特許第5951573号(P5951573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5951573
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】シート供給装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 3/06 20060101AFI20160630BHJP
   B65H 1/14 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   B65H3/06 350A
   B65H1/14 310Z
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-201887(P2013-201887)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2015-67397(P2015-67397A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2015年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】小林 優也
(72)【発明者】
【氏名】寺本 英之
(72)【発明者】
【氏名】望月 将行
【審査官】 西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−116099(JP,A)
【文献】 特開2003−276874(JP,A)
【文献】 特開2013−155017(JP,A)
【文献】 特開2008−127116(JP,A)
【文献】 特開2007−022738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 1/00− 3/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの載置面に昇降可能に取り付けられた、可撓性を有する材質からなる昇降板と、
前記昇降板を昇降駆動する駆動部と、
前記昇降板の上方に設けられ、前記昇降板上に載置されたシートの上面に当接して当該シートを送り出すピックアップローラと、
前記ピックアップローラの下流側で、前記ピックアップローラにより送り出されたシートの到達を検知するセンサと、
前記ピックアップローラの駆動タイミングと前記センサのシート検知タイミングとに基づいて、ピックアップローラによるシート送り出し異常を検知する異常検知部と、
前記昇降板上に載置されているシートの量に応じて、前記異常検知部の異常検知条件を補正する異常検知条件補正部と、
を備えるシート供給装置。
【請求項2】
前記異常検知条件補正部は、前記ピックアップローラの使用程度に応じて、前記異常検知部の異常検知条件を補正する請求項1に記載のシート供給装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のシート供給装置を備える画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙等のシートを供給するシート供給装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シート供給装置は、複写機やファクシミリ、スキャナ、複合機等の画像形成装置に広く採用されている。例えば、シート供給装置を用いて原稿画像が転写される用紙等のシートを一枚ずつ自動的に画像形成位置に搬送することで、画像形成装置は各画像を連続的に印刷することができる。
【0003】
シート供給装置は、トレイに積載された複数枚のシートを一枚ずつ送り出すため、シート束をピックアップローラに当接させる。シート束の厚みはトレイに積載されているシートの枚数に応じて変わるので、ピックアップローラに対してシート束を常に適切に当接させるにはシート載置面とピックアップローラとの距離をシート束の厚みに応じて調整する必要がある。この調整に、シートの載置面に昇降可能に取り付けた昇降板(リフト板)を用いることができる。このようなシート供給装置は、昇降板により昇降板上のシート束を押し上げ、シート束をピックアップローラに当接させる。ピックアップローラは当接したシートを送り出す(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0004】
このようなシート供給装置において、安定した給紙を実現するための種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1は、リフト板を上昇させるリフト部材として捩りばねを採用し、用紙残量に応じて捩りばねの弾性変形を調整することで、リフト板を押し上げる力を可変とした構成を開示している。この構成では、満載時から最終紙時までの積載重量の変化に応じてほぼ均一な給紙圧(シート束をピックアップローラに押し付ける力)を発生できるとしている。
