特許第5951631号(P5951631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5951631曲面の肉盛溶接方法及びそれを用いたランスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5951631
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】曲面の肉盛溶接方法及びそれを用いたランスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20160630BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20160630BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20160630BHJP
   C21C 7/072 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   B23K9/04 Q
   B23K9/04 L
   B23K9/04 E
   B23K35/30 340C
   F27D21/00 D
   C21C7/072 A
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-542960(P2013-542960)
(86)(22)【出願日】2012年11月2日
(86)【国際出願番号】JP2012078496
(87)【国際公開番号】WO2013069573
(87)【国際公開日】20130516
【審査請求日】2015年7月22日
(31)【優先権主張番号】特願2011-244730(P2011-244730)
(32)【優先日】2011年11月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591209280
【氏名又は名称】株式会社フジコー
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(72)【発明者】
【氏名】山下 雅英
(72)【発明者】
【氏名】平田 純
(72)【発明者】
【氏名】塚本 真悟
(72)【発明者】
【氏名】榎戸 浩文
(72)【発明者】
【氏名】池上 博文
【審査官】 竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−25078(JP,A)
【文献】 特開2011−17529(JP,A)
【文献】 特開2010−222592(JP,A)
【文献】 特開平10−8191(JP,A)
【文献】 特開2008−93732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00
B23K 9/04
B23K 35/02
B23K 35/30
C21C 7/072
F27D 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部又は全部が曲面からなる鋼構造物の被溶接領域に、鉄製又はステンレス製の網材を仮止めする第1工程と、前記網材の上から肉盛溶接を行う第2工程とを有する曲面の肉盛溶接方法であって、前記鋼構造物は炭素鋼であって、前記肉盛溶接を行う溶材は、耐熱耐摩耗性を有する高クロム鋳鉄系のワイヤであることを特徴とする曲面の肉盛溶接方法。
【請求項2】
請求項1記載の曲面の肉盛溶接方法において、前記網材は、鋼製のエキスパンドメタルであることを特徴とする曲面の肉盛溶接方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の曲面の肉盛溶接方法において、前記鋼構造物は鋼管であって、前記被溶接領域は該鋼管の内側面であることを特徴とする曲面の肉盛溶接方法。
【請求項5】
請求項4記載の曲面の肉盛溶接方法において、前記鋼管は製鉄所で用いる溶融金属に添加材を吹き込むランスであって、前記被溶接領域は前記ランスの屈曲部分の半径方向外側領域であることを特徴とする曲面の肉盛溶接方法。
【請求項6】
請求項5記載の曲面の肉盛溶接方法において、前記被溶接領域は前記ランスの屈曲部分の半径方向外側稜線を中心にして180度以上の範囲であることを特徴とする曲面の肉盛溶接方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の曲面の肉盛溶接方法において、前記ランスの屈曲部分は、曲がり管と該曲がり管の端部に溶接される第1、第2の直管の一部からなって、前記被溶接領域は、前記第1、第2の直管と前記曲がり管との溶接部を除く、前記曲がり管と前記第1、第2の直管の前記溶接部近傍の領域であることを特徴とする曲面の肉盛溶接方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の曲面の肉盛溶接方法を適用したことを特徴とするランスの製造方法。
