収縮による不具合を抑止する観点から、このような低熱収縮フィルムを基板として用いることも提案されている。
【0032】
これに対して、本発明においては、上記のような低熱収縮処理がなされておらず、0.4%以上の熱収縮率を有する二軸延伸フィルムが好適に用いられる。本発明では、透明電極層の製膜および結晶化が低温で行われるため、熱収縮率が大きい基板が用いられた場合でも、製造工程における基板の大幅な寸法変化が抑止される。一方、基板の熱収縮率が過度に大きいと、製膜工程やその後のタッチパネル製造工程におけるフィルムのハンドリングが困難となる場合がある。そのため、透明電極層が製膜される前の透明フィルム基板10の熱収縮率は、1.5%以下が好ましく、1.2%以下がより好ましい。
【0033】
基板が0.4%以上の熱収縮率を有する場合に、透明電極層が結晶化されやすくなる理由は定かではないが、透明電極層製膜時に、基板がわずかに寸法変化することによる製膜界面での応力が、非晶質透明電極内の導電性酸化物の分子構造に摂動を与えていることが関連していると推定される。
【0034】
透明電極層が製膜される前の透明フィルム基板10は、熱収縮開始温度が、75℃〜120℃であることが好ましく、78℃〜110℃であることがより好ましい。一般に、低熱収縮処理フィルムの熱収縮開始温度は、120℃を超えるのに対して、低熱収縮処理されていない二軸延伸フィルムは、上記範囲の熱収縮開始温度を有している。
【0035】
透明フィルム10上に形成される透明誘電体層20を構成する酸化物としては、Si,Nb,Ta,Ti,Zn,ZrおよびHfからなる群から選択される1以上の元素の酸化物が好適に用いられる。中でも、酸化シリコン(SiO
2)や酸化チタン(TiO
2)のように酸素との結合が強い誘電体が好ましく、酸化シリコンが特に好ましい。
【0036】
透明誘電体層21は、その上に透明電極層22が形成される際に、透明フィルム10から水分や有機物質が揮発することを抑制するガスバリア層や、透明フィルムに対するプラズマダメージを低減する保護層として作用し得るとともに、膜成長の下地層としても作用し得る。特に、本発明においては、誘電体層が酸素ガスバリア層として機能することが、低温加熱あるいは室温での結晶化が可能な透明電極層の形成に寄与していると考えられる。透明誘電体層にこれらの機能を持たせる観点からは、透明誘電体層21の膜厚は、10nm〜100nmであることが好ましく、15nm〜75nmであることがより好ましく、20nm〜60nmであることがさらに好ましい。
【0037】
透明誘電体層21は、1層のみからなるものでもよく、2層以上からなるものであってもよい。透明誘電体層21が2層以上からなる場合、各層の厚みや屈折率を調整することにより、透明電極付き基板の透過率や反射率を調整して、表示装置の視認性を高めることができる。また、静電容量方式タッチパネル用の透明電極付き基板においては、透明電極層22の面内の一部がエッチング等によりパターニングされて用いられる。この場合、透明誘電体層の厚みや屈折率を調整することにより、電極層がエッチングされずに残存している電極形成部と、電極層がエッチングにより除去された電極非形成部との透過率差、反射率差、色差を低減して、電極パターンの視認を抑止することができる。
【0038】
透明フィルム基板10は、上記透明誘電体層21以外に、透明フィルム10の片面または両面にハードコート層等の機能性層(不図示)が形成されたものであってもよい。透明フィルム基板に適度な耐久性と柔軟性を持たせるためには、ハードコート層の厚みは3〜10μmが好ましく、3〜8μmがより好ましく、5〜8μmがさらに好ましい。ハードコート層の材料は特に制限されず、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂等を、塗布・硬化させたもの等を適宜に用いることができる。なお、ハードコート層等の機能性層が、透明フィルム10の透明電極層22形成面側に形成される場合、当該機能性層は、透明フィルム10と透明誘電体層21との間に形成されることが好ましい。
【0039】
