(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5951632
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】超塑性成形用ブランク
(51)【国際特許分類】
B21D 26/055 20110101AFI20160630BHJP
B21D 37/18 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
B21D26/055
B21D37/18
【請求項の数】34
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-543474(P2013-543474)
(86)(22)【出願日】2011年12月16日
(65)【公表番号】特表2013-545618(P2013-545618A)
(43)【公表日】2013年12月26日
(86)【国際出願番号】CA2011001375
(87)【国際公開番号】WO2012079157
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年11月17日
(31)【優先権主張番号】61/424,313
(32)【優先日】2010年12月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501241575
【氏名又は名称】マグナ インターナショナル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】シュルキン ボリス
(72)【発明者】
【氏名】ココシャ ウィリアム エイ
(72)【発明者】
【氏名】アムトマン マクシミリアン
【審査官】
福島 和幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−337935(JP,A)
【文献】
実開昭61−139773(JP,U)
【文献】
米国特許第04138284(US,A)
【文献】
実開昭63−133377(JP,U)
【文献】
特開2008−114287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 26/055
B21D 22/20
B21D 37/18
B05B 12/00−13/06
B05B 15/00−15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑材料のコーティングを板金ブランクの表面に被着させるシステムであって、
前記板金ブランクを支持して前記板金ブランクの前記表面が前記潤滑材料の前記コーティングを受け取るよう差し向けられるようにするマウントと、
前記板金ブランクの前記表面の所定の領域が前記潤滑材料の前記コーティングを受け取ることがないよう前記所定領域を保護するマスクテンプレートであって、前記所定領域よりも大きく寸法決めされ、前記潤滑材料の前記コーティングの前記被着中、前記板金ブランクの前記表面の方へ向く表面を有するマスクテンプレートと、を備え、
前記マスクテンプレートは、
前記マスクテンプレートの前記表面から第1の距離だけ離れたところまで延びるオーバースプレフェンスであって、前記所定領域の寸法形状である区域を包囲するオーバースプレフェンスと、
前記マスクテンプレートの前記表面から離れた前記第1の距離よりも大きな第2の距離のところまで延びる少なくとも1つの接触要素であって、前記板金ブランクの前記表面に係合すると共に前記潤滑材料の前記コーティングの前記被着中、前記マスクテンプレートを前記板金ブランクの前記表面に取外し可能に固定することができる少なくとも1つの接触要素と、
前記潤滑材料を前記板金ブランクの前記表面に向かって噴霧するスプレイヤ組立体と、を有し、
前記オーバースプレフェンスは、前記少なくとも1つの接触要素が前記マスクテンプレートを前記板金ブランクの前記表面に取外し可能に固定したときに前記板金ブランクの前記表面から間隔を置いて配置される、
ことを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記マスクテンプレートは、前記マスクテンプレートの周縁を定める縁を有し、前記オーバースプレフェンスは、前記マスクテンプレートの前記周縁周りに実質的に一様な距離だけ前記縁から引っ込められている、
請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記少なくとも1つの接触要素は、前記オーバースプレフェンスによって包囲された区域内に位置する前記マスクテンプレートの前記表面の一部分から延びている、
請求項1記載のシステム。
【請求項4】
前記少なくとも1つの接触要素は、前記マスクテンプレートを前記板金ブランクと離隔関係をなして支持している、
請求項1記載のシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの接触要素は、吸引グリッパから成る、
請求項1記載のシステム。
【請求項6】
前記マスクテンプレートは、前記少なくとも1つの接触要素が前記板金ブランクの前記表面から間隔を置いて位置する第1の位置と、前記少なくとも1つの接触要素が前記板金ブランクの前記表面に係合する第2の位置との間で動くことができる、
請求項1記載のシステム。
【請求項7】
ベース要素に回動可能に取り付けられた第1の端部及び前記第1の端部と反対側の第2の端部を有する支持アームを含み、前記第2の端部は、前記マスクテンプレートを支持し、前記支持アームの回動により、前記マスクテンプレートは、前記少なくとも1つの接触要素が前記板金ブランクの前記表面から間隔を置いて位置する第1の位置と、前記少なくとも1つの接触要素が前記板金ブランクの前記表面に係合する第2の位置との間で動く、
請求項1記載のシステム。
【請求項8】
