特許第5951637号(P5951637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5951637リバスティグミンを含有する経皮吸収製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5951637
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】リバスティグミンを含有する経皮吸収製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/27 20060101AFI20160630BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 47/34 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 47/44 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20160630BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   A61K31/27
   A61K47/32
   A61K9/70
   A61K47/34
   A61K47/44
   A61K47/14
   A61K47/06
   A61K47/10
   A61P25/28
   A61K47/18
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-546023(P2013-546023)
(86)(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公表番号】特表2014-508728(P2014-508728A)
(43)【公表日】2014年4月10日
(86)【国際出願番号】KR2011009994
(87)【国際公開番号】WO2012087047
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2013年6月21日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0134692
(32)【優先日】2010年12月24日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】511285358
【氏名又は名称】サムヤン バイオファーマシューティカルズ コーポレイション
(73)【特許権者】
【識別番号】513156696
【氏名又は名称】トランスダーム インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ヒョンスク
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヨンム
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョンウ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒスク
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−517468(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/070228(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/044336(WO,A1)
【文献】 特開2009−022730(JP,A)
【文献】 国際公開第03/070228(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/27
A61K 9/70
A61K 47/06
A61K 47/10
A61K 47/14
A61K 47/18
A61K 47/32
A61K 47/34
A61K 47/44
A61P 25/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)支持層、および
(b)リバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂および可塑剤を含むマトリックス層を含む経皮吸収製剤であって、
別途の中間膜または粘着層を有せず、
前記(b)マトリックス層は、有機酸または有機酸塩を含まず、
前記リバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩を1.0mg/cm以上1.8mg/cm未満で含む、経皮吸収製剤。
【請求項2】
前記(b)マトリックス層は、抗酸化剤を含まない、請求項1に記載の経皮吸収製剤。
【請求項3】
前記粘着付与樹脂は、天然樹脂、合成樹脂またはこれらの混合物である、請求項1に記載の経皮吸収製剤。
【請求項4】
