(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
トンネル内で火災が発生すると、人的被害を避けるため、燃焼ガスや煙等がトンネル内に充満するのを回避する必要がある。そして、これら燃焼ガスや煙等を速やかにトンネル外に排出するため、トンネルには換気扇等の換気機構が設置される場合がある。
【0003】
例えば道路トンネルの場合、トンネル内を走行する自動車車両の断面積がトンネルの短手方向の断面積に比べて小さいため、トンネル内に余剰な空間が存在しており、換気機構を設置する場所の自由度は高い。このため、特許文献1に記載されているように換気機構はトンネルの種々の場所に設置され得るが、一般的には換気機構は例えばトンネル内の天井付近に設置されることが多い。
【0004】
一方、例えば鉄道トンネルにおいても、特許文献2に記載されているとおりトンネル内の天井付近に換気機構を設置することが提案されている。しかしながら、トンネル内を走行する鉄道車両の断面積はトンネルの断面積に近い大きさであるため、トンネル内に換気機構等を設置する余剰空間がほとんどない。そこで青函トンネルや欧州の長大トンネルでは、トンネルに換気用の立坑を設け、当該立坑内に換気機構を設置している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現状の鉄道トンネルの多くはこのような換気機構を有していない。このような換気機構を追加で設置するためには、トンネル断面を拡幅するか、或いは立坑を新規で掘削する等を行うことが考えられるが、いずれの場合でもさらに多大な設備費用がかかる。さらに言えば、換気機構を設けるだけでも設備費用がかかり、またその換気機構のメンテナンス費用もかかる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、簡易な構成の設備を用いて火災時のトンネル内の気流を適切に制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明は、トンネル内での火災時に当該トンネル内の気流を制御する気流制御設備であって、トンネルを短手方向に見た側面視においてトンネル上部の内側面から内側に突出し、且つトンネル内を長手方向に延伸して設けられ、トンネル内の上部において下方に向かう気流を抑制する一対の気流制御板と、トンネル両側の坑口において前記各気流制御板と一体に設けられ、当該坑口から上方に傾斜して突出する突出板と、
平常時にトンネルの内側面から突出させないように前記気流制御板を移動させ、火災時にトンネルの内側面から突出させるように前記気流制御板を移動させる移動機構と、を有することを特徴としている。なお、本発明において気流制御板が設けられるトンネル上部とは、少なくともトンネル内の人よりも高い位置をいう。
【0009】
ここで、トンネル内で火災が発生すると、火災によって生じた燃焼ガスや煙等を含む雰囲気(以下、「汚染空気」と称する場合がある。)は上昇してトンネルの坑口に向かって流れる。
図7に示すように汚染空気は、トンネル100の坑口に向かう途中で冷却され降下する場合がある(
図7中の実線矢印)。かかる場合、冷却された汚染空気はトンネル100の内側面101に沿って降下することが分かっている。この
図7のように冷却空気が降下することは、例えば「國兼他、トンネル火災時の煙の降下現象、日本火災学会研究発表会概要集、2003」に記載されている。また
図8に示すように汚染空気(
図8中の実線矢印)は、トンネル100の坑口102において外部から流入する空気(
図8中の点線矢印)に巻き込まれる。そうすると、汚染空気は降下してトンネル100内に再流入する場合がある。この
図8のように汚染空気がトンネル100内に再流入することは、例えば「能美トンネル燃焼試験グループ、トンネル内列車火災の模型試験、鉄道技研報速報、No.80−17、1980」に記載されている。
【0010】
本発明の気流制御設備によれば、気流制御板がトンネル上部の内側面から内側に突出しているので、
図7に示したように汚染空気がトンネル内で降下する場合でも、気流制御板によって汚染空気の降下を抑制することができる。そして、気流制御板がトンネル内を長手方向に延伸しているので、汚染空気は気流制御板に沿ってトンネルの坑口に流れ、トンネル内での汚染空気の降下を抑制することができる。また、気流制御板と一体に設けられた突出板がトンネルの坑口から上方に傾斜して突出して設けられているので、気流制御板に沿ってトンネル内から流れてきた汚染空気は上方に排出される。このため、
図8に示したように坑口の外部から内部に流入する空気に汚染空気が巻き込まれるのを抑制でき、坑口における汚染空気の降下を抑制することができる。このように本発明によれば、火災時のトンネル内の気流を適切に制御することができる。そしてこのようにトンネル内の汚染空気が降下しないので、当該トンネル内の人を適切に避難させることができる。
【0011】
しかも、本発明の気流制御設備は気流制御板と突出板を有していればよく、大掛かりな換気機構を設ける必要がないため、気流制御設備の設置費用と保守費用を低廉化することができる。
【0012】
さらにトンネル内の余剰空間が小さい狭小トンネルにも本発明の気流制御設備を設けることができ、本発明は特に狭小トンネルに対して有用である。
【0013】
前記気流制御板は、トンネルを短手方向に見た側面視においてトンネルの内側面から上方に傾斜していてもよい。
【0015】
