特許第5951629号(P5951629)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5951629-疎水性化タンパク質加水分解物 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5951629
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】疎水性化タンパク質加水分解物
(51)【国際特許分類】
   C07K 2/00 20060101AFI20160630BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20160630BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20160630BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 47/42 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20160630BHJP
   C07K 1/12 20060101ALI20160630BHJP
   C07K 1/113 20060101ALI20160630BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20160630BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20160630BHJP
   B01F 17/30 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   C07K2/00
   A61K8/64
   A61K8/06
   A61Q19/00
   A61Q5/12
   A61K9/107
   A61K47/42
   A61K9/12
   A61K9/10
   C07K1/12
   C07K1/113
   C11D7/32
   C09K3/00 111B
   B01F17/30
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-542436(P2013-542436)
(86)(22)【出願日】2011年11月10日
(65)【公表番号】特表2014-506239(P2014-506239A)
(43)【公表日】2014年3月13日
(86)【国際出願番号】EP2011069811
(87)【国際公開番号】WO2012076284
(87)【国際公開日】20120614
【審査請求日】2014年5月27日
(31)【優先権主張番号】102010062600.7
(32)【優先日】2010年12月8日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(72)【発明者】
【氏名】シリング,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】トゥム,オリバー
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 仏国特許出願公開第02740331(FR,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102007031202(DE,A1)
【文献】 米国特許第05490980(US,A)
【文献】 国際公開第2005/095331(WO,A1)
【文献】 特開2000−300287(JP,A)
【文献】 国際公開第1996/006181(WO,A1)
【文献】 特開平02−142712(JP,A)
【文献】 特開昭63−005009(JP,A)
【文献】 特開2007−022958(JP,A)
【文献】 特開平09−110647(JP,A)
【文献】 J.Agric.Food Chem.,2008年,Vol.56,p.7510-7516
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 2/00
C07K 1/113
C07K 1/12
C09K 3/00
C11D 7/32
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)少なくとも1つのグルタミンラジカルを含む少なくとも1つのタンパク質を加水分解してタンパク質加水分解物を獲得する工程段階と、
B)前記タンパク質加水分解物をトランスグルタミナーゼおよび少なくとも1つの一般式(I)
【化1】