前記粘着付与樹脂は、環族炭化水素樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、水添炭化水素樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される一つ以上である、請求項3に記載の経皮吸収製剤。
【請求項5】
前記可塑剤は、石油系オイル、スクアラン、スクアレン、植物系オイル、合成オイル、二塩基酸エステル、液状ゴム、液状脂肪酸エステル、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、サリチル酸グリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリアセチン、クエン酸トリエチルおよびクロタミトンからなる群より選択される一つ以上である、請求項1に記載の経皮吸収製剤。
【請求項6】
前記リバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂および可塑剤を1〜2:2〜5:2〜5:0.1〜2の重量比で含む、請求項1に記載の経皮吸収製剤。
【請求項7】
リバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩の24時間累積透過量は、初期含量の30重量%以上である、請求項1に記載の経皮吸収製剤。
【請求項8】
リバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩の1日放出量は、2〜10mgである、請求項1に記載の経皮吸収製剤。
【請求項9】
リバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩の皮膚透過速度は、18μg/cm/h超過である、請求項1に記載の経皮吸収製剤。
【請求項10】
(c)剥離層をさらに含む、請求項1に記載の経皮吸収製剤。
【請求項11】
有効成分としてリバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩を1.0mg/cm以上1.8mg/cm未満で含み、薬品の1日放出量は2〜10mgである、請求項1から10の何れか1つに記載の経皮吸収製剤。
【請求項12】
有効成分としてリバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩を1.0mg/cm以上1.8mg/cm未満で含み、薬品の皮膚透過速度は18μg/cm/h超過である、請求項1から10の何れか1つに記載の経皮吸収製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リバスティグミンを有効性分として含有する経皮吸収製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多様な医療技術と食生活の発達に伴って人類の平均寿命が漸次に増加しながら全世界的に高齢化社会の構造へ急激に変化している。そのため、長期療養を必要とする老人も大きく増加している実情である。そのうち、老化と共に発生する最も荒廃した疾患の一つである老人性認知症は、全世界的に発病1位を占めている程度に発病率が高く、当事者のみならず家族と周囲の人々の生活を疲弊させることで、社会的問題を起こしている退行性疾患として知られている。
【0003】
老人性認知症は、アルツハイマー型と血管性認知症に大きく分類され、代表的な認知症であるアルツハイマー型認知症は、記憶力障害から始まって行動障害、言語障害を経て判断力障害と結局は人格の荒廃化まで至るようになる中枢神経系疾患である。
【0004】
認知症に対する多様な研究が進行されているが、いまだ正確な発病原因が糾明されていない状態であり、認知症は多様な病因学的、病態生理学的要素を持っているため、単独で投与する認知症治療剤はない実情である。現在まで代表的な退行性認知症治療方法としては、神経伝達物質であるアセチルコリンを加水分解する酵素であるコリンエステラーゼ(cholinesterase、ChE)を抑制する阻害剤を利用する研究が進んでいる。コリンエステラーゼは、アセチルコリンエステラーゼ(acetylcholinesterase、AChE)とブチリルコリンエステラーゼ(butylcholinesterase、BuChE)の2種類の形態を有する。前記アセチルコリンエステラーゼは、体内副交感神経の活性を媒介する神経伝達物質の一つであるアセチルコリンをコリンとアセテートに加水分解する酵素であって、小胞体膜で形成されて細胞膜へ移動してその機能を遂行する。前記酵素は、コリン神経とその周囲、特に神経筋接合部に最も多く分布しており、血漿、肝および他の組織でも発見される重要な酵素である。
【0005】
したがって、現在使用されているアルツハイマー性認知症治療剤は、アセチルコリンエステラーゼ抑制剤が大部分であり、ドネペジル(Donepezil、商品名:アリセプト(登録商標))、タクリン(Tacrine、商品名:コグネックス(登録商標))、ガランタミン(Galantamine、商品名:レミニール(登録商標))などがこれに属する。このうち、アセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼに共に作用する阻害剤としてリバスティグミンがあり、リバスティグミンを有効成分とする経皮吸収製剤が商品名エキセロン(登録商標)パッチ(Exelon patch、韓国Novartis社)として市販されている。エキセロン(登録商標)パッチは、その大きさが10cm(有効成分の含量:18mg)と5cm(有効成分の含量:9mg)であるものが市販されている。