【0005】
また、特許文献2は、リフト板を上昇させるリフト部材として複数の弾性部材を使用する構成を開示している。この構成では、線形の弾性力を発生する弾性部材と、非線形の弾性力を発生する弾性部材を使用することにより、リフト板を押し上げる力を可変としている。
【0006】
さらに、特許文献3は、給紙されたシートが、用紙到達検知位置に到達するまでの時間が長かった場合、給紙圧を高めて搬送スリップを抑制する構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−327736号公報
【特許文献2】特開2006−298616号公報
【特許文献3】特開2007−022738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プリンタ等の画像形成装置において画像形成速度(印刷速度)の向上が要求され続けている。そのため、シート供給装置においても用紙供給速度を向上させる必要があり、ピックアップローラの回転速度(線速)も速められている。ピックアップローラの回転速度を速めた場合、ピックアップローラが回転を開始するときに、ピックアップローラと最上位のシートとの間に発生する摩擦力も大きくなる傾向にある。
【0009】
一方、画像形成装置においても低価格化の要求があり、その要求に応えるために、画像形成装置を構成する部材のコストダウンが検討されている。コストダウンの一環として、金属製の部材をプラスチック等の樹脂製部材に置き換えることが検討されている。例えば、シート供給装置では、昇降板に樹脂製部材を採用することが考えられる。
【0010】
しかしながら、上述のようなピックアップローラの線速が大きいシート供給装置の昇降板に樹脂製部材を採用した場合、上述の摩擦力により昇降板が反ってしまう。このように昇降板に反りが発生すると、シート束をピックアップローラへ押し付ける力が低下する。その結果、給紙圧が低下し、シートを適切に送り出すことができなくなる。すなわち、ピックアップローラの駆動開始からシートの送出が完了するまでに要する時間が長くなる。また、昇降板に反りが発生し、シート束をピックアップローラへ押し付ける力が低下した結果、昇降板の上昇が必要と判断された場合には、昇降板の上昇のための時間も必要になる。この場合、ピックアップローラの駆動開始からシートの送出が完了するまでに要する時間はさらに長くなる。
【0011】
シート供給装置では、シートの搬出が正常に実施されたか否かを判断するために、ピックアップローラの下流側にセンサが配置され、ピックアップローラの駆動開始から、当該センサにピックアップローラにより送り出されたシートが到達するまでの時間が計測される。そして、その時間が予め指定された上限時間よりも長い場合、シート搬送異常(JAM)と判定される。上述のような、高線速のシート供給装置では、当該上限時間として短い時間が設定される傾向にある。そのため、上述の昇降板の反りに起因してシート搬出時間が増大すると、シート搬送異常の検知(誤検知)が頻発することになる。
【0012】
このような不具合は昇降板の反りに起因しているため、上述の特許文献1、2が開示するような給紙圧を一定に保つ技術や、特許文献3が開示するような給紙圧を増大させる技術を適用しても解消することはできない。
【0013】
本発明は、このような従来の実情を鑑みてなされたものであり、生産性の低下を抑制しつつ、シート搬送異常の誤検知の発生を防止することができる、シート供給装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するために、本発明は以下の技術的手段を採用している。すなわち、本発明に係るシート供給装置は、昇降板、駆動部、ピックアップローラ、センサ、異常検知部及び異常検知条件補正部を備える。昇降板は、可撓性を有する材質からなり、シートの載置面に昇降可能に取り付けられる。駆動部は、昇降板を昇降駆動する。ピックアップローラは、昇降板の上方に設けられ、昇降板上に載置されたシートの上面に当接して当該シートを送り出す。センサは、ピックアップローラの下流側で、ピックアップローラにより送り出されたシートの到達を検知する。異常検知部は、ピックアップローラの駆動タイミングとセンサのシート検知タイミングとに基づいて、ピックアップローラによるシート送り出し異常を検知する。異常検知条件補正部は、昇降板上に載置されているシートの量に応じて、異常検知部の異常検知条件を補正する。
【0015】