【請求項9】
請求項8記載のランスの製造方法において、前記肉盛溶接の表面を更に不定形耐火材で覆うことを特徴とするランスの製造方法。
【請求項10】
一部又は全部が曲面からなる鋼構造物の被溶接領域に、鉄製又はステンレス製の網材を仮止めする第1工程と、前記網材の上から肉盛溶接を行う第2工程とを有する曲面の肉盛溶接方法において、前記鋼構造物は鋼管であって、前記鋼管は製鉄所で用いる溶融金属に添加材を吹き込むランスであり、前記被溶接領域は前記ランスの屈曲部分の内側面の半径方向外側領域で、前記ランスの屈曲部分は、曲がり管と該曲がり管の端部に溶接される第1、第2の直管の一部からなって、前記被溶接領域は、前記第1、第2の直管と前記曲がり管との溶接部を除く前記曲がり管と前記第1、第2の直管の前記溶接部近傍の領域であることを特徴とする曲面の肉盛溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、製鉄所で使用するランス(詳細には、「インジェクションランス」という)等の曲面を有する鋼構造物の一部に耐摩耗性を向上するために行う肉盛溶接の方法及びそれを用いたランスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、例えば、高炉から排出された溶銑をトピードカー等で溶銑予備処理を行う場合には、先側が折れ曲がったランスが使用され、通常はこの折れ曲がった部分に曲がり管(ベント管)が使用され、前後の直管に溶接されている。そして、特許文献1においては、曲がり部分の内面に曲がり管の内径の1/20〜1/2の高さを有する金属性の突片を設け、この突片の隙間部分に積極的に処理剤を溜めて、この部分の耐摩耗性を高めている。
【0003】
一方、特許文献2には、鋼管の内側に高炭素鋼よりなるクラッドメタルを肉盛溶接する方法が提案され、これにより鋼管の内側の耐摩耗性を確保している。
また、特許文献3に示すように、出願人は基材の表面にニッケル基合金やステンレス合金等を肉盛溶接して、基材の耐摩耗性を高めることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−222592号公報
【特許文献2】特開平10−8191号公報
【特許文献3】特開2008−93732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の技術では、突片の隙間に溜まった処理剤が成長し、時間の経過と共に、ランスの有効径が小さくなり、場合によってはランスが閉塞するという問題があった。
そこで、本出願人はこのランスの内部に耐摩耗性金属を肉盛溶接して、処理剤の詰まりを防止することを鋭意研究した。
【0006】
ところが、ランスの内側に使用される管(芯金)は通常直径が100mm以下の小径管となって、直管の場合は、溶接トーチを下向きにして管を回転させれば、ある程度の肉盛溶接は可能であるが、途中で折れ曲がった部分を肉盛溶接する場合、溶接トーチを溶接場所の凹凸に対応させて行う以外はなく、この場合、溶接箇所が必ずしも平面又は近似平面とはならず、このため、肉盛部となる溶融金属が傾斜面を流れ、安定した溶接が行えないという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、曲面を有する被溶接物(例えば、ベント部を有する鋼管)であって、その内側表面に円滑に耐摩耗性の肉盛溶接を行うことが可能な曲面の肉盛溶接方法及びそれを用いたランスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う第1の発明に係る曲面の肉盛溶接方法は、一部又は全部が曲面からなる鋼構造物の被溶接領域に、鉄製又はステンレス製の網材を仮止めする第1工程と、前記網材の上から肉盛溶接を行う第2工程とを有する。ここで、前記鋼構造物は、例えば鋼管(炭素鋼鋼管、ステンレス鋼鋼管のいずれも含む)であって、被溶接領域はその内側面であってもよい。
【0009】
第1の発明に係る曲面の肉盛溶接方法において、前記網材は、鋼製のエキスパンドメタルであるのが好ましいが、肉盛する溶湯の流れを邪魔するのであれば、他の金網材であっても使用できる。
【0010】
第2の発明に係る曲面の肉盛溶接方法は、第1の発明に係る曲面の肉盛溶接方法において、前記鋼構造物は炭素鋼であって、前記肉盛溶接を行う溶材は、耐熱耐摩耗性を有する高クロム鋳鉄系のワイヤであるとしている。ここで、前記溶材は、高温で耐摩耗性を有する溶接可能な金属であれば、他の金属であってもよい。
【0011】
また、第3の発明に係る曲面の肉盛溶接方法は、前記鋼構造物を鋼管とした第1、第2の発明に係る曲面の肉盛溶接方法において、前記鋼管は製鉄所で用いる溶融金属に添加材を吹き込むランスであって、前記被溶接領域は前記ランスの屈曲部分の半径方向外側領域である。この場合、前記被溶接領域は前記ランスの屈曲部分の半径方向外側稜線を中心にして180度以上の範囲(例えば、180〜280度)であるのがよい。