【0006】
リバスティグミンは、分子内アミン(amine)とカルボニル(carbonyl)作用基を有しているため、経皮製剤として使用される場合、皮膚刺激の原因になり得、前記作用基が経皮製剤に使用される粘着剤と相互作用をしてリバスティグミンが皮膚を通じて人体に伝達される拡散および透過過程に妨害要素として作用し得る。実際に、リバスティグミンを有効成分とする経皮製剤であるエキセロンパッチは、紅斑および浮腫などの皮膚副作用を起こすことが報告されたことがあり(Clinical Drug Investigation, 1 Jan. 2010, Vol 30, pp41〜49)、このような皮膚副作用の大部分は薬品に起因すると知られている。
【0007】
したがって、従来のリバスティグミンパッチ剤よりも少量のリバスティグミンを使用して、皮膚刺激を緩和させながらも、高い皮膚透過度を有して認知症の治療に必要な十分な量を伝達することができ、皮膚に付着するのに十分な粘着力を有することができ、製造が容易な経皮製剤の開発が必要である。
【0008】
このような技術的課題を解決するための先行技術として、WO99/34782は、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、パルミチン酸アスコルビル (ascorbyl palmitate)またはアスコルビン酸(ascorbic acid)などの抗酸化剤を使用することによって、リバスティグミンを含有する製薬組成物を安定化させる技術を提供している。また、前記文献は、a)支持体の役割を果たすバッキング層、b)リバスティグミンおよび抗酸化剤を含む製薬組成物含有層、c)患者の皮膚に前記製薬組成物を放出可能に固定させるための独立した接着層、およびd)放出−ライナーを含む経皮システムを提供している。
【0009】
しかし、前記文献の経皮製剤は、リバスティグミンを安定化させるために抗酸化剤を必ず使用しなければならず、独立した接着層を含む4層(four−layer)の複雑な形態に構成されているため、製造上の不便がある。
【0010】
WO07/064407は、リバスティグミン含有経皮製剤内にシリコン重合体および粘着剤を含有する接着層を別途に形成させることによって、リバスティグミンの放出プロファイルを変化させないながらも、製剤の接着特性を相当に改善させることができる技術を提供している。具体的に、前記文献は、a)支持体の役割を果たす背面層、b)リバスティグミンおよび重合体を含む貯蔵層、c)シリコン重合体および粘着剤を含む接着層から構成された経皮用治療システムを提供している。
【0011】
しかし、前記文献も前述したWO99/34782と同様に、薬品含有層のみでは製剤を皮膚に粘着させるための十分な物性を提供しにくいため、皮膚への薬品伝達に影響を与えない付加の接着層をおく構成を有するため、製造上別途の層で形成しなければならない不便さと経済的な追加費用が発生する問題がある。
【0012】
ヨーロッパ公開特許EP 1437130は、ドネペジル、ザナペジル、イコペジル、ER−127528などの認知症治療剤を有効性分として含み、その皮膚透過速度が1.2μg/cm/h以上である経皮吸収剤を提供している。具体的に、前記文献は、a)支持体、b)ドネペジル、ザナペジル、イコペジル、ER−127528などの有効成分を分散して含有する粘着組成物を含む疎水性マトリックス層、およびc)ライナーを含み、有効成分の皮膚透過速度は1.2μg/cm/h以上である経皮吸収剤を提供している。
【0013】
しかし、前記文献は、ドネペジル、ザナペジル、イコペジル、ER−127528などの選択的アセチルコリンエステラーゼ抑制剤を対象にしたものであって、これら薬品はアセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼに同時に作用するリバスティグミンとは作用メカニズムが異なるものである。また、リバスティグミン(化学式1)は、前記文献のドネペジルなどとは全く異なる化学構造を有する物質である。リバスティグミン(化学式1)とドネペジル(化学式2)の構造式を比較してみると以下のとおりである。
【0014】
【化1】
【0015】
【化2】
【0016】
また、ドネペジルなどは常温で結晶状であり、リバスティグミンは常温で液状であるため、経皮吸収製剤として製造することに当たり、薬品と基剤の混和度、物性および皮膚透過度でも全く異なるように取り扱われるべき薬品である。
【0017】