透明フィルム基板10の透明電極層形成面側表面、すなわち透明誘電体層21表面の算術平均粗さRaは、0.4nm〜3nmが好ましく、0.5nm〜1.5nmがより好ましい。透明誘電体層21の表面形状は、透明フィルム10の表面形状にも影響されるため、一般にはRaは0.4nm以上となる。算術平均粗さRaは、走査プローブ顕微鏡を用いた非接触法により測定された表面形状(粗さ曲線)に基づいて、JIS B0601:2001(ISO1302:2002)に準拠して算出される。
【0040】
透明フィルム10上への透明誘電体層21への形成方法は、均一な薄膜が形成される方法であれば特に限定されない。製膜方法としては、スパッタリング法、蒸着法等のPVD法、各種CVD法等のドライコーティング法や、スピンコート法、ロールコート法、スプレー塗布やディッピング塗布等のウェットコーティング法が挙げられる。上記製膜方法の中でも、ナノメートルレベルの薄膜を形成しやすいという観点からドライコーティング法が好ましい。特に、光学特性を調整する等の観点から数ナノメートル単位で層厚みを制御する必要がある場合は、スパッタリング法が好ましい。透明フィルム10と透明誘電体層21との密着性を高める観点から、透明誘電体層の形成に先立って、透明フィルム10の表面に、コロナ放電処理やプラズマ処理等の表面処理が行われてもよい。
【0041】
(製膜工程)
透明フィルム基板10の透明誘電体層20上に、スパッタリング法により透明電極層22が形成される。スパッタ電源としては、DC,RF,MF電源等が使用できる。スパッタ製膜に用いられるターゲットとしては金属、金属酸化物等が用いられる。特に、酸化インジウムと酸化スズまたは酸化亜鉛を含有する酸化物ターゲットが好適に用いられる。酸化物ターゲットは、酸化インジウムを87.5重量%〜95.5重量%含有するものが好ましく、90重量%〜95重量%含有するものがより好ましい。また、酸化物ターゲットは、酸化インジウム以外に、酸化スズまたは酸化亜鉛を4.5重量%〜12.5重量%含有するものが好ましく、5重量%〜10重量%含有するものがより好ましい。
【0042】
スパッタ製膜は、製膜室内に、アルゴンや窒素等の不活性ガスおよび酸素ガスを含むキャリアガスが導入されながら行われる。導入ガスは、アルゴンと酸素の混合ガスが好ましい。混合ガスは、酸素を0.4体積%〜2.0体積%含むことが好ましく、0.7体積%〜1.5体積%含むことがより好ましい。上記体積の酸素を供給することで、透明電極層の透明性および導電性を向上させることができる。なお、混合ガスには、本発明の機能を損なわない限りにおいて、その他のガスが含まれていてもよい。製膜室内の圧力(全圧)は、0.1Pa〜1.0Paが好ましく、0.25Pa〜0.8Paがより好ましい。
【0043】
本発明において、製膜時の製膜室内の酸素分圧は、1×10
-3Pa〜5×10
-3Paであることが好ましく、2.3×10
-3Pa〜4.3×10
-3Paであることがより好ましい。上記酸素分圧範囲は、一般的なスパッタ製膜における酸素分圧よりも低い値である。すなわち、本発明においては、酸素供給量が少ない状態で製膜がおこなわれる。そのため、製膜後の非晶質膜中には、酸素欠損が多く存在していると考えられる。
【0044】
製膜時の基板温度は、透明フィルム基板が耐熱性を有する範囲であればよく、60℃以下であることが好ましい。基板温度は、−20℃〜40℃であることがより好ましく、−10℃〜20℃であることがさらに好ましい。基板温度を60℃以下とすることで、透明フィルム基板からの水分や有機物質(例えばオリゴマー成分)の揮発等が起こり難くなり、酸化インジウムの結晶化が起こりやすくなるとともに、非晶質膜が結晶化された後の結晶質透明電極層の抵抗率の上昇を抑制することができる。また、基板温度を前記範囲とすることで、透明電極層の透過率の低下や、透明フィルム基板の脆化が抑制されるとともに、製膜工程においてフィルム基板が大幅な寸法変化を生じることがない。
【0045】
透明電極層は、15nm〜40nmの膜厚で製膜されることが好ましい。製膜厚みは、20nm〜35nmがより好ましい。製膜厚みを前記範囲とすることで、透明電極層を、低温加熱あるいは室温で結晶質膜に転化され得るものとすることができる。
【0046】