また前記気流制御設備は、トンネル内の火災を検知する火災検知器と、前記火災検知器による火災の検知に基づいて、前記気流制御板をトンネルの内側面から突出させるように前記移動機構を制御する制御部と、をさらに有していてもよい。
【0016】
前記気流制御板と前記突出板は、既存のトンネルに設置されてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易な構成の設備を用いて火災時のトンネル内の気流を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施の形態にかかる気流制御設備と、当該気流制御設備が設置されたトンネルとの断面図である。
【
図2】
図1に示した気流制御設備のA−A断面図である。
【
図3】トンネル内での火災時に気流制御設備によって当該トンネル内の気流が制御される様子を示す、トンネルを短手方向に見た説明図である。
【
図4】トンネル内での火災時に気流制御設備によって当該トンネル内の気流が制御される様子を示す、トンネルを長手方向に見た説明図である。
【
図5】他の実施の形態にかかる気流制御設備の断面図である。
【
図6】他の実施の形態にかかる気流制御設備の断面図である。
【
図7】従来のトンネルで火災が発生した際の当該トンネル内の気流を示す説明図である。
【
図8】従来のトンネルで火災が発生した際の当該トンネルの坑口付近の気流を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
本実施の形態では、
図1に示すように列車1が走行するためのトンネル10に設けられる気流制御設備20について説明する。より具体的には、気流制御設備20は、トンネル10内で火災が発生した際に当該トンネル10内の気流を制御する。なお
図1の例では、列車1として1両の鉄道車両しか図示されていないが、実際には複数の鉄道車両が連結されている。
【0021】
本実施の形態の気流制御設備20は、気流制御板21と突出板22を有している。これら気流制御板21と突出板22の材質は限定されるものではないが、耐熱性の高い安価な材料、例えば鉄が用いられる。
【0022】
気流制御板21は、
図1に示すようにトンネル10の一の坑口11から他の坑口11までトンネル10内を長手方向(
図1中のX方向)に延伸して設けられている。また気流制御板21は、
図2に示すようにトンネル10を短手方向に見た側面視において、トンネル10の上部の内側面12から内側且つ水平方向(
図2中のY方向)に突出して設けられている。気流制御板21は、対向する内側面12、12からそれぞれ突出し、一対に設けられている。
【0023】
なお気流制御板21は、トンネル10内を走行する列車1と接触しない位置に設けられる。また気流制御板21が設置されるトンネル10の上部は特に限定されるものではないが、少なくともトンネル10内の人よりも高い位置、例えば2m以上の位置をいう。
【0024】
突出板22は、
図1に示すようにトンネル10の両側の坑口11、11において、当該坑口11から上方に傾斜して突出している。また突出板22は気流制御板21と一体に設けられ、上記を換言すれば気流制御板21から上方に傾斜して突出している。そして突出板22は、トンネル10の両側の坑口11、11においてそれぞれ一対に設けられている。
【0025】
本実施の形態にかかる気流制御設備20は以上のように構成されている。次にこの気流制御設備20によって、トンネル10内で火災が発生した際に当該トンネル10内の気流が制御される作用及びその効果について説明する。
【0026】
図3に示すようにトンネル10内で火災が発生すると、火災によって生じた燃焼ガスや煙等を含む雰囲気(以下、「汚染空気」と称する場合がある。)は熱せられており上昇する(
図3中の矢印)。そしてトンネル10の上部に上昇した汚染空気は、内側面12に沿って流れ、気流制御板21上に留まる。この汚染空気は、気流制御板21によって下方に降下するのが抑制される。このとき、
図7に示したように汚染空気が冷却されてトンネル10の内側面12に沿って下降する場合であっても、気流制御板20によって汚染空気の降下を抑制することができる。
【0027】
トンネル10の上部の汚染空気は、
図4に示すようにトンネル10の長手方向に延伸する気流制御板21に沿ってトンネル10の坑口11に流れる(
図4中の矢印)。そうするとトンネル10内の全長に亘って、汚染空気の降下が抑制される。そして坑口11においてトンネル10から排出される汚染空気は、突出板21に沿って上方に排出される。このように汚染空気が上方に排出されるので、
図8に示したように汚染空気が坑口11の外部から流入する空気に巻き込まれるのを抑制することができ、坑口11において汚染空気が降下してトンネル10内に再流入するのを抑制することができる。
【0028】
このようにトンネル10内で火災が発生しても、気流制御設備20によって汚染空気がトンネル10内で降下するのが抑制され、また坑口11において汚染空気が再流入するのが抑制され、火災時のトンネル10内の気流を適切に制御することができる。そして、トンネル10内の人が一酸化炭素等の有毒ガスや煙に巻き込まれることがなく、トンネル10からの人の避難を適切に行うことができる。なお人の避難は、例えばトンネル10に設置された誘導灯(図示せず)によって坑口11に向かう避難経路を示すことで行われる。
【0029】