さらに、前記文献は、1.2μg/cm/h以上の薬品の皮膚透過速度を得るために、有機酸または有機酸塩、好ましくは酢酸塩を粘着組成物に含まなければならないと記述している。前記文献の比較例1〜3は、酢酸ナトリウムを含有しないこと以外に、他の成分および実験工程を実施例1〜3と同一に製造した経皮吸収製剤を示すが、比較例1〜3の製剤の薬品皮膚透過速度は、0.1〜0.4μg/cm/hに過ぎないと示された。つまり、前記文献によると、酢酸塩などの有機酸塩を含有しない場合、皮膚を通じた薬品の透過量が顕著に落ちて有効な薬効を得にくいという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、前記先行技術の短所を補完し、より簡単な構成によってもリバスティグミンの高い皮膚透過度を達成しながら皮膚刺激の副作用を緩和させることができ、皮膚に付着するのに十分な粘着力を有し、製造が容易な経皮製剤を提供するためのものである。
【0019】
本発明者らは、粘着基剤としてスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を使用する場合、最小限の基本的な構成のみでも安全性および薬効が改善されたリバスティグミン経皮製剤を提供できることが分かった。
【0020】
具体的に、本発明によると、粘着基剤としてスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を使用する場合、有機酸または有機酸塩のような別途の物質を追加せずにもリバスティグミンの高い皮膚透過速度(18μg/cm/h超過)および高い累積透過量(24時間累積透過量が初期含量の30%以上)を達成することができ、市販されるパッチ剤よりも少量のリバスティグミン(1.0mg/cm以上1.8mg/cm未満)を使用するようになって皮膚刺激を緩和させることができ、シリコン接着剤などを含む別途の接着層を形成しない簡単な製造工程を通じて経皮製剤を提供することができる。
【0021】
本発明の目的は、リバスティグミンの経皮吸収効率を向上させて適正な薬効発現に必要な投入薬品の量を減少させることによって薬品の皮膚接触による皮膚刺激を減少させることができ、製造が容易な経皮吸収製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記課題を解決するための一つの様態として、本発明は、(a)支持層、および(b)リバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂および可塑剤を含むマトリックス層を含む経皮吸収製剤に関するものである。
【0023】
また一つの様態として、本発明は、有効性分としてリバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩を1.0mg/cm以上1.8mg/cm未満で含み、薬品の1日放出量は2〜10mgである経皮吸収製剤に関するものである。
【0024】
また一つの様態として、本発明は、有効性分としてリバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩を1.0mg/cm以上1.8mg/cm未満で含み、薬品の皮膚透過速度は18μg/cm/h超過である経皮吸収製剤に関するものである。
【0025】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0026】
本発明は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を基剤として使用したリバスティグミン経皮吸収製剤に関するものであることを特徴とする。
【0027】
リバスティグミンは、分子内アミン(amine)とカルボニル(carbonyl)作用基を有していて経皮製剤として使用される場合、皮膚刺激の原因になり得、これら作用基と粘着剤に存在する他の作用基間の相互作用が可能である。薬品と粘着剤間の相互作用は、結局粘着剤内の薬品が皮膚を通じて人体に伝達される拡散、透過過程に妨害要素として作用するようになるため、粘着基剤の選定時、薬品と粘着基剤の相互作用を最少化することができる粘着基剤の選定が必要である。
【0028】
本発明の具体的な実施形態では、アクリル系、合成ゴム系または天然ゴム系に属する多様な粘着基剤を使用してリバスティグミンを有効成分とするパッチ剤を製造した後、製剤の24時間後の累積透過量(μg/cm)、初期含量対比累積透過量(%)および皮膚透過速度(μg/cm/h)を評価した結果、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を基剤として使用した場合、比較製剤および市販製剤よりも顕著に優れた経皮透過効率を示すことを確認した。
【0029】
したがって、粘着基剤としてスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を使用する場合、従来の公知となったリバスティグミンパッチ剤に比べて少量のリバスティグミンを使用しても認知症の治療に必要な十分な量の薬品を経皮投与することができ、ひいては、薬品使用量を減少させることによって皮膚刺激を緩和することができる。
【0030】
また、本発明は、支持層および薬品含有マトリックス層以外に、別途の中間膜または接着層を有しないことを特徴とする。
【0031】