前記マウントは、前記板金ブランクをその1つの縁に沿って把持するグリッパを有し、前記板金ブランクは、前記グリッパが前記板金ブランクをその前記1つの縁に沿って把持したときに前記マウントの下に吊り下げられる、
請求項1記載のシステム。
【請求項9】
前記スプレイヤ組立体は、前記潤滑材料のスプレーを前記板金ブランクの前記表面に実質的に垂直な方向に提供するよう配置されている、
請求項1記載のシステム。
【請求項10】
前記マウントは、複数のマウントを有する塗装ライン上に位置し、前記マウントは、前記板金ブランクが前記マスクテンプレートに隣接して配置される第1の場所と前記板金ブランクが前記マスクテンプレートに隣接して配置されていない第2の場所との間で前記塗装ラインの方向に沿って動くことができる、
請求項1記載のシステム。
【請求項11】
板金ブランクの表面の所定の領域が潤滑材料のコーティングを受け取らないよう前記所定領域を保護するマスクテンプレートであって、
前記所定領域よりも大きく寸法決めされたマスク要素であって、その第1の側に設けられた第1の表面、前記第1の側と反対側の第2の側に設けられた第2の表面及び前記第1の表面と前記第2の表面を接合すると共に前記マスク要素の周縁を定める縁を有するマスク要素と、
前記マスクテンプレートの前記第1の表面から第1の距離遠ざかったところまで延びるオーバースプレフェンスであって、前記所定領域の寸法形状である区域を包囲するオーバースプレフェンスと、を備え、
前記マスク要素の前記第1の表面から前記第1の距離よりも長い第2の距離遠ざかったところまで延びる少なくとも1つの接触要素を含み、前記少なくとも1つの接触要素は、前記板金ブランクの前記表面に係合すると共に前記マスクテンプレートを前記板金ブランクの前記表面に取外し可能に固定することができ、
前記オーバースプレフェンスは、前記少なくとも1つの接触要素が前記マスクテンプレートを前記板金ブランクの前記表面に取外し可能に固定したときに前記板金ブランクの前記表面から間隔を置いて配置される、
ことを特徴とするマスクテンプレート。
【請求項12】
前記オーバースプレフェンスは、前記マスクテンプレートの前記周縁周りに実質的に一様な距離だけ前記縁から引っ込められている、
請求項11記載のマスクテンプレート。
【請求項13】
前記少なくとも1つの接触要素は、前記オーバースプレフェンスによって包囲された前記区域内に位置する前記第1の表面の一部分から延びている、
請求項11記載のマスクテンプレート。
【請求項14】
前記少なくとも1つの接触要素は、吸引グリッパから成る、
請求項11記載のマスクテンプレート。
【請求項15】
潤滑材料のコーティングを板金ブランクの表面に選択的に被着させる方法であって、
前記板金シートブランクの前記表面が前記潤滑材料の前記コーティングを受け取る向きに配置された状態で前記板金ブランクを用意するステップを含み、前記表面の所定領域が前記コーティングを受け取ることがないよう保護されることになっており、
マスクテンプレートを用意するステップを含み、前記マスクテンプレートは、
前記所定領域よりも大きく寸法決めされたマスク要素と、
前記所定領域の寸法形状を有する区域を包囲したオーバースプレフェンスと、
前記マスクテンプレートを前記板金ブランクに取外し可能に固定する接触要素とを有し、前記オーバースプレフェンス及び前記接触要素は、前記マスクテンプレートの1つの側に沿って表面から延び、前記接触要素は、前記オーバースプレフェンスよりも前記マスク要素から更に遠くに延び、
前記マスクテンプレートを前記接触要素により前記板金ブランクの前記表面に取外し可能に固定するステップを含み、
前記潤滑材料のスプレーを前記マスクテンプレート及び前記板金ブランクの前記表面の方へ差し向けるステップを含み、
前記マスクテンプレートを前記板金ブランクの前記表面から取外しするステップを含み、
実質的に一様な厚さを有する前記潤滑材料のコーティングが前記マスクテンプレートの周りで前記表面の露出領域上に形成され、漸減する厚さを有する前記潤滑材料のコーティングが前記表面の前記所定領域中に延びる状態で前記露出領域に隣接して形成される、
ことを特徴とする方法。
【請求項16】
前記潤滑材料の前記コーティングは、前記表面の前記所定領域内で実質的にゼロの厚さまで減少する、
請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記潤滑材料の前記コーティングは、前記表面の前記所定領域内で、前記表面の前記露出領域の前記一様な厚さよりも小さいゼロではない最小厚さまで減少する、
請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記所定領域の少なくとも一部分には実質的に前記潤滑材料の前記コーティングがなく、前記漸減する厚さを有する前記潤滑材料の前記コーティングは、前記表面の前記露出領域と前記潤滑材料の前記コーティングが実質的にない前記所定領域の前記少なくとも一部分との間に非階段状移行部を備える、
請求項15記載の方法。
【請求項19】
前記板金ブランクを用意する前記ステップは、前記板金ブランクをその1つの縁に沿って把持して前記板金ブランクが把持要素の下に吊り下げられるようにするステップを含む、
請求項15記載の方法。
【請求項20】
前記把持要素は、塗装ラインの複数の把持要素のうちの1つであり、前記把持要素は、前記板金ブランクが前記マスクテンプレートに隣接して配置される第1の場所と前記板金ブランクが前記マスクテンプレートに隣接して配置されていない第2の場所との間で前記塗装ラインの方向に沿って動くことができる、
請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記潤滑材料の前記スプレーは、前記板金ブランクの前記表面に実質的に垂直な方向に沿って差し向けられる、請求項15記載の方法。
【請求項22】
前記所定領域は、前記板金ブランクの超塑性成形中、スリップライン減少を可能にするよう選択される、
請求項15記載の方法。
【請求項23】