(式中、RおよびRは互いに独立して、同一または異なっており、線状の非置換アルキルおよびアルケニルラジカルから選択される)の第2級アミンと接触させる工程段階と、
を含む方法によって得られるアルキル化ペプチド混合物。
【請求項2】
工程段階(A)において、前記タンパク質加水分解物を精製することをさらに含む、請求項1記載のアルキル化ペプチド混合物。
【請求項3】
C)アルキル化ペプチド混合物を精製する工程段階をさらに含む、請求項1または2に記載のアルキル化ペプチド混合物。
【請求項4】
前記少なくとも1つのタンパク質が、単離された植物貯蔵タンパク質、動物タンパク質および微生物タンパク質を含むリストから選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルキル化ペプチド混合物。
【請求項5】
工程段階A)における前記加水分解が、少なくとも1つの酸を添加することによって、あるいは少なくとも1つの酵素の使用によって触媒されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルキル化ペプチド混合物。
【請求項6】
工程段階A)からの前記タンパク質加水分解物が203g/mol〜100000g/molの平均分子量を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のアルキル化ペプチド混合物。
【請求項7】
工程段階A)からの前記タンパク質加水分解物が、市販の製品のMeripro 810(商標)、Meripro 711(商標)、Naturalys W(商標)、Cropeptide W(商標)、Hydrotriticum 2000(商標)、Tritisol(商標)、Tritisol XM(商標)、Hydrosoy 2000(商標)、Gluadin (登録商標)W20、Gluadin(登録商標)WLM、AMCO HCA411(商標)またはHLA-198(商標)に相当することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のアルキル化ペプチド混合物。
【請求項8】
工程段階B)で使用される前記トランスグルタミナーゼが、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、ストレプトベルティシリウム・モンバラエンシス(Streptoverticillium mombaraensis)からなるリストから選択されて単離され得ることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアルキル化ペプチド混合物。
【請求項9】
工程段階A)において、前記加水分解が少なくとも1つの酵素の使用によって触媒され、工程段階A)および工程段階B)が同時に実行されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載のアルキル化ペプチド混合物。
【請求項10】
A)少なくとも1つのグルタミンラジカルを含む少なくとも1つのタンパク質を加水分解してタンパク質加水分解物を獲得する工程段階と、
B)前記タンパク質加水分解物をトランスグルタミナーゼおよび少なくとも1つの一般式(I)
【化2】

(式中、RおよびRは互いに独立して、同一または異なっており、線状の非置換アルキルおよびアルケニルラジカルから選択される)の第2級アミンと接触させる工程段階と、
を含むアルキル化ペプチド混合物の調製方法。
【請求項11】
工程段階(A)において、前記タンパク質加水分解物を精製することをさらに含む、請求項10記載のアルキル化ペプチド混合物の調製方法。
【請求項12】
C)アルキル化ペプチド混合物を精製する工程段階をさらに含む、請求項10または11に記載のアルキル化ペプチド混合物の調製方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の少なくとも1つのペプチド混合物を含む、化粧品、皮膚用または医薬品製剤、作物保護製剤、ケアおよびクリーニング組成物または界面活性剤濃縮物。
【請求項14】
乳化剤、分散助剤、皮膚および毛髪用コンディショナー、フォーム形成剤またはフォーム安定剤としての、請求項1〜9のいずれか一項に記載の少なくとも1つのペプチド混合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、酵素的に疎水性化されたタンパク質加水分解物、その製造および使用、ならびにこれらを含む化粧品調製物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術