この構成では、昇降板上に載置されているシートの量に応じて、異常検知部の異常検知条件が補正される。すなわち、昇降板に反りが発生している状況下では、反りに起因して増大する搬送時間に応じて、異常検知期間が延長又は移動される。その結果、異常検知を誤検知のない状態で実施できるとともに、昇降板に反りが発生しない状況下での生産性の低下を抑制することができる。
【0016】
上記シート供給装置において、異常検知条件補正部は、ピックアップローラの使用程度に応じて、異常検知部の異常検知条件を補正する構成を採用することができる。
【0017】
一方、他の観点では、本発明は上述のシート供給装置を備えた画像形成装置を提供することもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生産性の低下を抑制しつつ、シート搬送異常の誤検知の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態における複合機の全体構成を示す概略構成図
図2】本発明の一実施形態における複合機が備える用紙供給装置を示す模式図
図3】本発明の一実施形態における複合機が備える昇降板の反りの発生要因を示す模式図
図4】本発明の一実施形態における複合機のハードウェア構成を示す図
図5】本発明の一実施形態における複合機を示す機能ブロック図
図6】本発明の一実施形態における遅延時間の一例を示す図
図7】本発明の一実施形態における異常検知の一例を示す図
図8】本発明の一実施形態における複合機が実施する異常検知手順の一例を示すフロー図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながらより詳細に説明する。以下では、用紙供給装置を備えるデジタル複合機として本発明を具体化する。
【0021】
図1は本実施形態におけるデジタル複合機の全体構成の一例を示す概略構成図である。図1に示すように、複合機100は、画像読取部120及び画像形成部140を含む本体101と、本体101の上方に取り付けられたプラテンカバー102とを備える。本体101の上面には原稿台103が設けられており、原稿台103はプラテンカバー102によって開閉されるようになっている。また、プラテンカバー102は、原稿搬送装置110を備えている。なお、複合機100の前面には、ユーザが複合機100に複写開始やその他の指示を与えたり、複合機100の状態や設定を確認したりすることができる操作パネル171が設けられている。
【0022】
原稿台103の下方には、画像読取部120が設けられている。画像読取部120は、走査光学系121により原稿の画像を読み取りその画像のデジタルデータ(画像データ)を生成する。原稿は、原稿台103や原稿搬送装置110に載置することができる。走査光学系121は、第1キャリッジ122や第2キャリッジ123、集光レンズ124を備える。第1キャリッジ122には線状の光源131及びミラー132が設けられ、第2キャリッジ123にはミラー133及び134が設けられている。光源131は原稿を照明する。ミラー132、133、134は、原稿からの反射光を集光レンズ124に導き、集光レンズ124はその光像をラインイメージセンサ125の受光面に結像する。
【0023】
この走査光学系121において、第1キャリッジ122及び第2キャリッジ123は、副走査方向135に往復動可能に設けられている。第1キャリッジ122及び第2キャリッジ123を副走査方向135に移動することによって、原稿台103に載置された原稿の画像をイメージセンサ125で読み取ることができる。原稿搬送装置110にセットされた原稿の画像を読み取る場合、画像読取部120は、第1キャリッジ122及び第2キャリッジ123を画像読取位置に合わせて一時的に固定し、画像読取位置を通過する原稿の画像をイメージセンサ125で読み取る。イメージセンサ125は、受光面に入射した光像から、例えば、R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の各色に対応する原稿の画像データを生成する。生成された画像データは、画像形成部140において用紙に印刷することができる。また、ネットワークインタフェイス161によりネットワーク162を通じて他の機器(図示せず)へ送信することもできる。
【0024】
画像形成部140は、画像読取部120で得た画像データや、ネットワーク162に接続された他の機器から受信した画像データを用紙に印刷する。画像形成部140は、感光体ドラム141を備える。感光体ドラム141は一定速度で一方向に回転する。感光体ドラム141の周囲には、回転方向の上流側から順に、帯電器142、露光器143、現像器144、中間転写ベルト145が配置されている。帯電器142は、感光体ドラム141表面を一様に帯電させる。露光器143は、一様に帯電した感光体ドラム141の表面に、画像データに応じて光を照射し、感光体ドラム141上に静電潜像を形成する。現像器144は、その静電潜像にトナーを付着させ、感光体ドラム141上にトナー像を形成する。中間転写ベルト145は、感光体ドラム141上のトナー像を用紙に転写する。画像データがカラー画像である場合、中間転写ベルト145は、各色のトナー像を同一の用紙に転写する。なお、RGB形式のカラー画像は、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)形式の画像データに変換され、各色の画像データが露光器143に入力される。