選択的に被覆される板金ブランクの超塑性成形によって異形製品を製造する方法であって、
前記異形製品の最終形状を形成する特徴部を備えたダイを備えたツールを用意するステップと、
実質的に一様な厚さの潤滑材料のコーティングを備えた第1の表面領域、前記潤滑材料のコーティングが実質的になく、前記実質的に一様な厚さよりも小さい最小厚さまで漸減する厚さを備えた前記潤滑材料のコーティングで被覆された第2の表面領域及び前記第1の表面領域と前記第2の表面領域との間に設けられていて、前記第1の表面領域から前記第2の表面領域に向かう方向に漸減する厚さの前記潤滑材料のコーティングを備えた第3の表面領域を有する選択的に被覆された板金ブランクを用意するステップと、
前記選択的に被覆された板金ブランクを前記ツール内に装填するステップと、
前記選択的に被覆された板金ブランクを超塑性成形によって成形して前記第2の表面領域がスリップライン減少区域をもたらすようにするステップと、を備えている、
ことを特徴とする方法。
【請求項24】
前記第3の表面領域は、前記第1の領域と前記第2の表面領域との間の非階段状移行領域を構成する、
請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記第2の表面領域は、前記超塑性成形中、ダイの鋭い特徴線に接触する前記選択的に被覆された板金ブランクの領域である、
請求項23記載の方法。
【請求項26】
超塑性成形のための板金ブランクであって、
超塑性成形を受けるのに適した組成及び厚さを有すると共に一方の側に表面を備えた金属合金のシートを含み、前記金属合金シートは、
実質的に一様な厚さの潤滑材料のコーティングを備えた第1の表面領域と、
前記潤滑材料のコーティングが実質的にない領域であって、前記実質的に一様な厚さよりも小さい最小厚さまで漸減する厚さを備えた前記潤滑材料のコーティングで被覆された第2の表面領域と、
前記第1の表面領域と前記第2の表面領域との間に設けられていて、前記第1の表面領域から前記第2の表面領域に向かう方向に漸減する厚さの前記潤滑材料のコーティングを備えた第3の表面領域とを有し、
前記第2の表面領域は、前記超塑性成形中、フォーミングダイの鋭い特徴線に接触する前記板金ブランクの領域である、
ことを特徴とする板金ブランク。
【請求項27】
前記潤滑材料の前記コーティングは、前記表面の前記所定領域内で実質的にゼロの厚さまで減少する、
請求項26記載の板金ブランク。
【請求項28】
前記最小厚さは、前記第1の表面領域の前記実質的に一様な厚さよりも小さいゼロではない最小厚さである、
請求項26記載の板金ブランク。
【請求項29】
前記第3の表面領域は、前記第1の領域と前記第2の表面領域との間の非階段状移行領域を構成する、
請求項28記載の板金ブランク。
【請求項30】
潤滑材料のコーティングを板金ブランクの表面に選択的に被着させる方法であって、
実質的に一様な第1の厚さを有する前記潤滑材料のコーティングを受け取ることがない前記板金ブランクの第1の表面領域を決定するステップと、
前記実質的に一様な第1の厚さを有する前記潤滑材料のコーティングを前記第1の表面領域とオーバーラップしていない第2の表面領域に被着させるステップと、
前記第2の表面領域から前記第1の表面領域に向かう方向に厚さが漸減する前記潤滑材料のコーティングを前記第2の表面領域に隣接して位置する第3の表面領域に被着させるステップと、を備え、
前記第1の表面領域は、超塑性成形中、フォーミングダイの鋭い特徴線に接触する前記板金ブランクの領域である、
ことを特徴とする方法。
【請求項31】
前記第3の表面領域は、前記第1の表面領域とオーバーラップしている、
請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記第3の表面領域に被着された前記潤滑材料の前記コーティングは、前記第1の表面領域内で実質的にゼロの厚さまで減少している、
請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記第3の表面領域に被着された前記潤滑材料の前記コーティングは、前記実質的に一様な第1の厚さよりも小さいゼロではない最小厚さまで減少している、
請求項31記載の方法。
【請求項34】
前記第3の表面領域は、前記第1の領域と前記第2の表面領域との間の非階段状移行領域を構成する、
請求項30記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、超塑性成形のためのブランクに関し、特に、潤滑材料、例えば窒化硼素のコーティングを板金ブランクの表面に被着させるシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超弾性金属合金、例えばアルミニウム、マグネシウム、ステンレス鋼及びチタンの或る特定の細粒合金は、比較的延性が高く、小さい付形力下において相当な引張り変形を生じ得る。このような材料は、適当な成形温度で複雑な形状の部品、例えば自動車車体部品等を製造するフォーミングツール(二次成形型ともいう)上に又はダイキャビティ中に延伸され成形される。このプロセスは、超塑性成形と呼ばれる場合が多い。
【0003】
超塑性成形では、板金ブランクを一方の面又は側がプレス内において加熱状態のフォーミングツールの熱成形面の近くに位置した状態で位置決めする。板金又は金属シートをその成形温度まで予熱する場合が多く、そして相補形状の向かい合ったダイ相互間でその周縁部を把持する。加圧流体、例えば空気を金属シートの他方の側(面)に当て、それにより金属シートを延伸させて一方のダイの成形面に合致させる一方で、成形サイクル全体を通じて金属シートを変形させるための標的歪速度を維持する。対向したダイは、金属シートの加圧側に空気チャンバをもたらす。材料の超塑性により、通常は従来型室温金属成形プロセスによっては成形できない複雑なコンポーネントの成形が可能である。例えば、超塑性成形法の利用により、深いキャビティ又は極めて小さなアール上に形成されたキャビティを備える工作物の成形が可能である。さらに、超塑性成形により、他のプロセス、例えば板金スタンピングによっては作ることができない大きな単一部品の製造が可能である場合が多い。超塑性成形を利用して成形された単一部品は、非超塑性成形材料及びプロセスから作られた数個の部品の組立体に取って代わる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