また本実施の形態において図示したように、トンネル10が例えば単線用でトンネル10内の余剰空間が小さい狭小トンネルの場合であっても、気流制御設備20では気流制御板21をトンネル10の上部に設置することができる。したがって、このような狭小トンネルに対して、気流制御設備20は特に有用である。
【0030】
しかも、気流制御設備20は気流制御板21と突出板22を有していればよく、例えば既存のトンネル10に別途設置することができる。この際、大掛かりな換気機構を設ける必要がなく、さらにこの換気機構を設けるために例えばトンネル断面を拡幅したり、或いは立坑を新規で掘削する等の大規模な工事を行う必要が無いので、気流制御設備20の設置費用と保守費用を低廉化することができる。
【0031】
以上の実施の形態の気流制御設備20において、
図5に示すように気流制御板21は、トンネル10を短手方向に見た側面視において、トンネル10の内側面12から上方に傾斜していてもよい。
【0032】
かかる場合、トンネル10内で火災が発生すると、火災によって生じた燃焼ガスや煙等を含む汚染空気は熱せられており上昇する(
図5中の矢印)。そしてトンネル10の上部に上昇した汚染空気は、気流制御板21によって下方に降下するのが抑制され、気流制御板21上に留まる。このとき、気流制御板21がトンネル10の内側面12から上方に傾斜しているので、汚染空気が気流制御板21上から流出して降下するのをより確実に防止することができる。したがって、火災時のトンネル10内の気流をより適切に制御することができる。
【0033】
以上の実施の形態の気流制御設備20は、
図6に示すように気流制御板21を移動させる移動機構30を有していてもよい。移動機構30は、例えばモータなどを備えた駆動部(図示せず)を内蔵しており、或いは単に移動を防止するストッパ(図示せず)を内蔵している。そして気流制御板21は、内側面12側の端部を中心に移動機構30によって回動自在になっている。
【0034】
気流制御板21は、平常時にトンネル10の内側面12から突出しない位置、すなわち内側面12に沿った位置に配置される(
図6中の点線)。また気流制御板21は、火災時にトンネル10の内側面12から突出する位置、すなわち内側面21から水平方向(
図6中のY方向)に延伸する位置に配置される(
図6中の実線)。
【0035】
トンネル10の内部には、トンネル10内の火災を検知する火災検知器31が設けられている。火災検知器31は、例えばトンネル10の長手方向に等間隔に複数配置されている。なお火災検知器31は、火災を検知するものであれば種々の形態を取り得る。
【0036】
気流制御設備20は、移動機構30を制御する制御部40を有している。制御部40は、火災検知器31による火災の検知に基づいて、移動機構30を制御する。
【0037】
制御部40は、例えばコンピュータであり、プログラム格納部(図示せず)を有している。プログラム格納部には、気流制御設備20の移動機構30を制御するプログラムが格納されている。なお、移動機構30及び火災検知器31と、制御部40との信号の送受信は有線を介して行ってもよいし、無線で行ってもよい。
【0038】
かかる場合、火災が発生すると、火災検知器31によって当該火災が検知される。制御部40は、火災検知器31の検知に基づいて、気流制御板21がトンネル10の内側面12から突出するように移動機構30を制御する。そうすると、気流制御板21によって汚染空気がトンネル10内で降下するのが抑制されるので、火災時のトンネル10内の気流を適切に制御することができる。
【0039】
また気流制御設備20は火災検知器31を有しているので、火災の発生を確実に把握することができ、トンネル10内の気流の制御をより適切に行うことができる。
【0040】
なお本実施の形態では、平常時に気流制御板21をトンネル10の内側面12に沿った位置に配置していたが、気流制御板21は内側面12から突出しない位置であれば任意の位置に配置してもよい。或いは、例えば移動機構30の内部や別途設けられた収容容器(図示せず)に気流制御板21を収容するようにしてもよい。
【0041】
また気流制御板21は、火災時に内側面21から水平方向に延伸して配置されていたが、
図5に示したようにトンネル10の内側面12から上方に傾斜していてもよい。
【0042】
また移動機構30はモータやストッパを内蔵した構成を有していたが、気流制御板21を移動させる構成であれば任意の構成を取り得る。例えば移動機構30が形状記憶合金からなる駆動部(図示せず)を有し、火災時における熱により駆動部が熔けることによって気流制御板21を移動させてもよい。
【0043】
さらに火災検知器31はトンネル10の長手方向に複数設けられていたが、これら火災検知器31はトンネル10の任意の位置に設置できる。或いは火災検知器31は、トンネル10内を走行する列車1に設けてもよい。
【0044】
以上の実施の形態では、トンネル10は単線用のトンネルであり、火災時に当該トンネル10内に1つの列車1が残された場合について説明したが、本実施の形態の気流制御設備20は複線用のトンネルにも適用できる。このように複線用のトンネル10に対しても、当該トンネル10に気流制御設備20を設置することにより、上記実施の形態と同様の効果を享受することができる。
【0045】
以上の実施の形態では、トンネル10が鉄道トンネルである場合について説明したが、本実施の形態の気流制御設備20は、例えば道路トンネルや洞道等、他のトンネルにも適用できる。
【0046】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。