先行技術であるWO99/34782またはWO07/064407の場合、薬品含有層のみでは製剤を皮膚に粘着させるための十分な物性を提供することが困難であるため、皮膚への薬品伝達に影響を与えない付加の接着層をおく構成を有しているため、製造上別途の層で形成しなければならない不便と経済的に追加費用が発生する問題があった。本発明の場合、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体および粘着付与樹脂を薬品含有マトリックス層に含ませることによって、薬品と粘着剤を単一の粘着層で構成しながらも、皮膚に付着するのに十分な粘着力を有するように構成して、先行技術が有する複雑な製造工程を単純化することができる。
【0032】
また、本発明の経皮吸収製剤は、薬品放出調節剤を含まないことが好ましい。より好ましくは、本発明の経皮吸収製剤は、有機酸またはその塩、無機酸またはその塩のような薬品放出調節剤を含まないことが好ましい。特に、本発明は酢酸塩を別途に含まない。
【0033】
先行技術であるヨーロッパ公開特許EP 1437130の場合、有機酸またはその塩、特に酢酸塩を含ませることによって薬品の皮膚透過を増強させることが可能であると記述しており、酢酸塩を含ませない場合には、薬品皮膚透過速度が0.1〜0.4μg/cm/hに顕著に低下する結果を示した。このように、従来の技術では、有機酸塩、特に酢酸塩の使用がリバスティグミン経皮製剤の皮膚透過度を高める必須的な構成要素として使用された。
【0034】
しかし、本発明の場合、粘着基剤としてスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を選択することによって、有機酸塩や無機酸塩などの別途の物質の追加なしに従来に報告されたより高い皮膚透過速度(18μg/cm/h超過)および高い累積透過量(例えば、24時間累積透過量が初期含量の30%以上)を達成することができる。
【0035】
本発明による経皮吸収製剤の(a)支持層は、皮膚に付着が容易であり、保管時に薬品安定性による薬品損失を防止することができ、皮膚との反応性がなくてアレルギー反応を生じさせないものであれば、従来の経皮吸収製剤で利用されている薬品保護用物質中の如何なるものを使用してもよい。
【0036】
具体的に、これに限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアセテート、ポリ塩化ビニリデン、エチレンビニルアセテート共重合体、ビニロン、ポリエステル、ポリウレタン、ナイロン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィンフィルム、レーヨン、不織布、アクリル、シルク、綿、アルミニウムシートまたはこれらを2種以上積層したラミネートフィルムなどを使用することができる。
【0037】
本発明による経皮吸収製剤の(b)薬品含有マトリックス層は、有効成分としてリバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩を含む。リバスティグミンは、遊離塩基(free base)形態であるリバスティグミンまたはリバスチグミン水素酒石酸塩を使用することが好ましい。
【0038】
本発明による経皮吸収製剤は、粘着基剤としてスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を使用することによって薬品の高い皮膚透過度を達成することができるため、従来の公示となったり市販中のリバスティグミン含有経皮吸収製剤のリバスティグミン含量である1.8mg/cmより少量を使用して、薬品による皮膚刺激の副作用を緩和させることができる。好ましくは、本発明の経皮吸収製剤内にリバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩の含量は、単位面積当たり1.0mg/cm以上1.8mg/cm未満であることが好ましい。薬品の含量が1.0mg/cm未満である場合、皮膚を通じた薬品の透過量が落ちて有効な薬効を得にくく、1.8mg/cm以上である場合、薬品によりマトリックス層基剤である高分子粘着剤の凝集力が落ちることがあり、薬品による皮膚刺激の副作用を起こすことがある。
【0039】
本発明による経皮吸収製剤の薬品含有マトリックス層は、基剤としてスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を使用する。スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体のマトリックス層内の含量は、十分な透過性および付着製剤としての十分な凝集力の維持を考慮して、薬品含有マトリックスの全体重量に対して20〜50重量%であることが好ましい。
【0040】