製造作業では、加熱状態の板金工作物をプレス上に配置し、加熱状態のツールで成形し、そして取り出すという作業を繰り返す。変形中の金属工作物とフォーミングツールとの滑り接触により、摩擦及び付着と関連した問題が生じる場合が多い。典型的には、このプロセスでは、フォーミングツールの成形面上での材料の流れを容易にするために潤滑材が用いられる。潤滑材は、部品がツール表面にくっつくのを阻止する取外し補助手段としての役目も果たす。公知の潤滑材技術としては、窒化硼素、金属シートへの窒化硼素の付着を促進する結合剤系を含む水を主成分としてスラリ及び黒鉛スラリが挙げられる。
当然のことながら、窒化硼素スラリと黒鉛スラリには両方とも幾つかの欠点がある。第1に、固体潤滑材、例えば窒化硼素は、ダイ中に迅速に堆積する傾向があり、その結果、クリーニングのための保守作動停止時間が生じる。定期的に除去されなければ、この堆積が集まってダイ内で硬化し、その結果、新たに成形される部品の欠陥が生じる。さらに、固体潤滑材の使用により、金属シートがフォーミングツール上の鋭い特徴部上を滑ったことの結果として完成部品に欠陥、例えばスキッドライン又はスリップラインが生じる場合がある。
【0005】
潤滑材料のコーティングを板金ブランクの表面に被着させるシステム及び方法であって、先行技術の上述の欠点のうちの少なくとも幾つかを解決したシステム及び方法を提供することが有益である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様によれば、本発明は、潤滑材料のコーティングを板金ブランクの表面に被着させるシステムであって、このシステムは板金ブランクを支持して板金ブランクの表面が潤滑材料のコーティングを受け取るよう差し向けられるようにするマウントと、板金ブランクの表面の所定の領域が潤滑材料のコーティングを受け取ることがないよう所定領域を保護するマスクテンプレートとを含み、マスクテンプレートは、所定領域よりも大きく寸法決めされており、マスクテンプレートは、潤滑材料のコーティングの被着中、板金ブランクの表面の方へ向く表面を有し、マスクテンプレートは、マスクテンプレートの表面から第1の距離遠ざかったところまで延びるオーバースプレフェンスを有し、オーバースプレフェンスは、所定領域の寸法形状である区域を包囲し、マスクテンプレートは、マスクテンプレートの表面から遠ざかった第1の距離よりも大きな第2の距離のところまで延びる少なくとも1つの接触要素を更に有し、少なくとも1つの接触要素は、板金ブランクの表面に係合すると共に潤滑材料のコーティングの被着中、マスクテンプレートを板金ブランクの表面に取外し可能に固定することができ、このシステムは潤滑材料を板金ブランクの表面に向かって噴霧するスプレイヤ組立体を更に含み、オーバースプレフェンスは、少なくとも1つの接触要素がマスクテンプレートを板金ブランクの表面に取外し可能に固定したときに板金ブランクの表面から間隔を置いて配置されることを特徴とするシステムに関する。
【0007】
別の態様によれば、本発明は、板金ブランクの表面の所定の領域が潤滑材料のコーティングを受け取らないよう所定領域を保護するマスクテンプレートであって、マスクテンプレートは、所定領域よりも大きく寸法決めされたマスク要素を含み、マスク要素は、その第1の側に設けられた第1の表面、第1の側と反対側の第2の側に設けられた第2の表面及び第1の表面と第2の表面を接合すると共にマスク要素の周縁を定める縁を有し、マスクテンプレートは、マスクテンプレートの第1の表面から第1の距離遠ざかったところまで延びるオーバースプレフェンスを更に含みオーバースプレフェンスは、所定領域の寸法形状である区域を包囲し、マスクテンプレートは、更に、マスク要素の第1の表面から第1の距離よりも長い第2の距離遠ざかったところまで延びる少なくとも1つの接触要素を含み、少なくとも1つの接触要素は、板金ブランクの表面に係合すると共にマスクテンプレートを板金ブランクの表面に取外し可能に固定することができ、オーバースプレフェンスは、少なくとも1つの接触要素がマスクテンプレートを板金ブランクの表面に取外し可能に固定したときに板金ブランクの表面から間隔を置いて配置されることを特徴とするマスクテンプレートに関する。
【0008】
別の態様によれば、本発明は、潤滑材料のコーティングを板金ブランクの表面に選択的に被着させる方法であって、この方法は、板金シートブランクの表面が潤滑材料のコーティングを受け取る向きに配置された状態で板金ブランクを用意するステップを含み、表面の所定領域がコーティングを受け取ることがないよう保護されることになっており、この方法は、マスクテンプレートを用意するステップを更に含み、マスクテンプレートは、所定領域よりも大きく寸法決めされたマスク要素と、所定領域の寸法形状を有する区域を包囲したオーバースプレフェンスと、マスクテンプレートを板金ブランクに取外し可能に固定する接触要素とを有し、オーバースプレフェンス及び接触要素は、マスクテンプレートの1つの側に沿って表面から延び、接触要素は、オーバースプレフェンスよりもマスク要素から更に遠くに延び、この方法は、マスクテンプレートを接触要素により板金ブランクの表面に取外し可能に固定するステップと、潤滑材料のスプレーをマスクテンプレート及び板金ブランクの表面の方へ差し向けるステップと、マスクテンプレートを板金ブランクの表面から取外しするステップとを更に含み、実質的に一様な厚さを有する潤滑材料のコーティングがマスクテンプレートの周りで表面の露出領域上に形成され、漸減する厚さを有する潤滑材料のコーティングが表面の所定領域中に延びる状態で露出領域に隣接して形成されることを特徴とする方法に関する。