タンパク質およびタンパク質加水分解物は容易に入手可能であり、天然起源であり、生分解性であるため、興味深い原材料の種類である。しかしながら、親油性基が不足していることに起因して、タンパク質の界面活性特性は弱く示されるのみである。従って、効率的なタンパク質ベースの界面活性化合物を得るためには、付加的な親油性基を導入することが必要である。従来技術によると、所望の修飾タンパク質は、比較的長い期間、タンパク質加水分解物と酸クロリドとの縮合(以下、PHFSK)によって製造されており、その表面活性特性のために、種々の用途(例えば、エマルション、フォームの製造のため、皮膚および毛髪のコンディショニングのため、様々な溶媒中での顔料の分散のためなど)で使用されている。
【化1】
【0003】
しかしながら、合成(例えば、塩化チオニルを用いて脂肪酸混合物から)に必要とされる酸クロリドの単離は生態学的な観点から容認できず、さらに縮合反応中に少なくない量の塩が生じる。これは製品特性を大幅に変更する可能性があるために分離除去をする必要があり、恐らく大きな支出を伴う。さらに、得られる修飾の程度が非常に低いか、あるいは大幅に過剰の酸によってのみ達成され得る(Roussel-Philippe et al., European Journal of Lipid Science and Technology 102[2], 97-101. 2000)。最後に、リジンラジカルの第1級アミノ基が優先的にアミド化されるので、誘導体化は利用可能な塩基性基の範囲を変更する。例えば、ヘアーコンディショニングなどの特定の用途ではカチオン基の存在が望ましいが、リジンラジカルはアミド化の後にはもう利用できないので、これは不利である。
【0004】
タンパク質およびタンパク質加水分解物の架橋のためのトランスグルタミナーゼ(TG)の使用は、比較的長い間知られている。反応はタンパク質のリジンラジカルとグルタミンラジカルとの間のアミド基転移反応であり、反応中にアンモニアが放出され、イソペプチド結合が形成される。
【化2】
【0005】
同様に、第1級アルキルアミンも、トランスグルタミナーゼ触媒アミド基転移反応においてリジンの代わりに求核試薬としての機能を果たし得ることが知られている。これは、モデル基質としての合成ジペプチドについての文献(Ohtsuka et al., (2000) J Agric. Food Chem 48:6230-6233)およびインタクトなタンパク質についての文献(Nieuwenhuizen et al., (2004) Biotechnol Bioeng 85:248-258)において示されている。
【0006】
出発材料および生成物の構造のみを考慮に入れると、正式にはペプチドのアルキル化である。従って、本発明に関連して、論議は「アルキル化タンパク質加水分解物」または「アルキル化」に関する。
【化3】
【0007】
しかしながら、インタクトなタンパク質の場合、PHFSKと比べて低い程度の修飾(タンパク質1gあたりのアルキルラジカルのg)しか達成できないであろう(PHFSKについては6〜8%、TG触媒アルキル化については0.2〜0.4%、Ohtsuka et al., (2000) J Agric. Food Chem 48:6230-6233、Nieuwenhuizen et al., (2004) Biotechnol Bioeng 85:248-258、およびRoussel-Philippe et al., European Journal of Lipid Science and Technology 102[2], 97-101. 2000を参照)。
【0008】
従って、これらの反応生成物の両親媒特性は弱く示されるだけであり、トランスグルタミナーゼ触媒作用によって疎水性化されたこれらのタンパク質は、古典的なPHFSKの代用としての役割を果たすことができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来技術の少なくとも1つの不利益を克服する疎水性化ペプチドを提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の説明
意外にも、トランスグルタミナーゼを利用してアルキル化された以下に記載されるタンパク質加水分解物は、本発明の目的を達成可能であることが見出された。
【0011】
従って、本発明は、酵素的に疎水性化されたタンパク質加水分解物、その製造および使用を提供する。
【0012】
本発明はさらに、本発明に従う疎水性化タンパク質加水分解物を含む製剤、特に化粧品調製物を提供する。
【0013】
本発明の1つの利点は、合成の間に酸クロリドが必要とされないことである。
【0014】