【0025】
画像形成部140は、手差しトレイ151、用紙供給装置(シート供給装置)152、153等から、中間転写ベルト145と転写ローラ146との間の転写部に用紙を給送する。手差しトレイ151や各用紙供給装置152、153には、様々なサイズの用紙を載置又は収容することができる。画像形成部140は、ユーザの指定した用紙や、自動検知した原稿のサイズに応じた用紙を選択し、選択した用紙をピックアップローラ154により手差しトレイ151や用紙供給装置152、153から給紙する。給紙された用紙は搬送ローラ155、156やレジストローラ157で転写部に搬送される。トナー像が転写された用紙は、搬送ベルト147により定着器148に搬送される。定着器148は、ヒータを内蔵した定着ローラ158及び加圧ローラ159を有しており、熱と押圧力によってトナー像を用紙に定着する。画像形成部140は、定着器148を通過した用紙を排紙トレイ149へ排紙する。なお、レジストローラ157の上流側近傍には、用紙供給装置152、153等から給紙された用紙の到達を検知するセンサ160が配置されている。センサ160は、発光部及び受光部が一方面に配置された反射型フォトセンサ(フォトリフレクタ)や発光部と受光部とが対向して配置された透過型フォトセンサ(フォトインタラプタ)等の非接触型センサやマイクロスイッチ等の接触型センサを使用して構成することもできる。
【0026】
以下、用紙供給装置152に基づいて、用紙供給装置152、153の構成について説明する。用紙供給装置152は、その内部に用紙P(適宜、用紙束という。)を収容可能であり、当該用紙束は用紙供給装置152に設けられた昇降可能な昇降板に積載される。図2は、用紙供給装置152を示す図である。図2(a)は、用紙供給装置152の用紙搭載部(カセット部)の概略平面図であり、図2(b)は、用紙供給装置152の昇降板の昇降機構(駆動部)を示す模式図である。また、図2(c)は、用紙束Pが搭載された用紙供給装置152のピックアップローラ154近傍の拡大図である。
【0027】
図2(a)に示すように、用紙束Pが載置される昇降板201は、用紙供給装置152内において、用紙搬出側の底部(シート載置面)に配置される。すなわち、昇降板201の用紙搬出側端部201aが、用紙供給装置152の用紙搬出側端部152aに近接する状態に配置される。昇降板201は、用紙供給装置152の幅方向(用紙搬送方向と垂直な方向)の全体にわたって配置される。また、用紙供給装置152の長さ方向(用紙搬送方向)は、用紙供給装置152の底部のピックアップローラ154側から所定距離(例えば、長さ方向全体の2/3程度)にわたって配置される。
【0028】
用紙供給装置152は、昇降板201上に載置された用紙Pの移動を禁止する可動式の用紙ガイド211を備える。図2(a)の例では、用紙ガイド211は、用紙供給装置152の幅方向に沿って移動可能に配置された一対の用紙ガイド211aと、用紙供給装置152の用紙搬出側端部152aと対向し、用紙供給装置152の長さ方向に沿って移動可能に配置された用紙ガイド211bにより構成される。昇降板201は、搭載可能な用紙サイズに応じて用紙ガイド211を移動させる際に干渉することがないように、用紙ガイド211の移動可能範囲と対応する切欠きを備える。昇降板201は、可撓性を有する材質により構成される。特に限定されないが、本実施形態では、昇降板201はプラスチック樹脂により構成されている。
【0029】
図2(a)、図2(b)に示すように、昇降板201の用紙搬出側端部201aは、昇降可能な遊動端になっている(以下、遊動端201aという。)。当該用紙搬出側端部201aと対向する端部201bは支持端になっている(以下、支持端201bという。)。支持端201bは、用紙供給装置152の底面に配置された、用紙供給装置152の幅方向に沿う回転軸202に支持されている。昇降板201の昇降は、昇降板201の下方に、昇降板201と一端が当接する状態で配置された、昇降板上昇軸(駆動部)203により実現される。ここでは、昇降板上昇軸203は、用紙供給装置152の幅方向の中央に配置されている。昇降板上昇軸203の他端は用紙供給装置152の底面に配置された、用紙供給装置152の幅方向に沿う回転軸204に支持されている。昇降板上昇軸203は、回転軸204の図2(b)に示す矢印方向の回転に伴って用紙供給装置152の底部に対して起立する。これにより、昇降板201の遊動端201aが上昇する。なお、回転軸204の駆動機構には、任意の公知の構成を使用することができる。例えば、回転軸204を用紙供給装置152の一側面に配置したギア群205と接続する構成を採用することができる。この構成では、複合機100に用紙供給装置152を装着したときに、ギア群205が複合機100側のモータの回転軸に連結されたギアと噛み合う。その結果、複合機100側のモータの回転軸の回転力を回転軸204へ伝達することができる。