【0009】
別の態様によれば、本発明は、選択的に被覆される板金ブランクの超塑性成形によって異形製品を製造する方法であって、異形製品の最終形状を形成する特徴部を備えたダイを備えたツールを用意するステップと、実質的に一様な厚さの潤滑材料のコーティングを備えた第1の表面領域、潤滑材料のコーティングが実質的になく、実質的に一様な厚さよりも小さい最小厚さまで漸減する厚さを備えた潤滑材料のコーティングで被覆された第2の表面領域及び第1の表面領域と第2の表面領域との間に設けられていて、第1の表面領域から第2の表面領域に向かう方向に漸減する厚さの潤滑材料のコーティングを備えた第3の表面領域を有する選択的に被覆された板金ブランクを用意するステップと、選択的に被覆された板金ブランクをツール内に装填するステップと、選択的に被覆された板金ブランクを超塑性成形によって成形して第2の表面領域がスリップライン減少区域をもたらすようにするステップとを含むことを特徴とする方法に関する。
【0010】
別の態様によれば、本発明は、超塑性成形のための板金ブランクであって、板金ブランクは、超塑性成形を受けるのに適した組成及び厚さを有すると共に一方の側に表面を備えた金属合金のシートを含み、金属合金シートは、実質的に一様な厚さの潤滑材料のコーティングを備えた第1の表面領域と、潤滑材料のコーティングが実質的にない領域であって、実質的に一様な厚さよりも小さい最小厚さまで漸減する厚さを備えた潤滑材料のコーティングで被覆された第2の表面領域と、第1の表面領域と第2の表面領域との間に設けられていて、第1の表面領域から第2の表面領域に向かう方向に漸減する厚さの潤滑材料のコーティングを備えた第3の表面領域とを有し、第2の表面領域は、超塑性成形中、フォーミングダイの鋭い特徴線に接触する板金ブランクの領域であることを特徴とする板金ブランクに関する。
【0011】
別の態様によれば、本発明は、潤滑材料のコーティングを板金ブランクの表面に選択的に被着させる方法であって、実質的に一様な第1の厚さを有する潤滑材料のコーティングを受け取ることがない板金ブランクの第1の表面領域を決定するステップと、実質的に一様な第1の厚さを有する潤滑材料のコーティングを第1の表面領域とオーバーラップしていない第2の表面領域に被着させるステップと、第2の表面領域から第1の表面領域に向かう方向に厚さが漸減する潤滑材料のコーティングを第2の表面領域に隣接して位置する第3の表面領域に被着させるステップとを含み、第1の表面領域は、超塑性成形中、フォーミングダイの鋭い特徴線に接触する板金ブランクの領域であることを特徴とする方法に関する。
【0012】
次に、添付の図面を参照して本発明を説明するが、これは例示に過ぎず、幾つかの図全体にわたり、同一の参照符号は、同一の要素を示している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態としてのマスクテンプレートを示す平面図である。
【
図2】
図1に示されているマスクテンプレートの底面図である。
【
図3】
図1に示されているマスクテンプレートの側面図である。
【
図4】
図3の破線の円内の細部を拡大して示す側面図である。
【
図5】
図1のマスクテンプレートを含むシステムを示す単純化側面図である。
【
図6】潤滑材料のコーティングを板金ブランクの表面に選択的に被着させる方法の単純化されたフローチャートである。
【
図7】選択的に被覆された板金ブランクの超塑性成形により異形製品を製造する方法の単純化されたフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の説明は、当業者が本発明を構成して利用することができるようにするために提供されており、特定の用途及びその要件との関連で提供されている。開示する実施形態の種々の改造例は、当業者には容易に明らかであり、本発明の一般的原理は、本発明の範囲から逸脱することなく他の実施形態及び用途に利用できる。かくして、本発明は、開示する実施形態に限定されるものではなく、本明細書において開示する原理及び特徴と一致して最も広い範囲が与えられるものである。
【0015】
図1を参照すると、
図1には、板金ブランク100がマスクテンプレート100に隣接した状態で示されている。また、マスクテンプレート102の底面図である
図2を参照する。特に、板金ブランク100は、超塑性成形により成形されるのに適した平らな延性のある金属合金シートである。例えば、板金ブランク100は、アルミニウム合金5083から作られ、この板金ブランクの厚さは、約1mm〜約3mmである。オプションとして、これに代えて、別の適当なアルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金又はステンレス鋼合金が使用される。当初、板金ブランク100は、潤滑材料、例えば窒化硼素又は別の適当な潤滑材料のコーティングを備えていない。
【0016】
マスクテンプレート102は、板金ブランク100への潤滑材コーティングの被着中、スプレイヤ組立体(図示せず)の方へ向く第1の表面102aを備えたマスク要素を有する。また、
図1には、マスク要素を貫通して延びる複数の接触要素104の取り付け端部が示されており、このような接触要素については以下の段落において詳細に説明する。マスクテンプレート102の機能は、板金ブランク100の表面の所定の領域を潤滑性の材料のコーティングの受け取りから保護することにある。この目的のため、マスクテンプレート102は、保護されるべき所定の領域と全体として同一形状を有するが、マスクテンプレートは、保護されるべき所定の領域よりも大きく寸法決めされている。換言すると、マスクテンプレート102の縁は、所定の領域からはみ出ており、したがって、マスクテンプレート102の第2の表面102bが所定の領域及び所定の領域の周りに延びる辺縁領域を含む板金ブランクの一部分に向くようになっている。板金ブランク100の表面の残部は、露出領域であると考えられる。即ち、スプレイヤ組立体が露出領域内に位置する表面箇所に垂直な方向に沿って潤滑材料を噴霧する場合、潤滑材料が直線経路に沿ってこの表面箇所まで移動するのを阻止するものが何もない。