【0012】
第3の発明に係る曲面の肉盛溶接方法において、前記ランスの屈曲部分は、曲がり管と該曲がり管の端部に溶接される第1、第2の直管の一部からなって、前記被溶接領域は、前記第1、第2の直管と前記曲がり管との溶接部を除く、前記曲がり管と前記第1、第2の直管の前記溶接部近傍の領域であるとするのが好ましい。
【0013】
第4の発明に係るランスの製造方法は、以上の第1〜第3の発明に係る曲面の肉盛溶接方法を適用する。なお、ランスの内管の曲面(屈曲部分)以外の部分については、周知の方法を用いてランスを製造することが可能である。
【0014】
第4の発明に係るランスの製造方法において、前記肉盛溶接の表面を更に不定形耐火材で覆うこともできる。この場合、不定形耐火材は吹き付け又は溶射、場合によっては塗布によって行うことができる。不定形耐火材の厚みは1〜4mm程度が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る曲面の肉盛溶接方法は、一部又は全部が曲面となる鋼構造物の被溶接領域に、鉄製又はステンレス製の網材を仮止めした後、肉盛溶接を行うので、溶湯が網材によって堰止められて、肉盛溶接位置に残る。従って、耐摩耗性金属の肉盛溶接が支障なく行える。
【0016】
特に、鋼構造物の被溶接領域が例えば、製鉄所で用いるランスの内管の屈曲部分の半径方向外側の内面である場合には、その部分に耐熱耐磨耗性の金属を肉盛溶接することによって、その部分の硬質化が図られ、通過する粉又は粒状物による摩耗の進行度が遅れ、長期の寿命を有するランスとなる。
肉盛溶接を行う溶材として、耐熱耐摩耗性を有する金属の一例である高クロム鋳鉄系のワイヤを使用することによって溶接がより簡単になり、更に硬質の肉盛面が形成される。
【0017】
更に、網材として鋼製のエキスパンドメタルを用いることによって、材料入手が容易となり、溶接も容易となる。なお、このエキスパンドメタルが溶けて、肉盛金属の成分を希釈することになるが、母材も鋼であることもあって、鋼製のエキスパンドメタルを使用しても特に支障はない。
【0018】
更に、本発明に係る曲面の肉盛溶接方法を適用したランスの製造方法においては、ランス内面の屈曲部分に施工の容易な方法によって肉盛溶接がなされているので、溶接作業が安定し、肉盛溶接部の信頼性も向上する。
また、その肉盛金属の表面を不定形耐火材で覆うと、更にランスの寿命が延びる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(A)は本発明の第1の実施例に係る曲面の肉盛溶接方法を適用するランス(内管)の説明図、(B)は同図(A)のP−P’断面図である。
図2】(A)〜(C)はそれぞれ同曲面の肉盛溶接方法に用いるエキスパンドメタルの平面図である。
図3】ランスの側面図である。
図4】摩耗試験の試験装置の概略説明図である。
図5】摩耗試験の結果を示すグラフである。
図6】本発明の第2の実施例に係る曲面の肉盛溶接方法を適用するランスの説明図である。
図7】(A)は図6における矢視Q−Q’及びR−R’断面図で、(B)は図6における矢視S−S’断面図である(但し、外側の耐火物は省略している)。
図8】(A)〜(C)はそれぞれ本発明の第2の実施例に係る曲面の肉盛溶接方法に用いるエキスパンドメタルの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
続いて、添付した図面を参照しながら、本発明の第1の実施例に係る曲面の肉盛溶接方法及びランスの製造方法について説明する。
図3に、製鉄所で使用するトピードカー等で溶鋼(溶融金属)中に燃料ガスや添加材(例えば、酸化鉄粉や石灰粉)を吹き込むのに使用するランス10を示すが、ランス10は直管領域11と先部の折れ曲がり領域12を有して、各直線領域11及び折れ曲がり領域12は、外側が耐火物13で覆われ、内部は内管14(一部又は全部が曲面からなる鋼構造物である鋼管の一例)と外管15の二重管構造となっている。
【0021】
内管14及び外管15の間には少しの隙間が形成され、この隙間にはプロパンガスが流れ、内管14の内部に添加材が、例えば、空気、酸素ガス、窒素ガス、アルゴンガス又はこれらの混合ガスを用いて、気流搬送される構造となっている。
図1(A)、(B)に示すように、内管14の屈曲部分16の内側面18の半径方向外側領域(被溶接領域となる)には、高クロム鋳鉄による肉盛部19〜21が形成されている。以下、この肉盛部19〜21について詳細に説明する。
【0022】