さらなる利点は、タンパク質加水分解物のグルタミン含量が時として非常に高という点で、生成物が高度の誘導体化を有し得ることであり、同時に、酸クロリドとは対照的に二次反応(加水分解)が起こらないので、より低濃度のアルキルアミンを使用すべきであるということである。結果として、例外的な発泡挙動が有利に観察され得る。また、副産物として塩化ナトリウム(酸クロリドの場合)の代わりにアンモニアが生成されることも利点であり、これは、容易に追い出すことができる。さらに、反応は中性pH範囲で進行し、これは、pH調整のために塩が導入されないことも意味する。最後に、アルキルアミンの存在下でグルタミンラジカルは主としてトランスグルタミナーゼ触媒作用によって転換されるので、タンパク質加水分解物のアミノ基は、大部分はインタクトのままであることが重要な利点である。タンパク質加水分解物の第1級アミノ基(リジンの末端およびε−アミノ基)は、生成物の物理化学特性(例えば、皮膚および毛髪の負に帯電した表面との相互作用/表面への結合=持続性)に大きく寄与する。酸クロリドによる誘導体化の間、これらの求核性アミノ基は好ましくはアミドに転換され、従って、もはや持続性に寄与することができない。
【0015】
本発明は、
A)少なくとも1つのグルタミンラジカルを含む少なくとも1つのタンパク質を加水分解してタンパク質加水分解物を獲得し、場合により、タンパク質加水分解物を精製する工程段階と、
B)タンパク質加水分解物をトランスグルタミナーゼおよび少なくとも1つの一般式(I)
【化4】

(式中、RおよびRは互いに独立して、同一または異なっており、場合により不飽和で場合により置換された、場合により分枝状である5〜40個、好ましくは5〜22個、特に6〜18個の炭素原子を有する有機ラジカルから選択される)の第1級または第2級アミン、特に第1級アミンと接触させる工程段階と、
C)アルキル化ペプチド混合物を精製する工程段階と
を含む方法によって得られるアルキル化ペプチド混合物を提供する。
【0016】
以下の図面は実施例の一部を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】修飾小麦タンパク質加水分解物のトランスグルタミナーゼ触媒疎水性化によるフォーム安定性における改善(「MP810」(四角形)=Meripro 810、Syral、「MP810+OA+TG(inact.)」(三角形)=Meripro 810+オクチルアミン(OA)+不活性化トランスグルタミナーゼ(TG)=負の対照、「MP810+OA+TG」(ひし形)=Meripro 810+オクチルアミン(OA)+トランスグルタミナーゼ(TG))。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に関連して、「アルキル化ペプチド混合物」という用語は、いずれの場合も少なくとも1つのグルタミンにおいてアルキル化された少なくとも2つのペプチドを含む混合物を意味すると理解されるべきである。従って、工程段階A)において1種類のタンパク質だけが加水分解される場合、このタンパク質は少なくとも2つのグルタミンラジカルを有さなければならないことは明らかである。
【0019】
他に記載されない限り、記載される百分率(%)は全て質量による百分率である。
【0020】
実際には、工程段階A)において、容易に入手可能なタンパク質源を使用するのが有利であり、これらは、特にタンパク質の混合物として入手しやすい。従って、少なくとも1つのタンパク質は、好ましくは、例えば、小麦タンパク質(グルテン)、大豆タンパク質、エンドウ豆タンパク質、米タンパク質、トウモロコシタンパク質、ルピナスタンパク質などの単離された植物貯蔵タンパク質と、例えば、コラーゲン、ケラチン、カゼイン、乳清タンパク質(ラクトグロブリン)、絹タンパク質(フィブロイン)などの動物タンパク質と、例えば、酵母タンパク質抽出物、藻類タンパク質または細菌バイオマス(SCP=単細胞タンパク質)などの微生物タンパク質とを含む(好ましくは、これらからなる)リストから選択される。
【0021】
本発明によると、工程段階A)において、グルタミンラジカルの画分の多いタンパク質の混合物を使用するのが有利であり、従って、タンパク質は、好ましくは、小麦グルテン、豆類、特に、大豆、エンドウ豆、ルピナスの単離貯蔵タンパク質、および乳タンパク質、特にカゼインおよびラクトグロブリンを含む(好ましくは、これらからなる)リストから選択され、小麦グルテンが非常に特に好ましい。
【0022】