【0017】
次に
図2のみを参照すると、オーバースプレフェンス200がマスクテンプレート102の第2の表面102bに沿って設けられている。オーバースプレフェンス200は、保護されるべき板金ブランク100の表面の所定領域と同一の寸法形状を有する領域202を包囲している。マスクテンプレート102の一部分204がオーバースプレフェンスから「張り出している」。また、接触要素104が
図2により明確に示されている。一実施形態では、接触要素は、吸引グリッパである。当然のことながら、板金ブランク100を作るために用いられる材料に応じて、他形式の接触要素、例えば磁気接触要素を用いることができる。接触要素104の各々は、オーバースプレフェンス200により包囲された第2の表面102bの一部分から遠ざかって延びている。この実施例では、4つの接触要素104が図示されている。マスクテンプレート102の寸法形状に応じて、5つ以上又は3つ以下の接触要素104を採用することができる。一般に、マスクテンプレート102が板金ブランク100に取外し可能に固定されるようにするためには少なくとも1つの接触要素104が必要である。
【0018】
次に
図3を参照すると、接触要素104が板金ブランク100の表面と係合状態に配置された状態でマスクテンプレート102の側面図が示されている。オーバースプレフェンス200は、マスクテンプレート102の第2の表面102bから第1の距離遠ざかったところまで延び、接触要素104は、マスクテンプレート102の第2の表面102bから第1の距離よりも長い第2の距離遠ざかったところまで延びている。したがって、
図3に示されているように、拙速要素104が板金ブランク100に取外し可能に係合すると、オーバースプレフェンス200は、板金ブランク100の表面から間隔を置いて位置し、その結果、オーバースプレフェンス200と板金ブランク100との間には実質的に一様な隙間が生じるようになっている。特定の且つ非限定的な実施例として、接触要素104は、マスクテンプレート102の第2の表面102bから15mmの距離のところまで延び、オーバースプレフェンス200は、マスクテンプレート102の第2の表面102bから12mmの距離のところまで延びている。この実施例では、板金ブランク100の表面とオーバースプレフェンス200との間には3mmの間隔が存在する。以下の段落において詳細に説明するように、オーバースプレフェンス200と板金ブランク100の表面との間における実質的に一様な隙間の存在の結果として、有利な厚さプロフィールを備えた潤滑材料のコーティングが形成される。
【0019】
依然として
図3を参照すると、マスクテンプレート102の第2の表面102bと板金ブランク100の表面の辺縁領域との間にオーバースプレフェンス200の周縁の外側に位置した第1の空間部300が存在する。更に、マスクテンプレート102の第2の表面102bと板金ブランク100の表面の所定領域との間にオーバースプレフェンス200の周縁の内側に位置した第2の空間部302が存在する。この実施例では、オーバースプレフェンス200は、マスクテンプレート102の縁から約50mm引っ込められている。オーバースプレフェンス200は、マスクテンプレート102の縁から実質的に一様な距離だけ引っ込められている。そういうわけで、オプションとして、オーバースプレフェンス200は、マスクテンプレート102の小さな特徴部、例えば
図2においてマスクテンプレート102の左上コーナー部から突き出た小さな延長部を正確には辿っていない。
【0020】
図4は、
図3の破線の円内の細部を拡大して示す側面図である。特に、
図4は、潤滑材料コーティング400の被着後の板金ブランク100の表面を示している。
図4の区域“A”が板金ブランク100の表面の露出領域内に位置している。潤滑材料コーティング400は、区域“A”内に実質的に一様な厚さを有する。更に、潤滑材料コーティングは、区域“A”内に最大厚さを有する。区域“B”が
図3に示されている空間部300内に位置し、この区域“B”内では、潤滑材料コーティング400が漸減厚さを有し、この潤滑材料コーティング400は、所定の領域に隣接して板金ブランク100の辺縁領域に被着されている。
図3には、辺縁領域に被着されたコーティングは、実質的に直線状に厚さが減少するものとして示されているが、実際には、厚さの減少は、直線状でなくても良い。区域“C”がオーバースプレフェンス200と板金ブランク100の表面との間に形成された隙間内の領域に対応している。オーバースプレフェンス200と板金ブランク100の表面との間の隙間は、僅かな値のものであるよう選択されており、したがって、ほんの僅かな量の潤滑材料が隙間を通り、空間部302に入り、そして板金ブランク100の所定の領域上に沈殿するようになる。かくして、板金ブランク100の所定の領域は、潤滑材料のコーティング400を受け取ることがないよう保護されると考えられるが、それにもかかわらず、有限量の潤滑材料が所定領域上に塗布される。特に、オーバースプレフェンス200がマスクテンプレート102の縁から引っ込められる距離及びオーバースプレフェンス200と板金ブランク100の表面との間の隙間サイズは、「最小」用の潤滑材料が所定領域上に塗布されて効果的なスリップライン除去を可能にすると同時に板金ブランク100の所定の領域が超塑性成形中、フォーミングツールの表面にくっつくことがないようになっている。したがって、所定の領域は、露出領域内のコーティングと同じほどの厚さの潤滑材料コーティングを受け取ることがないよう保護される。少なくとも1つの実施形態では、潤滑材料コーティングは、所定領域内で実質的にゼロの厚さまで減少する。少なくとも1つの他の実施形態では、潤滑材料コーティングは、露出領域内の一様な厚さよりも小さいゼロではない最小厚さまで減少する。