【0030】
以上の構成では、図2(c)に示すように、昇降板201上に搭載された用紙束Pは、昇降板上昇軸203の回転に伴って上昇し、最上位の用紙がピックアップローラ154に当接する。ピックアップローラ154は上下方向に遊動可能に支持されており、用紙束Pとの当接により上方に移動する。この上方移動を光センサ等のセンサ214により検知することでピックアップローラ154と用紙との当接を検知することができる。最上位の用紙がピックアップローラ154に当接すると、昇降板上昇軸203の回転が停止される。このとき、上述のモータをロック状態にすることで昇降板201の位置が固定される。当該状態でピックアップローラ154は、当接した用紙を下流側へ送り出す。
【0031】
図2(c)に示すように、ピックアップローラ154の下流側には、給送ローラ212及び分離ローラ213からなる搬送ローラ155が配置されており、引き出された用紙が二以上あっても、それらの用紙から一枚目の用紙を給送ローラ212及び分離ローラ213が分離して下流側へ搬送する。
【0032】
上述のように、ピックアップローラ154の線速が大きく、かつ昇降板201が可撓性を有する場合、昇降板201に反りが発生する。図3は、昇降板201の反りの発生要因を示す模式図である。
【0033】
図3(a)に示すように、最上位の用紙が当接した状態でピックアップローラ154の駆動を開始すると、摩擦力により昇降板201と平行な方向に力Fが発生する。当該力Fは水平方向成分Faと鉛直方向成分Fbとに分解することができる。すなわち、昇降板201には、用紙搬送方向に沿う水平方向の力Faが作用する。図2(a)に示すように、本実施形態では、昇降板201の支持端201bが固定されており、当該支持端201bと遊動端201aとの間に切欠きが存在する。このような構成では、力Faが作用した場合、図3(b)に示すように、昇降板201の幅方向の長さが短くなる、切欠きの支持端201b側の端部において反りが発生する。このような反りの大きさは、昇降板201に載置された用紙束Pの量に依存して変化する。用紙束Pの量が少ない場合は発生する反りは小さく、用紙束Pの量が多いほど発生する反りが大きくなる傾向にある。
【0034】
このような反りが発生した場合、昇降板201の遊動端201aの位置が下方に移動し、用紙束Pとピックアップローラ154との間の摩擦力が低下する。その結果、ピックアップローラ154を駆動開始から用紙が移動を開始するまでの時間が長くなってしまう。また、反りが発生した場合、昇降板201と昇降板上昇軸203との間に隙間が発生することもある。このような隙間が発生すると、用紙束Pとピックアップローラ154との間の摩擦力がより低下するとともに、センサ214によるピックアップローラ154と用紙束Pとの当接が非検知になる場合もある。この場合、図3(c)に示すように、センサ214によりピックアップローラ154と用紙束Pとの当接が検知されるまで、昇降板上昇軸203が駆動されることになる。その結果、ピックアップローラ154を駆動開始から用紙が移動を開始するまでの時間がさらに長くなってしまう。
【0035】
図4は、複合機における制御系のハードウェア構成図である。本実施形態の複合機100は、CPU(Central Processing Unit)401、RAM(Random Access Memory)402、ROM(Read Only Memory)403、HDD(Hard Disk Drive)404及び原稿搬送装置110、画像読取部120、画像形成部140における各駆動部に対応するドライバ405が内部バス406を介して接続されている。ROM403やHDD404等はプログラムを格納しており、CPU401はその制御プログラムの指令にしたがって複合機100を制御する。例えば、CPU401はRAM402を作業領域として利用し、ドライバ405とデータや命令を授受することにより上記各駆動部の動作を制御する。また、HDD404は、画像読取部120により得られた画像データや、外部機器からネットワークインタフェイス161を通じて受信した画像データの蓄積にも用いられる。
【0036】