工程段階A)における加水分解は、好ましくは、酸を添加することによって、特に好ましくは酵素の使用によって触媒される。適切な方法は当業者に知られており、同様に、所望の平均分子量を有するタンパク質加水分解物が工程段階A)において形成されるようにそれぞれの工程パラメータを調整する努力を必要としない。酵素的に触媒される加水分解方法についてのこの種の指示は、当業者により、Aaslyng et al., (1988) J Agric. Food Chem 46:481-489、およびAdler-Nissen J (1976) J Agric. Food Chem 24:1090-1093において見出すことができ、酸またはアルカリにより触媒される方法については、Aaslyng et al., (1998) J Agric. Food Chem 46:481-489において見出すことができる。
【0023】
本発明によると、工程段階A)からのタンパク質加水分解物は、好ましくは、203g/mol〜100000g/mol、好ましくは500g/mol〜20000g/mol、特に1000g/mol〜15000g/molの平均分子量を有する。
【0024】
工程段階A)に従って生成され、工程段階B)において直接使用され得るタンパク質加水分解物は市販もされており、これらは、例えば、Meripro 810およびMeripro 711(小麦タンパク質加水分解物、酵素的および化学的、Syral)、Naturalys(登録商標)W(小麦タンパク質加水分解物(hydolysate)、Roquette)、Cropeptide W、Hydrotriticum 2000、Tritisol、Tritisol XM(種々の分子量分布を有する小麦タンパク質加水分解物、Croda)、Hydrosoy 2000(大豆タンパク質加水分解物、Croda)、Gluadin(登録商標)W20およびGluadin(登録商標)WLM(種々の分子量分布を有する小麦タンパク質加水分解物、Cognis)、AMCO HCA 411およびHLA-198(カゼインまたは乳清タンパク質加水分解物、American Casein Company)である。
【0025】
工程段階B)において、原則として、当業者に知られているECクラス2.3.2.13に属する全てのトランスグルタミナーゼは、これらのトランスグルタミナーゼの対応する酵素活性を有する断片であり得るので使用することができる。このような酵素は、例えば、ストレプトベルティシリウム(Streptoverticillium)、バチルス(Bacillus)、種々の放線菌および粘菌から単離することができるが、植物、魚類および哺乳類源(例えば、ブタ肝臓など)からも単離され得る。欧州特許第2123756号および国際公開第2009101762号には、その野生型と比較して安定化されたトランスグルタミナーゼが記載されており、その使用は、本発明に従う工程段階B)において好ましい。
【0026】
工程段階B)において使用されるトランスグルタミナーゼは、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、ストレプトミセス・モンバラエンシス(Streptomyces mombaraensis)(以前は、ストレプトベルティシリウム・モバラエンス(Streptoverticillium mobaraense))からなるリストから選択されて単離され得ることが好ましい。これに関連して、特に好ましいトランスグルタミナーゼは、商品名「Activa」(ストレプトミセス・モンバラエンシス(Streptomyces mombaraensis)からのトランスグルタミナーゼ)、例えば、Activa(登録商標)WM、Activa(登録商標)EB、Activa(登録商標)PB、Activa(登録商標)WS、Activa(登録商標)YGで味の素から得られるトランスグルタミナーゼから選択される。
【0027】
工程段階B)において、タンパク質加水分解物は、好ましくは、全反応混合物に基づいて5重量%〜40重量%の間、好ましくは15重量%〜25重量%の間の濃度で使用され、溶媒および/または分散剤は好ましくは水である。状況によっては、水和工程の速度を増大させる(この間、例えば攪拌による反応混合物の完全な混合が行われるのが好ましい)ために、工程段階B)においてトランスグルタミナーゼを添加する前に、反応混合物を50℃、好ましくは70℃、特に80℃よりも高温まで加熱することが有利であり得る。
【0028】
工程段階B)における一般式(I)の第1級または第2級アミンのラジカルRおよびRは、好ましくは、アルキルおよびアルケニルラジカル、好ましくは線状の非置換アルキルおよびアルケニルラジカル、特に、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、オクタデセニル、オクタデカジエニル、エイコシル、ドコシルラジカルからなる群から選択される。
【0029】