本発明においては、巻取式スパッタリング装置を用いて、ロール・トゥー・ロール法により製膜が行われることが好ましい。ロール・トゥー・ロール法により製膜が行われることで、非晶質の透明電極層が形成された透明フィルム基板の長尺シートのロール状巻回体が得られる。透明フィルム10上への透明誘電体層12の形成が巻取式スパッタリング装置を用いて行われる場合、透明誘電体層20と透明電極層22とが、連続して製膜されてもよい。
【0047】
(結晶化工程)
非晶質の透明電極層が形成された基板は、結晶化工程に供される。結晶化工程では、当該基板が80〜170℃に加熱される。
【0048】
膜中に酸素を十分に取り込み、結晶化時間を短縮するためには、結晶化は大気中等の酸素含有雰囲気下で行われることが好ましい。真空中や不活性ガス雰囲気下でも結晶化は進行するが、低酸素濃度雰囲気下では、酸素雰囲気下に比べて結晶化に長時間を要する傾向がある。
【0049】
長尺シートのロール状巻回体が結晶化工程に供される場合、巻回体のままで結晶化が行われてもよく、ロール・トゥー・ロールでフィルムが搬送されながら結晶化が行われてもよく、フィルムが所定サイズに切り出されて結晶化が行われてもよい。
【0050】
巻回体のまま結晶化が行われる場合、透明電極層形成後の基板をそのまま常温・常圧環境に置くか、加熱室等で養生(静置)すればよい。ロール・トゥー・ロールで結晶化が行われる場合、基板が搬送されながら加熱炉内に導入されて加熱が行われた後、再びロール状に巻回される。なお、室温で結晶化が行われる場合も、透明電極層を酸素と接触させて結晶化を促進させる等の目的で、ロール・トゥー・ロール法が採用されてもよい。
【0051】
[透明電極付き基板の用途]
本発明の透明電極付き基板は、ディスプレイや発光素子、光電変換素子等の透明電極として用いることができ、タッチパネル用の透明電極として好適に用いられる。中でも、透明電極層が低抵抗であることから、静電容量方式タッチパネルに好ましく用いられる。
【0052】
タッチパネルの形成においては、透明電極付き基板上に、導電性インクやペーストが塗布されて、熱処理されることで、引き廻し回路用配線としての集電極が形成される。加熱処理の方法は特に限定されず、オーブンやIRヒータ等による加熱方法が挙げられる。加熱処理の温度・時間は、導電性ペーストが透明電極に付着する温度・時間を考慮して適宜に設定される。例えば、オーブンによる加熱であれば120〜150℃で30〜60分、IRヒータによる加熱であれば150℃で5分等の例が挙げられる。なお、引き廻し回路用配線の形成方法は、上記に限定されず、ドライコーティング法によって形成されてもよい。また、フォトリソグラフィによって引き廻し回路用配線が形成されることで、配線の細線化が可能である。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
各透明誘電体層および透明電極層の膜厚は、透明電極付き基板の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)観察により求めた値を使用した。透明電極層の表面抵抗は、低抵抗率計ロレスタGP(MCP‐T710、三菱化学社製)を用いて四探針圧接測定により測定した。
【0055】
パターニング面の表面形状および表面粗さは、走査型プローブ顕微鏡システム(NanoNaviReal、SIIナノテクノロジー製)を用いた。
【0056】
[実施例1]
(透明フィルム基板の作製)
透明フィルムとして、ウレタン系樹脂からなるハードコート層が両面に形成された厚み188μmの2軸延伸PETフィルム(熱収縮開始温度85℃、150℃30分加熱時の熱収縮率0.6%)が用いられた。このPETフィルムの一方の面上に、スパッタリング法により、シリコン酸化物(SiO
2)からなる膜厚40nmの透明誘電体層が形成された。シリコン酸化物の組成をX線光電子分光法(XPS)で分析した結果、Si:Oの比は1.0:2.0となった。
【0057】
(非晶質透明電極層の製膜)
酸化インジウム・スズ(酸化スズ含量5重量%)をターゲットとして用い、酸素とアルゴンの混合ガスを装置内に導入しながら、酸素分圧10×10
-3Pa、製膜室内圧力0.5Pa、基板温度0℃、パワー密度4W/cm
2の条件で、3nm製膜の膜厚となるよう製膜し、続けて酸素分圧5×10
-3Pa、製膜室内圧力0.5Pa、基板温度0℃、パワー密度4W/cm