内部バス406には、操作パネル171や各種のセンサ407も接続されている。操作パネル171は、ユーザの操作を受け付け、その操作に基づく信号をCPU401に供給する。また、操作パネル171は、CPU401からの制御信号にしたがって自身が備えるディスプレイに操作画面を表示する。センサ407は、プラテンカバー102の開閉検知センサや原稿台103上の原稿検知センサ、定着器148の温度センサ、搬送される用紙又は原稿の検知センサなど各種のセンサを含む。CPU401は、例えばROM403に格納されたプログラムを実行することで、以下の各手段(機能ブロック)を実現するとともに、これらセンサからの信号に応じて各手段の動作を制御する。
【0037】
図5は、本実施形態の複合機の機能ブロック図である。図5に示すように、本実施形態の複合機100は、異常検知部501及び異常検知条件補正部502を備える。
【0038】
異常検知部501は、ピックアップローラ154の駆動タイミングとセンサ160の用紙(シート)検知タイミングとに基づいて、ピックアップローラ154による用紙送り出し異常を検知する。本実施形態では、ピックアップローラ154を駆動するピックアップローラ駆動部511の出力信号と、センサ160の出力信号が異常検知部501に入力されている。異常検知部501は、ピックアップローラ駆動部511の出力信号からピックアップローラ154が回転を開始したタイミングを取得する。そして、ピックアップローラ154の回転開始から、予め指定されている上限時間(異常検知条件)が経過するまでの間に、センサ160がピックアップローラ154により搬出された用紙を検知するか否かを監視する。上述のように、本実施形態では、センサ160は、レジストローラ157の上流側近傍に配置されている。なお、センサ160の配置位置は、ピックアップローラ154の下流側で、ピックアップローラ154により送り出された用紙の到達を検知可能な位置であればよい。すなわち、センサ160は、用紙供給装置152(153)の近傍に配置することもできる。
【0039】
異常検知部501は、例えば、上限時間が経過するまでの間にセンサ160が用紙を検知しなかった場合にピックアップローラ154による用紙送り出しに異常が発生したと判断する。特に限定されないが、本実施形態では、異常検知部501は、異常を検知した際に報知部513にその旨を通知する。当該通知を受けた報知部513は、例えば、操作パネル171が備えるディスプレイに異常を通知する警告メッセージを表示する等の任意の手法により異常の発生をユーザに通知する。
【0040】
異常検知条件補正部502は、昇降板201上に載置されている用紙束P(シート)の量に応じて、異常検知部501の異常検知条件を補正する。特に限定されないが、異常検知条件補正部502は、上述の上限時間に遅延時間αを加算することで異常検知条件を補正する。
【0041】
用紙束Pの量は、用紙残量検知部512を通じて取得される。用紙残量検知部512には公知の任意の構成を採用することができる。例えば、用紙残量検知部512は、昇降板201の位置や上昇量、最上位の用紙の位置等に基づいて判定することができる。これらの位置の検知には、フォトリフレクタやフォトインタラプタ等の光学センサや他の非接触型センサ、マイクロスイッチ等の接触型センサを使用することができる。
【0042】
図6(a)は、上述の遅延時間αの一例を示す図である。この例では、最大載置枚数は300枚である。図6(a)に示すように、用紙枚数が100枚以下のとき遅延時間0ms、用紙枚数が101枚〜150枚のとき遅延時間5ms、用紙枚数が151枚〜250枚のとき遅延時間10ms、用紙枚数が251枚〜300枚のとき遅延時間15msとしている。なお、遅延時間αは、昇降板201の材質や形状に応じて適切な値を予め実験等により取得して異常検知条件補正部502に登録すればよい。
【0043】
また、本実施形態では、異常検知条件補正部502は、ピックアップローラ154の使用程度に応じて、異常検知部501の異常検知条件を補正する。上述のように、異常検知条件補正部502は、上述の上限時間に遅延時間βを加算することで異常検知条件を補正する。ピックアップローラ154の使用程度には、使用による性能低下(摩擦力低下)を表現できる任意のパラメータを使用できる。例えば、ピックアップローラ154の搬送枚数(印刷枚数)を使用することができる。搬送枚数は、例えば、ピックアップローラ駆動部511に設けたカウンタにより計数することができる。
【0044】