本発明による粘着付与樹脂としては、当業界に使用される通常のものを単独または配合して使用することができ、例えば、天然樹脂、合成樹脂またはこれらの混合物、具体的には、指環族(alicyclic)炭化水素樹脂、例えばスチレンαメチルスチレン樹脂(例:クリスタレックスF85);脂肪族(aliphatic)炭化水素樹脂(例:エスコレッツ 1401;水添炭化水素樹脂(例:Regalite R1100);ロジン系樹脂、例えば、ロジン、水添ロジン(hydrogenated rosin)、またはこれらのエステル、例えばロジンのグリセリンエステル(glycerol ester)、水添ロジンのグリセリンエステル、ロジンのペンタエリトリトールエステル(pentaerythritol esters)など(例:KE311)のようなロジン誘導体(rosin derivatives);テルペン系樹脂、およびポリエステル樹脂、例えばマレイン酸樹脂からなる群より選択される一つ以上であってもよいが、これらに特に制限されるわけではない。好ましくは、指環族炭化水素樹脂または脂肪族炭化水素樹脂の中の一つまたはそれ以上を混合して使用することができる。
【0041】
また、可塑剤としては、石油系オイル(petroleum oil)(例えば、パラフィン系プロセス(paraffin process)オイル、ナフタレン系プロセスオイル(naphthenic process oil)、芳香族系(aromatic)プロセスオイルなど)、スクアラン(squalane)、スクアレン(squalene)、植物系(plant)オイル(例えば、オリーブ油(olive oil)、椿油(camellia oil)、ヒマシ油(castor oil)、トール油(tall oil)、ピーナッツ油(peanut oil)、合成オイル(シリコンオイル(silicone oil))、二塩基酸エステル(dibasic acid esters)(例えば、ジブチルフタレート(dibutyl phthalate)、ジオクチルフタレート(dioctyl phthalate)など)、液状ゴム(liquid rubber)(例えば、ポリブテン(polybutene)、液状イソプレンゴム(liquid isoprene rubber)など)、液状脂肪酸エステル(例えば、ミリスチル酸イソプロピル(isopropyl myristate)、ラウリン酸ヘキシル(hexyl laurate)、セバシン酸ジエチル(diethyl sebacate)、セバシン酸ジイソプロピル(diisopropyl sebacate)など)、ジエチレングリコール(diethylene glycol)、ポリエチレングリコール、サリチル酸グリコール(glycol salicylate)、プロピレングリコール(propylene glycol)、ジプロピレングリコール(dipropylene glycol)、トリアセチン(triacetin)、クエン酸トリエチル(triethyl citrate)およびクロタミトン(crotamiton)、およびこれらの混合物などを使用することができるが、これに制限されるわけではない。
【0042】
粘着付与樹脂および可塑剤の使用量は、パッチ製剤としての十分な粘着力と凝集力の維持を考慮して、薬品含有マトリックスの全体重量に対して粘着付与樹脂20〜50重量%、可塑剤1〜20%重量であることが好ましい。
【0043】
また、(b)薬品含有マトリックス層は、リバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂および可塑剤を1〜2:2〜5:2〜5:0.1〜2の重量比に含むことが好ましい。
【0044】
本発明の経皮吸収製剤は、薬品含有マトリックス層がリバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂および可塑剤のみからなる構成でも、本発明が意図する効果を十分に達成することができる。
【0045】
具体的に、本発明の経皮吸収製剤は、薬品含有マトリックス層にリバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂および可塑剤以外に他の添加剤を追加しなくても、市販製剤のリバスティグミン含量である1.8mg/cmより少量、好ましくは1.0mg/cm以上1.8mg/cm未満、より好ましくは1.0mg/cm以上1.5mg/cm以下、例えば1.2mg/cm含量でも十分な薬効を発揮することができ、薬品の1日放出量が2〜10mgであり、薬品の24時間累積透過量が初期含量の30重量%以上、例えば30重量%以上60重量%以下であり、薬品の皮膚透過速度が18μg/cm/h超過、特に20μg/cm/h以上、さらに特に20μg/cm/h以上30μg/cm/h以下である効果を達成することができる。
【0046】
一方、本発明による薬品含有マトリックス層は、必要に応じて薬品およびその他賦形剤との適合性、製剤安定性などをより向上させる目的で、選択的に経皮吸収製剤の分野で通常使用される皮膚透過増進剤、紫外線遮断剤および抗酸化剤からなる群より選択される一つ以上をさらに含むことができる。しかし、前記皮膚透過増進剤、紫外線遮断剤または抗酸化剤の追加が必須的ではなく、これらの追加なしにも本発明の経皮吸収製剤が十分な薬効および高い皮膚透過度を示すことができるいうことは先に言及したとおりである。
【0047】