【0021】
次に
図5を参照すると、本発明の実施形態に従って潤滑材料のコーティングを板金ブランク100に被着させるシステム500の単純化された側面図が示されている。マウント502が板金ブランク100をその1つの縁部に沿って把持し、板金ブランク100は、マウント502の下に吊り下げられるようになる。板金ブランク100は、その一方の面が潤滑材料のコーティングを受け取ることができるよう差し向けられるように把持される。支持アーム504の第1の端部506がピボットピン510によりベース要素508に回動可能に取り付けられている。マスクテンプレート102は、第1の端部と反対側の支持アーム504の第2の端部512のところで支持されている。支持アーム504をピボットピン510回りに回動させることにより、マスクテンプレート102は、マスクテンプレート102の接触要素104が板金ブランク100の表面から間隔を置いて配置される第1の位置(
図5に示されている)と接触要素104が板金ブランク100の表面に係合する第2の位置(
図5には示されていない)との間で動く。例えば、空気圧アクチュエータ514がピボットアーム504を第1の位置と第2の位置との間で駆動する。一実施形態では、ピボットアーム504は、マスクテンプレートを2つの場所で支持する平衡型ピボットフレームである。
【0022】
依然として
図5を参照し、ピボットアーム504を第2の位置に動かすと、マスクテンプレート102の接触要素104は、板金ブランク100の表面に係合し、マスクテンプレート102が板金ブランク100の表面に取外し可能に固定されるようになる。板金ブランク100の表面へのマスクテンプレート102の固定に加えて、接触要素104は又、固定停止部となり、その結果、オーバースプレフェンス200を板金ブランク100の所定領域に隣接して再現可能に位置決めすることができるようになる。次に、スプレイヤ組立体516を作動させて潤滑材料、例えば窒化硼素スラリのスプレーを板金ブランク100の表面に向かう方向に沿って差し向ける。スプレイヤ組立体516は、潤滑材料のスプレーを板金ブランク100の表面に実質的に垂直な方向に提供するよう配置されている。その結果、実質的に一様な厚さの潤滑材料コーティングがマスクテンプレート102を包囲した板金ブランク100の表面上に、即ち、露出領域に形成される。潤滑材料の中には、板金ブランク100の表面に対して側方に進んで
図3に示されている空間部300内に入って所定領域に隣接して板金ブランク100の表面の辺縁領域上に漸減厚さのコーティングを被着させるようにするものがある。最後に、所与の量の潤滑材料オーバースプレ「ブローバイ」がオーバースプレフェンス200と板金ブランク100の表面との間の隙間を経て
図3に示されている空間部302に入る。
【0023】
オプションとして、マウント502は、複数のマウントから成る塗装ライン上に位置する。マウント502は、板金ブランク100がマスクテンプレート102に隣接して配置される第1の場所(
図5に示されている)と板金ブランク100がマスクテンプレート102に隣接して配置されない第2の場所(図示せず)との間で塗装ラインの方向に沿って動くことができる。
【0024】
オプションとして、マスクテンプレート102は、マスクテンプレート102を動かしてこれを板金ブランクに接触させたりこれから離したりするレールガイド又は別の適当な機構体に取り付けられる。オプションとして、スプレイヤ組立体516及びマスクテンプレート102は、1つ又は2つ以上のプログラム可能なロボットを用いて操作される。さらにオプションとして、板金ブランク100は、2つ以上の側部に沿って把持され又はマウントの上方に支持される。
【0025】
次に
図6を参照すると、潤滑材料のコーティングを板金ブランクの表面に選択的に被着させる方法の単純化されたフローチャートが示されている。ステップ600において、板金ブランクをその表面が潤滑材料のコーティングを受け取ることができるよう差し向けられるように用意する。例えば、板金ブランクを把持要素によって1つの縁部に沿って把持し、そして把持要素の下に吊り下げる。板金ブランクは、その表面に沿って、潤滑材料のコーティングを受け取らないようになった所定の領域を有する。ステップ602において、マスクテンプレートを用意する。マスクテンプレートは、例えば、
図1及び
図2を参照して説明したマスクテンプレート102と実施的に同じである。このマスクテンプレートは、保護されるべき板金ブランクの表面の所定の領域よりも大きく寸法決めされたマスク要素を有する。オーバースプレフェンスをマスクテンプレートの1つの面又は側に沿って配置し、この1つの面又は側は、潤滑材料のコーティングの被着中、板金ブランクの方へ差し向けられるようになっており、オーバースプレフェンスは、所定領域の寸法形状を有する区域を包囲する。更に、マスクテンプレートは、少なくとも、マスクテンプレートを板金ブランクに取外し可能に固定する接触要素を有する。オーバースプレフェンス及び接触要素は、マスクテンプレートの一方の面又は側から延びており、特に、少なくとも接触要素は、マスクテンプレートからオーバースプレフェンスよりも更に延びている。ステップ604において、マスクテンプレートを少なくとも接触要素を介して板金ブランクに取外し可能に固定すると、オーバースプレフェンスと板金ブランクの表面との間には隙間が存在する。ステップ606において、潤滑材料のスプレーをマスクテンプレート及び板金ブランクの表面の方へ差し向ける。ステップ608において、マスクテンプレートを板金ブランクの表面から取外しする。
図6を参照して説明した方法は、
図5のシステム又は別の類似のシステムを用いて板金ブランクを製造するのに適している。
【0026】