図6(b)は、上述の遅延時間βの一例を示す図である。図6(b)に示すように、搬送枚数が9999枚以下のとき遅延時間0ms、用紙枚数が10000枚〜19999枚のとき遅延時間10ms、用紙枚数が20000枚〜29999枚のとき遅延時間20ms、用紙枚数が30000枚〜39999枚のとき遅延時間30ms、用紙枚数が40000枚〜49999枚のとき遅延時間40msとしている。なお、遅延時間βは、ピックアップローラ154の材質や形状に応じて適切な値を予め実験等により取得して異常検知条件補正部502に登録すればよい。この例では、搬送枚数の上限を明示していないが、搬送枚数の上限は、ピックアップローラ154の寿命(摩耗限界)により定めることができる。
【0045】
本実施形態では、異常検知条件補正部502は総遅延時間Tr=α+βを上述の上限時間に加算する。なお、昇降板201も材質によっては経時変化により時間や使用程度とともに反り具合が変動することも考えられる。このような経時変化は、例えば、遅延時間αに、時間や使用程度依存性を表現する関数k1(t)を積算し、Tr=α×k1(t)+βを総遅延時間として上限時間に加算してもよい。同様に、昇降板201の材質によっては温度変化により反り具合が変動することも考えられる。このような温度変化も、例えば、遅延時間αに、温度依存性を表現する関数k2(T)を積算し、Tr=α×k2(T)+βを総遅延時間として上限時間に加算してもよい。加えて、図6(a)、図6(b)に示す例では、用紙枚数や搬送枚数が指定した範囲内に属するときに、同一の遅延時間を選択する構成としたが、用紙枚数や搬送枚数の値に応じて遅延時間がそれぞれ変化する関数に基づいて遅延時間を選択する構成(例えば、遅延時間α(ms)=用紙枚数/20、遅延時間β(ms)=搬送枚数/1000)であってもよい。
【0046】
図7は、本発明の複合機100が実施する異常検知の一例を示す図である。図7(a)が従来の異常検知に対応し、図7(b)が本実施形態の異常検知に対応する。図7(a)、図7(b)では、それぞれ、上段から、ピックアップローラ154の駆動状態、ピックアップローラ154による実際の給紙状態、センサ160の検知状態、異常検知期間(上述の上限時間)を示している。ピックアップローラ154の駆動状態は、High状態が駆動状態に対応し、Low状態が停止状態に対応する。ピックアップローラ154による実際の給紙状態は、High状態が用紙移動に対応し、Low状態が用紙停止に対応する。センサ160の検知状態は、High状態が用紙検知に対応し、Low状態が用紙非検知に対応する。異常検知期間は、High状態が正常期間に対応し、Low状態が異常期間に対応する。
【0047】
図7(a)では、時刻t1にピックアップローラ154の駆動が開始されている。用紙束Pとピックアップローラ154との間の摩擦力が低下していない場合、図7(a)に破線で示すように、ピックアップローラ154の駆動と同時に用紙が移動を開始する。しかしながら、昇降板201の反りに起因して紙束Pとピックアップローラ154との間の摩擦力が低下している場合、図7(a)に実線で示すように、ピックアップローラ154の駆動開始から遅れた時刻t2に用紙が移動を開始する。ここで、センサ160による用紙検知の上限時間が時刻t3であるとする。当該上限時間には、用紙供給装置152からセンサ160までに要する理論時間とマージン時間の和が設定される。複合機100の生産性を確保するために、マージン時間は必要最小限の時間が採用される。上述の遅れ時間(t2−t1)がこのマージン時間を超えると、図7(a)に示すように、センサ160は、異常期間内の時刻t4に用紙を検知することになる。この場合、用紙搬送異常と判断され、複合機100による印刷処理が停止する。
【0048】
例えば、ピックアップローラ154の線速が400mm/s、用紙束Pとピックアップローラ154との間の摩擦力低下に起因する遅れ時間が40msであるとすると、この間に用紙が搬送される理論距離は16mmとなる。上記マージン時間が12mmの距離に相当する時間(30ms)である場合、用紙搬送異常と判断される。
【0049】
図7(b)においても、時刻t1にピックアップローラ154の駆動が開始され、時刻t2に用紙が移動を開始する。本実施形態では、昇降板201に反りが発生し用紙の移動開始に遅れが発生する場合には、上限時間に遅延時間Trが加算される。すなわち、センサ160による用紙検知の上限時間が時刻t5(=t3+Tr)に補正される。この場合、図7(b)に示すように、センサ160が時刻t4に用紙を検知する場合であっても時刻t4は正常期間内(時刻t1から時刻t5の間)に含まれる。したがって、異常検知部501は、用紙搬送異常と判断することはなく、複合機100による印刷処理が停止されることもない。また、遅延時間Trは、想定される昇降板201の反り具合に応じて決定されるため、異常検知期間が必要以上に延長されることもない。
【0050】
図8は、複合機100が実行する異常検知手順の一例を示すフロー図である。当該手順は、例えば、複合機100に印刷実行指示が入力されたときに開始される。
【0051】