ラジカルRおよびRは、アルキルラジカルの混合物、特にこれらのアルキルラジカルのテクニカルグレードの混合物であってもよい。このような工業混合物のアルキルラジカルは、好ましくは、植物脂肪酸混合物から種々の方法によって得ることができる脂肪酸混合物に由来し、種々の方法によって分画され得る。このような植物脂肪酸混合物の脂肪酸組成は、単離のために使用される油糧種子によって異なり、例えば、場合により分画される菜種油、大豆油、ヒマワリ油、獣脂油、ココナッツ油脂肪酸の形で当業者に知られている。
【0030】
従って、好ましくは工程段階B)において使用されるアルキルアミンは、菜種脂肪アミン、大豆脂肪アミン、ヒマワリ脂肪アミン、獣脂脂肪アミン、パーム脂肪アミン、パーム核脂肪アミンおよびココナッツ脂肪アミンからなる群から選択される。
【0031】
一般式(I)のアミンは、工程段階B)において、好ましくは、全反応混合物に基づいて0.25重量%〜10重量%の間、特に0.5重量%〜5重量%の間の濃度で使用される。工程段階B)における反応混合物中の酵素活性は、好ましくは、10〜25000U/l、好ましくは200〜1000U/l、特に好ましくは300〜600U/lであり、ここで単位Uは、Folk and Cole (1966), Biochim. Biophys. Acta 122:244-264に記載されるヒドロキサメート検定に従って決定することができる。
【0032】
工程段階B)において、pHは、好ましくは、5〜10の間、好ましくは6〜8の間、特に好ましくは6.5〜7.5の間である。
【0033】
好ましくは、工程段階B)におけるトランスグルタミナーゼ反応の間、例えば攪拌による反応混合物の完全な混合が行われる。
【0034】
工程段階B)におけるトランスグルタミナーゼ反応の間の反応混合物の温度は、好ましくは20℃〜50℃、好ましくは30℃〜45℃、特に好ましくは35℃〜40℃である。
【0035】
工程段階B)におけるトランスグルタミナーゼ反応の反応時間は、使用される温度に応じて数時間までである。
【0036】
工程段階A)において加水分解が少なくとも1つの酵素の使用によって触媒される場合、時間節約の理由で、工程段階A)および工程段階B)が同時に実行されることが有利であり得る。
【0037】
本発明はさらに、本発明に従うペプチド混合物を生成し得る上記の方法を提供する。好ましくは本発明に従う方法は、本発明に従う上記の好ましいペプチド混合物をもたらす方法である。
【0038】
本発明従うアルキル化ペプチド混合物は、クリーニング組成物、化粧品または医薬品製剤、および作物保護製剤において有利に使用することができる。
【0039】
従って、本発明はさらに、本発明に従うアルキル化ペプチド混合物を含む化粧品、皮膚用または医薬品製剤、作物保護製剤、ならびにケアおよびクリーニング組成物および界面活性剤濃縮物を提供する。
【0040】
「ケア組成物」という用語は、ここでは、物体をその元の形態のまま保持する目的、外部の影響(例えば、時間、光、温度、圧力、汚れ、物体と接触する他の反応性化合物との化学反応)の効果、例えば、老化、汚れ、材料疲労、漂白などを低減または回避する目的、あるいはさらに、物体の所望の正の特性を改善する目的を満足させる製剤を意味するものと理解される。最後の点については、例えば、毛髪の輝きの改善、または検討中の物体のより大きい弾性に言及することができる。
【0041】
「作物保護製剤」は、その調製物の性質に応じて作物保護のために明白に使用される製剤を意味すると理解されるべきである。これは、特に、除草剤、殺真菌剤、殺虫剤、ダニ駆除薬、殺線虫剤、トリに対する保護剤、植物栄養分および土壌構造改善剤の類からの少なくとも1つの化合物が製剤中に存在する場合である。
【0042】
好ましくは本発明に従う化粧品組成物は、クリーム、ローション、リンスおよびシャンプーからなる群から選択される。
【0043】
本発明に従うペプチド混合物は、有利な乳化およびフォーム安定特性を有する。従って、本発明のさらなる主題は、例えば、O/WまたはW/O乳化剤などの乳化剤として、皮膚および毛髪のためのコンディショナーとして、特に化粧品顔料のための分散助剤として、フォーム形成剤またはフォーム安定剤としての、本発明に従うペプチド混合物の使用である。
【0044】
本発明は、本発明の限定を意図することなく、以下に記載される実施例において例として説明され、その適用範囲は全体の説明および特許請求の範囲から生じて、実施例において指定される実施形態までに及ぶ。
【実施例】
【0045】
実施例
実施例1.オクチルアミンおよびラウリルアミンによる小麦タンパク質加水分解物のトランスグルタミナーゼ触媒疎水性化、ならびに非加水分解小麦タンパク質の生成物との比較、ならびに非疎水性化小麦タンパク質加水分解物との比較