内管14には、この実施例では、外径が60.5mmの炭素鋼鋼管(STPG)が使用されて、第1の直管23と短尺の第2の直管24がエルボ(115度の曲がり管、ベント)25を介して溶接にて連結されている。26、27はこれらの溶接部を示す。肉盛部19〜21は溶接部26、27を除く溶接部26、27近傍の領域に形成されている。外管15は内管14の外側にスペーサ等を介して少しの隙間(例えば5〜10mm)を有して設けられているが、構造は周知であるので省略する。なお、屈曲部分16は、エルボ25とエルボ25の端部に溶接される第1、第2の直管23、24の一部からなる。
【0023】
図2(A)、(C)に示すように、第1、第2の直管23、24及びエルボ24が溶接接合されていない状態で、第1、第2の直管23、24の管端から5〜15mmの位置に幅8〜15mmの網材の一例である鋼製のエキスパンドメタル29、30を180度円弧状に曲げた状態で配置し、溶接にて仮止めする。エキスパンドメタル29、30としては、メッシュ寸法が12〜25mm、板厚が1.2〜1.6mmのもの(例えば、JISG3351、XS31又はXS41)を使用する。
【0024】
また、図2(B)に示すように、エルボ25の内側面で曲がり半径が大きい部分(即ち、半径方向外側領域)に、両端部から5〜15mmの隙間を設けて、エルボ25の内側面半分に合わせて成形したエキスパンドメタル31を配置し、溶接にて仮止めする。このエキスパンドメタル31は第1、第2の直管23、24に使用したものと同一のものを使用する。
この状態で、エキスパンドメタル29〜31の上から耐熱耐摩耗性を有する金属の一例である高クロム鋳鉄系金属の肉盛溶接を行う。なお、図1(B)において角度αは被溶接領域の角度を示し、半径方向外側の稜線fを中心に円周方向にそれぞれ90度以上(即ち合計で180度以上)の領域を肉盛溶接している。
この場合、円周方向全領域を肉盛溶接することも可能であるが、半径方向内側は添加材が衝突しないので、積極的には必要ではない。半径方向内側に非肉盛溶接部を設けることによって、ガスの通過断面積が大きくなるという利点がある(以下の実施例においても同じ)。
【0025】
高クロム鋳鉄系金属の溶材としては高クロム鋳鉄系のフラックス入りワイヤを用い、炭酸ガスアーク溶接法で肉盛溶接を行う。これによって、内管14の内側表面が溶融し、エキスパンドメタル29〜31も部分的に溶融するが、エキスパンドメタル29〜31の各線材が堰を形成し、溶融金属の流れを制止する。勿論、エキスパンドメタル29〜31の一部が溶けて高クロム鋳鉄系金属が希釈される。また、エキスパンドメタル29〜31の一部は未溶融の状態で残ることがあるが、耐摩耗性には影響はない。
【0026】
ここで、必要がある場合、高クロム鋳鉄系の金属を2層又は多層盛りしてもよい。盛り数が多くなる程希釈率は高くなるが、手間もかかり厚みも厚くなるので、これらを考慮して行う必要がある。なお、肉盛金属の厚みは例えば3〜5mm程度である。
【0027】
この後、第1、第2の直管23、24の角度方向を合わせて、エルボ25の両端に仮付けした後、溶接する。この場合の溶接に使用する溶材は通常、鋼板を溶接するワイヤを使用する。これによって、溶接部26、27が形成される。内管14の内周面の溶接部26、27には幅約20mm程度の溝が形成されていることになるが、この溝内にはこのランス10を通過する添加材が堆積し、結果としてこの詰まった添加材が半径方向外側に配置される溶接部26、27の保護を行う。
【0028】
この肉盛部19〜21の特性について説明する。肉盛部19〜21の形成にあっては、溶接金属中に多量のクロム炭化物、及びNb、Mo、W、V等の炭化物を生成し、極めて高い硬度を示す。ロード10kgのビッカース硬さHVの最低硬さは882、最高硬さは960、平均硬さは921である。なお、HVは定数×試験力/くぼみの表面積(定数=0.102)で表される。
【0029】
次に、図4に示すエンドレスエメリー試験装置32を用いて、肉盛部19〜21の摩耗試験結果を示す。なお、図4において、33はベルト(SiC、#40)、34は試験片、35はストッパー、36はホルダーを示す。結果は図5に示す通りであった。即ち、SS400の摩耗量を1とすると、肉盛部19〜21の摩耗量は0.012であった。なお、HCRは、この肉盛溶接に使用した高クロム鋳鉄系のフィラー入りワイヤを示す。表1には、種々のHCRを用いて溶接した肉盛部19〜21の溶着金属の成分を示す。
【0030】
【表1】
【0031】
この表1から、溶着金属はCが5〜6.5wt%、Siが1.9〜2.3wt%、Mnが0.3〜0.45wt%、Crが22〜26wt%、Moが0又は0を超え5wt%、Vが0又は0を超え1.2wt%、Nbが3〜7wt%、Wが0又は0を超え4.5wt%の範囲であればよいことが判る。
【0032】
次に、図6図7(A)、(B)を参照しながら、本発明の第2の実施例に係る曲面の肉盛溶接方法について説明する。図1図5に示した第1の実施例と同一の構成要素については同一の番号を付して詳しい説明を省略する。