当該手順が開始すると、異常検知条件補正部502は、ピックアップローラ駆動部511を通じて搬送枚数を取得するとともに、用紙残量検知部512を通じて昇降板201上の用紙枚数を取得する(ステップS801)。当該用紙枚数は、この時点で用紙残量検知部512が取得する構成であってもよく、用紙残量検知部512が予め取得しておく構成であってもよい。
【0052】
搬送枚数と用紙枚数とを取得した異常検知条件補正部502は異常検知部501に登録されている異常検知条件(上限時間)の補正が必要か否かを判断する(ステップS802)。すなわち、異常検知条件補正部502は上述の遅延時間Trを算出し、遅延時間Trがゼロであれば補正不要と判定し、遅延時間Trがゼロ以外であれば補正要と判定する。
【0053】
異常検知条件の補正が必要である場合、異常検知条件補正部502は、異常検知部501に登録されている上限時間に遅延時間Trを加算することで補正を実行する(ステップS802Yes、S803)。異常検知条件の補正が不要である場合、その旨を異常検知部501に通知する(ステップS802No)。
【0054】
異常検知条件補正部502により異常検知条件が補正された、又は補正不要の通知を受けた異常検知部501は、最新の異常検知条件に基づいて用紙搬送中の搬送異常を検知する(ステップS804)。このとき、ピックアップローラ駆動部511は、用紙搬送の都度、搬送枚数をインクリメントする。
【0055】
以上の処理は、印刷データが存在する間継続される(ステップS805Yes、S801)。印刷データがなくなった場合、手順が終了する(ステップS805No)。
【0056】
以上説明したように、複合機100では、昇降板201上に載置されている用紙の量に応じて、異常検知部501の異常検知条件が補正される。すなわち、昇降板201に反りが発生している状況下では、反りに起因して増大する搬送時間に応じて、異常検知期間が延長される。その結果、異常検知を誤検知のない状態で実施できるとともに、昇降板201に反りが発生しない状況下での生産性の低下を抑制することができる。また、異常検知期間の延長は必要最小限であるため、真の搬送異常が発生した場合の、当該搬送異常状態の継続時間が延びることがない。例えば、用紙詰まりが発生した場合に、搬送ローラが詰まった用紙に駆動力を伝達し続けることに起因する搬送ローラの摩耗等を最小限にすることができる。
【0057】
さらに、上記実施形態では、ピックアップローラ154の摩耗に起因する滑りも遅延時間Trに反映されるため、より確実に、搬送異常の誤検知を抑制することができる。
【0058】
なお、上述の実施形態では、上限時間に遅延時間Trを加算する事例を説明したが、異常検知期間(図7(a)に示す時刻t1から時刻t3の間)の長さを変更することなく、上限時間の起算点(時刻t1)を遅延時間Trだけ遅らせる構成(すなわち、異常検知期間をシフトさせる構成)であっても同様の効果を得ることができる。
【0059】
なお、上述した実施形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば、上記複合機100では遅延時間Trがピックアップローラ154の消耗を反映する遅延時間βを含む構成としたが、遅延時間βを含むことは必須ではない。少なくとも遅延時間αを使用して異常検知条件を補正することで、昇降板201の反りに起因する搬送誤検知を抑制することができる。
【0060】
また、図8に示したフローチャートは、等価な作用を奏する範囲において各ステップの順序等を適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、異常検知条件補正部502が補正の要否を判断する構成としたが、補正の要否を判断することなく、算出した遅延時間Trを異常検知部501に指定されている上限時間に常に加算する構成を採用することもできる。
【0061】
加えて、上述の実施形態では、デジタル複合機の用紙供給装置として本発明を具体化したが、デジタル複合機に限らず、プリンタ、複写機等、印刷機能を有する任意の画像処理装置の用紙供給装置、さらには、用紙に限らず、任意のシートを搬送するシート供給装置に本発明を適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、生産性の低下を抑制しつつ、シート搬送異常の誤検知の発生を防止することができ、シート供給装置及び画像形成装置として有用である。
【符号の説明】
【0063】
100 複合機(画像形成装置)
152、153 用紙供給装置(シート供給装置)
154 ピックアップローラ
160 センサ
201 昇降板
203 昇降板上昇軸(駆動部)
501 異常検知部
502 異常検知条件補正部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8