市販の小麦(where)タンパク質(Amygluten 110、Syral、分子量>200kD)およびこれから生成される加水分解物(Meripro 810、分子量約10kD)を、いずれの場合も、オクチルアミンまたはラウリルアミン(2.5重量%)と一緒にpH=7.5および10重量%の濃度で水中に分散させた。1重量%の市販のトランスグルタミナーゼ調製物(Activa WM、味の素)を添加し、混合物を24時間にわたって45℃で攪拌した。次に、酵素を80℃の温度で不活性化した。対照として、いずれの場合も、不活性化酵素との混合物およびアルキルアミンを含まない混合物を実行した。アルキルアミンの転換は、1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼン(CDNB)による誘導体化の後、対照反応と比較して、測光検定によって決定した(Ekladius and King, (1957) Biochem J 65:128-131)。
【0046】
非加水分解小麦タンパク質(Amygluten 110、Syral)による反応の場合にはアルキルアミンの転換は検出できなかったが、加水分解物の場合、50%を超えるアルキルアミンの転換が測定された。アミノ酸ラジカルの約10%および利用可能なグルタミンラジカルの約30%が修飾された。
【0047】
実施例2:表面活性
空気に対する表面張力、ならびに/またはパラフィンおよび/もしくは炭酸ジエチルヘキシル(DEC)に対する界面張力は、ペンダントドロップ法によって決定した。測定は、オクチルアミンで修飾された小麦タンパク質加水分解物の1%強度の溶液および対応する対照反応において実行した。修飾の結果として、界面活性を大幅に改善することができた(界面張力および表面張力の低下、表1)。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例3:フォーム形成およびフォーム安定性
オクチルアミンによる小麦タンパク質加水分解物の疎水性化がフォーム形成およびフォーム安定性に与える効果を、1%溶液の振とう実験において、対応する対照と比較した。このために、10mlの対応するサンプルを、体積スケールを有する50mlのポリプロピレン遠心分離管中に注ぎ、同一条件下で1分間振とうさせた。開始フォーム体積およびフォーム安定性を評価するために、時間が経つにつれて液体の上方のフォーム体積を読み取った。ここで、疎水性化小麦タンパク質加水分解物のかなりのフォーム安定化効果が見出された(図1)。
【0050】
実施例4:エマルション性能
オクチルアミンにより修飾された小麦タンパク質加水分解物およびラウリルアミンにより修飾された小麦タンパク質加水分解物の乳化特性を、振とう実験において1mlスケールで調査した。20/79/1のトリグリセリド/水/乳化剤比について、種々のサンプルおよび対照を調査した。激しく振とうさせることによりエマルションを調製し、相分離の動態学をモニターした。ここで、疎水性化タンパク質加水分解物の場合の相分離は、対応する対照の場合よりも大幅に遅く、不完全であることが見出された。
【0051】
実施例5:酸クロリド修飾小麦タンパク質加水分解物との比較
ラウリルアミン修飾小麦タンパク質加水分解物を、実施例1に記載されるように合成した。使用したラウリルアミンの濃度は、0.625%(w/w)であった。トランスグルタミナーゼにより触媒される調製の場合と同じ材料濃度および同じ小麦タンパク質加水分解物を用いて、酸クロリドの助けを借りて、塩化ラウリルで修飾された小麦タンパク質加水分解物(PHFSK)を生成した。Schotten-Baumann縮合反応については、手順は、文献(Roussel-Philippe et al., European Journal of Lipid Science and Technology 102[2], 97-101. 2000)に記載される最適反応条件に従い、塩化ラウリルを小麦タンパク質加水分解物(水中10重量%)へ添加する前に、NaOHの添加により9のpHを確立した。次に、4℃の温度で、塩化ラウリルを0.625重量%の濃度まで段階的に添加した。4時間後、恐らく未反応の酸クロリドを加水分解するためにHClを脂肪酸に添加することにより、pHを5に調整した。次に、NaOHの添加によりpHを7.5に調整した。アルキルアミン修飾および酸クロリド修飾小麦タンパク質加水分解物のフォーム体積およびフォーム安定性を、実施例3に記載されるように互いに比較した。実験のためにサンプルを1重量%のタンパク質含量になるように調整した。アルキルアミン修飾小麦タンパク質加水分解物の場合、より多くのフォーム形成が観察された(酸クロリド修飾されたものの場合に10mlであるのに対して15ml)。
図1