皮膚透過増進剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸アルコール、脂肪酸エステル、イオン性または非イオン性界面活性剤、ミリスチル酸イソプロピル、トランスキュトール、トリアセチンおよびピロリドン系化合物などを使用することができるが、これに制限されるわけではなく、トリアセチンおよびピロリドン系誘導体およびトランスキュトールはマトリックス層重量に対して0.5〜5重量%であることが好ましい。
【0048】
紫外線遮断剤としては、紫外線吸収効果がある液状の有機紫外線遮断剤を使用することができる。その具体的な例としては、エチルヘキシルメトキシシンナメート、イソアミルP−メトキシシンナメート、ビス−エチルヘキシロキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、C12−15アルキルベンゾエート、チタニウムオキシド、アルミニウムステアレート、ポリヒドロキシステアリン酸、アルミナおよびエチルヘキシルサリシレートなどが挙げられ、この他にも紫外線吸収効果がある有機紫外線吸収剤であるオキシベンゾン、オクトクリレン、ジエチルヘキシルブタミドトリアゾン、4−メチルベンジリデンカンファ、3−ベンジリデンカンファ、オクチルジメチルPABA、アニソトリアジン(Anisotriazine)およびポリシリコンなどを使用することができるが、これに制限されるわけではない。また、本発明に使用される紫外線遮断剤は、固体粉末の紫外線フィルター剤のような無機紫外線遮断剤が使用され得、その具体的な例としては二酸化チタンを使用することができ、この他にも酸化亜鉛などを使用することができる。紫外線遮断剤は、所望の紫外線遮断効果に応じてその含量を調節して使用することができる。
【0049】
抗酸化剤としては、抗酸化活性を有する化合物、誘導体、およびこれらの塩を使用することができる。例えば、フェノール系抗酸化剤(例えば、テトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、トリエチレングリコールビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、ビス−(2,4−ジ−tert−ブチル−フェニルホスフェート)、オクタデシル3,5−ジ−(tert)−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート、2,4−ビス(ドデシルチオメチル)−6−メチルフェノールなど)、アスコルビルステアレート、α−リポ酸、グルタチオン、コエンザイムQ10、γ−リノレン酸およびリノレイック酸からなる群より選択される一つ以上を使用することができるが、これに制限されるわけではない。
【0050】
また、本発明による認知症治療用経皮吸収製剤は、c)剥離層をさらに有することができる。剥離層は、経皮吸収製剤に通常使用される離型フィルムやその積層物を使用することができる。例えば、シリコン樹脂またはフッ素樹脂を塗布したポリエチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのフィルム、紙またはこれらの積層物を使用することができる。
【0051】
本発明による経皮吸収製剤は、リバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩の24時間累積透過量が初期含量の30重量%以上、例えば30重量%以上60重量%以下である特徴がある。
【0052】
また、本発明による経皮吸収製剤は、リバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩の1日放出量が2〜10mgである特徴がある。
【0053】
また、本発明による経皮吸収製剤は、リバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩の皮膚透過速度が18μg/cm/h超過、例えば20μg/cm/h以上(例えば、20μg/cm/h以上30μg/cm/h以下)である特徴がある。
【0054】
したがって、本発明はまた有効性分としてリバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩を1.0mg/cm以上1.8mg/cm未満、例えば1.0mg/cm以上1.5mg/cm以下、例えば1.2mg/cmで含み、薬品の1日放出量が2〜10mgである経皮吸収製剤を提供する。
【0055】
また、本発明は、有効性分としてリバスティグミン遊離塩基またはその薬学的に許容可能な塩を1.0mg/cm以上1.8mg/cm未満、例えば1.0mg/cm以上1.5mg/cm以下、例えば1.2mg/cmで含み、薬品の皮膚透過速度は18μg/cm/h超過、例えば20μg/cm/h以上、例えば20μg/cm/h以上30μg/cm/h以下である経皮吸収製剤を提供する。
【0056】
本発明による経皮吸収製剤は、従来の製剤が皮膚刺激を示す問題点を有していたことに比べて、皮膚刺激をほとんど示さないため、Draizeの皮膚反応評価表(Draizeの基準:1959)による1次皮膚刺激指数(P.I.I.)は、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.25以下、さらに好ましくは0.2以下である。