図6の方法を用いて作られた選択的に被覆された状態の板金ブランクは、マスクテンプレートの周りの表面の露出領域に実質的に一様な厚さのコーティングを有する。更に、この表面の所定領域には潤滑材料が実質的にない状態のままである。上述したように、「ブローバイ」がオーバースプレフェンスと板金ブランクの表面との間の隙間を通過し、最小量の潤滑材料が板金ブランクの表面の所定の領域に塗布されるようになる。漸減厚さのコーティングも又、露出領域と表面の所定の領域との間に形成される。一実施形態では、潤滑材料のコーティングは、所定領域内の実質的にゼロの厚さまで減少する。別の実施形態では、潤滑材料のコーティングは、マスクテンプレートの周りに表面の露出領域上の実質的に一様な厚さよりも小さいゼロではない厚さまで減少する。露出領域と表面の所定の領域との間に形成される漸減厚さのコーティングは、非階段状移行領域を備える。
【0027】
本発明の実施形態による超塑性成形のための板金ブランクは、実質的に一様な厚さの潤滑材料のコーティングを備えた被覆領域を有する。板金ブランクは、潤滑材料のコーティングが実質的にない領域であって、被覆領域上の実質的に一様な厚さよりも小さい最小厚さまで漸減する厚さを備えた潤滑材料のコーティングで被覆された所定の領域を更に有するのが良い。被覆領域と所定の領域との間には、被覆領域から所定の領域に向かう方向に厚さが次第に減少した潤滑材料のコーティングを備えた辺縁領域が配置され、それにより、非階段状移行領域が形成されている。一実施形態では、所定領域は、潤滑材料コーティングを板金ブランクに被着させるステップの実施中、潤滑材料のコーティングを受け取ることがないよう保護される。上述したように、この結果を達成する一手法は、マスクテンプレートを使用することである。変形例として、マスクテンプレートなしでスプレイヤシステムが採用され、このようなスプレイヤシステムでは、例えば、複数のスプレイヤが上述の厚さプロフィールを備えた潤滑材料のコーティングを被着させるために用いられる。例えば、第1のスプレイヤが被覆領域内に実質的に一様な厚さの潤滑材料のコーティングを被着させるよう制御され、第2のスプレイヤが被覆領域から所定領域に向かう方向に厚さが減少した潤滑材料のコーティングを被着させるために用いられる。この場合、2つ以上の個々のスプレイヤから成るのが良い第2のスプレイヤは、潤滑材料の正確に制御されたスプレーを送り出して所望の厚さプロフィールを作るよう構成されている。さらに変形例として、潤滑材料の既存のコーティングの一部分を一様に被覆された板金ブランクから選択的に除去する。その目的は、所定の領域を形成することにある。更に、既存の潤滑材料コーティングは、所定領域周りの辺縁領域内でテーパされ又は「フェザーリング(先細にすること)」され、その結果、潤滑材料のコーティングが所定領域に向かう方向に次第に減少するようになっている。
【0028】
明確には、先の段落で言及されている板金ブランクの「所定(の)領域」は、超塑性成形中、フォーミングダイ(成形ダイともいう)の鋭い特徴線に接触するようになった板金ブランクの領域である。「鋭い特徴線」という用語は、超塑性成形によりフォーミングダイ内で作られる完成品のクラスA表面にうわべとして見えるスキッド又はスリップラインを生じさせるフォーミングダイの成形面に沿う表面特徴部を意味すると理解されたい。先の段落で説明したように、板金ブランクの所定領域は、i)潤滑材料のコーティングが実質的にない領域及びii)所定領域を包囲する板金ブランクの領域の厚さよりも小さい厚さを有する潤滑材料のコーティングで被覆された領域のうちの一方である。スキッド又はスリップライン減少は、板金ブランクの所定領域が超塑性成形中、フォーミングダイの鋭い特徴線に接触したときに板金ブランクから作られた完成品のクラスA表面に観察される。
【0029】
次に
図7を参照すると、選択的に被覆された板金ブランクの超塑性成形により異形製品を製造する方法の単純化されたフローチャートが示されている。ステップ700において、異形製品の最終形状を形作る特徴部を備えたダイを含むフォーミングツールを用意する。成形面の或る特定の部分は、最終の異形製品の鋭い特徴部又は特徴線を形成するためのものである。ステップ702において、実質的に一様な厚さの潤滑材料のコーティングを備えた第1の表面領域を有する選択的に被覆された板金ブランクを用意する。板金ブランクは、潤滑材料のコーティングが実質的にない領域であって、実質的に一様な厚さよりも小さい最小厚さまで漸減する厚さを備えた潤滑材料のコーティングで被覆された第2の表面領域を更に有する。更に、板金ブランクは、第1の表面領域と第2の表面領域との間に配置されていて、第1の表面領域から第2の表面領域に向かう方向において次第に減少する厚さの潤滑材料のコーティングを備えた第3の表面領域を有する。オプションとして、
図6を参照して説明した方法を用いて板金ブランクを製作し又は上述したテンプレートマスクを用いないで潤滑材料を選択的に被着させることによって製作し、或いは、これ又上述したように被覆板金ブランクから潤滑性コーティングの一部分を選択的に除去することによって作る。ステップ704において、選択的被覆板金ブランクをツール内に装填する。ステップ706において、選択的被覆板金ブランクを超塑性成形により成形し、第2の表面領域がスリップライン減少区域を提供するようにする。この場合も又、明確化のため、第2の表面領域は、超塑性成形中、鋭い特徴線を含む成形面の一部分上に形成される。当業者であれば理解されるように、「鋭い特徴線」という用語は、超塑性成形により作られたクラスA表面にうわべとして見えるスキッド又はスリップラインを生じさせるフォーミングダイの成形面の表面特徴部を意味すると理解されたい。スキッド又はスリップライン減少は、板金ブランクの第2の表面領域が超塑性成形中、フォーミングダイの鋭い特徴線に接触したときに板金ブランクから作られた完成品のクラスA表面に観察される。
【0030】
上述の説明は、本発明の複数の実施形態に関するが、本発明は、添付の特許請求の範囲の公正な意味から逸脱することなく、更に改造及び変更が可能であることが理解されよう。