図6に示すように、ランス38は直管領域11と先部の折れ曲がり領域12を有して、各直線領域11及び折れ曲がり領域12は、外側が耐火物13で覆われ、内部は内管14(一部又は全部が曲面からなる鋼構造物である鋼管の一例)と外管15の二重管構造となっている。
【0033】
内管14及び外管15の間にプロパンガスが流れ、内管14の内部に添加材が気流搬送される構造となっていることは第1の実施例と同様である。
図7(A)、(B)に示すように、内管14の屈曲部分16の内側面18には、内側円筒部の稜線、即ち、屈曲部分16の半径方向外側稜線40を中心としてその円周方向両側に例えば、90〜135度(合計で180〜270度の被溶接領域となる)広がった高クロム鋳鉄による肉盛部41〜43が形成されている。この肉盛部41〜43の厚みは例えば3〜4mmとなっているが、本発明はこの数字には限定されない。
【0034】
この肉盛部41〜43の形成にあっては、図7(A)に示すように、第1、第2の直管23、24及びエルボ25が溶接接合されていない状態で、第1の直管(内管)23の管端から5〜15mmの内側位置に幅8〜15mmの網材の一例である鋼製のエキスパンドメタル45(図8(A)参照)を、例えば210〜220度の角度で円弧状に曲げた状態で配置し、溶接にて仮止めする。この状態で、エキスパンドメタル45の上からクロム鋳鉄系金属の肉盛溶接を行う。
【0035】
また、図7(A)に示すように、エルボ(内管)25の内側面18で曲がり半径が大きい部分(即ち、半径方向外側領域)に、両端部から5〜15mmの隙間を設けて、210〜220度位置に合わせて成形したエキスパンドメタル46(図8(B)参照)を配置し、溶接にて仮止めする。この状態で、エキスパンドメタル46の上からクロム鋳鉄系金属の肉盛溶接を行う。
【0036】
そして、肉盛部43の形成にあっては、図7(B)に示すように、第2の直管24の管端から5〜15mmの内側位置に幅8〜15mmの網材の一例である鋼製のエキスパンドメタル47(図8(C)参照)を、例えば260〜270度の角度で円弧状に曲げた状態で配置し、溶接にて仮止めする。この状態で、エキスパンドメタル47の上からクロム鋳鉄系金属の肉盛溶接を行う。なお、エキスパンドメタル45〜47は前記第1の実施例で説明したものと同一のものを使用する。
【0037】
肉盛部43の領域が肉盛部41、42の領域より円周方向に広くなっているのは、この部分で添加材の流れが広がり、220度を超える非肉盛部の摩耗が激しくなるからである。高クロム鋳鉄系金属の溶材としては高クロム鋳鉄系のフラックス入りワイヤを用い、炭酸ガスアーク溶接法で肉盛溶接を行う。これによって、内管14の内側表面が溶融し、エキスパンドメタル45〜47も部分的に溶融するが、エキスパンドメタル45〜47の各線材が堰を形成し、溶融金属の流れを制止する。その他の溶接条件、作用については第1の実施例に係る曲面の肉盛溶接方法と同一である。
【0038】
この曲面の肉盛溶接方法を用いてランスを製造するが、屈曲部分に上記した方法による肉盛溶接を行う以外は、日本国特許公開2011−17529号公報、日本国特許公開2010−222592号公報等でも知られた周知方法であるので、詳しい説明を省略する。
また、肉盛部19〜21、41〜43の一部(例えば、肉盛部20、42)又は全部の表面に不定形耐火材を被覆することもでき、これによってランスの寿命の延長を図ることができる。この場合の不定形耐火材としては、周知のアルミナとシリカの粉体及び必要なバインダーを原料とするのが好ましい。
【0039】
本発明は前記した実施例に限定されるものではなく、例えば、肉盛部を形成する溶接金属は、耐熱耐摩耗性を有するものであれば、他の溶材を使用することもできる。また、前記実施例は数値を限定して説明したが、本発明は実施例に記載の数値に限定されるものではない。
更に、前記実施例では、ランスの内管に限定して説明したが、パイプ以外の曲面に肉盛をする場合にも本発明は適用できる。また、パイプの内面に肉盛した後で、肉盛表面や、肉盛した部分のパイプの外側又は内側に、耐熱性又は耐摩耗性を有する溶射皮膜を形成することもできる。
そして、前記実施例においては、網材として鋼製のエキスパンドメタルを用いたが、その他の金網、場合によってはステンレス製のエキスパンドメタル、あるいは鉄製又はステンレス製の金網を用いることもできる。
【符号の説明】
【0040】
10:ランス、11:直管領域、12:折れ曲がり領域、13:耐火物、14:内管、15:外管、16:屈曲部分、18:内側面、19〜21:肉盛部、23:第1の直管、24:第2の直管、25:エルボ、26、27:溶接部、29〜31:エキスパンドメタル、32:エンドレスエメリー試験装置、33:ベルト、34:試験片、35:ストッパー、36:ホルダー、38:ランス、40:半径方向外側稜線、41〜43:肉盛部、45〜47:エキスパンドメタル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8