【発明の効果】
【0057】
本発明によるリバスティグミンを有効性分として含有する認知症治療用経皮吸収製剤は、既存の製剤よりも少量の有効成分を使用して経皮製剤の短所である皮膚刺激が小さいながらも、薬効発現に十分な量の薬品を経皮的に伝達することができる効果的な認知症治療製剤である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】本発明によるリバスティグミンを有効性分として含有する認知症治療用経皮吸収製剤の断面図を示す(A:支持層、B:薬品含有マトリックス層、C:剥離層)。
図2】本発明によるリバスティグミンを有効性分として含有する認知症治療用経皮吸収製剤の累積皮膚透過量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、本発明を実施例および実験例を通じて詳細に説明する。但し、下記の実施例および実験例は本発明を具体的に説明するために提供させるものであり、本発明の範囲はこれら実施例および実験例に限定されない。
【0060】
〔実施例1〜6〕:リバスティグミンを有効性分として含有する認知症治療用経皮吸収製剤の製造
【0061】
薬品含有マトリックス基剤としてスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下、SISと称す)、可塑剤としてポリブテン(PB2400、大林油化社製)、粘着付与樹脂として指環族炭化樹脂(クリスタレックスF85、イーストマン化学社製)、脂肪族炭化水素樹脂(エスコレッツ1401、エクソンモービル化学社製)およびロジンエステル樹脂(KE311、荒川化学社製)を使用して溶剤であるノルマルヘキサンに完全に溶解させて粘着溶液を製造した。
【0062】
前記のように製造された粘着溶液にリバスティグミンを添加し、選択的に皮膚透過増進剤を表1の重量比に添加して均一に混合した後、薬品が含有されている粘着溶液をシリコンが処理されたポリエステル離型フィルムの上に塗布し、90℃で5分間乾燥させて厚さが表1に記載されたとおりになるようにシートを製造した。これをポリエステル支持フィルムと合紙し、これを一定の大きさで切断して前記リバスティグミンを有効成分として含有する認知症治療用経皮吸収製剤を製造した。
【0063】
【表1】
【0064】
〔比較例1〜2〕
薬品マトリックス層を構成する粘着基剤および構成成分を表2に示すように変更して実施例1と同様な方法でリバスティグミンが含有されている経皮吸収製剤を製造し、比較例3では、市販のリバスティグミンパッチ(Exelon、薬品含量18mg、10cm)を使用した。比較例1のポリイソブチレンを基剤として使用した時は薬品との混和度が良くなかった。
【0065】
【表2】
【0066】
〔実験例1〕:経皮透過試験
経皮透過実験のための装置としては薬品透過実験用拡散装置(Franz diffusion cell)を使用し、収容箱はソジウムアジド0.5%が添加されたpH7.4のリン酸緩衝液を32℃に維持し、実験が進行される間に600rpmの速度で攪拌した。実験はヒト死体皮膚(Human cadaver skin epidermis)の上に実施例および比較例で製造された経皮吸収製剤を0.636cmの円形に切断して付けた後、拡散装置の上に装着し100μlを取ってHPLCを利用して分析した。リバスティグミンを含む経皮吸収製剤の24時間後の累積透過量(μg/cm)、初期含量対比累積透過量(%)および皮膚透過速度(μg/cm/h)を表3に示した。
【0067】
【表3】
【0068】
前記表3の結果に示されるように、アクリル系高分子基剤またはポリイソブチレン高分子基剤よりもSIS基剤を使用した場合、既存の製品と類似または高い皮膚透過量を示すことから、認知症治療剤として効果的なリバスティグミンの薬品伝達が行われることが分かる。
【0069】
〔実験例2〕:皮膚刺激試験
除毛した実験用ウサギの頸背部に実施例および比較例で製造された経皮吸収製剤を付着して12時間および24時間の後に紅斑と痂疲形成および浮腫形成に対して観察して評価した。評価方法[Draizeの皮膚反応評価表(Draizeの基準:1959)]に基づいて時間帯別に皮膚反応点数を評価して、時間帯別皮膚反応点数の合計を個体数で割った値を平均点数にし、平均点数の合計を4で割った値を1次皮膚刺激指数(P.I.I.)にして皮膚刺激程度を評価した。
【0070】
【表4】
平均点数=時間帯別皮膚反応点数の合計/個体数
P.I.I.=平均点数の合計/4
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
評価結果、本発明による製剤が市販製剤に比べて皮膚刺激が緩和されたことを確認することができた。
【0074】
〔実験例3〕:皮膚に適用後の残存薬品量の測定
実施例および比較例で製造された経皮吸収パッチを切断して上膊部に24時間付着した。その後、皮膚でパッチを除去し、パッチに残っている薬品残留量を測定してパッチから放出された薬品の量を類推した。その結果を表7に示した。
【0075】
【表7】
図1
図2