2の条件で、スパッタリングが行われた。得られたITO層の膜厚は25nmであった。
【0058】
(結晶化)
この透明電極付き基板を、150℃で1時間静置後の抵抗率は3.2×10
-4Ω・cm、表面抵抗は128Ω/□、キャリア密度は6.3×10
20/cm
3であり、顕微鏡観察によってほぼ完全に結晶化されていることが確認された(結晶化度100%)。
【0059】
(パターニング)
結晶化済みの透明電極付き基板に、ポジ型フォトレジスト(品名:TSMR−8900 東京応化製)をスピンコート法により5μmの厚みで塗布した。これを90℃に設定したホットプレート上でプリベークし、トータル78mJの照射量となるように露光した。この後、0.5重量%濃度水酸化ナトリウム水溶液に浸漬することで現像を行った。純水でリンスを行った後、エッチング液(品名:ITO−02 関東化学製)を用いてITOのエッチングを行った。純水でリンスを行った後、2重量%濃度水酸化ナトリウム水溶液でレジストの剥離を行い、純水でリンスし、乾燥した。
【0060】
(付着力評価)
付着力の評価には、上記条件で透明電極付き基板の全面をエッチングしたものを用いた。すなわち、上記パターニング工程の「エッチング」以降のみを実施したものを用いた。OCA(品名:8146−2 3M製)を挟んでラミネートした。
【0061】
ラミネートしたフィルムを1kgの荷重を両側から引張り、剥れの有無から付着強度を判定した。結果、フィルムの剥離は発生しなかった。
【0062】
[実施例2]
シリコン酸化物層の製膜条件を、実施例1より酸素過剰の状態で製膜し、XPS測定でSi:O比が1.0:2.2となるようにして40nmのシリコン酸化物層を形成した。その上に実施例1と同様にして透明電極層の形成〜付着力確認を実施した。結果、フィルムの剥離は発生しなかった。
【0063】
[実施例3]
シリコン酸化物層の製膜条件を実施例2と同様にし、その上に透明電極層(5%ドーピングITO)を酸素分圧5×10
-3Pa、製膜室内圧力0.5Pa、基板温度0℃、パワー密度4W/cm
2の条件で製膜した。ITOの膜厚は25nmとした。以降の付着力評価までは実施例1と同様に実施した。結果、フィルムの剥離は発生しなかった。
【0064】
[比較例1]
シリコン酸化物層の製膜条件を実施例1と同様に、さらにその上の透明電極層の製膜条件を実施例3と同様にして透明電極付き基板を形成した。付着力評価まで実施した結果、フィルムはOCAから剥離した。
【0065】
上記各実施例および比較例の非導電性部の性状および付着力評価結果の一覧を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例、比較例の結果より、パターニング後の非導電性部に導電性微粒子が存在することで、OCAの付着強度が大きく向上することがわかった。比較例1の剥離は、非導電性部から発生していたことから、本発明の効果は明確である。
【0068】
また、本発明に必要な導電性微粒子を形成する為には、透明電極層の製膜条件だけでなく、誘電体下地層の製膜条件からも制御可能であることがわかった。例えば、透明電極層形成時には、酸素分圧を高くすることで、透明電極層の結晶化しやすさを促進することが可能となる。このため、膜厚方向で結晶性が異なり、パターニング後も導電性微粒子を残すことができる。一方、誘電体下地層の形成時には、膜中の酸素量を多くすることで、透明電極形成時に、その界面から透明電極側に酸素を注入することが可能となり、結果として透明電極の局所的な結晶性の制御に寄与することができる。
【0069】
本発明は、上述のように、透明フィルム基板上に少なくとも一層の絶縁性薄膜と導電性微粒子からなる透明電極層とを順にスパッタリング法にて製膜し、透明電極層にパターンを形成し、そのパターン形状の非導電性部における導電性微粒子数を一定範囲に規定したものであって、これにより、ガラス基板などの硬質材料ではなく、透明フィルムという可撓性材料の上に薄膜である透明誘電体層(絶縁性薄膜)を設けた場合であっても、透明電極層中の導電性微粒子が、OCAと透明誘電体層及び透明フィルム基板との間の接着力をアンカー効果などによって担保することができ、配線材料や粘着部材への付着強度を維持できるようにしたものである。